暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
なるほどねえ。
あたしはそう、街道から外れて、獣道を歩きながら思った。
確かにこれはおかしい。
タオから聞かされていたが、王都周辺は彼方此方が異常なのだ。
今、獣道を抜けて森に入ったが。
そこの森からも、既に見えている。
北部には、それこそ陽炎が出来るような砂漠がある。それも砂だけのではなくて、いわゆる岩石砂漠だ。
つまり現在進行形で砂漠になっている場所、ということだろう。
「へえ、話通りだね」
「渓谷の辺りまでいくと、影響はもろに出ているんだ。 水はあるんだけれど、植物が生えないんだよ」
「土壌の問題?」
「なんとも。 ただ、この辺りの調査記録は一通り目を通したんだけれども、どうも大地の魔力がおかしい様子だね」
昔の錬金術師が何か悪さした結果じゃないだろうな。
もしもそうだったら、王都はその犠牲によってなり立っていたりして。
そんな結果が出たら、あたしはちょっとあの王都に灸を据えたくなるが。
今は我慢だ。
咳払いして、進む。
フィーは周囲をせわしなく見回していた。
まあそれもそうか。
魔物の気配だらけだ。
森を抜けると、ぶわっと砂を含んだ風が吹き付けてくる。
あたしは魔力を少し強めに放出して、砂を防ぐ。これだけで、かなり歩きやすくなる。あたしの魔力が視認できるほどの強さになったのを見て、パティが絶句。
「器用な事をなさいますね」
「王都の魔術師はできないの? あたしの島には、コレが出来る人何人もいたよ」
「ええ……」
「本当だよ。 辺境の方が魔術師には優れた人が多いんだろうね。 でも、それは多分厳しい環境で生存バイアスが掛かっているからだよ」
いちいちフォローを入れるタオ。
ともかく、あたしも別にマウントを取るつもりはない。
小高い所に出たので、周囲を確認。
東。王都から北東に当たる方向は、湖がある。しかも緑はとても豊か。
いや、豊かどころじゃない。
一部は密林になっているほどだ。
それに対して、北の渓谷は。
あれ。
こっちに水源があるようだ。
水源からそれなりに大きな川が流れていて、その支流が幾つかに別れている。渓谷も、支流が通っている。
だが、北側は、本当に乾いた土地になっている。
植物が全滅状態。
たまに乾燥に対応できる一部の植物だけが、点々と生えているだけ。そんな感じのようである。
それは火山とかがあるなら、こういう地形になる事もあたしには理解出来るが。
此処は違う。
北部と北東部で、殆ど距離も無いのにあまりにも環境が違いすぎる。
目を細めて、あたしは考え込む。
これは。明らかに妙だ。
「タオ、自分の目で見るのは大事だね。 確信できたけど、ここ何か異常があるよ」
「うん、それは僕も思う。 この辺りまで遠征に来たのは二度目なんだけど、それでも何度見てもおかしいと思うね」
「タオさんのような専門家でなくても分かるんですね」
「あたしもそれなりの距離は走り回っているからね。 いつもクーケン島に閉じこもっていたわけじゃなくて、彼方此方の集落を救援するために出かけたりしていたんだよ」
そうやって彼方此方回っていて理解出来たのは。
ここまで不自然な環境はまずない、ということだ。
水が流れれば林が出来る。
それだけ植物は強いのである。
乾燥地帯の砂漠に見えても、雨期になれば一気に周囲が緑豊かになったりもする。
それなのに此処は。
明らかに水が不足していないのにこの有様だ。
「フィー?」
「なんでもないよ。 いこう」
フィーが不安そうに声を上げたので、一応安心させるために声を掛けておく。
そのまま移動して行く。
今回の目標は北部だが。
此処から東に見える密林地帯、あれもちょっと気になる。
なんだかもやが掛かっているようなのである。
そのもやが、自然に生じたものとは思えないのだ。
無言で北に進む。
風が渓谷に沿って吹き込んできているが。結構な向かい風だ。そう思うと、風向きがいきなり逆になったりする。
まるでなにかばかでかい生物が呼吸でもしているかのようである。
「パティ」
「!」
周囲から、魔物だ。
此方をずっと伺ってきたが。自分達に地の利のある場所に来たと判断したのだろう。
水場だと。クーケン島の近くでは鼬と相場が決まっていたが。
今周囲を囲んできているのはラプトルだ。
それもかなり大きいものが目立つ。
数もそれなりに多い。
これは、この辺りで警備の戦士が進めなくなるのも分かる。というか、今までに警備の戦士を撃退して、悪い意味での成功体験を積んでしまっているのだろう。
まあ、仕置きしないといけないか。
フィーは懐に隠す。
同時に、ラプトルの一体が、鋭く空に向けてなき。
一斉に襲いかかってくる。
あたしが詠唱開始するのを見て、タオが突貫。
敵の先頭の個体の頭を、完璧に断ち割る。
ギャッと悲鳴を上げるラプトル。
乱戦が始まるが、タオが双剣を振るい、体術で攻撃をかわし、綺麗に相手の攻撃を捌き続けている。
何を見ても怖れていたタオと同一人物とは思えない程鍛えこんだなあ。
そう思って、あたしは感心する。
パティはあたしが渡したばかりの長刃を振るっているが、切れ味がありすぎるようで、首を一発で刎ね飛ばし。唖然としたところを別のラプトルにタックルを受ける。
だがそれでも受け身を取ってずり下がり、尻餅をつくような事はない。
だが、一斉に襲いかかってくるラプトルを、明らかに持て余している。
あたしは、詠唱を終えていた。
上空に多数出現する熱槍。
「焼き尽くせ」
そのまま、あたしは。
熱槍を敵に降らせていた。
一発それぞれが、石造家屋を粉砕する火力だ。それをおよそ400。200でも充分だったが、念の為。
まあ詠唱はパティの身を守るために短縮したが、それでもこの群れを掃討するには充分である。
熱槍がラプトルの体に、一斉に突き刺さり。
次の瞬間には火だるまにしていた。
殆ど瞬時に全滅したラプトルの中で、一体だけ今の斉射をかわした奴がいた。
部下を鳴き声でけしかけた個体だ。
あたしは前に出る。
燃え尽き、炭クズになっていくラプトルの死骸の中で。あたしとそいつは、数歩の距離を取って対峙していた。
仕掛けて来る。
いきなりサイドステップしたラプトル。
残像が出来る程の速さだ。
そして真横から、鋭いかぎ爪のついた足で蹴り掛かってくる。
ラプトルの本命は、このかぎ爪のついた足による蹴り技。
これをまともに喰らうと、分厚いヨロイをまともに貫通される。
勿論顎の力だって強く、噛みつかれると腕ぐらいは骨ごとかみ砕かれてしまうが。ラプトルのかぎ爪の危険度はその比では無い。
昔の話で聞いたが。
どこかの街にあった分厚い城門に、穴を開けたラプトルがいたらしい。
勿論このかぎ爪での一撃でだ。
このラプトル、あたしを先に仕留めて、それでタオとパティを各個撃破するつもりなのだろう。
部下を失っても、痛痒を感じていないと言う事は。
或いは別のラプトルを集めて、群れを造れば良いと考えていると言う事か。
まあいい。
すっと、あたしは最小限の動きで、振り下ろされたかぎ爪を回避。
そのまま流れるように噛みついてくるラプトルだが。
それも、足捌きを利用して、さっとかわし。
避けようとした所で。
あたしは踏み込みつつ、相手の横腹に蹴りを叩き込んでいた。
あたしの本命も蹴り技だ。
奇しくも、ラプトルと同じである。
直撃した蹴りが、文字通りラプトルの横腹に突き刺さり。衝撃波が体の逆側に貫通する。
ぼっと音がして。
そして、ラプトルが白目を剥いて、蹈鞴を踏んでさがり。
それでもまだ立つ。
口からだらだら血を流しつつも、鋭い叫びを上げた。何かの詠唱か。或いは高速回復かも知れない。
だが、タオが動いていた。
そのまま頭上から、脳天に剣を突き立てる。
完璧なタイミングでの奇襲。
やっぱりタオと言えばこれか。
そのまま、動きを止めたラプトルが倒れ臥す。周囲の魔物が、さっと散るのが分かった。
炭クズになったラプトルの死体はそのまま燃やしてしまう。
ラプトルの群れの長は吊して捌く。内臓は、案の定あたしの蹴りで全て破裂してしまっていた。
それでも戦おうと考えたか。
ラプトルは種族の性格的に、勝てない相手と戦わない。
それでも詠唱して切り札を切ろうとしていたという事は。何かしらの逆転の手札があったのかも知れなかった。
内臓をてきぱきと切り分け。
皮を剥いで、即座に干す。
タオがパティにやり方を指導して。パティもあわててそれにならう。
虫は駄目でも、こういった作業はどんどん出来るようにならないとまずいと思っているのだろう。
肉は切り分けて、即座に燻製にする。
あたしはその間に、焼き尽くしたラプトルのしがいを蹴り砕いて。完全に粉みじんにしてから、土に埋めていた。
荷車に使えそうな部位を詰め込んでから、残りは焼き尽くして、同じように処置をしておく。
肉を少し食べておく。
パティは抵抗があるようだったが、食べて貰う。
きちんと処置をした肉だ。
ただラプトルのは、正直あまり美味しくはないのだが。
案の定、渋い顔をしたパティ。
「おいしくないでしょ、この肉」
「はい、でも今動いた分くらいは補給しておかないと」
「そういうこと」
戦利品として一番のものは、このかぎ爪だろう。
数多の敵の血を啜ってきた、非常に鋭いものだ。
そのまま武器にして使うのではなく。
このかぎ爪に含まれている魔力や要素を、錬金術で分解して、そして使っていくことになる。
強力な皮を作れるかも知れない。
皮製の防具は金属製に比べて強度に劣るように思われがちだが。これくらい強い魔物の皮を加工したものだと、実はそうでもない。
金属製に比べて柔軟だという強みもあり。
部位によっては金属よりも有効なものもある。
パティは見た所、服にエンチャントして防御力を上げているようだが。
そうなると、魔力を底上げすると、更に防御を上げられるだろう。
パティに渡す装飾品は、魔力強化が良いか。
そんな風に考えながら、積み込みを終える。幾つか、大きめの牙もとっておいた。これらも使えそうだった。
「今の魔物、賞金とか掛かってる奴じゃなかったの?」
「いえ、ちょっと私には分かりません」
「そっか。 頭はまるごと持っていくべきだったかな」
「……」
呆れた様子のパティ。
まあ、荷物が増えるから今はいいか。
それに、特徴的な頭の羽根飾りを回収しておいた。
「これがあるから良いとしよう。 先に行くよ」
「フィー」
「ああ、怖かったね。 大丈夫。 怖い魔物は、全部焼き払ったからね」
「フィー……」
懐から出て来たフィーが悲しそうに下を見る。
何だろう。
そういえば、フィーは殆ど水しかのまない。
種族的に、殺生とは無縁そのものなのか。
そうかも知れない。
だとしたら、今のような荒事は、とても怖いことに見えるのかもしれなかった。
峡谷に入る。最初は下を通る事を想定していたのだが。
想像以上に川の流れが速い。
峡谷そのものは、初経験じゃない。
塔に行く途中に、こういう渓谷を通って。
何万もの戦士が死んだ戦場を通った。
あの時の事は、噴き上がるような怒りとともによく覚えている。無能で愚かな古代クリント王国の錬金術師のせいで。
どれだけの人間が、彼処で命を散らしたことか。
此処は、違うようだ。
大きめの石が転がっている。
パティには、気を付けてと時々声を掛けた。
石が大きいので。下手な踏み方をすると足を挫くからだ。
なお、靴裏はがっつり金属で固めてあるので。
靴裏を石が貫くようなことはない。
しばらく渓谷を進んで、それでタオと話をする。
そろそろ、陽が直上に来る頃だ。
「さて、此処までのルート、マッピングはしてくれた?」
「勿論。 まずはこの渓谷を抜けるところまで、今日は進もう。 その後は戻る事にしたいけど……」
「新手か」
「!」
パティが剣に手を掛ける。
あたしもタオも立ち上がって、崖を背中にした。
川から上がってくるのは、大きなトカゲのような生物だ。ちょっとあたしは、見た事がない。
サメとは違う。
それが、複数。合計八体。川から上がって来た。
「ライザ、追い払えそう?」
「無理だね。 ブッ殺すしかないかな」
「あれはワニです」
ワニ、か。
名前しか聞いたことがない。あたしがいた辺りでは、少なくとも生息していなかった生き物だ。
確か川を専門に生活している生物で、待ち伏せ型の狩りをするらしい。迂闊に水に近付いた生物を、水中から奇襲するとか。
だが魔物がわんさかいる今の時代。
そんな悠長な生活スタイルでは、生きていけないのである。
このワニも魔物には分類されるのだろうが。
どうみても、陸上でも平気で移動出来るサメや。
群れを作って敵を嬲るラプトルなんかと比べると、動きが明らかに鈍そうである。
だが、予想外の展開になる。
ワニの群れは、あたし達を無視。横切るようにして、すたすたと歩いて行く。別に襲ってこないならどうでもいい。
それよりも、この気配は。
川の中から飛び出してくるのは、あたしも知っているサメだ。
四肢を得て、陸上でも活動できるようになったらしい巨大魚。
古い時代は此奴は水中でしか動けなかったらしいが。
今は違うと言う事だ。
ワニは恐らく此奴に追われていて。
しかも此奴のターゲットが此方になったので、巻き込まれないように逃げ出したという事か。
まあいい。
このサイズのサメだったら、どうにでもなる。
「タオ、行くよ」
「うん。 パティ、正面には回らないで」
「こ、これと戦うつもりですか!?」
まあ、臆するのも当然か。
このサメ、あたしの歩幅で十歩くらいはある。
このサイズのサメとなると、大きすぎて初めて見た人間ではそれこそ恐怖に竦んでしまうだろう。
そしてそのままばくりと食われておしまいだ。
実の所、水中にいるサメは、殆どの種類は人間には興味を示さないらしい。漁師の白髭老から聞いた話だから、まず間違いない。
こいつをはじめとする、陸上に進出する事が出来る様になったサメは違う。
例外なく人間を襲う。
他の魔物と、それは同じだ。
凄まじい勢いで飛びかかってくるサメ。
狙いはパティか。
詠唱を切り上げて、熱槍を目に叩き込んでやる。
凄まじい勢いでサメが跳ね跳び、それだけで実戦経験もあるパティが怯む。それはそうだろう。
何しろ巨体である。跳ね飛ぶだけで、凄まじい迫力だ。
タオがサメの側面に回り込むと、走りながら体を切り裂く。
勿論跳ねるのを計算してだ。
サメの注意があたしに向き。
そのまま、踏ん張りつつタックルを入れてくる。
あたしはバックステップしつつ。それでも避けきれないと判断すると。サメの体を蹴って更に後方に飛ぶ。
一回転して、河原の石を蹴散らしつつ着地。
サメは今度は、体を旋回させてタオを追い払おうとするが。
タオは直上に跳躍。
サメの尾びれが、うなりを上げてパティを襲う。
あたしは即座にフォロー。
跳躍しつつ、熱槍を三つ、連続して尾びれに叩き込み。逃げる隙を作る。
ここで反撃に出るようだったら一人前なんだが。
まあ、今は戦闘を生き延びて、経験を積むのが先だ。
悲鳴を上げたり、その場で伸びたりしていないだけ全然マシ。
着地すると同時に、あたしは詠唱を開始。サメが即座にこっちを向き、圧縮した水を叩き込んでくる。
地面を抉り抜く火力だが。
あたしはそれを読んでいた。
サイドステップして攻撃をかわした時には、連携して動いていたタオが。地面に逆落としを掛けつつ、サメの目を抉る。
悲鳴を上げて、滅茶苦茶に暴れるサメ。
あたしは詠唱を再開。
そして十五本の熱槍を圧縮した刃を出現させていた。
そのまま投擲。
サメの皮はかなり分厚かったが、それでも貫通するのには充分だった。
エラからエラに向けて熱槍が貫き。
悲鳴を上げ得るサメが、断末魔のあがきを見せようとする。収束していく魔力。最後の一撃か。
受けて立とう。
あたしは走りながら、突貫。
それを見て、タオがパティに声を掛けて、ともに跳びさがる。
「フィー!」
「危ないから、懐に隠れててよ!」
「フィー、フィー!」
怯えを含んだフィーの声。
あたしはそのまま跳躍すると、こっちを向くサメと相対する。
あたしの手には、今のと同じ熱槍。
サメの口にも、魔力が収束していた。
サメが水ブレスではない魔力砲をぶっ放す。それに対して、あたしは熱槍を振るって、その魔力砲を弾き返す。
川に着弾した魔力砲が、大爆発を引き起こし。
周囲に熱い雨が降り注ぐ中。
あたしは、熱槍を。
サメの口の中に、真正面から叩き込んでいた。
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