暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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4、王都の闇の一つ

とりあえず、フィーをつれてパティと一緒に農業区に行く事にする。

 

一応アトリエには魔術による強力なロックも仕掛けてあるが、念の為だ。それにフィーは、今のうちに色々なものをみておいた方が良い。

 

将来的にフィーがどうなるかは分からないが、多分タオが言ったように、ある程度成長して卵から出て来ているのだとすれば。

 

この賢さが、いきなり消えるとも思えない。

 

そして、色々見ておくべきなのはあたしもだ。

 

あたしは、クーケン島周辺で、そしてオーリムで、あらゆる業を見てきたが。

 

王都にはまた違う形の業があるはず。

 

それを直に見ておきたい。

 

前にリラさん……あたしの戦闘の師匠が、全て抱え込むと潰れると言っていたけれども。

 

今のあたしは、まだキャパ限界には達していない。

 

ならば見ておくべきだ。

 

潰れる前には、あたしは身を引く。

 

ただまだあたしは大丈夫。

 

だったら、出来る事を。出来る範囲でやっておく。それだけである。

 

居住区を出て、西に。

 

西には東と同じく、数少ない安全な街道があるそうだ。

 

逆に言うと、南北は危険すぎて通れないと言う事で。この王都が如何にスカポンタンなインフラの上に立っているかよく分かる。

 

頼むから偉そうにするのは、街の周囲の安全くらいは確保してからにしてくれ。

 

そうぼやきたくなるほどだ。

 

歩きながら、周囲を見る。

 

農業区とならぶくらい、工業区や職人区も王都では下に見られているらしいが。下に見られれば治安も悪化する。

 

当然与太者も出るし。

 

昨日クリフォードさんが取り押さえたようなのも出る。

 

そもそも、生活を支える産業を行う地区を下に見るなんて、一体何様なのか。お前達が食べているものや着ているものは、どこから来ていると思っている。

 

そう思うと、あたしは何度も溜息が零れる。

 

多分クーケン島で、漁業や農業を経験しているからだろう。

 

パティは、不安そうにしていた。

 

前から来たのは、傭兵ではないな。三人組だ。女性がリーダーらしく、男性を二人連れている。

 

「おや、アーベルハイムのお嬢様じゃないか」

 

「いつも見回りお疲れ様です」

 

「良いって事よ。 義賊としてはこれくらい当然だからな」

 

「このままお願いいたします」

 

三人と会釈してすれ違う。

 

それにしても、義賊。

 

小首を傾げていると、パティが付け加える。

 

「自称義賊の三人組です。 変わり者として知られていますが、腕は確かで、荒事も出来ますし、農業区や職人区にも顔が利きます」

 

「義賊ねえ……」

 

「実はあの人達の先代くらいまでは、本当に賊だったそうです。 ただあの人達が、先代への反発から正義の賊になろうと言い出したそうで。 お父様が討伐したときには、邪悪な人達はあらかたあの人達が退治して、警備につきだして自浄作用が働いた後で。 その後お父様と話した後、人々に迷惑を掛けないこと、農業区や職人区、工業区での自警活動をする事を条件に放免されています。 今では義賊と名乗ることで変人扱いされていますが、下手な警備の戦士よりもずっと働いてくれているんですよ。 何度も悪辣な賊を捕まえてくれてもいます」

 

「そんな事もあるんだ……」

 

驚いた。

 

まあそういう柔軟なことも出来る訳だ。

 

アーベルハイムの家……正確にはヴォルカーさんだが。貴族達とあまり上手く行っていないだろうことは簡単に想像がつくが。

 

それでも、王都の治安を劇的に向上させ。

 

更には街道の安全を確保しているとなると、貴族達も陰口をたたくくらいしかできないのだろう。

 

実力で、不愉快な連中をある程度ねじ伏せて。

 

こういう有用な人材をスカウトしている、というわけだ。

 

だとすると、あたしも見習いたいところだ。

 

あたしだったら、潰してしまう事をまず第一に考える。

 

それを思うと、あの人達を生かして、しっかり社会に活用しているヴォルカーさんは。少なくとも社会の運営者としてはあたしよりマシだ。

 

ヴォルカーさんが王様になったら。

 

ロテスヴァッサは、何倍もマシになりそうだな。そうあたしは思う。

 

「この辺りから農業区です」

 

「どれ……」

 

少し丘になっている所から見て。

 

なるほど、これはだめだなと、一目で分かった。

 

一応働いている人は何人か見受けられるが、畑は殆ど休耕状態。畔なんかはあるにはあるが。埋まってしまっているものすらある。

 

水車は木が傷んでいたり。

 

何よりも、彼方此方草ぼうぼう。

 

お父さんが見たら、普段は温厚なのに、ブチ切れるかも知れないな。

 

そうとすら思った。

 

本当に此処で働くのは底辺の人間として扱われているんだ。それが分かってしまって、あたしは色々と悲しくなってくる。

 

こんな狭い井戸の中で、差別だの格差だの作っていて何の意味がある。

 

そう思って、何度も怒りを吐き出しそうになった。

 

「フィー……?」

 

「ああ、フィー。 大丈夫大丈夫。 このくらいで、キレたりはしないよ」

 

「フィー……」

 

明らかに不安そうなフィー。

 

だから、フォローはしておく。

 

パティはそのやりとりを見ていた。特にやりとりについて、何か疑っている様子はない。

 

「この状況でも、働いている人達がいます。 ライザさん、支援してあげてほしいんです」

 

「まずは状況を見てからだね。 それと、働いている人達がいるんなら、支援をしてあげてほしいんだけれども」

 

「色々複雑で。 お父様も頑張ってはいるのですが」

 

「そう」

 

まあ、そうだろうな。

 

考えられるのは利権の複雑化だ。

 

外から運び込まれている食糧や農作物がそれなりにあって、人間が餓えていないのなら。此処が軽視されるのは理由としては考えられる。

 

何人かの貴族が流通を牛耳っていて。

 

それが利権化している可能性もある。

 

そうなれば、王都の食糧生産、自給自足機能が軽視される可能性は確かにある。

 

利権の奪いあいで負けた場合だ。

 

前にクラウディアの送ってきた手紙でそういうのがあったと聞いている。

 

ちいさな村で、水車を巡る利権の争いがあった。

 

水車を握っている人間がいて。村長の座を巡る権力争いで負けた。

 

そうしたら、新しく村長になった人間が。

 

相手が憎ければ着ている服も憎いという精神で、水車を焼き払ってしまったのだという。

 

政敵の象徴であり。

 

憎むべき存在として、水車を見ていたそうだ。

 

それに村人は荷担させられた。

 

荷担しなければ、村の敵認定されたからだ。

 

結果何が起きたか。

 

水車を失った村は、産業に大打撃を受け。

 

一気に貧困へと傾いた。

 

しかも、村長は皆が貧困になろうが知らん顔。自分さえ良ければいいという態度を取り。

 

結果として、新しい村長は、暴動にあって殺された。

 

村は自衛能力すら失い。

 

そこに魔物がなだれ込んだ。

 

貴族もロテスヴァッサも当然何もしない。

 

バレンツ商会が其処に出向いたときは、村人の大半が魔物に食い荒らされて、地獄みたいな有様だったらしい。

 

其処を再建するために、随分時間が掛かったのだとか。

 

そういう事例を聞いている。

 

此処でも、そういう愚かしい事があっても、不思議ではなかったのだろう。

 

むしろ、もっと愚かしい利権が、複雑に絡んでいるのかも知れなかった。

 

比較的マシな畑に出た。

 

色々な作物が作られていて。水もちゃんと来ている。

 

一瞥したが、土の状態はそこまで悪くないようだ。

 

父さんとは流石に比べられないが。

 

相応の技術の農民が働いているとみた。

 

何人か、周囲で畑を作っている。アーベルハイムの家紋の旗がある。多分だけれども、そうしないと石でも投げられかねないのだろう。

 

「カサンドラさん」

 

「パティ? 久しぶりだね」

 

「お久しぶりです」

 

パティが声を掛けたのは、大柄な女性だ。明らかに農業で体を鍛えていると、一目で分かるほどである。

 

あたしを紹介するパティ。

 

互いにカサンドラさんと礼をして。それであたしが農夫と農婦の娘だと話をすると、相手はぱっと顔が明るくなった。

 

「そうか、お仲間かい」

 

「ライザさんは、錬金術と言う独自の技術を持っていて、下手な魔術よりも凄まじい力を発揮します。 私も間近で見ましたが、はっきりいって驚天の技です」

 

「へえ……」

 

「共同して、王都の農業について少しずつ復興をしていただけませんか」

 

カサンドラさんは、少しだけ胡散臭そうにしたが。

 

パティの紹介を聞いて、無碍にも出来ないと思ったのだろう。

 

手をさしのべて来たので、握手する。

 

まずは、農地を見せて欲しい。

 

そう言って、あたしも見せてもらう。

 

父さんほどでは無いが、それでも分かるには分かる。

 

パティはこれからヴォルカーさんと一緒に街道の魔物を掃討に出るとかで、そのまま小走りで農業区を出ていった。

 

「王都でも最下層民扱いされてるあたしらにも敬語で接してくる。 貴族の娘とは思えない良い子だよ」

 

「貴族に反発を覚えているんだと思いますよ」

 

「まあそうだろうね。 偉そうなだけで、金勘定以外何の取り柄もないんだから連中と来たら」

 

軽く笑った後、あたしは周囲を確認。

 

幾つかやることを頭の中でまとめて。

 

そして提案していた。

 

「あの辺りの水路が駄目ですね。 あたしが直します」

 

「出来るならやってくれるかい。 頼むよ」

 

「はい」

 

さて、此処からだな。

 

やる事は幾らでもある。

 

王都の無能貴族どもはどうでもいいが、こうやって王都を実際に支えている人にコネを作っておく事には大いに意味がある。

 

そう、あたしは思っていた。

 

 

 

(続)




確実で王都の人脈を構築するライザ。非常にしたたかな動きです。

ただ、それでも三年前の時に比べると、スランプになっているのも事実です。

故に転ばぬ先の杖の精神で、行動しているとも言えます。

遺跡の調査も始まったばかり。

まだ何があるかも、分からない状態が続きます。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

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