暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、転落

ライザさんのアトリエ前で解散。

 

パティは頭がくらくらしていたが、それでもなんとか自分を保って、邸宅に帰宅していた。

 

途中で貴族を見かける。

 

バカみたいに着飾って、それで自分が偉いと思い込んでいる連中。

 

ライザさんに言われた。

 

王都の近くに、とんでもない魔物がいる可能性がある。

 

王都なんて、一日で滅ぼされるほどの魔物だと。

 

それを考えると、その着飾ることの滑稽さに、哀れみすら感じる。

 

本当に井戸に住んでいたんだな。

 

パティはそう思って、邸宅に戻ると。

 

まずは風呂に入る。

 

頭が溶けそうだった。

 

それでも、どうにか意識を保って風呂を上がる。

 

お父様が戻ってきていた。

 

そういえば、ひょっとしたら帰路で会えるかもと思ったのだった。でも、時間があわなかったらしい。

 

お父様はメイドと話をしていたので、終わるのを待つ。メイドといっても、実際には執事以上に仕事をしている。戦士としても、アーベルハイム最強の矛だ。

 

何よりも、パティにとっては母のような存在でもある。

 

無碍には出来なかった。

 

しばらく勉強をして。

 

それからお父様と話しに行く。どちらにしても、進捗について話しておかなければならないのである。

 

色々なものを背負っているのがアーベルハイムだ。

 

こういう所は、親子というよりも。

 

当主とその配下の一人という立場を、敢えてパティは作らなければならず。そして自身にそれを課すように心がけてもいた。

 

特別では無い。

 

そう考える事、そのものが大事なのだ。

 

お父様の所に出向く。外での仕事の後執務をしていたから、そのついでに話をする事になる。

 

順番に、ここ数日の出来事を話していく。

 

一通り説明を終えると、お父様は頷いていた。

 

「なるほど。 ライザ君の実力は想像以上の様子だな」

 

「魔術師としての手練れとしても、相当なものですが……それに錬金術が加わると、今の王都に勝てる人間はいないと思います」

 

「やはり私に見せていた手札は一部も一部か」

 

「恐らくは。 何ができるのか、何ができないのか、それすらも見極める事が出来ません」

 

悔しいが、この言葉の通りだ。

 

お父様が資料を見せてくれる。

 

この間仕留めたラプトルの長だ。

 

パティは雑魚と戦う事くらいしか出来ず。その雑魚も、ライザさんは詠唱ありとはいえ魔術で群れごと焼き尽くしていた。

 

そして知った。

 

肉弾戦の方が本領だと言う事を。

 

あの凄まじい蹴り技。喰らったらどうなるか、ちょっと想像したくない。

 

そんなライザさんに瞬殺されたラプトルだったが、恐ろしい程の被害が出ていた。確かにこれを倒せたのは大きい。

 

しかも大規模な討伐隊が出ると、その度にさっと身を隠す狡猾さもあわせもっていたのだ。

 

被害が増えるのも、当然だと言えた。

 

熊辺りだと、一度人間の血の味を覚えると、人間を舐めて掛かる。

 

そうすると非戦闘員の被害は増えるものの、本職の戦士に掛かってあっさり殺されてしまう事も多い。

 

熊の戦闘力は高いが、獲物に執着する癖などもあって、はっきりいってラプトルと比べて脅威度は小さいのだ。

 

ラプトルはあの戦力で、人間を舐めていないのである。

 

「私もライザ君から王都近くに潜んでいる可能性がある魔物について調べていた」

 

「何か分かりましたか」

 

「大いなる闇、大いなる呪い、そういった言葉があるようだが……具体的に何があったのか、そういった資料は調べさせても出てこなかった」

 

「……」

 

タオさんが調査しても芳しい成果が出ていないのだ。

 

貴族院の抱えの教授なんて、貴族のスポンサーがいるだけの凡庸な老人達に過ぎないと聞いている。

 

王室つきの魔術師の実力も見た事があるが、ライザさんの戦闘を見たら腰を抜かすだろう。

 

つまり、役に立たないと見て良い。

 

「何かしらの大被害が出た記録があるのであれば、その言葉も全面的に信用できるのだが、今の時点では見極めるしかない。 パティ、このままライザ君について、様子を見なさい」

 

「分かりました」

 

「ライザ君は今の所、少なくとも私やパティには好意的に接してくれている。 それを有り難いと思わないとな」

 

「本当に……そうですね」

 

お父様の懸念も解る。

 

ライザさんの実力は明らかになればなるほど背筋が凍る。

 

魔術師としての技量は、正直百年くらいの間なら、もっと上の人間がいたかも知れない。少なくとも超世の天才だとは感じない。

 

だが錬金術の技量が加わると、正直ここ百年くらいであの人に勝てる人間がいるのか、かなり疑わしいとさえ思う。

 

あれで戦士としての力量も極めて高いのだから反則である。

 

「王都近郊の魔物については、私の方からももう少し調べておく。 それと……」

 

「なんですか」

 

「勉学については、実績を出しているようだね。 無理をしすぎないようにしなさい」

 

「ありがとうございます。 更に励みます」

 

親子としての情はある。

 

だけれども、アーベルハイム当主と、その部下という立場も崩さない。

 

頭を下げると、部屋を出る。

 

戦士が数人来ていた。わいわいと騒ぎになっている。

 

すぐに出られるようにする。声が掛かる可能性があるからだ。

 

お父様が来て、すぐに出ると言った。メイドがついていく。かなり面倒な事態になったようだ。

 

「お父様、何かありましたか」

 

「魔物ではない。 土砂崩れだ」

 

「!」

 

「閉鎖した鉱山付近でな。 あの辺りには今はもう住人はいないはずだが、念の為に確認をしに行く。 ライザ君が用意してくれた発破はあるか」

 

ここに、とメイドが差し出す。

 

頷くと、お父様はすぐに屋敷を出て行った。

 

これでは体を壊しかねない。

 

パティの心配をしている場合では無いだろうに。

 

なんだか、それがとても悲しかった。

 

 

 

朝一番に、起きて体を伸ばしていると。徹夜作業だったお父様が戻ってきて、そのままベッドに直行する。

 

体力でお父様を凌いでいるメイドに話を聞くと、パティに昨晩の話をしてくれた。

 

「徹夜となったのには、なにか理由があったのですか」

 

「はい。 案の定、土砂崩れが起きたのには理由がありました。 山師崩れが立ち入り禁止区域で鉱石を掘り出そうとしていて、それで土砂崩れを誘発したのです」

 

「なんということを……」

 

「山師崩れは確保しましたが、刺激された魔物との戦闘で、怪我人も出ました。 ライザ様の薬がなければ、死人も出ていたでしょう」

 

元々、魔物が出て大急ぎで閉鎖された鉱山だ。

 

鉱物資源が尽きたわけではなく、なんならその辺りに高品質の鉱石が散らばっていたりもする。

 

これを目当てに山師が徘徊し。

 

魔物の餌になって、人間の味を覚えさせてしまうことがよくあるのだ。

 

そうなると最悪で、魔物は人間を襲いに王都の周辺にある集落や、街道に積極的に出て来る。

 

そして被害者がうなぎ登りに増えるのだ。

 

今の王都の腰が引けた警備では、これらに対応するのは非常に難しいのである。だから、そもそもとして魔物に人間の味を覚えさせない事しか、出来る事はないのである。

 

これもあって鉱山への門は閉鎖したし。

 

今でも巡回をするようにしているのだが。

 

王都の異常な物価の事もある。

 

どうしても、山師の類が忍び込む事が絶えず。多くは生きて帰ってこない。

 

ただのチンピラの類がそうなるならどうでもいいが、生活に困窮した人間がそうして命を落とすいたましい事件も多いのである。

 

貴族の論に良く聞く弱者は切り捨てるべきだの淘汰圧だのという言葉は論外だ。

 

そう言ったことをして来たから、今世界はどんどん人間の生活域が縮小していて。

 

最後の砦であるお父様と王都の警備が必死に働いているのに、足を引っ張ろうとしているバカまでいる。

 

それこそ、淘汰圧に晒されるべき存在だろうに。

 

淘汰圧とやらは、その手のバカには何もしないのだから。

 

「ライザさんには感謝しかありませんね」

 

「そうですね。 確かに恐ろしい程効く薬です。 止血剤や増血剤も本当に良く効いて、怪我をした当人まで驚いていました。 正式にアーベルハイムから、バレンツ商会経由で薬の納入を依頼する話をしながら帰ってきたのです」

 

「……お父様には、お疲れ様でしたと伝えておいてください。 私はこれから、そのライザさんとまた出かけてきます」

 

「分かりました。 その靴や手袋はライザさんにいただいたものですか?」

 

頷く。

 

これのおかげで、パティも命を拾っているようなものだ。

 

あの巨大な走鳥とやりあった時には、それこそ数回走馬燈を見たほど。素のままだったら確定で死んでいただろう。

 

長刃を手にする。

 

いや、なんとなしにそう呼んでいたが、以降は大太刀と呼ぶべきか。外に出ると、朝日が赤く世界を照らし始めたばかり。

 

すぐにこの色は消えるだろう。

 

無言で歩く。

 

老人が数名歩いているのが見かけられたが、それくらいだ。

 

淡々と歩いて、ライザさんの邸宅に。

 

昨日はそれほど本格的な調査をしていなかったが。今日は本格的な調査に移るはずだ。

 

そう考えると、戦闘も想定されるし。

 

身を引き締めなければならなかった。

 

それなりの距離を歩いてライザさんの宿……今やアトリエだが。それがある七階建ての前に出向くと。

 

丁度、ライザさんが戻って来た所だった。

 

何カ所か、廻って来たらしい。

 

凄い朝早いのに。

 

ライザさんは眠そうにもしていない。

 

「おはようございます、ライザさん」

 

「お、パティ。 おはよう。 朝早いのに、きっちり起きてくるね」

 

「ライザさんは、もっと早いんですね」

 

「今日は農業区に様子を見に行っていたからね」

 

農民の朝は基本的に早いそうで。

 

ライザさんは、農民の子という事もあって、朝にはとても強いそうだ。

 

農民としてはみそっかすだったらしく。

 

ある程度の知識はあるが、農業一本で食べて行くのはかなり厳しいだろうと、苦笑いするのだが。

 

そんな事を言われても、ぴんと来ない。

 

この人だったら、なんでも出来そうに思えて来る。

 

軽く体を動かしてから、アトリエに入る。

 

フィーはベッドの上で気持ちよさそうに眠っていたので、起こすのが可哀想だ。ドアにも窓にも魔術でロックがかかっていて、それで防犯の役割が果たされているようである。

 

ただでさえ、街道に出ていた人食いラプトルを苦もなく捻り殺した超腕利き、としてライザさんの名前は王都に短時間で拡がり始めている。

 

更にライザさんが、バレンツ商会を経由して、王都に高品質のインゴットや布を提供していた張本人だという話も拡がり始めている。

 

それもあって、ライザさんは短期間で畏怖の目で見られるようになっていて。

 

ライザさんも、それを強かに利用しているようだが。

 

いずれにしても、そんな人の宿だ。

 

余程の阿呆でなければ、物盗りに入ろうなどとはしないだろう。

 

タオさんとボオスさんが来る。

 

相変わらずボオスさんは辛そうだ。

 

タオさんは昨晩かなり遅くまで調べ物をしていただろう事が何となく分かるのに。それなのにとても楽しそうで不思議である。

 

「みんな揃ったね」

 

「じゃあ、朝のミーティングを始めてくれ」

 

「任された」

 

ライザさんが、順番に話をしていく。

 

遺跡については話さない。

 

それについては、タオさんが担当しているようだった。

 

「バレンツ商会で確認したけれど、クラウディアがやっとこっちに来られるみたいだよ」

 

「おお……それは助かるな」

 

「バレンツ商会の令嬢ですよね。 本当に驚くべき人脈です……」

 

「多分何かの巡り合わせだよ。 クラウディアと、あたし達の共通の師匠二人が同時期にクーケン島に来て。 それが原因で、あたしの灰色だった世界が、一気に彩りを帯びたんだから」

 

もしも神様がいるならその導きだろうし。

 

そうでなかったら、人生にあった最初で最後のチャンスだったんだろうね。

 

そうライザさんはくすくすと笑う。

 

皮肉屋のボオスさんですら、それに対しては何も言わなかった。

 

タオさんに聞いたのだが。すっかり馴染んでいるボオスさんも、三年前まで……恐らくライザさんが強力な魔物を仕留めた時期までは。ほぼ何もできず、ライザさんと対立するばかりだったそうである。

 

本当に人生の転機だったのだろう。

 

だとしたら。

 

パティには、恐らく今がそうだ。

 

この機を逃すわけにはいかなかった。

 

「クラウディアが来てくれて、手助けをしてくれるなら本当に助かるね。 手数が増えるし、何より音魔術の達人であるクラウディアは、周囲の警戒のエキスパートだ」

 

「うん。 もともとあたしは打撃戦に全力投球したいし、どっちかというと周囲の探査は苦手だし」

 

「音魔術って、本当にレアな筈ですが、凄いですね……」

 

「三年前に開花するまでは、クラウディアもそこまで凄い使い手ではなかったんだよ。 むしろ実戦で音魔術を使った事は殆どなくて、三年前の一季節で一気に伸びたんだ。 素質はあったんだけれども、最高の時期に最高の戦闘と師匠に恵まれたのが大きかったんだよきっと」

 

タオさんがこれも凄い事を言う。

 

三年前。

 

文字通り、世界がひっくり返るような出会いが、片田舎であったということだ。

 

その時のクーケン島は。

 

王都の人間が誰も知らなかっただけで。

 

文字通り世界の中心だったと見て良いのだろう。

 

「それで、遺跡の方は」

 

「うん。 遺跡にあった墓石を調べて見た。 文字などからして、やっぱり六百から六百五十年ほど前の遺跡と見て良い。 幾つか気になる事が書かれていたよ」

 

「聞かせてくれ」

 

「うん」

 

タオさんが、メモ帳からピックアップする。

 

あの遺跡は霊墓と呼ばれるもので。

 

戦士達が眠る墓所であると同時に、正体不明の何かに対する封印装置を兼ねており。更には最前線であったという。

 

その最前線の中には、アスラ・アム・バートの前身と思われる都市の名前が見受けられるという。

 

「つまり、どういうことだ」

 

「古代クリント王国が滅びる前には、アスラ・アム・バートは一つの城塞都市に過ぎなかったんだ。 それは分かっていたんだけれども、どうもこの都市は人間相手の戦争ではなくて、何かに備えていたらしい」

 

「……まさか例のあれか」

 

「いや、そう決めつけるのは早計だよ。 だから、これからもっと本格的に調査しないといけない」

 

膨大なメモがあるようだが。

 

その中から、興味深いと思われるものを、タオさんがピックアップする。

 

「どうもあの遺跡には、不死の魔女と言われる存在が関わっていたらしい」

 

「不死の魔女?」

 

「詳細は不明だよ。 ライザの羅針盤で調査すれば、もう少し細かい事が分かるかもしれないけれど……」

 

「そうだね。 ただそれには、あの遺跡にある危険を全て排除しないといけないかな」

 

ライザさんの言葉に、パティも頷いていた。

 

入口付近は雑魚ばかりだったが、それも奥に行くとどうなるかは分からない。

 

それにパティだって聞いた事がある。

 

ロテスヴァッサが成立する前に栄えていた文明……ライザさん達がいう所の古代クリント王国は。

 

問題を多く抱えた国家ではあったものの。

 

技術力に関しては、相当に優れていたという。

 

その時代まで、世界の覇者は人間だったという話もある。

 

だとすると、それ以前の世界の遺跡だ。

 

どんな魔術によるトラップや。

 

テクノロジーで作られたガーディアンがいても、不思議ではないのだ。

 

「足場が悪いんだよね、あそこ。 パティ、とにかく気を付けて」

 

「はい!」

 

「良い返事だね。 ボオス、そっちはどう」

 

「俺の方は学生なんかに色々話を聞いて回っているが、あまり俺たちの役に立てそうな奴はいない。 今後はカフェに足を伸ばして、そっちで人脈を見繕って見るつもりだ」

 

ボオスさんも、自分の仕事をしているわけだ。

 

いつの間にか起きだしていたフィーが、嬉しそうにボオスさんの頭に乗る。

 

ボオスさんは苦虫を噛み潰しながら、フィーを追い払おうとはしなかった。この人、意外と子供の扱いに向いているかも知れない。

 

今度、貴族の子供の躾け役に推薦してみようか。

 

アーベルハイムに嫌悪感を持つ貴族は多いが。

 

実はアーベルハイムにすり寄る貴族もいるにはいる。

 

商売をやっているような貴族がそうで。

 

そういった貴族の中には、一度商売をやってみて街道の安全確保の重要性や、何よりも王都の未来のなさに気付いている人間もいて。

 

お父様とコネを作って、それで生き残りを図ろうとしている人もいる。

 

パティから、そういう人をライザさんに紹介してみようかとも思う。

 

ボオスさんは人脈作りを必死に今やっている状態だが。

 

それでも、特権意識に凝り固まった貴族が、ボオスさんとコネを持とうと動くのはあまり考えにくい。

 

いずれにしても会議が終わり。

 

さっと解散する。

 

すぐに出る準備を始めるライザさん。

 

以前教わった事は、ある程度手伝える。

 

無言で出るための作業をしていると、ライザさんが助け船を出してくれた。

 

「パティ、何か言いたいことがあったの?」

 

「はい。 大半の貴族はろくでもない人間ですが、商売を主にやっている貴族の中には、アーベルハイムと関係強化を目論んでいる人間がいます。 王都の未来のなさや、ロテスヴァッサに期待していない人も多く、そういう人を紹介しましょうか」

 

「そうだね、これが一段落したらお願いしようかな」

 

「分かりました。 今のうちにリストアップします」

 

スロープを使って、荷車を降ろす。

 

これにはブレーキ機能もついていることが分かっているのでそれほど怖くはないのだけれども。

 

それでも七階から降ろすのは、ちょっとひやひやする。

 

地階まで降りると、ライザさんが住人に挨拶されていたので、笑顔で応じている。ライザさんはかなり社交的な方で、知らない相手にもぐいぐい行くようだ。

 

素がそれほど社交的では無いパティは、この辺りは羨ましいと思う。

 

今日はタオさんが荷車を引いて、そのまま外に。

 

まだパティは、全てを明かして貰ってはいない。

 

でもそれは、パティやアーベルハイムが全面的に信頼出来る存在では無いと思われているからだ。

 

分かっている。

 

だから、最大限、やれることはやらなければならない。

 

城門で、戦士達に話をしておく。

 

昨晩は大変だったそうですねと言われて。少しだけ表情がやわらいだ。

 

「私はそれほど大変ではありませんでした。 お父様が街道の警備に姿を見せたら、少しでも支援をお願いします」

 

「はっ。 いつも助かっております!」

 

「それでは失礼します」

 

敬礼をすると、そのまま遺跡に向かう。

 

遺跡への道中で魔物に何度か襲われるが。

 

いずれも、大した相手ではなかった。

 

 

 

昨日と同じように遺跡の戸を開いて内部に。

 

やはり、こんな巨大なものが。ちいさな球体の鍵で開いてしまうのが、不思議すぎて凝視してしまう。

 

ただ、それは明確な隙だ。

 

だから、あわてて襟を正す思いだ。

 

周囲を警戒。

 

パティの技量なんて知れている。

 

それでも、何か不審点を見つけられるかも知れない。

 

だから、必死に周囲に気を張った。

 

「内部、迎撃なし」

 

「了解。 奧へ行くよ」

 

「分かりました」

 

相変わらず、岩をストッパーにして、内部に入る。

 

やはり入口からだけでは無く、遺跡の内部には光が差し込んでいる。昨日もそうだった。岩山の内部に作られたと言うこの遺跡。

 

天井部分には穴が開き。

 

恐らくは其処から、虫やら魔物やらが入り込んだのだろう。

 

回廊を行く。

 

所々崩落しているのが本当に怖い。

 

だがライザさんが熱魔術による探知を行って、それで危険箇所を的確に避けているようで。

 

時々パティにも警告が来る。

 

フィーが周囲を飛んでいて。ふんふんと鼻を鳴らしているが。

 

フィーも遊んでいる雰囲気はなく。

 

此処が危険であることは、理解しているようだった。

 

昨日来た地点で、一度足を止める。

 

ライザさんが手をかざして、目を細めて見ているのは。鎧だ。

 

ハンドサインが出た。

 

以降、無言で動く。

 

まず、ライザさんが鎧に歩み寄ると、はずして中身を確認。骨が出てくるのでは無いかと思ってパティは生唾を飲み込んだが。

 

内部はカラだった。

 

ライザさんとタオさんが、ほぼ間違いないと、何かしらのハンドサインをかわしている。

 

パティには、あの鎧には気を付けろと、警戒の指示が出ていた。

 

うねる空中回廊が。降り始める。

 

複雑な構造だが。

 

回廊は高低差が出始め。途中には明らかに視界を遮るような造りの階段も出来はじめている。

 

この辺りは、要塞が故だろう。

 

他の貴族の子弟はゲラゲラ笑ったり居眠りしていて聞いていなかったが。

 

貴族院の座学で教わった事がある。

 

こういった要塞は、基本的に幾つかのルールが存在していて。

 

内部を迷路状にしたり。

 

或いは入口で、全方位から敵を撃退出来るようにしたり。

 

色々と手のこんだ仕掛けを用意するそうだ。

 

その一方で、そういった仕掛けを一切排除した城も存在するそうで。

 

ある程度の勢力を持った覇者が誕生した場合、政務や城下町の建設に有利なそういった城を作るそうである。

 

これは今になって思うと。

 

ロテスヴァッサが再び勢力を拡大するときのために、色々と準備されていた授業だったのだろう。

 

極限まで腐敗して愚かになった貴族の子弟達は、それを一切理解出来なかった。

 

ただ、真面目に話を聞いてはいたけれど。

 

それでも理解出来ていなかったのは、パティも同じだ。

 

汗顔の至りとはこのことだが。

 

それはこれから取り返す。

 

点々と彼方此方に鎧がある回廊。

 

そして、最深部に到達していた。

 

タオさんが、メモを見せてくる。今までの回廊についてだ。

 

何カ所かに、墓石がある地点があったが。

 

此処が最重要だろうと、最重要の地点を示してくる。

 

ライザさんもそれをのぞき込み。

 

頷いていた。

 

巨大な鐘か、これは。

 

鐘なんて、王都には殆どない。

 

理由は簡単で、こんな巨大な鐘の製造技術、失われてしまって久しいのだ。

 

王都でやっているのは、殆ど小手先の技術と、それの錬磨くらい。

 

一応昔の技術の復興をと叫んで。投資している貴族もいるにはいるらしいのだが。

 

それも上手くは行っていないらしい。

 

ライザさんが、つり下げられている鐘に近寄ると。

 

いきなり跳躍して、鐘の上の方を確認していた。

 

何度見ても吃驚させられる。あの跳躍力、肉体強化の魔術を専門としている戦士でも、そうそうできる高さでは無い。

 

タオさんは、その間に鐘の中を調べていた。

 

やがて二人はハンドサイン。

 

遺跡の中を戻りつつ。

 

タオさんは、途中にあった墓所の。墓石らしいものをメモし。

 

ライザさんは、其処にたくさん割いていた。儚げな花を、たくさん採集していた。パティもライザさんに言われて採集を手伝う。

 

途中にとても恐ろしい虫が出て来て、ひっと声が出そうになる。

 

泣きそうになってしまったが、堪える。

 

羽音を聞くだけでぞっとするほど虫が苦手なのだ。

 

タオさんは墓石の文言などを写し取るのに忙しいフリをして、手伝ってくれない。

 

タオさんも虫が苦手なのは、パティも知っている。

 

ただタオさんは、パティほど苦手ではなくて、最悪の場合は触れるようだ。

 

部屋に大きな蜘蛛が出て、パティが完全に固まっていたときなんかは。嫌がりながらも、穏当に部屋から追い出してくれた。

 

それだけでもパティよりちゃんとしている。

 

一度遺跡から出る。

 

そして、外で話をした。

 

「あの鐘だね。 多分奥に何かある」

 

「高度な魔術的な装置があると見て良さそうだけれども、破損していたよ。 いわゆるベロの部分がない」

 

「そんなものでいいなら作るよ。 どう造れば良いか分かる?」

 

「鐘に刻まれていた魔術的な紋様はメモしておいた。 解析できる?」

 

ライザさんがメモを見ている。

 

パティは残念だけれども、役に立てないと思う。

 

先に、タオさんがいう。

 

「たくさん鎧があったでしょ、パティ」

 

「はい。 事切れた戦士かと思って、鎧を開いた時にはちょっと怖かったです」

 

「その可能性もあったけれど、開いて見て分かったよ。 あれは幽霊鎧だ」

 

「ええと……」

 

そんなものは聞いた事がない。

 

幽霊話は幾らでも聞いたことがあるが。

 

今の口調からして、それは魔物だろうか。

 

「岩で作ったゴーレムと違って、鎧を魔術的に動かしているガーディアンだよ。 さっきまで見ていたのは、一番新しい古代クリント王国時代のものとは、また形式が違っていたんだ」

 

「ガーディアン……」

 

「そうだ。 多分遺跡が生き返ったら、一斉に動く。 今のうちに破壊してもいいけれども、必ずしも敵対するとは限らないからね」

 

「分かりました。 気を付けます」

 

ライザさんが咳払い。

 

空を顎でしゃくってから、告げる。

 

「羅針盤で、情報を調べるよ。 鐘を動かすのは、その後でいい」

 

「分かった、時間的にもやれそうだ。 此処からは僕達はライザの護衛だ。 パティ、頼むね」

 

「分かりました」

 

緊張する。

 

それにしても、本当に見た事がないものばかりだ。

 

これが冒険というものなのだろうか。

 

こんな凄い人達と冒険が出来る。

 

それだけでも、人生を何度やり直したら経験できることなんだろうか分からない。そう、パティは思っていた。

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