暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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第二の遺跡の調査が始まります。

そもそもまずは辿りつく所から、ですが。

しかし如何にスランプでも、三年間ライザは惰眠を貪っていたわけではありません。

エアドロップが早速威力を見せつける事になります。


星の亡骸
序、師匠は変わらず


もう寝ようと思っていたのだが、来客が来たので出る。

 

誰かと思ったら。

 

アンペルさんだ。

 

あたしはしばしフリーズして、え、と声が出ていた。

 

「アンペルさん!」

 

「久しぶりだな、ライザ」

 

「私もいるぞ」

 

「リラさんも!」

 

本当に二人だ。

 

手紙にロクに返事も寄越さないから、心配していたのである。すぐにアトリエに入って貰う。

 

とはいっても、アトリエに改装している借り物の部屋だが。

 

ソファに座った二人に、まずは状況を説明する。

 

フィーを見て、眉を潜めるリラさん。

 

「なんだその生物は」

 

「フィー!」

 

「フィーといいます。 クーケン島にあった卵から孵ったんです」

 

「……見た事がない生物だな。 だが、そもそも此方の世界の生物なのか?」

 

分からないと応じると。

 

そうかとだけ、リラさんは答える。

 

そして、説明を終えると。

 

アンペルさんは、頷いていた。

 

「百年ほど前に、近辺の遺跡は調査した。 その当時、既にロテスヴァッサは衰退し続けていて、周辺の土地の確保も難しい状態であったからな」

 

「それなのに、オーリムへの侵攻を企んでいたんですか?」

 

「呆れるだろうが、そうだ。 もしも何かの間違いで稼働中の門を連中が発見していたら、間違いなく人類は滅びていただろうな」

 

「ひえ……」

 

あたしが引くのを横目に。

 

相変わらず百年以上生きていると言うのに、若々しいアンペルさんは言う。

 

「とにかく、現時点では遺跡を順番に調査できていると言う事は理解した。 私の方は、しばらくは独自に動くつもりだ」

 

「一緒に戦って貰えないんですか?」

 

「いや、今回は少し情報が足りない。 それなら手分けして、別の方向から調査をするべきだろう」

 

「なるほど……」

 

確かに、それもそうか。

 

じっとあたしを見ていたリラさんが、咳払いしていた。

 

「それで不調という話だが」

 

「お恥ずかしいですが、その通りです。 どうも三年前みたいな閃きが感じられないんですよね」

 

「クラウディアもそう言っていたな」

 

「はは、クラウディアは鋭いですからね」

 

見抜かれていたか。

 

まああたし自身もそう告げていたし。

 

クラウディアはあたしの事をよく観察してくれているから、それも敏感に察知できたのだろう。

 

ともかく、しばし脈とかを取られたが。

 

リラさんは首を横に振る。

 

「別に病気があるようには見えないな。 アンペル、似たような症例に覚えはないか」

 

「いや、この様子だと病気では無いと私も思う。 かといって、才覚が年とともに衰えたとも思えん」

 

「だとすると、なんだろうな」

 

「わからん。 いずれにしても、様子を見るしかないだろう」

 

迷惑を掛ける。

 

その後は、宿の場所を説明される。

 

どうやらあの後も、ずっとただの利害関係で二人旅を続けているらしい。

 

種族の違いはあっても男女だ。

 

流石に徹底しているというか、なんというか。

 

不思議な二人だなとあたしは思った。

 

ともかく、師匠二人が来たけれど、すぐに帰ってしまった。

 

今度タオにも居場所は共有しておくとして。

 

これで、後はレントだけか。

 

王都の近くにいるのは分かっている。

 

何をしているのかあの馬鹿は。

 

そう思うと、あたしは溜息が出る。

 

いずれにしても、あたしの不調については、師匠達にも共有できた。勿論あたし自身も努力しないといけないことだが。

 

それにしても、一体これはどうしたことなのか。

 

師匠二人も分かっていない様子だった。

 

そうなってくると、これは。

 

ともかく、寝る事にする。

 

全ては明日だ。

 

明日から、エアドロップ完成型一号機を試す。

 

もしもこれに何かしらの問題があるようなら、調整をしていくだけだ。

 

しっかり寝て明日に備えておかなければならない。

 

クラウディアもそろそろ、戦闘に参加してくれるはず。

 

そう考えれば、手数も増えるし。安定して、強力な魔物ともやり合える筈だ。

 

それで多少気持ちも楽になった。

 

ぐっすり寝て、朝。

 

早めに起きて、外で軽く体を動かす。

 

体を動かしていると、パティが来る。今朝も早いな。そして、パティは既に件の胸当てをつけていた。

 

白を基調とした綺麗なデザインだ。

 

家紋などもないシンプルなもので、とても実用的である。

 

デニスさんが作ったものらしく、実用の極みで、遊びが全く無い。

 

勿論これをつけた上で、既に大太刀も振るっているのだろう。全く迷っている様子がなかった。

 

「おはようございます、ライザさん」

 

「おはようパティ。 今日も一番だね」

 

「はい。 少しでも早くみなさんに追いつかないといけませんから」

 

「真面目で良いことだ。 真面目なことが、一番の美徳なんだよ」

 

これは本気でそう思う。

 

不真面目でいい加減な人間がもてはやされるようになると、一気に堕落と腐敗が進んでいくようになる。

 

それは、色々なものを見て来て良く理解出来た。

 

真面目で努力家。

 

それは美徳だ。

 

それを馬鹿にする人間が蔓延るようになると、組織は終わりに向かう。

 

あたしだけでも、それには抵抗させて貰う。

 

それだけだ。

 

「良いデザインに仕上がったね。 流石はデニスさんだ」

 

「私もとても気に入っています。 軽いし、出る前に少し試したんですが、とても頑強ですね」

 

「これで少しは強気に出られる?」

 

「いえ、私の腕なんてまだ知れているので、少しずつカウンター戦術を試します」

 

それでいい。

 

調子にすぐ乗るようだと、人間は駄目になる。

 

勿論自分を凄いと言って鼓舞して強くなれる人間もいるが。

 

多くはそうではないのだから。

 

軽く体を動かして、アトリエに戻る。

 

今日から、水底に潜るとだけ話しておく。あとで、皆が集まってから、本格的に説明はする。

 

アトリエに入ると、お薬をパティに渡しておく。

 

使い方はもう見ていて分かっている筈だ。

 

最悪の場合は、前衛の誰かしらが薬を使う必要が生じてくるかも知れない。まずはパティに渡しておく。それだけだ。

 

実戦で使えるギリギリの薬は、既にストックが余り始めている。

 

こう言う形で活用するのは、悪くは無い。

 

パティと軽く話していると、今日は珍しくボオスがタオより先に来る。

 

ボオスが来ると、眠っていたフィーが耳をぴんと立てて。

 

嬉しそうにボオスの方に飛んで行く。

 

そして頭に乗る。

 

ボオスはうんざりした様子だが、追い払わない。

 

「俺の頭はお前の巣じゃねえぞ」

 

「フィー!」

 

「すっかりフィーになつかれているねえ」

 

「全く迷惑な話だぜ」

 

ボオスは嘆息すると、手紙を渡してくる。勿論色気があるような手紙ではない。

 

前に話があった貴族のものらしい。

 

紹介状と言う奴だ。

 

「これはトーマス卿ですね。 父ともある程度懇意にしている伯爵です」

 

「ヴォルカーさんと懇意と言う事は、ある程度まともな人?」

 

「王都にいる貴族の中には、王都の腐敗を感じ取って、交易に力を入れている人が何名かいます。 その全員が父と懇意にしているわけではないのですが、この人は父に友好的な態度を持っています」

 

咳払いすると、他言無用にとパティは声を落とす。

 

こういう貴族の関係は、全てが政治に関わるのだそうだ。

 

例えば、仲が良さそうに公的な場で喋るとか。

 

それだけで、政治的な事になるという。

 

まあ、似たような事はクーケン島でもあった。

 

あっちでも、そこまで露骨では無いけれども、馬鹿馬鹿しい話は幾らでもあった。この王都では、そういうばかげた政治ごっこを、いい年扱いた大人が大まじめにやっているという事だ。

 

そして膨大な金が動く以上。

 

それが如何に馬鹿馬鹿しい話かという事を、誰も言えないのである。

 

「トーマス卿も、表向きは父を馬鹿にしている事が珍しくありません。 それは先に断っておきます」

 

「面倒な話だな。 それに俺に接触してきたのは、例のメイドとそっくりな女だった」

 

「何となく分かります。 王都にあの一族はかなりの数がいますので。 とにかく有能なので、一族の者が彼方此方に入り込んでいます。 実は王室にも何名か……」

 

そうかそうか。

 

だとすると、その影響力は凄まじいな。

 

あたしは舌を巻きながら。手紙の内容を確認する。

 

ふむ。

 

バレンツ商会とは別口から、宝石をほしい、というものだ。

 

現在、バレンツ商会とあたしは少量だけ宝石を取引している。たまに火山で宝石の原石が採れるので。

 

それを宝石に加工したら、バレンツに納入しているのだ。

 

ただ、宝石についてはたまに持ち込むくらいで、正式に今は契約をしていない。

 

其処に目をつけたのだろう。

 

バレンツの顔に泥を塗らず。

 

あたしとコネを作りたいというわけか。

 

くだらない話だが、まあいい。

 

パティの話を聞く限り、貴族としてはマシな方だし。コネだけだったら、作っておいても良いだろう。

 

タオが遅れて来る。

 

珍しく、凄く眠そうだった。

 

「タオさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、ごめん。 ちょっと昨晩、かなり遅くまで調べ物をしていてね」

 

「お前がそんなに疲れるのは、相当だな」

 

「うん。 星の都について、ちょっと良い文献を見つけてさ」

 

後はクリフォードさんだが。

 

タオにおくれて、僅かな差で来た。

 

クラウディアはこの様子では、今日も無理だろう。それについては仕方がない。バレンツ商会は、それだけ色々忙しいのだから。

 

まだ幾つか大口の取引が纏まっていないと聞く。

 

長期休暇を取ることは難しいだろう。

 

本来だったら、何よりも優先すべき事なのだが。

 

それでも、一応世間的には長期休暇という形になるのだから。

 

「皆、そろったね。 それでは幾つか話をしておきます」

 

「任せるぞ、ライザ」

 

ボオスが一歩引いて話を聞いてくれるので、個人的にはかなり助かる。

 

こういう立場の人間がいると、状況を整理しやすいのだ。

 

まず、アンペルさんとリラさんが来てくれた事は話しておく。連絡先についても、である。

 

二人はまずは別方向から、門の存在について可能性を調べてくれると言う事だ。

 

頷くと、ボオスはメモを取りだしていた。

 

「じゃあ議事録は俺が向こうにも展開しておく。 お前らは自分の事に専念しろ」

 

「ありがとうボオス。 エアドロップの完成型一号機が仕上がったので、今日から水底を本格的に調査します。 最悪の場合でも簡単にやられるつもりはないけれど、戻らないようならクラウディアとアンペルさんとリラさんに連絡をしてね」

 

「分かった。 任せておけ」

 

「水の底に四人で潜るのは、ちょっと怖いですね……」

 

パティがぼやく。

 

未知に恐怖を感じるのは当たり前の事だ。

 

あたしはそれを責めるつもりは無い。

 

勿論過剰に恐怖するようならたしなめるが。

 

「パティには先に話しておくけれど、エレメンタルの王と呼ばれる存在がいるんだ」

 

「エレメンタルの王……聞いた事があります。 危険すぎて手出しが出来ないほどの強大な魔物とか」

 

「間違いないね。 あれは下手なドラゴンより強い」

 

タオの言葉に、パティは察しが良いから即座に気付いたようで。

 

青ざめていた。

 

クリフォードさんの方が、全うに反応してくれる。

 

「あった事があるのか」

 

「三年前に。 戦闘にはなりませんでしたが」

 

「おいおい、すげえな。 ドラゴンキラーである事よりも更に凄いんじゃねえかそれは」

 

「いや、今でも勝てるかは分かりませんね」

 

あたしがそう言うと。

 

クリフォードさんが絶句する。

 

それはそうだろう。

 

この人くらいの手練れになれば、精霊王の話は聞いたことがあるだろうし。それと出会って生還していると言うだけでも、驚きだろうから。

 

「ええと、紆余曲折あってその時に精霊王と話をしました。 精霊王達は、「星の都」という言葉を口にしていました」

 

「星の都……」

 

「はい。 そして精霊王は、「光」が近場にいないという話もしていました。 ひょっとすると……」

 

「おいおい、精霊王と交戦する可能性があるっていうのか」

 

クリフォードさんがあたしの次にタオを見て。

 

タオが頷いたので、以降は何も言わなくなるクリフォードさん。

 

想像以上にまずい山だと判断したのだろう。

 

そして、タオが付け加える。

 

「星の都に星の民。 ひょっとすると、もし遺跡に入る事が出来たとして、そこはエレメンタルだらけの可能性もある。 高位のエレメンタルは会話が可能なくらいの知能を持っているのだけれども、下位のものとなると戦闘は避けられないと思う」

 

「というわけで、もしも連絡が途絶えたらアンペルさん達に連絡が必須というわけ。 ボオス、頼むね」

 

「……分かった。 全く、とんでもない山に頭を突っ込みやがって」

 

「仕方がないよ、こればっかりは」

 

もしも門が開いたら。

 

それこそ、間違いなく今度こそこの世界は終わりだ。

 

今の弱体化しきった人類に、フィルフサの群れを迎え撃つ力なんてない。

 

古代クリント王国ですら、一瞬で滅亡にまで喰い破られたのである。

 

それでも押し返すのが精一杯だったのだ。

 

自業自得とか、そういうことは今はあまり関係無い。

 

先祖が超ド級の愚か者だったのは事実だろう。

 

だが、それを子孫がずっと贖い続けるというのも、悲しい話だ。

 

何かしらの贖う理由があるというのなら話は別だが。

 

どうせ神代にしても、ロクな理由で門なんて開けていないだろう。

 

古代クリント王国もそうだったのだ。

 

あたしは先祖に何一つ期待なんてしていない。

 

くだらん野心と欲望で門を開けて世界を滅ぼしかけた連中なんて知るか。

 

そんな連中のために滅んでたまるか。

 

それだけの事なのだ。

 

咳払いすると、今日のスケジュールについて話して。

 

それで解散とする。

 

今日は遺跡への入口があるなら見つけて、侵入するまでを目標とする。勿論それが出来たら、内部に威力偵察を行う。

 

タオが推測した規模からして、今度の遺跡はちょっとやそっとで攻略できるような代物ではない。

 

最低でもクーケン島と同等かそれ以上くらいの大きさはあると見て良いそうだ。

 

だとすると、それなりに腰を据えて掛からないと駄目だろう。

 

覚悟は、先に皆に決めておいてもらう。

 

一季節で全て片付けばいいのだけれども。

 

まあそう簡単にはいかないだろう。

 

前倒しでバレンツに納入は済ませてあるから、お金はそこからある程度は引き出す事も出来るが。

 

いずれにしても、この王都にそこまで長期間居座るつもりはない。

 

全てが終わったら、さっさと故郷に戻るつもりだ。

 

まだしばらくは、故郷で色々とやる事があるのだから。

 

ボオスが戻るのを見届けてから、あたしは腰を上げた。

 

手を叩いて、皆に言う。

 

さあ、今日も冒険をはじめよう、と。

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