暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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3、深淵に潜る

鉱山への入口周辺の安全を確保。

 

やっとだ。

 

鉱山に到達してから、更に一日。

 

周囲の魔物を掃討して周り。それで、やっと中に入れると判断した。

 

あたしは額の汗を拭うと、圧縮空気を確認。

 

タオが。入口付近を調べて、すぐに戻って来た。

 

「内部はさんさんたる有様だよ。 魔物が出て、本当に蹂躙されたんだね。 パティ、一緒に来るなら覚悟は決めておいて」

 

「分かりました」

 

パティは大丈夫か。

 

頷くと、鉱山の中に入る。

 

あたしはカンテラを用いる。少しでも、空気を燃やさない方が良いと判断したからである。

 

戦闘時は勿論熱魔術を使うのだが。

 

それが故に、普段は空気を節約したいのだ。

 

圧縮空気を、既に解放。

 

周囲に、常に新鮮な空気を届ける。

 

洞窟に入り、カンテラで辺りを確認すると。なるほど、これはむごい有様だ。

 

辺りには朽ちた人骨の残骸が転々と散らばっている。逃げようとして、此処で蹂躙された鉱夫達のものだ。

 

この鉱夫達がみんな罪もなかったかというと、そんなことはないだろう。

 

鉱山労働なんてハイリスクな仕事、臑に傷がない人間がするとは思えないからである。

 

勿論全員が臑に傷があったとは思わないが。

 

それでも、此処でこんな風に惨殺されて良かったのかと言われると、あたしは同意はしかねる。

 

周囲を丁寧に見ていく。

 

タオは早速マッピングを開始。マッピングは、タオに任せてしまって良いだろう。

 

「こ、声が響きますね」

 

「闇の中に住まう魔物は、そうでない魔物と生態が違うわ。 気を付けないと、気がつけないうちに死ぬわよ」

 

脅すようにセリさんが言うが。

 

パティは、むしろ驚いてセリさんを見ていた。

 

あたしともろくに口を利かない人だ。

 

まさかアドバイスをくれるとは思わなかったのだろう。

 

クラウディアが音魔術を展開。

 

周囲を調べてくれている。

 

「いるわ。 大きな芋虫みたいな魔物。 天井近くから、ゆっくり接近してきてる」

 

「小賢しい」

 

あたしは躊躇無く、天井に向けて熱魔術を叩き込む。

 

炸裂し、凄まじい悲鳴を上げて、それが落ちてくる。

 

大蛇どころじゃあない。

 

あたしの歩幅で、二十歩以上はあるだろう。体の太さだって、あたしの歩幅二歩ぶん以上はある。

 

頭部はまるごと口になっていて、内側に向いた牙がずらっと並んでいる。

 

叩き落とされてもがいているが、すぐに跳ね上がって、こっちに向かってくる。

 

ひっと、パティが悲鳴を上げる。

 

あまりにも巨大で、これに襲われたらそれこそ抵抗も出来ない間に丸呑みだっただろうと思うと。

 

恐怖が先に立つのは仕方が無い事だ。

 

だが、こいつは奇襲特化の生物。

 

体にたくさん足が生えているが、それはこの鉱山を洞窟に見立てて、立体的に動き回るためのものだろう。

 

集中攻撃を叩き込むと、やはり脆い。

 

魔術で防壁は展開するが、それもクラウディアの大弓が一発でブチ抜く。

 

更にタオが気合いを入れて一撃で頭を叩き落とすと、意外にあっけなく動かなくなっていた。

 

酷い臭いがする。

 

死体を切り分けていくと、ある段階でどろどろに溶けた死体が出てくる。

 

鉱山に迷い込んだ魔物の成れの果てだ。

 

パティが気絶しそうになったが。

 

すぐにあたしが熱魔術を使って、空気を遮断。汚物は、そのまま焼き尽くした。

 

切り分けた魔物の死骸を、一旦外に引っ張り出す。かなりの巨体で、肉もとても食べられそうにない。

 

だが、たくさん生えている足(吸盤つき)はいらないとしても。

 

皮は、白磁で非常に弾力性が高い。

 

皆で皮を剥ぐ。

 

体液が非常に酷い臭いがするが。この皮。それに牙も、かなり使えそうだ。

 

牙も非常に硬く、捕らえたエサを逃がさないという気迫が感じられる。

 

タオが特徴を見ながら、これの正体を特定していた。

 

「アースワームと言われる大型の魔物だね。 こんなに大きな奴は記録が殆ど無いようだけれど」

 

「アースワームなら見たことあるぜ。 遺跡で天井にびっしりいたりした」

 

「こんなのがびっしりですか!?」

 

「パティ、落ち着けよ。 此奴は桁外れにデカイ。 多分鉱山の中でも、顔役みたいな奴だったと思うぜ。 こんなんがたくさんいられるほど、鉱山の中は広くは作られていないからな」

 

そんな楽観を口にするクリフォードさん。

 

ともかく、皮を剥いで牙を石で叩いて外して取りだした後は。残りの死体は焼却処分しておく。

 

荷車は多少重くなったが、まだ平気だ。

 

更に奧へ。

 

入り組んだ坑道。

 

彼方此方に、人間だったらしい残骸がある。落ちているツルハシには、手の残骸らしいものがこびりついていた。

 

「悲惨だな。 皆、命がけでここに来ていただろうにな」

 

「この魔物の数は異常だね。 レントが奧で遺跡を見たようだけれども、もしかしなくてももしかするかもしれない」

 

「言い方が回りくどいですタオさん」

 

「……いるよ。 警戒して」

 

ずっと音魔術での早期警戒をしてくれているクラウディアが、注意を促す。

 

奧から出て来たのは、呻きながら此方に来る死体の群れ。いや、これは違うな。

 

死体を操作するネクロマンシーというものがあるという話があるが。実際のネクロマンシーは、殆どの場合は幽霊と会話するような一種の占いだ。

 

残留思念を見る羅針盤を手に入れてよく分かったが、幽霊なんているとしてもそうたくさんはいないし。

 

生きている人間の方が余程危険である。

 

この鉱夫の末路らしい死体の群れは、多分。

 

何かしらの魔物にでも寄生された存在だ。

 

「道が狭い! 空気がすぐ無くなるから、火力投射は避けて!」

 

「分かった。 パティ、やれる?」

 

「や、やってみます!」

 

前から、うめき声を上げつつ来る死体。

 

殆ど肉も腐り果て、骨だけになっているものも少なくない。

 

その一部が光っているのを、あたしは見た。

 

ともかく突貫。

 

手を伸ばしてくる死体を、蹴り砕く。

 

腐肉が飛び散る。

 

いや、腐肉なんて新鮮なものはない。

 

完全に死蝋化しているものに、やはり何かが寄生しているようだ。光が飛び散っているのが見える。

 

タオとパティが、次々死体を斬り伏せる。

 

死体は頭を失っても動いているが。

 

それでも両断されると、流石に動かなくなる。

 

更にセリさんが、地面に手を突くと。

 

植物がわっと繁茂して、一斉に死体に襲いかかる。そして、押し流すようにして、動かなくなった死体を壁に叩き付けて潰す。

 

それだけじゃあない。

 

植物が一斉に芽を出し、光っているナニカを取り込み始める。

 

そして、地面に再び潜って行った。

 

「なるほどね……」

 

「セリさん、今のは」

 

「この辺りにいる植物を、急速成長させたの。 あの死体を動かしていたのは、超小型の魔術を使う生物のようよ。 今の植物たちが、丸ごと取り込んで自身の栄養にしたわ」

 

「す、凄い……」

 

パティが青ざめながら、淡々と言うセリさんを見る。

 

確かに今の魔術。

 

植物操作としても、超ド級だ。

 

あたしが渡した、魔力増幅のための腕輪をフル活用しているにしても、凄まじい魔力である。

 

一応、周囲の空気を一度焼く。

 

吸い込むと、体に悪影響があるかも知れないからだ。

 

それで、圧縮空気から、空気を再度供給。

 

しばらく待ってから、奧に。

 

死体を弔ってやりたいな。

 

そう思うが、この鉱山がどれくらい奥まで続いているのか、ちょっと今の段階では分からない。

 

だから、それはやりたいこととしてはカウント出来ても。

 

今やるべき事では無いとも、あたしは思っていた。

 

 

 

一度引き上げる。

 

鉱山のかなり奥まで潜ったが、やはり鉱山である。

 

坑道は複雑で、蟻の穴のように彼方此方に伸びている。しかも魔物が勝手に拡げたりしているのだから、タチが悪い。

 

ただ、概ね何処が一番危ないのかは見当がついた。

 

途中で、何度かあのワームにも遭遇したが。

 

タオが言うように、あそこまで大きなものではなく。人間を丸呑みできる程の大きさでもなかった。

 

あれは入口付近の空洞に住み着いていて、それで入り込んでくる魔物をエサにして彼処まで大きくなったのだろう。

 

王都にまで戻ると、クラウディアが言う。

 

「ごめんねライザ。 すぐに商会に戻るわ」

 

「お疲れクラウディア。 明日は問題無さそう?」

 

「ええ。 何とか時間を作るね」

 

「頼むよ。 ああいう場所だと、あたしの探知魔術だけだと、どうしても奇襲を防ぎづらいからね」

 

小走りで行くクラウディア。

 

大量の魔物の死体の供給によるお祭り騒ぎも、既に沈静化に向かっているようだ。

 

職人区からはだいぶ人が減っているが。

 

代わりに戦士がかなり増えていて。城門の周辺で警備をしているようだった。

 

多分、鉱山への再進出か。

 

使えなくなっていた街道の再利用が検討され始めているのだろう。

 

記録的な数の魔物が討ち取られたのだ。

 

確かに、人間の生活圏を拡げ直す好機ではあるのだから。

 

とりあえず、さっさとアトリエまで戻る。

 

タオが最初に抜ける。

 

その後は、皆もおいおい戻っていった。

 

フィーが懐から出て来て、周囲を飛び始める。

 

安全になったと判断しているのだろう。

 

あたしは少し横になって休んでから、軽く調合。薬や爆弾を増やして、カフェに納品しておく。

 

それから戻って、調合をしておく。

 

鉱石を確認する為だ。

 

案の定、集めて来た鉱石は、かなり品質がいい。

 

この鉱石が出る鉱山を、あっさり手放すくらいだ。

 

王都の戦力がどれだけ低下しているのか、見本みたいな状態だと言えるだろう。

 

しばし鉱石を錬金釜に放り込んで、インゴットに調整する。

 

打ってみると、クリミネアやゴルトアイゼンが比較的簡単に作る事が出来るので、かなり良い鉱石だと分かる。

 

普通は不純物が多くて、こうはいかない。

 

王都の鉱石もそれは同じで、工業区や職人区で出回っている鉱石の質を見て、それは知っていた。

 

他にも爆弾の素材に出来そうな、強い魔力を含んだ鉱石が複数種類ある。

 

ただ、あくまで鉱山だ。

 

内部にあるのは、かなり状態が安定した鉱石で。

 

火をつけると即座に燃えるようなものは、あまりないようだった。

 

鉱物資源は、山によってかなり違う。

 

あたしも近くの鉱山だけではなくて、オーリムでも調べているからそれは分かっている。

 

この鉱山で出るのは、主に強度が高めの鉱石のようで。

 

それも、比較的加工が難しいものが多いようだ。

 

ひょっとするとだけれども。

 

ゴルトアイゼン以上の性能を持つ、強力な鉱石。

 

セプトリエンが見つかるかも知れない。

 

セプトリエンは鉱石の枠組みに収まらない代物だ。魔石の究極版と言っても良い。それもあたしが調合するような奴ではなくて。

 

何千年も年をかけて、魔石が堆積していった結果出来るようなものだ。

 

作るのは、ちょっと難しいだろう。

 

「フィー?」

 

「ああごめんねフィー。 ちょっと考えごとしてた」

 

「フィー……」

 

眠そうだな。

 

寝かしつけておく。

 

フィーも動物だ。ちゃんと眠る。

 

頭が良すぎるくらいなので、ちょっとあたしとしては心配だが。眠ればそれだけ育つのである。

 

もうかなり難しい会話も理解しているようだし。

 

はっきり言って普通の子供より頭が良いだろう。

 

鳥なんかになると、分野次第では下手な人間よりも高度な事が出来るらしいけれども。ドラゴンのレベルになると、人間に学問を教えたりすることもあるらしい。まあそこまで高度な知能を持つドラゴンには、あたしもまだ遭遇した事はないが。

 

ドラゴン。

 

そう思って。フィーを見る。

 

明らかにドラゴンの幼生体であるワイバーンとだいぶ姿は違っているけれども。

 

それでも、もしも体が似ているのなら。

 

いずれ、人間の理屈では相容れない存在になってもおかしくはない。

 

それは、あたしも分かっていた。

 

遅くなったので、休む。

 

疲れも溜まっているので、目が覚めるのはすぐだ。

 

起きだして、伸びをして。

 

そして、軽く体操をする。

 

パティが最初に来る。これもいつものことだ。

 

一緒に話をする。

 

「お父様が、ライザさんをしきりに褒めていました。 同じ戦果を上げるには、王都の戦士を総動員しても難しかっただろう、と」

 

「それは褒めているんじゃなくて牽制だね多分」

 

「えっ?」

 

「今はあまり目立ちすぎるな、と言うことだと思う。 目先の利益と自分の権力しか考えていない貴族の中には、あたしを排除したいと思う奴が出始めるかも知れないからね」

 

考え込むパティ。

 

あたしでも分かる程度の事だが。

 

この子には、ちょっと重い話だったか。

 

程なく、ボオスが来る。

 

タオは一緒では無くて。すぐにフィーが頭に乗って来たので、うんざりした様子でぼやきながらソファに座った。

 

「ボオス、早いね」

 

「色々あるんでな。 時にライザ。 前にカリナって学生の手伝いをしただろ」

 

「今も手伝いしてるよ」

 

「そうだったな。 そいつが口コミでお前の評判を広めてる。 意外にあれで交友関係は広いらしいぞ」

 

そうか。

 

そんな事を掴んでいるんだ。

 

ボオスも王都でコネの構築に余念がないんだな。

 

そう思うと、みんな自分でやるべき事をやっているんだと思う。

 

「タオは知らない?」

 

「昨日遅くまで調べ物をしていたからな。 寝坊じゃないか」

 

「酷いなあ。 朝になってもちょっと調べ物をしていただけだよ」

 

そのタオが、ひょいと顔を見せる。クリフォードさんと一緒だ。

 

途中で一緒になったらしい。

 

そして、セリさんとクラウディアが来て、それで全員が揃っていた。

 

ミーティングを行う。

 

鉱山の本格調査開始だ。

 

あたしは、圧縮空気の備え。全員分の、腰に付けるだけで使えるカンテラの支給を済ませる。

 

問題は、鉱山の中がかなり入り組んでいる事で。

 

それに関しては、万全の注意をして望まなければならない。

 

「それについてだけれども、僕の方で調べてきた。 鉱山で魔物があふれ出た日の記録について」

 

「詳しく聞かせて」

 

「うん。 一番奥にいた人達は、誰も助からなかったらしいよ。 なんでも掘り出していたら、奧からゴーレムが複数出現して、鉱夫達を殺傷し始めたらしいんだ」

 

「ゴーレム……」

 

この辺りでは、あまり多くは見ないが。

 

そもそも幽霊鎧なら、鉱山への道を切り開く際に遭遇し交戦もした。

 

いてもおかしくはない。

 

「うん。 幽霊鎧らしいのを見た記録もあった。 レントが見たらしい遺跡のガーディアンだと見て良いと思う。 鉱夫達は、多分敵認定されたんだ」

 

「そうなると、あの鉱山内部で遭遇した魔物達は……」

 

「後から鉱山に入り込んだんだよ。 生物って、どこから来たんだろうと思えるくらい、いきなりいて、適応していたりするんだ。 魔物も殆どは生物だからね。 つまりは、ここ最近で定着したのがあの魔物達なんだ」

 

「そうなんですね……」

 

タオはよどみなく答えて、パティは感心する。

 

本当に先生と教え子だな。

 

そう思って、凄いなと思う。

 

あたしもクーケン島では教師業も時々しているけれども。タオは教え方がとても上手である。

 

「そうなると、生物系統の魔物は入口だけかな」

 

「そうとも言えない。 内部が遺跡になっているとすると、どうなっているかすらも分からないんだ。 ライザが羅針盤で調べてくれた残留思念のキーワードを調査したけれども、最悪の場合……強力なゴーレムの群れが控えているかも知れない。 それに生物兵器を使っていた可能性もある」

 

「それは確かに最悪だ」

 

「いずれにしても、あらゆる備えをしていかないと。 毒ガスに対して、空気が不足する事に対して、対策がいるだろうね」

 

タオが説明を終えると、今度はクリフォードさんが提案してくる。

 

遺跡に潜るのは良いとして。

 

徹底的に下準備をするべきだと。

 

ロマンを追い求めまくる人だ。

 

もっと冒険的な行為を好むのかと思ったが、そんな事もないようである。

 

「とにかくあの鉱山、行くまでも大変だし帰路もな。 遺跡があったとして、そこでぼろぼろになった後、あの坑道を無事に抜けられると思うか?」

 

「一利ありますね」

 

「だろ? 何かしらの帰路に関する目印がいる。 錬金術でどうにかできないか」

 

「うーん、やってみますとしか言えないですね」

 

とりあえず、幾つか必要なものについては判断できた。

 

ランタンは全員分ある。

 

後は、ルートを確定したら、それを迷いなく進むための備えが必要になってくる。今もだいたいの当たりはつけているが。

 

逆に言えば、それ以上でも以下でもないのだから。

 

「それでライザ、どうするの? 今日は調合に専念する?」

 

「そうしたいけれど、一旦遺跡までの道は確保しよう。 その後にどうするかを決めておきたい」

 

「手としてはありだね。 実際問題、遺跡が具体的にどんな場所かも分からない状態だし」

 

なおレントは、この間会った時に聞いたが。適当に迷い込んで適当に出て来たそうだ。

 

本当に三年間でスランプになっていた事はあたしと同じ。

 

生存スキルが跳ね上がっているのもあたしの錬金術と同じか。

 

この三年、なんだかんだでみんな逞しく成長している、というわけだ。

 

だったらそれはそれでいいのだろう。

 

すぐに出かける。

 

ともかく、クラウディアとタオが揃っている状況は、確保できるかちょっとあまり自信がない。

 

タオは学術的な知識という観点で。

 

クラウディアは音魔術による支援で。

 

どっちもいてくれると大変助かるのである。

 

勿論他のみなもそれは同じだ。

 

王都の南門を出る。

 

途中で仕掛けて来る魔物はいるが、まあそこまで消耗するほどの相手ではない。また、ここ数日で周囲の見晴らしも良くなっている。

 

魔物を片付けて、良さそうな素材は回収して進む。

 

パティはどんどんカウンターが上手になっているが。逆にその分、手傷を受けることも増えている。

 

タオが時々心配そうに見ているが。

 

とにかく今は。実戦で経験を積むことだ。

 

坑道に到着。

 

タオが生物系のは後から来た魔物だと口にしていたように。今まで踏破した地点で、ほとんど魔物とは遭遇しなかった。

 

坑道の中のひんやりした空気が好ましいようで、魔物が入り込んでいる事はあるけれども。

 

それ以上でも以下でもない。

 

蹴散らしながら進む。消耗は出来るだけ抑えておきたいが。

 

まあ、贅沢も言えないか。

 

今の時点で、強力なゴーレムの類はいない。

 

あいつら、小さくても強いので、出来れば多数で出てこないでほしいのだが。

 

昨日、散々迷ったのだが。

 

その度にタオが適切なマッピングをしていた事もある。

 

坑道がそれほど広くは無いという理由もある。

 

一応、指示通りに進めば迷う事も無いし。

 

背後から攻撃を受けることはあっても、囲まれる事はない。

 

クラウディアの音魔術は相変わらず優秀で。

 

少なくとも、あっさり奇襲を許すこともなかった。

 

「まだ奧に続いているの? どれだけ掘ったんだか……」

 

「鉱山の中には、もっと深く掘られたものもあるよ。 人間の欲望は、地形というものを変えてしまうんだ」

 

「帰れるのか心配になって来ました」

 

「今の段階だと、それほどの距離は進んでいないぜ。 途中で何度か戦闘があったから、距離感がおかしくなっているんだ」

 

パティにクリフォードさんがそう告げる。

 

無言でいるセリさんが、顔を上げた。

 

何となく理由はわかる。

 

明るい場所に出たからである。

 

坑道は、ここで終わりだ。

 

そこは、開けた場所というか何というか。

 

とても異質な空間だった。

 

水晶だろうか。虹色に輝くそれが、縦横に走っている。いや、これは水晶では無いなと一瞥して理解。

 

これは高濃度の魔石だ。

 

火をつけて爆発するようなことはないが、触るだけでじんわりと暖かい。

 

これがもっと時を経れば、多分セプトリエンになるのだ。

 

そう思うと、此処は文字通り神秘の場所ということになるのだろう。

 

だが、どうしてこんな地下深くに。

 

前にちょっと耳にした龍脈が此処にあるというのだろうか。

 

洞窟の深部だというのに、辺りは明るい。

 

というか、これは。

 

明らかに人工的な灯りだ。

 

そして、人工的な灯りの中で、此方に近付いてくる人影。あたし達よりも、一回りは大きい。

 

間違いない。

 

鉱夫達は、これを掘り当てたから惨殺されたのだ。

 

そして近付いてくるのは。

 

明らかに、岩で出来た人間型。

 

ゴーレムだった。

 

「当たりを引いたね。 みな、総力戦準備!」

 

「あ、あの岩の塊と戦うんですか!?」

 

「ただの岩の塊じゃない。 気を付けて!」

 

腰が引けているパティ。

 

それはそうだ。

 

今まで交戦してきた魔物はあくまでナマモノだったのだ。霊墓のガーディアンですら、中身までみっちり金属だったわけではない。

 

此方に歩み寄ってくるあれは、文字通り殺戮と暴力の権化。

 

みっちり岩と金属が詰まった、生物とは根本的に立ち位置が違う怪物である。魔物という分類に属していても。生物ではない。

 

多分、相手の戦意を削ぐために搭載されている機能なのだろう。

 

凄まじい雄叫びをゴーレムが上げる。

 

これは一体や二体では済みそうにもないな。

 

そう思いながら。あたしは熱槍を叩き込む。

 

もっとずっと小さいゴーレムが、あたし達の事実上の初陣の相手だった。

 

これを乗り越えられれば。

 

パティもきっと。

 

戦士として、一皮剥けるはずだ。

 

熱槍の飽和攻撃を叩き込んでも、案の定ゴーレムは全然平気。彼方此方赤熱しているが、それでも行動に支障は無さそうである。

 

緩慢な動きから一転。

 

いきなり全身の岩が独立して空中に浮かび上がり、一斉に射出してくる。

 

クラウディアが大きいのを叩き落とし、あたしが気合とともに熱槍を放って過半数を叩き落とすが、それでも少数が飛んでくる。

 

クリフォードさんとタオが、それぞれ自身の得物を振るって叩き落とすが。

 

パティが、数発目を叩き落としたところで、腰が引けていたからだろう。

 

一つ、拳大の岩隗が、直撃コースに入る。

 

あたしは次の攻撃の準備で動けない。

 

避けて。

 

そう叫ぶが、パティは青ざめている。そこに飛び込んだのは、フィーだった。

 

「フィー!」

 

フィーがパティに飛びついて叫ぶ。

 

それで、パティは、はっと我に返ったようだった。

 

気合の篭もった一撃で、直撃コースに入っていた岩隗を弾き返す。

 

それでもずり下がったが、見事なパリィだ。

 

頷くと、あたしは更にゴーレムに飽和攻撃を叩き込む。充分に赤熱させたところで、クライトレヘルンを放り込み、瞬間凍結させていた。

 

全身が、一瞬で凍り付き。

 

更には体を構成していた岩隗の殆どが、急激過ぎる高熱からの超低温に耐えられずに、粉々になるゴーレム。

 

氷が砕ける。

 

無理に動いたゴーレムが、氷を内側からブチ砕いたのだ。

 

その時、セリさんが既に動いていた。

 

手を地面に突き、詠唱を完了。

 

巨大な植物が、それこそ坑道を縦位置文字に貫くように。ゴーレムを粉砕しながら直撃する。

 

良かった。完璧なタイミングだ。

 

勿論セリさんとしても、無意味な被害を出さないためだったのだろうが。それでも大した威力だ。

 

ゴーレムの残骸が落ちてくる。

 

その中にきらめいていたコアを、あたしは跳躍してキャッチ。

 

掴んで、魔力の周囲への放出をシャットアウト。

 

これでおしまいだ。

 

まだ動いて、浮き上がって第二次攻撃をしようとしていた岩隗が停止し、地面に落ちる。

 

へたり込むパティ。

 

「フィー、助かりました。 私、腰が引けてしまって……」

 

「良くやったよパティ」

 

「えっ……あ、ありがとうございます」

 

「僕達も、初陣ではゴーレムが相手だったんだ。 これよりずっと小さい奴だったけど、凄く強くて本当に苦労した。 今のパティは、これできっと、もっと強い相手とも戦える筈だよ」

 

タオの言葉が一番効くだろう。

 

あたしは何もこれ以上パティには言わなくて良い。

 

もう少し先に進んで、遺跡があるなら発見し、そこまでの通路を確保しておく。

 

そう皆に告げる。

 

パティも、フィーに感謝しながら地力で立ち上がり。

 

頷いていた。




※本作のセリさんについて。

本作のセリさんは植物魔術のスペシャリストです。その出力は凄まじく、文字通り植物を使ってできそうな事はだいたいできます。オーレン族のスペックが基本的に人間より高い事もありますが、そもそも修羅場を潜った数が違うのと、故郷を救うために研究に余念がないためです。

原作でも薬草などのエキスパートとして描写されていますが、戦闘での植物の使い方は本作ほど苛烈ではありません。

なおライザ3でウィンドル(オーリムの最も重要な拠点)にいたカラさん(オーレン族の最長老)がセリさんの事を知っていた節があるので、セリさんはウィンドルからこっちに来たと言う設定にしています。

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  • オリジナルの長編
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