暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
あたしは霊墓に再び足を踏み入れると、羅針盤を開く。
少しずつこれにも手を入れていて、改良をしているのだが。その過程で分かってきた事がある。
この羅針盤そのものに、残留思念がこびりついていたのだ。
それによると、やはりこれは古式秘具。
どうも最初は拷問か何かに使われていたらしく。人間の隠し事を強制的に引っ張り出す目的で作り出されたらしい。
その頃の呼び名は、追憶の羅針盤。
それがいずれ古式秘具となり。
遺跡を調査する人間の間を転々としながら、呼び名が変わっていった。
やがて残留思念を解析できる事から、名前は幽世の羅針盤となり。
それが何百年も定着している。
まあ、あたしとしてはどうでもいい。
ともかく、道具は道具として用いるだけだ。
黙々と墓所を歩く。
羅針盤を使って、残留思念を調べて行く。
周囲にある残留思念の意識を取り込んでいくようなものだ。
それらは幽霊に似ているが、違う。
時々、何かの影が通り過ぎていくが。
それは過去の残像であって。
今、誰かに害をなせるようなものではない。
フィーが、小首を傾げている。
大丈夫といって、先に行く。
フィーも、嬉しそうに周囲を飛び回る。今の時点で、危険がないことは分かっているのだろう。
「魔女様が、疲れたと言っておられる」
「不老不死というのは地獄であるらしいな。 確かにもう休ませて差し上げるのもいいだろう」
「驚天の技を用いて、「備え」を作ってくださった方だ。 備えが既に出来た以上、我等にはもう何も言えぬな」
「騎士隊長どのは、魔女様と最後まで一緒にいることを選ぶそうだ。 騎士隊長どのが、魔女様と一番長く一緒におられたのだし、それもありなのだろうな」
不老不死、ね。
錬金術を使っていて。
比較的簡単に、アンチエイジングの技術は見つけてしまった。
二年前の事だったか。
どうでもいいと思ったので、今までは無視していたが。それはあたしの体が今は若いからだろう。
例えばあたしが年老いたときに。
あの古代クリント王国の連中のようなのが出て来て。
あたし達の後を継いで、錬金術をいい方向に使おうという存在が生まれ出なかった場合。
あたしは満足して死ねるだろうか。
そうは思わない。
何かしらの技を極めて、それを正しく継承できる。
そんな事は滅多にない。
それが出来ていたら、古代クリント王国のカス共みたいな連中は出てこなかっただろう。
何かしらの研究を、生涯かけて行っているような人はどうか。
恐らくだけれども、研究半ばで体が動かなくなったら。その人生を呪うはずだ。
だから、あっさり見つけてしまったアンチエイジングについては、今の時点ではそのままとってある。
いずれ使うべき時が来るかも知れないから。
勿論悪用されやすい技術だから、他人に教えるつもりもない。
灰色だった三年だが。
けっして何も収穫がなかった訳ではないのだ。
そして、それ故に分かる。
「魔女」と呼ばれている存在は、恐らくは錬金術師だと。
少なくともタオが言う650年前だかには。
アンチエイジングによる不老不死に到達した錬金術師がいたのだろう。その技量は、恐らく古代クリント王国のカス共を凌いでいたのかも知れない。
「備えについては万全だろうか」
「既に失われた北の里についても、備えが機能していることは確認したそうだ。 五重の結界ぞ。 更には我等の命を文字通り封じた護りだ。 例え……であろうと、簡単に突破はさせぬ」
「……では大きな被害が出たと聞くな。 それに無理に護りを作ったせいで、辺りの生態系にも良くない影響が……」
「やむを得ぬ事だ。 こればかりは……」
北の里。
なんだろう。これについては、後でタオに話しておくか。
フィーに押し戻されて、我に返る。
おっと危ない、回廊の端に歩こうとしていた。
フィーにお礼を言う。
そして、また羅針盤を用いた。
これは本当に、護衛無しでは使えないのが玉に瑕か。
他にも残留思念を調べて見る。
この墓所は、本当に砦としての使用がメインだったらしく、人々が生活していたわけではないようだ。
砦の内部に墓所を作った理由がわからない。
墓所の周囲で残留思念を集めてみるが。
あまり強い残留思念は見つけられなかった。
無言で、小首を捻る。
恐らくだが、此処で死んでいった人達は、事故やらで死んだ人が殆どだ。残留思念の言葉を聞く限り、戦闘で死んだ人は殆どいない。
魔物との戦闘もあったようだが、それがフィルフサだとは思えない。
ここで、何があった。
羅針盤を閉じる。
タオが、声を掛けて来た。
「ライザ、どう?」
「……幾つか分かった事はある。 それと、あの鐘のベロについても、修理はこれでほぼ確実に出来ると思う」
「そうか……良かった」
地面にうち捨てられていたベロの残骸を、荷車に先に積み込んでおく。
土に半ば埋もれていたので、残留思念がなければ見つけられなかっただろう。
パティが心配そうにする。
「その羅針盤……という道具、何か危険なものでないと良いんですが。 使っているときのライザさん、何だか熱に浮かされているようで……。 普段の快活で意思力に溢れているライザさんとは、別の存在に思えて」
「確かに使っているときは無防備になるね。 だけれども、研究に夢中になっているタオもそれは同じでしょ?」
「えっ。 僕、そこまでかな」
「はい、それは同意できます」
驚くタオ。同意するパティ。
てかタオ、自覚がなかったのか。
タオは集中力に関してはあたし以上。頭の出来については、あたしなんかでは比較にもならない。
だけれども、その集中力が災いして。
集中しているときは、多分刺されたくらいでは気付けない。
パティは出来た子だからいいけれども。
他の女だったら、かまってくれないと拗ねているかも知れない。そういう意味でも、パティの恋路は応援してやりたいのだが。
「いずれにしても、羅針盤を動かしていて、気になるワードは幾つも耳にしたよ」
「やはり此処は何かに備えている場所?」
「そうだね。 それも確定で人間じゃない。 でも、まだ例の奴を相手にしていると考えるのはやはり早計だ」
「分かった。 調査を進めよう」
そのまま外に。
丁度良い時間になっていた。
扉を閉めて、帰路につく。この遺跡までたどり着ける人間はそうそうはいないが、それでも荒らされると困る。
此処はまだ確定していないが。
フィルフサに対応している遺跡の可能性がある。
封じているのがフィルフサ単体だったら別にかまわない。
ぶっちゃけ、王種であっても単体だったら、今のあたし達だったら勝てる。
フィルフサの恐ろしさはあの物量だ。
無理矢理土砂降りを引き越すようなことが出来なければ、各地に雪崩でたフィルフサが、殺戮の宴を作り出しかねない。
王都の貴族共は気にくわないし。
ろくでもない人間が王都にいるのも知っているが。
王都の人間全てを殺させるわけにも。
ましてや、世界中の人間を全部フィルフサのエジキにさせるわけにもいかないのだ。
帰路を急ぐ。
魔物が仕掛けて来るが、今の所大物はいない。
どれも蹴散らしながら進む。
遠くに見えている影。
あれは大型のワイバーンだろう。
もうすぐドラゴンになりそうな奴だ。
ドラゴンは決して凶暴なだけの生物ではないが。ワイバーンは違う。あのくらいの大きさのが、一番危ないかも知れない。
アトリエに到着。荷車を運び込む。
今日は、かなり早くタスクを完了した。
解散する時に、パティが心配そうにする。
「それで、遺跡の調査はこれで終わりですか?」
「いや、あの鐘を動かす。 多分あの鐘が、遺跡の動力になってる。 本番はそこからと見て良いね」
「本番ですか」
「大量にあった幽霊鎧が此方に敵対するか、それとももっと恐ろしいガーディアンが出てくるか」
脅かしたら駄目だよと、タオがいうけれども。
一応、最悪の事態がどうなるかについては、話をしておいた方が良いはずだ。
パティは青ざめて、覚悟は決めておきますと言う。
そのまま、解散。
あたしはこれから、調合だ。
鐘の周囲を羅針盤で調べているときに、残留思念を取り込んで、鐘の製法については理解した。
あの鐘は、大気中の魔力を……違う。周囲の生物全ての魔力を少しずつ吸い上げる、いわゆるポンプだった。
少しずつとはいえ、周囲の生物全ての魔力を吸い上げるのだ。
墓場にたくさん生えていたあの花は、死者を悼むためだけのものではない。
恐らくは、生命力を担保するためのものだったのだ。
調合を開始。
駄目になっているベロをエーテルで要素ごとに分解。
それを修復していく。
鐘は恐らく、錬金術の粋を尽くして作ったもの。
錆びないように徹底的に調整もされていた。
つまりあれは、今のあたしと同格くらいの錬金術師が作ったもので。それ故に、悠久の時を耐えたのだ。
問題はベロで、これは普通の鍛冶師が指定された通りに作ったものだ。
故に、調整をし直さなければならない。
修復を続ける。
何回かに分けてインゴットを投入。
そうして要素を補填していく。
ベロの仕組みは理解しているので、刻まれていた魔術的な紋様なども、全てこの過程で修復。
その作業は、難しくは無い。
淡々と修復を続けて行き。
やがて釜から、新品同様に仕上がったベロが出来上がる。フィーはあたしの頭に乗って、その様子をじっと見ていた。
集中が途切れないように、配慮してくれている。
やっぱりこの子。
頭が良すぎるな。
人間の子供だったら、ブーブー文句を言うだろうし。遊んでほしいと駄々をこねるはずだ。
いや、人間でなくても、犬や猫でもそれは同じだろう。
この子は、一体何だ。
「ごめんね、後で遊んであげるからね」
「フィー!」
「それにしても、本当に水だけでいいんだね。 何か食べなくてもいいの?」
「フィー! フィーフィー!」
今の時点では、調子が良さそうだな。
だけれども。
昆虫の中には、成体になってからは交尾をしてすぐ死んでしまう種もいる。
フィーもその可能性はある。
ただ、タオが毎日見てくれてはいるが。痩せたりしている様子もない。
魔力を食べている可能性が高いと言う事で。
それなら、ドラゴンに近い生物というのも、納得ができる。
だが、本当にそれだけか。
あたしとしては、最悪の事態には常に備えなければならないのだ。
さて、ベロを荷車に移して、一旦ここまでだ。
バレンツ商会に出向く。
クラウディアは此方に向かっているらしいと言うだけで。それ以上の情報はなかった。手紙も来ていない。
筆まめなクラウディアなら、手紙くらい書きそうだと思ったのだけれども。
それもないようだった。
バレンツ商会から出る。
そうすると、夕暮れの街に。
見覚えがある人がいた。丁度あたしを待っていたらしい。
「よう」
「クリフォードさん」
「悪いが、昨日様子を見せてもらった。 ……もう気付いているようだが」
「やっぱりあれは、クリフォードさんでしたか」
お互い苦笑い。
まああたしもそれは分かっていたので、何も言わない。
口元を独特のマスクみたいなので隠しているクリフォードさんは。相変わらずフィーをナンパして。
そしてすぐにふられて、からからと笑うのだった。
「まだママの方が大事な年頃だよな。 俺のような大人の色気のある男の良さはわからんか」
「それはそうとして、何用ですか」
色事自体にあんまり興味がないので、あたしとしても塩対応になるのは仕方がない。
クリフォードさんは、咳払いし。
口調を改めていた。
「何が目的で、あの遺跡を調べている。 俺も実は一度扉を開こうと試みて、断念した口でな」
「今の時点では答えられません」
「そうだろうな。 では、俺は俺で信頼を得るべく努力するとするかな」
そして、手帳を見せてくれる。
どうやら、この近辺の事を調べたものらしい。
「其方のブレインはあの眼鏡の青年だろう。 学院の歴史に残る俊英らしいな」
「そう言われているようですね」
「俺の方は其処まで頭は回らないが、代わりに長年トレジャーハントをしてきた経験と蓄積してきた情報がある。 この辺りの遺跡で、多分手つかずのものが重要になると見て良さそうだが、違うか?」
「鋭いですね」
なるほど、本職であるのは事実か。
タオのことも調べてきているという事は。あたしの素性ももう知っているとみて良さそうだ。
「何が目的ですか?」
「そう警戒するな。 俺はトレジャーハンターだ。 わざわざ荒事をして生活費を稼いで、それでトレジャーハントをしているくらいのな」
「意味がよく分からないんですが」
「俺の目的は宝だ。 それも一財産稼げるような、てものじゃない。 ロマンをかき立ててくれる宝を見つける。 それが俺の人生の目標でな」
それはまた、酔狂なことだ。
ライザは苦笑いする。
此方の目的が、世界を滅ぼしかねないとんでもない存在の発見と早期対策だと知ったら、この人はどう思うのだろう。
「……この辺りで、まだ人が確定で入っていない遺跡について、情報を持ってきてやる。 それを見次第、俺を仲間に入れてくれないか。 俺の戦闘の腕前は、何度か見せたと思うが」
「ふむ」
「まだ何か足りないか」
「いえ、此方も手数が足りないと判断していたところです。 分かりました。 其方にとって恐らく生命線であろう遺跡の情報を提示してくれるなら、此方もそれに乗ります」
宝が目的か。
実の所、遺跡にある宝物財宝には、あたしはあんまり興味がない。
錬金術の産物だったら興味はあるが、それ以外の宝石だの何だのは。正直どうでもいい。
クラウディアは宝石が大好きだったっけ。
宝石が嫌いな女の子なんていないと思うって時々口にしていたけれど。
あたしは正直、そこだけは理解出来なかった。
あんな光るだけの石。
魔力媒体以外に、使い路なんぞないし。
最低限の身繕いは心がけているが、それは好きでやるものではなくて。舐められないためのものだ。
いずれにしても、利害は一致しているか。
それにだ。
フィーはナンパされるのを嫌がっているが、実の所あたしはこの人に対して悪意の類は感じていない。
それならば、別に良いだろう。
「よし、じゃあ条件は成立だな。 今調べている本にちょっとした情報があってな、提供できるようになったら持ってくる」
「期待しています」
「ああ、期待していてくれ。 俺は出来る男だぜ」
まあ、自分に自信を持つのは良いことだ。
自分を鼓舞する事で、力を発揮できる人間は確かにいる。
あの人は、そういう人なのだろう。
とりあえず、一度農業区を見に行く。
まだ、今日は動ける。
出来る事は、出来るうちにやる。
今はいつ、全く身動きができなくなるほど忙しくなるか、分からないのである。
ならば、やれることはしっかりやっておかなければならなかった。
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