暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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封鎖された鉱山へ赴くには、幾つものハードルがあります。

そもそも封鎖されたのは魔物が出たから。

財源になる鉱山に魔物が出た程度で閉鎖すると言う事は。

魔物に対応できる戦力がいない事を意味しています……


1、冷たい草の刃

翌朝。

 

早朝で皆に集まってもらい、扉に出向く。

 

戦士達がひそひそと話している中、扉を開ける。錆取りを入れれば、すぐにこれくらいは出来る。

 

錆取りを刺した後、あたしとクリフォードさんで扉を開ける。

 

嘘みたいに簡単に扉が開くので、戦士達があんぐりと口を開けていた。

 

「し、信じられん……」

 

「あたし達が外に出たら、扉の防衛だけを考えてください」

 

「わ、分かりました!」

 

「いくよ……と。 昨日もいたね。 誰?」

 

近付いてくる誰か。

 

既に誰かしらに見られていたという話は展開してある。全員が武器に手を掛ける中。フードを被ったその人は。

 

あたし達に近付いて来た。

 

何度かすれ違った人だ。

 

そしてその人は、あたしの目の前で、フードを取っていた。

 

ああ、やはり。

 

「オーレン族!」

 

銀の髪の毛。オッドアイ。

 

隠しているが、手首辺りに毛が生えている様子。指の爪の生え方も鳥に近く、人間とは違っている。

 

そして何より、年齢がまったく分からない容姿。グラマラスな女性だが、この辺はリラさんと同じなわけだ。

 

何度も見たオーレン族。グリムドルであった人も、みんながこんな感じの姿だった。

 

「オーレン族を知っているのね」

 

「はい。 あたしの師匠の一人がそうです」

 

「……私はセリ=グロース。 オーレン族、緑羽氏族のものよ。 貴方たちに同行願えないかしら。 此方も目的があってね。 貴方たちの戦闘を支援するから、その手伝いをしてほしいと思って」

 

ふむ、この言葉に嘘はないか。

 

それにオーレン族は、此方の世界の人間と違って非常に正直だ。

 

だからこそ分かる。

 

あたしに対する、鋭い殺意が。

 

多分だけれども、あたしが錬金術師だと言う事を、この人は知っている。

 

だけれども、それだったらいきなり殺しに来てもおかしくない。

 

いきなり殺そうとしてこない。

 

それならば、様子見をしている段階だと見て良さそうだった。

 

「分かりました。 後でセリさん用の装備を用意します」

 

「おいおい、いいのか」

 

「今は手練れが一人でも多く欲しいからね」

 

「ライザ……」

 

クリフォードさんとクラウディアがそれぞれ心配げにいうが。

 

まあ、あたしとしては別に良い。

 

パティはまた綺麗な人が増えたと顔に書いている。しかも今までパティが見た事がないタイプだったのだろう。

 

門から外に出る。

 

荒れ放題だ。

 

扉の外にも、一応戦士達は縄ばしごなどで降りていたらしい。バリスタで仕留めた魔物を引き上げていたのだろう。

 

だが、それにしても、辺りは荒れ果てていて。

 

もう既に、扉を見ている魔物が多数。

 

それも、街道に出るのよりも数段強いのが、ゴロゴロいるようだ。

 

「それではセリさん、得意なことは」

 

「対多数戦」

 

「それは心強いな……」

 

「総員、全方向を警戒! 来る!」

 

わらわらと、魔物が姿を見せる。

 

走鳥とラプトルを中心としているが、街道周辺に出るものよりもどれも二回りは大きい。

 

この辺りは、殆ど駆除が行われていないからだろう。

 

魔物は際限なく、どいつもこいつも大きくなると言う訳だ。

 

門を閉じるように、背後の戦士達に叫ぶ。

 

戦士達が、あわてて扉を閉じた。

 

それと同時に、わっと魔物が襲いかかってくる。

 

乱戦が始まる。詠唱をしている暇はないな、これは。

 

あたしはそう思って、軽く跳びさがりながら、まずは挨拶代わりに敵の出鼻に熱槍を叩き込んでいた。

 

直後、先頭集団の魔物の群れに、横一線が走る。

 

数体の魔物の首が飛んだり、胴が両断されていた。

 

「何……」

 

「私の前に出ないで。 死ぬわよ」

 

「そのようだ」

 

なるほど、これが対多数戦用の戦闘技術か。

 

今、何かが魔物を斬ったのは分かったが、それ以上はちょっと分からなかった。

 

ともかく、戦闘を続行する。

 

タオとあたし、パティが前衛になり、後衛になったクラウディアとクリフォードさんの支援を受けながら、扉を背後に戦闘を続ける。

 

殺されても殺されても次々に魔物が押し寄せてくる。

 

中には、殺された魔物に食いつくと、引きずってさがっていく者もいる。

 

かぶりついてきた、あたしの背丈の倍くらい高さがあるラプトルの顎を、文字通り下から蹴り砕く。

 

顎だけではなく頸椎も蹴り砕いたので、仰向けに横転するラプトル。

 

そのまま、熱槍を連射。

 

連射しながら、更に火力を上げる。

 

それでもこれは押し切れないか。

 

やむを得ないな。

 

爆弾を投擲。

 

ローゼフラムを投げて。

 

此方に迫ってきている、巨大なぷにぷにに直撃させる。

 

炸裂する殺意の薔薇。

 

灼熱の花弁が周囲を蹂躙すると同時に、魔物の攻勢が一時止む。

 

今の火力を見て、流石に腰が引けたか。

 

クラウディアの大火力射撃が、中空から狙って来ていた大型の猛禽を叩き落とす。

 

あたしは呼吸を整えると、まだまだと周囲に叫んだ。

 

そうして、一刻ほど連戦する。

 

パティがもろに走鳥に食いつかれそうになったが。

 

完璧なタイミングでバックステップを決めて、同時に嘴をカウンターで両断していた。

 

技さえ入れば、ゴルドテリオン製の刃だ。

 

このサイズの走鳥程度だったら、嘴を一刀両断できる。

 

悲鳴を上げる走鳥の首がすっ飛ぶ。

 

見えた。

 

其処に、鋭い刃の雑草が生えていた。

 

これは、セリさんの技か。

 

だとすると、植物操作。

 

オーレン族の練りに練った魔術の技量から繰り出される技という訳か。凄まじい破壊力である。

 

多分植物操作だったら、出来る奴は他にも幾らでもいるだろうが。

 

これは膨大な魔力と、凄まじい戦闘経験から繰り出される技だ。

 

本来の固有魔術が強い訳ではなく。

 

練り上げられた魔術が強いのである。

 

呼吸を整えているパティに、更に数体の魔物が飛びつく。

 

あたしはかなりでっかい正体がよく分からない魔物を、熱槍の飽和攻撃している最中である。

 

ワニのようだが、それにしては足が下向きに生えている。

 

正体が分からないから、とにかく良く知らない魔物というしかない。

 

パティは。連続して襲ってきた魔物を、全てカウンターで仕留める。

 

だが、それで限界だったようだ。

 

倒れかけた所を、タオが担いで、後方にさがる。

 

変わってクリフォードさんが前に出ると、迫ってくる魔物を、担ぐほどの巨大なサイズのブーメランで、次々に殴り倒した。

 

「どうする、一旦さがるか?」

 

「そうだねえ……」

 

「ライザ、私も賛成だよ」

 

「よし……じゃあ一度敵を散らすか」

 

二つ目の爆弾を投擲する。

 

シュトラプラジグである。

 

雷霆が炸裂し、辺りにいた魔物をまとめて薙ぎ払う。その間に、あたしは詠唱を全力で開始。

 

戻って来たタオが、それを見て、あたしの前に出ないようにセリさんに警告。

 

あたしはフルパワーで魔力を練り上げて。

 

そして、新しく改良したその魔術の詠唱を続ける。

 

「踊れ踊れ火神の群れ。 太陽と光と熱の権化となりて、この世界にいる不浄なるものを全て焼き払え……」

 

「! 凄まじい魔力ね」

 

「とにかく時間を稼いで!」

 

かなり大きなラプトルが、魔物の死体の山を踏み越えて迫ってくる。

 

その顔面に、クリフォードさんの投擲したブーメランが炸裂。

 

ブーメランを持っていない状態でもクリフォードさんは充分に強く、迫る魔物を右に左になぎ倒している。

 

徒手空拳でも出来るなこの人。

 

そう思いながら、詠唱を続ける。

 

「今日の天気は、晴れのち隕石。 そして火神の晩餐! 熱の裁きよ、今顕現せよ! グラン……」

 

空に無数の熱槍が出現する。

 

それを見上げて、魔物共が足を止める。

 

口をあんぐりと開けている間に、タオに斬り伏せられたり、クラウディアに撃ち抜かれる者もいるが。

 

気が利く奴は、逃げ始めている。

 

だが、逃がすか。

 

あたしは、詠唱の最後の一節を唱え、最大火力を解放していた。

 

「シャリオ!」

 

空から、二万に達する熱槍が降り注ぐ。

 

一発ずつの火力が、それぞれ石造りのそこそこ大きな家屋を粉砕するもの。

 

それが合計二万。

 

文字通りの絨毯爆撃となって、辺りを破壊しつくす。

 

これこそが、グランシャリオ。

 

あたしが練り直した、現状でぶっ放せる最大奥義だ。

 

視界が、光に包まれ。

 

続いて、凄まじい爆音が、辺りを蹂躙していた。

 

爆音が収まり、熱風が辺りを薙ぎ払い尽くした後。

 

周囲には、魔物の死骸が転々とし。

 

黒焦げになった魔物も、また多数が転がっているのだった。

 

 

 

一度扉の向こうに戻る。

 

半生の死体が転がっていると魔物がまた来るだろうが。この近くにいた魔物は、血の気配に寄って来て。

 

それで今の戦闘に過半が巻き込まれたはずだ。

 

手当てを済ませる。

 

乱戦になったし、はっきりいって周囲にかまっている暇がなかった。アンペルさんとリラさんにも声を掛けたかったくらいであるのだが。

 

二人はどうも今霊墓を調査に行っている様子で。

 

宿には姿がなかった。

 

パティが栄養剤を飲み干して、苦いと悲しそうに言う。

 

こんなものを口にしないと駄目な事。

 

更には真っ先に脱落したことが悲しいのだろう。

 

だけれども、パティはどんどんカウンター戦術をモノにしている。撤退寸前には、三体を相手に立て続けに決めていた。

 

短期間でこれだけ強くなれば充分すぎる位だ。

 

クリフォードさんが、パティにそれを説明している。

 

格上の戦士であるクリフォードさんが、そうやって褒めてくれたのを聞くと、嬉しいのだろう。

 

パティは、疲れきった表情ではあるが、へにゃりと笑っていた。

 

「クラウディア、みんなの状態は」

 

「怪我の手当ては完了。 体力は、少し食べた方が良いかな」

 

「トイレも済ませておいた方が良さそうだね」

 

「うん。 そうしておこう」

 

戦士達は、完全に此方を化け物を見る目で見ている。

 

まあグランシャリオは、多分王都の全員が見るくらいできた筈だ。

 

もしもあれを王都にぶち込んだら、一瞬で王都を半壊させることも可能だった。それを誰もが理解しただろう。

 

それに、王宮魔術師が如何に無力かも。

 

パティも言っていたが、王宮魔術師なんてたいした存在ではないらしく。

 

クリフォードさんも証言していたが、辺境の方が強い魔術師は多いらしい。

 

だから、恐怖を感じるのは不思議では無い。

 

なお今回使ったのは広域殲滅用のグランシャリオ。この他に、収束型の単体確殺用のもあるが。

 

どちらにしても、今の時点では使用の必要がないだろう。

 

何人かの戦士が来る。

 

先頭にいるのは、見覚えがある。

 

カーティアさんだ。

 

この辺りの戦士をまとめている人だったか。

 

「この騒ぎは。 アーベルハイム卿から申請は出ていましたが、想像以上に派手ですね」

 

「丁度良かった」

 

右手を挙げるあたしを見て、カーティアさんはなる程と呟く。

 

何度か顔はあわせている。

 

この人の力量は確かだ。

 

あたしの実力を、一目で見抜いていたのだろう。

 

「少し休んだら、また周囲の魔物を掃討します。 使えそうな肉や皮は、回収してしまってください」

 

「あの大魔術を放って、まだ動けると」

 

「少し休めば」

 

「……分かりました。 戦闘が一段落したら、此方で回収作業は行っておきます」

 

カーティアさんは、多分今の、装備込みのパティより強い。それも数段上。

 

例のメイドの一族の人だが、この人より強い戦士もいるかも知れない。

 

閉鎖的で腐っているこの王都だが、この人は抜擢せざるを得ないのだろう。

 

実際貴族の子弟なんて、魔物の前に出したら秒で腰砕けになって、次の瞬間にはエサである。

 

ヴォルカーさんに嫌がらせをしたりと、そんな現実も理解出来ていない阿呆貴族もおおいようだが。

 

それでも、魔物に対抗できる戦士については、必死になんとか抜擢をしようとはしているわけだ。

 

あたしはしばらく休んでから。トイレを済ませ。

 

クリフォードさんが担いで来た走鳥をばらして、その肉をいただいた。

 

全員で食べても有り余るほどの量がある。

 

血抜きをして、その後はがつがつと喰らう。

 

喰うか喰らわれるかの関係とは言え。

 

なんとも豪快な話である。

 

パティも、かなり食べるようになっている。

 

もっと早くからたくさん食べていたら、こんなに小さくはならなかっただろうけれども。

 

それは今更言っても仕方が無い事だった。

 

「よし、第二次掃討戦、行くよ」

 

「ライザ、爆弾は大丈夫?」

 

「乱戦を想定して、事前にジェムで増やしたのを持ってきてあるから平気だよ」

 

「相変わらず何でもありだな……だがそれが良いぜ。 ロマンがかき立てられる!」

 

クリフォードさんが楽しそうで何より。

 

セリさんは、じっとあたしの方を見ていたが。

 

その視線は、やはりとても冷たかった。

 

 

 

昼までに、第二次掃討戦を行う。

 

門の外に出ても、もう魔物は襲ってこなかったが。

 

グランシャリオが焼き払った辺りから、更に外に行くと、魔物はまだまだいる。

 

しかもこの辺りは、元々鉱山資源を回収して、それを山積みにしていたらしい。

 

小屋などの残骸や、トロッコなどの残骸も散らばっている。

 

それらが魔物の姿を隠し、住処にし。

 

結果として、魔物がこの辺りで大繁殖した、というわけだ。

 

この甘いような不愉快な臭いは、腐った肉のものだ。

 

魔物どうしで殺し合って、死体が腐っているのだろう。

 

腐った肉はすぐに蠅とかが分解してしまうのだが。それでもまだ、分解し切れていない肉があるというわけだ。

 

「パティ、前に出すぎないようにしてね」

 

「はいっ!」

 

クラウディアが、来ると告げる。

 

同時に、またわっと魔物が押し寄せてきた。

 

後方では、カーティアさんが戦士達を指揮して、魔物の死体の内、使えそうなものをどんどん運び込んでいる。

 

食用に出来る魔物の肉も多い。

 

王都は結局外部から食糧を運び込んでいて、それで十五万からなる人間の胃袋を満たしている。

 

これだけの数の魔物を一度に食肉に変えられたら。

 

その肉を燻製にしておくだけでも、相当な時間保つ事が出来るし。

 

毛皮なども、使い路は多いのだ。

 

戦士のうち、経験が浅い人間は、王都の人間が外に出ないように警戒線を張っているようである。

 

いずれにしても、会話を拾う限りそんな感じ。

 

あたしには、直接見る事は出来ないが。

 

戦闘を続行。

 

魔物を片っ端から片付け続ける。

 

地形が入り組んでいる事もある。だからこそ、徹底して魔物を駆除しなければならないだろう。

 

次々に魔物が来るが、とにかく大きく、街道にいるような雑魚とは質も違う。

 

だが、今のあたしの敵ではない。

 

一体一体なら。

 

少しずつさがって敵を誘引して、まとまった所に爆弾を投擲して、まとめて薙ぎ払い、粉砕する。

 

それでもまだまだたくさん魔物はいる。

 

鉱山までの距離は、三分の一踏破できたかどうか。

 

一度後退を開始。

 

魔物は、既に死んでいる同類を貪り食い始めていて。

 

あたし達を追う事にそれほど熱心じゃない。

 

カーティアさんが、扉からかなり出て来ていて。急いで戦士達に、死んだ魔物を運ばせていた。

 

特に走鳥の死骸は、優先的に運んでいるようだった。

 

食べる事が出来ない魔物は、その場で焼いている。

 

王都の魔術師がやっているが、力量はどうということもない。あたしはそれを横目に、さがることをカーティアさんに告げた。

 

城門の内側は、凄い量の血肉があふれかえっていた。

 

血抜きが彼方此方でされていて、捌いた肉がどんどん運ばれ。多数の女集が出て来て料理している。

 

貧民窟にも肉は運ばれているようだ。

 

指揮を執っているのはヴォルカーさんである。

 

パティを見て、心配そうに一瞬だけ目の光を鈍らせたが。すぐに咳払いして、威厳を戻す。

 

「ライザくん。 君の凄まじい魔術、見せてもらった」

 

「お恥ずかしい。 現時点では、あの火力が精一杯です」

 

「そうか。 あれだけの火力を出せれば、充分だと思うが。 ともかく、多数の魔物の処理をしてくれて助かっている。 今日はまだ続けるのかね」

 

「鉱山まで、どうにか道を切り開きたいと思っています。 午後にも二回ほど、総力戦を仕掛けるつもりです」

 

そうか、とヴォルカーさんは言うと。

 

部下を手配して、更に人を集めさせたようだ。

 

貴族が様子を見に来ているようだが。

 

中には大量の血を見て、それだけで失神するような線がほっそいのもいる。

 

手当てを終えると、あたしは食事をするようにみんなに指示。

 

こういう総力戦の時は、食事は適宜しないとまずい。

 

トイレも同時に行っておくべきである。

 

セリさんは。

 

無言のまま、フードを被っている。

 

これだけの人がいる中で、オーレン族としての姿を見せたいとは思わないのだろう。

 

リラさんも、あまりクーケン島の人が多い場所に姿を見せなかったっけ。

 

この世界の人間に、強い不信を抱いていも仕方がない。

 

それは、あたしも。

 

古代クリント王国の所業を知っているから、どうしても分かるのだった。

 

「セリさん、まだしばらく戦闘は続きます。 オーレン族のスペックは知っているので心配はしていませんが、目的と合致していますか」

 

「問題ないわ。 貴方たちが遺跡を調べているのは知っている。 私も、今はそういう場所を調べておきたい」

 

「そうですか」

 

「休憩ならさっさとしなさい。 私はいつでも出られるわ」

 

流石だ。

 

この人も歴戦のオーレン族。

 

リラさんと同格の戦士と見て良さそうだ。

 

ただ、やはりあたしにたいしてあまり良い感情を持っていないようだ。監視のために近付いて来た可能性も。

 

いざという時に背中を刺す可能性も捨てきれない。

 

今は、まだ。

 

二人きりになる状況を作らないようにしないとまずいな。

 

そう思った。

 

 

 

昼の後から、また戦線を押し上げる。

 

とにかく入り組んだ地形。

 

この辺りが、鉱山として栄えていた名残。

 

それらの全てが、魔物の巣になっている。

 

見た事がない奴も結構いる。

 

それだけじゃあない。

 

此方に来るのは、幽霊鎧だ。

 

やはり、遺跡から魔物が出て来たとかいうから、そうだとは思っていたが。

 

「気を付けて! かなり古い型式の幽霊鎧だ! 強いよ!」

 

「分かってる!」

 

古代クリント王国の時代よりも更に古い時代になると、神代の技術が生きていた時代がある。

 

その時代に作られた幽霊鎧の性能は、はっきりいって高い。

 

それが魔物を駆逐するのではなく、こっちに向かってくるのは悲しいが。

 

ともかく、処理するしかない。

 

あたしが前に出る。

 

剣が振るわれる。

 

剣技は、達人のものに近いが。

 

あたしはそれを、横殴りに蹴り払う。

 

あたしの靴は金属製の靴底だけではなく、そもそも魔術で足そのものも強化している事もある。

 

杖よりも、蹴り技の方が剣と渡り合い易い。

 

それでも、歴戦をくぐり抜けてきたらしい幽霊鎧は、何合もあたしと渡り合う。

 

これは、ちょっと他の人には任せられないな。

 

総力を挙げて、激しく火花を散らす。

 

振り下ろされた剣を、紙一重でかわしつつ、懐に入って拳を叩き込む。

 

本命は拳じゃない。

 

拳と一緒に叩き込んだ熱量だ。

 

それで鎧が拉げる。

 

錆びている様子もない鎧が、火を噴きながら下がり。それでも体勢を整えようとする。

 

あたしは杖を振るって殴りかかり。それを幽霊鎧は剣を盾にして防ごうとするが。

 

残像を作って真下に潜り込むと。

 

いわゆるサマーソルトで、両腕を肘ごと狩っていた。

 

幽霊鎧が両腕を剣ごと失い、それで動揺した瞬間に。

 

あたしが熱槍を叩き込み、吹き飛ばす。

 

相当な強者だったが、どうにか出来たか。

 

呼吸を整えながら、周囲を見回す。

 

魔物の数が減り始めている。恐らく、血の臭いにつられて来た魔物だが、さっきまでの大乱戦で相当数が刈り取られたと見て良い。

 

それでもまだまだ、鉱山への道は安全とはとても言えない。

 

一応道の跡は残っているのだが。

 

それも、魔物の足跡が踏み砕いている有様だ。

 

一度撤退。

 

指示を飛ばして、戻る。

 

一度休憩を挟んで、夕方にまた戦線を押し上げる。途中、邪魔になっている瓦礫を吹き飛ばし。

 

視界を開けさせる。

 

既に使われていない小屋も多い。

 

魔物に踏みしだかれた人間の生活跡も。

 

人間の生活圏は、王都とやらの至近ですらもこうも後退している。

 

それが分かる事例だった。

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