暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、王都の利権

調査を続けて、資料を持ち帰る。レントは石版の写しなどをかなり持ち帰ってきていたし。書物も結構あった。

 

夕方にミーティングをするのだが。

 

クラウディアに、話を振られる。

 

「ライザ、少し時間を作れるかな」

 

「分かってると思うけれど、今の調査が最優先だよ。 もしも封印の先に彼奴らがいたりしたら……」

 

「うん。 でもね、その調査の支援も必要になってくるの。 多分ライザだったら、すぐに解決できると思うから」

 

「うーん、仕方が無い。 分かった、ちょっと休憩時間を削るわ」

 

フィーが心配そうに見ているので、大丈夫と応えておく。

 

まあ、鍛え方が元々違う。

 

多少は無理しても大丈夫である。最悪は栄養剤でも入れる。

 

咳払いすると、クラウディアは言う。

 

「機械の修理の依頼よ」

 

「そうだろうね。 一つ直せば、他もと来るよね」

 

「今、貴族達の間で大騒ぎになっていてね。 保有する機械をどうするかで、水面下でかなり危険な事態になっているようなの。 それぞれの家に執事として入っているメイドの一族が動いて、激突は避けているようだけれども。 そうでなければ、多分もう血を見る事態になっていたわ」

 

そうか、まあそうだろうなとあたしも思う。

 

クラウディアが優先して欲しいとまで言ってきたのだ。

 

今は文明が衰退し続けているのである。

 

そこに、いきなり復興が来れば。

 

本来なら、皆で喜ぶべき事なのだろう。

 

だが、こういう井戸の底にいる連中だったら。

 

考えるのは、自分の利権確保だ。

 

この手の連中は、古代クリント王国のあの錬金術師。感応夢で残虐性と身勝手さは目にしたが。

 

あれと大して変わらないのだろう。

 

自分さえ良ければ、他の存在はすべて食い物にしていい。

 

それは知的生命体のあり方ではない。

 

都合が良いときだけ畜生の理屈を持ち出し。

 

都合が良いときだけ社会のルールやら秩序やらを口にする。

 

魔物にこれだけ追い詰められた人類でも。

 

反省など、微塵もしていないと言う事だ。

 

大きな溜息が漏れる。

 

「それであたしはどうすればいい、クラウディア」

 

「今、貴族の息が掛かっていない機械類を少しずつ私が回収していて、それを修復して欲しいと思っているの。 貴族と利権を今は切り離していくしかないから」

 

「たかがこの程度の規模の街しか人類は最大都市として持っていない。 それなのに、随分と愚かしい話だね」

 

「……もしもライザが襲われるような事があったら、この街を焼いてしまって良いわ」

 

「そうするかもね」

 

クラウディアが打った手は幾つかあるらしいのだが。

 

あのグランシャリオの空焦がす炎を、あたしがやったという事の喧伝。機械を修理した「錬金術師」の凄まじい強さの話。

 

更には、その錬金術師とアーベルハイムが組んでいる事。

 

バレンツ商会とも。

 

これらが大きいそうだ。

 

これで、迂闊に貴族は手を出せなくなる、と言う事だ。

 

ただし、血迷った貴族達が連合を組んだ場合。どうなるかは分からない。

 

問題は、現状貴族達の中で最大戦力になっているメイドの一族が、連携してあたしに対する敵対を拒否したことで。

 

今、必死に腕利きを探しているようだが。

 

それでも、グランシャリオの話を聞くと、どの戦士もさっと逃げてしまうらしい。

 

「とりあえず、少しずつ指定された機械の修理をするよ」

 

「お願い。 此方はアーベルハイムと連携して、貴族の手に機械が落ちないように、少しずつ動くね。 問題は例のメイド達の動向がよく分からない事なの。 ライザに対して味方している訳でもないようだし、かといって貴族達を諌めているのにも、何か目的があるようにしか思えなくて」

 

パティの方に視線が向く。

 

パティは困惑して、視線を下げた。

 

「私は、貴族の権力闘争を間近で見てきました。 確かにこういう事態が起きうることは理解出来ますが。 問題はあのメイドの一族は、お父様でも動向が良く分からないと言う事です。 王族にすら入り込んでいる上に、とにかく一族の連帯が硬くて。 本来だったら、この国はもう何度も城壁の中で内乱が起きて、潰れていても不思議では無いという話は聞いています」

 

「そりゃあそうだ。 貴族共の無能は俺も聞いている。 それが五百年も国を続けられるのは不可思議だ」

 

クリフォードさんが言うと、タオも頷く。

 

まあ、これは純然たる客観的事実だ。

 

この国の裏には。

 

あのメイドの一族が、ずっと暗躍していた、と見て良いだろう。

 

考えて見れば、バレンツにいたあのフロディアさんも。有力商会に最初から入り込む目的だったのかも知れない。

 

たまにクラウディアが、フロディアは何を考えているか分からない事があると口にすることがあったが。

 

みんな揃って似たような顔をしていることもある。

 

きっと、何かあるのだろう。

 

「とにかく、クラウディア。 負担は大きくなると思うけれど、お願いね」

 

「うん。 でも戦闘にも出るよ。 正直な話、機械を直すときに立ち会うくらいで大丈夫だとは思う」

 

「貴族の動き、思ったより鈍い?」

 

「というよりも、メイドの一族の結束が固くて、実働部隊を用意できないみたいなの」

 

昔は、暗部と呼ばれるような暗殺者の集団もいたらしい。

 

ロテスヴァッサと袂を別ったアンペルさんが、一世代丸々追いかけられたと言っていたっけ。

 

それもメイドの一族が長い時間を掛けて権力層に浸透していく過程でいなくなり。

 

今ではすっかり過去の存在になったそうだ。

 

或いは、ひょっとするとだが。

 

あの一族が、消してしまったのかも知れない。

 

ありうる話だ。

 

「とりあえず、次の機械修理は明日の調査後で大丈夫だよ。 その時にまで、私の方で色々と準備をしておくね」

 

「有難うクラウディア。 じゃあ、今のうちに……あたし達も調査を進めておこうかな」

 

「よしきた」

 

「任せておきな」

 

タオとクリフォードさんが立ち上がる。

 

レントは、クラウディアに声を掛ける。

 

「そっちの護衛は大丈夫か。 なんなら俺がつくが」

 

「此方はさっき話題にしたメイドの一族が何人かいるから問題ないわ。 悪い意味でも良い意味でもね」

 

既にバレンツには、フロディアだけでは無い。何人もあの一族が入り込んでいるそうだ。

 

とんでもなく有能な事もあってクラウディアも重宝しているらしいが。

 

他の家人は皆不気味がっているそうである。

 

そうでありながら、ある程度地位がある人間とは不意に結婚したりもして。夫婦仲も悪く無さそうだと言うことで。

 

クラウディアも困惑していることがある。

 

ともかく、訳が分からない一族であるという事については、異論は無い様子だ。

 

解散して、明日に備える。

 

パティが、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「ライザさん、本当に迷惑を掛けます。 すみません」

 

「いいんだよ。 でも、ちょっとあたしも時々困るかな」

 

「お父様も頑張っているんですが……」

 

「この国で、アーベルハイムは数少ない良心だと思う。 あたしも、ヴォルカーさんは頑張っていると思うよ」

 

フィーも、好意的な声を上げる。

 

多分会話の理由は理解出来ていたのだ。

 

解散後は、カフェに出向く。

 

あたしに対する情報が拡散されているからだろう。

 

魔物の大軍を蹴散らした。

 

その言葉が伝わっているだけで、あたしの胸やら尻やら見てデレデレしているような連中は綺麗に減った。

 

前はクーケン島で、与太者として彼方此方を彷徨いているいわゆる吟遊詩人の類が声を掛けて来る事もあったが。

 

魂胆が見え透いているので、苦笑させられたっけ。

 

ツラだけいい人間にころっといくような、空っぽの人間にあたしはなりたくないが。

 

あたしはツラは兎も角、体の方は相応に見えているらしいので。

 

そういう連中が寄ってくるのは、人間という生物の特性上仕方が無いのだろうとある程度諦めてもいた。

 

ただ、それがなくなったのは快適だ。

 

あたしは性的な事に殆ど興味が無いので。

 

それはむしろ有り難いのである。

 

カフェで仕事を幾つか受ける。在庫で即座に納入できるものもある。薬や発破は、アーベルハイムで即座に買い取ってくれるので、作るだけお金になる。余ったジェムは、全て切り替えても良いくらいだ。

 

最近はインゴットも納入している。

 

アーベルハイムだけが、街道の守備と魔物の排除のために戦士を動かして、最前線で戦っている。

 

それを考えると、良い武装は作りたいだろうし。

 

あたしが納入するインゴットは、喉から手が出る程だろう。

 

更に、トーマス卿からの連絡もあった。

 

宝石の原石の加工依頼だ。

 

原石を受け取ると、アトリエに戻る。

 

そして、すぐに調整して、宝石に変えて。カフェに納入。今回はそれほど大きな宝石ではなかったが。

 

それでも、目利きが出来るカフェのマスターは、目を見張っていた。

 

「世界は広いわ。 ライザさん、貴方の強さは聞いてる。 強いだけではなくて、機械を直したり、宝石を瞬く間に加工したり、色々作ったり……本当に何でも出来るのね」

 

「いいえ、出来る事を出来る範囲でやっているだけです。 あたしは別に万能でもなんでもありません」

 

「そう。 それでも、世間一般の人達から比べると、ずっと万能に近いわ」

 

「……そうかも知れないですね」

 

錬金術がなかったら。

 

アンペルさんとリラさんがクーケン島に来なかったら。

 

その時は、門が開いて。クーケン島だけ残って、世界は滅亡していた可能性が高い。

 

門云々の事がなくても、流石に今にはもう結婚させられていただろう。相手は誰かは分からないが。

 

そして多分子供も産むことになって。

 

今は子育てと農作業で、手が離せなくなっていたに違いない。

 

ある程度状況が落ち着いたら、護り手で活動して。

 

魔物の退治はしていただろうが。

 

とても今のような戦力を発揮できなかっただろう。

 

つまりあたしが凄いのでは無く。

 

錬金術が凄いのだ。

 

そして錬金術は諸刃の刃でもある。

 

これは使い方を間違えてはいけない禁断の秘術。

 

あたしは今の所。

 

これを誰かに教えるつもりはさらさら無かった。アンペルさんも、それは同じなのだろう。

 

「これで納入は終わりですね」

 

「ええ。 またよろしくお願いします」

 

「此方こそ。 私も、外の世界に出ていたら、貴方くらい自由に生きられていたのかな」

 

カフェのマスターはまだ若く見えるが。

 

実際にはそうでもないのかも知れない。

 

荒くれを捌ける事から考えても、多分荒事の経験者だ。

 

過去を詮索するような気はないが、戦士として街道で戦い続けて来た猛者だったのかもしれない。

 

そんな彼女も。

 

素敵な笑顔をいつも浮かべているけれども。

 

それでも幸せそうにはみえない。

 

あたしは、まだ幸せにやれているほうなのだ。

 

それは、常に自分に言い聞かせなければならなかった。

 

カフェで夕食を取って、アトリエに戻る。

 

フィーのために、魔力を放出。フィーは大喜びで魔力を食べる。あたしの魔力は、もう増加をほぼ止めている。

 

後は更に練り上げて、活用して行くだけだが。

 

ただ最近。

 

少しずつ、頭に掛かるもやみたいなのは、薄れ始めている気がする。

 

だが、もやみたいなのが反発しているのか。

 

寝ている時は、それこそすとんと落ちて。朝まで目が覚めなかったりするが。

 

感応夢を殆ど見ないのも、それが理由かも知れない。

 

「フィー!」

 

「ふーむ、魔力を濃いめにした方が美味しい?」

 

「フィー! フィーフィー!」

 

「分かった。 これから調整してみるよ」

 

あたしとしても、一日で余った魔力をこうして放出することは、まだ伸びるかも知れない力を調整する鍛錬になる。

 

フィーとしても、ご飯を食べられる事になる。

 

どっちにとっても良いことだ。

 

だから、躊躇う理由がない。

 

後は、寝るだけだ。

 

フィーは全く大きくなる気配がない。

 

これだけは有り難いが。

 

或いは昆虫のように。ある日突然、蛹になったり。脱皮したりして。大きくなるかも知れない。

 

それは常に計算に入れておかなければならない。

 

そもそもフィーは未知の生物。

 

何がどうなっても、不思議では無いのだから。

 

明かりを落として、眠る。

 

フィーも大人しく眠るので、此方としては助かる。

 

本当に、言う事を良く聞く。

 

人間の子供だったら、こうはいかない。

 

それが自分の例で分かりきっているから。

 

あたしは、フィーに対して情が湧くし。

 

もしも殺さなければいけなくなる場合を思うと。

 

その時は、とても悲しいなとも感じるのだった。




※ライザとフィーの本作での関係について

ライザは原作でも農家の娘で、畜産経験者です。

だからこそ、人間の害になるのなら、命を場合によっては奪わなければならないこと。

更にはどんなに子供の頃は可愛くとも、成長すれば危険な存在になる生物がいる事も理解しています。

原作ではフィーに駄々甘だったライザですが。

本作のライザは、状況次第ではフィーを自分の手で殺す事を覚悟していますし、実施します。

これは原作との明快な違いですが。

そもそも生き物の命を預かるものとして、絶対に覚悟しなければならない事ですので。本作では敢えて何度も強調しています。

それについてはご理解ください。

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