暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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ライザの住む世界の隣にある異世界オーリム。その住人をオーレン族と言います。

人間より遙かに優れた身体能力と寿命を持つ種族ですが、非常に長寿な分繁殖力が極めて弱いようです。

氏族単位で生活していた彼等ですが。オーリムは人間に滅茶苦茶にされ。特に500年前に栄えた古代クリント王国が大繁殖させたフィルフサという魔物(資源を略奪する目的で、しかもこの過程で大量の水までオーリムは奪われました)は土壌を汚染し凄まじい戦闘力と数で何もかもを蹂躙し尽くしました。

それからオーレン族の生き残り何人かがライザの世界に来て、事態の打開を図っています。

ライザのアトリエで、ライザ達の師匠をしたリラさんもその一人。

そしてこの話より登場する、リラさんとは別の氏族であるセリさんも、その一人なのです。


3、捜し物

セリ=グロースはこの世界の人間ではない。

 

この世界、確かオーレン族の長老は、何か名前をつけて呼んでいたが、忘れた。ともかく隣の世界であるオーリムに一度破滅をもたらし、それでいながらのうのうと生き延びている世界。

 

魔物が大量発生し、オーリムに破滅をもたらした連中の子孫は苦しみ続けているが。

 

それは完全に自業自得だと思っているから。

 

それについては、なんとも思わない。

 

ただ、この世界には。

 

緑がたくさんある。

 

セリは緑羽氏族と呼ばれる、オーリムの種族、オーレン族の一氏族の出身だ。氏族単位でまとまって生活するオーレン族は、この世界の人間の二十倍以上の寿命と、違う生態を持つ。身体能力も、魔術を使う能力も、いずれも比較にならない程優れている。また、この世界の人間とは違い、例外なくオッドアイという特徴がある。

 

この世界の人間に比べてあらゆる点で優れているのは客観的に言える事実だが。一つだけ決定的に劣っている事がある。

 

繁殖能力だ。

 

オーレン族は種族として完成度が高すぎるから、増える事が極めて下手。

 

それで生命としてのバランスを取っている。

 

セリはそう解釈していた。

 

オーレン族は氏族ごとに得意分野が違う。白牙氏族は戦闘に長けているし、緑羽氏族は植物の育成に長けている。

 

オーリムは植物が今致命的なダメージを受けていて。

 

汚染が全土で拡がっている。

 

セリの目的は、その解決。

 

そのために、様々な植物がまだ残っているこの世界に来ているのだ。

 

この世界に来てからは、身を隠すようにローブを着込んでいる。

 

爪の生え方がこの世界の人間とは違う。

 

肌の色も、どれだけ焼いてもこの世界の人間よりも青白い。

 

そういった特徴もあるのだが。

 

何よりも、この世界の人間の事を毛嫌いしていたこともあって。

 

それで、関わり合いになりたくないからだった。

 

周囲を歩いて見て回る。

 

幾らでも植物はあるが、どれも貧弱な種類ばかりだ。勿論その場その場で大事な役割を果たしているが。

 

汚染には耐えられないだろう。

 

毒草も薬草もある。

 

それらを全て見て回っている内に。

 

歓迎しない気配を感じた。

 

数人か。

 

顔を上げて、立ち上がる。

 

気付かれたと判断したのか、数人の男達が姿を見せる。全員が武装していて、下卑た顔をしていた。

 

「ツラ見せろや。 用件くらいは分かっているんだろ」

 

「可愛がってやるよ、へへへ」

 

「おい、傷はつけるなよ。 上玉だったら売り飛ばすんだからなあ」

 

好き勝手な事をほざいているなあ。

 

撃退は容易だ。

 

だが、此処で戦闘すると周囲の植物が傷つく。

 

緑羽氏族は、氏族の中でも特に森とともに生きる存在だ。この森とも言えない貧弱な土地ではあるが。

 

それでも緑が大事な事に代わりは無い。

 

周囲に生えている植物は、そろそろ花を咲かせる。

 

植物は花を咲かせる事で繁殖する。

 

営み自体は動物と変わらない。

 

それも理解すらできていないだろう輩には、流石に苛立ちが募った。

 

手首につけている首輪は、セリの魔術を最大限増幅する。

 

すっと手を振るうだけで。

 

勝負はついていた。

 

男共が、空に跳ね上げられる。

 

急成長した植物の根によって、文字通り吹っ飛ばされたのだ。

 

一人を除いて、全員が一瞬で気を失った。殺さないように加減したのだから、感謝してほしいくらいだ。

 

一人が喚きながら立ち上がる。

 

ナイフを抜く一人。何か下卑たことを喚いているようだが。内容なんかどうでもよかった。

 

仕方がない。殺すか。

 

そう思った瞬間。真横から飛んできたブーメランが、その男の側頭部を直撃。意識を奪っていた。

 

ブーメランが、飛んで戻る。かなり巨大なブーメランで、魔物と呼ばれる大型の生物にも充分に有効打を与えられそうだ。

 

一瞥する。

 

此方に歩いて来るのは、やたら露出の多い格好をしている男だった。腹を敢えて出しているのは、腹筋を見せるつもりだろうか。

 

口元をマスクで隠しているのは、口でも裂けているからか。

 

良く理由はわからない。

 

「よう、大丈夫か」

 

「見ての通りよ」

 

「そうか。 災難だったな。 この辺りは治安も良くねえし、出来るだけ急いで街の近くに行った方がいいぜ」

 

そういって、男は何か投げて寄越してくる。

 

この世界の金だった。

 

「これは?」

 

「此奴らに掛かっている賞金だよ。 あんたが首領以外は倒したのはしっかり見ていたからな。 そいつらの分だ。 生活には金がいる。 とっておきな」

 

「ええ……感謝するわ」

 

金か。

 

あまり意識はしていなかったが。どうしても生活のために必要になると、薬草などを摘んで稼いでいる。

 

まあ、貰えるなら貰っておく。

 

この男に敵意がない事は分かっていた。

 

男は荷車を引いてくると、気絶している連中を縛り上げて、それに積み上げていく。手伝う必要も無さそうだ。

 

「俺の名はクリフォード=ディズウェル。 トレジャーハンターだ」

 

「私はセリ=グロース」

 

「そうか。 じゃあな、セリ。 またいずれ、何か機会があったらあうかもな」

 

荷車を引いてクリフォードという男が行く。

 

まあいいか。

 

ぶちのめした連中を魔物が食い荒らして、その血でこの辺りの植物が汚れるよりはいい。

 

それにしても、トレジャーハンターといったか。

 

宝を探しているのであれば。

 

セリと同じだな。

 

そう、不思議な縁だと思った。

 

 

 

セリはずっと汚染を除去するための植物を探し続けている。この世界の時間で、百年以上もだ。

 

オーレン族にとっては大した時間じゃあない。

 

長老はそれこそ千年以上も生きているし。

 

伝承によると、二千年以上生きたオーレン族もいるという。

 

また、周囲を探しては回る。

 

野に生きるのは慣れている。むしろこの世界の人間とはあまり関わるつもりはないので、集落に近付くつもりはない。

 

黙々と歩いていると、朽ちた集落に出た。

 

人間はいない。

 

魔物が少しいるようだが、大した相手では無い。

 

セリを見て仕掛けて来たのもいるが、植物を操作する魔術で一薙ぎして。蹴散らして、追い払った。

 

集落の跡地に、何か価値のある情報はあるだろうか。

 

この世界の人間は、世界を汚染することを何とも思っていない節がある。

 

それについては不愉快極まりないが。

 

それでも、汚染の中に、汚染に強い植物はあるかも知れない。

 

調査をして回ると、汚染に強い植物はあるにはある。種を少しだけもらう。だけれども、これは一目で分かる。

 

オーリムを蝕むフィルフサによる汚染を、駆逐出来るほどではない。

 

それでも、或いは品種改良すれば、何か活路を見いだせるかも知れない。

 

オーリムに戻る事は、出来る。

 

帰路については常に確保しているからだ。

 

この世界の人間には知られていない場所に、安全にオーリムに戻る事が可能な場所が存在している。

 

其処を使えばオーリムに戻る事は可能だが。

 

ただ、可能なだけだ。

 

「!」

 

一度、戻ろうとした瞬間。

 

周囲に、人間の気配。また複数だ。

 

「出て来やがれ!」

 

叫び散らしている奴がいる。

 

どうやら、また与太者の類のようだった。

 

無言のまま出ていくと。少し前に此方を囲んだ連中と似たような輩だ。前よりも人数を増している。

 

いや、前のと同じのが混じっている。この世界に来たばかりの時はこの世界の人間の区別は難しかったが、最近はある程度出来るようにはなって来ていた。

 

「兄貴、あいつだ! 怪しい魔術を使う!」

 

「そうか。 だったら油断はするな。 容赦なく殺せ!」

 

「巫山戯やがって! 此奴のせいで、お頭は処刑されたんだ! バラバラにして、魔物のエサにしてやる!」

 

ああ、そういうことか。

 

いわゆる逆恨みという奴か。

 

すこぶるどうでもいい。

 

此方を好き勝手に慰み者にしようとし、挙げ句奴隷として売り飛ばそうとしていた分際で、何をほざいているのか。

 

こんな感じで、この世界の人間はオーリムを蹂躙したのだろう。挙げ句フィルフサに殺された時には、被害者面をしたと言うわけだ。

 

そしてそれを忘れ去り。

 

今も勝手な事をほざきまくっている。

 

怒りがふつふつとわき上がってくる。いずれにしても、此奴らは殺す。そう決めた。

 

「殺せ! お頭の仇だ!」

 

「ブチ殺せ!」

 

まとめて襲いかかってくる与太者の集団。

 

即時で魔術を展開。

 

以前は気絶する程度に手加減していたが。もうそのつもりは無い。

 

急速成長させた植物の刃が、一閃。

 

その場にいた殆どの首を、一撃で刎ね飛ばしていた。

 

魔術の出力が違う。此奴らも魔術で身体能力を上げていたようだが、その程度の技量で、よくもイキリ散らせたものだ。この世界にも強い人間はいる。だが、此奴らは違ったという事である。

 

首を失った死体が、その場でまとめて倒れ臥す。

 

一人、仕留めそこなったか。

 

そいつは逆恨みを拗らせた挙げ句、まだ何か喚きながら、ざっくり抉られた傷から鮮血を噴き上げている。

 

放っておけば、そのまま苦しみ抜いて死ぬだろう。

 

ナイフを投擲してくるが、植物を操作して弾き返す。跳ね返ったナイフは其奴の右目に突き刺さって。与太者は更に哀れっぽく、被害者っぽく悲鳴を上げた。それが更に怒りを噴き上がらせる。

 

「畜生、俺は頭の仇もとれないのか!」

 

「何を言っても無駄な相手に興味はないわ。 其処で苦しみ抜いて死になさい」

 

まだ何かわめき散らそうとしたそいつの首を、また飛んできたブーメランが刎ねていた。

 

どうと倒れる男。

 

ブーメランを空中で受け止め、着地したのは。

 

また、あの派手な格好の男だった。

 

クリフォードと言ったか。

 

クリフォードは、ため息をつくと。また、金を投げて寄越してきた。

 

「あんたの姿を見た奴がいるって聞いてな。 まさかとは思ったが」

 

「確かこれらは捕獲されたんじゃなかったのかしら。 どうして綺麗に処分しなかったの?」

 

「……捕獲して街の自警団に突きだしたんだがな。 死刑になったのは首領だけで、後は鞭打ちだけで放逐された。 それで懲りる奴もいるんだが、此奴らは違った。 此奴らは昔の仲間を集めて、あんたや俺に復讐をしようとしていた、というわけだ。 俺が狙われる分には返り討ちは余裕だったんだが、まあ万が一もある。 追いかけてきたんだよ」

 

「そう」

 

あまり興味がない話だ。

 

オーレン族はそもそも、森とともに生きる種族。

 

森と生きる事が出来なければ死ぬだけだし。

 

色々な掟が気にくわなければ、新しい氏族を自分で立ち上げれば良い。

 

だから、この世界の人間のように、無法を貪る輩は殆どでない。

 

理解に苦しむ連中がこの世界を荒らしているようだが。

 

オーリムを無茶苦茶にして、それを忘れて平然としているような者達だ。セリにはどうでもよかった。

 

滅びたとしても、何も感じないだろう。

 

今殺した事だって、なんとも思わない。

 

「それで、この金は?」

 

「此奴らは行く先々で強盗やら殺しやらをしていてな。 前は賞金が捕獲で出たんだが、それがいわゆるデッドオアアライブになった。 これから死体を提出して、残りの金を貰ってくる。 それだけさ」

 

「……」

 

「受け取ってくれ。 俺が殺したのは、一番賞金が高かった奴だけ。 残りの分は、あんたに受け取る権利があるからな」

 

前もそうだったが、筋を通す奴だ。この世界にも、こんな人間がいるんだな。

 

まあ、それはどうでもいいか。

 

片手を上げて、死体を積み込んで去って行くクリフォード。まあ、名前くらいは覚えておいてやる。

 

そのまま、村を後にする。

 

この世界に来てから、この世界の人間を殺したことは何度もある。特に最初のうちは、珍しい容姿から奴隷として売り飛ばそうとする輩が何度も絡んできた。

 

叩き伏せて追い払うのが常だったが。

 

今回のように逆恨みして追ってくる奴もいて。

 

そういうのは、殺処分するしかなかった。

 

この世界の人間に対する不信感は募るばかりだ。

 

たまにまともな人間もいるようだが。

 

それも、あくまでたまにだった。

 

集落の跡地を離れて、拠点にしている森に。森の中は落ち着く。全ての情報を把握できるし。

 

植物を操作できるセリにとっては、文字通り此処はテリトリと言える。

 

勿論魔物の危険もあるが。

 

それはそれだ。

 

セリはこうやって森に拠点を作りながら、手に入れた浄化用の植物の品種改良を続けている。

 

植物に対する魔術のエキスパートだからこそ出来る事だが。

 

しかし、それでもなお。

 

まだオーリムを蝕む汚染の除去が出来る植物にはまだ届きそうにない。

 

今日も研究を続けて、それでまだ駄目だと判断。

 

少しずつ、汚染の除去が出来る植物には近付いているが。それでもまだまだ足りていない。

 

あと、どれだけ掛かるのだろう。

 

古代クリント王国とか言う連中が、更にオーリムの汚染を拡大させた。

 

その前から色々あったのだが。フィルフサの汚染が決定的になった切っ掛けは、その古代クリント王国だ。

 

最初此方の世界に来た時。

 

古代クリント王国について、周囲の人間を締め上げて聞いたが。そんなものはとっくに滅びたとしか、分からなかった。

 

普通何かしらの技術を作り出すのなら。その対抗策も一緒に作り出すはず。

 

最悪の存在であるフィルフサを好き勝手にしようとした連中だ。

 

それに対する策だって持っていた筈。

 

そう考えたのに。

 

希望が打ち砕かれても。

 

それでも、出来る範囲でずっと出来る事をやり続けている。

 

いずれにしても、セリはまだオーリムには戻れない。

 

また何処かで悲鳴が聞こえる。

 

何かが死んだのが分かった。

 

だが、それがこの世界の人間だろうが、魔物だろうが興味は無い。

 

セリが興味があるのは、オーリムを救うこと。

 

ただ、それだけだった。

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