暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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3、怨念を探して

皆の手当てをする。流石にしんどい戦いだった。

 

ヒュドラの残骸はほとんど燃え尽きてしまっていて、何も残っていなかったが。懐から出て来たフィーが、これこれと飛び回る。

 

其処にあったのは、コアだ。

 

ゴーレムとかの体内にあったのと同じような奴。

 

しかも、ずっと構造が高度に見えた。

 

いずれにしても、これは使えそうである。

 

あたしは回収しておく。これがあるだけでも、充分に戦いの元は取れたと言える。

 

男衆と女衆に別れて手当てをする。

 

パティは案の定手傷が多くて、胸当てを外して諸肌を脱いで貰い、傷薬をねじ込む。

 

痛みには慣れているだろうパティだが、それでも顔をしかめていた。結構深い傷も多い。

 

早めに治しておいた方が良いだろう。

 

手当てがそれぞれ終わると、合流する。

 

クリフォードさんが、大きく嘆息した。

 

「今まで遺跡で見た中で一番ヤバイ魔物だった。 ヒュドラとは戦った事もあったんだが、あの再生力はおかしすぎる」

 

「もう余力は無いよライザ。 一度戻ろう」

 

「分かった。 明日に探索の続きはしよう。 それで……」

 

一瞥する。

 

霊墓にあったものは崩れてしまっていたが、此処のはある程度形が残っている。

 

多分八角錐だろうと思われていたそれは、確かに八角錐……一部が崩れていたが。そうなっていた。

 

そして、まだ一部は光っている。

 

これが「封印」だとすると、まだ完全に死んではいないのか。

 

フィーが「封印」を見て近付こうとするので、すぐに掴んでとめる。

 

「フィー!」

 

「ダメ。 美味しそうに見えるかも知れないけれど、あれはだめ」

 

「フィー……」

 

「ごめんね。 あれが完全に壊れると、何が起きるか分からないんだ」

 

残念そうにするフィー。

 

だけれども、きちんと賢いフィーは、それで封印らしきものに近付くのを止めた。

 

ほっとして、一度撤収の準備に掛かる。

 

勿論精霊王らしい存在にも、報告はしておく。

 

帰路で説明をすると。

 

精霊王らしい存在は、苦笑いしたのだろうか。

 

「僕の記憶にある存在よりも、何十倍も強くなっていたようだ。 ごめん。 警告しておくべきだった」

 

「良いんですよ、倒せたんだから」

 

「とりあえず、二つの約束は果たそう。 遺跡の調査、構造に関係するもの以外の持ち出しは許可する。 キミ達がそれを破らない限りは攻撃はしない」

 

「一応、構造に関係するものに触ろうとしたら、警告をお願いします」

 

こころよく、それも受けてくれる。

 

「封印」らしきものについては、記憶が混濁していてよく分からないと言われた。

 

いずれにしても、パティは特に限界が近いようだ。

 

もう戻るしかなかった。

 

 

 

帰路でフラフラになっているパティを荷車に乗せて、皆で急ぐ。

 

確かにあの戦闘をこなすのはきつかっただろう。

 

船を漕いでいるパティに、文句を言う人はいなかった。

 

「それにしても想像以上の手練れだな。 宮廷魔術師なんか束になってもあんたにかなわないだろうよ」

 

「ありがとうございます。 それはそうと、その固有魔術すごいですね」

 

「まあな。 でも、最初はろくでもなかったんだぜ。 これしかほぼ出来なかったから、磨き抜いたんだよ」

 

クリフォードさんが言うには、ブーメランの操作……正確にはもっとも愛着があるものの操作が固有魔術だそうである。

 

本来は強度を上げたりするくらいしか出来ず、エンチャントの出来損ないと周囲に言われていたらしいが。

 

必死に勉強し試行錯誤をして。

 

実戦で使えるレベルにまで性能を引き上げたそうだ。

 

今ではブーメランの機動操作、速度操作、重量操作まで自在に出来るという。

 

ただ生体魔力があまり多い方ではないので、例えばブーメランを超高熱にするとか、そういう事は厳しいのだとか。

 

それにクリフォードさんは既に魔力が飛躍的に伸びる年齢を過ぎている。

 

まだ伸びる事は伸びるが、もう以降は手札で勝負していくしかない。

 

そう判断しているようだった。

 

途中でパティが、荷車を降りるという。

 

あまり情けない姿を、警備の戦士達に見せられないから、という理由だそうだ。

 

一応、一度荷車を止めて身繕いをする時間を取る。

 

まあ、ぼろぼろになって戻って来たのでは、何があったのかと騒ぎになりかねないからだが。

 

身繕いをクラウディアが手伝う。

 

三年でクラウディアはこういう技術が凄く上がっているようだ。

 

一部傷ついている服なども、手慣れた様子で繕っている。

 

いわゆる女子力がほぼ壊滅しているあたしとは偉い違いである。

 

「ありがとうございますクラウディアさん。 後ろは大丈夫ですか」

 

「大丈夫。 これなら平気だと思うわ」

 

「良かった。 戻りましょう」

 

「パティ、これ」

 

渡したのは栄養剤だ。

 

頷くと、パティはそれを飲み干した。流石に死にそうになっているのは自覚していたのだろう。

 

人の前に出るのが、本来の貴族の仕事の一つだ。

 

こういう事も、仕事の一つである。

 

後は、街道まで出て。それで一安心。

 

城門を抜けると、すぐに解散とした。

 

クラウディアだけは残る。

 

そして、荷物の運び入れを手伝ってくれた。クリフォードさんも手伝おうかと言ったけれども。

 

ちょっと話があるというと、察して先に帰ってくれた。

 

荷物を運び込んだ後。

 

軽く話をしておく。

 

「クラウディア、クリフォードさんを信用してあげようよ」

 

「気付いていたんだ……」

 

「うん。 時々火花散らしてたし」

 

「あの人の悪評は、バレンツ商会でも届いている程だったの」

 

悪評、か。

 

確かに世間的に見れば良く分からない人であるのは事実だろう。

 

トレジャーハントなんて一文にもならないような仕事を、それこそ命がけでやるために生活費を稼いでいる。

 

それも荒事で、だ。

 

何かろくでもない事をしているのではないかと考える奴も多いだろう。

 

しかも世間的には、クリフォードさんは賞金稼ぎの顔の方が有名だそうである。

 

クリフォードさんに狩られた賊(盗賊団丸ごとも数回あったそうだ)は数知れないし。

 

デッドオアアライブの場合は、それこそ首を持ってくる事も多いそうだから。

 

あの人はそれだけ恨みを買っているのである。

 

ただし、こんな世界で賊になるような奴は、それだけろくでもない事を意味してもいる。

 

あたしだって悪ガキだったけれども。

 

盗んだり奪ったりはしていない。

 

大人が入るなと言った場所に入ったりはしていたが。

 

それくらいである。

 

「私もね、あの人の事を観察していて、悪党だとは思わなかったわ。 だから、少しずつ態度は緩和させていくつもりよ」

 

「そう、それは良かった」

 

「それはそうとライザ、ちょっと背中を見せて」

 

「傷は治したけど」

 

「服!」

 

クラウディアがちょっと怒り気味で、フィーが怖がる。

 

座らされて、ちくちくと縫われた。

 

「ライザは可愛いんだから、自覚しないと危ないよ?」

 

「はは……」

 

そう言ってくれると嬉しくはあるが。

 

実の所、その手の言葉を言ってきた男は、だいたい体だけが目当ての連中だった。

 

可愛いだのいいながら、見ているのは胸と尻、ということも多かったし。

 

クラウディアは、あたしをよく見てくれているけれども。それは好意によるフィルターが掛かっているからだろう。

 

クラウディアもある程度はそれを自覚できているはずだから。

 

あたしとしても、それについてどうこうというつもりはない。

 

「はい、直った。 ソーイングはもう少し熟練しておこう。 錬金術で調整出来ると言っても」

 

「ごめん」

 

「うん。 じゃあ、明日本格的に遺跡の探索ね。 申し訳ないけれど、明日は出られないから、皆で遺跡を探索してきて」

 

「了解」

 

クラウディアは忙しい身だ。

 

それもまた、仕方がないだろう。

 

ともかく、今日は少し早めに戻れたが、久々の総力戦で疲れ果てた。

 

あたし自身も栄養剤を飲むと、夕方まで仮眠することにする。

 

夕方になって起きだすと、後は錬金釜に向かい。これ以上クラウディアに怒られないように。

 

服などの調整をしておいた。

 

ヒュドラ、手強かったな。

 

そう思いながら、ジェムを用いて消耗した薬や爆弾を複製しておく。

 

更に、持ち帰った鉱石を吟味。

 

それほど珍しいものはないが、相応に質が高い。

 

やはり古代クリント王国以前の世界には、錬金術が当たり前にあって。錬金術師が、貴重な素材は独占していたのかも知れない。

 

ただそれは、ちょっと実物を確認しないとなんともいえない。

 

その時代の錬金術師がカスなのは疑いがないが。

 

錬金術師がこれだけ色々な才能を必要とする事を知ると。

 

それがたくさんいたとも思えないのだ。

 

だとすると、魔物を圧倒できていたのは、人間のテクノロジーが起因していると見て良いだろう。

 

テクノロジーを作りあげたのは錬金術師だけとは限らない。

 

だとすると、文明そのものが丸ごと腐っていた可能性も高い。

 

クーケン島だって、危うい所で腐りきるのを防いでいた場所だし。

 

幾つかの集落が、どうしようもない所まで腐っているのを、あたしは何回も目撃してきている。

 

それらの経験からして。

 

錬金術師が腐っていたのは確定としても。

 

それ以外の人間が、良民だったかどうかは、疑わしいと思うようにもなっていた。

 

ともかく調合をして、インゴットを仕上げておく。

 

クリフォードさんには、ブーメランの調整はいつでもすると言ってある。

 

あたしはあたしで、靴などを調製しておく。

 

蹴り技は今回の戦闘では出番がなかったが。

 

それでも、あたしの切り札だ。

 

いつでも使えるように、調整はしておかなければならなかった。

 

 

 

恐らくこれで、この遺跡の調査は一段落となるだろう。

 

皆と一緒に星の都に出向いて、残った魔物の掃討を実施。

 

恐らく都の主が完全に目覚めた事を悟ったのか。

 

もうサメは上陸してこなくなっていたし。

 

ワイバーンも、姿を見せていない。

 

あの天井の奇怪な生物の事もある。

 

天井付近がどうなっているかは、あまり近付いて調べたくは無かった。

 

タオが言う。

 

「昨日は帰ってから図書館で資料を調べていたんだけれども、あのヒュドラに相当する伝承は見つからなかったよ。 ヒュドラ自体は他の場所でも目撃例があるんだけれどもね」

 

「あれだけの実力だと、周囲の村だのを襲って回っていてもおかしくないよね」

 

「そうなんだ。 それがどうにもおかしいんだよね」

 

「或いは、この遺跡のガーディアンとして、捕まえてこられたものだったのかも知れねえな」

 

クリフォードさんの言葉は、案外的を得ているかも知れない。

 

パティが不安そうに言う。

 

「あんな強大な魔物をですか」

 

「あり得ない話じゃないぜ。 こんなばかでかい構造体を空に浮かべていたというのならな」

 

「し、信じられません……。 あれがもし王都に乱入していたら、アーベルハイムが総力を挙げて、王都にいる騎士や戦士が全員で掛かっても、壊滅的な被害を受けていたはずです」

 

「五百年くらい前に、古代クリント王国が滅亡する前後で、人間と魔物の力関係が逆転したのはもう知ってるよな。 今は人間は押される一方で、昔は魔物を蹂躙していた文明と、「魔物の認識」が違うのは当たり前だと思うぜ」

 

なるほどと、素直に考え込むパティ。

 

誰の言葉でも素直に聞いて、しっかり自分で考えている。

 

立派な子だ。

 

ともかく、雑魚ばかりだったので、掃討は時間も掛からなかった。

 

此処からだ。

 

安全を確保できた時点で、手を叩く。

 

今日はクラウディアがいないので、足下にも気を付けておく必要があるだろう。

 

「これから羅針盤を使うので、周囲の護衛をお願いします」

 

「任されたよライザ」

 

「出来るだけ頑張ります!」

 

「ああ、なんとかして見せるぜ」

 

皆に頷くと、あたしは調整した羅針盤を開く。

 

周囲の残留思念が、一機に流れ込んできていた。

 

彼方此方をまず、順番に見て回る。

 

残留思念の世界では、この遺跡の地形がかなり違ったりしていて。時々切り替えて動かないとかなり危ない。

 

道になっている場所に道がない、なんてのはザラにあるし。

 

瓦礫の山になっている所に美しい庭園が、なんてのもある。

 

調べて見ると、古い残留思念と新しい残留思念がある。

 

古いものは、殆ど怨霊だ。

 

日記にあった。

 

この星の都に住んでいた愚かしい連中は、特権意識を拗らせた挙げ句、自分達以外の人間をゴミだと本気で思っていた。

 

それが可視化される。

 

侮蔑。

 

衰退。

 

恨み事。

 

本当に怨霊だな。そう思って、あたしは呆れる。

 

幽霊というのはあたしもほぼ見た事がないのだが、この道具を使えば簡単に見る事が出来る。

 

そして、それらは人間より無害だ。

 

此奴らが生きていた頃の方が、何十倍も有害だろう。

 

近親交配のやり過ぎて遺伝病の巣窟になった人間が、恨み事を述べつつ、地上の人間を馬鹿にしている様子は。

 

あたしとしても、流石に擁護する方法が思いつかなかったし。

 

したいとも思わなかった。

 

此奴らはどうでもいい。

 

問題は、新しいほうの残留思念だ。

 

主に中層から上層にかけて、ちらほらとそれらは存在している。

 

その中には、フィーとよく似た影をつれている人間もいるのだった。

 

「集中して会話を聞くから、足を踏み外しそうになったら手を引いて」

 

「分かりました!」

 

パティが側についたようだ。

 

あたしは頷くと、周囲の話を聞いていく。

 

「星の都がこれだけ完全な状態で残っていたのは幸運だったな。 魔女様が幾つかの封印に協力してくれている」

 

「だが、幾ら戦で死んだ者とはいえ、その亡骸をあのように使って良いのだろうか」

 

「もしもあの門が封印できなければ、出る被害はその比ではない。 クリント王国が勢力を伸ばし始めているとも聞く。 少なくとも奴らにも簡単に立ち入れないように封印をせねば……」

 

「一度封印が破れた時の惨禍を考えるとやむを得ないのは事実だが……」

 

何やら恐ろしい話をしているな。

 

死者を冒涜するような真似を此処ではしていたのか。

 

それはそれとして、それでもしなければならなかったのか。

 

古代クリント王国の名前もちらほらと聞こえる。当然同時代の存在だから、古代、はついていないが。

 

どうやらこの時代では。

 

別の国家が存在していて。

 

古代クリント王国は、侵略者の側であったようだ。

 

戦争は利権の奪いあいで起きる事が多い。というか、それが殆どの要因だ。

 

古代クリント王国は、錬金術師を有していて、それで文字通り世界の全てを支配したのだろう。

 

そしてその欲望は際限なく肥大化して。

 

異世界にまで向いた、と。

 

溜息が出る。

 

他の残留思念からも話を聞いていく。

 

「北の里はどうだ」

 

「長をしてくれていたエンシェントドラゴンがもう寿命のようだ。 ただ周囲はワイバーンが多数住まう魔窟……如何にクリント王国の者でも、迂闊には近づけまい」

 

「そうだと良いのだがな」

 

「とにかく、封印を少しでも隠蔽し、もたせる工夫をしていくんだ。 それには……犠牲が出てもかまわぬ。 残念な話だが、封印が解かれた場合の事を考えると……」

 

話しているのは、多分この辺りに来ていた人間なのだろう。

 

殆どの人間は、白い不思議なスーツを着ている。

 

どうやってここに入ったのかはよく分からないが。恐らくは、普通に出入りしていたとみていい。

 

残留思念が話している。

 

やはりあれは、精霊王のようだ。

 

「精霊王が協力的で助かった。 眷属を配置して、穴を塞いでくれるそうだ」

 

「そうか。 人為的な破壊がなければ、この遺跡の封印は守りきれるだろう。 とても助かる」

 

「精霊王もほとんどはこの土地を去ってしまったが、残っている光が人の事を嫌っていなかったのは助かったな」

 

「だが、嫌いになるのも無理はなかろう。 墜落時に全滅した者達の記録を見たか?」

 

後から来た連中も、星の都の連中が残した罪業は見たのか。

 

それもまた、納得出来る話だ。

 

封印近くも調べる。

 

残留思念の世界では。

 

封印は、八角錐のまま、美しい光を放っていた。

 

「魔力量、極限で安定」

 

「五重封印は上手く機能している。 幸いクリント王国の者どもも、世界の位相をずらす事まではできていないようだ。 この技術だけは、恐らく短時間で解析されることもないだろう」

 

「だといいのだがな。 連中は異世界への侵攻と資源の略奪を本気で目論んでいるという話がある」

 

「人間の愚かさは際限がないか。 連中の価値観だったな。 欲望は強ければ強いほど優秀な人間だと。 どうしてそのような連中に、驚天の技である錬金術が宿ってしまったのか……」

 

嘆きの声。

 

あたしはふらふらと、周囲を確認して回る。

 

パティの手。引かれる。

 

あたしははっと気付いて、一度羅針盤を解除。

 

これは結構危険だ。

 

この辺りは残留思念が濃くて、向こう側……残留思念の世界に、意識を持って行かれかねない。

 

魔力の制御には自信があるのだが。

 

それでもこんなだと、ちょっと危険だ。更に羅針盤を改良する必要があるのかも知れない。

 

「大丈夫だよパティ。 心配かけたね」

 

「ライザさん、その二枚貝みたいな道具、本当に安全なんですか?」

 

「安全といいたいけれど、この辺りは残留思念が濃くてちょっと危ないと思った。 帰ったら調整するよ」

 

「私には何もできませんけれど、それでも……心配はさせてください」

 

パティの言葉は真摯だ。

 

嘘塗れの貴族の世界では、この子は生きにくいかも知れない。

 

だが、それが故に貴重だと考える。

 

ともかく、タオに今まで聞いたことを軽く説明。タオは頷くと、メモを取っていた。

 

「なるほど。 此処に元から住んでいた人間は、恐らく星の都が落ちたときに全滅か、生き残りがいても離散。 その後に来た人間が、設備としての星の都の残骸を利用したんだね」

 

「そうなるね。 五重の封印という言葉が出て来てる。 残留思念を誤魔化すとも思えないし、やはり他にも封印が貼られている場所があるだろうし。既に霊墓のが失われている事を考えると……」

 

「ここのも無事だとは思えない。 これ以上の破損はまずい」

 

「うん。 そうなる」

 

タオは頷くと、急いでメモを取っている。

 

更にクリフォードさんが、ヒュドラがいた辺りを視線で指した。

 

「それは分かったがな。 ヒュドラはなんだったんだ?」

 

「それについてはまだ分からない。 残留思念を調べて見る」

 

「俺が懸念しているのは、ああいうのが今後も出てくるって事だ。 あんたほどの使い手が、あれだけ手間取った相手だぞ。 勝てるのか? 更に言えば、その封印を守っているって事は、封印されているのはどんな化け物なんだ」

 

「……三年前にあたし達が交戦したものと同じだったら、この世界が滅びるほどの相手です」

 

クリフォードさんはそうか、と帽子を下げる。

 

ロマンと会えなくて残念なのだろうか。

 

いや、違った。

 

いきなり笑い出すのを見て、パティがびくりとふるえて青ざめる。

 

「いや、これぞロマンだ! そんな危険な封印を見つけて、それで封印を守りきる! ロマンだねえ! 燃えてきたぜ!」

 

「ロマンの定義が分かりません……」

 

「教えてやろうか」

 

「い、いえ、結構です……怖いですクリフォードさんの目」

 

パティが露骨に怯えているので、ちょっと困りものだな。

 

咳払いすると、周囲の再調査を開始する。

 

とにかく、残留思念も有益な情報ばかりを集めてきているわけでは無い。

 

彼方此方から来た商人が、ここで商売をしていったというようなどうでもいいものだとか。

 

あくまで魔術的な技術の話で。

 

それも固有魔術のものとかもあった。

 

そういうものは、これらの封印に関係している訳でもないし。再現も出来ない。

 

錬金術である程度再現出来そうなものもありそうだが。

 

それらについても、すべてが出来る訳でもない。

 

ただ、だ。

 

封印については、幾つか情報が得られている。

 

まず封印は超高密度の魔石であること。それは臨界近い魔力を蓄えていて、物理的に破壊されると当然封印は死ぬ事。

 

封印されているものと、封印を施したものとは交戦経験があり。どうにか押し返したものの、大きな被害が何度も出ていること。

 

古代……当時は古代がつかないクリント王国にこれを発見されるわけにはいかないこと。

 

そして、どうやらガーディアンを配置したらしいことだ。

 

ヒュドラの幼体らしいのが、配置されている。

 

技術者が話をしていた。

 

「これはクリント王国で運用している生体兵器か」

 

「元々二種類の生物を融合させて、ゴーレムなどを起動させるコアを組み込んで魔術の出力を上げている存在らしい。 各地の戦闘で確認はされていたが、捕獲できたのは幸いだった」

 

「これをガーディアンに据えるのか」

 

「元々連中も制御出来ないと判断して廃棄したものであったようだ。 生体兵器としては失敗作だったわけだな。 だが、精霊王「光」の助力で、こうして封印のガーディアンとなる事が出来た。 エサに関しても、大気中の魔力と動力炉のコアがあるから、殆ど必要としない筈だ」

 

なるほどね。

 

恐らくだが、ガーディアンとして配置されたこのヒュドラは。

 

長い年月を掛けて精霊王「光」(本人がそう名乗った訳では無いので恐らくは多分、だが)の魔力を吸収し。

 

あれだけの強大な存在になったのだろう。

 

そして躊躇なく襲いかかってきたのは。

 

多分だが、あたし達を古代クリント王国の人間とでも勘違いしたのだろう。

 

ただ勘違いであっても、此方は殺されてやるわけにも行かない。

 

すまないが、正当防衛だ。

 

更に言えば、封印がされるにしても、この封印がいつまでもつかは分からない。

 

封印されている存在が何かを確かめて。それを潰してしまう事を視野に入れるべきではないのか。

 

くさいものに蓋をしても、くさいものがなくなるわけではない。

 

根本的な解決をしなければ、どうにもならないのだ。

 

いずれにしても、この封印。

 

放置は出来ないな。

 

一日がかりで残留思念を聞いて周り、タオに話をしておく。

 

一度戻る。

 

この遺跡だけで調査にかなり日数が掛かっているが。仕方がない。

 

こればかりは、拙速に走ってはいけないのだ。

 

アトリエに戻ると夕方。

 

とりあえず、タオがまとめてくれるというので頼む。あたしは、あの封印の劣化を食い止める策を考える。

 

分かってきた事があるのだが。

 

どうもあの巨大魔石、死んだ人間の魔力をまとめて集めて作ったらしい。

 

考えて見れば霊墓もそうだったのだが、あの墓はちょっと不自然だった。あれも、死人から魔力を集めるのが目的だったのだろう。

 

方法は分からないが、ともかく生体魔力を死人から全部絞り取り尽くすとか、そういうことをしたのだろう。

 

多分、何万という人間から。それをやったのだ。

 

古代クリント王国がやりたい放題をしていた時代には、何万という規模を持つアーミーが存在していた。

 

その前はもっと人間が多かったかも知れない。

 

人間同士の争いなんて、小競り合いくらいしか今の時代はないが。

 

それは人間がそれだけ減ったからだ。

 

たくさん人間がいた時代には、それこそ巨大な規模のアーミーが殺し合いをしていただろうし。

 

何万という人間の死骸を集めるのは、難しく無かったのかも知れなかった。

 

つまり、封印をもしも永続的なものにする場合は、古代クリント王国と同等かそれ以上の技術が必要になるし。

 

同じものを再現しようとする場合、王都の人間全部を死体にしても多分足りないのだろう。

 

やはりこれは。

 

封印よりも。

 

その内側にあるものの対処が優先か。

 

いや、それも思考が拙速に過ぎる。

 

もっと情報を集めて。

 

その封印されたものがなんなのか。

 

例えばオーリムへの開きっぱなしの門だったら、門の向こうのフィルフサをぶちのめす準備が必要になるし。

 

更に危険な何かだったら、それをどうにかして殺す方法が必要になる。

 

生物とは限らない。

 

自律思考してとんでもない破壊をまき散らすガーディアンとかかも知れない。

 

いずれにしても。

 

今のうちに、フルスペックで戦闘するための準備をしておかなければならなかった。

 

調合を幾つかして。

 

カフェに出向く。

 

薬と爆弾をある程度納入しておく。

 

他にも、幾つかの依頼を見て。受けられそうなものは受けておく。

 

問題は残り三つはあるだろう封印の場所が分からない事だが。

 

カフェで、誰かが飲んでいるのを見る。

 

見覚えのある姿だ。

 

というか、やっと来たのか。

 

咳払いをする。

 

びくりと、その大柄な背中が。ふるえるのが見えた。

 

「レント。 やっと来たか」

 

「……ライザか」

 

かなり飲んでいるようだ。

 

元々飲酒は出来る年齢だ。だが、それでもこの飲み方は。

 

悪い意味で、あのザムエルさんと。レントの毒親と同じ飲み方である。

 

これは、同じ挫折をしたのか。

 

あたしが眉をひそめていると。

 

レントは激高することもなく。完全に折れた男の視線を向けてきていた。

 

「すまん。 遅れた。 王都には行こうと思っていたんだが、な」

 

「手紙の返事くらい寄越しなさい。 それよりも、一体何があったの」

 

「……たくさん、色々だ」

 

「そう……」

 

ザムエルさんもそうだったと聞く。

 

一回や二回の事で、あの大巨人が折れたんじゃあない。行く先々で、魔物を斬り、弱者を助けて。

 

その結果、恩知らずな畏怖を向けられ続けた。

 

十年、いやもっと長い年月もそれが続けられ。結果として、最強の傭兵だった男は折れて酒に逃げた。

 

そういう話は、酒の席にいるザムエルさんから聞いていた。

 

「酒を抜いたら、アトリエに来なさい。 場所は分かっているんじゃないの?」

 

「ああ、知っている。 分かっている。 だけど、今は……」

 

「はあ。 どうしようもないなあ。 分かってる? 今のあんた……」

 

「分かってる。 親父と同じ逃げ方をしていやがる。 親父と同じ目にあって、それがどれだけ辛い事か理解出来た。 最近は俺の顔、親父に似て来やがった。 それも、怖くて仕方がないんだ……」

 

酒を入れているのに、ろれつはしっかり回っている。

 

これは重症だな。

 

そう思って、あたしは大きく嘆息をついていた。

 

ともかく、王都周辺に何かとんでもなくヤバイものがある可能性が高い。それについて調査中だと話をすると。

 

意外な話をされた。

 

「ひょっとしたら、それ俺がみたかも知れない」

 

「聞かせてくれる」

 

「南の鉱山が魔物が出て封鎖されたって話は聞いているだろ。 ここに来る途中、鉱山に少し潜ってみたら、都市みたいな遺跡があってな……」

 

レントの技量で倒せる魔物がいるなら、片付けておきたかったらしい。素面の時は、まだそういう風に考えられると言う訳だ。

 

続きを、レントに促す。

 

酒を呷ると、レントは言う。

 

「俺だけだと殲滅は無理だって判断して引いた。 魔物の強さがこの辺りの「優秀な」警備の戦士の手に負える相手ではないし、数が多くて俺でもまず倒し切れないと思ったからな」

 

「……分かった。 みんなと相談してみるよ」

 

「好きにしろ。 俺は……酒を何とか抜いてみる」

 

「まあ、頑張りなさい」

 

ザムエルさんは。

 

結局酒を抜けなかった。

 

レントはどうなるのか。

 

それもまた、気がかりだった。




すっかりいじけているレント。

これもまた状況からして仕方が無いですね。

二昔くらい前の作品だったらマチズモや精神論で情けないと一喝されていたでしょうが。

屈強な男でも簡単にPTSDを発症するように、こういう問題は精神論で安易に片付けられるものではありませんね。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

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