暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
疲れもすっかりとれた様子で、パティが来る。あたしは朝日を浴びながら、一緒に軽く体を動かした。
いつも最初に来るのはパティだ。
ヴォルカーさんに鍛えられて、朝早くに起きる習慣がついているという話だが。それでも、真面目にしっかり体を鍛練しているのは立派である。
アトリエに入って貰って、それで採寸する。
主に胸回りを、だ。
「な、なんですか急に!?」
「胸当て作る」
「……えっ」
「今まで、軽装すぎたんだよパティ。 速度を生かさないと話にならない戦闘スタイルなのは理解したけれど、それでもちょっと防御が薄すぎる」
達人だったら、別にそれで良かったのだろう。
だけれども、今のパティだと厳しい。
勿論防具をがっちり固めることで、速度が落ちてしまっては意味がない。今作っているのは、魔術が篭もっていて、身体能力を更に上げる胸当てだ。
クラウディアにも同じものを作っている。
頭、胸、腹、幾つか人体急所はあるが。
クリミネアやゴルドテリオンで合金を作り。其処から打ちだした鎧だったら、充分に魔物の攻撃を防ぐことが可能だ。勿論それだけでは無理だろうが、其処に魔術での防御も加わる。
鎧は今の時代、廃れる一方だが。
それは金属の板が、魔物の爪を防げないのが最大の要因となっている。
古くはアーミーで大々的に採用されていたことが分かっていて。
その時代は、鎧はしっかり効果があったのだ。
少なくとも、今みたいに魔物に押され放題の時代でなければ。
鎧は意味がある装備だったのである。
採寸が終わったので、こんな感じになるとパティに図を魔術で作って見せる。空中に魔術で図を書くのは、クーケン島の地下でやっているのを見た。
あたしは熱魔術でそれを再現する。
光魔術……使える人間がどれくらいいるかは分からないけれども。とにかく光魔術のかなり技量の高い使い手だったら、それほど難しくもないと思う。
あたしは熱魔術で、光を作り出して、それを更に立体的な映像にするので二度手間三度手間だが。
錬金術と同じく、熱魔術はあたしの戦闘の主軸だ。
応用展開力は、つけておかなければならなかった。
「なるほど、心臓を中心とした胸を護り、更には体全体に魔術での防御を行うんですね」
「あたし達が強気に魔物を攻める事が出来ているのは、身に付けている装飾品で体の護りを散々上げているのもあるんだけれども。 ただやっぱり経験もある。 パティは基礎鍛錬はしっかり出来ているから、後は経験。 経験を積むには当然戦闘の数をこなさないといけないし、護りを固めるのが第一だからね」
「分かりました。 有用だと思うので、出来上がったらアーベルハイムで買い取ります」
「うん。 サイズを変えて、他の人も装備出来るように設計するよ」
なお、この間パティの大太刀を打ってくれたデニスさんに、インゴットの加工は頼むつもりである。
また、この胸当てには今まで殺した魔物の素材も用いる。
魔術とかを刻むのは金属部分で行い。
魔物素材は、他の体を固定する部分などで使う。
この魔物の皮などの素材も、充分に侮れない防御力を展開出来るので。非常に重宝するのである。
話をしている内に、クラウディアが来る。
クラウディアは、ぱっと明るい笑顔を浮かべる。
そして、パティが自己紹介して、頭を下げる。
クラウディアも、胸に手を当てて返していた。
王都には、商人を見下す貴族もいるらしいが。
現在、この過酷な世界で物資を行き来させているのは貴族などではなく商人である。
こんな腐った井戸の中でふんぞり返っている貴族よりも、隊商を組んで物資を行き来し、必死にインフラを守っている商人の方が何倍も偉いとあたしは思う。まあ商人の中にもカスはたくさんいるが、それはそれ。
カスはぶっ潰せばいいだけだ。それに、クラウディアは違う。
ただ、クラウディアだって、年を取ればどうなるかは分からない。あたし達と出会わなかった場合も、どうなっていたことか。
パティと穏やかに話しているクラウディアを見て、そんな事を思う。
とりあえず、今は。
順番にやる事をやっていく。
タオとボオスが来た。
タオが、ぱっと笑顔になる。
「クラウディア!」
「タオくん、久しぶりだね。 ボオスくんも」
「何回か顔だけはあわせたが、こうやってしっかりとした形で集まるのは三年ぶりなんだろうな。 やっぱりライザの影響力はこう言うときに実感するぜ」
「ふふ。 ライザは太陽みたいだものね」
とりあえず、クラウディアが持ち込んだ茶菓子で、軽く茶をしばく。
今日はまだ予定が決まっていない。
今後の事を話すのには、うってつけだ。
咳払いすると、タオが資料を拡げる。
でっかい本を持ち込まれても困ったところだが。
ちゃんと、メモにまとめてくれていた。
「状況を整理するよ。 現在、「大いなる呪い」というものが、複数の封印を施され、王都近辺にある可能性が高くなっている。 この間調べた霊墓にて、その封印の一つが見つかった事で、その可能性は跳ね上がった。 まず間違いなく、何か良くないものが封じられていると思う」
「お父様にその話は既にしてあります。 お父様はライザさん達について、今後も調査せよと」
「ありがとうパティ。 タオ、続けて」
図を見せるタオ。
恐らくいつつあるだろう封印について、順番に説明していく。
残留思念から得られた情報から、今の時点でその四つらしいものが分かっている。
工房。北の里。深森。
北の里というのは、まず後回しにするべきだろうとタオは言う。
まあ、パティの言葉にも聞いている。
ドラゴンの目撃報告があるような場所だ。
しかも、霊墓の時点であれだけ環境が過酷だった。更に北は砂漠地帯と言う事で、足を運ぶだけで命がけになるだろう。
「工房というのはまだちょっと分からない。 だけれども、深森についてはちょっと分かったかも知れない」
「流石だな。 聞かせてくれるか」
「うん。 王都北東に拡がる密林地帯で、「迷いの森」と呼ばれる場所があるらしいんだ。 年中霧が掛かっていて、魔物も凶暴極まりなくて。 貴重な薬草や毒草が採れるらしいんだけれども、近くの集落の人間は人食い森とも呼んでいるんだって」
「王都の周辺は人が入れない場所が多いんですけれど、そんな場所も……」
パティは俯く。
無力さに哀しみを覚えているのだろう。
まあ分からないでもない。
ヴォルカーさんくらいしか真面目に王都周辺の安全確保に働いていないのだ。そういう場所は幾らでもあるだろう。
生命線になる街道すら、まともに守れていないのだから。
「古い遺跡って言うのは、地元ではタブーになっている場所にある事が多いんだ。 今、僕もその可能性から、この遺跡について調査しているよ。 いきなり足を運ぶのは、幾らライザがいても自殺行為だ。 クラウディアの音魔術があるのは心強いけれど、流石にもう少し調査をしたい」
「それが賢明だと思うわ。 それで……」
クラウディアが、咳払い。
既に気付いているようだ。あたしも気付いている。
ドアがノックされる。
そして、顔を見せたのは。以前、あたしに話を持ちかけてきたクリフォードさんだった。
トレジャーハンターなんて珍しい職業を、傭兵業で生活費を稼ぎながらやっている変わり種の人。
戦士としての技量については本物だ。
「よう。 この場所に住んでいるのは知っていたが……凄い使い手が揃ってるな。 ドラゴンスレイヤーだって聞いたが、これなら確かに頷ける」
「貴方は……!」
クラウディアが露骨に警戒の視線を向ける。
さては知っている人か。
まあいい。
咳払いすると、アトリエに入って貰う。
クリフォードさんが、目元を細める。マスクで口元は見えないが、笑ったらしいことが分かった。
自己紹介した後、手帳を見せてくれる。
どうやら、調査が実を結んだらしい。
「星の都、というものがこの近くにあるらしくてな。 ひょっとしたら、あんたらの調べているものがあるかも知れないぜ」
「星の都?」
聞いた事があるような。
そうだ、思い出した。
あの精霊王。
三年前に、皆でネゴをした超ド級の魔物。言葉が通じる存在で、エレメンタル達の王。見た目は女性型だったから、女王というべきか。
星の民と自分達の事を言っていた。会話の中で、似たような単語が出て来たような気もする。
「情報展開の条件は、俺も加えてくれることだ。 俺の目的は、あくまでロマンの探求であって金じゃねえ。 宝だけ貰ってサヨナラ、というようなことはしない」
「……」
「クラウディア、後で話を聞かせて。 さて、みんな、どう思う。 ちょっと手詰まりだと思う。 たくさんこの近くにある遺跡の中で、それらしいものはどうもないという話だし。 あたしは乗って見ても良いと思うけれど」
タオは賛成する。
単純に興味があるのだろう。
ボオスは保留と一言だけ言った。
パティは賛成だと言う。
この近くにある将来的な危険につながる可能性がある場所は、調査したいというのだ。
最後にクラウディアは反対。
そうなると、多数決で賛成か。
「ごめん、クラウディア。 話に乗る事にするよ」
「分かったわ。 でも、気を付けてね」
「……そっちのバレンツのお嬢さんは俺の悪名でも聞いているんだろうな。 まあ、確かに綺麗な身とはいえないからな。 ただ俺もトレジャーハンターのプライドがある。 わざわざロマンのために、生活費を稼ぐくらいにはな」
アトリエに、入って貰う。
クリフォードさんは物珍しそうに錬金術の装備や錬金釜を見て。
そして、席に着いていた。
(続)
クリフォードさんが本格参戦です。
手数が足りずに困っていたライザとしては願ったりですが。
クラウディアは三年の経験もあり。警戒を隠してもいません。
上手く仲間が馴染んでいけるかは、今後のライザの努力次第です……
本作の次に連載する作品はどれが良いですか?
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