暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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1、地固め

タオが、手帳に書かれていた童歌みたいなのを解析して。

 

この辺りに他に遺跡がないかを調べるという事だった。

 

そっちは任せる。

 

分厚い本を調べて回るのも骨だ。

 

タオはその辺りは、もう生半可な学者より上だろう。学業の片手間にそれが出来るらしいから。

 

まあ色々な意味でとんでもない奴だ。

 

レントはどうもあたし同様スランプのようだし。

 

「人間社会」限定であれば、恐らくはタオがあたし達悪ガキ軍団の中で、三年で一番成長したのだと思う。

 

問題は、フィルフサという、「人間社会」なんて瞬時に粉砕して食い尽くす化け物が薄皮一つ隔てた異世界オーリムに今もわんさかいることで。

 

アンペルさんとリラさんが、それの侵攻先となる門を片っ端から封じているように。

 

あたしも、出来る範囲でそれをやらなければならない、と言う事だった。

 

まあ、それについては自分でやっていくしかないが。

 

ともかく今は、王都周辺の調査が大事だ。

 

アトリエに戻ると、一旦ベッドで横になる。

 

しばらく頭を休める。

 

三年前。

 

あの暑い夏は。

 

こんなダラダラ休憩を挟まなくても。わき上がってくるような活力が、何もかもを創造的にかき立ててくれたのに。

 

やっぱり駄目だ。何か頭にもやが掛かっている。

 

フィーが嬉しそうに飛び回っている。

 

魔石を今回もある程度回収してきて。それから魔力をすったからだろう。

 

やっぱりスープくらいしか口にしないし。そのスープの中の固形物も食べようとはしない。

 

水だけ得られればいいようだ。

 

ミルクも与えてみたが。それもあまり口にはしなかったことから考えると。

 

固形物を食べられないというよりも。

 

魔力を直接栄養に変えられている、というのが正しいのだろう。

 

水は恐らく、体温調節などにだけ使っているのであって。

 

実際には水すらも必要ないのではあるまいか。

 

「起きるか……」

 

呟いて、十数えてから起きだす。

 

それくらい、頭がぼんやりしてしまっていた。

 

ベッドから起きだす。

 

そして、フィーに声を掛けて、外に出た。

 

毎日違うコースで、この居住区を歩いて回っている。一秒でも早く、道を覚えるためである。

 

凄い魔術師が来ている。

 

そういう噂があるのだろう。

 

時々あたしに声を掛けて来る人がいる。

 

話を聞くと、普通の魔術師がやるような事。湯沸かしとかが依頼ごとなので、笑顔で受けておく。

 

名前を聞いて、そして覚える。

 

こうして、コネを作っておく。

 

瞬間湯沸かしの腕前は、いつも驚かれ。感謝される。

 

それだけであたしは充分だ。

 

工業区や職人区にも足を運んでおきたい。

 

王都の技術力がどれくらいなのか知っておきたいからである。

 

装備品は、あたしは基本的にイメージに基づいて釜で再構築しているので、たまに見かける名人芸の細工ものは再現出来なかったりする。

 

いや、三年前は多分出来た。

 

今は、どうにも迸るパッションとか才覚とか。そういうようなふわっとしたものを、どうにもエーテル内で組み込めないのだ。

 

向かうのは、農業区である。

 

この間あった、義賊だとか言う三人組がいたので、声を掛けておく。

 

リーダーである女性戦士は、それなりの手練れのようだった。

 

「おお、アーベルハイムのお嬢さんが連れていた腕利きだな」

 

「ライザリンです。 ライザと呼んでください」

 

「あたしはドラリア。 ドラリア義賊団の頭だ。 こっちはルイ、こっちはザイク」

 

「よろしく、ドラリアさん、ルイさん、ザイクさん」

 

軽く話を聞く。

 

義賊団は現在三人だけだという。

 

しかも荒事が出来るのはドラリアさんだけ。ルイさんとザイクさんは別に仕事があるそうで。

 

基本的に話を聞く限り、ただの職人のようだった。

 

「一応確認しておきますが、盗みとかはしていないんですよね」

 

「当たり前だ。 あたしらは誇り高い義賊団だからな!」

 

「ハハ……」

 

胸を張るドラリアさん。

 

蓮っ葉な雰囲気は無く、普通に手練れの女戦士である。ただ、言動がちょっと色々と困惑させられるが。

 

義賊というのは、物語の中ではあたしも聞いた事があるが。

 

あくまで物語にて成立するだけの存在に過ぎない。

 

実際にそんなものがいるという話なんて、聞いたこともない。

 

この人達も、やっている事は賊とは程遠い。

 

強いていうならば、クーケン島にいた護り手や。各地の自警団に所属する戦士が近いだろう。

 

アーベルハイム卿も、この人達の実態を知って、苦笑いして許したのだろう。

 

事実、害は全く無いようだから、それで正解なのだと言える。

 

そしてこの人達は、実際に賊とか捕まえて、自警はしてくれている。

 

そういう意味では、変な肩書きを名乗っている以外は、極まっとうな人達である。

 

「もう聞いているかも知れませんが、農業区を支援するべく来ました。 カサンドラさんと軽く話して、水路関連の不備については確認しましたが、他に困っていることなどはありますか」

 

「この辺りに少し前までは与太者が彷徨いていたんだが、連中はもう全部やっつけて捕まえたよな」

 

「はい姐さん」

 

「だとすると、農業をやる人間がいないことくらいだな。 それにしても、あんたは一体なんなんだ。 魔術師としての力量が凄いのは分かるんだが、アーベルハイム卿は驚天の力を持っているとか言っていた」

 

魔術師は、今の時代は誰でも魔術が使える事もあって、ごく身近な存在だ。

 

有名な魔術師の中にも、肉体強化魔術を極めているだけの存在もいるらしい。そういう人は、素手で格闘戦をするのを何よりも得意としているらしく。ローブを着て杖を持っている老人とは真逆で。筋肉ムキムキの戦士にしか見えないそうだ。

 

つまり魔術師は身近で、どこにでもいる。

 

驚天の技とは無縁なのだ。

 

「あたしがやっているのは錬金術です」

 

「そういえばそんな単語を聞いたな。 凄い発破や薬を作るんだろ」

 

「はい。 怪我人などが出たら、すぐに言ってください」

 

「そうだな……分かった」

 

一礼すると、「義賊」と別れる。

 

それにしても義賊、か。

 

この王都、周辺状況は良いようには見えないし。貴族や王族は完全に腐りきっているようだけれども。

 

末端まで駄目になっているわけでは無さそうだ。

 

まずは、水路の様子を確認する。

 

この手の水路というのは極めて繊細で、本来は畑の持ち主以外は絶対に触ってはいけないものだ。

 

更に言うと、東方ではライスという作物を作っているそうだが。

 

このライスを作る為の田は、更にデリケートらしく。

 

水を入れたり出したりは、それこそ田の持ち主以外は、地主であろうと絶対に禁忌であるのだとか。

 

ただ、この水路は一目で分かるが。

 

ものが捨てられていたりで、明らかに整備されていない。

 

カサンドラさんの畑のための一部が機能しているくらいで。

 

他の畑は、虫が育つためのファームと化しているのが実情だった。

 

実際、農民と呼べる人はごく少数しかいないようだ。

 

西側の街道は、あたしが通った東側より多少はマシらしく。

 

此処を通って、大量の作物が王都には来るらしい。

 

それらは、アホみたいな価格をつけられてマーケットに並ぶ。

 

そういえば、鮮度は落ちるがクーケンフルーツが売られているのも目撃した。

 

多分だけれども、バレンツ商会が持ち込んだものなのだろう。

 

前にも聞いたが、リュコの実なんてこっちでは呼ばれているそうだ。どうでもいい話ではあるが。

 

いずれにしても。バカみたいな物価である事を我慢すれば、王都の人間は食べ物には困っていない。

 

だから農業区は軽視されている。

 

王都から一生出ない人間もいるのだろう。

 

そういう人間は、作物を作るという事が如何に大変か、理解していない可能性も高い。

 

カサンドラさんが、畑を耕している。

 

軽く挨拶してから、今日の作業について決める。

 

昨日軽く話したが、カサンドラさんは五人姉妹の一番上らしい。

 

下の姉妹達は既に結婚して所帯を持っているらしいのだが。

 

カサンドラさんは農作業が楽しくなって、婚期を逃してしまったのだとか。

 

それに、好きこのんで王都で最下層の農民をやっている変わり者扱いだ。

 

前に何度か婚姻の話は来たらしいのだが。

 

農民を止めるのが条件とか上から目線で言われたり。

 

明らかに此方を見下している人間が、体だけ見て舌なめずりしているのが分かったりで。

 

全て断ったのだという。

 

まあなんというか、好きを優先した人生なんだな、と思った。

 

それはそれで別にかまわないと思う。

 

好きなように生きる権利が人にはある。

 

人間の社会というのは、あくまで人間が生きていくために必要なものであって。逆にいうと、人間が生きるのに有害であったら。そんな社会からは離れるべきだ。

 

ところが、人間の社会の上層にいる存在は。

 

自分のエゴを満たすために、真面目な人間を使い潰す。それを正当化するために、時に真面目であれ、正直であれと説く。

 

大まじめにそれを真に受けた人間が、立派に社会を発展させる場合もあるが。

 

社会上層にクズがいる場合。

 

そういった真面目な人間は完全にカモだ。

 

ただすり潰されて、殺される。

 

あたしは三年で、クーケン島周辺の集落を助けに回って、何度も魔物の群れを粉砕してきた。

 

その過程で、そういう腐りきった社会を構築している村を幾つも見てきた。

 

此処も、規模感は違うがそれに近いのかも知れない。

 

だとすると、なんとも情けない話だなと、あたしは思うのだった。

 

「一通り周りを見て来ました。 そこの土砂、消し飛ばしておきますね」

 

「分かってると思うが……」

 

「ええ。 水路の水が、あっちに行かないように先に処置します」

 

「ありがとう、助かるよ。 私一人だと、力仕事はどうにも骨でね」

 

こういう水路は、男衆が何人も出て来て、それでやるものだが。

 

この農業区は、負け犬の居場所みたいに認識されている。

 

そもそもだ。

 

此処は恐らく、古代クリント王国の時代からあった都市であり。

 

この農業区も、その頃からある筈。

 

当時はあるいは、都市のあり方が違ったのか。

 

此処は何かしら、別の意図があって作られた場所だったのかも知れない。

 

まあ、それはいい。

 

アーミーが存在した時代は、色々と今とは事情も違ったのだろう。

 

それについては、後でタオにでも聞けば分かる話だ。

 

淡々とあたしは、持ち込んでいる荷車から、石材を運び出す。

 

何カ所かの水路のゴミをシャベルで外に出し、代わりに石材を詰めて水路をコントロールできるようにする。

 

石材については、魔石の残骸を基にしている。

 

魔石の残骸が元になっているので、あたしが魔力を流すことで、色々と調整をすることが出来るのだ。

 

家屋用の接着剤を用いて、石材だけを固定。

 

周囲の土に噛むようにして、石材を並べて配置。

 

カサンドラさんが、時々此方を見ているが。作業の速さに舌を巻いているようだった。

 

まあ、感心してくれれば嬉しい。

 

そのまま、幾つかの水路を綺麗にした後。

 

詰まっている水路を、熱魔術で綺麗に焼き払う。

 

「ガスが出ます。 吸わないようにしてください」

 

「分かった!」

 

どっと、水が流れ出す。

 

あたしが熱魔術で蒸発させたゴミから出たガスを押し流しながら、水路の一部が復活する。しばらくは、水を通しで流す。

 

それで、綺麗にゴミの残骸がなくなったら、水路を少しずつ回復させていくことになる。

 

水路を確認して、水を見ておく。

 

水の質は、良くも悪くもない。

 

生活用水などを川に流しているようだが。

 

此処で取得している水は、流石に其処よりは上流のようだ。

 

飲み水は井戸が中心と言う事もある。

 

まあ、水に関しては湧かして飲むのが基本だし。あまりにも汚くなければ、それでいいのだが。

 

「凄い火力だね。 実戦で磨いた魔術かい」

 

「まあそんなところです。 それよりも次は土ですね……」

 

「他にも畑がわんさかあるから。 一つずつ、手を入れないといけないけれどね」

 

現金なもので。

 

妹一家は、四人全員が、時々此処に野菜をくれとくるという。

 

賤業だと卑しんでおきながら、である。

 

そんななら、自分で作れと言いたくなるそうだが。生活のための野菜は充分に作れているので、分けてやってはいるそうだ。

 

市場にも野菜は納品していて。

 

新鮮なことから、それなりに売れるそうである。

 

ただし、売りに行くときに。

 

ゴミでも見るような目で見られることも多々あるそうだが。

 

「では、次は肥料ですね」

 

「それもそうなんだが……」

 

「?」

 

カサンドラさんは咳払いすると、ある植物の種を見せてくれる。

 

見た事がない種だ。

 

「以前、視察に来たアーベルハイム卿と話をしたことがあるんだ。 アーベルハイム卿も、街道が潰された時に生命線になる農業区の有様については、心を痛めているようでね」

 

「アーベルハイム卿は、ちゃんと王都の状況が客観的に見えているようですね」

 

「まったくバカ貴族どもとは偉い違いだ。 あの人が王様になってくれれば、多少は違うんだろうけどね」

 

「しっ」

 

流石にそれはおおっぴらに聞かれるとまずいと思う。

 

ともかく、声を落としながら、話を続ける。

 

「それで、その種は」

 

「私が作る野菜は、どれもそれなりに好評なんだ。 アーベルハイム卿が納入を頼んでくるくらいにはね」

 

「パティが好意的な理由がわかりました。 新鮮な野菜を独占できるなら、それは確かに好意的にもなります」

 

「そうだね。 ただ、どうしても手が足りないんだ」

 

今、農業区で働いている農民は、五百人もおらず。

 

カサンドラさんのような腕利き以外は、殆ど素人同然だという。

 

そういうわけで畑を荒らすだけだったり、殆ど畑を雑草だらけにしてしまったりで。農業区はほぼ機能不全に陥っている。

 

せめて王都の人口三十万の内、一割は此処にほしい。

 

そういう話らしいのだが。

 

商業区は過密すぎるぐらいに人が詰まっているのに。此処はスッカスカ。

 

最下層民と見下されるのが、どうしても嫌だと言う事らしい。

 

そこで、アーベルハイム卿が考えたのが、この種らしかった。

 

「これは南方で採れる果物で、かなり甘くて美味しいものらしい。 魔術師が冷やしながら此処までたまに運んでくる品は、それこそ1000コール以上の値段がつくことすらあるそうだ」

 

「果物一つに1000コール……」

 

「馬鹿馬鹿しい話だろう。 だが、こいつはどうも育てるのが難しいらしくてね。 あたしも上手く行ったことが無い」

 

なるほどね、それを支援してほしいと言う訳か。

 

幾つか、思いついた事がある。

 

「まずは肥料を作ってきます。 その果物については、後で考えましょう」

 

「おう、助かる。 私はその間、使えなくなっていた畑の草むしりでもしておくよ」

 

「お願いします」

 

頭を下げる。

 

あたしも農民の子だ。

 

こう言う人が差別されている王都の状況は気にくわない。改善できるなら、改善しておきたかった。

 

 

 

つづいて、学園区に出向く。

 

学園区には学生が多くいるのだが、有望な人間とはコネを作っておきたいのである。

 

今後のために、だ。

 

ボオスと待ち合わせる。

 

ボオスは腕組みして不愉快そうにしていて。その隣には、居心地が悪そうに、眼鏡を掛けた小柄な女性がいた。

 

ボオスを見ると、フィーが即座に飛んでいく。

 

ボオスはうんざりした顔をしたが。頭に乗られても。頭に乗るなというだけで。フィーを追い払おうとはしなかった。

 

「あの、ボオス……さん……?」

 

「ボオスでかまわん。 アンタと俺は同学年だろう」

 

「は、はい……すみません……」

 

「なんで謝るんだ」

 

とにかくやりづらそうである。

 

小柄な眼鏡の女性と軽く自己紹介をして、挨拶を交わす。

 

女性はカリナ。

 

此処に来ている学生の一人であるらしい。

 

成人でも学生は珍しく無いらしく、貴族の子弟が通う貴族院以外では、色々な年代の人間がいるようだ。

 

今も、実際年老いた魔術師が通り過ぎていく。

 

あれも教師なのか学生なのか、正直分からない。

 

「じゃあ、俺は行くぞ。 とにかく居心地が悪くて仕方が無い」

 

「フィー」

 

「じゃあなフィー。 俺の頭はお前の巣じゃねえぞ」

 

本当に居心地が悪そうに行くボオス。

 

まあボオスは女は一人と決めているようなタイプだ。あからさまに気がない女と一緒にいるのは、居心地が悪いのだろうというのは想像がつく。

 

カリナさんは地味な女性だが、事前にボオスに話を聞いている。

 

植物学について専攻しているかなりの好成績を収めている学生で、タオがいなければ話題を独占していたらしい俊英らしい。

 

元々植物操作魔術を得意とする家系に産まれたらしく。第三だか第四だかの規模を持つ都市の名士の娘だそうだ。

 

その割りには気位ばっかり高い雰囲気も無く。

 

随分と気弱だなあと思う。

 

「カリナさん、とりあえずあたしは外に出ることもある。 他の学生には出来ないような仕事、こなせるよ」

 

「ありがとうございます。 じ、実はこの辺りの植物の植生が、どうしても図鑑と矛盾しているものが多くて。 実際に指定された地点の植物を、調べたいんです……」

 

「はあ。 護衛任務ならやりますよ」

 

「ご……護衛……」

 

倒れそうになるので、あわてて支える。

 

フィーも吃驚してあわてて翼で背中からカリナさんを押した。思ったよりも出力がデルっぽいなフィー。

 

そしてナイスフォローである。

 

「ご、ごめんなさい。 その、私、ここに来るのも命がけで、途中で何度も何度も怖い目にあって……出来れば魔物とは、顔もあわせたくないんです」

 

「そうなんだ……学者の卵としてはなんというか、大変だね」

 

「ごめんなさい……。 それで、指定位置の植生を、手が開いている時にでも調べてきてほしくて」

 

植生ね。

 

まあそれについては、タオがいる時に支援を頼むか。

 

軽く考え込んでいると、少し周囲を見回してから、カリナさんが聞いてくる。

 

「そ、その。 ボオスさんは怖くてあんまり話を聞けなかったんですが、タオさんとは仲がいいんですか?」

 

「あたしとタオ、ボオスともう一人でクーケン島って所で悪ガキ軍団だった事があるんだよ」

 

「悪ガキ軍団!?」

 

「そうそう。 色んな悪戯してまわってね」

 

またくらっと倒れそうになる。

 

この人、大丈夫だろうか。

 

とりあえず、次に話すときはカフェにしようというと、こくこく頷く。こうちょっとやそっとの事で卒倒されてはこっちの方がたまらない。

 

「タオさん、ワイルドな一面もあったんですね……」

 

「はあ……」

 

この子もか。

 

タオはどうやらこっちではかなりもてるらしい。

 

パティといいこのカリナさんといい、相当な有望馬だろうし、あたしみたいに色恋に興味ゼロの変わり種では無い普通の人なら羨ましい話ではあるのだろうが。

 

それにしても、逆にパティとしては、あまり気が気では無いのも事実だろう。

 

私とはあまり話してくれないのに、色んな女の人と仲良くして、とか思っていそうである。

 

それが可愛い焼き餅のうちはいいのだが。

 

タオがあまりにも煮え切らないと、アーベルハイムの強権を利用して馬鹿な事を始めかねない。

 

他には、幾つかの植物について。手に入れてきてほしいと言うような話をされる。

 

いずれにしても、それは此方としては一向にかまわないので、適当に受けておくことにする。

 

とりあえず、ボオスには他にも有望な学生には声を掛けて欲しいと言ってあるので。誰かしら良い人が見つかったら、声を掛けてくれるだろう。

 

「あ、あの、ライザさんって、戦闘とか出来るんですか」

 

「まあそこそこに。 自衛くらいは余裕。 一応ドラゴンをみんなと一緒に倒した事もあるよ」

 

「……」

 

「魔物退治の仕事だったらいつでも頼んでね。 流石に王都の外の魔物を全部駆逐するのは無理だけど」

 

固まっているカリナさんに手を振ると、一度学園区を後にする。

 

とりあえず、今回はこれでいい。

 

借りている宿に戻る。

 

現時点では、出来る事があまりない。

 

タオが、有望な情報を集めてくるまで待ち、くらいか。

 

ともかく現状、戦力が足りていないのである。

 

タオやボオスは学生で、常に出られる訳でもない。

 

パティはある程度は戦えることはわかっているが、アーベルハイムの娘さんを傷物にでもしたら大変である。

 

これについては、本人がきちんと同意しないと、危なくて仕方がない。

 

クリフォードさんを考えたが、あの人はまだちょっと得体が知れない。

 

せめてクラウディアが王都に来てくれれば、なのだが。今日もバレンツ商会に足を運んでも。

 

クラウディアは、まだ近くの集落、ということだった。

 

とりあえず、今日は調合をして過ごすか。

 

そう考えて、釜にエーテルを満たす。

 

今のうちに、薬を作っておく。

 

インゴットも。

 

トラベルボトルにフィーと一緒に入る。フィーは内部に入ると、驚いたように周囲を見回して。

 

昂奮して飛び回っていた。

 

「魔物がいるから、あんまりはしゃいでいたら駄目だよ」

 

「フィー!」

 

「さて、鉱物をある程度採取しておきますか……」

 

王都近辺に来たのには、モリッツさんに頼まれた事、元々王都近辺は門関係で調査する必要があった事、それ以外に実はある理由がある。

 

伝説の金属が手に入るかも知れない、というものだ。

 

オーリムでたまに見かけられるらしい、究極の金属の素材になる鉱物、セプトリエン。半年ほど前にオーリムの聖地グリムドルに足を運んだときには、残念ながらまだ安全圏ではセプトリエンは見つかっていない、ということだった。

 

セプトリエンが見つかったら、トラベルボトルに組み込んで、この中で取り放題といけたのだが。

 

流石にそう簡単な話でもないだろう。

 

トラベルボトルは万能では無くて、調整をする必要がある。

 

だから、基本的に念の為に持って来ただけ。此処でしばらく過ごす事を考えて、くらいだったのだが。

 

鉱石を掘り崩し、荷車に詰め込む。

 

どれも、今はどんな鉱石なのか分かる。

 

一通り、必要なものを掘り出してから、トラベルボトルを出る。

 

そして、調合を始めた。

 

やる事は幾らでもある。

 

王都に地盤を構築し、クーケン島の未来に備えるというのもあるが。

 

どうにも嫌な予感がする。

 

勘が鈍っているとは言え、あたしの魔力量は前より上がっている。どうも王都近辺で、びりびりと嫌な気配が消えてくれないのだ。

 

だとすると、そろそろ腰を据える覚悟がいる。

 

一季節此処にいるつもりだったが。

 

頭の働きが鈍っている事もある。もう少し、此処にいることを想定しなければならないかも知れなかった。

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