暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
遺跡の地図は作り直しだ。今まで羅針盤で得てきた残留思念の情報をまとめる限り、これだけではなく複数の「封印」がある可能性が高い。
勿論その「封印」の正体は分からない。
ただ、被害が出た云々の話から、ろくでもない代物を封じているのは明らかで。フィルフサそのものだったり、或いはオーリムへの門だったりするかも知れない。
その「封印」だって、何処にあるか知れたものではない。
ロテスヴァッサの王宮内にあっても不思議ではないし。
既に暴かれた遺跡の中で、誰もが分からないうちに踏みにじられている可能性だってあるのだ。
そう考えてみると、調査は急務だ。
こんな気持ちで、アンペルさんとリラさんは各地を回っていたのかな。
そうあたしは思う。
タオが手を振って、此方は大丈夫と示してくる。そうやって、夕暮れ近くまで地図を作り直した。
遺跡内を彷徨いている幽霊鎧は、今の時点では敵対はしてこない。敵対してくる場合は、面倒だとも思うのだが。
ただ、今の時点では放置でいい。
全て破壊するのも手間だ。
何しろ此処は、足場が悪すぎるのだから。
「!」
足を止める。
向こうで幽霊鎧が、ぷにぷにを寄って集って始末している。
元々大きさ次第では非常に危険な魔物になる存在だ。何処にでも住むから、街の中に入り込んでくる事もある。
クーケン島でも、どうやって入ってきたのか。たまに出て騒ぎになる事がある。
かなり危険な生態をしているので、始末しておかないと危ないのだ。
まあそういう意味では幽霊鎧は相応の仕事はしているが。
その刃は、此方に向かないとは限らない。
墓場には、複数の幽霊鎧がいて。
厳格に其処を守っていた。
やはり彼処は、遺跡の生命線と言う事なのだろう。
もう近付く事は出来ない。
少なくとも、今の時点では。
下手に近付くと、間違いなく此奴らは攻撃してくるだろう。
黙々と奧へ。
鐘の奧に、道が出来ている。
今まで断線していた回廊が、岩などが浮遊してきたことで、つながったのだ。何しろ平面になったこともある。
荷車をそのまま引いて、奥に行くことも可能だ。
ただ通路がギリギリである。
荷車を一度おいて、奥に行く事も見当しなければならない場面もあるだろう。
これはこれは。
中々に危ないな。
そう思いながら、奧へ進む。
時々パティを気に掛ける。
やはり、あれだけの事があったのだ。どれだけ先に進むのに大事な事だったとしても、先達としては気に掛けないといけない。
最初から完成形の人間なんていない。
そもそもパティのお父さんであるアーベルハイム卿だって、成り上がって貴族になったのである。
戦士として散々前線で苦労して、武勲を積んでの結果だろう。ロテスヴァッサみたいな腐った国で成り上がるのは、本当に大変だったのが分かる。
その苦労で潰れないためにも。
先に苦労した人間が、支援するのは当たり前の事なのだ。
広い場所に出る。
ここら辺は、回廊が全然高度が違った事もあって、先には確認できなかった。先にタオが地面を調べる。
奥にあるのは何だ。
強い魔力を感じるが。
「フィー、大人しくしていてね」
「フィー!」
興奮気味だ。
さっき疲れて、それでだろうか。
いや、なんかおかしいな。
だけれども、何がおかしいのか、あたしには判別がつかない。
魔術師としての勘がおかしいと告げている。魔力量が大きいあたしの勘は、馬鹿にしてはまずいものだ。
だけれども、どうしてだろう。
具体的に何がまずいのか、分からないのだ。
「何か奥にあるね」
「何でしょう。 墳墓でしょうか」
「もし何かしらの大きな墓だとすると、鎧達が仕掛けて来る可能性はあるけれど……仮に遺跡の中心が此処として、ガーディアンは恐らくあれか」
「えっ……」
パティが二度見する。
あたしが見ている先にあるものを。
それはこんもりとした巨大な金属の塊に見える。だけれども、それはもう崩れてしまっている。
回廊は元々劣化しきっていた。
それは経年によるものだ。
鎧だってそう。
小型の鎧はまだ良かったのだろう。だが、あの巨大な塊は、それだけデリケートなテクノロジーの産物だった筈。
金属の塊に魔術を掛けて、はいガーディアンですとは行かないはずだ。
あたしも錬金術をやっているから分かる。
如何に古代クリント王国の錬金術師どもでも、それ以上の錬金術師がいたとしてもだ。
あれはもうガーディアンとしては死んでいる。
逆に言うと。
あれくらいのガーディアンをおくものが、此処にあったのだ。そう判断しても間違いないだろう。
タオがすぐに金属塊を調べ始める。
頷いているのは、あたしの推測が当たりと言う事だろう。
タオが呻く。
「此処のガーディアンは死んでいた。 でも、今までの情報を総合すると、封印というのは複数ある。 他のガーディアンが死んでいるとは限らないよ」
「うん。 五つあるとしても、もしも他の封印がまだ生きているとしたら……保存状態がもっといいガーディアンが配置されていてもおかしくは無いね」
「それに……」
あたしは足を止めていた。
一斉に、幽霊鎧が此方を見る。
難しい言い回しで、幽霊鎧が何か言っている。タオがそれに応じていた。
タオが剣を構える。
「まずいね。 この辺りの幽霊鎧、多分機能が壊れてる。 来る!」
「構えてパティ」
「はい!」
壊れたマリオネットのような動きで。
周囲から、わらわらと幽霊鎧が集まり始める。
その動きは、明らかに生理的嫌悪感を誘うようにデザインされている。これは盗掘者を確定で殺すためのしかけだ。
言い訳をするつもりはない。
実際に此処に足を踏み入れているのは事実。
此処は重要な封印がされている可能性もある。
だが、だったらそれについての話をしてくれればいいものを。どうして問答無用で殺しに来るか。
荷車を引いて、さがる。
此処は足場が悪い上に、囲まれる。
まずはさがって、足場がしっかりしている地点まで移動。そこで背中を取られないようにして、まずは体勢を整える。
蹴り技は駄目だな。
此処では下手に踏み込むと、それでも崩れる可能性がある。
「戦闘方法は任せるけれど、足場に大きな衝撃を与えること、大きく動く技は禁止!」
「分かりました!」
パティは素直だ。
襲いかかってくる無数の幽霊鎧。
小手調べだ。
熱槍を叩き込んでやるが、先頭の奴はそれをあろう事か弾いた。魔術によるとんでもない防御だ。
続いて冷却してみるが、熱膨張破壊も通じないようだ。
熱魔術そのものを、ある程度防いでいると見て良い。
それを見て、むしろ驚いたのはパティだ。
「なっ……!」
「斬撃を試す!」
先に前に出たタオが、此方に来る一体を唐竹に斬り付け、更に首を飛ばしに行く。
鎧そのものはそれほど強度がないか。
あっさり刃が鎧を傷つけ、更には首元を大きく抉っていた。
本来の鎧の強度だったら、あんな風にダメージは受けない。見た所、最低でもブロンズアイゼンかもっと上の金属を使っている。形状も、現在その辺で見られる幽霊鎧よりもシャープでテクノロジーを感じる造りだ。鎧全体に魔術を刻み込んでいるのだろう。熱魔術には耐えられても剣が駄目なのは、金属の劣化と錆が要因。何よりそもそも本来だったら剣には耐えられる想定だったと言う事だ。そうでなければ、こう無防備に迫ってこない。
「よし、いける! パティ、鎧を傷つけるように斬るんだ! それで多分ライザの熱魔術で完全破壊できる!」
「分かりました!」
「発破は使わない方が良さそうだね」
「フィー!」
二人が突貫。
おぞましい動きで迫り来る幽霊鎧に、鋭い剣を浴びせる。勿論幽霊鎧も黙ってはおらず、緩慢ながら長柄や剣を振るって抵抗してくる。だがやはり、どうしても動きが鈍くて、タオを捕らえる事は出来ず。
更に、迫ってくる速度がバラバラで、パティも攻撃を充分しのげている。
あたしは傷ついた相手を、一体ずつ丁寧に熱槍を叩き込む。
爆発しないように熱量を抑えつつ、更には熱槍を大きくして。完全に鎧が動かないように調整する。
やはりタオの見たて通りだ。
傷ついている幽霊鎧は、熱槍を叩き込まれると大きく吹っ飛ぶ。
そして溶けてしまうと、それでもう動かなくなっていた。
あれは残留思念とかが篭もっている存在ではない。
ただのからくりだ。
容赦する必要は無い。
後ろも確認する。
狭い通路だが、其方から幽霊鎧が来る様子はない。上も確認する。上から、本命の戦力が来る様子もない。
あの大きい金属塊が、本来のガーディアンで。この幽霊鎧達はそれを支援するための補助線力だったのだろう。
だから性能も雑で。
逆に雑に作られたから、今までの悠久の時で壊れなかったのだ。
タオが双剣を振るって次々に幽霊鎧を傷つけ、残像を作って飛び退く。囲まれないように、上手に動き。
時々左右が疎かになりそうになるパティを支援。
パティも必死に足捌きを駆使して囲まれないようにしながら。
青ざめつつも、緩慢な動きの幽霊鎧を捌いていく。
あたしは順番に幽霊鎧を焼き払いながら、数を数える。
実の所、あまり余裕は無い。
此処は足場が悪すぎる。
本気で暴れたら、あっと言う間に床が崩落して、奈落の底に真っ逆さまだ。
そうなってしまえば、或いはあたしやタオは助かるかも知れないが。パティは死なせてしまう。
それでは負けだ。
「パティ!」
「くっ!」
大ぶりな動作でパティに巨大な金砕棒を降り下ろしてきた、大柄な鎧。あれが床に直撃したら、それだけでも危ない。
しかも幽霊鎧の動きが不規則で、パティがそれに対応できていない。
あたしがとっさに熱槍で幽霊鎧を弾く。
それで出来た隙に、パティが裂帛の気合いとともに、袈裟に斬り下げ、更には腹を切り抜く二連撃を叩き込む。
それでも横殴りに振るわれた金砕棒が、飛び退いたパティの髪の毛を数本散らす。
「よし、充分!」
熱槍を叩き込み、大きい奴を吹き飛ばす。
雑魚の割りには強かったが。
雑魚だったから動けているような奴だ。これで一発である。
「パティ、後で頭の傷を見せて。 今の、擦ったでしょ」
「はい、すみません」
「謝るのはこっちだよ。 嫁入り前の顔に傷なんてつけて」
「な、なんてこと言うんですかっ!?」
真っ赤になるパティだが。
まだまだ幽霊鎧は来る。
本当に面白いなこの子。
そのまま、あたしはタオが傷つけた幽霊鎧を、順番に始末していく。数は既に半減。更に減りつつあるが。
パティが大斧を引きずって迫ってくる巨漢の幽霊鎧に飛びかかって、唐竹に斬り倒して。
その瞬間、流れが変わる。
「フィー! フィーフィー!」
明らかに恐怖を含んだフィーの声。
パティに声を掛けて、跳びさがるタオ。パティもあわててさがる。
あたしは熱槍を十、同時に出現させて、幽霊鎧をまとめて粉砕するが。これはちょっとまずいか。
残った幽霊鎧が、全部まとまり始める。
曲がりなりにも人型をしていたそれが、機能停止していたものも含めて、全てが合体していく。
それはさながら、金属で出来た巨大な四足獣。
まずいなあれは。
あんな重量物が暴れたら、この先に進めなくなる。
それが、目的なのかも知れない。
本来のガーディアンが動かない場合の支援機体だとすれば。そういう事を想定していてもおかしくない。
「タオ、パティ、全力での攻撃を続けて。 仕方がない、もったいないけど切り札を使う!」
「分かったよライザ!」
「切り札……ライザさんのですか」
「大丈夫、物理的な破壊は伴わない!」
熱槍、効果無し。
十本まとめて叩き込んだのだけれども。
だとすると、やるしかないだろう。
金属四足獣が暴れ始めたら全て終わりだ。立て続けに熱槍を叩き込み、敵の動きを阻害する。
金属四足獣は、背中から触手を。金属製の鞭のようなそれを、凄まじい勢いで振り回し始める。
本命戦力だっただろう金属塊すら傷つける、鋭い一撃だ。
パティが、一撃を避けきれず、大太刀で防ぎつつ、もろに吹っ飛ぶ。地面に叩き付けられて、それで動かなくなる。
タオが庇って、数回攻撃を防ぐが、あれは駄目だ。
連続で叩き込まれる触手の火力が大きく、タオがずり下がっている。双剣の技量はかなり上がっている筈だが。
それでも、相手の質量が大きすぎる。
ケダモノだったらまだいい。
相手は金属だ。
見ると鱗のようなパーツが組み合わさって、触手になっている。どういう機構になっているのか、ちょっと興味がある。
タオがパティを抱えて飛び退く。
地面に触手が突き刺さる。
その時、あたしは金属獣の側面から背後に回っていた。
更に二本、金属獣の背中から触手が生えてくる。
横殴りの一撃。
周囲を文字通り、薙ぎ払う凄まじさで。
あたしも跳び避けながら、ちょっとひやりとした。
触手を四本、上に向ける金属獣。
床にたたきつけるつもりだ。
そうまでして、侵入者を排除しに掛かるか。まあいい。悪いけれども、此方も滅びるわけにはいかない。
ガーディアンがこんな有様なのだ。
いずれこの遺跡は侵入されていた。
だったら、専門家以上の知識があるタオがまだ健在なうちに、此処は調べて、封印だかなんだかを解析しなければならなかったのだ。
金属獣が動こうとした瞬間。
あたしは、すっと隙間に通すように。
それを投げ込み。
そして、タオに叫ぶ。
離れろと。
タオが全力で逃げる。
金属獣が、全力で触手を振り下ろそうとした瞬間。
それが、シュトラプラジグが炸裂していた。
雷撃爆弾プラジグの強化型だ。雷撃なので、物理的な破壊は伴わないが、生半可な雷なんか比では無い破壊力をたたき出す。
切り札として持って来ていた一つなのだが。
仕方がない。背に腹は替えられない。
雷撃の直撃で、触手全部が爆ぜ飛んで、動けなくなる金属獣。
あたしは移動しつつ詠唱を開始。
タオは気絶しているパティを床に横たえると、動きが止まっている金属獣の全身を、滅多切りにする。
凄まじい乱舞攻撃だ。
一撃が軽いが、それでも昔のタオとは比べものにならない。手足が伸びるというだけで、こうも強くなるか。
あたしは口の端をつり上げる。
これはパティが惚れるわけだな。
そして、詠唱を完了。
タオが、跳びさがる。通常熱槍1000本をまとめた超火力熱槍が、既に其処に出来上がっていた。
「終わりだよ……」
金属の獣が、全身の装甲を再展開して、盾のようにずらっと並べる。こんな風に運用も出来るのか。
あのガーディアンらしかった金属塊が生きていたら、どれほど手強かったのか。
だが、こいつは壊れかけだ。
しかも今の雷撃で、触手を失った。或いは触手を失う前だったら、それも盾にして展開してきたかも知れない。万全だったら、あたしも更に全力を出さなければ倒せなかったかも知れない。
だが今は。これが現実。
あたしは、叫ぶ。
「いっ、けええええええっ!」
灼熱の槍、いや灼熱の超高熱の波が、金属獣を襲う。展開した盾は、三秒それに耐えたが、それが限界だった。
盾を融解させて。既にタオの攻撃で彼方此方の刻まれた呪文が破損している金属獣を、熱槍が直撃する。
今までは防げていたそれが、魔術防御が弱まっていることもある。
文字通りの上から、金属獣をねじ伏せ。
凄まじい熱と光の中。
溶かし、消し去っていた。
全力詠唱だったら、今の二十倍くらいまで火力を引き上げられたが。それをやると、此処が崩落してしまう。
だからあたしは、狙った地点だけを焼き払うように、魔術制御に細心の注意を払った。
ふうと、あたしは息を吐き出す。
目の前には。
既に体の主要部分は影も形も残さず蒸発した金属獣の残骸の僅かな一部と。
溶けかけて、ぐつぐつと煮立っている床が残されていた。
タオが冷や汗を拭う。
「ライザ、薬を。 パティが何発か貰ってる」
「はー。 パティも気を失っていなければねえ」
「?」
「いや、なんでもない」
本当になんというか此奴は。
まあそれはいい。
そもそも恋愛については、ライザも自身ではやろうと思わないし、興味もないし。
気を失っているパティの体をチェック。傷に、薬をねじ込んでおく。すぐに溶けるように傷が消える。
これならば跡も残らないだろう。
荷車の側で、あたしが大丈夫、というと。
タオは急いで周囲の調査を始める。
パティが目を覚ましたのは、一刻くらい後。
これは、今日は帰りは深夜だろうな。
そうあたしは思った。
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