暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

62 / 150
歴戦の傭兵から飲んだくれのろくでなしになった父ザムエルの気持ちが嫌になる程三年でわかったレント。

ついに復帰したレントは、ライザ達の前衛としてタンクとして頑張るべく、一念発起します。

レントはしばらく単独で旅していたこともあって、相応の経験を積んでいます。

それには嫌な思い出だけではなく、皆の役に立つ知識もあったのです。


1、復帰戦

前衛で、大剣を振るう。

 

傭兵まがいの事ばかりしていたときは、これすらもがレントにとっては辛くなっていた。

 

命を直接救う仕事。

 

人間を脅かし、時には人食いになっている魔物の駆逐。

 

それらを最優先で行い。

 

他の傭兵を返り討ちにしているような悪名高い魔物を駆除してきたというのに。

 

それでもレントは。

 

感謝されなかった。

 

今は違う。

 

兄妹同様に育ったライザと、その仲間達。

 

セリというオーレン族の戦士は、あまりライザの事を信頼していないようだが。レントもオーレン族の事情は知っている。

 

三年前の戦いで、一緒に剣を振るったし。

 

何よりレントの師匠はオーレン族のリラさんだ。

 

だからこそに、その鬱屈も、錬金術への怒りもよく分かる。

 

ライザを背中から刺そうとしなければ。

 

レントは、別に何かするつもりもなかった。

 

今ではすっかり廃れた鎧だが、それでも魔物相手に最低限の装備をするのには、大きな意味がある。

 

幽霊鎧三体と同時に切り結びながら、レントは久々に臓腑が擦られるような緊張感を感じていた。

 

一瞬でも気を抜けばやられる。

 

その緊張感が、レントの剣をどんどん起こしていく。

 

眠ったのはいつだろう。

 

人食いの魔物に全滅させられかけていた村を救ったら、その瞬間村の人間全員に掌を返された時だっけか。

 

分かっていた筈だったのに。

 

どんどん感謝されなくなって。

 

やがて、心が傷ついていたのに自覚して。

 

それで。

 

今は、眠っていた剣を起こす。

 

そのために、戦う。

 

大事な者達を直接守る。

 

もうライザは守られなくても平気だが。

 

それでも背中を守ったり、或いは不意打ちを防いだりすることは出来る。

 

「大きいの行くよ!」

 

「おうっ!」

 

飛び退く。

 

パティがちょっと反応が遅い。カウンター戦術に必死に体を慣らしていると道中で聞いたが、その通りのようで。戦闘スタイルの切り替えや、判断にまだまだ思考が混じっている。

 

こういうのは反射で出来ないとダメだ。

 

ともかく、ライザの熱槍が。

 

嫌になる程見てきた、魔物を殺戮する強烈な熱破壊魔術が炸裂し。幽霊鎧を大量に巻き込む。

 

更に、其処に爆弾が投じられる。

 

炸裂した爆弾が、今の熱槍で動きを止めた幽霊鎧をまとめて薙ぎ払う。

 

爆風から、パティを大剣そのもので庇う。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「良いって事よ!」

 

恥ずかしいところばかり見せていたのだ。

 

先輩らしい所を、少しは見せないとな。

 

GO。

 

ライザのハンドサインが出たので、前衛に躍り出る。

 

だが、足を即座に止めて、バックステップ。不可解そうに同じように足を止めるパティ。

 

足下から、長大な根が飛び出して、虚空を抉っていた。

 

魔食草もどきか。

 

即座に輪切りにしてやるが。

 

それでも、びたんびたんと動いている。

 

蛇か何かのようだ。

 

「ごめん! かなり深くからきて、気付けなかった!」

 

「良いって事よ!」

 

音魔術で周囲を探ってくれているクラウディアが叫ぶ。

 

大丈夫大丈夫。

 

ミスはそれぞれでカバーし合えばいい。

 

まだ残っている幽霊鎧の残党を、右に左に薙ぎ払う。パティにも、何体か残しておく。

 

セリという戦士の荒っぽい魔術が炸裂して、殺到した植物が幽霊鎧を質量で押し潰していた。

 

クリフォードの投擲したブーメランが、文字通り突き刺さるようにして、幽霊鎧を仕留める。

 

負けてはいられないな。

 

レントは、次々に敵を倒す。

 

そして、一度戦闘は終わった。周囲の敵性勢力が沈黙したからである。

 

「よし、皆集まって! 休憩!」

 

「俺は手傷無し。 警戒に当たる」

 

「うん、頼むよ!」

 

ライザが手当てを始める。

 

クラウディアの魔力は、この間会った時には気付けなかったが、更に増えているようである。

 

本当に半分眠っていたんだな。

 

そう、レントは自嘲する。

 

少しずつ、目が覚めてきている。それだけで、今は可としなければならなかった。

 

 

 

レントの動きを見て、あたしも気付く。

 

まだ起ききっていない。

 

三年前よりも技量は上がっているが、それでもまだまだだ。

 

なんというか、鋭さが足りない。

 

それでも生半可な戦士よりも遙かに強いし、充分過ぎるくらいにやれていると言えるのだけれども。

 

パティの傷に、薬をねじ込む。

 

眉をひそめるパティ。

 

痛みにはだいぶ慣れてきたようだけれども。

 

それでも、まだ痛いものは痛いようだった。

 

「すぐに痛くなくなるからね。 それよりも、傷に金属片とか埋まると大変だから、しっかりチェックしないと」

 

「こ、怖い事言わないでください!」

 

「経験則なので」

 

「……」

 

真っ青になるパティ。

 

まあ、脅かすのはこれくらいでいいか。

 

他の皆の手当てもする。

 

セリさんの手当てをしていると。セリさんは痛いとも痒いともいわない。

 

さっき、不意打ちで少し傷を受けていた。

 

どうもセリさんは、あの雷みたいな強さを誇ったキロさんや、それには劣るが超強かったリラさんに比べると、戦士としては一枚劣るらしい。

 

魔術の冴えは凄いのだが。

 

戦士としては、正直其処までもないようで。不意打ちに対応できないことも多いようである。

 

「傷みませんか?」

 

「痛いに決まっているわ」

 

「ごめんなさい。 すぐに手当てを終えます」

 

「……」

 

セリさんは、本当に無駄な事は口にしないんだな。そう思う。

 

きちんと血が赤いのは、オーレン族も同じである。

 

手当てをしているとよく分かるのだが、本当にオーレン族は人間とよく似ている。異世界といっても、呼吸が出来なくなるとかそういう事もなかったし。気象現象だって似通っていた。

 

或いはだけれども。

 

ずっと昔は、同じ種族だったとか。

 

そういう事も、あるのかも知れなかった。

 

だとしたら、人間と全く違う道を辿った生命なのだろう。

 

オーレン族は人間と違って、繁殖力は弱いものの、一人ずつの戦力が高く。全員が自然とともに生きる戦士である。

 

個の能力を極限まで上げる事で、増えないで自然と一緒に生きる事を選択できた人類が、オーレン族なのかも知れない。

 

だとすれば、増える事で世界を制圧する戦略を選んだ人間とは、全くという程生き方が逆だし。

 

もしも本格的に交流すれば、古代クリント王国がそうであったように。

 

悲劇が生まれるのは、当然なのだろう。

 

手当てを終えると、セリさんはあたしをジッと見る。

 

「大丈夫ですか」

 

「ええ。 もう何処も痛くないわ。 本当にどんな手練れの回復魔術よりも優れているわね」

 

「ありがとうございます。 でも凄いのは、あたしではなくて錬金術です」

 

「そう……」

 

セリさんは立ち上がると、皆の中には混じらず。一人で静かにしている。

 

まだ、心は許してくれないか。

 

使えそうなものを回収しておく。調査は区画を綺麗に掃除して、魔物の不意打ちを避けられるようにしてからだ。

 

休憩を入れてから、また戦闘。

 

この区画は、見た所複雑な構造の建築が多い。

 

特に真ん中には、宗教施設か、或いはこの集落のシンボルだったのか。

 

ふいごを象ったような大きな建物があって、その周囲には重点的に幽霊鎧とゴーレムが配置されていて。

 

排除するのに、本当に骨が折れた。

 

戦闘をしていると、更に幽霊鎧が集まってくる。

 

レントが前衛にはいったことで、あたしは中衛からの火力投射に徹することが出来るけれども。

 

乱戦だし、パティがいつやられるか分からない。

 

だから、油断は出来なかった。

 

無言で飛び出す。

 

パティが反応し切れていない方向から、凄まじい勢いで槍を突き出してきた幽霊鎧がいた。

 

レントはあたしを一瞥だけして、任せると判断したのだろう。

 

あたしは割り込むと、槍を蹴り上げて、弾き返していた。

 

ガンと、鋭い金属音が響く。

 

あたしの靴に仕込んでいる金属と、槍の穂先が弾きあったのだ。

 

そのまま相手の懐には入れると、左ハイキックを叩き込み。

 

揺らいだ所に、旋回しながら中段を続けて打ち込む。

 

更に追撃。

 

槍を使って防ごうと動く幽霊鎧に、ガードの上から、渾身の蹴りを叩き込み。槍をへし折りつつ、吹っ飛ばしていた。

 

この手応え、いや足応え。

 

なかなかだな。

 

吹っ飛んで、岩に叩き付けられてグシャグシャになる幽霊鎧。あいつは終わりだ。跳びさがって、前衛はパティに任せる。

 

パティは一瞬呆けていたが、すぐに戦闘に戻る。

 

激しい戦いは意外とすぐに終わる。

 

レントの苛烈な戦いが、文字通り壁になって数体くらいなら魔物を単騎で相手にしてくれる。

 

それが、戦闘を格段に楽にしてくれていた。

 

大剣を使って、敵を斬るのではなく。

 

大剣の暴力的火力を敵に示しながら最前衛で暴れる事で、文字通りのタンクとして活躍する。

 

レントの三年分の修練が。良い形で生きてきている。

 

守れる男になりたい。

 

その願いは、残念ながらこの三年で踏みにじられ続けた。

 

多分今後だって、中々理解されないのだろうとも思う。

 

だけれども、だ。

 

あたし達の中にいる間は、少なくとも。

 

皆でレントを理解する存在でありたい。

 

それが、家族同然にそだったあたしの願いであるし、実施すべき事でもあるのだ。

 

「掃討完了!」

 

「いや、まだだ!」

 

「レントくん、足下!」

 

「!」

 

飛び退きながら、飛び出してきた魔食草もどきの根をカウンター気味に一刀両断してみせるレント。

 

流石。

 

あたしは即座にその根を焼き払うが。やっぱり燃えにくい。

 

ふうと嘆息するレント。パティが、目を見張っていた。

 

「今の切り替え、凄いですね……。 コツみたいなのはありますか?」

 

「練習だな」

 

「……分かりました」

 

レントは元々、クーケン島で護り手に混じって戦闘経験を積んでいたし、アガーテ姉さんに散々剣術を仕込まれた。

 

そういう下地があったし、戦闘経験もリラさんに教わった頃には、一通り備えてはいたのである。

 

そういう下積み、更にはクーケン島で彼方此方走り回って鍛えこんだ基礎体力という強みもある。

 

まあそれはあたしもタオも同じではあるのだが。

 

パティはどうしても、戦闘経験を積み始めたのが遅いし。

 

実戦に参加し始めたのも遅い。

 

更に見ていて分かったが、パティは天才型ではなくて、秀才型だ。

 

ひと跳びに覚えていくタイプではなくて、散々修練した上で少しずつコツを掴んでいくタイプである。

 

覚えは遅い。

 

これは、どうしても仕方が無い事ではあるのだが。

 

パティは気に病んでいる。

 

だが、良質な実戦をこうして毎日豊富に積んでいるのだ。

 

やがて花が咲くと、あたしは判断していたが。

 

「今度こそ大丈夫だね」

 

「ただ、ちょっと魔食草もどきの動きが陰湿になって来ているね。 植物はあれで情報を伝達するという話があるわ。 何処かに元締めみたいなのがいて、私達の動きをそこに集約しているのかも」

 

「あり得る話だ。 トレントなんかも、森の植物全ての感覚を知っていて、人間が森で使った魔術や武技全てに対応して来ることもあるらしいぜ」

 

「厄介だな……」

 

クリフォードさんの豆知識に、今の攻撃を凌いだレントが呻く。

 

ともかく、手当てだ。

 

少しずつ、安全圏を拡げるしかない。

 

懐から出て来たフィーが、あたしに鳴く。

 

「フィー!」

 

「ん、時間か……」

 

「話には聞いていたが、相当に賢いんだなそいつ」

 

「フィー!」

 

そいつ呼ばわりが気にくわなかったのか、レントに露骨にむくれてみせるフィー。

 

何となく分かったのか、レントはすまんすまんと謝っていた。

 

ともかく、今日は引き上げ時だ。

 

だが、これならば。明日にはこの区画の掃討作戦は終わる。

 

しかしながら、魔食草もどきの動きが巧妙極まりなくなっているのも事実である。

 

明日も、クラウディアにはいて欲しい。

 

そうなると、タオには来て貰って、明日はフルメンバーで。明後日は、クラウディアには抜けて貰うか。

 

それで多少は、効率を上げられるだろう。

 

手当てを終えると、あたしは使えそうなものを荷車に詰め込みながら、そう考える。

 

レントが来て、顎をしゃくった。

 

「あの辺り、気になるな」

 

「……」

 

この遺跡、主に居住区らしい場所と。工房らしい場所が集中している区画。

 

感応夢で、何か太陽みたいなのが輝いていた区画に別れていて。

 

居住区と工房区画は、橋でつながっているのだが。

 

中央の区画は、それらから更に橋が延びていて、其処を昇らないと到達出来ないようになっている。

 

幽霊鎧もゴーレムもいるのだが。

 

奥の方には、大きめの魔食草もどきが幾つも大樹になっている。

 

確かに、あそこは何かあってもおかしくないだろう。

 

「この区画の安全を確保して、それで調査を終えたら、あそこに総力戦を仕掛けるつもりだよ」

 

「そうか、堅実だな。 三年前とは別人みたいだ」

 

「なあに、これくらいはね。 あたしも三年で、色々周辺の集落であったからさ」

 

「……ライザも苦労していたんだな」

 

みんなだよ、苦労したのは。

 

そう告げると、戻る事にする。

 

ともかく、今日はこれで一旦は終わりである。

 

遺跡を出る。

 

明日から、また調査だ。

 

遺跡の探索は、本来これくらい地味なものなのである。それは分かっている。

 

ただこの遺跡には、とんでもない封印が眠っている可能性が高いし、その封印の正体もまだよく分かっていない。

 

とにかく、調査を急がなければならなかった。

 

 

 

翌日。

 

タオも加えて、総力で工房であろう区画の掃討を終える。

 

魔物の掃討と調査を分けて正解だった。

 

クリフォードさんが、既に調査に掛かる時間は目星をつけてくれている。二日、だそうである。

 

それならば。少しでも時間を短縮した方が良いだろう。

 

「タオ、必要な本とか、先にピックアップしてくれる? 一度クラウディアをつれて戻るよ」

 

「うん、分かった。 いっそ、此処に僕達だけ残ろうか」

 

「ダメ。 そういう油断が出来る程、此処は安全じゃない」

 

「普段は突撃嗜好なのに、こう言うときは非常に慎重だよな……」

 

クリフォードさんがぼやく。

 

この人はタトゥーとか入れてるから、一見怖そうなのに。実際には結構ひょうきんな事が、少しずつ分かってきている。

 

だが、それでも舐められないようにするのは、どうしても命のやりとりがある世界では必須なのだろう。

 

あたし達以外には、素の顔は見せないが。

 

「そうとなったら、早めに積み込みを済ませないとね」

 

「うん。 クラウディア、戻ったら明後日まではミーティングにだけ参加して」

 

「分かったよライザ。 商会でもこの遺跡に何かあった場合の、万が一に対する備えはしておくね」

 

「そうしてくれると助かる」

 

あたしも手伝って、本を荷車に積み込む。

 

荷車はもう一台やっぱり欲しいな。

 

そう思いながら、積み込み終えると、大急ぎで王都に帰還。まだ昼少し前だ。

 

アトリエで荷物の積み卸しを終えてから、クラウディアは商会に戻る。かなり忙しいとは思うが。

 

命のやりとりをするよりは全然楽と本人が言っていたので。

 

その言葉を信じることとする。

 

というか、ここ三年でクラウディアはこの手の事を徹底的に叩き込んだのだろう。政治的な駆け引きは得意分野になったのかも知れない。

 

だとすれば、本当に楽な可能性もある。

 

クラウディアは恐らく、あたしには余程の事がない限り嘘はつかない。

 

だからあたしも信じる。

 

それだけの話である。

 

すぐに特急便で遺跡にとって返す。レントがいるので、タオも安心しているようである。一緒に走りながら、レントが軽口を叩く。

 

「タオ、背が伸びて、足速くなったな!」

 

「足伸びたからね!」

 

「三年前は、パティと同じか、もっとタオは小さかったんだぜ!」

 

「ちょっと信じられません……」

 

パティはついていくのが大変そうだが、それでもぼやく。セリさんは流石に平気そう。

 

クリフォードさんも自身の年齢を気にしているようだけれども、着いてくる事を全く苦にしていない。

 

遺跡に戻る。

 

安全圏を調査して回るが、その間もレントは警戒に当たってくれていた。

 

「魔食草もどきにだけはとにかく気を付けてよ」

 

「ああ、勘が戻ってきてる。 任せとけ」

 

「念の為に、私も警戒に立ちます」

 

「お願い」

 

パティも、歩哨になってもらう。

 

気を常に張っている方が、腕を上げやすい。

 

そういうアドバイスを貰ったのかも知れない。だとすると、アドバイスを出したのはあのメイドさんか。

 

「ライザ、来てくれ」

 

「はーい」

 

クリフォードさんが呼ぶ。

 

どうも、落書きみたいなのを見つけたらしい。

 

こういうのは侮れない。

 

色々と興味深そうな遺物を漁っていたタオも、すぐに来た。

 

「見てくれ。 少しかすれているが、これは恐らく職人達の子供が書いた落書きだろうな」

 

「む、これは……」

 

太陽みたいなもの。

 

これは、あたしも感応夢でみた。

 

一致している。

 

更にだ。

 

格好が違う人達が書かれていて、武器を受け取っている絵。絵は子供が描いたもの相当の画力だが。これは貴重なものだ。

 

タオが即座に写し取り始める。

 

手際が非常に良くて、もういっぱしなのだと分かる。

 

「ライザが言っていた感応夢の光景と一致するね。 それに、確か白い服を着た人達が残留思念に出て来ていたそうだよね」

 

「うん。 あの人達、なんだったんだろうね」

 

「今は残されている機械でスーツを作っているよね。 昔は、魔術師の一部や、技術を研究する人間は、白衣っていう専門のスーツを着ていたらしいんだ。 作る機械が壊れて、もうロストテクノロジーになってしまっているらしいんだけど」

 

どうも清潔さを重視するだけではなく。

 

何かしらの危険な汚れがついた場合、即座に分かるようにしたものであるらしい。

 

いずれにしても現在はない風習であり衣装だ。そういうものなのかと、納得するしかない。

 

エドワード先生なども、そういえば出来るだけ白めの服を着ていたな。そう考えると、なんとなく習慣で残っている部分もあるのかも知れないが。

 

「とにかく、残留思念を見てみるしかないだろうな。 こういうのを正攻法で調査すると、どうしても年単位で時間が掛かるしな」

 

「年単位で調べた事があるんですか?」

 

「あたぼうよ」

 

「流石ですね」

 

タオは感心しているが、流石にそこまでしている時間はない。

 

本来は、地道に調べるのが正解な筈だが。

 

今回は、下手すると世界滅亡案件だ。

 

単に強い魔物だったらいい。

 

どうにか倒してみせる。

 

此方にはリラさんもアンペルさんもいる。総力戦を挑んで、倒す。エンシェントドラゴンであろうが、精霊王だろうが。今だったら全員生還出来るかは分からないが、なんとか仕留められると思う。

 

問題はフィルフサや、フィルフサが向こうで蠢いているオーリムへの門がある場合。

 

その場合は、本当に「命を賭けた」程度ではどうにもならない。

 

前は、此方に最大限有利な条件で戦闘を挑めた。今回は準備をしなければ厳しい。

 

三年前のような、水を奪った道具が何処かに現存していればいいのだが。

 

王都周辺の、水が余っている様子からして。

 

それが使われている可能性は低い。

 

だとすると王宮か何かにしまわれている可能性もあるし。

 

いずれにしても、封印は放置出来ないのだ。

 

調査を進める。

 

瓦礫一つも馬鹿に出来ない。タオは戦闘をもう少し穏やかにやれなかったのかなと何度もぼやくが。

 

その度に、レントが無理を言うなと言ってくれる。

 

パティもそれについては、同意なようだった。

 

「確かに調査という観点では無事な保全が必要かと思いますが、ライザさんがいてもなお手強い魔物ばかりでしたので……」

 

「そうだね、分かっているよ。 ただ、研究者の本能みたいなものなんだ。 それは分かって欲しい」

 

「はい。 それは尊敬しています」

 

セリさんは。

 

ズタズタになった魔食草もどきの根から、魔力をフィーが吸い上げた後。

 

根を調べているようだ。

 

自分で魔力を通したりと、色々やっている。

 

フィーも、セリさんに対しては、警戒はしていない。

 

やっぱりこんな生物見た事がない。

 

ひょっとすると、オーリムの生き物ではないのか。

 

だが、セリさんも不思議そうに見ている。

 

向こうでも、超レアな生物なのか。

 

「ねえタオ、フィーの事なんだけれど」

 

「うん、僕も調べてはいるんだけれども、なんともね。 そもそもとして、残っている伝承が少なすぎるし、何よりも古い時代の生物を調べる方法が殆ど今はないんだ」

 

「そうなんだ」

 

「土の中に骨とかを埋めると、それが長い時間を経て化石というものになったりすることがあるんだ。 だけれども、今の人類には、それがどういう生物だったのか、いつの時代の生き物だったのかを調べる技術も知識も失われている。 それどころか、それを掘り出して調べる社会的な力もだ」

 

タオの目指している学者は、今後どんどん厳しくなるだろうと言う。

 

なんでも、実利的な学問以外は、この世から失われるのではないのか。そうとまで、タオは言うのだ。

 

確かにこれだけ魔物に押されている世界だ。

 

その可能性は否定出来ない。

 

無言になって、調査を続ける。

 

手を振るクリフォードさん。レントが走り寄って、瓦礫をどける。

 

「おう若者。 すげえパワーだな」

 

「いやいや、俺なんかまだまだ。 残念ながら、親父の方がガタイが上なんで」

 

「今はガタイよりも魔力操作だ。 俺も頭一つ大きい賊を、何人も狩ったことがある」

 

「名前を聞いてまさかと思っていたら、ひょっとして……」

 

ろくでもない二つ名を思い出したのだろうか。

 

いずれにしても、あたしも手を貸して瓦礫をどかす。

 

タオが小走りで来て、壁画らしいのをチェック。

 

これは落書きじゃあない。

 

多分祭事に用いられた、宗教画に近いものだ。

 

すぐにメモを取る。

 

「これは、見た事がない崇拝対象だ。 数百年前には各地にもっと全国的な信仰があったらしいと聞いているけれど」

 

「老人達が崇めているような、ぼやっとした神様じゃないの?」

 

「ああいうのは別に良いんだよ、実害なんてないんだから。 古代クリント王国の前の時代には、信仰が政治に利用されていたんだ。 本来は道徳の基幹となるために作られたような信仰が、支配と社会のシステム構築に利用されて、搾取と直結したんだ。 だから、色々な神々が作られて、それで暴力的な信仰も多かったんだよ」

 

なるほどねえ。

 

確かに僻地だと、意味がわからない風習が残っている。

 

クーケン島もそうだった。

 

だけれども、クーケン島のは、フィルフサに備えたものが風習として残ったのであって。

 

あたしはもっと意味がわからない、誰が始めたかも分からない有害な風習が幾つもあるのを見て来た。

 

あれはひょっとするとだけれども。

 

古代クリント王国が滅亡して、人類が決定的に魔物に対して劣勢になった時期以降。

 

途絶えた、今タオが言ったような。

 

人類社会にとって害悪になるような信仰の産物だったのかも知れない。

 

「それでどうだタオ。 俺の見解は……」

 

「僕はそれは違うように思いますね。 これは恐らく独自の信仰で……」

 

「なるほど、面白そうだ。 ロマンだな!」

 

「クリフォードさんの見解も面白い。 僕もその線を少し攻めてみます」

 

専門的な話をしている二人が輝きまくっているので、パティが苦虫を側で何十匹も噛み潰している。

 

混じるにも専門知識が足りないのである。

 

「パティ、警戒続行」

 

「あ、すみません」

 

「気が散って仕方が無いだろ。 俺がしばらくは見ておくよ。 休憩して、頭を冷やしておきな」

 

「……本当にすみません」

 

レントも、どうやらパティの事情は気付いているようだった。

 

あたしもレントも。

 

こういう所ばかり、大人になって嫌な話だなと思った。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

  • 暗黒!アトリエシリーズのまだ未掲載の作品
  • 真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
  • 流行り神二次創作
  • その他二次創作
  • オリジナルの長編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。