暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
しかしここは、色々な意味で侵入者を防ぐ魔郷でした。
状況証拠からして此処に封印がある可能性が高い。今までの羅針盤での情報にも合致しています。
しかしながら、奧へ行くのは困難を伴うのです。
序、地下の魔窟
坑道を抜ける。だいぶ道中の魔物は減ってきているが、それでもかなりいる。今日はゴーレムと遭遇しなかっただけでマシだろうか。
ともかく、遺跡に出るが。
やはり、此処はビリビリと危険な気配がある。
造りとしては要塞ではない。
此処は恐らくだが、何かと戦闘する事を想定したものではなかったのだろう。何が封印されているか分からないが、それがフィルフサだったとしても。フィルフサと此処で戦闘する事を想定していたとは思えない。
かといって、これが「工房」かどうかはちょっと何とも言えない。
調べて見ないと分からないだろう。
彼方此方の建物を、少しずつ調べて行く。
その過程で、此方に来る幽霊鎧。幽霊鎧は此方を見て、じっとしていたが。やがて無視するように去って行く。
何が目的なのかはよく分からないが。
ともかく、もうガーディアンとしては壊れてしまっている、と見て良いだろう。
さっきは襲ってこなかったが。
次はどうなるかは分からない。
「タオ、本とかはある?」
「うーん、この辺りは何も。 ただこれを見て」
「!」
「ライザさん、なんですかこれ……」
パティが心底不安そうに言う。
まあ、分からないだろう。
これは、ふいごだろうと思う。
今でもデニスさんの鍛冶屋などでは現役で動いている道具だ。鍛冶を行う際に、空気を送り込む事で、炉の火力を上げるためのもの。
それを説明すると、パティは不思議そうに言う。
「何百年も前の遺跡なのに、そういうものは変わっていないんですね」
「それはそうだよ。 前も説明したけれど、人間の文明は千年前をピークに後は縮小する一方なんだ」
「つまり、全く進歩出来ていないってことだ。 千年前の更に前は、何があったのか良くわからねえしな」
クリフォードさんも本職だ。
それは良く知っている、と言う事なのだろう。
幾つかの家屋を順に調べて行く。
普通の家、もあるが。
店のようなものもある。
並んでいる武器は、これは。
見た事がない材質だ。
クリフォードさんが興味を持つ。
大きな武器は殆ど無い。というか、売り切れたのか。持ち去られたのか。
或いは、何処かで大きな戦闘があって。
それで使われたのかも知れない。
「見せてくれ、そのナイフ」
「はい。 鋭いですから気を付けて」
「ああ。 ……いわゆるミスリルかと思ったが、そうではないようだな」
「あたしも見た事がないですね、これ」
かなりの強度だが。
性能的には、クリミネアとどっこい程度か。
ほぼ錆びず軽く、そして強度もある。
錬金術の産物では無さそうだが、こんなものを作れる技術があったのは、流石に数百年前である。
他にも調べて回ろうかとしたとき。
クラウディアが動く。
上から、忍び寄っていた何かを、即座に撃ち抜く。文字通り、飛燕の早業だった。
即座に家屋から飛び出す。
うねうねと動いていたそれは、植物の根だ。
皆が家屋から飛び出すのを、あたしは熱槍を放って時間を稼ぎ。最後尾で、家屋から離れる。
ぐしゃりと、家屋が潰れ。
燃えさかる植物の根が、軋むような音を立て続けていた。
燃えにくいのか、簡単には焼け崩れないが。
それでも、やがて動かなくなる。
ぞっとした。
「い、今の、魔物ですか!?」
「分からない。 ただ……どうやらこの遺跡、どこからいつ何が襲ってきてもおかしくないみたいだ」
パティに、タオが告げる。
頷くと、クラウディアが直接歌い始める。全力での音魔術展開と言う事だ。これは、それくらいはしないとはっきり言って危ない。
皆で等距離を保って、クラウディアを守りながら、奧に。
遺跡の入口付近でこれだと。
奥の方に見えているあの巨大な木。
相当危ないかも知れない。
地面にも、木の根が増え始める。
踏むと、不意に動いたりする。やはりこれは、相当に危険な遺跡と見て良いだろう。
「もう少し、時間を稼いで。 遺跡の全体まで、音を響かせてみるわ」
「頼むよクラウディア」
「頼まれた」
クラウディアが、更に魔力を上げる。
全身が輝き、魔力の放出で浮き上がるほどだ。
神秘的な美しさだ。
三年前もこんな風にフルパワーで魔術を展開すると、魔力の放出で色々とすごかったっけ。
魔力量だけなら、あたしとそうクラウディアは変わらないのだ。
あたしが錬金釜に毎日何度もエーテルを絞り出して、鍛錬することでその魔力量を劇的に増やしたのに対し、クラウディアは瞑想や実戦で魔力量を増やした。
多分才能では、魔力量に関してはクラウディアはあたしより優れているのだと判断していい。
身内では最強だろう。
魔術制御については、今後が課題になるだろうが。
今でも既に小型の人型を多数展開して、単騎で飽和攻撃を継続して可能にするなど、相当な実力である。
火力はあたしの方が上かも知れないが。
単純な魔術師としてみると、多分クラウディアが一番凄い。
セリさんはまたとんでもないが。
この人はオーレン族なので、数百年は最低でも生きている筈で。しかもフィルフサとやりあい続けて来たのだろうから、立っている土俵からして違うと見て良い。
「今、立体的に危険な存在を表示するね」
「分かった、メモを取るよクラウディア」
「頼むよタオくん」
「……ちょっと凄まじいな」
クリフォードさんが帽子を下げる。
この連携に、レントも加わったら文字通り無敵なんだが。周囲の魔物が、明らかに此方を見ている。
急いですませないといけない。
「メモ、終わり!」
「……」
クラウディアが、魔力の放出を停止。
通常時の、周囲警戒状態に戻る。
タオのメモを見て、あたしが空中に立体図を作る。
真っ赤っかな所だらけ。
敵性勢力の位置だ。
強い敵性勢力は、特に色を赤くしている。
「こ、これ全部魔物ですか!?」
「うん。 鉱山の外にいるのとは段違いに強いね」
「死んでしまいます!」
「分かってる。 とにかく慎重に立ち回らないと危ない」
パティの腰が引けている。
ちょっといきなり対戦相手の実力が上がりすぎたか。でも、それでもタオが、大丈夫と声を掛けると、落ち着くようだ。
現金な話である。
「とにかく一番やべえのは足下からの奇襲だ。 ……ちょっとまて。 セリ、良いか」
「何かしら」
クリフォードさんがセリさんに話を振る。
人間として、一番戦闘経験も探索経験も積んでいるのはこの人だ。
話は聞く価値がある。
「どうしても人間としては頭上足下は分が悪い。 あんたの魔術、植物操作だったよな」
「言いたいことは分かるけれども、この遺跡に住んでいる植物の魔物は、ちょっと操作できない」
「理由を聞かせてくれるか」
「あの植物は、魔力をエサにしているタイプよ」
セリさんの話によると。
魔食草というのは殆ど見た事がなく、ひょっとするとこの遺跡のものがオリジナルかも知れないと言う。
或いは、此処で無害に品種改良したものが、世間的に広まっているのかも知れないそうである。
いずれにしても、此処にいる者は獰猛で。
生物を襲って潰して殺し、生体魔力を吸い尽くしていくそうだ。
血肉を喰らうのと同じ。
たまたま植物と言うだけで。
生態は動物と変わらない、というわけだ。
植物も、苛烈な居場所の争いをしている。畑をやっているから、あたしもそれは知っている。
雑草を抜かなければならないのは、そもそも作物の生存能力が雑草に劣るからだ。
栄養を取られるとかそういう問題ではないのである。
「魔力を餌にする植物は、私が魔力を流してもそれをエサにして、操作を受けつけない。 それも状況次第だけれども、あれくらい魔力を大食いする植物だと、一瞬で従えるのは不可能よ」
「なる程な、分かった。 時間を掛ければ操作はできるのか」
「それも厳しいでしょうね。 私の植物操作は、どちらかというと戦闘利用がそもそも余技で、本来は植物を管理して、森を効率よく維持するためのものなの」
「そうか……ありがとう。 ともかく、降りかかる火の粉を払うしかないわけだ」
話が一段落した所で、あたしは手を叩いて皆の注目を集める。
皆に見られたところで、あたしは告げる。
「じゃ、作戦としては。 安全圏を少しずつ増やしつつ、遺跡の中を探索して行く方針で。 それとパティ」
「はい」
「遺跡を探索し終わるまでは、少なくともヴォルカーさんに此処が安全とか、そういう話はしないで。 もしも封印があった場合は、特に」
「そもそも殆どの戦士は、此処に入る事すら出来ないと思いますが……」
ただ、あたし達が封印を調べている存在が。どれほどヤバイ相手なのかは、パティもとっくに理解している。
それを考えると、拒否の選択肢は無いと思う。
しばし考えてから。
パティは頷いていた。
「分かりました。 ただ、封印があった場合、途中経過をお父様に話します。 それでお父様と一緒に、この鉱山に誰かが入らないように手配します」
「それは有り難いね。 ただ、詳細は子孫に告げないようにも手配はして。 とにかくアンタッチャブルにしてくれると助かる」
「子孫!? そ、そうですね。 確かに何百年も先の事を考えると、それはそうなのかも知れないです」
「頼むよ。 あたし達は、自分だけ良ければいい、なんて世界に生きてない。 あたし達が封印への対応を間違えたら、一瞬で踏み砕かれるのは王都だけじゃすまない。 この間見せたあたしの奥義だって、相手を殺しきれるかどころか、効くかも分からないんだよ」
ぞっとしたのだろう。
パティは青ざめて。
それで、何度も頷いていた。
この間見せたあたしの奥義グランシャリオ、その広域殲滅型は。それこそ王都なら一発で火の海に出来る火力があった。
あれを収束も出来る事を、パティにはもう告げてある。
それが効かないというのは、想像もできないのだろう。
実際問題、フィルフサの王種がいた場合。
そいつの戦力が、あの「蝕みの女王」を越えていた場合。
あたしのグランシャリオ程度では問題外で、錬金術の武装をフル活用して、やっと首に手が届くか届かないかくらいだろう。
それくらい、危険な相手なのだ。
遺跡の地図をもう一度確認。
タオが、此方からと指示してくれる。
この遺跡も足下が危ういが。幸い底は見えている。
その点では、霊墓よりマシ。
多少高低差はあるが。
そもそも空中都市がまとめて落ちて埋まった星の都に比べると、だいぶマシな高低差だ。
ただ彼方此方に例の植物の木の根が伸びていて。
それが我が物顔に蠢いているので。
近付く度に、焼き払わないといけなかったが。
それに、その植物に襲われず、幽霊鎧が徘徊している。それも一体一体がかなり強い個体だ。
加えてゴーレムもいる。
これは、ちょっとやそっとで攻略できる遺跡ではないな。
奧に封印があるとしても、このタチが悪い植物が多数蔓延っているとなると、どうなることやら。
そう、あたしは色々と覚悟を決めていた。
レントはぼんやりと、冷やを呷っていた。カフェでは喧噪が支配していて、自分だけが取り残されているかのようだ。
生活費はある。
怖れられながらも、一応魔物の退治報酬は出されたのだ。
バレンツ商会の仕事で戦う事も結構あって。
そういうときは、他よりもずっと報酬をはずんでくれた。
だから生活費はある。王都でもやっていけるくらいに。
だけれども、それだけ。
どうしてこうも周囲が灰色になってしまったのか。
ライザには、酒を抜けと言われた。
その通りだと思う。
今。レントはあれほどならないと誓った親父になろうとしている。酒に溺れて、気にくわなければ周囲に暴力を振るって。
そして本物の怪物に成り下がって。
周囲から、ただ怖れられて。
まだ、周囲に暴力を振るう所まで、レントは落ちていない。
だけれども、今まで何度か凶賊を斬ったときに。
街などに首を持っていくと、それこそ化け物を見るような目で見られたり。
逆恨みされて、襲われる事もあったっけ。
其奴がどれだけの鬼畜外道であっても関係無い。
鬼畜外道は一定の人間に好かれる傾向があるらしく。
レントもそれを身を以て知ったので、そういう連中が出る事は、もう覚悟しているのだった。
料理の味がしない。
かなり濃い味付けの筈なのに。
ふと、気配に気付いて顔を上げると。
リラさんだった。
「話を聞いて来てみれば、随分とへこたれているな」
「リラさん……」
「何とか踏みとどまっているが、落ちる寸前まで行ったようだな。 どれだけ若さに任せて誓いを立てても、それでも父親の轍を踏むか」
「返す言葉もねえ」
大きなため息をつかれる。
フードを被っているリラさんは、自身も料理を注文すると、旺盛な食欲で食べ始める。
リラさんの話によると、彼女はまだオーレン族では若い方であるそうだから。
しかもあれだけ戦闘で激しく動くとなると。
それは食事も多いのは、普通なのかも知れない。
その一方で、必要がなければ眠るように過ごして、食事を極限まで減らす事も出来るそうである。
この辺りは、自然とともに生きるオーレン族という存在が。
それだけ、生きるために特化しているということで。
人間よりも、明確に優れている点なのだろう。
「それでどうして欲しい。 抱きしめてでもやろうか。 頭でも撫でてやろうか」
「やめてくれ。 俺もガキじゃねえんだ」
「ガキじゃないだろうが、それでも人間が一人で出来る事には限りがある。 私はあの後、ザムエルという男の噂を彼方此方で聞いた。 若い頃は荒々しいものの強い正義感を持っていて、賊を討ち魔物を倒し、時に無償で人々の為に剣を振るう人物だったそうだ。 傭兵の間でも、変わり者と言われる程の正義漢だったそうだな」
「それは……初耳だ」
本当に初耳だ。
親父と若い頃に組んでいたライザの両親。ミオさんやカールさんも、そんな話はしてくれなかった。
そうか、あの酒に常に溺れて。
母にも逃げられて。
周囲に暴力を振るい。
レントも容赦なく殴っていたあの男が。
昔は、レント以上の正義漢だったのか。
そうか。
それを聞くと、更に悲しくなる。レント以上に高潔な理想と強さを持っていた人間でも、彼処まで落ちてしまうのか。
長い年月苦しみ続けると、其処まで人間は壊れてしまうのか。
溜息が漏れた。
「とにかく、何が不満だ。 口にして見ろ」
「俺は、自分の弱さが情けない」
「武技に関しては、三年前より磨かれているようだな。 そうなると精神面か」
「ああ……」
リラさんは、少し考え込んでから告げる。
その解決方法が、意外なものだった。
「人間には一皮剥ける何かがある。 若いうちほどそれは大事だ。 お前の年頃だと、異性と関係を持ったり、身内が危険にさらされたり、色々あるな」
「異性は試した。 どうにも俺はそっちにはあまり適正がないらしい。 彼方此方で言われているような、強い奴ほど欲が強いという理屈は、俺には当てはまらないらしいな」
「それはそれでただの風説だ。 異性でダメなら、今ライザやタオがかなり危険な遺跡で苦労していることを常に考えろ。 今の時点で、ライザ達は非常に強いが、頑強な壁役がいない」
そうだ。
タオは三年で別物のように強くなったようだが、それでもどちらかというと速度で相手を翻弄する回避盾。
クラウディアは音魔術で奇襲を防いで、弓矢で戦う長距離型。
クリフォードという戦士はかなりバランスが取れているらしいが、壁役じゃあない。
パティという戦士はかなり才能があるらしいが、こっちも壁役にはなり得ないし。もう一人のセリというオーレン族に関しては、此方も支援が主体らしい。
敵の攻撃を受け止める壁がいない。それも事実か。
自分は必要とされているのか。
そう思って、レントは苦悩する。
リラさんは、もう一言告げた。
「ライザ達がお前を待っているのは、お前が必要だからだ。 お前の実力は、この腑抜けた王都の戦士達とは比較にならない。 ライザの所で装備を刷新して、壁役として戦え。 そうすることで、きっとまた三年前の輝きを取り戻せる」
「……分かった。 考えを、今日中にまとめる」
「そうしろ」
リラさんは、まっていたアンペルさんとともにカフェを出て行った。
これからライザ達が調べた遺跡に、二次調査に行くらしい。
レントだけが、何もできていない。
だから。
今、心をまとめて。立ち上がる事を、頑張らなければならなかった。
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