暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
しかしながら、街道で早速現実を目にすることになります。
魔物に為す術無い戦士達。簡単に通行できなくなる街道。
この世界の人間が、どれだけ魔物に押されているかは故郷でも知っているつもりのライザでしたが。
それは王都周辺だろうが、同じ事なのだと思い知らされるのです。
序、掃除から始める旅
王都の最寄りの港についた。
船酔いはしなかったが、数日退屈だった。やる事がないのだ。だから船室に鍵を掛けて、トラベルボトルを用いて、擬似的に作った異世界で採取をしていた。魔物も出現するので、それを相手に戦闘もして。腕が鈍らないようにもしていた。
夕方や朝には、湯沸かしを頼まれることもあったので、それは率先して手伝っていた。
あたしの湯沸かしの技術は外でも通じる。
というか、瞬間湯沸かしが出来るのは大きいらしく。
あたしはどこでもやっていけるらしかった。
まあ、それは各地を旅してきていたアンペルさんからも聞いていたが。
船を下りると、荷物を引いて、まずは港を見て回る。
寂れた港町だ。
此処はこれでも、王都にアクセスがある港町だろうに。それほど栄えているようには思えない。
というか、何となく理由がわかってきた。
防壁が非常に痛んでいる。
安全では無い。
そういうことなのだろう。
王都への街道が、封鎖されている。
何人か強面の傭兵が出て来ていて、看板を出していた。
「何々……魔物が出た、と」
「王都に行くつもりか」
責任感が強そうな傭兵が声を掛けて来る。
四角い顔のおじさんだ。
まあ、正直優男よりもこういう人の方が信頼出来る。これでも島育ちだ。四角い顔の漁師は見飽きている。
軽く話を聞いてみる。
出た魔物は、大した相手じゃあない。
ドラゴンが出たのなら、それは困ったのだろうが。
幸い、あたしだけでどうにかできそうである。
「あたしが駆除してきますよ」
「……かなりの手練れのようだが、実は討伐部隊を編成している。 単独行動をするのではなく、それに加わってくれないだろうか」
「ふむ」
「その間、荷物は責任を持って預かろう」
そうか、ならばそれはそれでありだ。
討伐部隊が出るのも明日。
時間のロスは最初から計算に入れている。それにあたしは健脚な方だ。
この近辺にいる魔物を仕留めた後、王都まで走り抜くのは、荷物つきでも別に難しくはない。
とりあえず、討伐部隊に合流する。
魔術専門らしいお爺さんが一人。
かなりの魔力だなと、一目でわかった。
ウラノスさんみたいに、何処かの村でまとめ役をしていた魔術師かもしれない。ただ流石に年が年だ。
現役引退も近いだろう。
大きなブーメランを背負った、露出度が高い服を着込んだ男性の戦士。マスクをしていて、カウボーイハットというのか。不思議な帽子を被っている。
雰囲気は何だかやばそうな臭いがするが。
喋って見ると、ごく普通に良識的な人だ。
此方の技量も、一目で見抜いたようだった。
「俺はクリフォード。 あんたは」
「ライザリンです。 ライザと呼んでください。 よろしくお願いします」
「ああ。 手練れが加わってくれて助かる。 まあ今の時代、辺境暮らしだったら魔物とやりあった事がない方がおかしいとは思うがな」
「はは、分かりますか」
特にこれは問題は無いだろう。
出た魔物は走鳥。
王都近辺で大量発生が確認されている大型の鳥だ。非常に凶暴で、人間を丸呑みにしてしまう事から怖れられている。
足の力は兎に角強く、蹴りを食らったら歴戦の戦士でもひとたまりもないと言われている程だ。そんな脚力だから足も速く、街道で追われたらまず逃げられないとも言われている。
ただ、今のあたしには、余程強大な個体でなければ苦労する相手ではない。
蹴り技でも負ける気はなかった。
他の傭兵とも話をするが、別にこれといって優れた戦士は見かけられなかった。最低限の戦闘経験は積んでいるらしい人もいるが、それだけだ。
顔合わせを終えて、後は解散となる。
さて、問題は明日だ。
指定された宿に泊まる。
宿はそれほど小さくもなく大きくもなかったが。
店員の態度と言い、何となくいじけているのが分かる。
王都としっかり接続が出来ていればこんな事にはならないのだろうが。
街道もあんまり安全では無いと言う話は、どうやら本当であるらしかった。
一晩を過ごして船旅の疲れを取り。
翌朝一番に、討伐に出かける。
崩れかけた城壁を出ると、すぐに魔物の気配がぷんぷんした。
隊商が幾つも足止めを食っているようで、それらが合同で討伐のための金を出したそうである。
クリフォードさんは隊商の護衛も込みで仕事を引き受けたのだとか。
なお、クリフォードさんの仕事は「トレジャーハンター」だそうである。
普段はこういう荒事で稼いで、本業のために金を貯めているのだそうだ。
何をやるにも金はいる。
ましてやトレジャーハンターなんて仕事になってくると、なおさらなのだろう。
「私が前衛を務める。 中衛、後衛から支援を頼むぞ」
そう言ったのは、昨日あたしと話した責任感が強そうな傭兵だ。分厚い鎧を着込んでいて、かなり強そうだ。まあ見た所アガーテ姉さんの方が数段上だが、それでも普通の傭兵としては出来る方だと思う。
あたしは魔術も肉弾戦もいける事は告げてある。
それを疑っている様子がないという事は。ある程度実力を見抜ける程度の力はあるという事だ。
隊列を組んで行く。
程なくして。
現れた。
かなり大きな群れだ。走鳥を中心に、雑多な魔物が相当数いる。
というか、種族が違う魔物が群れになっていると言うのはおかしい。
ということは。
走鳥はあくまで前衛。
何かいるな。
そうあたしは、判断していた。
三年前に比べて、一つだけ明確に上がったものがある。それは戦闘経験の蓄積である。
まずは、普通と違う事を相手に見せておくか。
先制攻撃だ。
「前衛! ガードを!」
「! 分かった!」
前衛にいる何人かの重武装傭兵が、盾を構える。話が早くて助かる。
そのままあたしは、ローゼフラムを投擲していた。
薔薇の花のように開く爆発を引き起こす、凶悪な爆弾だ。
フラムと呼ばれる通常火焔爆弾の完全上位互換。
魔物達は、何だろうとそれを見ていて。
そして次の瞬間には、灼熱と爆風になぎ倒されていた。
よし、投擲は完璧。
クーケン島の護り手達と、数限りなく魔物を葬ってきたのだ。これくらいは、なんということもない。
散り散りになった魔物に、呆然とする前衛。
そこに、巨大なブーメランと、雷撃の魔術が襲いかかる。
ブーメランはクリフォードさん。魔術は昨日いた、年老いた魔術師だろう。
ブーメランが、今のを耐え抜いた走鳥の首をへし折り。
雷撃が魔物の群れを吹き飛ばす。
わっと逃げ散る魔物を見て、リーダー格の傭兵が声を張り上げた。
「各個撃破! 叩き伏せろ!」
「おおっ!」
人間、勝ちに乗ると強い。
それはあたしも知っている。
成功体験という奴で。
悪さを重ねて罰せられないと、犯罪者が際限なく調子に乗るのもこれが故だ。
あたしはしばらく様子見。
慣れたもので、クリフォードさんもだ。
傭兵達が、傷ついた魔物を袋だたきにして仕留めている。
あたしとしては、街道の魔物が片付けばそれでいいのだけれども。
これは、恐らくそれで終わる事はないな。
そう思って見ていると。
凄まじい雄叫びが、濛々たる煙の向こうから聞こえてきていた。
魔物達が、不意に秩序を取り戻す。
「まずい! さがれ!」
リーダー格の傭兵は、流石にこの辺りで歴戦を重ねているだけの事はあるだろう。雑多な傭兵に声を掛けて、自身は盾を構えて立ちふさがる。
煙が吹っ飛ばされて。
前に出てきたのは、なんだこれは。
少なくとも、クーケン島の周辺では見た事がない魔物だ。
ドラゴンににているかも知れない。
ドラゴンとは交戦経験がある。
だけれども、あれはそもそも。
いずれにしても、その体躯はあたしの歩幅十数歩ぶんはあり。背丈もあたしの何倍もある。
ドラゴンと違うのは、四足で、地面を這っていると言う事。
巨大なトカゲのようだが。
それにしては、魔物を明らかに統率していることもあり。
しかし、ドラゴンにしては、身に纏っている魔力がどうということもない。
だが、その巨大な体格は、経験が浅い傭兵達には恐怖になるし。
何よりもさっきの雄叫び。
あれだけで、戦意なんか消し飛ぶには充分だっただろう。
「港の方に逃げろ! 急げ!」
盾を構えながら、リーダー格の傭兵が叫ぶ。
経験を積んでいるし、それに責任感もある。
死なせるには惜しいな。
あたしは前に出る。逃げ惑う傭兵達を、クリフォードさんが誘導する。
「こっちだ! 急げ!」
「傭兵達は任せます」
「おうっ!」
老魔術師が詠唱を開始している。
この人も、死を覚悟しているみたいだ。
リーダー格の傭兵も、このままだと確実に死ぬだろう。
そうは、させるか。
飛び出す。
無茶だ、死ぬぞ。
そう叫ぶリーダー格の傭兵の前に躍り出たあたしは、そのまま口中で詠唱を続けながら、大型のトカゲの前に躍り出る。
凄まじい雄叫びとともに、周囲の空気を蹴散らすオオトカゲ。
トカゲの後方は弱点じゃない。
あのサイズのトカゲではなくとも、尻尾を武器に使う。尻尾は基本的に筋肉の塊で、あたしでもちょっとまともにくらいたくはない。
トカゲがかっと口を開ける。口の中は牙だらけで、明らかに毒が滴っている。噛まれても即死だろう。
即座に投擲。
トカゲもそれを見て、想像以上に素早くずり下がる。
今度投擲したのは、クライトレヘルンである。
強烈な氷結爆弾だ。
トカゲが、魔術で防御壁を張るのが見えたが。クライトレヘルンの瞬間的な冷却が、その壁を貫通する。
つららが無数の針となって、トカゲを貫く。
相当に分厚いだろう装甲も、文字通り紙のように引き裂きながら。
悲鳴を上げながらも、それでものたうち回って浸食する冷気から逃れようとするオオトカゲ。
そこに、老魔術師が。
渾身らしい、詠唱込みの大雷撃魔術を叩き混んでいた。
悲鳴を上げながら、竿立ちになるオオトカゲ。
駄目だ。致命傷になっていない。
あたしはその間に詠唱。
そして、跳ね起きたオオトカゲが、此方に多分毒のブレスを叩き込んでこようとした瞬間。
気付いたのだろう。
空から、無数に自分を狙っている熱の槍に。
あたしの固有魔術は熱操作。
今でも、その技量は落ちていない。
今空に展開した熱の槍は2500。
全力では無いが、一つ一つの火力が石造家屋くらいだったら、一発で粉砕するほどのものだ。
フルパワーを出せば今なら20000くらいは同時にやれるが。
はっきりいって、こいつならこれで充分だろう。
呆然とし、それで逃げようとするが、もう遅い。
雑魚の魔物を組織的に操り。
更には街道をエサ場にするような知能を持つ魔物を、いかしておく訳にはいかないのである。
「いぃっ、けええええっ!」
全ての熱槍が、オオトカゲに殺到。
必死に魔術で壁を作って防ごうとするオオトカゲ。その壁は分厚く、四重にも達したけれども。
しかし、今のあたしの魔術精度の的ではない。
立て続けにオオトカゲが展開した壁がブチ抜かれ。
そして、熱槍が本体に次々炸裂、爆発する。
空気すらもが、熱せられすぎて炸裂する中。
爆発と熱風の中に、オオトカゲは消えていった。
ふうと、深呼吸。
街道の一角にクレーターが出来。
そこに、オオトカゲの死体が横たわっていた。殆ど炭クズになっているが、尻尾は丸々残っている。
頭部もある程度残っていて。
尻尾だけ残して逃げたと言うことはなかった。
一応、此奴の裏に更に面倒なのがいる事も想定していたのだが。それもなかったか。
老魔術師が、へたり込む。
「やれやれ、とんでもない天才がいたようだな。 わしの死に場だと思っていたのだが」
「凄まじい……」
傭兵のリーダー格が呟く。
まあ、あたしとしては、此処の復旧も考えなければいけないか。
周囲の素材を、さっと見繕う。
錬金釜は持って来ている。街道の補修くらい、今日中に終わらせてしまうことも可能である。
逃げ散った傭兵達を、クリフォードさんがまとめてくれていた。
これはとても助かる。
下手な所に逃げられると、潜んでいた魔物のエジキになりかねなかったのだ。
そうなれば、魔物がまた人間の味を覚える事になる。
それはまた、魔物が人間を襲う負の連鎖につながるのだ。
経験が浅い傭兵達は、破壊の痕と、オオトカゲの死体を見て、更に悲鳴を上げたが。
彼等をリーダー格がまとめてくれる。
整列させて、点呼を取って。
それで、周囲に散らばっている雑魚も含めて、魔物の死体を回収。
一度港町に引き上げる事となった。
何度か往復して、死体を運ぶ。
この死体も、腹を割いて人間の残骸が出てこなかったら、捌いて食べてしまうのである。
あの寂れた港町だ。
危険な海に漁に出る人間も少ないだろうし。
これも貴重な食糧になる。
魔物と人間は、ずっと戦いを続けている。
古代にアーミーを組織していたくらいの人間がいたならば。人間が有利だったのかも知れないが。
あたしも、今では人間の居住地域が狭くなる一方だと知っている。
ここから人間が盛り返すには、相当な努力が必要だろうし。
古代クリント王国のカス共の所業を知っている今となっては。
それが正しいのか。
なんとも言えなかった。
オオトカゲの死体を運んでいく。クリフォードさんが、これについて教えてくれた。
「バシリスクだな」
「聞いたことがない魔物ですね」
「ドラゴンの下位の亜種と言われている魔物でな。 普通は遺跡なんかでたまに遭遇するくらいだ。 此奴は相当な大物だな。 遺跡で前に遭遇した奴は、俺単騎で始末できる程度の相手だった」
「なるほど、覚えておきます」
何か新しい情報を得られるときは、喜ぶべし。
これは、アンペルさんに錬金術を習っていたときから、あたしの中では座右の銘になっている。
世の中には、知らない事を知っている人間を馬鹿にしたり。
自分より知識がある人間を憎むような阿呆がいるらしいが。
そんな連中は、人間の数少ない強みを棒に振っているに等しい。
あたしは、バカになるつもりは無い。
バシリスクという魔物について、幾つか詳しい事を聞いておく。
やはり主力武器は毒。
縄張りも、毒がある地点を主にしていることが多いそうだ。
性質は獰猛そのもので。
知性が感じられるドラゴンと違い、基本的に餌を採ること、増える事しか考えていないらしい。
以前殺さなければならなかったドラゴンとは偉い違いだな。
そう思いながら、メモを取る。
一度凱旋してから、疲れきっている様子の傭兵のリーダー格に話をする。
「街道を直します。 何人か、手が開いている人を見繕って貰えますか」
「街道を直す? 貴殿、あの超火力の魔術といい、何者だ」
「ええと、錬金術師という仕事をしてます。 仕事柄、戦いには慣れていますので」
「俺、手伝うよ」
手を上げたのは、まだ若い傭兵の一人だった。
さっきは逃げ惑っていた一人である。
クリフォードさんも、手伝うと言ってくれた。
「助かったのはあんたのおかげだ、姐さん。 俺たちだけだったら、今頃みんなまとめてあの恐ろしいオオトカゲの餌だった。 少しでも手伝いをさせてくれ」
他にも数人が、手伝いを申し出てくれた。
頷くと、あたしは周囲の護衛を頼む。
王都には、出来るだけ急いで行きたい。みんなと会える可能性があるからだ。
実の所、モリッツさんに頼まれた変なものの調査は、後回しだ。
分からなければ分からないでいい。
ただ今のあたしは。
ずっと続いているもやもやから、さっさと脱したかったのだと思う。
街道に出る。リーダー格の傭兵が、何人かいる傭兵をまとめて、周囲を警戒してくれる。
責任感のある立派な人だな。もう少し戦闘経験を積めば、あの港町の守護神になるのだろう。
錬金釜を荷車から降ろすと、エーテルを満たして調合を開始。
周囲には物資があるが、どうにも品質が良くない。
それでも、今の腕なら。
街道を復旧するくらいなら、難しくは無かった。
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