暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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激戦の末に、遺跡のガーディアンと思われる存在をねじ伏せる事に成功。

しかしダメージは大きく、疲労もまた。

まだ調査している遺跡は数少なく、封印に至っては探し始めたばかりですが、早くも人員戦力の不足をライザは思い知らされます。


3、守護者の奧に

タオが周囲を調べている間に、パティがあたしに謝る。役に立てなくてすまないと。

 

充分やれていたとあたしは答えて。

 

タオが戻ってくると、情報を交換する。

 

「間違いない。 あの大きな墳墓らしいものの中に何かがある」

 

「何があるかは確認しておかないとまずいね。 それと、それは破壊しないように気を付けないと。 破壊するにしても、破壊する必要があると判断した場合になるだろうね」

 

「うん。 ライザ、羅針盤でこの辺りを調べておいて。 パティ、今度は僕達が警戒するよ」

 

「分かりました」

 

少し青ざめているパティだが。それでも、ちゃんと立ち上がる。

 

また死ぬ思いをしたのに。

 

それでも両の足で立とうという気力は凄い。

 

有望な子だ。

 

死ぬ寸前の戦闘を何度も何度も経験すれば、恐らくロテスヴァッサの腑抜けた騎士だのなんて、束になってもかなわない使い手に成長するだろう。

 

文字通りの、鉄は熱いうちに叩け、だ。

 

頷くと、あたしは羅針盤を開く。

 

周囲にある残留思念はあまり多く無い。

 

それに、それほど重要な情報も、聞く事は出来なかった。

 

分かったのは。やはり墳墓の中に封印とやらがあるらしいこと。

 

そして、フィーらしい影をつれている奴がいること。

 

ふむ。

 

ひょっとしてだけれども。

 

古代クリント王国以前に、フィーは彼方此方にいたのか。でも、それだと絶滅動物として、タオが何かしらの資料を見つけて来ても不思議ではないのだが。

 

会話も幾つか拾える。

 

「この封印は放棄する。 近くの都市にまで戦線を下げる事が決まった」

 

「「工房」が駄目になったらしいな。 とにかく今は、封印が破られないようにするしかあるまい」

 

「だがどうやって後世に情報を残す。 「北の里」や、「深森」の封印は、もう人が立ち入れる状態では無い。 「工房」だってそれは同じだ。 封印がいつ破壊されても不思議ではあるまい」

 

「それでも数百年は時を稼げる。 民が全てを知ったら皆が恐怖に駆られて何を起こすか分からない。 ともかく、長老を集めて相談するしか……」

 

ふむふむ。

 

分からない言葉が出てくるが。

 

北に何かまだある事。

 

そして、「工房」というのと、「深森」というのが恐らく封印の所在であろう事は理解出来た。

 

後でこれはタオに相談する。

 

他にはめぼしい情報は無い。

 

羅針盤を閉じると、顔を上げる。

 

そして、細かい話をしておく。

 

「「工房」に、「深森」?」

 

「うん。 此処から北の里、というのも多分重要になると思う」

 

「此処から北は、死の砂漠です。 ドラゴンの目撃例もあり、とても生きて戻れません」

 

「そうだろうね。 だからこそ、何かを隠すのには良いんだろうけれども」

 

タオが腕組みして考えた後、あたしは咳払い。

 

ともかく、封印とやらの現物を見ておく必要がある。

 

墳墓をまず確認。

 

周囲を見て回るが。

 

入口らしいものはない。

 

タオも壁を調べて、何か書かれていないか探っているが。とくにこれといって、めぼしいものはないようだ。

 

「タオさん、ライザさん」

 

「む、パティ。 何かみつけた?」

 

「はい!」

 

パティが手を振って来る。其方に行くと、なるほど。これは凄い。

 

墳墓の石壁に切れ目が入っている。

 

よく調べていくと、本当に剃刀一枚入らないような溝が、すっと続いているのが分かった。

 

一度熱魔術で、埃を焼き払う。

 

そしてタオがさっと調べて行く。集中しているので、邪魔をすると悪い。

 

調べ終わると、タオは頷いていた。

 

「此処だ。 間違いない。 中には入れると思う」

 

「扉があるんですね」

 

「そうだよ。 ただどうやって開けるべきか……」

 

「最悪ブチ抜くか」

 

やりかねないと思ったのか、パティがあたしを見て青ざめる。

 

まあ、あたしもそれは最終手段だと考える。

 

だけれども、此処は正直遺跡としての寿命が近い。出来るだけ急いだ方がいいと判断する。

 

しばらく、三人で手分けして調査する。

 

やがてタオが、石壁の一箇所で、何かみつけていた。

 

壁を押してスライドさせると、何か棒が露出する。

 

その棒を握って、下に押すと。

 

隠されていた、扉が開く。

 

流石だ。

 

何度も感心して頷くパティ。

 

まあそれもそうだ。あたしも今のは、驚かされていた。

 

「よし、開いた!」

 

「パティ、恐らくもうガーディアンはいないと思うけれど、罠があるかも知れないから気を付けて」

 

「分かりました」

 

「僕とライザが先にはいるよ。 パティは後方からの奇襲に警戒して」

 

頷くと、墳墓の内部に。

 

そして、其処にあったのは。

 

既に砕けた、何かだった。

 

 

 

これはなんだ。

 

魔石か。

 

だが、魔力を既に失ってしまっているものも多い。残っている魔石は、殆どがクズ同然の品質だ。

 

雑多な感じの残骸を組み合わせていくと。

 

どうも縦に長細い八角錐になったようだが。

 

それ以上の事は分からない。

 

それが魔術で此処に固定されていたようだ。床に描かれている魔法陣。これは、恐らくだけれども。

 

タオが急いで、魔法陣を写し取る。

 

あたしは、じっとそれを見つめて、それで頭のもやに苛つく。

 

なんというか、もう少しで分かりそうなのに。

 

それが分からない。

 

「フィー……」

 

「大丈夫、フィー。 この遺跡はもう完全に死んでる」

 

「フィーフィー……」

 

あれ。

 

なんだか悲しそうだな。

 

フィーが魔力を食うことは分かっている。それ以外には水くらいしか飲まないことも。

 

この魔石の巨大な結晶だったらしいもの、恐らくはこの霊墓にあったあの植物や。或いは……。

 

いや、それは憶測だ。

 

ともかく、あまり良い方法で作られたとは思えない。

 

それにこの魔法陣。

 

やはり巨大な魔法陣の一部だ。それも見た所、いわゆる冗長化が行われている。

 

此処の魔法陣は、巨大な魔法陣の一部であると同時に。

 

此処だけが壊されても、他が健在なら機能する仕組みになっている。

 

あたしも此処まで作り込まれた魔法陣は殆ど見た事がない。

 

流石は古代クリント王国より更に古い技術、というところか。

 

「魔法陣、写し終わったよ」

 

「よし、一度撤退。 今からだと、急いでも夜中だね」

 

「一応、遅くなるかも知れない事は朝告げて出て来ています」

 

「それは良かった。 此処であった事は、全部ヴォルカーさんに報告してしまってかまわないからね」

 

こくりと頷くパティ。

 

こちらとしてもやましいことは無い。

 

アーベルハイムと敵対する気は無いし。敵に回すつもりは無いと、先にこうやって示しておく。

 

公認スパイを抱え込むのは、政治的な手段の一つだ。

 

政略結婚とかも、概ねその意図がある。

 

あれは決して血縁関係を作って両家の関係を強化するなんてものじゃない。

 

公認スパイを互いに囲うことで、相手に対しての信頼を得ようとする行為で。

 

政略結婚に出向く人間は、それを自覚した上で嫁ぐ。

 

そういう命がけの行動なのだ。

 

なんでこんな事を知っているかというと、それはあたしが田舎育ちだから。

 

この手の話は嫌になる程聞く。

 

それに、クーケン島みたいな僻地だと、縁談そのものが殆ど何かしらの意図があるのが普通だ。

 

ブルネン家の先代が、あたしとボオスをくっつけようとしていたのは。それはブルネン家に優秀な子孫がほしかったから。

 

例外的な事例だったが。

 

その後に、まだ幼いあたしに。

 

先代が色々と話をしてくれたのだ。

 

今になって思うと、それは全て実用的な事で。

 

例えブルネンに嫁がなくても。あたしがクーケン島の重要人物になる事を、ブルネン家の先代は見越していたのだろう。

 

金属獣の残骸も積み込んで、遺跡から撤収。

 

入口を閉じて、それで此処からは一度撤退だ。

 

これで手がかりが消えたが。

 

しかしながら、「北の里」「工房」「深森」と、三つのキーワードが出て来ている。

 

確か王都から北東に行くと森林地帯があるということだし。

 

其処に何かあっても不思議では無い。

 

手がかりがゼロになった訳ではないのだ。

 

それに封印が一つ破壊されていたことから考えて。

 

はっきりいって、このまま放置してはおけない。

 

もしも封印されているのがフィルフサの王種だったり門だったりしたら、それこそ取り返しがつかない事になるのだ。

 

扉を閉じて、後は帰路を急ぐ。

 

案の定魔物が何度か仕掛けて来るが、全部片付ける。何度も往復する間にかなり片付けたが。

 

それでもまだまだいるようだ。

 

警備が今まで、どれだけさぼっていたかという話である。

 

ヴォルカーさんが必死に街道警備をしても、これでは追いつかないのも納得出来る。王都周辺のどこもで魔物が増え続けていて。

 

それが獲物を求めて、街道まで出張してくるのだ。

 

その中にはあの人食いラプトルや、巨大走鳥、渓谷で戦闘したサメのようなのが混じっているのである。

 

多くの犠牲が出るのも、必然だと言えた。

 

街道に出ると、パティがぐったりしているのが分かった。

 

まあ、今日も死にかけたのだ。それも二回。

 

本当だったら熱を出して寝込んでいてもおかしくないが。それでも、パティは強くなりたいという意思を優先した。

 

それだけで充分。

 

あたしはその決意と覚悟に敬意を持つ。

 

だから、遠慮も容赦もしない。

 

城門を潜ると、それでやっと緊張が弛緩する。解散したのは、やはり夜中だった。

 

「パティ、あたしがアーベルハイム邸まで送るよ」

 

「大丈夫ですと言いたいですけれど、すみません。 お願いいたします」

 

「明日は探索を休憩した方が良いね。 パティの負担が大きいし、何よりも情報を整理しないと」

 

「賛成。 残留思念から汲み取った情報、何かしら心当たりがありそうなものがあったら、リストアップしてみて」

 

アトリエに荷車を運び込むと、アーベルハイム邸までパティを送る。

 

こんな遅くまでと怒られる可能性も考えていたのだが。

 

ヴォルカーさんも留守にしていて。

 

家に居残りだったまだ若い使用人が、パティを出迎えると、あたしに礼を言うのだった。

 

「お館様とメイド長から話は聞いています。 お嬢様をありがとうございました」

 

「いえ、とにかく疲れていると思いますので、休ませてあげてください」

 

「分かっております。 それでは失礼します」

 

丁寧に話をして、礼をかわして後は帰る。

 

アトリエに戻る前に、公衆浴場によって汗を流す。

 

しばしぼんやりしてから、アトリエに。

 

フィーはもう、うつらうつらしていたので、そのまま寝かせてあげる。

 

魔石を少し集めてくるか、それともあたしの魔力を食べさせるか。

 

どっちかだろうな。

 

そう、ベッドでぼんやりしながら、あたしは思った。

 

 

 

目が覚める。

 

感応夢は、そういえばここ三年殆ど見なかった。

 

これも何か、頭が鈍っている理由の一つなのかも知れない。それとも、頭が鈍っているから、感応夢を見なくなっているのか。

 

それすらも分からないのが、口惜しい。

 

ともかく、起きだして、軽く体操をする。

 

タオとボオスがアトリエに来る。

 

パティは今日はお休みだ。それについては、昨日の帰路で説明はした。何しろ一番学生として忙しい時期だ。

 

まあそれをいうなら、タオもなんだが。

 

タオの場合は、ずっと飛び級しているらしく、相当に時間が余っているらしい。

 

「なるほどな。 封印とやらがありそうなワードが複数分かったと。 その二枚貝みてえな道具、便利だぜ」

 

「調整しないと、危なくて使えたものじゃなかったけどね。 一つ目の封印は死んでいたし、急がないとちょっと危ないかも知れない」

 

「うん。 それで僕の方でも、昨晩少し調べて見たんだけれども、北東の密林については、殆ど情報がないんだ」

 

そして、情報がないという事そのものが大事だとタオが言う。

 

そもそも王都に非常に近い場所にある遺跡なのだ。

 

情報がないというのは、不自然極まりないのである。

 

相変わらずフィーがボオスの頭の上に乗っているが。

 

ボオスは文句は言いつつ、追い払おうとはしない。

 

「今日は拾い集めた素材を使って、錬金術を色々あたしは試すよ。 カフェに幾つか納品もしておきたいし。 アーベルハイムに発破とかお薬とかも納品しておきたいし」

 

「分かった。 いずれにしても、アーベルハイムのお嬢さんも限界だろうし、一日の休息は重要だろうしな」

 

「僕も一旦調査は手をとめてちょっと勉強を進めるよ」

 

「お前はこれ以上成績を上げる気かよ」

 

ボオスが呆れる。

 

タオは、前倒しで単位を取っておきたいという堅実な話をして。

 

ボオスが、そうかとぼやくのだった。

 

まあ、頭の良さという点では、タオに勝てる奴は王都にもほぼいないだろう。世界中探してもそうたくさんはいない筈だ。

 

そういう意味で、ボオスがタオに嫉妬するのは分かる。

 

ただ、ボオスはクーケン島のために此処で学問をしている訳で。

 

タオとの勝ち負けは、あまりそれと関係無いはずだ。

 

タオに関しては、もう好き勝手にやっていいと思う。

 

学費くらいだったら、多分いずれタオが地力で稼ぐし。

 

アーベルハイムに将来婿入りしたら、仕送りくらいは容易だろう。あのタオに無関心な親にではなく、島単位に、である。

 

そんな事を考えているうちに、解散となる。

 

次は明日の朝だ。

 

パティはちょっとフラフラだろうなと思うが。まあ気の毒だけれども、仕方がない。

 

やるべき事を、順番にやっていく。

 

調合をある程度すませて、それでカフェに。

 

カフェのマスターは、相変わらず穏やかそうな女性なのに。

 

荒くれ達に全く臆することもなく。

 

平然と捌いている。

 

其処に、あたしは薬やら発破やらを納品しておく。あたしのことは既に知られているらしく。荒くれ達が、あたしを見るとさっと距離を置く。

 

既にドラゴンキラーだという話も知られているらしく。

 

そういう意味でも、畏怖されているようだった。

 

「ありがとうライザさん。 貴方に仕事を頼みたいという人も、きっとそろそろ出てくると思うわ」

 

「いえ、此方こそありがとうございます。 ただあたしはずっと王都にいるわけではないので……」

 

「ふふ、そうね。 今のうちに、出来るだけお願いね」

 

「はい。 それでは確実に届くように手配してください」

 

一礼して、納品を終える。

 

次はバレンツ商会だ。

 

バレンツ商会に出向くと、其処には。

 

懐かしい人がいた。

 

忙しい様子で仕事を指示していたその人。

 

あたしの最大の親友である、クラウディア=バレンツは。あたしをみると、ぱっと嬉しそうにした。

 

あたしは気を利かせて、バレンツ商会を出る。クラウディアは小走りでおいついてくると、あたしにわっと抱きついた。

 

「ライザ!」

 

「クラウディア、熱烈だね」

 

「だって、ずっと会いたかったんだもの!」

 

随分と綺麗になったな、クラウディア。

 

三年前は少女としての美しさの見本みたいなルックスだったクラウディアだが、そこに大人の色気が加わっている。

 

あたしと同じ二十になったばかりだ。

 

ただ、クラウディアのこの雰囲気、影ができたからだろうなとも思う。

 

手紙でたまに強烈に怨念の篭もった愚痴が書かれていたのだが。

 

多分、あたしには見せられないようなろくでもないものを、散々クラウディアは見て来たのだろう。

 

ハグしていたクラウディアが満足するまで待って、それから離れて貰う。

 

クラウディアに案内されて、バレンツ商会に入る。

 

もうあたしのことは、ここの商人も知っているようだったが。

 

クラウディアが最大仕入れ先と断言したので、それで明らかに顔色が変わった。此奴、これは話半分にあたしの話を聞いていたな。

 

へこへこする其奴が、客間にあたしを通す。

 

貴族とかが入るだろう客間で、久しぶりにクラウディアと話をした。

 

「今日やっと此処についたの。 色々とあって、ライザと顔を合わせるのが怖かったんだけど。 実際に顔を合わせたら、嬉しさが先に出ちゃった」

 

「ふふ、その辺は変わってないね」

 

「見かけばっかり大人になって、色々駄目ね私」

 

「そんな事はないよ。 もうクラウディアは立派な大人だよ」

 

咳払い。

 

その後は、順番に話をする。

 

まずは、王都周辺の遺跡の話から。

 

側にいるフィーの話も。

 

最初はフィーの入っていた卵の調査のためにここに来たのだが。せっかくだから王都周辺の調査を始めたことも。

 

そして、昨日の調査で。

 

何かのまずいものが封印されていることがほぼ確定で。

 

少なくとも封印の一箇所が破られているという事も。

 

「それは……大変だわ」

 

「クラウディア、手を貸して。 ちょっと今手が足りない状態で。 レントがいてくれれば話は別だったのにね」

 

「レントくんは最近あったんだよ。 でも、なんだか凄く沈んでいて……」

 

「ああやっぱり。 彼奴絶対に旅先でなんかあったな。 手紙が凄い事務的になって来ているから、なんかあったとは思ったんだ」

 

溜息が出ると。

 

クラウディアはくすくすと笑う。

 

あたしとレントとタオは殆どずっと一緒に過ごして来た存在だ。特にレントは、あのザムエルさんの乱行もあって、あたしの家にいた時間も長い。

 

それもあって、ほぼ兄妹みたいなものだ。

 

あたしの方がそれでリーダーシップを取っているのも、おかしな話ではあったが。

 

これはタオも同じである。

 

あたし達は、三人兄弟みたいなもの。

 

ボオスもそれからはちょっと遠かったが、ほぼ似たようなものだった。

 

「とりあえずクラウディア。 すぐに協力してとは言わないけれども、出られる準備はできる? 今、手練れが一人でもほしいんだ。 この周辺の魔物、ちょっとあたしとタオだけだと厳しいんだよね」

 

「今のライザでも?」

 

「殺すだけなら出来るけれど、遺跡を調べながら相手にするのはちょっと難しいかもしれない」

 

「そう。 ……私なんかを頼ってくれるなら」

 

頷く。

 

クラウディアがいれば、百人力だ。

 

勿論、あたしに異論は無い。

 

当然だが、今日すぐに出る事は不可能。クラウディアは責任のある立場だ。軽く話をするが、王都周辺のバレンツ商会の仕事は、本当にクラウディアが最高責任者であるらしい。だったら、色々と仕事を前倒しでやって、時間を作らないといけない。

 

「それじゃあ、早速だけれど頼むね。 また後で、ゆっくり時間を作って話そう」

 

「うん。 ライザに会えてほっとしちゃった」

 

「あたしもだよ」

 

バレンツ商会を出る。商人が滑稽なくらい頭を下げるので、苦笑い。

 

まあ此奴も、首が掛かっているのだろうから当然だ。

 

今のクラウディアは、昔の小娘じゃない。

 

歴戦を経た上に。

 

修羅場を潜り続けている豪のものだ。

 

あたしも、久々にクラウディアに会えて嬉しかった。小娘だった頃のクラウディアも死んでいない。

 

それだけで、何処か安心したのは否めなかった。

 

無言で淡々と作業をこなす。

 

農業区に出向く。

 

カサンドラさんは相変わらず畑を耕していたので、手伝う。持ち込んだ肥料はかなり効果的なようで、作物の育ちがいい。

 

水路もキラキラと綺麗な水を流している。

 

幾つか、周りの手が回っていない場所を処理しておく。

 

あたしの熱魔術の腕を見て、カサンドラさんは何度も口笛を吹いた。

 

「凄いねえ本当に」

 

「開いている畑とかありますか? 幾つか試験的に植物を植えたいんですが」

 

「一応どれも貴族の所有物で、殆どは小作人もいなくてほったらかしになっている所だね。 たまに新しく働きに来てる奴もいるけれど、殆どは違法奴隷だって話だ。 ろくでもない貴族が多いからね、そういう奴はそうやって土地を使おうと考えたりもするのさ」

 

「ああ、分かります。 顔面を平らにしてやりたいですが、そういう輩は」

 

からからと笑いあうと。

 

咳払いして、奥の方を指さすカサンドラさん。

 

「あの辺りは私の土地だよ。 日当たりがあんまり良くなくて畑に適さないけれども、それでもいいなら」

 

「分かりました、使わせて貰いますね」

 

「ただ、雑草が……」

 

即時に焼き払う。

 

焼き畑なんて面倒な事はしていられない。

 

焼いた雑草をそのまま肥料にしてしまうのだ。

 

焦げた雑草がぱらぱらと土地に落ちる。あたしは鋤を借りると、畑を片っ端から耕して、灰を土に混ぜる。

 

カサンドラさんが絶句しているが。

 

まあ自分用の、短期間だけ使う畑だ。

 

これで別にかまわないだろう。

 

そして、外で採取してきた植物を幾つか植えておく。ある程度成長したら、これを学生のカリナさんの所に持っていく。

 

そもそも外で野放図に生えている様な植物だ。

 

この辺りに植えて、いきなり枯れるような事はないだろう。

 

肥料も撒いておく。

 

この肥料の素材は、倒した獣の内臓などをエーテルで分解して、要素を取りだしたものである。

 

ある程度腐敗させて、肥料に適した状態にしてある。

 

数刻ほど掛けて畑を整えると、義賊の三人組が来た。今日も見回りをしていたようだが。

 

普段はのっぱらになっている場所が、いきなり変わっていたので見に来たのだという。

 

カサンドラさんが呆れる。

 

まあ王都では農業区は最底辺扱いらしいし。

 

この反応が普通なのかも知れない。

 

「あんたは錬金術師だって話だが、一瞬で畑をつくれるのか……」

 

「いや、ちゃんとした作物を作るには、もっと丁寧な処置が必要ですよ。 これはおおざっぱな対応です。 まあ此処に植えるのは、試験的に外の植物を何種か、なので」

 

「そうか。 実はちょっと相談があるんだよカサンドラ」

 

「私に?」

 

咳払いする義賊の女リーダー。

 

確かドラリアとか言ったか。

 

手下二人を引き連れたまま、何か話をしている。しばし話を聞いた後、カサンドラさんは指さした。

 

「ライザさんに今貸し出したその畑の他だと、あの辺りが好きに使って良い場所だけれども、急にどうして」

 

「昨日街でゴロツキを捕まえるのを手伝ってくれた腕利きがいてね。 そいつが何処か植物を育てられる場所は、とか聞いてくるからさ。 義賊としては、困っている奴は見過ごせないだろ?」

 

「相変わらずだね……。 私みたいに婚期を逃すよそんな事ばっかりしてると」

 

「人助けをし、人のためにあるのが我が一族だからね。 まあ確かに良い旦那はほしいけれど、まずは一族に恥じない生き方だ」

 

変な事ばかりしている割りにはとても立派な人だ。なんでこんな人が「賊」なんて名乗っているのか。それが分からない。義賊だろうが賊は賊。昔から、弱きを助け強きを挫く賊なんて物語の外にいた試しがないのだ。

 

いずれにしてもあたしには関係無い。

 

そのまま、畑を整えると。

 

外で採集してきた植物を、アトリエに戻ってから植える。

 

まあ、このくらいで良いだろう。

 

後は栄養素を圧縮した種を今は作れるようになっている。それをこの辺りに植えても良いのだが。

 

それはカサンドラさんを手伝いながら、だろう。

 

とりあえず、今日のノルマはここまでだ。

 

農業区から出る時に、不意にフードを被った人とすれ違う。

 

あれ。

 

前にすれ違ったか、あの人。

 

やっぱりオーレン族ではないのか。

 

だが、声を掛けるのも失礼か。

 

リラさんの事を考えると、此方の世界に来ているオーレン族は、余程の事情があると見て良いし。

 

此方の世界の人間を、良く思ってもいないだろう。

 

あたしは門の関係でオーリムとは関連があるが。それはあくまでマクロ的な意味でであって。

 

何かしらの隠密任務をしている人なら、関わらない方が良い。

 

アトリエに戻ると、フィーが懐から出てくる。

 

珍しい動物と言うだけで狙われる可能性があるとクラウディアがいうので、普段は基本的に懐に入って貰うことにした。

 

アトリエに入ると、あたしの魔力を吸収していたからか。フィーは嬉しそうに飛び回る。

 

「フィー。 本当に魔力と水だけで大丈夫? ミルクとかいらないの?」

 

「フィー! フィーフィー!」

 

「そっか」

 

明らかにフィーは此方の言葉を理解している。

 

調子が良さそうだと言う事もある。それならば、大丈夫と判断して良いだろう。というか、判断材料がない。

 

フィーがなんの生物かは、結局分からないのだから。

 

しばし足りないものを調合しておく。

 

そうしているうちに夕方だ。

 

茶にする。

 

バレンツで貰った茶菓子を茶請けに、しばし茶をしばいていると。

 

夜が来るのは、あっと言う間だ。

 

子供の頃とは、やっぱり体感時間が違うな。

 

そう思って、あたしは苦笑していた。

 

一つの遺跡の調査が終わって。それで色々と事態も動いている。

 

あの遺跡で複数の気になる話も残留思念から得た。

 

タオが今調べてくれている筈だ。

 

何かしらが判明したら。それで一気に事態が動くはず。

 

今は、その時に備えて。

 

手札を増やし。

 

仮に誰かが動けなくとも、調査を進め。門があるのなら、閉じなければならなかった。

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