暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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4、後を追って

あたしはモリッツさんから貰った不可思議な物体を調べて見たが、結局分からなかった。しばらく手紙などのやりとりを皆としていたのだが。

 

王都に留学中のタオから、手紙が来ていた。

 

此方には資料がある。

 

今、丁度クラウディアも来ているらしいよ。

 

ボオスも僕もライザには久々に会いたいと思っていたんだ。

 

だから、来てみてはどうだろうか。

 

そういう内容だった。

 

王都か。

 

片道で一週間ほど掛かる。

 

汽水湖のエリプス湖を抜けて海路を使い。その後は王都最寄りの港から、歩くことになる。

 

往復で二週間。

 

調査も含めると、一季節か。

 

いずれにしても、この不可思議な物体。ブルネン邸に保存されていたとなると、ろくでもない代物である可能性も高い。

 

そうなると、準備だ。

 

久々に目的が生じたからか、体が軽くなった気がする。

 

順番に、やる事をこなして行く。

 

まずは、必要なお薬などの生産だ。これはあたし用ではなく、クーケン島で使うためのものだ。

 

今作れるお薬を、一通り。

 

一季節クーケン島を離れても平気なくらいは、先に作る。

 

更には、現在目撃されている危険な魔物も、あらかた片付ける。

 

そしてもう一つ。

 

「聖堂」。

 

オーリムへの通路を開きうる彼処の管理を、しっかりしておく。

 

周辺の魔物は既にあらかた掃討してあるのだが。今回は、その後処理もやっておくつもりである。

 

素材を集め。

 

調合を行っていると。

 

少しずつ楽しくなってきた。

 

レントはちょっと分からないけれど、タオやボオス、クラウディアと直に会うのは三年ぶりだ。

 

それぞれが自分の道を行っているのだから、今後は更に会える可能性は減るだろう。

 

ボオスは島に戻ってくるかもしれないが、その時はブルネン家を継ぐ事を考えるのだろうし。

 

何より、ボオスが気があることが明白なあの人とどう会うかを、今でも考えているだろう。

 

タオはひょっとすると、王都に居着くかも知れない。

 

というのも、王都には、書物だけならしっかりしたものがあるらしく。無能な貴族はどうでもいいが、其処にある資料に関しては一級品だとタオも認めている。

 

学者になって、それらを保存する生活に入るかも知れない。今でもタオは史上空前の成績をたたき出しているらしいので、実現は不可能では無いだろう。

 

クラウディアは既にバレンツ商会の重役だ。

 

今後、直接会うにはアポが必要になってくるかも知れない。

 

既にバレンツ商会のトップであるルベルトさんの右腕として、かなりの商務を引き受けていると言う事だし。商談についても、かなり忙しいらしい。

 

手紙には愚痴も結構書かれている。

 

そんな状態だ。

 

同じ王都にいても、会えるかは分からない。

 

ただ、それでも。

 

会える可能性があるなら、会いたいというのは本音だ。

 

友達は幾らでもいるが。

 

クラウディアは親友の中の親友である。

 

ともかく、王都に行く準備はしておく。

 

王都には、一線級の装備と錬金釜、それに幾つかの道具をもっていく。特に大事なのが、トラベルボトルだ。

 

これは擬似的に小型の異世界を作り出す古式秘具で、これを用いる事によって様々な場所での貴重な素材を手に入れる事が出来る。

 

今後錬金術師としての腕を上げていけば、オーリムで繁殖するフィルフサを叩き伏せる作業をもっと本格的にやっていく可能性がある。

 

現在、近場で集めて来たトラベルボトルは複数あるのだが、その内の一つは持っていく。

 

他には薬や爆弾などの自衛用装置。

 

それにメモ。

 

着替えは、二三着あれば良い。

 

錬金術の応用で、釜に放り込んであっと言う間に綺麗に出来るからだ。

 

それくらい、エーテルとそれによる要素の再構築には習熟してきている。一応、腕そのものは向上しているのだ。

 

エドワードさんの医院に、必要なものを納品。

 

かなりの量になったので驚かれたが、島の生命線だ。エドワード先生は本当に立派な医師なので、任せられる。

 

後は、バレンツ商会に話をつけておく。

 

先に一季節分の納品を済ませておいて。これから王都に行くので、そっちで足りない分は納品する話もしておく。

 

これだけで、島における販路の維持は問題がない。

 

更に、島で緊急の事態が起きた場合にも、連絡が来るようにしておく。エドワード先生、モリッツさん、アガーテ姉さん、ウラノスさんや白髭。それに他の知り合いにも、この話はしておいた。

 

まあ出先であたしが倒れたりしたら、それはそれで問題が起きるのだけれども。まあ、簡単に負けるつもりは無い。

 

戦闘に関しても、経験は積んで来ているのだ。

 

準備ができたのが、だいたい予定通りの一週間。家にもそれなりのお金を入れておく。

 

王都に行くと言うと、母さんは相変わらず分からない事をしていると顔に書いたし。父さんがそれをなだめてもくれた。

 

モリッツさんから話は来ているが、それでも王都まで足を運ぶ意味があるのだろうかと、母さんはそれでもぼやいた。

 

意味があると、あたしは答えて。

 

それで母さんは何も言わなくなった。

 

予定通り来た船。

 

かなり船は傷んでいるのが分かった。

 

航路を行く途中に、魔物に襲撃されるのだ。

 

前にクーケン島にかなり大きな魔物が攻め寄せたことがあったけれども。

 

ああいうのが、外海にはわんさかいる。

 

外海に出る船は、基本的に大きく強く作るのだが。それでも、時々撃沈させられるということだ。

 

そうなってしまうと、助けようがない。

 

ただ今回は、あたしが乗る。

 

被害なんて、出させはしない。

 

船の応急処置に必要な部材は、あたしがすぐに用意する。

 

これでも建材の準備は散々やってきているのだ。

 

即座に納品を終わらせて。

 

船に乗ってきている船大工達が、その品質を見て驚いていた。あたしも腕を鈍らせてはいないのだ。

 

ただ、師匠であるアンペルさんが見たら、どう思うだろう。

 

伸びが鈍化した。

 

そう思うかも知れない。

 

あの一夏で、アンペルさんはあたしを絶賛していた。たった一夏で、百年の研鑽を越えたと。

 

アンペルさんはある事情から長生き、それもとても長生きしているらしく。

 

それでも、あたしの方がもう技術は上だと言っていた。

 

ただ、その一夏以降、あたしは飛躍的に技術が伸びたわけではない。

 

それは、こう言うときにも散々思い知らされる。

 

みんながいないと駄目なのかな。

 

そう考えたこともあった。

 

女友達の中には、下世話な話を振ってくる子もいたけれど。

 

私は、いなくなった誰かに恋愛感情を抱いていた事は一度もない。

 

世の中には、そうではない関係もある。

 

ただ、それだけだった。

 

元々、船の整備の時間も計算に入れている。それだけ外海というのは危ない場所なのである。

 

出る前に、バレンツ商会に手紙を渡しておく。

 

バレンツ商会は鳩などを使った速達のシステムを作っていて。それにより、手紙だけなら即座に遠くへ届けることが可能だ。

 

早馬とも言われているらしいが。

 

現在では、馬で街道を急いでも、魔物のエジキになるだけ。馬よりも大きくて早い魔物なんて、幾らでもいる。

 

早馬というのはあくまで比喩であって。

 

本命は、持久力と高速での飛行能力を持つ鳥であるらしい。

 

手紙はそれでいける。

 

もっと大きな物資になると、隊商の移動にあわせて一緒に運ぶしかないので、割高になる。

 

ただあたしは、バレンツ商会にかなりの利益をもたらしていると事もある。

 

その事もあって、物資の輸送に関しても。

 

かなりの良心的な値段でやってくれるのだった。

 

いずれにしても、船の整備が終わって。

 

それで海に出る。

 

出立の日、見送りに来てくれたのはアガーテ姉さんだけだった。一応モリッツさんの以来で王都に向かうのだが。

 

モリッツさんは、あたしの事が苦手なのだろうし。

 

何より、借りが大きすぎる。

 

これ以上、公然と借りを作る訳にはいかないのだろう。

 

村の古老達は、あたしのことを苦々しく思っているようだ。

 

島の深層を暴いたり。

 

何よりも、伝統が如何に愚かしいものだったのかを白日の下に晒した。

 

伝統の中には、意味があって守っているものもあるが。

 

その意味を暴いた時点で、その神秘性は消えてしまう。

 

その煽りをもろに喰らった古老達は、あたしの事を良く思っていないことが、明らかすぎるくらいだった。

 

アガーテ姉さんがボオスの右腕であるランバーを連れてくる。

 

少し前に、ランバーは結婚した。

 

相手は島の外から来たまだ若い女性だ。ただそれでも、ランバーより二歳年上であるそうだが。

 

ランバーは、以前は腑抜けとして知られていたけれども。

 

島の危機に一緒に対する内に、ボオスがしっかりしてきたことで、腑抜けの仮面を外した。

 

今ではすっかりブルネン家の執事役として、過不足なく働いているし。

 

剣術だけならアガーテ姉さんにも匹敵すると言う事で、剣術師範というだけではなく、武力としても期待されて時々魔物の掃討に加わっている。

 

「二人とも、行ってくるからね」

 

「ああ、島の事は任せろ。 どうしようもなくなったら連絡は入れる」

 

「お願いします」

 

「ライザ、少し良いか」

 

ランバーの背筋は伸びて、視線もしっかりしている。

 

元々タッパはボオスよりも高かったのだ。

 

そうなると、あたしよりも随分上から声が降ってくることになる。あたしも見かけで相手を判断していた時期があったから。

 

ランバーがどういう思いで腑抜けを演じていたのかは今も分かるし。

 

家庭も持ってしっかりしたランバーを見ていると、色々と思うところも多い。

 

「ボオスさんが、学業で苦労しているようだ。 学業にとれる時間が少ない、といっていてな」

 

「確か向こうでの生活費が狂ってるんだっけ? それでタオと一緒に用心棒とやって稼いでるって聞いたけど」

 

「それもあるが、どうもそれ以外で時間を使っているらしい。 色恋沙汰ではない事は俺も知っている。 もし何かの理由で苦労しているようなら、タオと一緒にボオスさんを助けてやってほしい」

 

「分かった。 任せておいて」

 

一時期は、島での二大悪ガキ軍団の筆頭同士だったあたしとボオスだが。

 

今はすっかり和解して、腹を割って話せる間になっている。

 

ランバーがこういう話をするのも、その和解を知っているからだ。

 

三年前の一夏の事件で。

 

ランバーはボオスを庇って、フィルフサとの戦いで身を挺した。

 

それもあって、すっかりボオスもランバーへの見方を変えて、今では信頼しているようである。

 

いい関係だと思う。

 

モリッツさんも、水に関する特権がなくなってから、島の中で偉ぶることはなくなって。島全体の事を考えるようになっているし。

 

あの一夏での出来事は。

 

少なくとも、クーケン島の全体にとっては良いことだらけだったのだ。

 

手を振って、船に乗る。

 

父さんと母さんは見送りに来なかったな。

 

でも、家で行ってくるとは言ったし、それでいいか。

 

船が動き出す。

 

巨大な船だ。

 

移動する時の重量感が凄まじい。

 

船が帆を張って、風を受けると。加速する。

 

これは確かに、簡単には止まれないわけだと。その重量感ある動きで、実感させられる。

 

アガーテ姉さんとランバーは、すぐに見えなくなった。

 

後は、何処までも拡がる水平線と、青い空と、雲。

 

もうすぐクーケン島には夏、更には乾期が来るけれども。

 

既に水を得るためのシステムは復旧している。

 

誰も、乾期で困る事はない。

 

今ではみんな水を潤沢に使えることもあって、衛生観念が増しているとエドワード先生が喜んでいた。

 

何より、今まで水没してきていた島の東部も、人工島であるクーケン島の傾きを修正した事により、水が引いてきている。

 

地震もなくなった。

 

島は、もう当面は大丈夫なのだ。

 

さて、今度はあたしがみんなに少し遅れて、はばたく番だ。

 

王都にははっきりいってあまりいい印象がない。

 

井戸の中で、王都しか実質的に領土がない癖に伝統がどうの権威がどうのとほざいている無能貴族が騒いでいると思っている。

 

多分それは覆らないだろう。

 

ただ、例外はいるかも知れないし。

 

或いは何か、新しい冒険があるかもしれない。

 

それに、だ。

 

モリッツさんから渡された、卵みたいな宝石の塊。

 

私が側に置くようになってから、光るのを何度か確認した。

 

確かに何かあっても不思議ではないだろう。

 

出る前に確認したが、処理を忘れていることは一つもない。聖堂の封印もしっかりしてあるから、人間の与太者がオーリムに入り込んで悪さをすることもない。

 

半年前にオーリムに出向いたときには、復旧した聖地グリムドルに、更にオーレン族が増えていて。

 

顔役のキロさんを中心に、復旧作業を進めていた。

 

あたしは肥料とか色々納品して。

 

代わりに、現地で採れた特産の薬草や、安全になった地帯で採れた鉱石とかを貰う事ができた。

 

雨を取り戻したグリムドル近辺はフィルフサの恐怖からも解放されている。

 

雨が降る以上、水を致命的に苦手とするフィルフサが好き勝手をする事はないだろうし。

 

何よりあたし達の誰よりも強いキロさんが、傷ついている者も多いとは言え、生き残ったオーレン族とともに護りを固めている。

 

下手な相手に遅れを取る事はないだろう。

 

潮風が最初は気持ちよかったが、すぐに少しべたつくようになって、苦笑い。

 

船室に引っ込む。

 

人によっては船酔いで色々と困る事もあるらしく。

 

ボオスも船酔いで死ぬ思いをしたらしいが。

 

どうもあたしは平気らしい。

 

水に対する訓練は受け直したので、今では多少苦手とは言え、着衣泳も余裕でこなしていける。

 

船が転覆したとしても、まあ多分生き残れるだろう。

 

まあ船が遭難することを、今考えていても仕方がない。

 

しばらくは、船室でぼんやりすることにする。

 

多分これが、最後のぼんやりする時間だ。

 

王都に向かう道中は、クーケン島近辺と違って賊も出るし与太者も多いと聞いている。

 

それ以上に、殆ど魔物が野放しで。隊商が襲われることもしょっちゅうだと言う事だ。

 

この船の中ですら、危ないだろう。

 

だから、今は静かに過ごして。

 

しばらく本気で振るっていなかった牙を、研ぎ直すこととした。

 

王都は少しずつ、確実に近付いている。

 

新しい冒険が。

 

また始まるのだと思うと。

 

ずっともやついていた心が。

 

また少しずつ、燃え上がるように思えてきていた。

 

 

 

(続)




完全にスランプになっていたライザ。

些細な切っ掛けから、復活の糸口を掴みます。

どうせ三年前に知った事実。知ったからには対応しなければならない事もある。

調査のためにも、ライザは王都に出向きます。あくまで、切っ掛けは切っ掛けに過ぎません。

責任を持ったからには責任を果たす。それがライザの考え方です。

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