暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
結果、世界はどんどん貧しくなっています。
ライザはその状態を覆せる可能性を持っている、現状では唯一の存在です。
アンペルさんにもある程度は出来るでしょうが、あの人はライザに才能で及ばず、しかも門関連で当面は忙しいので……
工業区に出向く。
そもそももう少し実績を積んだら、或いはクラウディアが来たら。
駄目になりかけている王都の機械を見せてもらうつもりだった。
工業区や職人区には、そういうものがいくらでもある。
それは、三年前の時点で。
王都を知っているクラウディアに、既に聞かされていた。
あたしが歩いていると、見える。
さび付いている巨大な歯車。
何を回しているのか知らないが、明らかに耐用年数を超えて動かしている。調整も出来ていない。
古代クリント王国の時代。
あの時代のクズ錬金術師どもが、当時の王族に取り入ることが出来た理由の一つがこれである。
いわゆる神代の頃から、人間のテクノロジーは進歩出来なかった。
神代の頃に何があったのかは分からないが。
いずれにしても、古代クリント王国にまとまるまで、人間の世界は何度も破綻を繰り返し。
やがて、テクノロジーだけが奇形的に。それも、一部でだけ残った。そんなものを継承できる筈もなく、今では機械だけが残り。誰も直せないものとなって、今でも使われ続けている。
機械の残骸は、遺跡で良く見つかるらしいが。
基本的に今では、捨て置かれるのが普通だそうだ。
理由は、どうにもできないから。
部品を外して持ち帰るとかしても、そもそも機械が何をするものなのかも誰にも分からないし。
そもそも部品を交換することすら出来ない。
今、富裕層や商人が来ているスーツなども、既に作る為の機械が限界近いという話は聞いている。
これがなくなったら、一世代の内にスーツはなくなるだろうと言う事も。
他にも、ロストテクノロジーによって作られ。
だましだまし動いている機械はいくらでもある。
第二都市のサルドニカなどは更に酷い有様だそうで。
「錆の街」なんて言われているそうだ。
結果として、人間は必死にテクノロジーを復旧しようとしているが。どうにも出来ていない。
既に辺境では人間は原始的な生活に戻りつつあり。
そういった場所では、魔物の襲撃に為す術もなく。街を放棄したり。村ごと皆殺しにされたり。
そんなことが珍しくもないのだった。
フードを被った人とすれ違う。
はて。
今の人、異界オーリムの民である、オーレン族に似ていたような気がするが。
見たのはすれ違った一瞬だけだったし、何よりフードを被っていたので確認できなかった。魔力も極小に抑え込んでいたようだ。
いずれにしても、もしもまだオーレン族がいるとしたら、声を掛けておきたかった。
彼等彼女らは人間の何十倍の寿命を持ち。
例外なく手練れだ。
それに、此方の世界に来ているということは、何かしらの理由があると言う事である。
リラさんもそうだった。
もしも力になれるのなら、優先的に手を掛けたい。
「フィー?」
「なんでもない。 いこう」
「フィー!」
「いい、あたしが危ないと判断したら言うからね。 すぐに懐に隠れるようにね」
頷くフィー。
頭が良いので、しっかり言葉は理解出来ている。
だからこそ危険なのだ。
幼い頃は、どんな魔物だって愛くるしい。ましてや頭が良いとなると、成長してからどれだけ危険な存在になるか、知れたものではないのだから。
フィーはどうなのだろう。
鳥に近い骨格をしているという話だが。
ドラゴンに近いかも知れないと、タオは言っていた。
ドラゴンの幼生体とはあまり姿は似ていないが。
ドラゴンについては、人間はあまりにも知識が少なすぎるのだ。
だから、これについては。
なんとも言えなかった。
バレンツ商会で贔屓にしている店に出向く。ちなみに、此処がヴォルカーさんが紹介してくれた店でもある。
鍛冶屋としてはしゃれていて。
中にいたのは、いわゆる細めに見える筋肉質の男性だった。比較的甘いマスクだが、そんなんはどうでもいい。
紹介状を見せると。
まだ若い鍛冶師は、驚いていた。
「君があの……」
「はい?」
「いや、バレンツ商会から、三年前から急激に良いインゴットが来るようになって、それで幾つも武器を打ったんだ。 まさか君が作り主だったのか」
「ありがとうございます。 こんな所で縁があったなんて」
苦笑い。
そうか、バレンツ商会に納品していたインゴットは、王都に回り回って届いていたのか。
作った武器を見せてもらう。
これは悪くは無い出来だ。
あたしも武器には慣れている。
一つ、大きめの刃を持たせて貰う。
うん、良い感触。
幾つも武器を作ってきたから分かる。これは業物と呼べる代物だと見て良い。
「良い腕ですね」
「此方こそ。 君の作るインゴットにはいつも感心させられる。 武器に打ち直すのがおしいほどだ」
軽く話してから、本題に入る。
アーベルハイムに納入した武器を作った事があるかと。
さっと、真面目な表情になる男性デニス。
そして、声を落としていた。
「紹介状を見ると、アーベルハイム卿と今は提携しているようだね。 だったら、話しても構わないか」
「どうしたんですか、急に」
「貴族相手の仕事をする場合、基本的に華美な装飾を優先した武器や鎧を打つことが多いんだ。 だけれども、アーベルハイム卿が求めてくるのは、いわゆる人斬り包丁でね」
なるほどねえ。
ちなみに人斬り包丁というのは、見かけよりも殺傷力を優先した刃物の事である。
多分アーベルハイム卿の剣や、それにパティの長刃がそれに当たるのだろう。
「このインゴット、加工できますか」
「ふむ……これは!」
渡したのはゴルドテリオンのインゴットだ。
滅多に流通しないと聞いている。
今からこれを加工して、明日に間に合わせるのは厳しいか。そう思ったが、すぐに加工すると言い出すデニスさん。
でも、徹夜にならないか。
デニスさんの所に来たのは、機械関係の技術復興について、調べるためだ。
王都にある全ての機械を修復するつもりは無い。
例えばスーツなんかを作る機械は修復しようと思っている。そんなもん、パーツを見ればどうにでもなる。
古代クリント王国のカス錬金術師どもにも出来たのだ。
あたしなら出来るという自負がある。
今の、頭が鈍っている状態でもだ。
ただ、あたしがいなくなった後はどうなるか。
これは死んだ後、という意味ではない。
王都を離れた後、すぐに部品が作れないようになっては意味がないのだ。
今、一応王都の職人の間では、ロストテクノロジー解析の動きがあって。技術力のコンテストが開かれているらしい。
デニスさんはその中でも毎回良い成績に食い込んでいる腕利きらしく。
バレンツ商会でも取引をしているし。
ヴォルカーさんが、自身やパティのために人斬り包丁を注文しているという訳だ。
そういう人と、コネを作れれば良い。
そう思っていたのだが。意外と、いい所までやれるかも知れない。
「何に加工するんだい」
「以前、パトリツィア=アーベルハイム令嬢の長刃を打ちませんでしたか」
「ああ、打ったよ。 あれは大太刀という、東方に伝わる「カタナ」と呼ばれる武器の一種でね。 何重にも折り返して、それで作りあげる芸術的な刃なんだ。 それでいて切れ味も両立しているのだから、まさに芸術と強さを共存させている武器だよ」
「あー、それは分かりました。 明日の朝までに、打てますか?」
目の色を変えていたデニスさんは、打てると言う。
料金はそこそこに要求されたが、まあこれは出世払いだ。
気前よく払う。
三年で貯めていたお金がどんどこすっ飛んでいくが。
これはもう、仕方がない出費だ。
それに、カフェでお薬などを納品すると、とんでもない稼ぎになる。
今の時点で、資金が尽きる恐れはない。
金は使えるときにはばーんと使うべきだ。
「分かった。 最優先で打つよ。 というか、こんな凄いインゴットに触れるなんて、夢みたいだ。 料金は必要だから貰うけれど、ただでやりたいくらいだよ」
「実は今、これを越えるインゴットを模索しています」
「えっ……!?」
「ただ材料が手に入らなくて。 紹介を受けていることもあって、技術力を見せてもらうという事もあります。 明日の朝、結果を見せてくださいね」
まるで子供みたいに目を輝かせるデニスさん。うんうんと頷く。
そして、早速諸肌を脱ぐと、遮光グラスをつけて、インゴットを打ち始めた。
凄まじい集中力で、あっと言う間に仕事モードに入り。
周囲が一切見えなくなる。
防犯とか、大丈夫なのかこの店。
そう思って、呆れながら一度店を出た。
もうあれは、何も聞こえていないと見た。
タオと同じ人種だ。
タオも本に没頭していると、ああいう状態になる。そうなると、元に戻すのに随分と苦労したっけ。
ちょっと無理を頼んでしまったが、それでも投資してみる意味はある。
それに駄目だったとしても、早めに見切りをつけられる。
そういう意味で、行動した意味はあると言えた。
さて、明日まで、やるべき事はやっておこう。
まずはアトリエに戻る。
「フィー、もういいよ」
「フィー!」
「さて、デニスさん。 腕が確かだといいんだけど」
「フィー! フィー!」
きっと大丈夫。
フィーは、そう言っているようだった。
(続)
正式に調査に参加することが決まったパティ。
ライザは後進となる人材に対しても、しっかり装備を手配して行動に望みます。
幾つもの思惑が交錯する王都での調査。
始まったばかりですが、それは少しずつライザのスランプにひびを入れていきます。
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