暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
クリフォードさんが持ち込んだ情報を元に、次の遺跡の調査にむけて動き始めます。
序、星の都の物語
クリフォードさんが集めて来たのは、かなり古い文献の山。それも、いずれもがタオが見た事がないというものばかりだった。
どこでこんなものを。
そういうクラウディアの疑念に満ちた声に、クリフォードさんはあっさりと応えるのだった。
市と。
確かによく分からない古本を扱っている露店はある。
そもそも本は貴重品だ。
どこかしらからか発掘してきたものばかりなのだろう。
それらの貴重な本を、こつこつ傭兵業をしてお金を貯め、買ってきた。
だとすれば、本気で道楽をやっていることになる。
侮れない人だ。
あたしはそう思う。
趣味も高じれば、専門家以上になることも多い。
この人はそういう人なのだろう。
「幾つかで共通して出てくる物語があってな。 星の都が落ちてきて、光と熱をばらまいた、と」
「……」
「表情が変わったな」
その通りだ。
あたしは知っている。
クーケン島は古代クリント王国の錬金術師どもが作った島だ。そして古くには、空に都市があったという話もある。
恐らく神代と呼ばれる時代だったのだろう。
その時代に至る事を、古代クリント王国の連中は考えていたらしい。
逆に言うと。
空にあった都市はどうなってしまったのか。
力を失って何処かに落ちた。
そう考えるのが自然だろう。
「星の都ではないが、星が落ちることがたまにあるらしいな。 そういうときは光と熱をばらまいて、地面を巨大に抉りさる」
「聞いた事があります。 隕石というらしいですね」
「そうだ。 隕石が大きいと、出来るえぐれも大きく。 其処には不自然な程に丸い湖が出来るそうだ」
「ダイナミックな話だな」
ボオスが呆れるが。
確かに、自然の営みとして。そういう事があっても不思議では無いだろう。
咳払いすると、タオが貴重な本だと、持ち込まれた本を絶賛した。
そして、凄まじい集中力で読み進めていく。
まあ、好きにさせておく。
多分しばらくは戻って来ない。
「俺の調査だと、街道から北にいった地点にある湖。 そいつが怪しいと思っていてな」
「湖畔に僅かな人が暮らしている地点ですね」
「そうだぜ。 其処でも聞き込みをしたが、やっぱり星の都の話があってな」
星の都の民。
地上に下り来た。
熱と光で星の都を失ったけれども。多くの賢人と交流した。
そして星の都の中に。
大事な仕掛けを施した。
クリフォードさんがすらすらと諳んじる。
これらの童歌は、何種類かあったらしいが。いずれもが、この重要な点では変化がみられなかった。
甘いラブストーリーになっていたり。
或いは下品な下世話な昔話になっていたり。
色々と変化しているものはあったらしいが。
それでも、星の都が落ちたという伝承に代わりはないという。
なるほどね。
賢人と交流した、というのは確かに興味深い。それに、である。
何よりも、今は正直調査の糸口がない。
これは、調べて見る価値があるだろう。
腰を上げると、あたしは周囲を見回す。
「去年くらいから開発している道具があるから、それを完成させて、湖の中を実際に調査しよう」
「ライザ、大丈夫なの? 水の中は、危険な魔物がたくさんいるわ」
「大丈夫、それも考慮しての道具だよ」
勿論作るのには手間暇が掛かる。
その前に。
まずは現地視察だ。
クラウディアが、外を見た。
「ごめんね。 まだ調整があるから、今日は一緒に出られないの」
「大丈夫だよクラウディア。 とりあえず、クリフォードさん。 これだけの資料提供をしてくれたなら、こっちも誠意を見せないといけない。 仲間に加わってくれる?」
「ああ、もちろんだ。 こっちが新入りの気持ちだな。 久しぶりだぜ、これほどの精鋭に混じるのは」
「俺もそろそろ失礼する。 ライザ、今ある貴族がお前に興味を持っているらしくてな、俺が先に接近して様子を見ておく。 紹介できるようならする」
ボオスも席を立つ。クラウディアと一緒に出ていく。
さて、今日は調査する場所もちょっと分からない状態だったが、丁度良い。
まずは視察に出向いて、湖の状態を調査。
何か沈んでいるようだったら。
今まで案を練っていた道具を実用化して。
それで、一気に湖の中を調査しに行くことになるだろう。
ただし、タオの反応待ちだ。
「タオ、それでどう。 完全に信じて良いと思う?」
「本というのは。 今やとても貴重なものなんだ。 昔は活版印刷の機械が動いていたけれども、今はそれもロストテクノロジーだからね。 これらについては、間違いなく数百年前に書かれた文献。 それも内容から見て複数の文体が使われていて、同一の作者によるものである可能性は低いと思うね。 報告書ではあるから面白くもないし、だからたたき売られていたのだと思うけれども、学術的には宝に等しいよ」
「そっか。 クリフォードさん、これ買い取ろうか?」
「良いぜ。 俺としては、本は宝を探し出すための鍵にすぎねえからな。 何かしらの宝を手に入れられたら、その本は価値が分かる奴に譲っちまうんだ」
「なるほどね、徹底してる」
「だろう。 筋を通すのが、俺の生き方なんだ」
そっか。
本当にロマンに全振りしている生き方だ。それはそれで尊敬できるので、あたしは何もそれについてコメントするつもりは無い。
クラウディアの態度は気になるので、後で話は聞いておくべきだろうが。
少なくともクリフォードさんは、今後常時フリーで戦闘に参加してくれるはず。しかも見た所かなりの手練れだ。
これは、とても大きい。
料金の代わりに装備を渡す。
かなり使い込んでいる靴と手袋のようだったが。
あたしが作った手袋と靴に引き替える。
それにしても足が大きいな。
レントほどではないけれども、あたし達に比べると文字通り一回り大きい。
しかもこの人、あたし達と同じ田舎で育った人間だ。
足の作りで分かる。
靴の大きさを調整。
更に指ぬき型の手袋を渡すと。クリフォードさんは目を細めて、何度か頷いていた。
「これは自動でエンチャントでも掛かってるのか?」
「体力の自動回復と身体能力の強化の魔術がそれぞれ掛かっています」
「もの凄いものだな錬金術って。 王都に幾つもある壊れた機械の修理も出来たりするのか」
「それはこれから、クラウディアと相談してやっていくつもりです」
冗談のつもりで言ったのだろう。
だが、本当だと理解して。クリフォードさんはしばし言葉を失っていた。
それで親近感を覚えたんだろう。
パティが、少し呆れ気味に言う。
「私も最初見たときは、何かの冗談かと思いました。 王宮魔術師なんて裸足で逃げ出す技術ですよこれ」
「そうだな。 魔術師は辺境の方が腕利きが多いんだが、この錬金術って代物はそれを遙かに超えていやがる。 実際に装備を貰ってそれで実感できたぜ」
「二人とも、面と向かってそういう事を言わない。 調子づく」
あたしがそう言って。
その後、今日の予定について告げる。
「今日は威力偵察を軽く行った後、鍛冶屋にいってパティの胸当てを注文してくるので、そのための鉱石が出来ればほしいな。 近くで良い鉱石が取れそうな場所があると良いんだけれども」
「南の鉱山付近に行けばあるんですが、今動いている鉱山はかなり遠く、近くにある閉鎖されている鉱山は道が封鎖されてしまっています」
「うーん、そうなるとトラベルボトルを使うしかないかな……」
「トラベルボトル?」
丁度良い機会だ。
近いうちにパティにも見せておくか。
丁度良いことに、ジェムもかなり溜まってきている。
これならば、トラベルボトルも活用出来るはずだ。あれは元々ジェムを大量に食うので、簡単には使えないのである。
王都に来る途中で、結構なジェムも消耗したし。
まあ、今は調合をある程度やっているので、またジェムは在庫が増えている。
それを上手く活用して行くしかない。
「それじゃあ行こうか」
「はい。 私はいつでも大丈夫です」
「タオ?」
「あ、ごめん。 クリフォードさん、この本は借りてもいいですか?」
好きに使ってくれと、クリフォードさんは苦笑気味に言う。
もう本はあたしが買い取ったのだ。
代わりに手袋と靴を提供した。
この二つでパンプアップできる能力だけで、はっきりいって生半可な戦士よりも遙かに強くなれる。
本職であるクリフォードさんは、それを理解したのだろう。
本を手放して余りあると判断したようだった。
王都を出る。
最近はパティが出る度に、警備の兵士達と話している姿が全く違和感なくなった。アーベルハイム家が、この腐った都の貴族としては例外的に皆に慕われているのがよく分かる。
街道に出る。
大型の走鳥が歩いているが、あれは比較的憶病な種だ。あたし達に気付くと、さっと逃げていく。
まあ、人間に害がないならいいか。
蜂が飛んできたので、ひゃっとパティが悲鳴を上げるが。
文字通り素手でクリフォードさんがはたき落とす。
まあ結構毒が強い種類だったから仕方がない。
自衛のためだ。
地面に叩き落とされた蜂に、瞬く間に蟻が群がって解体してしまう。魔物だけではない。この世界では虫だってたくましいのだ。
「しまったなあ。 食えるのに」
「えっ……」
「蜂はとにかく無駄がなくてな。 成虫から幼虫、巣まで全部食べられるんだぜ。 今度食べ方をレクチャアしようか」
「……」
完全に言葉を失うパティ。
それを見て、クリフォードさんが呆れる。
「おいおい、アーベルハイムの人間にしては線が細いな。 あんたの父上は剣一本で腐った貴族達を黙らせて爵位まで得た豪傑だろ。 当然野外での生き方についても教わっていると思ったんだが」
「お、教わってはいます。 虫の食べ方も。 でも、凄く苦手で……」
「まあ生理的に苦手なら仕方がねえな。 だけどいざという時、それだとあっさり死ぬ事になると思うぜ」
それもまた、正論か。
ともかく、街道を行く。
道中で見かけた隊商。それほど大きなものではないが、それでも複数の商人が馬車を使って。
それで傭兵も共同で雇っている様子だ。
パティを知っているようで、一番年かさの商人が声を掛けて来る。
パティは街道の状態について説明。頷いて、商人が敬礼。急ぐように、傭兵達に声を掛けていた。
まだ若い傭兵も多い。
大変だな。
そうあたしは思う。
殆どの傭兵は使い捨てだ。
人類の生存圏が狭まる一方だというのに。未だに人間は、命を大事にするという発想を得られないようだ。
だから今後も生存圏は狭まるだろう。
愚かしい話である。
オーリムの人達がこの光景を見たら、自業自得だと一蹴するだろうな。
そう思って、あたしはため息をつきたくなる。
街道を途中で北に。
霊墓のある方向とは微妙に違う。一応細いながら街道があり、途中に貧しい集落があるのが見えた。
一応あるだけの石壁。
こんなもので、魔物の襲撃を防げるとは思えない。
暮らしている人達は、明らかに王都の人間よりかなり貧しいようだ。
多分だが、王都の物価では食べていけなくなった人達が、こういう集落に移り住むのだろう。
襤褸を着ている子供が目立つ。
パティは嫌がる様子もなく、長老らしい人の家に寄ることを提案。
あたしも受ける。
長老は、まだ若い人物で。それなりに腕が立ちそうな戦士だ。ただ舐められないようにするためか、口元を分厚く髭で固めていた。服装は粗末だが、多分優先的に肉を食べているのだろう。
筋肉はしっかりついている。
これは、戦士としてのこの人の存在が、この集落の生命線だからだ。
軽く話をする。
「魔物がやはり出るんですか」
「ああ。 今の俺では倒せそうにない。 街道をいつも狙っている奴で、出来ればアーベルハイムで倒してくれないだろうか」
「特徴は分かりますか?」
「……倒してくれるというなら有り難いが、報酬は殆ど出せないぞ」
アーベルハイムで倒してくれと長老がいったのは、金なんか払えないからだろう。
あたしは咳払いすると、辺りの地理や採れる物資などの情報と交換だと話をする。
パティは既に一歩引いている。
この四人で、リーダーシップはあたしが取る事を、理解していると言う事だ。
「そんなことでいいのか」
「あたしは錬金術師をしていまして。 何が採れるかは、あたしには千金の価値があるんですよ」
「その錬金術師というのはよく分からないが、とにかくあんたが強いのは一目で分かる。 それならば、此方としては悪くない条件だ。 ただし俺は支援できないぞ」
「問題ありません」
魔物は、大型の鼬だ。
背丈はあたしの五割増し。
体の長さも、あたしの歩幅七歩分ほどもあるような奴らしい。
群れを率いているようなこともなく。近くの川に居座って、手当たり次第にエサを喰らっているとか。
鼬は基本的に母と呼ばれる個体を中心に群れを作るのだが。
或いは、何かしらの理由で単独行動をしているのか。
それとも、単独行動をする珍しい性質の亜種かも知れない。
「こいつがどんどん集落に縄張りを拡げている。 こいつのせいで森に果物も取りに行けなくなっていて、皆餓える一方だ」
「分かりました。 駆除します」
「頼む」
さて、最初は鼬狩りからだ。
それに、クリフォードさんの戦力を、タオとパティにも見せておきたい。
すぐに現地に向かう。
森に入った瞬間、空気が変わる。
ああなるほど。
相当に縄張り意識が強い奴らしい。
あたしの魔力を感じ取って、警戒している訳だ。
びりびり来るのは、向こうの殺気。
勿論殺気なんてものは実際には存在しないのだが。
五感が、相手の危険性を総合的に察知して、体に警告してきているのだ。
無言であたしはハンドサインを出す。
ほどなくして。
凄まじい勢いで、巨大な鼬が襲いかかってくる。
先頭に立ったクリフォードさんが、棒立ちでその鼬が躍りかかってくるのを待ち。
そして、凄まじい跳躍を見せて、残像を抉らせた。
残像を抉ってつんのめった巨大鼬の脳天に、クリフォードさんが手にしている、これまた巨大なブーメランが直撃する。
その時には既に散開していたタオとパティが、左右から同時に鼬に襲いかかり。
タオの斬撃が鼬の左目を抉り。
パティの抜き打ちが、鼬の毛皮に大きく傷をつけていた。
悲鳴を上げて、飛び退こうとする鼬だけれども。それは嘘で。いきなり回転するようにして、周囲を薙ぎ払う。タオはさっと回避したが、パティは大太刀でパリィしながら、弾き飛ばされる。必死に体勢を整えるが、まだ反応が遅い。
あたしはというと、左側に走って回り込みながら詠唱。
鼬は即座にあたしに狙いを定めると、かっと吠えた。
多数の光の槍が、空中に生じる。
まあ、魔術くらいは使えるよな。
もう一度かっと鼬が吠えると、辺りに無数の光の槍が降り注ぎ、地面を爆裂させる。
大量の土煙の中、クリフォードさんが着地し、ブーメランを取るのが見えた。
土煙をブチ抜いて、鼬があたしの方に来る。
詠唱がまだ終わらないと判断して、頭をつぶしに来た、というわけだ。
「フィー!」
フィーが警戒の声を上げるが、大丈夫。
あたしは大きく息を吐くと、踏み込みつつ、相手の顔面に蹴りを叩き込んでいた。
鼬と激突。
地面に罅が走る。
衝撃に押し返される鼬。
その体が浮き上がり、無防備になった腹に、タオが双剣を突き刺し、左右にかっさばくようにして斬る。
そして、横っ飛びに逃れ。
あたしが熱槍を叩き込んでいた。
腹の傷を貫通して、背中に抜ける熱槍。
悲鳴を上げる暇もなく、立ち尽くしていた鼬は白目を剥き。
そしてどうと倒れていた。
ひゅうとクリフォードさんが口笛を吹く。
「パティ、捌くよ。 吊すの手伝って」
「わ、分かりました!」
「クリフォードさんは、パティに色々教えてあげて。 色々な人からやり方を教わる方が、上達が早いと思うから」
「良いぜ。 任せておきな」
この中ではパティが一番のルーキーだ。
だから、何でもこうやってそれぞれの技術を叩き込んでいく。
あたしも、アーベルハイムにまともな次代が出てほしいと思うのだ。
故に、最大限の手伝いをする。
鼬を手際よくばらす。
毛皮の無事だった部分はかなり良い。強い魔力を込めていて。これは恐らく、加工すれば防具の素材に出来る。
肉はあまり良いものではないので、さっきの集落に全部あげてしまう事にする。血抜きをする過程で、血は回収しておく。
爪は骨から叩いて割って剥がす。この爪も、かなりいい。素材としては、充分に使えそうだ。
内臓類は駄目だ。かなり毒を蓄積している。おなかの中は溶けかけの魚が大量に詰まっていたが。
酷い臭いで食べられそうにもなかった。
食べられないナマモノは骨も含めて全て焼いて肥料にしてしまう。
肉は燻製にして、一度さっきの集落にまで戻る。
肉を引き渡すと、随分と感謝された。
こういう感謝を積み重ねておくと、いずれきっと良い形で帰って来る。
あたしは、そう信じる。
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