暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
遺跡に到達。渓谷を抜ける過程で二回。渓谷から坂道を上がり、遺跡へ向かう途中で一回。魔物と交戦。
別に大した相手でもなかったので、全て蹴散らして、此処に到達している。パティがかなりへばっていたので、薬を分ける。
栄養剤だ。
魚を主な材料としている魚油リキッドである。
はっきりいっておいしくはないが、栄養はばっちり。
パティも呷った瞬間むせそうになっていたが。
ただ、力が湧いてくるのは事実として感じたらしく。
文句は言わなかった。
何よりも、粗食には耐えられるように訓練を受けているという事で。
そもそも野営時にはもっと粗末な食事も経験しているのだろう。
不愉快そうにはしていなかった。
「さて、タオ」
「分かった。 パティ、少し門からさがって。 全力で警戒するよ」
「分かりました。 それほどに危険なんですか?」
「今の所、門の向こうにそれほど凶悪な気配は感じないけれど、魔力の動きは多数存在しているね。 それが魔物かどうかはちょっと分からない」
円形の巨大な蓋のような門。
それごしに、内部がある程度分かる。
その事を悟って、パティは呆れたようだったが。
別にあたしは、自分の力をひけらかすつもりはない。
パティにも、強大な魔物の痕跡を探していることは既に話してある。
もう少し信頼出来るようになったら、フィルフサとの戦いの事も説明しようと思っていた。
あたしがそれくらい警戒していることは、悟ってくれたのだろう。
パティも頷くと、大太刀に手を掛けたまま、周囲の警戒をしてくれる。フィーはあたしの周囲を飛び回りながら、緊張した様子で何度かフィーフィー鳴いていた。
鍵を取りだす。
修復した鍵だ。
壁の一角にある、円形のくぼみにそれを入れる。
或いは、壊れる前は遺跡探索をするような人間……いわゆるトレジャーハンターが。軽率に開け閉めしていたのかも知れない。
鍵を嵌めると、扉がゆっくりと開きはじめる。
埃をまき散らしながら、扉が開いていく。ごごご、と凄い音がしていた。
あのちいさな球体に、かなりの魔力を圧縮してある。
その魔力だけを動力としているのだ。
今も動いているのが、不思議なくらいかも知れない。
ほどなくして、真ん中から二つに開き、左右にずれていった扉が止まる。
あたしは、タオと連携して、幾つかの大きな岩を転がす。
「えっ。 何をしているんですか?」
「何って、扉止めだよ」
「パティ、周囲の警戒を続けて。 この扉が勝手に閉じたら、場合によっては無理矢理内側から吹き飛ばさないといけないよね。 だから、こうやって岩で勝手に閉じないように、先に処置をしておくんだ」
「わ、分かりました」
脳筋なやり方だが。
内部に強力な魔物がいた場合、帰路で扉が閉まっていたら。あたしも此処を突破出来るかわからない。
クーケン島の内部に入るときも似たような処置をしたが。
必要な行動だと言える。
入口付近を調べる過程で、タオが扉の開閉の仕組みなどももっと調べてくれるだろうが。
いずれにしても、まずは退路の確保から。
これは憶病だからでもなんでもない。
当然の戦略的思考だ。
扉が勝手に閉じないようにしてから、内部に。
魔術的なトラップはなし、と。
中に入ると、光が結構差し込んでいる。
内部はそれなりに明るい。
これは要するに、この遺跡が岩山の中に作られていたとしても。
天井などが崩落している箇所があって。
それは恐らくは、後から出来た穴なのだろうと思う。
閉じた洞窟などでは、独自の生物が暮らしていると聞くが。
内部を飛び交っているのは小型の蝙蝠。
また、暗い場所を好む虫など。
後は、どこにでも生息するぷにぷにも見かけられる。
なるほどね。
あたしはそう思いながら、周囲を見回す。
これは案外、入口が間違って塞がってしまったとしても、出る事は可能だろうと思った。
ただそれでも、万が一という事もある。
タオが扉について調査している間に、パティとともに内部に入り込む。
足跡は見受けられない。
入口付近から、それなりに埃が積もっているが。これは人間が何百年も入っていないからだろう。
ぷにぷになどは内部にいる。
ということは。そういう生物が徘徊している訳で。
埃が全ての場所で積もっている訳でもなかった。
「この様子だと、最後に開いたのはいつか分からないな」
「み、見た事もない建築様式ですね」
「タオ、これってどのくらいの時代か分かる?」
「古代クリント王国以前だよ。 少なくとも六百……いやもっと前だね」
タオが扉の開閉装置を調べながら、そう返してくる。
パティが六百年と声を上げていたが。
およそ五百年前の古代クリント王国の遺跡について色々見て来たあたしは。別に驚かなかった。
千年くらい前には、神代という時代があったと聞くし。
神代が何かしらの理由で破綻して以降は、古代クリント王国が生じるまで、人間は激しい抗争を繰り広げていたらしい事が分かっている。
神代にしても一枚岩ではなかったらしく。
それ以前の時代もあったということだから。この世界には、人間が千年以上も生きているのだ。
それに、人間の何十倍も生きるオーレン族のリラさんにあっているのだ。
今更、そのスケールの時間について、驚く事はない。
「入口付近に、強い魔物はいないけれど……」
「ライザさん、幽霊とか出ないですよね。 よく遺跡に迂闊に足を踏み入れると、怨念が色々と……」
「うーん、今の所変な魔力の流れについては感じないかなあ」
幽世の羅針盤は勿論持ってきてある。
だが、まだ使うタイミングでは無い。
退路をがっつり確保してからだ。
タオが手を振って来る。
どうやら、仕組みを解析したようだった。
「どう、開け閉めは完璧?」
「何とか。 ただ扉の経年劣化が酷いから、あまり何度も開け閉めはしたくないかな」
「六百年も経過しているなら当然ですよ……」
「最低でも六百年だよ。 下手をするともっと前かも知れない」
スケールの大きな話だ。パティはすぐには飲み込めないようで、思考が停止してしまっている。
あたしは、一旦彼女を促して外に。
そして岩をどかすと、タオと一緒に開け閉めの検証を行う。
鍵を使えば、誰でも開け閉めが出来る。
頷いて、何度か扉の開け閉めをして。内側からも操作して、開け閉めが出来る事を確認する。
扉の厚さも確認。
材質も。
特に強力な魔術は掛かっていない。
或いは昔は掛かっていたのかも知れないが、今はそうでもない。
これだったら、強引にぶち抜く事は不可能では無いな。
そう思って、あたしは内部に踏みいることにする。
森にあった遺跡と違って、此処はそもそも閉鎖空間だ。内部にはどんなトラップがあるか、知れたものではない。
内部に入る。
周囲は回廊のようになっていて、下は見えないくらいだ。
石を落として高さを測る。
タオの言う所によると、あたしの身長の八十倍前後、というところだった。
なんでも何かが落ちる速度には加速度というのが働くらしく。
それを用いて計算が出来るらしい。
ほうほうと感心していると。
パティが完全に青ざめて突っ込みを入れてくる。
「そんな高さ落ちたら死んじゃいますよ!」
「まあ木っ端みじんだね」
「どうしてそんなに平然としているんですか!」
「経験かな」
勿論、油断するつもりは無い。
まずは、この遺跡の全体像を調べてから、羅針盤を使うか。
ふんふんと鼻を鳴らしながら、フィーが周囲を見ている。
あまりかまってやる時間はないが。
邪魔にならないようにしているし。魔物がいる場合は、即座にあたしの所に戻ってくるくらいには賢い。
今の時点では、そのままでいい。
周囲をマッピングするのはタオに任せる。
空中回廊とでも言うべき構造になっているこの遺跡。足を踏み外して、落ちるのだけは避けたい。
一応手すりは存在しているが。
その手すりそのものが崩落している場所も珍しく無いのだ。
また、内部構造も敢えて曲がりくねって作っているのは確実。
これは、明らかに。
戦闘を意識した造りだ。
「なるほど、これは小規模だけれども砦みたいだね」
「密封されていたことから考えて、内部に入るのはあたし達が初めてかな?」
「いや……恐らくそうではないと思う。 これを見て」
タオが、脇道に歩いて行く。パティがあわててついていくが。どう見ても不慣れなので心配になる。
まあいい。カバーできる範囲で、ミスは幾らでもすればいい。
パティがまだ戦士としては未熟なのは百も承知。
カバーされているうちに、一人前になってくれればいいし。
そもそもミスを地力でリカバーできるのが一人前だ。
ミスをする時点でいらないとか斬り捨てるような輩は、それは他人を育成する事なんか出来ない。
誰だって最初は未熟だ。
それが理解出来ていない奴に、他人と関わる資格はない。
「ライザ、こっちだよ」
「分かってる。 それで、何があるの」
回廊からせり出した、円形の広場。
これも全て空中に浮いているような構造だ。柱らしいものがあるのかすらも、この位置からは分からない。
アクロバティックな造りだな。
どうやってこの遺跡を作ったのか、ちょっと分からないのだが。
古代クリント王国の下衆どものように、奴隷階級の人間をすり潰しながら作ったのではないと思いたい。
いずれにしても、研究しないとどうにもならないだろう。
タオが言うのを聞く。
「この辺りは、明らかに人為的な手が入ってる。 多分二百年くらい前のものだろうね」
「そ、そんな事まで特定出来るんですか?」
「この文字を見て」
タオがパティに解説する。
ここに入った盗掘家か或いはトレジャーハンターだかが、地面にメモ書きを刻んでいるのだという。
その文字が、二百年前くらいに使われていた言い回しなのだとか。
てきぱきと説明をしていくタオに、パティは目を回しそうになっているようだが。
まあ、それはそれだ。
あたしはその間、周囲を確認する。
幸い此処には大したエサがいないからだろう。
何処にでも生息するぷにぷにも、大きいのがいない。
あたしの魔力を察知すると逃げていく。
ただ、どうにも嫌な予感がする。
「ここに先に入った人間が骨になって転がったりしていない?」
「ちょ、ライザさん!」
「パティ、それを発見するのは大事だよ。 僕達が事前に、罠にはまった先人がいる事が分かったり、或いは危険な魔物がいるか察知できれば、先手を打てるからね」
「タオさん、ちょっと怖いです……」
全く問題無さそうにいうタオに、パティが困惑しきっている。
いちいち可愛いなこの子は。
カスみたいな貴族に囲まれて育っただろうに、感性がごくまともなのだ。
「奥に進もう」
「はい……」
まるで大蛇のようにうねりながら。
空中回廊は奥へ奥へと進んでいる。
足を止める。
あれはゴーレムか。
人型の岩の塊。だが、魔力は感じ取れない。
あたしが近付いて見ると、それはもう動いていなかった。見ると激しい切り傷が幾つもついている。
機能停止するまで戦闘して。
ここで動かなくなった、ということだろう。
「ゴーレムだね」
「最初こいつの同類と遭遇した時、勝てる気がしなかったよね。 本当に死ぬかと思ったよ」
「この激しい戦闘の跡だと、一人か二人、この辺りから落とされていても不思議ではないね」
「まったくだ」
あたしは、そのまま後ろ回し蹴りで、ゴーレムの残骸を完全粉砕しておく。
パティがびくりとふるえたが。
必要な処置だ。
完全停止しているとは思う。
だが、古代クリント王国以前のテクノロジーだと、文字通り何が起きるか分かったものではないのだ。
完全に砕いておかないと、背後からの奇襲を常に警戒しなければならない。
コアも回収しておく。
ゴーレムのコアは、かなり有用な錬金術の素材になる。パティのために作った装備も、今のありあわせではなく、もっと強力なものに仕上げられるだろう。
淡々と調査を実施。
天井から幾筋も差し込んでいる光が、少しずつ傾き始めている。
タオが、足を止めた。
「あの辺りを調べたら、今日は一度引き上げよう。 そろそろ戻ると夕方になる。 魔物と戦闘しなかったとしてね」
「分かりました。 魔物との戦闘を想定すると、もっと早く戻るべき、ということですね」
「そうなるね。 飲み込みが早いよパティ」
「いえ、そんな……」
少し広い場所だ。
回廊から時々分岐するように、広い場所がある。
此処は、なんだ。
石が立ち並んでいるが、墓所か。
強い魔力を感じるな。
あたしは腕組みして、周囲を見やる。
魔物の気配はないが、こういった遺跡となると、いきなり命を刈り取りに来る仕掛けがあっても不思議ではないか。
即座に対応できるようにしておく。
今はタオの時間だ。
あたしは、周囲の護衛に回る。
「パティ」
「あ、はいっ!」
パティにも声を掛けて、警戒を促す。
とにかく起きる事、見るもの、全てが頭のキャパを完全に越えてしまっているようで、パティは明らかにおろおろしている。
それは最初なんだから当然だ。
それをせめるつもりはあたしにはない。
今は、経験を積む。
それが必要な事なのだ。
「何があるか分からない。 タオは専門家で、調査を今全力でしてる。 今のあたし達がするべきなのは、それの支援だよ」
「分かっています!」
「うん。 それじゃあ警戒して」
「分かりました!」
パティは大太刀に手を掛けたまま、腰を落として何が起きても対応できるように警戒を続けてくれる。
あたしはそのまま、魔術探査の網を周囲に巡らせる。
あたしの魔力を感じ取って、小型の魔物も虫もみんな逃げていく。
それでいい。
タオは虫が苦手だから、今はそうやっておいた方が良いだろう。
やがてタオが顔を上げて、手を振って来た。
「これは墓所だね。 墓石だということが確認できたよ。 写し取るから、もう少し警戒をお願い!」
「分かりました!」
「……」
気付く。
奥の方に、鎧らしいのが点々と散らばっている。
あれがただの、此処で朽ち果てた戦士だったらいい。
だけれども。
あたしは以前見た事がある。
いわゆる幽霊鎧。
クーケン島周辺に出るそれの正体は、古代クリント王国時代に作られた、自動で動く魔術のからくりによる兵士だった。
更に古い時代から幽霊鎧は行使されていたらしく。
此処が古代クリント王国よりも古い時代の遺跡だったとしたら。
下手をすると、もっと性能が高い幽霊鎧がいてもおかしくない。
戦闘力がもっと高い、くらいだったら別になんでもない。
対応は幾らでも出来る。
問題は、例えばあたしが気付けないくらいの奇襲をできたり。
もっと可変性が高い行動を取ったり。
予想も出来ない搦め手を持っていた場合。
何しろ古代クリント王国よりも更に古い時代だ。
人間の時代の終焉だった古代クリント王国。それまでは、世界の支配者は人間で、魔物はドラゴンですら人間には勝てず。
それこそ、世界の端に追いやられていたと聞く。
だとすれば、それを実行した時代は、人間の数が多かっただけではなく。
あらゆる全てが、人間の優位を確保していたとみていい。
テクノロジーもそうだ。
古代クリント王国の錬金術師どもは、完全に頭が狂っていたし倫理観もゼロだったけれども。
そのテクノロジーだけは疑っていない。
それと同じだ。
あたしは、油断だけはまずいなと思いながら、タオが写しを取るのを待つ。
「終わった。 引き上げるよ」
「はい!」
「……」
パティがほっとしている。
今の時点では、この遺跡で特に危険な問題は発生していない。
だけれども、この後どうなるか分からない。
だから、それについては。
最大限の注意を払わなければならなかった。
遺跡を出て、扉を閉める。
気配がある。
なるほど、トレジャーハンターというのなら、気付いてもおかしくは無いか。
遠くでこっちを伺っているクリフォードさん。
向こうが話しかけるつもりがないのなら、こっちは何もするつもりもない。
ただ、この様子だと。
向こうからアクセスしてくるかも知れないな。
そう思った。
帰路につく。
パティがぐだんぐだんに疲れているのが分かった。
「そんなに戦ってはいないはずなのに。 なんでこんなに疲れているのか分かりません」
「パティ、良いことを教えてあげるね」
「はい……」
「知能が高い魔物はね、こういう帰路を狙って来るんだよ。 相手が疲弊している時が好機だって知っているからね」
ぞっとした様子で、パティが此方を見る。
タオは苦笑い。
まあ、全部事実だからそれでいい。
リラさんに教わった戦闘技術を、タオとあたしで、パティに徹底的に叩き込む。
パティは今まで、最低限の戦闘経験は積んで来ている。
鍛錬についても、かなりいい師匠についている。それは確定とみていい。
だったら後は、良質な実戦を経験すること。
それと並行して、先達の言葉を吸収する事。
これで、更に強くなれる。
パティの潜在能力は高い。しかも素直だから、成長速度も早いと思う。
多分その見たては間違っていない。
そしてパティが周囲にスポイルされず、強くなれれば。
いずれ飾りに過ぎないこの国の王族を全部叩きだし。
ロテスヴァッサという国を、まともに出来るかもしれない。
少なくとも、王都だけでも。
それだけでも、今の井戸の中の腐った蛙に等しい連中に回されている王都に暮らす人々は、だいぶマシになるはずだ。
帰路で、軽くタオに話しておく。
「タオ、気付いた?」
「視線?」
「そう。 近々、あたし達に接近して来る人がいるかも知れない」
「あの距離からすると、かなりの手練れだね。 僕もパティも常にいられるわけじゃないから、手が増えるのは助かるよ」
その通りだ。
王都のすぐ近くに、フィルフサがあふれ出る門がある可能性がある。
それについてはどうしようもない事実だ。
だからといって、それを説明できない以上。
タオとパティの時間を、全て貰う訳にはいかない。
手数が今は必要なのだ。
クラウディアが戻って来てくれれば少しは楽になるのだけれども。
それもまだ、残念ながら先だと思う。
帰路でも魔物に遭遇する。その幾らかとは戦わなければならず。荷車は更に重くなった。この辺りはタオもしっかり理解しているので、帰路で写し取った墓石の文言を見始めるような事もなかった。
それなりにあたしだって消耗する。
そして、王都が見えてきた頃。
陽が落ちていた。
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