暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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第二の遺跡への途上で、パティは人生で初経験となるような苛烈な戦闘を連続で経験。

普通だったらこれで心が折れるでしょうが。

元々パティは自分でも気付いていなかった、非常に強靭な心を持っていました。

まあその分ため込んでしまうものもあるのですが。

非常に良い意味で、真面目で強い子であった、と言えます。

現在の英傑であるライザに出会うことが出来たのは、幸運だったと言えるでしょう。更に成長できるという意味で。


霊墓は開く
序、錬金術の鍵


ぼろぼろに傷ついた翌朝でも。パティは普通にアトリエに来た。

 

流石に少し顔が青ざめているが、それも仕方がない。

 

たった二日の戦闘で、今まで見たこともないような大物と三連続でやりあったのだ。しかも一回は、なんども死の臭いを間近に嗅いだはず。

 

トラウマになってもおかしくない。

 

それでも、立ち上がってここに来ている。

 

それだけで立派だ。

 

軽く一緒に体を動かす。

 

渡している道具はどれも昨日のうちに修復しておいたので、問題は無い。

 

もっと品質がいい素材なら。

 

もっと強力に作れるのだが。

 

それは、今言っても仕方が無い事だった。

 

「調子は悪く無さそうだね」

 

「はい。 なんとかいけます」

 

「よし。 技量が同じくらいか、少し上の相手と戦い続けるのが、一番成長が早いんだよ。 パティの年は兎に角伸びるから、苦しいと思うけれど今のうちに戦闘経験を……それも厳しいのをめい一杯積んでおこう」

 

「分かりました!」

 

パティは本当に素直だ。

 

タオとボオスが来たので、アトリエに。

 

そこで、まず朝のミーティングをする。

 

あたしは最初に、机の上に完成品の鍵を出した。やはり魔力が全て抜けていただけ。エーテルの中で再構築するだけだったので、修復は難しく無かった。これなら、確実に動くはずだ。

 

その説明をすると、ボオスがぼやく。

 

「似たようなもんを前に作って、島の中に入ったんだよな」

 

「うん。 あの時は、彼処まで島の中が酷い状態だったとは思わなかったよ」

 

「まったくだ……」

 

「何の話ですか?」

 

パティにタオが説明をする。

 

クーケン島が人工島だったこと。

 

内部には古代クリント王国時代の遺構が残っていたこと。

 

そしてたくさんの。

 

当時のクズ錬金術師によって命を奪われた人々の、遺体がそのままに残されていた事。醜悪すぎる事実。

 

聞かせないといけないと思ったのだろう。

 

人間を貴賤で区別する輩は、こう言う事をする。

 

それは、知っておかなければならないのだ。

 

「そんな……そんなことがあったんですね」

 

「確かに世の中には必要な犠牲がある。 だけれども、古代クリント王国の錬金術師達は、自分のエゴを満たすためにその言葉を乱用した。 だから滅びたんだよ。 下手をすると、世界がそれに巻き込まれるところだった」

 

「……」

 

「本当に世界のために大きな犠牲を必要とするなら、それもありかもしれない。 だけれども言い訳としてその言葉を使う人間は、だいたいの場合その言葉で自己正当化をしているだけ。 それをあたし達は、三年前に思い知ったんだ」

 

鍵については、以上だ。

 

その後は、あの遺跡。に侵入した後の話になる。

 

「鍵を開けた後、魔物がいきなり出てくる可能性は否定出来ない。 だから、全力で備えておかないとね」

 

「それについては任せて。 鍵の構造は解析したけれど、すぐに閉め直す事が可能だと思う」

 

「ライザの火力で、魔物がいた場合は押し返して、すぐに閉じ直すと」

 

「そういう事になるね」

 

頷くと、話を進めて行く。

 

後は遺跡内部の調査だが。

 

それについては、実際にやってみないとどうにもならない。

 

タオの話によると、外部からの観測からして、かなり巨大な遺跡……それも手つかずである可能性が高いと言う。

 

それは、気を付けなければならなかった。

 

「今日はあまり深入りをしないで、適当な所で切り上げる事を心がけよう。 危険だから、鍵は毎回かけた方が良いだろうね」

 

「分かった。 急がなければいけない事だけれども、焦ると誰でも失敗する。 スケジュールは余裕を持っておこう」

 

「相変わらずしっかりしていやがるぜ。 普段はフワッフワな言動なのによ」

 

「私には、お二人の言動はどんな大人よりもしっかりして見えます」

 

パティがそんな事を言うが。

 

太鼓持ちをしている雰囲気は無い。

 

この子は素直すぎるのだろう。

 

だから、同年代の貴族の人間とは、話もあわないし気もあわない。

 

今後は他の貴族と渡り合う事もあるのだろうが。

 

その時は、多分敵として接する事になるのだろう。

 

だが、クラウディアに聞いた事がある。

 

基本的にある程度以上の金を持っている場合は、周囲の全てが敵になるとか。

 

それくらいの気持ちでいないと、金目当てのろくでもない輩があっと言う間に群がってくる。

 

またある程度稼ぐと、他の強欲な人間とどうしても接する事になる。

 

そういった強欲な人間は限度を知らない。

 

だから、常に警戒して。

 

何をしてきても対応できるようにならないといけない。

 

金持ちが余裕があるなんて大嘘で。

 

実際には、金持ちは孤独で、常に周囲に威圧的な言動を取らなければならない。

 

貴族も王族もそれは同じ。

 

だから年老いた金持ちが、孤独からとんでもない行動に出ることもあって。

 

それらは、喜劇として伝わるが。

 

実際には悲劇なのだとか。

 

要するに、金にしても権力にしても。

 

その人間のキャパを越えてしまうと、毒になるのだろう。

 

そして今王都にいる貴族達に。

 

そんな金や権力を飲み込める度量があるとは、あたしにはとても思えなかった。

 

甲斐性があるなら、それもそれで良いのだろう。

 

だがそんなもの。

 

この腐った井戸の底に暮らす蛙達には備わって等いないのである。

 

ミーティングは終わり。

 

これから出る事にする。

 

荷車を引くのはあたしだ。これはなんでかというと、前衛をタオとパティに基本的に任せるから。

 

更には、今の時点で無駄に敵を作らないために。

 

パティに荷車を引かせるわけには行かないからだ。

 

パティの面倒な立場も理解しているので、荷車を引かせるつもりは無い。

 

何よりも、あたしも自分で頂点を極めたなんて思っていないし。

 

むしろ鈍っているとさえ感じているので、こうやって少しでも体を動かすようにしたいのである。

 

王都の城門で、またパティが警備の戦士と軽く話をする。

 

街道で何か起きていないか。

 

それを丁寧に聞き取っていた。

 

「今の時点で大物の出現報告はありません。 今日はアーベルハイム卿は西の街道を午前中に、午後に東の街道を見回って、魔物の駆除を行う予定と聞いております」

 

「分かりました。 午後にひょっとしたら帰途で会うかも知れません」

 

「はっ。 お伝えしておきます」

 

「警備をお願いいたします。 王都の民の安全は貴方たちに掛かっています」

 

胸に手を当てて、丁寧な礼をするパティ。

 

やはり他の貴族とは違うな。

 

そう、見ていて思える。

 

街道に出てから、しばらく歩く。

 

魔物は出ないが、問題は此処からだ。街道から外れると、すぐに雑多な気配が周囲に満ちる。

 

明らかに獲物を狙う視線も、それには混じっていた。

 

鋭い斬撃の音。

 

それも、非常に軽い刃によるものだ。

 

タオも気付いたらしく、即座に剣を抜く。あたしも荷車を離して杖を取る。

 

だが、それはどうやら誰かが魔物を倒したものであるらしく。

 

気配はすぐに遠ざかっていった。

 

飛ぶような速さだ。

 

気配があった方に行ってみる。

 

鼬の群れだ。

 

全て死んでいる。

 

文字通り全て両断されていた。

 

毛皮すら剥いでいない。こんな切れ味、どうやって出したのか。

 

「これは、凄い切れ味だね」

 

「うん。 何で斬ったんだろう」

 

「これ、魔物の仕業ですか?」

 

「いや違うね」

 

戦慄するパティに、丁寧に説明する。

 

斬撃の起点の高さが、人間の視点からだと言う事を。

 

タオも頷いていた。

 

「斬撃そのものは何かしらの魔術によるものだと思うけれど、発動する際の視点を人間の視点の高さと断定できるんだ。 この辺りを見ると分かりやすいと思う」

 

「な、なるほど……」

 

「問題は骨ごと真っ二つにしているってことだね。 それも、皮を剥いだりすらしていない」

 

「どういう意図で殺したんだろう。 絡んできて鬱陶しかった、という風情でもない。 これほどの力量だったら、この程度の大きさの鼬なら、視線を向けるだけで逃げていくと思うのだけれどね」

 

同意だ。

 

いずれにしても、無駄にしておくのも良くないだろう。

 

まだ暖かい死骸の幾つかから皮を剥いでおく。

 

鼬も育つと魔力を強く帯びた毛皮を纏うようになる。爪や牙も有用だ。内臓の一部も利用できる。

 

それらを捌いて回収しておく。

 

パティもかなり慣れてきていて。タオが時々指導するだけで、適切に処置が出来るようになっていた。

 

肉を燻製にして回収して。それで一旦城門に戻る。

 

荷物が無駄だと判断したからだ。

 

燻製肉をパティが警備の戦士達に振る舞う。戦士達は、喜んでいた。

 

「これはありがたい。 シフトの戦士達に振る舞っておきます」

 

「鼬の肉はあまり美味しくは無いと思いますが、それでも燻製にしてあるので、保存食にも使えます。 無駄にはしないようにしてください」

 

「はっ」

 

「時に、だれか手練れが今外に出ていますか?」

 

パティが代わりに聞いてくれるが。

 

警備の戦士達は知らない、ということだった。

 

パティの話によると、あたしと渡り合えそうな戦士は。例のメイドの一族に数人いるかいないかという話らしいので。

 

そうなると未知の戦士と見て良さそうだ。

 

一瞬クリフォードさんかと思ったが、あの人が手にしていたのはブーメランだ。此処までの切れ味は再現出来ないだろう。

 

まあいい。

 

一応、警戒しておく事にする。

 

少し時間を無駄にしたが、充分余裕のある範囲内だ。

 

遺跡に急ぐ。

 

魔物との戦闘でロスする時間は、最初から想定している。

 

焦る要素など、微塵もなかった。

 

 

 

セリは、在来の魔物を植物操作の魔術で、全て殺戮した。

 

理由は簡単で、植物の育成に邪魔だったからだ。

 

殺したのは肉食獣だったが、無体に増えて、近隣の草食獣を明らかに脅かしていた。

 

この辺りの生態系は滅茶苦茶だ。

 

この世界の人間が荒らしに荒らして、それがまだ安定していないのである。生態系が狂っているから、人間に攻撃的な大型動物が異常繁殖もする。いわゆる魔物と、この世界で呼ばれている存在である。

 

ヤギが数匹来る。

 

小型の個体で、別に遠ざける必要もない。

 

植物に対して強い影響力と知識を持つセリだが、別に草食獣を憎んで等いない。

 

必要に応じて植物を食む草食獣と。

 

それを更に食む肉食獣。

 

これがバランスを取って存在していて。

 

始めて植物はその土地で、健全に生きる事が出来る。

 

植物も動物と同じように、激しい競争の末に存在はしているが。

 

この世界の人間は、明らかに異常な力でその競争を理不尽に蹂躙している。

 

結果として、始末しなければいけない獣が出るのは避けられない。

 

オーレンの民の一人として、自然との調和を考える緑羽氏族の出身者であるセリは。

 

どうしても、こういった光景を見過ごすわけにもいかなかった。

 

人の気配があったので、一度距離を取る。

 

かなりの使い手だ。今のセリでは勝てるかどうか分からない。

 

距離を取り。

 

植物に気配を吸わせる魔術を用いて、様子を窺う。

 

戦士が二人。

 

男の戦士と女の戦士が一人ずつだが。男の戦士がかなりの手練れだ。この近辺では女の戦士の方が強い事が多いようなのだが。例外と言えるだろう。

 

問題はもう一人。

 

魔術師のようだが、装備品に見覚えがある。

 

あれは、錬金術師か。

 

錬金術師に対して、セリは良い印象を一つも持っていない。

 

当たり前だ。

 

この世界の人間はすっかり忘れているようだが。セリは人間による殺戮と破壊、世界の蹂躙を経験している。

 

オーレンの民の殆どは、この世界の人間を憎みきっている。

 

こんな世界に来ているのは、この世界でならフィルフサに対するカウンターとなりうる植物を入手できる可能性があるから、に過ぎず。

 

そうでなければ、こんな世界にいる事自体が不愉快な程なのである。

 

ましてや錬金術師。

 

まだ存在していたのか。

 

怒りで気配を遮断する魔術が解けそうになったので、深呼吸する。幸い距離がある事もあって、相手には気付かれなかったが。

 

とんでもない強さだ。

 

直に戦うと、勝負は四分六分と言う所か。勿論勝率が四分だ。勝てない可能性の方が高い。

 

しかも見た所熱魔術の使い手か。

 

相性は最悪と言えた。

 

セリが殺した魔物を、てきぱきと捌き。余った分は燃やして埋めていく錬金術師。一度王都とやらに戻るようだ。

 

それを見送ると、セリは一度距離を取る。

 

近くの森の中で育てている植物の様子を見ようと思ったのが一つ。

 

もう一つは、怒りを抑えるためだ。

 

緑羽氏族は、元々オーレンでも専門的に植物の管理を行っている存在で。各地を綿毛のように移動して、森の状態を確認する存在だった。

 

だが古代クリント王国とやらに全てを奪われて。

 

今は少数が聖地の一つであるウィンドルにいるだけである。

 

セリもしばらく前にウィンドルを立ってから、何の成果も上げられていない。他のオーレン族と顔もあわせていない。

 

だから、オーリムが既に滅びたのではないかという不安すらある。

 

ウィンドルには、オーレン族最強と思われる長老がいて。

 

その麾下にある湊波氏族の戦闘力もある。

 

今の状況でも、簡単にフィルフサに遅れを取るとは思えないが。

 

それでも、あれから何百年も経過しているのだ。

 

今もウィンドルが無事かどうか分からないし。

 

緑羽の仲間が無事かどうかも分からなかった。

 

最悪、オーリムに戻った後は、フィルフサと戦いながら、一人で環境の復興を目指す事になるかも知れない。

 

その覚悟も決めている。

 

だが、その前に。

 

錬金術師が、またオーリムへの侵略を企んでいるのなら。

 

殺さなければならなかった。

 

名前は確認している。

 

ライザと呼ばれていた。

 

あまり気は進まないが、王都とやらに一度足を運んで、情報を集めておく必要があるだろう。

 

あの王都とやらに、大した戦士がいない事は既に確認済み。

 

それなりに強い奴はいるが、余程油断しなければ、セリが確定で負けると言い切れるほどの相手は今の時点では見ていない。

 

それならば、植物操作の魔術で音を集め。

 

それでライザとやらの情報を集めておくのは、悪い事ではないだろう。

 

大きく嘆息すると。

 

王都に向かう。

 

ライザとやらとすれ違ったが、気配は消してやり過ごした。

 

いずれにしても、しばらく交戦は避ける。

 

あの様子だと、素の戦力だけでセリと互角以上。錬金術師となると、光の剣やら炎の牙やら、得体が知れない道具をもっていても不思議では無い。

 

戦闘をしかけるのは、相手の力を見定めてからだ。

 

或いは戦闘をしかけなくても良いかも知れないが。

 

それは、かなり可能性が低いと思う。

 

あまり得意な行動では無いが。

 

協力を装って近づき。

 

寝首を掻くという手もある。

 

いずれにしても、情報を先に集める必要がある。まずは、セリはどうするか。順番に思考を巡らせるのだった。

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