暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
それが少しずつ判明します。
なんのための「工房」だったのかも……
皆が揃った所で、タオが説明を始める。
昨晩の内に、持ち帰った本はあらかた目を通したらしい。大半は技術書だったらしいのだが。
その中に、幾つも興味深いものがあったそうだ。
「あの遺跡の住民は、それぞれが職人だったんだ」
「王都の職人区みたいなものかな」
「そう考えていいと思う」
クラウディアの言葉に、そうタオは頷く。
実は、クラウディアに話は聞いているのだが。ロテスヴァッサの第二都市であるサルドニカが、丁度そういう感じの職人都市だという話だ。
このサルドニカは百年ほど前に街の形が為されて、それ以降急速に発展してきている、今では珍しい「伸び盛り」にある都市で。
貴族が井戸の中で好きかってしている王都よりも将来性があるかも知れないと、クラウディアは言っていたっけ。
ただそれでも規模は王都の五分の一もないとかで。
今王都を失う訳にはいかないのだとか。
「多くは恐らく現在に伝承されている技術なんだけれども、幾つかは既に失伝してしまっているね。 特に……幽霊鎧の作り方がそうだ」
「!」
「興味を持った? ライザ」
「いや、あれは多分数を揃えられるゴーレムだから。 多分下手に解析すると、絶対に悪用される。 技術としては、なくしてしまった方が良いと思う」
タオの言葉に、あたしは即答。
意外そうにセリさんが見ていた。
パティは話を聞いているだけで精一杯。
クリフォードさんは、じっと腕組みして話を聞いてくれている。
「他にも剣や槍や、それぞれが使う武器については技術的な説明があったよ。 後で、図書館に収めてもいい本か、そうでないかは分別すべきだろうね」
「分かった。 駄目な方はあたしが引き取って、この件が片付いたらあたしのアトリエに持ち帰るよ」
「それでよろしく。 ライザだったら悪用はしないだろうしね」
信頼してくれるのは助かる。
ともかく、それで話を進める。
次だ。
タオは咳払いすると、話を続けた。
「あの遺跡は、主に居住区と、工房に別れていたらしいんだ。 後は動力炉」
「実は昨晩感応夢みてね」
「それは、久しぶりなんじゃない」
「うん。 どうも頭の働きが鈍くなってからずっと見ていなかったんだけれども、久しぶりにみたかな。 どうもそれっぽいものが浮かんでいたよ」
つまり、炉と言っても据え付けでは無い。
魔力の塊か。
それとも錬金術によるオーバーテクノロジーの産物と見て良いだろう。
再現出来るかは、ちょっと分からない。
ともかく、タオの話を聞く。
「今調べている辺りは居住区で、動力炉を挟んで向こう側に工房が集中しているみたいだね。 これは日記を見て確認できた」
「そうなると、工房を探すのが一番なのかな」
「どうだろう……実は不可侵の場所もあるらしくて」
「封印があるなら、そこの可能性が高いな」
クリフォードさんがずばり。
確かにその通りだが。ともかくは、もっとまずは情報を集めないといけないだろう。
その後は、今日の目的を説明。
今日も遺跡の探索領域を広げる。
まずは安全の確保からだ。
最終的に、遺跡を閉じる事も考えに含めないとまずいだろう。ただでさえ鉱山という人間の欲望が収束する場所だ。
其処では命がとても軽い。
鉱石が採れるとなれば、直接封鎖されていなければ、足を運んで魔物に食われる人間は幾らでも出てくる。
そうして人間の味を覚えた魔物は、どんどん人間を襲うようになる。
そんな悪循環は、させてはならないのだ。
「まずは安全圏を拡げる。 戦闘は今日も覚悟して」
そう、あたしは締めて。
そして、すぐに皆ででる。
今日も幸い全員で出られる。
急いで鉱山に向かい。鉱山を経由して、遺跡に。
既に遺跡への道は確保できているが、やはり後から後から鉱山に魔物は入り込んでいるようである。
鉱山の外は、アーベルハイム卿の手の戦士達が、少しずつ片付けているようだが。
それでも東西の街道に比べて強い魔物が多く、苦戦は免れないようだ。
あのカーティアさんが目を光らせているから、簡単に命が吹っ飛ぶようなことはないだろうけれども。
それでも途中、何度か魔物退治に加勢した。
遺跡に辿りつくと、とりあえず昨日安全確保した地点へ。
魔物はそれなりに数がいるが、縄張りの空白地になった此処に入り込んで来たのは弱い連中ばかりで、すぐに片付けてしまう。
居住区はまだまだ広い。
それどころか、内部にはかなり温度が高い水も流れている。
温泉のようだな。
そう、用水路なのか、地底の川なのか分からないそれを見てあたしは思う。
幸いそれほど水深はないようで。
サメの類が住み着いている事はなかった。
「橋があるよ!」
「どれ、アーチ状の立派なものだね」
「確か作るのにかなりの技術が必要なんですよね。 しかもこんな長い間もっているなんて……」
「恐らく、石材だけではなくて、かなり頑強に補強しているんだよこれは」
建築については、既に学者並みかそれ以上のタオだ。
パティも教わって、真面目に話を聞いているのだろう。
あたしは聞き流しながら、とにかく周囲の安全圏を確保していく。
魔食草らしいものは、どんどん焼き払って行くが。
抵抗が激しく、根は太く奇襲も仕掛けて来る。
非常に危険な植物だ。
外に出さないように、此処で徹底的に駆除しないと危ないだろう。
幸いだが、この植物は根の欠片だけから繁殖するようなことはないらしく。タオも持ち帰った後、焼却処分したそうだ。
少しずつ、確実に安全地帯を拡げる。
その間、クラウディアは音魔術を使いっぱなしだ。
それによりどれだけの奇襲を察知できるか分からない。
無言で安全地帯を拡げていく。
途中で皆に声を掛けた。
「戦略を転換するよ」
「了解。 どうするの」
「前提としてクラウディアの時間が限られてる」
これはバレンツ商会の重役として、という意味だ。
実際の所、タオもそれは同じだろう。
セリさんは腕組みして、じっと様子を見ている。
どういう風に周囲を統率するのか、興味があるのだろう。
「そこで、まずは安全地帯を拡げる。 どうせ調査は数日はかかるでしょ」
「うん、その通りだね」
「だったらあの植物を可能な限り駆除する。 植物を駆除すれば、他の魔物は灯りもあるしどうにか出来る」
そうなれば、クラウディアが忙しくて来られない日も、此処での調査が出来ると言うことだ。
クリフォードさんが挙手。
「ライザよ。 魔食草もどきの性質を見る限り、かなり積極的に動くようだが、大丈夫なのか」
「音魔術での調査をしてもらったけれども、根は動くようだけれど、マンドラゴラほど積極的に移動はしないようだね」
「なるほどな……」
マンドラゴラは、強烈な毒素を持つ植物で、なんと根を足のように動かして移動して回る。
魔物認定されているのは、猛毒もあるのだが、普通に人間大くらいの大きさはあって、パワーも人間以上だからだ。
コレに加えて、種族として音魔術を習得していて。
指向性を持った強力な音波砲は、まともに食らうと良くても一発気絶、下手をすると死ぬ。
魔物としてはそれほど数が多くは無く。
人間に対して積極的に殺しに来るわけではないが。
もし見かけたら、他の魔物と同様に危険な相手だ。
「その辺りはトレントに近いな」
「クリフォードさんはトレントを見た事があるんですか?」
「もちろんだ」
パティの質問に、胸を張るクリフォードさん。
そうか。まあ見てもおかしくは無いだろう。
トレントは森の王とまで言われる植物の魔物で。森の深部で希に見かけられる存在であると言う。
マンドラゴラのように移動する訳ではないのだが。
とにかく攻防共に非常に優れた戦力を持っていて、火で燃やそうとか安易に対応できるわけでもない。
様々な魔術を使いこなす上に、人間を外敵と見なした場合、根や長大な枝を用いて、積極的に殺しに来る。
知能も相応にあるらしく。
森の賢者などと言われる事もあるようだが。
元々長寿種族の上に、人間の知識があるなら、友好的である筈がない。
人間にとっては文字通り時代が変わった古代クリント王国の滅亡、つまり五百年前は二十五世代も前の話だが。
こういう何千年も生きるような魔物にとってはつい先日だ。
仮に友好的な個体がいたとしても、振る舞い次第では即座に殺しに来るだろう。
それくらい、危険な力を持っている。
はて。
クリフォードさんの言う通り、この魔食草もどきがトレントに似ているとしたら。
それはあまり面白くない事になるのかも知れない。
人間が魔物に対して優勢だった時代の記録はタオにも聞いているし、古代クリント王国の所業で知っているが。
魔物を生物兵器として扱う事も多かったはずだ。
まさか、な。
そう思いながら、咳払い。
戦略の転換を告げて。
まずは、この地域の魔食草もどきを、一掃する作戦に切り替える。
クラウディアに音魔術を展開して貰い、片っ端から居場所を暴いて焼いていく。
勿論激しい抵抗を受ける。
魔術は効きにくいし、枝も根も太く、その一撃は強烈だ。まともに食らうと、骨折程度で済めば良い方だろう。
此処にいる面子でなければ、何人死んでいるか分からない。
激しい戦いを続けながら、少しずつ確実に安全圏を拡げていく。
フィーが、懐から顔を出す。
「フィー」
「ん、時間か」
「フィー! フィーフィー!」
「よし、撤収準備!」
切り払い、焼き払った魔食草っぽいものの残骸を集めておく。まだ動いているものもあるが、それは容赦なくあたしが踏み砕いていた。
それらから、フィーが魔力を吸い上げる。
かなり満腹したようだが。
それにしても、これだけの量の魔食草もどきから魔力を吸い上げるとは。
やっぱりフィーはドラゴンの近縁種なのかも知れない。
だとしても、今までと同じように接するだけだが。
「後一日くらいで、この居住区は片付きそうかな」
「この植物の駆逐と、彷徨いている幽霊鎧やゴーレムの排除に注力すれば、後一日でどうにかできると思う。 問題はあっちだけれど」
「うん……」
タオが視線を向けたのは、この遺跡の中央部分と、それにその向こう。
工房があるらしい場所だ。
中央部分は、かなりの数の幽霊鎧とゴーレムが行き交っている。仕組みがどうなっているかもよく分からないアーチの上に、複雑な機械的構造物が乗っかっているようだ。
幽霊鎧は当然襲ってくるだろうし。
ゴーレムも当たり前のように来るだろう。
他の雑多な魔物もいるが、これはわざわざカウントしなくてもいい。来るようなら蹴散らすだけだ。
まっすぐアトリエに引き上げ。
アトリエで、軽く話をする。
「クラウディア、明日も同じようにお願い。 明後日は、バレンツの仕事をこなして来るように調整って出来る?」
「そうだね、何とかしてみるね」
「お願いね。 じゃあ、明日で一気にまずは居住区と思われる場所を全部片付けるよ」
「奇襲が本当に怖いですね。 足下から集中的に襲われるのが、こんなに怖いだなんて思っていませんでした」
パティが愚痴る。
セリさんは、じっと黙りだ。
基本的に殆ど喋らない。
あたしを観察している。それが分かっているから、あたしも意見を求めるようなことはしないし。
今の時点では、一緒に戦ってくれるだけで充分だった。
更に一日掛けて、居住区と思われる遺跡の区画を掃除。大量の魔食草もどきを排除して、その残骸を焼き払った。
残骸に溜まっている膨大な魔力を、フィーが連日吸い込んでいく。
本当に魔力をエサにしているという観点では大食いなんだな。
そうあたしは驚かされる。
というか、フィーが自然に生きている環境って、どういうものなのだろうとも思う。
そもそもこれだけ魔力をどか食いすると言う事は、相当に空気中の魔力なり、親になる個体の魔力が多い生物であるはずだ。
そうなると、やはり親はドラゴンのように強大なのか。
環境に魔力が満ちているというのは、どうにも考えにくい。
この世界の大気中にも魔力は満ちているが、それを吸ってフィーが満足している様子がないのである。
かといって、オーリムだって魔力が圧倒的に多いわけでもない。
フィルフサが荒らしたグリムドルしか見ていないというのもあるけれども。大気中の魔力がそんなに多いなら、肌で感じるはずだ。
だとすると、フィーの生まれた環境とは何処だ。
それが分からない。
この世界でもオーリムでもないのだろうか。
可能性はある。
ただ、百年ちょっと前にブルネンのバルバトスとか言う当主がフィーの入っていた卵を持ち帰ったのだとしたら。
卵が、あの渓谷の先の塔にあった可能性は高く。
そうなってくると、古代クリント王国のカス錬金術師どもが、何らかの理由で入手していた可能性が高い。
連中の幽霊を拷問でも出来れば良いのだが。
それは流石に出来ないか。
ともかく、一日掛けての駆除が終わり。目をつけておいた鉱石と、書物だけを持ち帰る。
幽霊鎧やゴーレムは、持ち場以外がどうなるとまるで興味が無いらしく、近寄ってくる様子もない。
本当に壊れているんだなというのが一目で分かってしまって悲しい。
無事だった本や、解析が必要そうな道具を荷車に詰め込みながら、タオに確認しておく。
「それでタオ、居住区の解析にはどれくらい掛かりそう?」
「そうだね、二日あれば十分かな」
「それならクラウディアには、その間はバレンツの仕事に注力して貰おう。 逆に、その後はタオには学業に専念して貰おうか」
「はは、気を遣って貰わなくても大丈夫なのに」
パティも、と言おうとしたが。
パティは首を横に振る。
少しでも戦闘経験が積みたい、というのだろう。
なるほど、それならば意思を尊重するだけだ。
引き上げて、翌日。
クラウディアがいない状態で、遺跡に来る。やっぱりクラウディアも、バレンツの重役である。
仕事が溜まると、後の負担が大変なのだ。
あたしが気を利かせると、とても喜んでくれていた。
それであたしも嬉しい。
手分けして、遺跡を探る。
こうやって遺跡を探るのは、皆が揃っていたとき以来だな。そう思う。レントも、きっと合流してくれる筈だ。
そう信じて、あたしは淡々と調査を続ける。
タオが手を振って来る。
瓦礫に埋もれている倉庫を発見。瓦礫に埋もれているというか、建物そのものが魔食草もどきに潰された後だ。
皆で瓦礫をどかして、本を掘り出す。
本もかなりあるが、生活用具なども結構あった。
トイレの跡などもあるが。
流石に年月が経ちすぎていて、不愉快な臭いとか、汚物とかは残されていない。
丁寧に調査していくタオの側で、パティはせっせと運びものをしている。
持ち帰る本は、可能な限り全部だ。
一部の本は、クラウディアが確保してくれた、街道近くの家屋に運ぶ。
図書館に寄贈したら燃やされかねないようなものを中心とした書物だ。これに関しては、あたしが帰った後も、タオが管理してくれる予定である。
まあタオとパティが結婚したら、管理をアーベルハイムに移せば良いだけなので。それについては心配していない。
勿論、それをタオにもパティにも言うつもりはないが。
「荷車、いっぱいだぜ」
「一度撤退するよ!」
「せわしないわね」
「本来遺跡の調査ってのはこういうものだ。 俺も金を稼いでトレジャーハントする時は、最後の一瞬以外は全部地味な仕事なんだぜ」
呆れ気味のセリさんに、クリフォードさんが熱弁している。
あたしはその熱弁を生暖かく見守りながら、帰路を急ぐ。
アトリエに本を移す。とにかく、タオが先にどう動くべきか計画を練ってくれていたので、作業は極めてスムーズに進んでいる。もう一周いけるだろう。
遺跡にとんぼ返り。
凄まじい勢いで行き交っているあたし達を、王都南門の警備の戦士達は、困惑気味に見守っているが。
それにどうこうと言うつもりは無い。
仕事をしてくれていれば、それでいい。
遺跡に到着して、すぐに展開する。タオの立てた予定は的確で、あたし達は力仕事でどんどん必要な物資を荷車に積み込んでいくだけで良かった。
「腰が抜けそうです……」
「パティ、瓦礫の排除中心にやる?」
「いえ、力が足りないのは分かっているので、体幹を鍛えるためにもやらせていただきます!」
「そっか」
奮起するパティ。
ただ無理をすると、変な風に体を壊しかねない。
ちょっと考えた後に、パティに栄養剤を渡しておく。いわゆる超回復を促すものである。
寝ている間に超回復を引き起こすために、一気に体力を増強できる優れものなのだが。
二十歳前の人間にしか効果がない。
あたしももう自分で効果がない事は把握している。
これは、二十歳以降は成長しないからだ。
筋力などは伸びるが。
それはそれ。
まだ成長段階にある体の仕組みをこの栄養剤は利用している。なお、とんでもなくまずいので、パティは飲み下して、真っ青になっていた。
「ライザさん、これ、とんでもないです……」
「でも、あたしが自分で試して効果はお墨付きだよ」
「……はい」
「何だか大変だな。 だけれども、その強さへの執念、きっと実を結ぶはずだぜ」
クリフォードさんのフォローが暖かい。
後は、ひたすら荷物を積み込んで、アトリエに戻る。
その過程で、クリフォードさんは、居住区のチェックをして。色々メモに取っていた。
何往復かして。
必要と思われる物資や、本の回収は終わった。一部の本は既にタオが読み終えており、街道の近くにある小屋に移動済である。
夕方近くだが、クラウディアにも加わって貰って、ミーティングをする。
この段階で、遺跡の三分の一は踏破したと見て良いだろう。
「それじゃ、分かった事からまとめよう。 タオ、まずは最初にどうぞ」
「コホン。 ええとまず最初にだけれども、あの遺跡は「工房」で間違いないと思う」
タオの説明によると、読んだ日記は何種類かあるが、いずれもが共通して、何かを生産していたものだったそうだ。
武器だったり、幽霊鎧だったり、或いはゴーレムだったり。
特に幽霊鎧とゴーレムは、複数を製造しており。
大型のゴーレムに至っては、完成品を何処かしらに出荷するだの、納期がどうだのと、そういう話がされていたとか。
それだけじゃあない。
「燃料用の木の扱いについて、幾つもの苦労話が書かれていたよ」
「燃料用の木?」
「鉱山に木材でも運び込んでいたんでしょうか」
「いや、間違いなくあの魔食草もどきだよ。 あの植物は、錬金術がない中で、強力な金属を作り出すための薪にされていたんだ。 これに関しては、ほぼ確定だね」
なるほどな。
タオも流石にそういうのは、しっかり調べてくれるという訳か。
クラウディアが小首を傾げる。
「それで、タオくん。 それらの武器や兵器は、何に使っていたのか分からないのかしら」
「ううん、残念ながら。 殆どの職人は、「戦いに使っている」としか残していないんだよ。 これが古代クリント王国が相手なのか、それとも封印されている存在が相手なのかはちょっとなんとも言えないね。 或いは、知らされていなかったのかも知れない」
「職人の社会的地位が低かったのかも知れねえな」
「その可能性はありますね」
クリフォードさんの意見に、タオが同意する。
職人の社会的地位が低いことは、ままある。
金属製品とかは、とくに職人の技が大事になってくるし。
業物の剣や槍は、職人の繊細な技術から産み出される。
それだけじゃあない。
戦場で命を賭ける得物なのだ。
職人を軽視するのは、論理的に考えてもおかしいのだが。
しかしながら、そういう風潮は残念ながらある。
それが、現実なのである。
「現時点ではまだ分かっていない事が多いね。 問題は封印があるかだけれども、それについては可能性はどう?」
「職人達のリーダー格……いや、長老に近いだろうね。 マエストロという階級があったようなんだけれども。 そのマエストロ達が、何かしらのものを大げさな仕掛けで封じたとか、そういう話はちらっと見かけたよ」
「ふーむ、それだけだと何とも言えないか。 残留思念を見るしかないだろうね、今回も」
「そうだとすると、ライザがフラフラの状態でも護衛できるくらいに、安全は確保しないといけないね」
クラウディアの言う通りだ。
あたしは頷くと、一度解散を指示する。
セリさんはあたしを一瞥だけして、ふらりと消えた。
パティは最後まで残っていて。それで。あたしの首元。ネックレスを見る。
「ライザさん、そのネックレス……」
「ああ、これね。 あの強かった幽霊鎧の武器を改造したんだ」
「それは、なんとなくそんな気がしていました」
パティもあたしの周囲に男っ気がないことは、すでに分かっているらしい。
最初はタオの事もあってあたしにあからさまに警戒心を向けていたのに。だいぶ打ち解けてきたと言う事だ。
「私、基本的な筋力が足りないんです。 インナーマッスルを鍛えるのは良いんですが、さ、流石に容姿に露骨に影響が出るほど筋肉が出るのはちょっと嫌で……」
「ああ、なるほどね。 このネックレス、幾つかの支援魔術をつけるように設計したんだけれども……筋力強化を強めに設定して、パティの為に作ろうか?」
「あ、ありがとうございます! その、買い取ります」
「数日試してみて、様子が良さそうだったらみんなに配ろうと思っていたから、気にしなくていいよ。 背中と命を預ける戦士に支給する装備なんだから。 でもパティは今後も身に付けて使いたいんでしょ」
頷くパティ。
というか、これは恐らく。
強さとお洒落の両立か。
パティもタオによく見られたいのだろう。恋をする人間は、そういう風になるという風に聞いている。
あたしは色恋に興味が無いから分からないが。
分からないものを邪険にするほど、狭量ではないつもりだ。
「分かった。 今日中に増やしておくよ。 筋力、反応速度の強化、それに快復力強化辺りの支援魔術が掛かるようにしておくね」
「本当に、お礼の言葉もないです」
「いいんだよ。 だから、あたし達と並ぶくらいに強くなって」
「流石にすぐには無理です……」
どこか気弱だなあパティは。
ともかく帰らせる。
そして、調合前にバザーに出る。食材でも補給しておこうと思ったのだが、そこで意外な人とであった。
手を振っている小柄な女性。
夕暮れだが、すぐに誰かは分かった。
「あ、ロミィさん!」
「ライザ、久しぶり! 王都に来てるって聞いて、ロミィさんはいてもたってもいられなかったよ」
「はは。 そちらの方は」
「新人ちゃん。 うちも少しずつ、商人見習いの面倒を見られるくらいに商売規模を増やしているんだ」
そうか。
ロミィさんは、クーケン島にも出入りしていた行商人だ。
どうしても僻地だから、ろくでもない与太者まがいの行商人も来る。そんな中で、まともな行商人は非常に貴重で。ロミィさんは多少金には汚いけれども、それでも毎回稀少な品を持って来てくれるので、それで島の人達にはありがたがられていた。
そもそもバレンツ相手にブルネン家があれほど媚態を尽くしたのも、バレンツのルベルトさんが本当に良心的な商売をしてくれたからで。
逆に如何に大手の商会といえども、バレンツが阿漕な事をやろうとしたら。あのモリッツさんでも、商売を切り上げていただろう。
「珍しい本とかあります?」
「おお、本か。 裕福になったらしいとは聞いているけど、本当なんだねえ。 お姉さん嬉しいよ」
「ハハハ。 どれ……」
早速出してくる幾つかの書物。図鑑類を出してくるのは、分かっているとしか言えない。
服飾のデザインらしい本が目を引く。
機械類が駄目になっている事もあって、実際にはもう作れない服などもあるので、ほとんど意味がないカタログなんだが。
あたしにとっては、デザインの参考になる。
錬金術に関しては、アンペルさんが太鼓判をおしてくれるあたしの才覚で、気恥ずかしくはあるのだが。
そんなあたしも、なんでも出来る訳ではない。
特にデザインなんかはわからんことばかりなので、こういうカタログはありがたい。まんま参考にさせて貰う。
「これいただきます」
「まいどあり。 即金とは太っ腹だねえ」
「いえ。 また良いものがあったらお願いします」
「クーケン島はバレンツとの提携後、目に見えて豊かになったからね。 足を運ぶ機会も、増えると思う。 その時はヨロシクね、お得意さん」
愛想良く笑うロミィさんだが。
あくまで作り笑顔だ。
この人も、本質的にはシビアなお金の世界で生きている人。心の底から信用する訳にはいかない。
勿論それは、あたしもロミィさんも理解している事だ。
だから、続く関係でもあるのだった。
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