暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
ただしその幸先は、決して良いものではありません。
王都周辺の遺跡は、ロテスヴァッサの力が如何に弱いものかを示すように、荒れ果て魔物の巣窟となっているのです。
序、パティ合流する
朝。アトリエに皆で集まる。
あたしは既に出かけて戻って来た後。最初にアトリエに来たのは、パティだった。既に外に行くための格好をしているが。ちょっとそれだけでは足りない。
まずはアトリエにパティと一緒に入り。
パティのために用意した装備を並べる。
その中には、今朝受け取ってきた。デニスさんが打ったばかりの大太刀もあった。
「こ、これは……」
「パティのために用意した装備類」
「そ、そんな! 悪いです!」
「何を言ってるの。 あたしやタオの為でもあるの」
そういうと、パティははっとなる。
パティのためだけじゃあない。
これから三人で遺跡探索に出向く。
パティを出来るだけ支援はする。人材育成という意味もあるからだ。だが、それだけでは追いつかなくなる事だって出てくる。
だから、強化を掛ける。
そのための投資だ。
まずは靴の大きさを合わせる。調整出来るように作ってあるが、すぐに靴をはき直してもらう。
パティは人前で靴を脱ぐのが少し恥ずかしいようだったが、すぐに履き替える。それにしてもちっさくて可愛い足だな。ただ、しっかり歩いて鍛えているのも分かる足だ。体が小さいのは、多分体質的なものだろう。
そう思いながら、調整。
一応、それなりに外を歩き慣れてはいるようだ。
ヴォルカーさんと、魔物を退治して歩いて回ったから、なのだろう。
「歩いて見て。 違和感はないね」
「は、はい。 それどころか、体が綿みたいに軽くて……なんなんですか、この靴」
「簡単に言うと、履くだけで身体強化の魔術が掛かるようになってる。 後は体力の自動回復も」
「そんな、信じられません……」
驚くパティ。
更に手袋もつけて貰う。
手袋は指ぬきのにした。この方が、繊細な武技を繰り出しやすいからである。
ただし、その分重点的に魔術的な防御を手に掛けるようにもした。
元々刃に鍔があるのは、それだけ武器を持つ手を狙われることが多いからである。対人戦でもそうだし。
魔物も、それを狙って来る奴がいる。
手袋も調整して、手にフィットするようにする。
この間狩ってきた大羊の毛から作ったモフコットを材料にしている。更に裏地にも工夫を凝らしており。
これにも自動回復の機能と、更には体温調節の熱魔術が発動するようにしてある。
「す、凄い……」
「もっと凄い装備も作れるけれど、残念だけれど材料がないんだ。 今後もっと良い材料が手に入り次第、渡すね」
「こんなもの、アーベルハイムの資産でも払えるかどうか。 国宝になるような品ですよ多分」
「だとしたら、それは国宝が凄いんじゃなくて、ロテスヴァッサが大した事がないんだよ」
そして、大太刀といったか。
東方ではカタナと呼ばれるらしい武器を触って貰う。
パティは生唾を飲み込むと、大太刀を手に取り。鞘から抜いた。
ゴルドテリオンは金色が目立つインゴットだが。
それでも、これは全部が金になっている訳ではない。
一緒に渡したクリミネアのインゴットも含めた合金として作ってあり、切れ味と強度を両立させている。
パティは目を細めて刃をじっと見つめて。
そして、何度か角度を変えてみていた。
素振りを何度かする。
口元に笑みが浮かんでいる。
凄い武器を手にすれば。
専業戦士はああなる。
アガーテ姉さんが、同じように。あたしが打った剣を持ったとき、なっているのを見た事がある。
そういうものなのだ。
たまに剣の魅力に取り憑かれて、人斬りになる人がいるらしいが。
まあこの感情の延長線にあるものに取り憑かれてしまったのだろう。
「素晴らしい……」
「その刃を何に使うかは分かってるよね」
「は、はい!」
「それじゃ預けるよ。 後で買い取って」
こくこくと頷くパティ。
これで、一応の戦力は整ったか。
タオとボオスが来る。
タオにぺこりと頭を下げるパティ。今までの靴と手袋、それに大太刀は机の上に置いている。
それで、タオも状況を悟ったようだった。
「じゃ、会議。 タオ、現地までの行動計画よろしく」
「分かった。 でも、パティ。 先に言っておくけれど、これから向かう先は本当に危険なんだ。 君が決めたことだから反対はしないけれど、時には僕達で君を守れないかも知れない。 それは理解して」
「はい、ありがとうございます。 足を引っ張らないように頑張ります」
「やれやれ、後輩に追い越されそうだな」
若干悔しそうなボオス。
ボオスも忙しすぎなければ誘うのだけれども。
そもそもボオスは、此処でやる事が多すぎる。
どっちにしても、少なくともこの遺跡の探索に連れて行く訳にはいかなかっただろう。
まず順番に、話をしていく。
東の街道に出た後、殆ど獣道同然の狭い道に入る。
この辺りは魔物が普通に出て、人が襲われる危険な場所だ。殺人事件なんかが起きた場合、死体をこの辺りに放置して行くケースも多いらしい。魔物が片付けてしまうので、それで都合が良いのだ。
其処を北に抜けると、いきなり森が途切れる。
其処にあるのは殺風景な渓谷で、殆ど道らしい道もない。此処を更に抜けていくと、やがて目標の遺跡に辿りつく。
途中にはワイバーンが出る事もあり、王都の警備は絶対に近寄らないように民に指示を出しているそうだ。
まあ、それも当然だろう。
こんな所、警備の戦士達程度では、入っては生きて帰れない。
そんな程度の実力しかないのだから。
いずれにしても、パティにはまだまだ見習いとして、支援を中心としてもらう。ただ元々前衛で戦うタイプではないタオを最前線に立たせるのも不安だ。
そういうわけで、しばらくは壁役をあたしとパティでやるしかないだろう。
そうすれば、タオは以前と同じように。
奇襲を中心とした戦術でいけるはず。
これでレントがいてくれれば、かなり話が違うのだけれども。
まあ、そう上手くは行かないだろう。
まあパティは見た所、バリバリの前衛だ。
技術が上がれば、前衛で戦える筈。
それを考えれば、最初の苦労は必要な投資だと判断して割切るしか無い。
それと、まだパティにはフィルフサ関連の話はしない。
当たり前の話だ。
最後までしないかもしれない。
いずれにしても、王都近辺を調査して。
それからになるだろう。
それに、あたしは魔術師だ。
錬金術師であると同時に、熱魔術についてはキレが落ちていない。
そうなってくると、あの最初に足を踏み入れた森の遺跡で覚えた嫌な予感は、多分勘違いではない。
周囲は、徹底的に調べるべきだった。
「ボオス、というわけで最悪の場合はバレンツ商会に連絡をしておいて。 クラウディアやレント、それにアンペルさんとリラさんにも連絡が行くように事前に処置はしてあるから」
「それはいいんだが、アンペル師とリラさんは来てくれるのか?」
「なんとも。 今も連絡は試みているんだけれどね……」
頭を掻く。
それにバレンツ商会には、優れた戦士がいないか調べて貰っているのだが。
上がってくる面子の殆どが、例のメイドの一族の人だ。
中には男性戦士もいるが、例のメイドの一族の一親等。つまり子供だったりする。
確かに凄腕なのは分かる。
クラウディアと一緒にいたフロディアさんの人間離れした動きはあたしも間近で見ているし。
だが、どうにも信用できないのだ。
これも勘だが。
だが魔術師の勘は、適当な直感とは意味が違うのである。
「最悪の場合は二次遭難を避けるようにして。 無理に捜索を出しては駄目だよ」
「ああ、分かってる。 お前らが不覚を取るような相手を、俺がどうにか出来る訳もないからな」
「あ、あの」
「なんだ」
ボオスは相変わらず横柄だ。パティにもだ。
前は誰も呼び捨てにしていたが。最近は流石にそれはなくなっている。ただそれでも、やはり誰にでも横柄なようだった。
パティもちょっとむっとしたようだったが。
それはそれとして、咳払いする。
「スケジュールについては、一応私も家に提出はしています。 アーベルハイムがいざという時は動くようにはしておきました」
「そうか、それは用意周到なことだな。 だがはっきりいうが、此奴らはドラゴンキラーだ。 アーベルハイムの総力を挙げても、此奴らが不覚を取るような相手には多分勝てない」
「それは、分かってはいます。 それでも、何かしら手を打てるかもしれませんので」
パティをなだめるタオ。
あたしは咳払い。
フィーが、ボオスの頭の上で、抗議するような声を上げるので。
ボオスはげんなりしたようだった。
「分かった分かった、そうだな。 その時は連携して動こう。 俺の方からも、バレンツ商会に連絡を入れる」
「分かりました、お願いします」
「全く、三年でまるで溝がうまらん。 腕は上げているつもりなんだがな、どんだけあの一季節で強くなりやがったんだよ」
本当は。ボオスも来たいんだな。
そう思いながらも、それでも力不足を自覚しているから、足手まといを避けようとしている。
その考えは立派だ。
だから、あたしはそれについて、何か言うつもりはなかった。
とりあえず、タオとあたしとパティで出る。
荷車を引いて街道まで出るが。パティは荷車の構造にも感心していた。
「これ、金属を使って強度を上げて、車軸に振動を減らす工夫までしているんですか」
「うん、そうだよ」
「信じられません。 クーケン島という場所には、これほどに腕が良い職人……いえ、錬金術でこれも?」
「そうだよ。 錬金術を始めて最初に思ったのは、素材を背負うのだとどうしても動きが悪くなるし、何よりも多くを持ち帰れないって事だからね。 鉱石をたくさん見つけたりしても、運ぶにはどうしても無理がある。 だから、こういうのを作ったんだ」
何重も底を作って補強し、素材も荷車も傷めないようにしていること。
滑らかに車軸を回して車輪が動くこと。
それらにも、パティは感心していた。
「王都の職人も、馬車なんかは丁寧に作っているんでしょ?」
「はい、ただこれほどの荷車を作るとなると、やっぱり家が建ちますね……」
「そっか。 王都の物価、やっぱりおかしいわ」
「はい……」
パティもそれは分かっては来たのだろう。
昨日タオに聞いたのだが、パティは外での物価などについて、数学の勉強の合間に聞いてくると言う。
そうして話をすると、あまりの王都の物価に驚いたそうだ。
一応知識としては知っていたそうだが。
それにしても、あまりにもいびつである事にも。
第二都市であるサルドニカでも、此処までの物価ではないそうで。
いずれこのまま行くと、ロテスヴァッサという国家は早々に崩壊してしまう。
そういう危惧を抱いたようだった。
まあ、そういうまっとうな危惧を抱いてくれるならいい。
いずれパティはロテスヴァッサの上層になる人間だ。
クズだらけの貴族の中で、黒く染まってしまうか。
それとも、無能貴族を全部掣肘していくか。
それは今のうちの成長に掛かっているだろう。
だからヴォルカーさんも注意深くパティの人間関係を選んでいるのだろうし。
周囲に神経質になっているのだ。
大通りを行く途中で、無駄に飾り立てた馬車を見る。
多分貴族のものだろう。
荷車はあたしが引いているので、面倒だし避ける。
馬車から顔を出したのは、いかにもな女だ。
化粧で誤魔化しているが、別に美人でもなんでもない。
貴族は全部美形だとか考えている者もいるらしいが。
そんなものは大嘘だと分かる。
なんか滑稽に飾り立てた髪の毛もドレスも、どっちもあたしからすればおかしなだけだった。
特にドレスなんかは、ロストテクノロジーの機械で作っているのが丸わかりである。
つまり、全てが砂上の楼閣と言う事だ。
「あらパトリツィア様。 下男下女を連れて野蛮な行脚に出られるのかしら」
「口を慎んでくださいセドリック様。 このお二方は、アーベルハイムに協力してくれている腕利きの中の腕利き。 特に女性の方は、ここ三年で王都に流通している金属と布、ゼッテルを全て席巻したほどの重要人物です」
「そんな方が外に行脚に? 野蛮人の考えは分かりませんわ」
「そうですか。 それならば一生分からないままでいなさい。 街道の安全が確保できなければ、貴方の家などあっと言う間に干上がってしまうことを理解出来ていないのなら、爵位を継ぐのは十年早いでしょう」
ばちんとパティと女の間に火花が散り。
鼻を鳴らした女は、馬車を行かせた。
ボオスがいたら、なんだあの女はとか、厳しい発言をしていたかも知れない。
いずれにしてもあの女。武力ではパティに勝てない事を理解していたから、激しい言葉のやりとりを切り上げたのだ。
つまり、逃げた。
あたしにはそれが分かったから、逆に油断すべきではないとも思った。ああいうのが動くとしたら、搦め手からだ。
「失礼しました。 あれはセボン伯爵家の令嬢です。 歪んだ貴族意識を鼻に掛けていて、警備の戦士を蛮人と呼んでいる恥ずべき人間です」
「あんなのを相手にしなければいけないのは大変だね」
「大丈夫、これも仕事ですから」
「パティ、あまり無理をしたら駄目だよ」
タオはどこまでも優しいな。
だからパティは心が動くのだろうが。
世の中には、優しい人間につけ込むことしか考えない輩もいるらしいが。
パティは違うと言う事だ。
それはとてもいいことなのだと思う。
さっきのアホ令嬢といい、まともな人間が貴族にはほぼいないだろう事も王都の有様を見ていれば良く分かる。
これは、百年だか前と変わっていないか。
もっと悪くなっているんだろうな。
アンペルさんがここにいた時代。
此処では古代クリント王国の錬金術師と大差ない連中が、陰湿な権力闘争に明け暮れていた。
それどころか、連中も門を開け。
オーリムへの侵略を目論んでいたらしい。
それを思うと、あたしはやるせなくなってくる。
こんな所でも、たくさんの。十五万だったか三十万だか。それに達する人が住んでいるのだ。
それらの中のごくごく一部。
貴族だの、世襲で財産を引き継いでいるだけの無能金持ちだの。
それらのせいで、ここに住んでいる全員の印象が悪くなるのは、とても寂しいことだと思うからだ。
門を出るときに、警備の戦士に挨拶する。
顔が同じなのであまり区別できているか自信がないのだが。多分この辺りの警備隊長らしいカーティアという人だろう。
例のメイド一族の人であろう人が、挨拶に出てくれた。
一応あたし達は、パティの付き添いという形で出て来ている。
勿論あたしも、パティを守りきるつもりで、装備を渡している。
「パトリツィア様。 我々は同行しなくても大丈夫でしょうか」
「貴方なら、このお二方の実力を理解出来るかと思いますが」
「そうですね、失礼いたしました。 それでも世の中に絶対はありません。 くれぐれも気をつけてくださいませ」
「はい、ありがとうございます。 街道の警備で何かあったら、即座にアーベルハイムに知らせてください」
丁寧に胸に手を当てて礼をするパティ。
戦士達も、まだ年若いパティに敬意を払っているのが分かる。
パティは此処にいる戦士達とそこまで技量だって変わらないはずだ。
それでこう敬意を払われているというのは。
要するに、それだけ未来が有望で。
更には、貴族としては異例の行動をしている。
きちんと前線に立って指揮を執っている。前線の戦士達にも敬意を払って対応する。
それらに対して、戦士達も立派だと考えているからなのだろう。
街道に出る。
日が昇り始めている。
あの不愉快な貴族のことを、もうあたしは忘れて。
これから行く道のことを、考え始めていた。
肩慣らしに魔物を蹴散らして行きたい所だが。
それもまた、魔物の機嫌次第だ。
そう思った。
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