暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
そこには精霊王がいる可能性がありました。
三年前は敵対せずに対応できた相手ですが。
今回もそうなるかは……
覚悟を決めなければなりません。
序、被創造者の集い
王都でプディングを食べるパミラ。おいしい。そう思う。ちょっと味付けが濃すぎるが、まあ美味しいのだからいい。肉体を作ってあるのだ。こう言うときくらいは、食事を味わいたい。
ただ仕事もしなければならない。
今共闘関係にあるあの存在は、今もライザの事を警戒している。
ただし、ひょっとしたらとも思っているようで。
パミラは今回も、監視役として様子を見に来ている。
まだ直接会うつもりはないが。
そろそろ、顔を出しておこうかなとも思う。
ライザは例のものが効いているようで、明らかに頭の働きが鈍くなっているはずだが。
それでもパミラが知っている古代クリント王国の錬金術師の大半より、現状では出来る存在である。
いや、大半どころか。現状のセーフティが掛かった状態ですら、もう上か。
しかもこれできちんとした正義感まであるのだから、言う事がない。
この世界の錬金術師はあらゆる意味で腐った連中だったが。
千年以上の歴史の中で、やっとまともな人間が出て来た、のかも知れない。
ライザの面白い所は、子孫に全く期待している節がないという事で。
その辺りは、血統を盲信しがちな他の錬金術師と、明確に違う所だった。
血統の盲信が悲劇を生んだ。
それについては、パミラもかの存在と話して、知っている。
そして、憤りも覚えている。
普段は幽霊として世界の監視に留まる存在であるパミラが。
わざわざ肉体を用意して、この世界のために動いているのも。
人間があまりにも不甲斐ないからだ。
ライザはこんな世界でも、人間が滅びるのは看過できないと思っているようだが。
パミラはいっそ一度更地にしてしまうのもありではないかと考えている。
それくらい。
この世界に対する失望は大きい。
以前パミラが足を運んだ「黄昏の世界」も酷かったが。この世界ははっきりいってそれ以上のダメさだ。
黄昏の世界では、幽霊のまま干渉しなかったパミラが。此方では積極的に動く気になるほどに。
はっきりしているのは、この世界でも人間はそのままではいけないと言うこと。
ありのままの人間が万物の霊長だなどとほざいているから、何処の世界でも人間は世界を滅ぼしかけるのだ。
すっと、影が側に姿を見せる。
王都の周辺の総括をしているカーティアだ。
あの存在の手足となって動く一族の者である。
必要に応じて、各地に派遣される一族の者は。
現地の人間……王都で言えば王族や貴族と交配して子孫を作り、それを上手に活用して現地に溶け込みながら実働能力を拡大する事もあるが。
カーティアのように、戦士として基本的に振る舞う者も多い。
基本的に人間と交配することに抵抗は無い者達だが。
それは、彼女らの希望。
「1」であるアインを救うためでもある。
覚悟が決まっているなと、パミラはいつも思う。
とはいっても、この一族は出自からして独特だ。通常の人間とはあらゆる意味で思考方法が違うのだから、それも仕方がないのかも知れない。
流石に二代三代と人間と血を重ねていくと、だいぶ人間に近付くようだが。
「コマンダー。 主要人員を集めました」
「分かったわー。 じゃあ、移動しましょうか」
「はい」
パミラはプディングを食べ終えると、店を後にする。
そして、王都の農業区に移動。
此処が、一番人間が少ない。
数人の一族の者が来ていた。
いずれも歴戦を重ねている。
一人だけ、男性がいるが。それは二世の者である。この王都で現状一番金を持っている貴族の嫡男である。
差別意識が強い王都の貴族も、この一族の優秀さは認めざるを得ないらしく、いい縁談がない場合妻として一族の者を欲しがる事も多い。王族や他の貴族が血を取り込んでいるのも大きいのだろう。
だがそれは。
いざという時、この王都の主要貴族の首が一晩で全て落ちる……王族も……という事を意味している。
今は、まだない。
だが、また錬金術を王都で研究し始め。
門を開いて植民地を増やそうとか馬鹿な事を考え始めたら。
かの存在は、容赦なくそれを指示して。
場合によっては、王都を潰す事を決断するかも知れないし。
パミラもその場合は、容赦なくやるだろう。というか、あまりの醜態を知っているかだろう。手心を加えられる自信がちょっとない。
「定例会議を始めます」
パミラを除くと一番この中で高位のカーティアが。淡々と状況を述べる。
今の国王は実に無能な人物で、主要貴族の言いなりのままであるそうだ。
まあそれについては据え置きだ。
なお跡取りもいずれもボンクラばかりであり。
王族が優秀などと言う夢は、どこにも存在しない。
まともなのもいるが、それはみんな此処にいる一族の息が掛かっている。
井戸の中の蛙達は、自分達に紛れてドラゴンが眠っていることに、気付けていないのである。
「相変わらず王都で良心と言えるのはアーベルハイムだけなのねー」
「はい。 アーベルハイム卿は次々と武勲を立て、近いうちに伯爵に就任する予定のようです」
「どうでもいいわー、そんな爵位」
「全く。 それでも、アーベルハイム卿の発言力が更に増すのも、事実とは言えるでしょう」
それで王都がまともになればいいのだが。
アーベルハイム卿だけでは、自浄作用は働くまい。
事実心ある僅かな貴族は、既に王都に見切りをつけて、離れる算段を始めているくらいである。
まあ、多少でもまともな頭があれば、そう考えるのが当然。
大半の貴族には、それすら考えられないという事である。
「最大懸念事項のライザリンですが、現在潜水する装置を用いて、「星の都」の調査をしているようです」
「あらー。 かなり鈍っていると思っていたのに。 そんな事が出来ているのねー」
「セーフティーは確かに掛かっています。 それなのにこれは……」
「さながら神代の頃の錬金術師のようですな」
唯一の男性幹部がそう言う。
顔立ちは一族の者に似ているが、かなり感情が強く激情家だ。
なお、かの者の所に案内はされ。
アインとも顔を合わせ。
その辿った道を知っているから。今の人類にも、錬金術師にも、強い怒りを抱いている一人である。
「ケイン、余計な手出しはしてはだめよー?」
「分かっております、コマンダー」
「それでは解散」
「はっ」
その場には誰もいなかったかのように。
皆、いなくなる。
さて、プディングは食べたし。少しライザの様子でも見に行くか。
そう、パミラは思った。
早朝に農業区にあたしは出向く。
すれ違ったのは、フードを被った人影。
気配はとても薄かったが、やはりあの人、オーレン族なのではあるまいか。
いずれにしても農家の人間と同じく、朝はとても早いようである。
それについては、別になんとも思う事はない。
カサンドラさんが農作業をしていたので、挨拶する。
「ライザ、この肥料良いねえ。 凄く効くよ」
「作物次第では毒になりますので、何を育てるかは説明をお願いします。 その度に調整しますので」
「ああ、分かってる」
さて、見せてもらうが。
確かによく育っている。そろそろ出荷できる作物もあり、とてもみずみずしかった。
農業区が差別が受けているのはもうどうしようもない事実だ。
農業区に足を運ぼうとすると、それだけでゴミでも見るような目であたしを見て来る奴が何人もいた。
別にどうでもいい。
生活の基盤となっている農業や漁業を馬鹿にするような奴は、それこそ死ねば良いのである。
自分達の食事がどこから来ているか、想像すらできないような連中は。
脳みそなんて持っていないのと同じだ。
「さっき、奧の畑の人らしい人影とすれ違いました」
「あの人、私より早く起きて作業をしていたよ。 多分だけれども、日が照る前に植物の調整をしているんだろうね」
「……」
ざっと見た感じ、本当に雑多な作物だ。
なお、他人の畑に手出しは厳禁。
これはクーケン島でも他でも同じだ。
基本的に畑の所有者にとって、何をしているかはまったくことなる。
雑草がぼうぼうでも、実はいわゆる休耕をしている事もあるのだ。
畑の土も生きている。
作物を常に作っていると、やがて土は死んでしまう。
一事が万事そんな調子なので。
他人の畑に手を出す事は、例え専門家でも許されない。
それが現実である。
ただ、それでもだ。
何をしているのかは、気になるのだが。相手はオーレン族の可能性も高いし。
「あの畑の人と話はしましたか?」
「いや、殆ど喋らないね。 とにかく寡黙だが、動きは的確極まりないよ」
「……」
オーレン族なら、素のスペックはこっちの人間より上だろう。
例えばリラさんは強い戦士をたくさん排出している白牙氏族の出らしいが、聖地の守備隊のようなことをしていたキロさんにいたっては、そんなリラさんより更に格上の使い手だった。
キロさんくらいになると、多分素の能力でこの王都の弛んだ警備なんて、まとめて畳むと思う。
フィルフサとの何百年もの戦いで鍛え抜かれた戦士だ。
それくらいの実力はある。
側にいて、生きている雷のようだと思ったけれども。
こうして、人間が多数集まっている街に来ると、それが比喩でもなんでもない事が分かるのだ。
あたしの畑も調整。
そろそろいいだろう。
今日の夕方にでも、カリナさんを案内する。
充分に注文された植物は、畑に根付いている。
元々田舎出身だろうカリナさんは、恐らく畑に抵抗もないはずだ。
「夕方くらいに、学生さんを連れてくるかも知れないです。 上手くスケジュールが進んだら、ですが」
「なんだか聞いたけれど、近隣の危険な魔物を次々に仕留めてるんだって? 大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですよ。 今までは、ですが」
「やれやれ、元々強いとは聞いていたが、余裕の様子だね」
余裕では無い。
ちょっと今日は、本気で危ないかも知れない相手とやりあうのである。
そこで、仲間全員にスケジュールを調整して貰って、一緒に出られるように頼んでおいた。
多分、いけるとは思う。
殺し合いになるとは限らない。
それに、武装もエーテルを使って増やしておいた。
「それにしても、あんたが誰かと結婚しないで子供も作らないのはもったいないように思うんだけどね」
「またそんな。 うちの両親みたいな事を言いますね」
「私はもう適齢期を過ぎて嫁のもらい手もいないからね。 この生き方を後悔はしていないけれども、それでも他人も同じで良いのかと思うと、ちょっとね……」
「……実は錬金術を使えば、子供だったら一人で作れそうなんですよね」
声を落として、ひそひそと話す。
まだ検証段階だが、自分自身の要素をエーテルを使って分解して、更に増やす事で、可能だとあたしは判断している。
それだとあたしのコピーが出来るだけだけど。気になるなら誰かしらの髪の毛かなにかを使って、それで他人の要素を混ぜれば良い。
まだ試験段階だが。
出来る事は出来そうだ。
あたしは異性というか性そのものに興味がないので。
多分今後も、誰かと関係を持って子供を作る事はないと思う。
ただ。あたしはアンチエイジングするつもりがなくなった場合。
錬金術を、必要な人間に引き継ぐ必要がある。
このままだと人類は滅ぶ。
タオが二千年もたないと言っていたっけ。
かといって、古代クリント王国の連中のようなのが出て来て、錬金術を好き勝手にしたら、それはそれで許されない。
もっと早く世界は滅ぶことになるだろう。
だから、いずれ子供は文字通りの意味で「作る」かも知れない。
あくまで未来の話だ。
「錬金術ってのは、なんでも出来るんだね……」
「資料によるとホムンクルスというそうです。 結局の所人間を作るのと仕組みはそれほど違わないらしいので、余程変な仕組みでも組み込もうとしない限りは、普通に人間として生きられると思いますが……」
「やれやれ参ったよ。 確かに子供を産むのに人間はもの凄く消耗するからね。 自分のおなかを痛めずに子供を産めるなら、それに越したことは確かに無いね」
理解があって助かる。
さて、とりあえずはここまでだ。
畑を後にして、戻る事にする。
ちなみにホムンクルスの研究はまだ始めたばかりだが、一部成功している。医療関係の技術として、指とか皮膚やら肉やらを作れるか、自分で試してみていたのだ。
結論としては出来た。
要素次第では、胎児だって作れる。
ただその胎児が、どのくらい無事に育つかはちょっと分からないので。まだ試験中ではあるのだが。
何より今は、その試験を進めている時間的な余裕がない。
アトリエに戻ると、今日もパティが来ていた。
丁寧に挨拶をしてくるパティ。
戦士として、あたしを尊敬してくれているのが分かる。
此方も礼を返して、軽く体を動かす。
クラウディアも来た。クラウディアにも胸当てを作って渡してある。
クラウディアはパティと同じように白を基調とした胸当てを身に付けているのだが、要所に金を入れている。
これはおそらくだけれども、宝石が好きだからなのだろう。
ゴージャスな色が好きなのだ、クラウディアは。
それでいながら、金が下品にならないように凄くデザインが洗練されている。
同じ素材をデニスさんに渡したのに、こうも変わるものなんだなと、ちょっと驚かされる。
「おはようございます、クラウディアさん」
「おはようございます、パティ。 ライザ、どう、この胸当て」
「うん、凄く似合うよ」
「ふふ、ありがとう。 ライザが作ってくれた装備、とても大事に使って来たのだけれども、新しいものが貰えるとやっぱり嬉しいね」
軽く体を動かした後。アトリエに入る。
ボオスとタオ、それにクリフォードさんが来てから、ミーティングをする。
今日は探査範囲を拡げる。
そして、既に感じ取った気配。
恐らくまだ寝ぼけだろうが、目覚めただろう星の都の王。
精霊王と接触したい。
それを話すと、タオが大きく嘆息した。
「レントがいたらなあ」
「力自慢の戦士だったな。 何があったんだ」
「どうもスランプみたいでね。 王都の近くにはいるみたいなんだけれども、連絡の返事が来ないんだよ」
「少し前にあったけれど、本当に調子が悪そうだったの。 戦いの腕は落ちてはいないようだったから、それだけはいいのだけれどね」
クラウディアも、少しずつクリフォードさんと話してくれるようになっている。
あたしとしては、それは有り難い。
とりあえず、投擲が得意そうなクリフォードさんに、爆弾を幾つか渡しておく。使い方のマニュアルも。
投げれば爆発するような代物では無い。
使うためには、幾つものセーフティを解除する必要がある。
それだけ危険なものなのだ。
「なるほどな、これを俺に預けてくれると言う事は、信頼してくれているんだな」
「ただ、使うタイミングは、あたしが指示したときにしてください。 これらの破壊力は、もう見て知っているでしょう」
「ああ、分かってる。 使わずに済ませたいものだな」
頷く。
そして、精霊王についての説明をしておく。
エレメンタルとは姿が全く違う事や、見かけに関しての年齢は恐らく操作可能であること。
実力は生半可なドラゴンでは及びもつかないこと。
これらを説明すると、クリフォードさんは考え込む。
「本当に大丈夫か? 戦闘になったら、星の都が沈んだりしないか?」
「その時はその時。 急いでエアドロップで脱出します。 今回は荷車が重くならないように、一直線で目的地に行きます」
「……分かった。 それしかないだろうな」
意見は纏まったか。
咳払いしたのは、ボオスだ。
「調査予定の時間を決めておいてくれるか」
「ああ、そうだね。 最悪の事態に備えないと」
一応夕刻。ダメでも夜には戻る。
そう告げると、おおざっぱすぎるとボオスは嘆く。
タオがなだめる。昔だったら、とても考えられない光景である。
「ボオス、ライザは前からこうなんだから、もう諦めるしかないよ」
「朝はあんなに早いのに、どうして他の事がこうルーズなんだ」
「ルーズってあんたねえ」
「まあまあ。 ボオスくん、いざという時の連絡はお願いね」
クラウディアもそう取りなしてくれる。
パティは形容しがたい表情のまま固まっていたが。
「私は、とりあえず足手まといにならないように頑張ります」
「誰だって最初は出来ないのが当たり前なんだ。 だから、自分のペースで強くなってくれれば大丈夫だよ」
「ありがとうございます!」
タオに言われると本当に嬉しそう。分かりやすくて可愛いものである。
フィーが飛び回って、フィーフィーと鳴く。
時間か。
出かける事を宣言すると。
皆、実戦経験者だ。
表情を引き締めて、立ち上がっていた。
これから、今までとは比較にならない相手と戦う可能性がある。全員、その覚悟は、既に決まっていた。
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