暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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この世界に存在する国家、ロテスヴァッサ王国。

原作でも影が薄いこの国家ですが、それもその筈実態は王都だけに支配権が及んでいるのみの都市国家に過ぎません。第二都市のサルドニカに役人も貴族も軍も派遣できていないことからもその実力は明らか(※原作で描写されている事実)ですが……それどころか王都に続く街道の安全すら確保できていない為体です。

そんなロテスヴァッサの、貴族になったばかりの家の令嬢。

それがこの物語のもう一人の主役とも言える、パトリツィア=アーベルハイムです。


1、貴族の実態

パトリツィア=アーベルハイムは、ロテスヴァッサ王国の貴族の娘である。

 

栄養が豊富だと背が高くなりやすいとか言う話を聞いたことはあるが。

 

その俗説を正面から否定するようにパトリツィアは背が伸びず、ずっと周囲から比べて小さかった。

 

ただ体力は幼い頃からあり。

 

王国貴族である父ヴォルカーの手ほどきで、長柄といわれる長刃の独特の刃を用いた、速さと鋭さを武器にする武芸を身に付けてきた。

 

母は早くに亡くなった。

 

周囲には使用人が何人もいたが、父はそういった使用人には目もくれなかった。

 

父は母を愛していたらしく。

 

以降、妻を娶るつもりはないらしかった。

 

それが分かってきた頃には、父は嫌いではなくなった。

 

なんとなくではあるが。

 

そういった姿勢を取ることが出来る人間が、立派なことを理解出来ていたのかも知れない。

 

或いはだが。

 

周りを見ていて、そういった人間が少ないことを理解していたからかも知れなかった。

 

貴族というのはなんなのだろう。

 

王都アスラ・アム・バートには、多分今の世界で一番多くの人間が集まっている。幾つかの区画に別れたアスラ・アム・バートでは、中央区に貴族の邸宅が複数建っていて。それらに巣くう貴族が陰湿な内輪での権力争いをしている。王都は表面上は平和でも、豊かでも華やかな世界などでもないのだ。

 

仲良くしようとパトリツィアに近づいて来た子が。

 

いきなり次の日には手を返して、周囲と陰口をたたいているのを見た。

 

虐められていた筈の子が。

 

いきなり翌日から虐める側に変わっていたこともあった。

 

理解出来ない人間関係にパトリツィアは困惑したが。

 

やがてある程度年齢が行ったときに。

 

父に聞かされたのだった。

 

全ては、権力闘争なのだと。

 

この王都の中で、貴族達は自分の権勢を誇っている。

 

そもそも、このロテスヴァッサは、実質上この王都だけの事を指している。

 

井戸の中の蛙という言葉があったらしい。

 

井戸の中で一位を争う蛙は、海がどれほど大きいか知らない、という意味だそうだ。

 

この国の貴族達はまさにそれ。

 

良くしたもので、古代クリント王国の時代にも、それは殆ど変わらなかったそうなのである。

 

それを聞いて、パトリツィアは困惑した。

 

貴族とは、この国の王族とはなんなのだろうと。

 

父は、どうしてそんなものを続けているのだろうと。

 

困惑している中。

 

父に連れられて、外に出ることになった。

 

まだまだ未熟だが、それでも現実を見ておくべきだろうと父は言ったのだ。

 

父は恐ろしい形相の、分厚く武装した戦士達を何人もつれていた。何人どころじゃない。何十人も、だ。

 

アーベルハイム卿がいくぞ。

 

そういう声が、街の人達から上がる。

 

専用の訓練をした馬に跨がった父。

 

歩行(かち)でその側を歩きながら、話を聞かされる。

 

「パティ。 王都の側には、たくさんの魔物がいる」

 

「はい」

 

「今から我々で、それを退治する。 王都につながる街道ですら、魔物におびやかされているのが現実だ。 我々が常に退治していかなければ、あっと言う間に街道は機能しなくなる。 街道は王都の生命線だ。 それを守るための戦いだ。 今日は一戦士として扱う。 くれぐれも油断をするな」

 

「分かりました。 お父様」

 

周囲の戦士達は、パトリツィアが貴族の令嬢だと言う事を知っているのだろう。

 

今回は予備戦力扱いで、前に出ないとも話はされているそうだ。

 

やがて、城壁を出る。

 

城壁の中は、人間であふれかえっていたのに。

 

外に出ると、緑と茶色と。

 

いずれにしても、人がほとんどいなくて。見た事がないものばかりだった。

 

今日は。王都西の街道周辺の魔物の掃討作業をして。その後、少し遠出をするという。

 

それを聞いて、戦士達ははっと鋭い声を発した。

 

青ざめているパトリツィアに、きちんと歩いて着いてくるようにと、父は言うのだった。

 

それから、地獄が始まった。

 

少し進むだけで、魔物がわらわらと現れる。

 

いわゆるぷにぷに。

 

軟体の、何処にでもすむ生物。それほど大きな魔物ではないが、成長すると極めて危険な存在になる。

 

鼬。

 

水陸両用の、人間より大きな魔物。

 

群れを成すことが多く、女王個体と呼ばれる強力な個体に率いられる。彼方此方に適応する強力な種。

 

そして巨大な鳥。

 

空を飛ぶものよりも、地面を走る「走鳥」と呼ばれるものの方が多い。

 

父は馬上で指揮を執り。

 

戦士達が、魔物を数人掛かりで寄って集って切り伏せる。血の臭いに寄せられたか、魔物が集まってくる。

 

父は言う。

 

「あれらを今のうちに退治しておかなければ、街道を通る人間が襲われる」

 

「はい、お父様」

 

「だから今のうちに撃破しておく。 どれだけ凄惨でも過酷でも、見ておきなさい。 誰かがやらなければ、あっと言う間に街道は使い物にならなくなるのだ」

 

「はい、お父様。 見ておきます」

 

震えが来る。

 

目の前で飛ぶ血しぶき。

 

濃厚な血の、鉄の臭い。

 

目の前で、巨大な鳥が、戦士の一人を頭からくわえ込んだ。悲鳴を上げる兵士が、即座に丸呑みにされそうになる。

 

鳥の魔物は、文字通り獲物を丸呑みにしてしまう。

 

話は聞いていたが、恐怖で足が竦みそうだ。

 

父が突貫すると、鋭い剣撃で、鳥に一閃。

 

首の辺りから真っ二つにされた鳥が、その場に二つになって倒れ臥すのだった。

 

「すぐに助け出せ! 窒息するぞ!」

 

「はっ! アーベルハイム卿!」

 

「左翼、手をとめるな! まだ来るぞ!」

 

父が前線に出ると、戦士達の動きが俄然良くなる。

 

とにかく父が強い事は知っていたが。

 

その力は全く衰えていない。

 

それを見て、誇らしいと思う。

 

実際、家に来る貴族達は、どの人も体が弛みきっているのが明らかすぎるくらいなのである。

 

戦士として、ずっと最前線にいる父と差が出るのは、当たり前なのだとも言えた。

 

たくさんの魔物と戦闘して、夕方近くになって戻る。

 

魔物を殺しに殺し。

 

負傷した戦士達も多く出た。

 

丸呑みされかけた戦士は、うわごとをずっと呟いている。恐怖でおかしくなってしまったのかも知れない。

 

死ななかっただけマシだ。

 

戦士達がそう呟いているのを見て、パトリツィアは悲しくなった。

 

邸宅に戻ると、父はすぐに着替えて、風呂を浴びにいった。

 

パトリツィアも風呂に入りたかったが。後ろで見ていただけだ。とても申し訳なくて、そんな気にはなれなかった。

 

風呂から戻って来た父に、風呂に行くようにと言われて。始めて頷いた。

 

風呂で何度も吐いた。

 

この犠牲があって、王都が守られている。

 

貴族達は、それを恐らく知りもしない。

 

何の責任もはたさないで。王都の中の安全と金だけを独占して。それで偉いつもりになっている。

 

そのグロテスクさと来たらどうだ。

 

自分が貴族であることが。恥ずかしくすらなった。

 

嘔吐物を流して。それで何度か涙を拭って。風呂から上がると。父が話をしてくれる。

 

「現実を見たな、パティ」

 

「はい。 恐ろしい魔物に安全なんて程遠い街道。 本来は貴族達が最前線にたって、戦うべきなのだと思います」

 

「そうだな。 そう思えるなら、お前には貴族の資格がある」

 

「……」

 

父は言う。

 

この国は、変えなければならないと。

 

「この国は、古代クリント王国が謎の争乱で滅亡したときに、当時の国の主導部がなんとか生き残って再建したものだ。 それから数百年。 人の生活圏は狭まる一方。 王国第二の規模を持つ都市のサルドニカにすら、貴族も役人も赴任していない。 それは形式上王国には属しているが、実際には独立国であるのと同じだ」

 

頷く。

 

それで貴族などとは、滑稽極まりない話だ。

 

父は若い頃、彼方此方を旅して現実を見て来たという。

 

辺境の村は、今日退治してきたような魔物に脅かされ。いつ滅ぼされてもおかしくない。

 

治安なんてないに等しいから、与太者の類が跋扈して、暴の限りを尽くしている場所だって多い。

 

ドラゴンなんて出た日には、村を捨てる判断をしなければならない事もある。

 

それくらい、この世界に対して。

 

人間の力は弱いのだと。

 

古代クリント王国の時代には、もう少し人間の生存圏は広かったそうだが。それも狭くなる一方なのだと。

 

「私は武勲を建てて貴族になったが、爵位も最下級のものだ」

 

「はい」

 

それは知っている。

 

他の貴族が、「フォン」だのなんだのと、名前と家名の間に挟んでいるのを知っている。

 

あれは最下級の貴族ではない事を示す称号みたいなものだ。

 

今日の現実を見て来てしまうと、その滑稽さが悲しくなってくる。

 

「今、我々はある程度の社会的地位を得ている。 私とパティ、お前がするべきは、この閉ざされた井戸であるアスラ・アム・バートの人々の暮らしを守る事。 それには、ここで無意味な権勢を誇っている貴族達と対等にやり合えるようにならなければならない」

 

「はい」

 

「実績を積むだけでは駄目だ。 貴族達に、私達の力を認めさせなければならない。 もしも貴族達が連携した場合、私達だけではどうにもできない。 もしそうなれば、私の後釜に据えられた人間次第では、王都は魔物に蹂躙され、地獄になるだろう」

 

何度もパトリツィアは頷いていた。

 

あの丸呑みにされかけた戦士のことを思い出す。

 

戦闘訓練を受けた戦士ですらああなったのだ。

 

戦闘訓練を受けていない人だったら。ひとたまりもなく丸呑みにされて。それで。

 

考えるのもぞっとした。

 

パトリツィアは虫が苦手だ。

 

ちいさな虫が苦手なくらい、本当は気が小さいのかも知れない。

 

だけれども。

 

父が言う通り。パトリツィアは戦闘訓練を受けている。お金もある。戦士達も動かせる。

 

この地位を生かして。

 

多くの力がない人達を、守らなければならないのだ。

 

今の時点でパトリツィアは、貴族制も、今の王も、まったく尊敬していない。

 

貴族が子供達の頃からやっている醜悪な権力闘争は、間近で見ているし。

 

何よりも、こんな状態になっているのに、効果的な対策を一つもしていない王にも、頭に来る。

 

「私はこれ以降も実績を重ねて、更に足場を固めていかなければならない。 その事業は、パティ。 お前につぐ事になるだろう」

 

「はい、お父様」

 

「うむ。 人々の為だ。 貴族としての責務などでは無い。 力を持つ者としての責務を果たすべく、自覚を持ちなさい」

 

強い目的意識がその日、パトリツィアの中に生じた。

 

あの凄惨な戦いを見た後だ。

 

もう、貴族なんて。

 

蛙の群れにしか思えなかった。

 

 

 

それから時間が経過していった。

 

パトリツィアは長刃の技術を磨いた。何度か父は現役の騎士を講師に呼んでくれた。

 

どうしても体格で劣るパトリツィアは、刃のリーチを上手に生かすしかない。それは自分でも分かっていた。

 

技術だけでは無い。

 

速さと反射神経だ。

 

それを頭に何度も叩き込んだ。

 

騎士と言っても様々。騎士試験を受けたには受けたが、それだけで満足してしまっているような人間の場合。手合わせをしただけで、もう訓練は必要ないと判断する事も多くなっていた。

 

15になった頃から、パトリツィアの所には縁談が来るようになった。

 

十五で結婚するのがこの時代では普通だ。

 

だが、貴族の令息は、どいつもこいつもモヤシも同然。

 

パトリツィアの目を見て、それだけで腰が引けるような奴もいたし。

 

何より、剣もまともに握れないような奴もいた。

 

たまに武芸のたしなみがあるのが出て来たと思ったら。

 

いわゆる座敷剣法に過ぎず。

 

それもあくまで趣味。

 

外で魔物を殺してきた剣術ではないのが、一発で分かるのだった。

 

既に父と何度も魔物討伐に出て、それで魔物も斬ってきたパトリツィアだからこそに分かる。

 

こんなのは、何の役にも立たないと。

 

自分を凄いと思うつもりもない。

 

実際に父には遠く及ばないし、何より父が連れている戦士達の中には、パトリツィアよりも腕利きの戦士が幾らでもいる。

 

それらと比べて、「優秀」だとされている貴族のなんと軟弱なことか。

 

父もパトリツィアを常に戦闘につれて行く。

 

後継者にする。

 

その考えに、代わりはないようで。

 

それに、亡くなった母以外の女性に一切興味を示さない父にも、安心感を覚えるのだった。

 

そうして、何度か激しい戦闘を経験した。

 

街道近くに、かなり大きな魔物の群れが出た。しょっちゅうのことだ。街道を通る商人は、傭兵を連れて隊商を作り魔物や賊から身を守るが。

 

そんな大きめの隊商でも、被害が続出するほどの危険な相手だった。

 

すぐに討伐に出た。

 

激しい戦いの末に、魔物の首魁を仕留めた父。パトリツィアも既に前線で戦うようになっていて。

 

前線で魔物を何体も斬った。

 

屠った魔物の一部は、解体してその場で食べてしまう。

 

これが人間を襲って喰らったかも知れない、ということは考えない。

 

勿論胃袋を割いて中身を確認してから食べるようにはしている。

 

事実、何度もあったのだ。

 

胃袋を割いてみたら、人間の残骸が、ということが。

 

そういうのを何度も見て。

 

また、魔物に殺された人間の亡骸に、蛆が湧いているのを見て。

 

それで、虫が苦手になって行ったのかも知れない。

 

魔物の肉……以前目の前で戦士を丸呑みにしようとした、大型の走鳥と同種族のものを焼いて食べていると。

 

父が来たので。話を聞く事にする。

 

「今日は良く戦えていたな」

 

「お父様ほどではありません」

 

「うむ。 戦士としては、そろそろ基礎訓練は充分だろう。 そろそろ、貴族用の学園にも行って貰う」

 

「分かりました」

 

頷く。

 

咳払いすると、父は言う。

 

「そろそろ気付いているな」

 

「はい……」

 

分かっている。

 

パトリツィアは、どうも魔物に狙われやすいようなのだ。最初は子供だから、優先的に殺しに来ていると思っていた。

 

だが、十五となると、この世界ではもう子供を孕んでいる事だってある。

 

実際周囲の戦士には、パトリツィアよりも幼く見える戦士だっている。

 

そういう戦士が魔物に優先的に攻撃されるかというと、実はそうでもない。13くらいの時だったか。それに気付いたのは。

 

優先的に魔物が狙って来るなら、引きつける方が良い。そう思って、長刃のリーチを利用して、敵を牽制。

 

護りに主軸を置きながら、集団戦で敵を倒すことを主眼とした戦闘をする。

 

それがパトリツィアが出した結論だった。

 

「私が魔物に狙われやすい理由は分かりません。 ですが、それを利用して戦果を上げることが出来るのなら」

 

「うむ。 事実それで被害を減らす事が出来ている。 私が教えた事は、しっかり守れているようだな」

 

「はい」

 

そう言って貰えると嬉しい。

 

それに、だ。

 

この腐った蛙の井戸で、パトリツィアは父の事業を継ぐ。

 

それには、貴族に舐められないようにしていかなければならない。

 

そのための教養だ。

 

貴族用の学校だと、殆どの場合成績は金で買う。或いは爵位で買う。

 

貴族用の学校には、ちゃんと学問が出来る環境だってあるのに。それを貴族達は全てドブに捨てている。

 

父の話によると、古代クリント王国の破滅の時。唯一残った大きな都市がこのアスラ・アム・バートで。

 

それだけ貴重な資料や書物が保管もされているらしいのに。

 

それなのに。その貴重な資料や書物を、ただの宝物として貴族は自慢し合っているだけなのだ。

 

その腐敗を、パトリツィアは知っている。

 

だから、父の怒りは、よく分かる。

 

父も騎士から貴族にまで武勲を建てて成り上がった人物だ。そんなカエル達に、散々嘆いてきたのだろう。

 

だからこそ、そうなるなと言っている。

 

ただ、父はどうも適当な所でパトリツィアに妥協して結婚してほしいとも思っているようなのだ。

 

結婚して適当な貴族の家名を手に入れれば、動きやすくなると。

 

それだけは、意見が相容れない。

 

少なくとも、パトリツィアは。尊敬している訳でもない、好きでもない男に抱かれたくは無い。

 

だから、最近は。

 

たまに口論になることもあった。

 

甘酸っぱい恋をしたいとか思うことはない。

 

だけれども、最低限の人間としてのプライドだけは守りたいと思うのも、また本音なのだ。

 

「少し前に、パティが出ていない魔物討伐で、小遣い稼ぎに出て来ていた学生が素晴らしい活躍をしてね」

 

「学生、ですか」

 

「学生だ」

 

学生。

 

ここでいう学生というのは、アスラ・アム・バートに学びに来ている人間の事だ。

 

金で博士号やら成績やらを買う貴族と違って、純粋に学問をしに来ている人間達で。王都以外から来ている者も多い。

 

貴族は彼等彼女らを勿論人間などと思っていないが。

 

パトリツィアは、こんな街道を通って此処までこれている時点で凄いと思うし。それでも学問をしに来ているということで、尊敬もしている。

 

「今度、家庭教師を頼もうと思う。 学生として、あの腐った学校に通うのは苦痛だろう」

 

「はい、それは……」

 

貴族専門校は、実質上権力闘争の場だ。

 

教授達は完全に貴族の子弟に学問を教えることを諦めている。

 

大まじめに授業を受けているパトリツィアの後ろで、いい年をした男がどんな女がどうのこうのと、思春期の子供みたいな話をしてゲラゲラ笑っていたり。

 

戦線に出て魔物を倒しているパトリツィアを、他の女子が蛮人とか猿とか罵っているのを何度も聞いた。

 

そもそも父の事自体を、成り上がりものとして馬鹿にする連中が多くて。

 

何度か手袋を投げつけて、ぼこぼこにした事がある。もう素の格闘戦でも、実戦経験がないウドの大木に負ける事はなくなっていた。

 

頭一つ大きい男子を素手で叩きのめしてから、パトリツィアに喧嘩を売る貴族はいなくなったが。

 

その代わり、誰も話しかけて来なくなった。

 

とんだじゃじゃ馬がいるとか。

 

そんな噂を貴族達がしていると聞いて、パトリツィアは父と怒りを共有したし。

 

なにより、こういう配慮をしてくれるのはとても助かるのだった。

 

そして、あまり言いたくないことだが。

 

実の所、武術は得意でも、学問はそこまで得意ではないのである。

 

貴族のたしなみとかされているものは、幼い頃から一通り叩き込んで出来るようにはしているが。

 

そんなものは、あくまで「流行」の中で生じるサロン内でのものであって。

 

現実的に使えるものでもない。パトリツィアが興味があるのは、あくまで現実的に使える学問なのだった。それがあんまり適正がないのが悔しいのである。

 

「分かりました。 どんな方ですか」

 

「タオ=モルガンテンという名前の、長身の子だ。 穏やかで、非常に知的な印象を受けた。 それでいながら、あれは百戦錬磨の動きだ。 扱いが難しい双剣を鮮やかに使いこなしていてな。 技量は騎士……いやその中でも上位に食い込むだろう」

 

「驚きました。 それが両立するんですね」

 

「たまに何でも出来る高い潜在能力を持つ者がいる。 恐らくは、そういう人間だと見て良いだろう」

 

そうか。

 

それなら、教師として安心かも知れない。

 

食事を終えて、すぐに王都に戻る。かなり激しい戦いだったし、被害も小さくはなかったからだ。

 

帰路も何度か魔物の襲撃はあったが。

 

ここのところ、隊商を襲っていた大物は父が討ち取ったし。

 

その死骸を馬車の荷台にくくりつけて凱旋していることもある。

 

これに勝った。

 

それを見せつけているわけだから。魔物の仕掛けて来る意欲も鈍る。

 

王都に戻ると、わっと民が喚声を上げる。

 

またアーベルハイム卿が人々を脅かす魔物を討ち取ったぞ。

 

そう叫んでいる声を聞くだけで、少しは苦労が報われたと感じる。どうせ貴族達は蛮人がどうのというのだろうが。

 

王都の人々を味方につければ。

 

いずれ、王も父の……その後を継いだパトリツィアの事も、認めざるを得なくなる。

 

成り上がりだのなんだのと今のうちに言っておけば良い。

 

このちいさな井戸の中でしか、偉ぶることが出来ない蛙の群れだ。

 

自宅に戻ると、疲れを取るべく風呂に入る。父も風呂に直行したが、大きな邸宅だ。父とは別の風呂に入るだけである。

 

風呂から上がると、何とか頭を動かして、勉学をする。

 

苦手でも、出来る範囲では自分でやっていかなければならない。

 

パトリツィアは特に数学が苦手で、どうしてもこれが上手く行かない事が悔しかった。

 

家庭教師が色々教えてくれたら嬉しいな。

 

父が認める程の人だ。

 

きっと、頭もいいに違いない。

 

そう思って過ごす内に、やがてその噂の人物が現れる。

 

最初の印象は、長身だけど細くて、とても頼りにはなりそうにない、だったけれども。

 

少し剣を交えてみて、即座に理解する。

 

父に匹敵するか、或いはそれ以上の使い手だ。

 

とんでもない修羅場を潜ってきている。

 

それだけで、敬意を払うには充分すぎる位だった。

 

見かけだけ整えているような男には、パトリツィアは興味は無い。貴族の男子の中には、紅まで差しているような奴もいる。勿論それは好きにすればいいと思うが、其奴らは見かけを最優先して行動している。まず見かけからと言う考えが気にくわない。だから剣を交えて、相手の力量を測ったのだ。そしてタオという人は、パトリツィアも尊敬できると判断できた。

 

以降は、勉強を教えて貰った。

 

学問は三倍知っていないと教えられない。それは以前聞いた話だ。

 

タオという人は、三倍どころじゃない。分からない事を聞けば、即座に非常にわかりやすく教えてくれる。

 

苦手だった数学も、どう活用すれば良いのかを丁寧に教えてくれた。

 

聞いてみると、学生としては学園でもトップを独走するくらいの成績をたたき出しており。学問を真面目にしている教授達も一目置いているという。それほどの俊英である。父の目は正しかったのだ。

 

そうして、何度も講師に来て貰っている内に。

 

パトリツィアは。タオという人の事をもっと知りたいと、思うようになりはじめていた。




※ロテスヴァッサ王国について。

ライザのアトリエシリーズの舞台になる国家です。聞き覚えがないかも知れませんが、ちゃんと原作に登場する国家です。

原作ライザのアトリエをプレイしていて、この国家の名前をライザ2になるまで(下手するとそれ以降も)知らなかった人も多いかと思います。アイテム名には出てくるんですが(アイテム図鑑を見るとそういう国だという記述もある)、とにかく影が薄いですよね。既に滅びている古代クリント王国の方が何度も名前が出てくるので、印象が強いくらいです。

本作では、この国家について以下のように描写しています。

王都アスラ・アム・バートの人口はおよそ三十万。古代クリント王国がフィルフサとの全面戦闘で破綻し、錬金術師が全滅、軍も壊滅したタイミングで魔物による人間への猛攻が開始。更に内紛も重なったことで、人類は主要都市の大半を放棄。その中で生き残っていたアスラアムバートに暫定政権をたて、一応は国家としての体制を整えました。
しかしながらその実態は、城壁の内側だけが領土という一種の都市国家で、街道の警備もろくに出来ていない末期国家です。ロストテクノロジー化した古代のテクノロジーを騙し騙し使い、なんとか生き残っている状況です。

本作でこんな国家が存続しているのにはある理由があるのですが(原作で存続している理由? それは多分やさしいせかいだからですね……)、城壁で囲まれた都市国家で有事に貴重な食糧などの生産地域になる農業区を馬鹿にしている風潮(原作でもカサンドラさんのイベントなどで聞く事が出来ます)、王都近郊のしかも街道でありながら頻繁に魔物が出て物資人員の流通も普通に止まる、それでいながら軍事に力を入れていない(原作でアガーテ姉さんが騎士を止めた理由などから推察できます)、錬金術を失って以降(原作でアンペルさんの話していた百年ほど前の事件が恐らくとどめになったと思われます)テクノロジーは衰退する一方、実際に土地を領有もしていない貴族が偉そうにしている(原作ライザ3で、クーケン島に現実を認識できていない貴族が訪れたりしています)と、貴族も王族もはっきりいって無能の権化と言い切ってよろしいかと思います。

案の場原作ライザ3で登場したロテスヴァッサ王国の第二都市サルドニカでは、役人も貴族も軍隊も駐留しておらず、統治しているのは現地のギルド関係者ですからね。実質上独立国家です。てか多分、まともな軍隊そのものが存在していません……
レントがライザ2で言っていた、王都の警備は優秀という台詞。王都近辺で子供が複数失踪しているにも関わらず動いている様子もない事から、皮肉と考えて差し支えないでしょう。城壁の中、それも貴族や王族の周り限定だけは優秀に警備しているんでしょうね。

本作では、原作ライザ1~3から得られたこれらの情報を元に、ロテスヴァッサ王国に対して極めて辛辣な描写を続けて行きますが。これらは根拠なき誹謗中傷では無い事、先に列挙した原作での描写を基にしている事を一応先に言っておきます。

……歴代アトリエシリーズだと王族キャラは普通に出てくることが多かったんですが、ライザシリーズで登場しなかったのはまあ。特にオーレン族の人々相手には、土下座しても許されないからでしょうね。
こんな状態になってからも、まだオーリムへの侵略と資源の略奪を目論んでいたんですから……(この驚きの事実はライザ3でアンペルさんの発言から知る事が出来ます)

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