暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
すっかり飲んだくれに堕落した、元傭兵の親父のようにならないと誓って旅に出た彼ですが。
幾つもの現実にたった三年で打ちのめされていました。
レントはずっと旅先で暗鬱としていた。
ライザから手紙が来ていることは何度かあった。バレンツ商会の連絡網を使っているので、それで連絡が来るのである。
レントの手紙の内容が、明らかに素っ気なく、雑になって来ている。
近況報告しかない。
そういう指摘を受けて、ごもっともとしか答えられなかった。
レントは、旅先で完全に詰まっていた。
成人したレントは、色々と試してみた。
いわゆる性風俗にも足を運んでみたが、さっぱり面白くもなんともなかった。戦士として戦う事の方が、どうやら色事より面白い。
それがレント自身の結論だった。
ひたすらに各地で戦闘を積み重ね。
ライザが作ってくれた装備の助けもある。
それで、多くの人を救った。
村を脅かしている大物の魔物を、何度も倒した。
歴戦の傭兵でも手も足も出なかった相手を、何度も撃ち倒した。
小型とは言え、ドラゴンともやりあった。
何日も掛けて相手を追って、ついに仕留めたときには、喚声が喉の奥から迸ったものである。
だが。
それらの戦果を見て。
助けたはずの人間は、誰一人として喜ばなかった。
勿論、誰かに喜んでほしくてやっていることではない。
自分の腕試しが第一だ。
だが、親父と同じ状況。
今ではすっかり飲んだくれのクズになり果てた親父が。行く先々で、どれだけ魔物を倒しても怖れられるだけだったと。
泥酔しているときに零した事を、レントは聞いたことがあった。
それと同じ状況になっている事に、レントは気付いてしまったのだ。
それから、どうにも振るわない。
彼方此方、知らない場所を旅してもみた。
冒険した、あの時。
ライザ達と一緒に、彼方此方を冒険して。
強大な敵と戦って。
色々な出来事の謎を解いて。
そしてオーリムに居座っていた蝕みの女王を撃ち倒して。
それで。
あの時の、輝くようなひとときは、どうしても得られなかった。いつの間にか、何をやっても楽しくなくなっていた。
そして、今日。
村を脅かしている魔物がいる。
そうバレンツ商会に聞いたので、足を運んだ。
ちいさな村だ。
人間も二十人ちょっと。
よくもこれで暮らしていられるなと思う、極貧集落だった。住民はみんな着の身着のまま。
家屋も殆ど張りぼてだ。
魔物に、既に何人も食い殺されているという話だ。
現地に先に来ていた傭兵は、見覚えがあるようなないような。
そうだ。
バレンツ商会で何度か顔を合わせたメイドにそっくりだ。ていうか、戦士だと一目で分かるほどの力量なのに、どうしてか格好はメイドだ。
「あんたは」
「その反応は……私の一族を他にも見た事があるのでは」
「あ、ああ、そうだな。 その通りだ。 俺が見たのは、クーケン島に今はいるフロディアって奴だった」
「フロディア……なるほど、私の一族の一人ですね。 私はカーティア。 よろしく」
あのフロディアというメイド、非常に強かった。
メイドと言うより冥土だったような気がする。
ともかく、その一族なら心強い。
他にも時々見かけたが、世界中に根を張っているということなのだろう。逞しいというかなんというか。
ともかく、見た目は無表情なメイドだ。武器も手にしているが、いわゆるポールアックスである。
ごく標準的な使いやすい武器の一つ。
どうしても長柄は、戦場の主役になる。それは「軍隊」とやらが存在していた時代から、今に至るまで変わっていない。
他にも何名か傭兵が来たが、どれも使えそうにない。
このカーティアという人物と、一緒にやっていくしかないだろう。
村の長老を、カーティアが呼んでくる。
年だけ無駄に取った感じの老人で、クーケン島にいたウラノスさんやら白髭さんやらのような、古豪の雰囲気が全く無い。
こんな辺境で、明日をも知れぬ生活をずっと続けていたのなら仕方がないだろう。
そう割切って、話を聞いていく。
まず魔物だが。
ラプトルの群れだという。
極めて危険だ。最悪の事態と言える。
旅に出てよく分かったが、群れを作るだけの鼬と違って、ラプトルは厄介だ。知能が高い上に俊敏で、攻防も優れている。鼬は正直魔物としてはそれほど人間を食い散らかすような危険性は無いが。
ラプトルは躊躇なく、人間を殺戮しにくる。それも組織的に。しかも相手が弱いと判断すると、村ごとつぶしに来て、全て食い殺しにくる。
ラプトルは雑食性だ。必要に応じて植物も食べる。そして旅に出てから思い知らされた。
雑食の生物の方が、肉食の生物より貪欲で、生命力も強い傾向にある。そう、人間がそうであるようにだ。
似たような性質を持つ魔物に、熊などの系統がある。
しかも、熊は群れないのに対して。
ラプトルは群れを作り。しかも単体の戦闘力が、個体にもよるが熊以上だ。その危険性は、下手をすると手練れの傭兵達でも返り討ちに遭う。
ただ、ラプトルが増えたのは、例の。
古代クリント王国が滅びてかららしい。
こういう所でも、古代クリント王国の錬金術師どもは、迷惑を現在にかけ続けているとも言える。
いずれにしても、やらなければならない。
村長は、ラプトルの群れの数や、規模なども把握できていなかった。
それどころか怯えきっていて。
挙げ句の果てに、とんでもないことを言い出した。
「来て貰って申し訳ないが、金など払えない……」
「なんだと」
「だから、村の役立たずを何人か奴隷として売るよ。 成功報酬だがね」
奴隷は、辺境だと健在だ。
だが、こういう形でそれに関わるとは思わなかった。
怒りが沸騰しそうになる。
この無能な村長が原因で、この村が滅びようとしているのではないか。此奴が一番無能なのだし。この老人を奴隷にするべきでは無いのか。
この手の発言をする輩は、基本的に自分は別だと考えている。
それはレントも、旅をしながら幾らでも見て来た。
反吐が出ると思ったが。
咳払いして、カーティアが言う。
「いえ、この村の痩せこけた人間など、奴隷としては役に立ちません」
「し、しかし金など払えませんが……」
「この村の所有権を貰います」
所有権。
傭兵達が呆れているが。村長に、カーティアは更に冷酷に言い放った。
「役立たずを奴隷に差し出すと言いましたね。 一番役に立っていないのは貴方ですよ、村長」
「な……」
「全員ラプトルに食い荒らされるか、それとも村長を降りるか今決めなさい」
村の人間達。
幽鬼のように痩せこけている者達が、じっと村長を見た。
村長はわなわなとふるえていたが。
やがて、無念そうに頭を垂れた。
傭兵達が、困惑している。
「そ、それで金はどうするんだ」
「バレンツ商会の方で、この村を中継地にします。 以降、出世払いで返して貰う事となります。 貴方たちには報酬を働き次第で払うので、ご心配なく」
「そ、そうか……」
「レントさんと言いましたね。 貴方には期待しています」
他には期待していないと暗に言っているようなものだ。
感情が薄かったフロディアを思い出す。
この一族は、みんなそんな感じなのだろうかと思っていたが。
このカーティアというメイドさんは、どうも激情家らしい。同じポーカーフェイスでも、色々と違うのだろう。そういえば似ていると言っても、少し顔立ちとかも違うだろうか。
ともかく、まずは村の周囲を見て回るが。
堂々と斥候が出て来ていて、呆れた。
即座に仕留める。
レントがたちまちの内に二体を斬り伏せたのを見て、他が逃げ出す。凄まじい勢いで投擲されたポールアックスが、一体を背中から串刺しにした。
他の傭兵が唖然としている中。
死体からカーティアがポールアックスを引き抜く。
「斥候はこの程度。 群れの長の強さ次第と見て良いでしょう」
「流石に出来るな……」
「貴方、専属でバレンツ商会に雇われませんか。 重役の友人と聞いていますが、貴方ほどの技量であれば、安定した給金を保証しますが」
「いや、俺はまだしばらくは自由でいたいんでね」
警戒しながら、レントはそう返す。
フロディアに比べると、ずっと人間らしい、打算も働く奴だな。
そう思った。
ある意味、フロディアよりも更に怖い相手なのかも知れなかった。
案の定、他の傭兵は全く役に立たない。
村の周囲を探索すると、食い荒らされたラプトル以外の魔物の死骸が山ほど出てくる。村の周囲にわざわざ死体が放置されている。これはラプトルの群れが餌をとりながら、村の対応力を見ていた、と判断して良いだろう。
そして村が抵抗できる力がないと判断したから、人間を襲いはじめた。
食い荒らされた人間の死体を見つけたので、荼毘に付す。
痩せこけていて、まだ子供だった。
子供を殺されて抵抗してこないなら、対応する力がない。
そう判断したから、ラプトルはあそこまで大胆に偵察に来ていたのだろう。
怒りが湧いてくる。
知能が高い魔物は、悪意も持っている傾向がある。
フィルフサの王種である蝕みの女王もそうだった。
ライザがカチキレていたのを覚えている。
あいつの身勝手な悪意は、それこそ人間の悪人のようだったからである。
夜になったので、一度村に。
ラプトルは数体を失うと、さっと引き揚げて行った。
だが、この村を諦めたとは思えない。
多分戦力を再編制して、一気に襲ってくると見て良いだろう。
せっかくのエサ場を手放すようでは、他の魔物との縄張り争いに負ける。しかも、ラプトルのこの食い荒らした跡を見る限り。
この群れの長は、相当に悪賢い。
そうなってくると、なおさらだ。
餌を見逃す筈がない。多少の困難程度だったら、だ。
交代して見張りを取る。
かなり危ない仕事に足を突っ込んでしまったことを悟った傭兵達は、青ざめていたが。レントは声を掛けて回る。
「多分ラプトルの群れは、この村をまだ遠巻きに見張っていやがる。 逃げ出したりしたら、真っ先に食われるぜ」
「おいおい、冗談はよしてくれよ……」
「冗談なわけないだろ。 ラプトルの狡賢さくらい知っておかないと、傭兵としては生きていけないんだよ」
「ひ……」
明らかな怯えが傭兵達の顔に走る。
これで必死になるとは思うが。
ただ、傭兵と言ってもみんな腕自慢というわけでもない。
中には粗末な武器しか持っておらず、ただ数あわせでこの仕事をしている人間だって多いのだ。
こんな世界である。
仕事なんて選んで生きていられないのだ。
それはレントだって分かる。
だから、なんで傭兵なんてやっているとか、無情なことは言わなかった。
時間がある内に、仕留めたラプトルを捌いておく。
腹の中からはやっぱり人間の残骸が出て来た。それは別にして埋葬する。
流石に肉は食べる気にはならなかったので、皮を剥ぎ、爪を剥がして、それは別にしておく。
傭兵達は素人だったから、これらは金になると教えて、気前よく分けた。
どうせ群れが来たら、目の前の小金なんて役にも立たない。
傭兵達が少しでもやる気を出してくれればそれでいい。
肉は捨て置いたのだが、村の連中がいつの間にか持ち去って、奪い合うように食っていた。
そこまで見境がなくなるほど餓えているのか。
これは、カーティアが言ったバレンツ商会で村の権益を貰うと言うのは。
或いは、保護としては妥当なのかも知れなかった。
実際にはなんの権限も武力もない貴族やらが来るよりも、何倍もマシだろう。そう思うと、現実的な策なのかも知れない。
朝が来るまで交代で眠り。
そして、数日、ラプトルと攻防を続ける。
そうして分かってきた敵の規模は、およそ五十体と言う事だ。
相当な規模の群れだが、それよりも問題なのは。此処で食い止めなければ、更に増える。
味を占めて、他の集落も襲う。
その事だ。
今のうちに仕留めておかなければならない。
攻防を続ける内に、八体を合計で仕留めた。
死体は回収して、村の側に解体した後は積み上げておく。
さて、恐らくそろそろ被害が無視出来なくなって出てくる筈だ。そう判断していた、次の日の夜明け。
ラプトルの群れが、仕掛けて来た。
役立たずだった傭兵達が、それでも戦闘で慣れてきたのだ。いち早く用意しておいたドラを叩き鳴らして、それで目が覚める。それだけやってくれれば充分だ。
剣を手に起き上がると、既に周囲は騒然としていた。
村を囲んで、ラプトルの群れがずらっと勢揃いしている。
なるほど、まともに戦えるのはレントとカーティアだけだと判断して、一斉攻撃に出るつもりか。
正しい判断だ。
すぐに、カーティアが声を張り上げた。
「事前の指示通り一つの家に!」
村には防柵どころかまともな防衛設備もない。昔はあったようだが、すっかり朽ち果ててしまっている。
生き残った村人が、一つの家に必死に逃げ込む。
経験が浅い傭兵達も、家の周囲に集めた。
レントは前に出る。
既に村の地形は把握している。敵が押し寄せようと、家が邪魔にはなるから、これである程度一度に相手にする数は絞れる。
村人が逃げ込むのを、ラプトルの群れは敢えて待っていた。
多分、まとめて効率よく狩るためだ。
そして、此方の動きが止まるのを待ってから。
一斉に仕掛けて来た。
どっと、山崩れが起きるような音だ。
一度経験したことがある。フィルフサと戦った時だ。あの時は生きた心地がしなかった。今は、もう慣れている。そう、慣れだ。誰だって、最初は未経験。
傭兵達が明らかに顔を歪めて、恐怖の声を上げる。
そんな中、レントは前に立ちふさがっていた。
経験者だ。だから、優先して見本を見せる。それだけだ。
「来やがれ!」
こんなケダモノ。
フィルフサの群れに比べれば、なんてこともない。
先頭の一頭が、好戦的に飛びついてくるが。それを文字通り一撃で斬り倒すと、雄叫びとともに右に左にラプトルを斬り伏せる。
仕留め損なったのもいるが、それは傭兵達が必死になって長柄で寄って集って突き刺して、なんとか殺す。
レントは敵を斬り続ける。カーティアも、もう一方の護りを単独でやってくれているようだ。
凄まじい唸りとともに、ラプトルが吹っ飛ぶのが見える。
カーティアの一撃だ。
パワーもレント以上かも知れない。
あのフロディアの同族だけはある。
世の中には、まだまだ強い奴が幾らでもいるな。
感心しながら、レントも剣を振るう。
立て続けにラプトルを斬り倒して、襲いかかってきた奴を唐竹にたたき割る。十体を倒した辺りで、血震いして顔を上げると。
そこには、明らかに危険なサイズのラプトルがいた。
感じる威圧感が段違いだ。
ライザやタオ、クラウディアがいれば。こんな奴、絶対に負けないどころか。ヤバイとすら感じなかっただろう。
だが今は、レントは片方の護りを単騎で対応しなければならない。
ライザに貰った爆弾は、とっくに使い果たした。
薬は時々バレンツ商会経由で送って貰っているが。これは出し惜しみしていられないだろう。
指先で、相手を招く。
体力の残りには、あまり自信がない。
速攻で決める。
「来いよ。 群れの長だろ。 俺が怖いか、ああ?」
不遜と受け取ったのだろう。
ラプトルの群れは、鋭く一声鳴く。部下達がさがる。
それと同時に、突貫してきた。
大丈夫。
速さもパワーも、三年前にライザ達と倒した魔物には、上の奴が幾らでもいた。レントは体格が更に大きくなって、力だって強くなっている。
それなのに、どうして大丈夫と言い聞かせないといけないくらい不安なのか。
戦いが始まる。
流石に長。
一撃をかわすと、鋭い爪でひっかきに来る。ひっかくといっても、ラプトルの爪は一つが飛び出していて。
それそのものが必殺の刃として、貰ったら人間程度ではひとたまりもない。
咬合力も凄まじいし、尻尾の破壊力だってとんでもなく大きい。
更に、これくらいの大きさの個体となると、今レントが使っているゴルトアイゼンの刃にも耐え抜くことがある。
魔物はこの過酷な世界で、他の魔物と食い合いながら生きてきているのだ。
下手な人間ではどうにもならない。
激しく数合を撃ちあうと、ラプトルのボスは一端跳びさがる。吠える。部下達が、襲いかかってくる。
カーティアは。
気配から言って、敵の群れと交戦中。支援は無理だ。
傭兵が一人、喚きながら槍を突き出す。それが、ラプトルの一体に突き刺さって、一瞬だけ意表を突いた。
ありがたい。
そのまま、腰を入れて全力で振り抜く。
数体にまとめて致命傷を与えながら吹っ飛ばすが。
その隙に、ラプトルのボスは、大きく飛んでいた。
大剣を盾に防ごうとするが、地面に叩き伏せるようにして押し倒される。がつんと、目の前で巨大な顎が閉じる。何度も、ラプトルのボスはレントをかみ砕こうとするが、必死に押し返す。筋肉が悲鳴を上げる。
ラプトルのボスは、人間との交戦経験が豊富なようで。的確に殺そうとあらゆる武器を使ってくる。
押し倒されたまま、体中が傷つけられる。
だが、ライザがくれた装備のおかげで、痛みも緩和されているし、傷も回復し続ける。それが追いつかなくなった瞬間、殺されるだろうが。
気合いを入れて、ラプトルのボスを蹴り上げる。
飛び離れようとしたラプトルのボスに、こっちも飛び起きると、タックルを浴びせる。
裂帛の気合いとともに、一撃を振り下ろし。
ラプトルのボスはそれをかわすが。
踏み込みと同時に、切りあげ。
ざっくりと顎から脳天に掛けて切り上げる。
だめだ、浅い。
派手に鮮血をぶちまけるが、それでもラプトルのボスは蹈鞴を踏みつつ踏みとどまる。
悲鳴を上げる傭兵。
更に数体の生き残りが同時に襲いかかっている。急いで助けないと、殺されるだろう。だが、こっちも手を貸している余裕がない。
大上段に構えを取る。
ラプトルのボスは、体勢を低くした。
この種族が、もっとも力を出せる、必殺の構えだ。次の一撃で決めに来る。どうやら狡猾ではあるが、戦闘そのものは堂々と行おうとする奴らしい。
ちょっとだけ、見直した。
ただの残虐な畜生だと思っていたのだけれども。
考えを改める。
この村の、無能な村長よりかずっとマシだな。
そうとすら思った。
激突は一瞬。
交錯した瞬間、脇腹を抉られていた。
激しい痛みが、焼け付くようにして全身に走る。
だが、次の瞬間。
頭をかち割られたラプトルのボスもまた、倒れ臥していた。
痛みを堪えながら、傭兵達に襲いかかっているラプトルを叩き臥せる。その時には、カーティアもラプトルの群れを、片付け終えていた。
手当てを受けながら、後の始末をカーティアに任せる。
痛い痛いと傭兵が悲鳴を上げている。左腕の肉を食い千切られていて。確かに酷く痛そうだった。
ライザから貰った薬を分けてやる。
本当に傷が溶けるように消えるのを見て、凄いなと今でも思う。
ライザが錬金術を覚えてから。
世界が変わった。
その日のことを、今でも思い出すようだ。
「こ、これは神代の奇蹟かなにかか?」
「いや、俺のダチの作ってくれた薬だよ。 神代の奴らがどんな存在かは知らないが、俺が思うにそんな奴らより上だと思うぜ。 錬金術っていうものの産物だ。 覚えておいてくれ」
「あ、ああ……。 ありがとう。 俺たちだけだったら、もう絶対に助からなかった」
感謝してくれる傭兵達。
だが。そうではない者達もいた。
カーティアが連れてきたのは、厳しい表情をした何人かの商人。
商人と言っても、明らかに荒事を経験しているツラをしている。
多分バレンツ商会の下っ端だろう。
レントをゴミでも見るように一瞥したが。カーティアが咳払い。
「彼はあの大型ラプトルを討ち取った凄腕だ。 今後大口の客になる可能性も高い」
「はっ! 失礼しました!」
「指示通り村の接収を開始しろ。 この村はバレンツ商会で以降管理する」
じっと、此方を恨みの目で見てくる村長。
他の村の者達は、明らかに無気力なほどに痩せこけている。
確かに奴隷なんかにしても、何の役にも立たないだろうし。
レントはそもそも、他の人間を奴隷にして使い潰した、古代クリント王国のカスどもの所業を見て来ている。
そんな連中と同じになるつもりはない。
いずれにしても、感謝は今回もされないか。
それどころか恨まれる。
この様子だと、ラプトルと相討ちにでもなってくれることを期待していたのだろう。救いようがない連中だ。
貧しいものが、必ずしも正しいわけではない。
それは知っていた。
金持ちが正しいわけでも、優れている訳でもない。
それと同じだ。
そして、レントは少しずつ諦めつつある。
この恨みの視線を、今までに何度も受けて来た。
恐怖と拒絶の視線も。
親父の気持ちが、少しずつ分かり始めている。ああは絶対にならないと決めている筈なのに。
物資が運び込まれてくる。
村の防備がまず整備され。そしてバレンツ商会の支部が作られるのだ。
しばらくは別に行くところもないし、路銀もいる。
助けた傭兵達とともに、村の復旧と要塞化を手伝う。同時に、村には流れ者らしい人間が連れてこられた。
これは、多分村がある程度復旧したらもめ事になるんだろうな。
そうレントは思って、うんざりした。
村長は正式に書類を書かされて、引退させられる。
人間の生存圏が狭くなる一方の時代だ。
魔物から命を拾っただけでもめっけものである。そんな時代で、ずるずると生きてきただけの老人に。
権力を預けるほど、此処に余裕などは無い。
だが、老人はレントを恨みの目で見続けていた。
その恨みの目は。
当面、忘れられそうにもなかった。
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