暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
残留思念を読み取れるイタコアイテムです。
非常に強力なアイテムで原作でも猛威を振るうのですが、本作では最後の締めに使う形にしていきます。
序、幽世の羅針盤
タオとともに、森の奥にある遺跡に出向く。
しばらく周囲を歩き回って調査。しばらく様子を見て回る。とりあえず、新しく住み着いた魔物もいない。
ボオスも今日は来てはどうかと声を掛けたのだが。
どうやら徹夜に近い状態で勉強をしていたらしい。
首を力無く横に振られた。
成績は一応、相応にあるらしいので。
やっぱり何か無理をしていると見て良い。
だとすると、あたしが何かしらの形でコネを構築して、稼ぎがいい仕事でも紹介するか。
いや。それは余計なお世話だろう。
いずれにしても、事情があるなら、話して貰うのを待つしかなかろう。
そう判断する。
タオと連携して、周囲の魔物を掃討。
魔石もあるので、回収しておく。
フィーは魔石には興味を持つが。近付いたら駄目だよと話をすると、しっかり言う事を聞く。
或いは思念でも読んでいるのかも知れない。
タオの話によると、かなり言葉を理解している節があるというから。
単純に知能が高いのかも知れないが。
いずれにしても、それでも非力な存在で。
その気になれば、手の内で握りつぶすことが出来てしまう。
あたしとしては、そうすることも判断の内だが。
今は、そうしようとは思わなかった。
「魔物の掃討、終わり」
「こっちも片付いた!」
「よし、じゃあ使って見るよ」
「分かった。 フィー、危ないから離れて。 此処からは、僕がライザを護衛する番だね」
頷くと、フィーをタオに預けて。
そして、幽世の羅針盤のつまみを調整。
このつまみは、開ける前に調整しないといけない構造にした。
そうしないと、考え無しにぱかっと開いて。
それでいきなり悶絶死、という事も考えられるからだ。
前の使い手は、多分魔力量が小さくて、それで使っても平気だったのだろうと思う。
或いはだがこの恐らくは古式秘具だろう代物を。
何も知らずに使っていて。いきなり即死した魔術師もいるのではあるまいか。
後もう一つ、気になる事がある。
どうしてメモ帳とこれは魔石に埋もれていた。
例えばクーケン島では、魔石が成長するのには相応の理由があった。クーケン島は古代クリント王国時代に作られた人工島で。元々普通の島ではなかったのだ。
それもあって、魔石が島の彼方此方で成長していた。
此処ではどうして魔石が。
しかも幽世の羅針盤とメモ帳が、なんで魔石で埋まっていた。
それが分からない。
いずれにしても、慎重に調査を続けて行く必要がある。
羅針盤の調整が完了。
開いて見る。
ふわっと、意識が拡大した。
なるほどね、こんな感じになるのか。
周囲に複数の残留思念を感じる。
此処は、やはり防衛線だったようだ。だが、何から守っていたのかが、イマイチ分からない。
それとパティが完全にもろに見えているので、それはそれで苦笑いするしかない。
今日もつけてきているんだな。
咳払いをすると、あわてて首を引っ込める様子は、とても可愛いが。
パティが魔物にでも食われたら、ヴォルカーさんの嘆きはどれほどだろうか。
「ふむ、一つずつ耳を傾けてみるね」
「魔力消耗はどう?」
「んー、今のあたしなら気にならないくらい。 でも、少し話している間にも、熱槍を一つぶっ放すくらいの消耗はしているかな」
「分かった、気を付けて護衛するよ」
タオが身を低くして、双剣を構えたままいう。
心強い。
周囲を見て回りながら、幽霊のように立ち尽くしている残留思念に耳を傾けている。ノイズのように声が聞こえるが。
それだけだ。
無言で話を聞いて回る。
どうやら、この羅針盤の前の持ち主だった人間もいるようだ。
姿はぼんやりとしか見えないが。
つれているのは、これ。
フィーの同族か。
いや、ぼんやりしてなんとも見えない。
まだ羅針盤の精度が低いのか。いや、この羅針盤は直したと思う。だとすると、だけれども。
残留意識が弱まっている、と言う事だ。
残留意識なんて、文字通り幽霊も同然。
そんなもの、数百年もすれば薄れて消えていくのは当然だろう。
確か、メモ帳を前に書いた人間が、二百年前にここに来たとかなんとか言う話だったし。
ましてやその人間が此処で死んだわけでもなければ、悔しいという思いだけでは。二百年なんて、残留思念がもつわけもない。
目を細めて、周囲を見て回る。
戦士らしいのが、話をしている。
此処を守らないと。
そういう話をしていると言う事は、余程色々と大事なものが此処にはあったのだろう。
だが、古代クリント王国の前の時代の遺跡だったとして。
その時代は、まだフィルフサとやりあっていない筈だ。
いや、それすらも前提を崩さないといけないのか。
リラさんも言っていたが、フィルフサは古代クリント王国が爆発的に繁殖させたのであって。
0から作り出したわけではない。
その前から存在はしていたらしい。
水さえあれば押さえ込める存在ではあるのだが。
そういえば。
あの森の中のせせらぎ。
この遺跡と、或いは連動しているのかも知れない。
遺跡の歩ける範囲をくまなく歩く。
また、メモ帳の持ち主らしい残留思念がある。
壁の前だ。
まあ、何となく分かる。
メモ帳の持ち主は、トレジャーハンターというか。好奇心の赴くままにここに来て、挫折したのだろうから。
だとすると、此処が一番悔しかっただろう。
じっと耳を傾ける。
この壁は、開きそうに無い。
そういう悔しさが、強く強く伝わって来た。
なるほど、こういう風に使っていくのか。いずれにしても、この遺跡でこれ以上調べられることはあまりなさそうだなと思う。
ただ、あたしにしか残留思念は聞こえない。
残留思念の言葉と、それに関連することはメモしておく。
後で、何かしら役に立つかも知れないからだ。
いずれにしても、此処に残っている残留思念は、殆どが「何かから此処を守らなければ」というものと。
此処を遺跡になってから訪れたトレジャーハンターの無念だけ。
それには、殆どこれといって感じ入るものはなかったし。
此処を何から守ろうとしているのかは、分からなかった。
いずれにしても、此処は一旦後回しだ。
このばかでかい壁、こじ開けるのはリスクが大きすぎる。
今、近くにタオしかいない。せめてレントとクラウディアがいればある程度大胆に動けるのだけれども。
残念ながら、それは無理だ。
腕組みして、様子を見る。
やはり此処は、一種の要塞とみるべきだろう。
しかも、一応防衛には成功したと見て良い。
そうでなければ、アスラ・アム・バートが残っているのは不自然だし。
ましてや。
アスラ・アム・バートで、この遺跡の存在が語られていなかったりするのも不自然だからである。
タオと、その辺りを話しながら、一度王都に戻る。
フィーは、ずっと壁の向こうを見つめていたが。帰るよと声を掛けると、すぐに飛んでくる。
やっぱり言葉、殆ど分かっているんだな。
そう思うと、少しだけ。
最悪の事態が起きたときに、殺さなければならないのが悲しいかなとは感じた。
王都に到着する。
パミラは相変わらずのほほんとした笑顔を浮かべていたが。
王都方面の監視をしている、あの存在の部下が来たので。軽く礼をかわす。
「カーティアです。 コマンダー、ご壮健なようで何よりです」
「肉体の方は相変わらず壮健よー。 まあ作り物だし、時々メンテナンスはしているからなのだけれどね」
「そうですね」
「じゃ。 話を聞かせて貰いましょうか」
王都を歩きながら、話をする。
相変わらず無駄に人間ばっかり集まっている場所だなとパミラは思う。
はっきりいってこう言う場所は好きじゃ無い。
ドブの底のような汚泥が溜まって、トップはすっかり腐りきってしまっている。
壁の中でかりそめの平和を享受しているに過ぎず。
その分際で、百年ちょっと前にはオーリムへの門を開こうとすらしていた。
その時も、ギリギリまで自浄作用が働くのを待ったのだが。
以前の大規模侵攻の危機の時に、ライザ達と一緒に門を閉じた錬金術師アンペルがロテスヴァッサを離脱したのを見届けて、自浄作用がないと判断。
王宮にいた錬金術師と。
そのパトロン。
全員を斬ったのは、パミラだ。
普段は「幽霊のようにほとんど世界には干渉しない」を旨としているのだが。
この世界の錬金術師は、今まで見てきた世界の中でも特に愚かしく。
例外がたまにいるくらいで。
それ以外は、本当にエゴで動いている。
そのエゴが、建設的な方向で世界を動かすなら良いだろう。
エゴが向く先は資源や技術の略奪。
それに侵略。
以前、世界を破滅させながら、自分達を特権階級か何かと考えている錬金術師達の世界で、呆れたことがあったが。
此処は何百年経っても進歩する様子を一切見せず。
結果、あの存在とともに錬金術師を力尽くで掣肘する方法を選ばざるを得なくなったのである。
この世界の前にいた世界では、錬金術師達は凶悪だったが、それでも世界のためを思って動いていた。
彼女は凄かったな。
怪物そのものだった。
だけれども、それでもこの世界の連中と違って、世界のために動いていた。
残虐だし容赦も無かったけれども。
だが、この世界の、神代や古代クリント王国の錬金術師に比べたら、万倍もマシだったのだ。
長い銀髪をなびかせながら、パミラは王都を歩く。
隠行を使っているので、周囲の人間は、パミラにもカーティアにも気付かない。
「最優先監視対象ライザリン=シュタウトは動き始めています。 今の時点でセーフティが掛かっているのは確認しましたが……」
「何か問題があるのかしらー?」
「普通、セーフティをかけた錬金術師は、凡人以下の才覚に落ち、基礎的な錬金術すら出来なくなります。 ライザリンの場合は、凡人以下になるどころか、少しずつ現在でも伸びているようです」
「うーん、それはちょっと想定外ねえ」
ただ、判断力や閃きなどは、以前ほど優れていないようだともカーティアがいうので。
なるほどと、パミラは考え込んでいた。
ライザリンは、今まで見てきた超越錬金術師達に近い存在だ。
ずっと超人だった者達に比べると人間に近いが。
それでもシビアで、必要に応じて命を躊躇無く奪う。
その才覚は、神を気取っていた神代の錬金術師以上であり。
もしも良き錬金術師だったら。
この世界を何度でも救うほどの存在だろう。
だが、パミラもこの世界の人間。
いや、この世界の錬金術師には、もう微塵も期待していない。
少し違うか。
期待しているから、ライザリンを斬っていない。
今の実力と判断力なら、ライザリンには勝てる。仲間達の助力込みでだ。
だが、殺すべきだと何度か進言してきた部下達に、殺さないようにと指示しているのは。
或いは、ライザリンが。
この世界で初めてとなる、まっとうな錬金術師になるかも知れないと言う。期待があるのかも知れなかった。
「まあいいわ-。 私がこれから此処でプディングを堪能しながら、ライザは監視する事にするわねー」
「お願いいたします。 時に……アイン様は」
「まだ体の調整が上手く行っていないわねー。 数時間程度しか、培養槽から出られないわ」
「そうですか。 かの方は我等の希望。 我等のデータを用いて、少しでも早く普通に生活出来ることだけを願うばかりです」
カーティアは忠実だな。
王都方面を、二十年も護り続けているだけのことはある。
見た目は二十歳そこそこ程度に見えるが。
いわゆる「同胞」と言われるカーティアの同類達。あの存在が作り出した者達の中では、非常に優れた個体で。
アンチエイジングを受けながら、この土地を護り続けている。
人間に対して、あまり良い感情は持っていないようだが。
それでも、アインのことを考えると複雑なのだろう。
アインは全うに生きる事すら許されなかった「人」だ。
かの者は、アインにただ全うに生きて貰いたいと願っているだけ。
そのためには、何度も世界を滅茶苦茶にした錬金術師が危険要素として存在しているということだ。
まあそれだけではないのだろうが。
それについては、パミラも深入りするつもりはない。
利害が一致している。
今は。それだけで充分だ。
使い魔にしている鳥が、カーティアの肩にとまる。
頷くと、カーティアは言う。
「ライザリンが戻って来ました」
「そう。 私は辺りで食べ歩きをしているから、何かあったら来なさい」
「はっ……」
文字通り、溶けるようにしてカーティアは消える。
パミラは早速甘いものを専門に扱っている店に行くが。
以前あった店は、もう跡形もなくなっていた。
溜息が漏れる。
こればっかりは、仕方が無いか。
王都はこの狭い壁の中にて、サーキックバーストに近い経済活動を繰り広げている。だから物価が意味不明なほど上がっている。
其処では別の世界では、「資本主義」と呼んでいた。野放しに近い経済的な殺し合いが続けられていて。
金貨で人間が殺し合っている。
店はしょっちゅう潰れる。
美味しい店だろうが関係無い。
美味しい店が残るのだったら、苦労など誰もしない。
マーケティングが上手い店が残るのだ。
そしてそれには。
マーケティングをする人間の人格などは関係無い。別の世界で「資本主義」を回していた連中が、サイコパスや下衆の集まりだったように。
この狭い王都の中でも。
魑魅魍魎が、ひたすらに自分のエゴだけのために争い合っている。
その醜さときたら。
まるで何かの糞に集っている蛆かなにかのようだった。
別の店を探す。
パミラとしては、時々自分でプディングの作り方を広めながら。その広めたプディングに、創意工夫がなされ。
美味しく食べられれば、それでいいと思っている。
たまに荒事もするが。
それはこの世界に昔居着いていたカスみたいな錬金術師達が、とんでもない負の遺産を残していったから。
誰かが、後始末をしなければいけなかったのだ。
或いは、あの存在は、その筆頭になっていたかも知れない。
だが、アインという存在と。
その末路を見て。
あの存在は変わった。
故に、パミラは協力する事を申し出たのだ。
そうでなければ、最初に斬っていたのは、あの存在だっただろう。
皮肉な話だ。
人間よりも、あの存在はよほど人道的なのだから。
事実、どれだけのフィルフサによる大侵攻を封じ込めてきただろう。
あの者が派遣している「同胞」が、どれだけの人間をそれが主目的ではないにしても、救ってきただろう。
秩序を守ってきただろう。
適当な店を見つけたので、入る。
あまりおいしいプディングではなかったが、まあこれで良いだろう。しばらく黙々とミルク主体のプディングを食べながら。
パミラは。この世界の人間も、多分力尽くで無いと変わらないのだろうなと、思うのだった。
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