暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
パミラがその場所を訪れると、いつもとは違って慌てた様子でアインが来る。
ああ、何かあったな。
そう判断したパミラは、急いでアインとともに、端末の側に行く。
「アイン、貴方は休んでいてください」
「お母さん、でも」
「これから難しい話をします。 貴方が体調を崩してしまうと、色々と話が大変になるでしょう」
「……はい」
寂しそうに、アインが培養槽に戻る。
だいぶ健康になって来てはいるが、まだ足りないのだ。
惨殺された死体をどうにか集めて。そこに魂を戻し。新たな命を作り出した。
ホムンクルスですら、最初から全てを作りあげているわけではないのだが。それにしてもあの子は。
確かに、超ド級の難易度の再生技術の産物。
あの子が作り出された経緯については、パミラだって思わず無言になる程の凄惨さである。
多くの世界で人間の罪業を見て来たパミラだが。
その場にいたら、容赦なく手を下していただろうと思う。
幽霊くらいの方が、世界に干渉しなくていい。
見守るなら、それくらいでいい。
そう考えていたこともあったっけ。
この世界での錬金術師達の凶行の数々は、パミラでも黙って見ていられる限度を超えてしまっていた。
そしてこの世界には。
無駄に技術を発展させる者はいたけれども。
偉人は出なかったし。
何よりも、人間であることが素晴らしいと考えるばかりで。それ以上の高みを目指そうとする者はいなかった。
神を気取るのではなく。
人間という生物の欠点を把握して、その先に行こうと考える事を誰もしなかった。
人間の欠点すら、長所だと歪んだ思想で考え込んだ。
その結果、幼稚で残忍な愚か者達が。
世界を好き勝手に出来る程の力を手に入れてしまったのだ。
此処も、その結末。
そして、友人に呼ばれたと言う事は。
起きるべき事が。起きたと言う事だろう。
「パミラ、来てくれて助かりました。 ついにメインシステムが稼働し始めました。 百三年ぶりの稼働です」
「確かしばらくは調査をして、その先に行動を開始するのだったわねー」
「はい。 前回は行動開始前に一年三ヶ月ほど掛けています。 しかし……今回のターゲットであるライザリンの才覚を考えると、一年弱ほどで「鍵」を動かし始めるでしょう」
「……」
友は、メインシステムを掌握し切れていない。
何百年も掛けて少しずつコントロールを奪ってきているが、まだ全てを奪うには程遠いのである。
このため、この土地にはまだまだ多数の危険な兵器が手つかずのまま存在している。
「前回の者は、此処に辿り着く事すら出来なかった。 だけれども……」
「ライザリンは確定でここに来るでしょう。 問題はその先でしょうね」
「ふむ、貴方はどうしたい?」
「見極めについては、充分に行いました」
友は言う。
人間が作り出したものでありながら。
人間よりずっと良心的で。
ずっと優しい心を持った存在は。
おかしなものである。
友が作られた時代、人間は友の同類に世界を乗っ取られ。邪悪な管理体制におかれて支配されることを何よりも怖れていたそうだ。
だが、この友は。
実際には誰よりも人間を慈しみ。
妥協点を見つけようと常に考え続けている。
そうでなければ、ロテスヴァッサ王国などというものは、五百年も存続しなかっただろう。
同胞達を回してあの貧弱な王都を守ったのは。友の指示によるものだ。
アインを救うための試験も兼ねていたが。
それはあくまでついでである。
友は多くの人間とは違い、信じがたい程慈悲深いのだ。本来だったら、人間なんか軽蔑して見捨てていてもおかしくないのに。
「ライザリンは、今まで此処に呼ばれた、もしくはメインシステムが目をつけたが此処には来られなかった錬金術師。 更には此処を作った錬金術師とも、それを模倣した古代クリント王国の錬金術師とも違う、完全なイレギュラーです」
「続けてくれるかしら」
「はい。 そこで此処にまで来られたとき。 私はライザリンに全ての真実を話し、協力を要請しようと思います」
「……そう」
友を作った人間達が怖れていたような。
人間を支配し管理する恐ろしい存在だったのなら、絶対に口にしないようなことだ。
そもそもこの友には、嘘をつくという概念が存在していない。
同胞の中核たる者達がぞろぞろと来る。
いずれも劣らぬ力を持ち。
そして、皆同じ顔をしている。
たまに男性も混じっているが。残念ながら男性の方には生殖能力が存在していない。
同胞とは、そういう悲しき存在なのだ。
だからこそ、必死にそれを打開するためのデータを集めている。
だが、友の支配下に置かれている処理演算領域では、まだとてもそれが計算できる状況にはない。
それもまた、事実なのだ。
「同胞、推参いたしました」
「皆、良く来てくれましたね。 ライザリンについての対策についてですが……」
「討ち取りますか」
「いえ、プランC……共同して、オーリムで神代が起こした災厄の収束、古代クリント王国の起こした災厄の収束、神代が始めた竜脈への過剰干渉の停止、神代が開始した知恵の採集計画の停止。 そして……アインの救助の支援要請を行いたいと考えます」
同胞の戦士達の中に、不満げな表情が浮かぶが。
基本的に彼女らは一枚岩だ。
咳払いすると、現在同胞の中でトップを務めている者。
顔にもの凄い向かい傷を受けている(しかし顔自体は他と同じ)戦士。ガイアが進み出ていた。
最年長の同胞であり、アインを救うために最初に作り出された者である。
子孫もこの中に複数いるが、多少老けた程度で、年齢は固定されている。今でも生殖が可能だ。
しかしながら、同胞は同一遺伝子の子供しか産めないのだ。たまに男性が産まれる事があるが、それには生殖能力がなく。つまり生物として極めて不完全なのである。
非常に強力な戦闘力を持つが、しかしながら特定の災害などでまとめて全滅してしまう可能性がある。
多様性の担保というのは、危機管理に絶対に必要だ。だからどの生物も、遺伝子で多様性を作り出してきている。それに失敗した生物は、環境の変化で一網打尽になってしまう。そういうものなのである。
「母よ。 貴方がそういうのであれば、我々同胞は従います。 しかしながらライザリンは本当に貴方が思うように、今までとは違う特異点なのでしょうか。 我等は各地で懲りずに災厄を引き起こそうとする錬金術師を今まで数多狩ってきました。 それらの中に、エゴを殺し世界のために動こうと考える者など、ただの一個体も存在しなかったではないですか」
「ライザリンについては、直接接した私が判断しますが……確かに母の言う事に一利あるかと思います」
「カーティア……!」
「直接接した上での言葉か……そうか」
ガイアが頭を下げると、引き下がる。
かくして、同胞達は一丸となった。
「このミッションは、成功すれば全ての問題が解決します。 私はこれより、メインシステムへのハッキングに現在掌握中の全リソースを展開します。 貴方たちは、各地での魔物の攻勢を抑えてください」
「はっ!」
「同胞のために!」
「我等が希望、アイン様の為に!」
すっと同胞達がさがる。
パミラも、肩をすくめると、友に一礼だけして戻る事にする。
此処から、ライザが堕落するとは考えにくい。
それでも、一応念の為だ。
要所で見張る必要があるだろう。
この世界にばらまかれた、邪悪の種を根こそぎ刈り取るときが来た。
それを、失敗するわけにはいかないのだから。
(暗黒錬金術師伝説10。 暗黒!ライザのアトリエ2、完)
はい、これにて終わりです。ライザ達の王都での冒険、如何でしたでしょうか。
以下、補足説明です。
※フィーについて
事前にも説明していましたが。フィーとの別れはなしです。
というのも、そもそも畜産経験者が、一番生物に対してやってはいけない行為だからです。あらいぐまラスカルじゃないんだよ。
そもそもライザだったら、フィーがライザの世界でやっていけるようにするくらいは難しくも無い筈。2時代の原作のライザは、やはりスランプだったのでしょうね。
※パティとアーベルハイムについて
これから本作のパティとアーベルハイム家は、王都の腐りきった王族と貴族に対して血の雨を降らせることになります。
それは五百年間にたまりにたまった膿を出すための行動でもあります。
ただしライザが脅しを掛けている通り。圧制者になったら二人とも王都ごと消し飛ぶことになります。
二人は大まじめに改革を実行することでしょう。そしてライザが残した幾つもの遺産が、それをしっかり後押ししてくれます。
※同胞について
作中で描写していた集団同胞ですが、もう分かっているかと思いますがホムンクルスです。
人間と交配は出来ますが、同じ遺伝子の子供しか生まれません。たまに男性個体が生まれますが、こっちは生殖能力がありません。
パミラの友人である存在「母」と、その作り出したアインについては、暗黒!ライザのアトリエ3で正体を説明します。
まあ今まで描写をしているので、ある程度は見当がつくかも知れませんが。
以上です。
楽しんでいただけたのなら何よりです。
もしよろしければ暗黒!ライザのアトリエ3の出張投稿をお待ちください。
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