暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
次の遺跡の探索を急ぐことになります。
そもそも調査しているのは一連の古代クリント王国以前の遺跡ですが、何を封印しているか次第では大変な事になりかねないからです……
知恵と力には責任が伴い。それができるのなら対処する。
ライザにとっては、既にそれが当然の思考になっています。
序、封印を探して
朝のミーティングを開始。レントは来ていない。分かってはいたが、あたしは今日は来ないと判断して、話を始める。
レントが王都に来て、カフェにいた事を、最初に皆に告げる。
そうすると、ボオスが大きくため息をついた。
「やっぱり腐っていやがったか」
「いや、まだ立ち直れると思う。 酒を抜いたら合流するってさ」
「彼奴も分かっていた筈なのにな」
「……」
人間は身勝手だ。
そもそもザムエルさんだって、数限りない人を助けて魔物を斬ってきたのだ。それなのに、誰一人としてザムエルさんに感謝しなかった。
一度や二度で傷つき壊れる事はなかっただろう。
だがそれが、十年も続けば話は変わる。
レントは三年間、各地で同じような目にあって来たのだろう。
「自分が好きでやっているから、嫌われてもかまわない」。
そう言いきれるのなら、凄い。
戦士としては完成形になる。
後の時代に化け物扱いされて、悪者にされて伝承されたりするかも知れないけれども。それでも笑って聞き飛ばせるなら、それはそれで凄い事だと思う。
だけれども、まだレントはそれが出来る程、人間が完成していない。
三年で、あまり進歩出来なかったのだ。
クラウディアも、自分は悪い方向にばかり成長したと嘆いていたけれども。
それと余り変わらないかも知れない。
「それで、パティ」
「はい、なんでしょうか」
「南の鉱山について、詳しい情報とかある?」
「ええと……封鎖されたのは、私が生まれる前だと聞いています。 お父様だったら或いは何か知っているかも知れないです」
そうか。
実は遺跡があって。
そこから魔物が溢れた可能性がある。
そう告げると、えっと声をパティが上げて立ち上がっていた。
「下手をすると、あの凶悪なガーディアン並みのものがいるって事ですか!?」
「落ち着いて。 調査をしてから乗り込もう。 ひょっとすると、封印がある可能性も否定出来ない」
「実は、その事なんだけれども。 ライザが残留思念から拾った言葉を分析してみたんだよ」
タオが話に割り込んでくる。
残留思念からは、幾つかの単語が聞き取れたが。
深森、北の里はなんとなく見当がついている。
問題は工房だ。
何処かしらの、荒野に遺跡があったら困ると判断していたタオだったらしいのだけれども。
今の話を聞いて、ぴんと来たらしいのだ。
「もし工房があるとしたら、それは鉱石資源が豊富な場所の筈だ。 今稼働中の鉱山は恐らくはないとみていい。 むしろ魔物が大量に出て来たという場所が怪しいんじゃないのかな」
「確かに……」
「ただ、それでも情報を精査したい。 今日、僕は一日調査から外れて良いかな。 ヴォルカーさんにも話を聞きたいんだ」
「分かった。 タオ、頼むね」
ボオスが、支援のために一緒に動きたいと言ったので。
タオも、それを快く許可していた。
では、残りの面子で星の都遺跡か。
別に問題はない。
取りだしたのは、コーティング剤。
これを、あの八角錐の魔石に塗る。今日、やるのはそれと。遺跡にまだ残っている物資の搬出だ。
貴重な物資については、クリフォードさんが見分けられるし。
何よりも、動かすとまずいものに関しては、精霊王が警告をしてくれる。
本だの鉱石だのは持ち出してしまうつもりだ。
これで、星の都でやることは終わりだ。
その後、後処理のためにアンペルさんにエアドロップは貸し出すつもりである。
問題は鉱山の方だが。
これに潜るより先に。
幾つか、やっておく事がある。
まずはコアクリスタルだ。
道具を魔力を犠牲に複製できる古式秘具。非常に強力なものなのだが。問題はあたしが作る爆弾が、強力になりすぎたことだ。
つまり使うと、下手な人間だと一瞬で干涸らびる。
それくらい魔力を食うのである。
そのため、調整を続けていたが。
どうやら、うまく行ったようなのだ。少なくとも、実戦で使える段階まで、再調整は終わった。
皆にコアクリスタルを配って説明する。
「普段から大気中の魔力を吸収して、それを引き替えに道具を複製する仕様に変えたんだ」
「古式秘具をカスタマイズ!?」
「前もアンペルさんの義手を調整したじゃん」
「それはそうだけれど……」
タオが絶句している。
クリフォードさんも、顎が外れているのが分かった。
古式秘具がどういうものかは、既に説明してある。
古代クリント王国を境に、人類の文明は致命的に零落した。その結果、古式秘具のテクノロジーは手が届かぬものになりはてた。
それを理解しているから、クリフォードさんは驚く。勿論タオも。
ただ、錬金術と言うものの観点から見ると、それほど厳しいものでもないというのがあたしの結論だ。
別に構造は理解してしまえば、それほど難しいものではなかった。ただ、この方式にも欠点がある。
「一日に使えるのは一回だけだからね」
「りょ、了解です……」
パティはやっと思考が追いついたらしい。
説明の時点で、思考が凍結していたらしかった。
まあ、それもそうか。
ともかくこれで、もう少し気楽に爆弾や薬を使えるはずだ。薬にしても、切り札にとってあるような強力なのは、今まで安易に使えなかったのだ。
ともかく、今日はタオが休みで、その代わり調査をしてくれる。
星の都での作業が終わったら、次は鉱山に行く可能性がある。
今のうちに、必要な物資を考えておかなければならないだろう。
まずはランタンが必要になるだろう。
これは、別に考えなくても分かる。
他には圧縮空気だ。
鉱山の中は空気が最悪で、それで倒れる人間もいると聞いている。これはデニスさんなどの、鉱山と関係している仕事をしている人からも聞いて、確信できていた。
空気が薄い場所については、これで対策できるだろう。
問題は有毒ガスだ。
鉱山は特にそれが顕著なのだが、特に危険なのが金属などの粉塵だ。
これは体の内に入ると、そのままちいさな刃となって体を傷つける。鼻も肺も。
鉱山で体を壊した人が、鼻を丸ごと失ったり。
咳が止まらなくなって数年ももたずに死んだりするのは、これが要因だそうである。
このため、現在では露天掘りの方が主流になっている。
この鉱物粉塵を、狭い空間で吸わなくてもいいからだ。
ただし、露天掘りをするには大火力の魔術師がいる必要があるし。いたところで、簡単にはいかない。
いずれにしても、これから様子を見に行く鉱山は、坑道を掘っているタイプである。
まあ、露天掘りだったら遺跡が露出していただろうし。
それもまた、仕方が無い事なのだろうが。
今までの情報を総合するに、封印は五つ。
一つの封印は既に崩壊。もう一つは崩壊寸前で、どうにか応急処置はすませた段階である。
五重の封印について、もっと詳しく調べたいが。
もたついていると、封印が内側から喰い破られる可能性が高い。
その封印に閉じ込められている奴がフィルフサだったら文字通りの最悪の事態が引き起こされる。
今の人類に、あふれかえったフィルフサを押し返す力なんてない。
人類全てを救う力なんて、あたしにはない。
だけれども、人類を滅びから守る手段があるかも知れないなら。それはそれで、全力であがいてみるつもりだ。
圧縮空気と、それと空気の状態を調べるための道具を皆に見せて、説明をする。
パティが既に調べてきてくれていた。
「閉鎖された鉱山についてですが、お父様に魔物がでた時の事はともかく、それ以外で少しだけ話を聞いています」
「聞かせて」
「はい。 内部ではまだ金属粉塵などの被害はあまり表に出ていなかったそうです。 しかし、やはり倒れる人はいたそうですが……」
「……ただ、それももうだいぶ前の話と」
頷くパティ。
もしも、幻覚性のガスとかによる魔物の誤認とかだったら話は楽だったのだけれども。そうもいかないと。
レントが普通に戻って来ていることからしても、やはり魔物がわんさか湧いたということなのだろう。
当時働いていた鉱夫は、相当数が食い荒らされたんだろうな。
そう思うと、胸が痛んだ。
「だとすると、魔物の方が脅威度が高そうだね……」
「現時点で戦力は揃ってきていると思うけれど」
「うん、でも人数は多い方が良い。 クラウディアはいつ仕事で来られないか分からないし、タオやパティは学生だし」
「それもそうだな」
ボオスが相づちを打つ。
一応色々と調べてくれてはいるのだが、協力できそうな強い戦士はやはり話を聞かないそうである。
パティが、もう一つ問題があると言う。
「職人区に問題の鉱山への直通路がありますが、扉をあまりにも長い間使っていないので、さび付いてしまっています。 この扉、古代クリント王国からある時代のもので、簡単に錆をとれるかどうか……」
「流石に魔物対策もあるし、内側から吹っ飛ばすわけにもいかないか」
「ダメですダメです! い、一応お父様が担当の貴族と話をつけてくれています」
「お、助かる」
パティは褒められても嬉しそうじゃない。
それはそうだろう。
本気であたしが扉を吹き飛ばしかねないと思っているからだろう。
大丈夫。
そこまで考え無しじゃない。
「多分どうにかできると思う。 タオも建築関係からアドバイスよろしく」
「任せておいて」
「じゃあ、今日は一旦解散。 午前中……いや朝のちょっとした時間はあたしとパティ、タオだけで大丈夫。 ごめん、タオ。 扉のチェックだけは一緒に頼む。 午後からタオ以外の皆で集合。 星の都の後片付けに行こう」
「分かったわ。 ライザ、気を付けてね。 職人区は荒くれも多いから」
クラウディアの声は本当に心配そうだが。
あたしが荒くれごときに遅れを取るか。
最近は鈍っていた勘も少しずつ取り戻してきているし、まあ、問題は無いだろう。
解散して、職人区に向かう。
時々パティが挨拶してくる戦士に、挨拶を返している。
パティ自身が尊敬されているわけでは無く、ヴォルカーさんが尊敬されているのだけれども。
それは当然、パティも理解していて。
相手もパティが理解している上で接している。
あたし達は護衛みたいなもんだ。
そのまま歩いて、職人区を進む。デニスさんの店を通り過ぎた頃。視線を感じた。
非常に鋭い視線だ。
ちょっとその辺のチンピラじゃあないな。
そう思って、警戒段階を上げる。
タオも気付いているようだ。
「ライザ、パティ」
「分かってる」
「え、なんですか」
「すごい手練れがこっちを見てる。 パティも気を付けて」
まあ、まだパティの技量だと気付けないか。だが、それはまあ仕方が無い事だ。もっと実戦経験を積んで、修羅場を潜れば分かるようになる筈である。
流石に街中だ。
仕掛けて来るつもりはなさそうである。
やがて、大きな扉につく。
西の街道に面している城門に近い規模だ。
なるほど、これがさび付いてしまっているのなら、開けるのは大変だろう。
警備の戦士が一応いる。
このようなしまってしまっている扉でも、一応警備はしなければならないという訳だ。
パティが前に出ると、恐縮して戦士は敬礼する。
パティも丁寧に礼をすると、事情を告げていた。
「この扉を開ける、ですか。 アーベルハイム卿の許可は下りているというのは分かりましたが……」
「何か問題が起きているのですか」
「いえ、ただ……」
「この人達は、立て続けに大型の魔物を駆除している腕利き中の腕利きです」
それを聞いて、ぴんと来たのか。
戦士達の視線に、畏怖が混じった。
あたしはタオと前に出ると、扉を調べる。
最悪ブチ抜けばいいのだが。その必要は無さそうだ。見た感じ、構造体はそれほど壊れてはいない。
足に魔力を集中して跳躍。
扉の向こう側に岩とかが積もっていることもない。魔物も、扉のすぐ側にはいないようである。
一応扉の左右に大きめの見張り台があって、其処にバリスタが設置されている。
扉に近付いてくる魔物は、それで駆逐しているらしい。
ただそれも、出来るのは小物まで。
跳躍したときに確認したが、くだんの鉱山までの間は、かなり複雑な地形になっているし。
街道に出たのとはレベル違いの魔物が彷徨いている様子だ。
これは、駆除作業で一日二日は消し飛ぶな。
そう思って、あたしは着地しながらうんざりしていた。
「ライザ、どうだった?」
「丸一日か二日、雑魚退治に掛かるねこれは。 タオ、扉は」
「蝶番がさび付いてる。 錆取りがいるかな」
「おっけ。 すぐ作る」
パティを促して、戻ろうとする。
だが、その時。
また視線を感じる。五感が、此方を狙っている何かを察知しているというだけの話ではあるが。
何かが見ているということだ。それも相当な手練れが。
職人区を出ると、視線はなくなった。
まあそれはそれでいい。
ともかく、一度解散する。予定通り。扉の調査は、朝一に終わっていた。
アトリエに入ると、タオが議事録を書き始める。それもすぐ終わる。
パティは、それを見て、議事録の書き方について勉強しているようだ。
来年くらいから、ヴォルカーさんの秘書官の仕事を始めるらしい。
アーベルハイム家の跡取りをするには、その仕事を把握しておく必要がある。
故に、そもそも何をしているか把握するために、まずは秘書官から始めて。その後に家を継ぐそうだ。
ヴォルカーさんは良い娘を持ったものである。
問題は人間が結構簡単に腐る事。
パティはそうならないと思いたいが。
あたしは錆取りを調合し始める。
規模も様々な扉を、クーケン島では頼まれて直してきた。
中には古老とかが、いじわるをしてやろうとあたしに注文してきたものもあったのだが。
それを一発で解決してみせると、古老達は苦虫を噛み潰していた。
古老からしてみれば、あたしを困らせることが自己目的化していたが。
もうあたしを手に負えないと判断しているらしい。
それでいい。
あのボケ老人とその取り巻きに対して。
舐められるようなことがあってはならないのだ。
白髭老や、ウラノスさん、エドワードさんみたいな立派な年の取り方を出来る人ばかりじゃあない。
あたしはそれを常に理解して。
行動を続けなければならなかった。
「議事録出来たよ。 ライザ、調合できた?」
「うん、問題ない」
「れ、錬金術って、本当に神の御技か何かですか……」
「パティ、そう勘違いした連中が、世界を滅茶苦茶にしたんだよ。 錬金術は凄いけれど、それを使う人間が凄いわけじゃないんだ」
「フィー」
不意に、フィーが懐から顔を出す。
話が終わったことを理解したらしい。
今日は、午前中の残り時間はゆっくりするか。
フィーが飛び回り始めたので、あたしは二人にもう大丈夫と告げて。
自身も伸びをしていた。
「じゃあ、午後まで休憩で。 あたしは余った時間は休むよ。 フィーと遊んであげたいし」
「分かった。 僕は戻るね。 明日は戦闘も厳しくなりそうだね」
「アーベルハイムから手練れを派遣しましょうか」
「いや、いい」
パティの申し出は断っておく。
パティは現状、あたしの渡した装備込みだが。一応一緒に戦える最低ラインの実力を有している。
アーベルハイムにも使い手はいるだろうが、その人数分装備を増産するのは相応に大変である。
アーベルハイムから戦士を派遣して貰うとして。
その戦士を魔物から助けられるかは分からないのだ。
今は一人でも人材が必要だ。
人材は生えてくることなどないのだから。
二人が戻ると、あたしはフィーに手を伸ばす。
「ごめんね。 遊んであげる時間、中々作れなくて」
「フィー! フィーフィー!」
ぐずることもないし、遊んでくれとせがむこともない。
良く出来すぎている子だからこそ。
あたしは、フィーが心配になるのだった。
午後からの星の都の後片付けは、特に問題になる事もなく、スムーズに完了。
鉱石などの運び出しも終わり、戦闘もなかった。
これで、鉱山の方に集中できる。
一つずつ、確実に片付ける事が重要。それをあたしは、良く知っていた。
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