暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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3、別れを済ませて

王都の東口。

 

残りの皆が待っていた。

 

クラウディア、タオ、ボオス、パティ。

 

ここで、お別れだ。

 

クラウディアとは、これからもずっとバレンツ経由で連絡を取ることになる。だけれども、クラウディア本人がとても忙しい。

 

ただ、今回の件で、色々と二人とも思うところがあった。

 

フィルフサ案件。

 

もしくはそれに匹敵する危険案件が発生した場合の、緊急コール。それを設定することにした。

 

早馬……実際には使うのは馬では無く鳥だが。ともかく、早馬で即時で連絡を取れるようにした。

 

これは、他のみなとも同じだ。

 

今回の戦いで知り合ったパティ。セリさん、クリフォードさん。

 

みんな、もう一線級の戦士であり、信頼出来る戦友である。

 

だから、フィルフサ案件や、それ以上に危険と思われる案件……例えば神代の何かろくでもない代物が姿を見せるような、の場合。

 

即座に皆を呼べるようにする。

 

そのための仕組みは、既にバレンツで作ってくれた。

 

クラウディアは、お菓子をやっぱりたくさん焼いてくれた。

 

「すぐに手紙を書くわ。 また、こんな素敵な冒険を一緒にしたいね」

 

「そうだね。 いつまでも親友だよ」

 

「うん……!」

 

ぎゅうと抱きついてくるクラウディア。

 

まあこればっかりは、クラウディアの特権だろう。

 

そのまま、他の皆とも挨拶する。

 

この旅を経て、もっとも成長したのは間違いなくパティだ。

 

既にアーベルハイムの留守居を任されている。

 

数日前に聞かされたが、騎士に正式に叙任したそうである。それで王族の顔を直接見てきたそうだが。

 

皆覇気もなく。

 

気力も何も無い、どうしようもない存在だったそうだ。

 

形だけ騎士としての叙勲を受けて。

 

それで、王族には興味を失ったそうである。

 

そんなパティが、フィーを抱きしめて、別れを惜しんでいる。

 

「フィー!」

 

「いつまでも友達ですよ。 助けてくれた事、忘れません!」

 

「フィー! フィーフィー!」

 

あの霊墓での話だな。

 

転落したパティを、フィーが助けた。あの時は、パティはまだまだ未熟だった。今はもう、すっかり歴戦の戦士だが。

 

良質な戦闘は、戦士を成長させる。

 

今のパティなら、条件が整えば単独でフィルフサの将軍を倒せるかも知れない。それくらい、凄い戦士だ。

 

フィーから離れると、パティは目尻を拭う。

 

「ライザさんも、連絡をください。 ただ、ちょっとしばらくは忙しいかも知れないので、すぐにいけるかはわかりませんが……」

 

「うん、大丈夫。 それも分かった上で、頼りにしているね」

 

「ライザさんほどの豪傑に頼りにされると、ちょっと気恥ずかしいですね」

 

「今のパティは、それだけの実力を持つ戦士だよ。 だから、自信を持って」

 

握手を交わす。

 

次に会うときは、パティはまた少し背が伸びているだろうな。

 

そう、あたしは思った。

 

来年くらいに、タオが学術院だかに論文を書いて、其処で認められれば教授扱いになって。

 

庶民としては十数年に一度の、名誉職に就くらしい。

 

そうなったら箔がついたと判断してパティと正式に婚約するそうだから。

 

まあ、来年くらいまでは、ある程度気軽に呼び出せるだろう。

 

耳打ちする。

 

「タオは多分何やっても変わらないと思うけど、それでも頼むよ。 私の家族なんだから」

 

「わ、分かっています……」

 

「よろしくね」

 

真っ赤になるパティ。

 

こういう所は、一人前の戦士以上の実力を持っても、まだ初なものだ。

 

まあそれはそれで、個人的には好ましいが。

 

タオとボオスとも、話をする。

 

タオは背が伸びて、王都で再会したときは、思わず驚かされた。

 

本当に血統なんて当てにならないものだ。

 

タオの両親は、どっちも別に背なんか高くないのだから。

 

下手すると、生涯異性に縁が無さそうとすら思っていたのに。

 

こんな良縁を掴むなんて、それもまた運命というものだろう。

 

いずれにしても、ロテスヴァッサの改革が上手く行けば、今後は最大級のコネを構築する事になる。

 

それを悪用しないように、戒めないといけないだろう。

 

「タオ、論文はどうなりそう?」

 

「やっぱり遺跡についてのものと、建築学両方で行くよ」

 

「普通、一本でも通るのが奇蹟らしいんだがな」

 

「はは、まあ両方通ったらちょっと困るかもね」

 

頭を掻くタオ。

 

すっかり遺跡に対する知識を手に入れただけじゃない。

 

現実に生きている遺跡を、皆で冒険して。直に調査した事によって。図書館で本だけ漁っている学者とは、一線を画する力を既に手に入れている。

 

どうしても、古いものは一次資料に当たらないとダメだ。

 

それはあたしも、何度か聞かされた。

 

タオはそれを実践したことになる。

 

そして今のタオは、生半可な学者以上の知識と、現地で実地調査してきた経験を兼ね備えている。

 

それに加えて、古代遺跡の建築にも知識を持ったのだ。

 

鬼に金棒なんて言葉があるが。

 

今のタオは、数百年来の逸材と言える存在かも知れない。むしろアーベルハイムの方が、良縁を喜んでいる可能性も高い。

 

血縁がどうのこうのと寝言を抜かしている連中に、冷や水をぶっかける良い例だと言えるだろう。

 

「ボオスはどうするの?」

 

「予定通り学園を卒業して、それまでにクーケン島に必要なコネを構築して戻るつもりだ」

 

「学問よりそっちが本命なんだね」

 

「一応学問も本命だ。 俺も今後は本格的に父さんから経営を引き継ぐからな。 父さんはよく頑張ったと思う。 クーケン島が人工島で、滅ぶ寸前だったなんて事実を知っても、それでも責務を放棄して逃げなかったし。 しっかり島の為になる商会を誘致して、島の為に動いてくれていたからな」

 

その通りだ。

 

モリッツさんははっきり言って今でも思うところはあるし。あたしを苦手視しているのも知っているが。

 

それでも、あたしはモリッツさんは今の時点で、島の古老達よりはマシだと思っている。

 

ボオスが今後島のリーダーシップを取れるようになれば。

 

以前の馬鹿なお山の大将ではなく。

 

ちゃんとした島の指導者として、活躍出来るだろう。

 

そうなれば、あたしとしてもボオスとしっかり連携して動いていくことが出来る。今後、フィルフサ案件でどれだけの危険があるか分からないのだ。

 

それくらいの後ろ盾は必要だ。

 

そういう計算も、今のあたしには出来るようになっていた。

 

「それじゃ……そろそろ行くね」

 

「僕も一応来年には一度戻るよ。 その時は、色々とまた遺跡の情報を持ち帰るね!」

 

「その話を俺は多分ずっと聞かされるんだな……フィー、頭に乗るな」

 

フィーがボオスの頭に最後に乗ったので、最後に呆れてボオスが嘆く。

 

だが、それもまた、敢えて計算してやってくれたのかも知れない。

 

ともかく、多少空気が和んだのも事実だ。

 

後は、手を振って、別れる。

 

フィーの生存のために必要な研究も、完成している。

 

以降は、たまにトラベルボトルを調整して、フィーをつれて行けばいい。

 

それだけで、問題なくフィーは生きていける。

 

だから、もう王都に用事はない。後は帰るだけだ。

 

帰路の途中で、ある人が来た。

 

軽く挨拶して、それで小首を傾げる。

 

「カーティアさん。 討伐隊と一緒に行ったんじゃあないんですか?」

 

「今レントとクリフォードが一緒にいるだろう。 私はこの辺りの警備だ。 それに、アーベルハイム卿からのご指示でな。 英雄たる豪傑ライザを、安全圏までお送りしろという事だ」

 

「ありがとうございます。 まあ、大丈夫だと思いますけれど」

 

「念の為だよ。 私も街道の辺りにいるような魔物に、君が遅れを取るとは思っていない」

 

そう言われるのも、また悲しい話ではあるのだが。

 

一緒に無言で歩いて、どんどん距離を稼ぐ。

 

あたしは健脚だと良く言われるが。

 

カーティアさんも、フル武装なのにまるで苦にしている様子がなかった。

 

「錬金術師ライザ。 意見を聞かせてほしい」

 

「はい、なんでしょう」

 

「たとえ話だ。 古い昔、ある子供が血縁上の親から残虐な虐待を受けて殺された。 それを不憫に思った神が、その子供の残骸を集めて命を再構築した。 だけれども、その子供は、体が不完全だった。 神の力が不完全だったからだ。 神は子供の体を何度も再調整した。 だけれども、ついに人間に戻してやることが出来なかった」

 

「……」

 

なんだろう。

 

この話、たとえ話ではないように思う。

 

だからあたしは、荷車を引きながら、話を聞く。

 

「神はその子供の情報を集めて、新しく人間を作り出した。 子供をどうにか人間に戻してやりたくて、情報を集めたかったからだ。 その人間は、他の人間とも交わる事が出来たが。 生まれる子供は、みんな同じ姿、能力をしていた。 子供は人間に戻せず、作り出された人間達は多様性を獲得できなかった。 不幸な存在を、神は増やしてしまった。 だがそれでも神は、その子供のためにも、新しく作り出した人間のためにも、努力を続けている。 錬金術師ライザ。 この場合、君はどうするべきだと思う」

 

「……まずはその子供や人間の状態を確認して、それで錬金術でどうにか出来ないか考えます」

 

「理由は」

 

「そんなの、あまりにも不幸です。 親が子供を必ずしも愛するわけでは無い事は良く知っています。 ですが、だからといって子供があまりにも可哀想です。 それに、その子供を救うために苦労している人達も。 もしもその不幸の連鎖から錬金術で救えるのだとしたら、あたしはそれに賭けてみたい」

 

カーティアさんは無言になる。

 

そして、大きく嘆息していた。

 

それは、落胆のものではないように思えた。

 

「いや、なんでもない。 ただのたとえ話だ」

 

「……」

 

「この先にある港町までは私が同行する。 前衛がいた方が良いだろう。 君ほどの使い手でも」

 

「ありがとうございます」

 

以降、会話はなかった。

 

カーティアさんは、研ぎ澄まされた剣そのものの気配を身に纏っていた。純粋戦士というよりも、戦士としての完成形に思える。

 

だからこそ、そんなよく分からないたとえ話をしたのは不思議だった。

 

それに、どこかで聞いた話のように思えてならなかった。

 

幾つかのちいさな街を抜けて、数日かけて港町にまで出る。

 

途中、街道に近付いている魔物を、二人で片付け。得られた皮や肉は、近場の街で食べる分以外は全て売り払った。

 

途中でクラウディアのお菓子を食べながら、皆の事を思う。

 

見張りはカーティアさんがしてくれると言う話だったが。流石に全部甘えるのも何なので。それに勘を鈍らせたくないので。交代で見張りをして。そして数日を過ごす。

 

皆は、これからそれぞれの人生を送る。

 

だけれども、またいつか招集を掛けて。

 

それで、フィルフサや。

 

或いは神代の何か怪物と戦うかも知れない。

 

もしもフィルフサが神代に改造された生物兵器という仮説が正しかったら。神代が作り出すような兵器は、フィルフサの比では無い可能性が高い。

 

その時の為に、あたしは更に腕を上げておかないとダメだろう。

 

奴らの手の内も知っておきたい。

 

だから、どんな情報でも欲しい。

 

タオにはこっそり頼んである。

 

もしも神代の事について。

 

特に神代の錬金術師。しかも、恐らくは古代クリント王国の模倣対象となった連中について。

 

何か分かる事があったら。

 

すぐに連絡を入れて欲しい、と。

 

カーティアさんを一瞥。

 

この人の一族は、本当によく分からない。さっきのたとえ話を、わざわざ振ってきたのも気になる。

 

もしも、さっきの話が、ある程度事実に基づくものだったとしたら。

 

例のメイドの一族は。

 

人間に対して。凄まじい憎悪を持ち続けているのではあるまいか。

 

まさかな。

 

だが、どうにも事実と全く無関係の話だとも思えないのだ。

 

嫌な予感は、消えなかった。

 

港町が見えてきた。

 

此処で大丈夫だという話をすると、カーティアさんは手をさしのべて来た。

 

握手だ。

 

当然断る理由なんてない。

 

握手を交わしておく。

 

「王都の民を守る者として、貴方の数々の武勇と戦功、勇敢な振る舞いには感謝する。 どれだけの民が貴方に救われたか分からない。 いつでも、困ったときには頼って来てくれ」

 

「はい。 ありがとうございます」

 

「いつまででも、良き錬金術師でいてくれ」

 

「……はい」

 

残像を作って、帰路を飛ぶようにして帰っていくカーティアさん。もう見えなくなった。手をかざして、その背中を追うが。

 

もうその必要もないだろう。

 

後は船を手配して、クーケン島に帰るだけだ。

 

ただ、それだけ。

 

船を手配して、乗り込むまで二日。船に揺られて。それで。

 

後は、クーケン島まで。

 

ずっと、王都であった。いい人達の事を思うだけで、時間は過ぎていった。

 

 

 

クーケン島についた。

 

懐かしい光景だ。

 

背伸びして、ゆっくり体を伸ばした後は。

 

まずはアトリエに戻り。

 

釜をはじめとしたものを、全て降ろしておく。

 

先に実家に戻れと、船から降りたとき、めざとく見つけて来たアガーテ姉さんに言われたのだが。

 

あたしが荷物の山を見せると、流石に仕方が無いかとアガーテ姉さんも、呆れながら手伝ってくれた。

 

その途中で、情報の共有をしておく。

 

「王都はどうだった」

 

「王族や貴族はほぼろくでもなかったですね。 ただ、良い人もたくさんいました。 それと、一人だけまともな貴族の家にあって、そことは良い関係も構築してきました」

 

「そうか。 それは運が良かったな」

 

「はい……」

 

アガーテ姉さんは。騎士になるために王都に出向いて。

 

試験を楽々突破した。

 

騎士の叙勲は受けたが、馬鹿馬鹿しい権力闘争を見て嫌気が差し、すぐにクーケン島に戻ってきた。

 

騎士になった。

 

それだけで意味があった。

 

実際クーケン島では、今でも不動の最強として降臨し、島の守り神になっているし。

 

実際クーケン島を荒らしに来た賊や与太者の類を、悉く返り討ちにしてきたのもアガーテ姉さんだ。

 

当面、その座は揺るがないだろう。

 

強いていうならば、レント達が戻ってくれば、話は変わるかも知れないが。

 

それもまた、先の話である。

 

「そういえば、タオは良い人を見つけました。 多分来年くらいには婚約して、そのままその次の年くらいには結婚だそうです」

 

「それは良かったな」

 

「秘密ですよ」

 

「ああ、分かっている」

 

アガーテ姉さんは、その手の話には食いついてこない。

 

基本的に島の防衛組織である護り手の皆には信頼されているが。

 

たまに悪口を聞く場合、決まっている。

 

鉄の女、なんて言われている。

 

まあ、生真面目で責任感がとても強いからだろう。それで本当に誰もかなわない程強いのだから。島の護り手の長としては、最適任とも言える。

 

荷物を降ろし終えると、実家に一度は顔を出すようにとくどくど言われた。手伝って貰ったのだから、何も言い返せない。

 

一応、保ちが良い焼き菓子。クラウディアに貰ったものを、アガーテ姉さんにもお裾分けする。

 

全部食べてしまうかとも思ったのだが。

 

それももったいないなと思ったのである。

 

一応実家の分。

 

後はエドワード先生の所の分。

 

それにアガーテ姉さんの分と。後は、ブルネン家の分も残してある。それくらい、クラウディアはわんさか焼いてくれたのだ。

 

「クラウディアか。 綺麗になっていただろう」

 

「容姿もそうですが、心が腐っていなかったのは嬉しかったですね」

 

「そうか。 それは良かったな……」

 

「ええ。 本当に」

 

朱に染まれば赤くなるというやつで。

 

ほんの僅かな期間でも、腐りきった人間関係に晒されると、人間は壊れてしまうことが多い。

 

クラウディアはそういうのに嫌になる程晒されたはずだが。

 

それでも、むしろ強くなっていた。

 

だから、あたしは安心した。

 

それに、あたしの前では前みたいに子供みたいな姿も見せてくれた。それだけで、充分である。

 

ともかく、家に戻る。

 

母さんも父さんも、あまりいい顔はしなかったが。

 

それでも、お帰りと言ってくれた。

 

あたしは、ただいまと返す。

 

一夏の冒険が終わる。

 

三年ぶりの、二度目の大きな冒険が。

 

これから、あたしはやるべき事をまた、一つずつやっていかなければならない。

 

その前に、だ。

 

「フィー!」

 

「おや、なんだいライザ、それは」

 

「ちょっと貴方……」

 

「フィーだよ。 ちょっとあってね。 あたしがこれから面倒を見るよ。 人の言葉くらいは理解出来る程には賢いよ」

 

そうかそうかと、父さんはマイペースに喜んで。

 

母さんは、明らかに警戒していた。

 

もう。この二人が変わる事はないだろう。

 

だから、今更どうこうと言うつもりは無い。

 

後は、ブルネン家にも足を運ぶ。

 

卵の顛末については、手紙で送ってはあったのだが。一応、しっかり見せておかなければならないだろう。

 

モリッツさんは、家の宝だったという宝石が、フィーの卵だったと聞いて、流石にその日は食事が喉を通らなかったそうだが。

 

フィーを見ると、意外に悪く無さそうな顔をした。

 

案外モリッツさん。フィーみたいに可愛い生き物が、好きなのかも知れない。ずいぶんとデレデレしている。

 

「フィーというのか。 そうかそうか。 その、ずいぶんともふもふとしているな」

 

「タオの話によると、ドラゴンに体の構造は近いそうですよ」

 

「ど、ドラゴン。 大丈夫なのかね」

 

「戦闘能力は皆無に等しいです。 それにもし、ドラゴンに成長して人々に危害を加えるようなら、あたしが処分しますので」

 

ひくりと、笑顔を引きつらせるモリッツさん。

 

あたしの切れ味が数段増したことに気付いたのだろうか。

 

勿論、フィーもそれは承知の上だ。

 

最悪の場合は、あたしがフィーを始末する。

 

その考えには、代わりはない。

 

親離れの時期が来たときが、一番危なそうだなと、今は思案している。どんな生物だって、幼い頃は可愛いのだ。害虫だって、幼虫の時はとても可愛かったりする。だが、大人になれば。

 

だが、いずれにしても。

 

まだ当面先だろうという予感もあったが。

 

後は、知り合いの所を回って、挨拶を終えている内に夕方になって。

 

夜になって、一応家に戻っておく。

 

家に戻って、夕食を食べながら、軽く話をしておく。

 

今後もあたしは、基本的にアトリエに中心に篭もって活動をすること。

 

場合によっては、三年前に交戦した強力な魔物(フィルフサの事である)との交戦が考えられる事。

 

その場合は、皆を集めて、遠征する可能性があること。

 

それらを告げると、母さんは渋面を作るし。

 

父さんは、気を付けるんだよと。

 

寂しそうに笑うのだった。

 

もう、あたしが農家の普通の娘ではなく。

 

クーケン島の顔役で。

 

それどころか、バレンツと渡りをつけている巨大なパイプを有していて。

 

多くの富を島の外から持ち込む要因になっている事を、二人は知っている。それを、良くは思っていない。

 

政治に巻き込まれるからだ。

 

あたしが古老達とバチバチに対立していることは、二人も知っている。古老達が時々くだらない悪口を流している事も。

 

だが同時に、島の問題を解決したことも。特に水が出なくなっていたことや、島が徐々に傾いて下手をすると沈む可能性があったことを解決したことも知っているから、手出しを出来ない。

 

それどころかバレンツとの提携によって、島が潤っていることもまた事実で。

 

だからあたしには手を出せないことも分かっている。

 

だが、感情にまかせて誰かが馬鹿な事をするかも知れないと言うのも、二人は心配しているのだろう。

 

ずっとそういう例を見て来たのだろうから。

 

大丈夫。

 

今のあたしは、王都を単騎で壊滅させる武力を有している。クーケン島の古老達なんて、その気になったら一刻も掛からず全部処分出来る。

 

怖れるなら勝手にすればいい。

 

ただし、あたしに手を出したらどうなるか。

 

古老達には、何度か思い知らせてもいる。

 

だから、油断さえしなければ平気だ。

 

以降もあたしはクーケン島の味方である。

 

今日だけは、あたしもクーケン島に逗留……というか、実家に泊まっていく。自室は、もう自室とは思えない程、自分から遠ざかってしまっていた。

 

此処で、散々悪巧みをしていたなあ。

 

そう思うと、何だかちょっと寂しいなとさえ思う。

 

明日から、またアトリエに移って。

 

それから、バレンツに納品して換金するものを作らないと。アーベルハイムに対して納品するものも作るから、更に増えたけれど。今の手際だったら、それほど苦労する事もないだろう。

 

それと、明日は一度グリムドルに足を運んで、別の地域で王種を仕留めた事をキロさんに話しておく必要がある。

 

それと、ボオスがかなり強くなっていたことも、教えておきたい。

 

色々考えていると、旅の疲れもあって、すぐに眠くなってきた。

 

まだあたしは人間なんだな。

 

そう思って。

 

人間を止める研究を本格化させることもまた。

 

あたしは、忘れないようにしようと思った。

 

人間は万物の霊長なんかじゃない。

 

人間であること自体が素晴らしい、なんてのは大嘘だ。

 

神代の錬金術師は分からないが。

 

少なくとも、古代クリント王国の錬金術師は、エゴをむき出しにした救いようがない連中で。

 

それは巨大すぎる力に、人間らしいエゴが合わさった結果だった。

 

「人間らしい存在」が、壊滅的な大破壊をもたらしたのだ。

 

それはつまり、圧倒的な力を振るうには、人間という器では不適切である事を意味しているだろう。

 

いつの間にか、眠っていた。

 

夢は見なかった。

 

ただ、ひとときの休息を。

 

あたしは、ベッドの中で貪っていた。

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