暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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本作でのライザは、仲間と出撃前出撃後に必ずミーティングをしています。

これは情報の共有をすることで、それぞれの間で状況の整理をしておくためもありますが。

そもそも命が掛かっている調査をしているので、ミスの可能性を可能な限り減らさなければならないから、という意味もあります。

既にライザは特に責任がない立場だったら田舎の出身と言う事もあって結婚させられて子供を育てている年齢です。こう言う時代だったらなおさらですね。

ライザは三年前の時もそうですが、戦士として期待され、そして大きな事を成し遂げたことで指導者として大きな経験を積んでいます。

それが故に、しっかり情報の共有と整理を皆の間で行っているのです。


3、調査を終えて

予定より少し早く物資の回収と、調査を終えて。アトリエに戻る。

 

ミーティングは予定通り夕方からやる。皆に戻って良いと告げたのだが。セリさんとレントはさっさと戻ったが。パティは不安そうに見ていたので、タオの手伝いをしてほしいというと。

 

顔がぱっと明るくなる。

 

ただ、パティにタオが宿題をその場でバババと出したので。

 

パティはむくれて。

 

だけれども、アトリエの余ったスペースで宿題をしても良いとあたしがいって。

 

とりあえず、妥協点を選出することが出来た。

 

黙々と、パティは勉強をしている。

 

集中力は大したものだ。

 

元々幼い頃から武術で鍛えているのである。

 

金で成績や地位を買う他の貴族とは此処が違っている。元々騎士だったヴォルカーさんが。あのメイド長に指示して、幼い頃から徹底的に鍛錬させたのだろう。

 

或いは、他の貴族の子弟の醜態を見ていたからかも知れない。

 

ヴォルカーさんの険しい表情。

 

あれは苦労を重ねてきた人間のものだ。

 

似たような表情は、アガーテ姉さんで見ている。

 

アガーテ姉さんも、若くして王都に上がって。

 

そして腐敗と派閥の愚かしい有様を見て、早々に見切りをつけてクーケン島に戻ってきた。

 

ヴォルカーさんも、同じような選択をできた筈だ。

 

だけれども、恐らくヴォルカーさんは、王都にいる立場が弱い人間達に情が湧いたのだろう。

 

既にいない奥さんが、そうだったのかも知れない。

 

パティを一瞥して。あたしは黙々と調合をする。

 

フィーはあたしの側に浮いていて、邪魔は一切しない。

 

タオとクリフォードさんは向かい合って、本を凄い勢いで読み崩している。読んだ本は、何カ所かに分けているようだが。

 

それは重要度別だと、あたしも知っているので。介入はしない。

 

「これはダメだな。 貴重な技術書だが、世に出すわけにはいかない」

 

「ゴーレムの製造法ですか」

 

「いや、幽霊鎧の方だ。 まだギリギリ、自分らでアレを作れていたらしい」

 

「確かにそれはダメですね。 例の小屋に入れて、封印をしておきましょう」

 

聞こえてくるだけでも、物騒な内容である。

 

確かにあたしも、幽霊鎧の製法なんてものを世に出すわけには行かない事は分かっている。

 

あれは安価ゴーレムであり。

 

今の人間が手にしてはいけない技術だ。

 

街を守るのに使えれば、それは有益かも知れないが。

 

今の国王と貴族に、そんな使い方が出来るわけがない。

 

どうせ自分の権勢を示すだの、自分の個人的な護衛だの、そんな理由で使うに決まっている。

 

それに、感応夢で見た。

 

古代クリント王国の下衆どもが、幽霊鎧をどう使っていたか。

 

あれと同じになるのなら。

 

確かに封印案件だ。

 

「そっちはどうだ」

 

「少しずつ分かってきたんですが、あの魔食草もどきはやはりあの工房での薪として使われていたようですね。 それで錬金術の金属に匹敵する、「魔法の金属」を作り出せていたようです」

 

「なるほどな。 封印されている何か良く分からないものとも、それで対抗できていたと」

 

「実の所、最初はそうではなかったようです。 侵攻を繰り返す古代クリント王国に対する国立の工房として、最初は動いていたようです」

 

「……チッ」

 

露骨にクリフォードさんの機嫌が悪くなる。

 

まあ、それもそうだろう。

 

この人はロマン大好き人間だ。

 

そのロマンに水を差すような事実が明らかになれば、面白くないに決まっている。

 

ロマンのために命を賭ける事までやっている人にとって。

 

自分の美学を汚すような事実は、はっきりいって万死に値するものだろうから。

 

「ただ、封印するべきものが発見されてからは、それに対するものとして、工房の全力を挙げて金属と武器を生産していたようです。 そのせいで国は古代クリント王国に対して劣勢になったようで……」

 

「つまり、強突く張りの連中が、優先するほどの危険だったと言う事か」

 

「そうなりますね」

 

あたしは調合を終えて、インゴットを揃えておく。

 

やがて夕方が来て、皆戻ってくる。

 

ミーティング。

 

明日以降、また戦闘中心になるので、タオは残って貰う事。

 

代わりにクラウディアに出て貰うことを告げる。

 

最後の、あの遺跡の中央部分に居座っている魔物や、大型のゴーレムを片付ける。

 

敵は強敵だらけだが。

 

多分今のこの面子ならどうにかなる。

 

そうあたしは告げて、解散。

 

後は、クラウディアとともに行く。例の、機械修理だ。パティも行くと言ってくれたので、有り難く同行を頼む。

 

例のメイド長は今日は来ない。

 

あたしとアーベルハイムが懇意にしている。

 

それは示しておいた方が良い。

 

そのためには、パティが来ている事を見せるのが一番良いのだ。

 

途中で、クラウディアに説明を受ける。

 

今回は、服を作る機械だが。

 

既に壊れかけで、一応服は作れるが、何度かに一着失敗するらしい。

 

それでもうクラウディアが声を掛けて。

 

修理をすることに決めたそうだ。

 

勿論、糸繰りから機織りを経て、服を作る技術はあるにはある。

 

だけれども、こういう機械で作る服は、その緻密な作りも何もかもが、別次元に凄まじいそうである。

 

現地に到着。

 

他の工場ではまだ働いている人間がいるようだが。

 

此処は仕事がないようである。

 

実直そうな女性工場長が、あたし達を出迎えてくれる。

 

クラウディアも、敬意を払っているのが分かった。

 

「先代くらいから、もう機械は限界が見えていてね。 最近は休ませていたんだよ。 それで、あんたが機械を直したという例の……」

 

「ライザリン=シュタウトです。 ライザと呼んでください」

 

「エカテリーナ=クラウンだよ。 よろしく頼む」

 

軽く挨拶を交わしてから、機械を見せてもらう。

 

だいぶ大きくて複雑だが。なるほど。

 

仕組みは理解した。

 

魔力が動力になっているのは、これも同じ。前に見た機会よりもだいぶ状況はいい。

 

ただし、回転するパーツや。

 

刃物がついているパーツもある。

 

裁断とか自動でやるものだが。これはちょっと危ないなとあたしは判断。

 

パティと連携して、少しずつ機械をばらして。アトリエに運ぶ。

 

荷車に積み込む際に、回転する刃物がついているパーツは、特に注意するようにパティに促し。

 

頷いて、パティも丁寧に扱っていた。

 

「手慣れてるね……」

 

「いえ、この機械は初めて見ました。 ただ、以前もっと大きな仕組みを作ったことが何回かあって」

 

「え……」

 

「オホン。 ライザはちょっと色々と経験を積んでいまして」

 

クラウディアが遮る。

 

それ以上喋るな、という笑顔の圧を感じたので、黙っておく事にする。

 

アトリエに運び込むと、パティに手伝って貰って、修理を開始。

 

エーテルを釜に満たして、順番にパーツを修理。

 

場合によっては同じものをインゴットから調整して加工する。

 

パティは例のネックレスもある。

 

筋力を補えていることもあって、以前とは比較にならない程力仕事が出来る。ただガタイがどうしても小さいので、力のかけ方とかを気を付けなければならない。

 

黙々と修理をしていく。

 

どうもタオは、これも見越して宿題を出していたらしい。

 

宿題の解答は明日やっておくとかいう話で。

 

パティの宿題は、既に回収されていたが。

 

「よし、一番危ないの扱うよ。 気を付けて!」

 

「はい!」

 

「ゆっくり、釜に入れて」

 

「うわ、本当に溶けるんですね……怖……」

 

パティが、釜の中でエーテルに分解される回転する刃物を見て、呻く。

 

この刃物も刃こぼれだらけ。更には、何か血の跡みたいなのもある。

 

長年動いた工場と機械だ。

 

人身事故が起きていても不思議では無い。

 

無理に動かし続けたのだ。

 

指くらいとんだ可哀想な人がいたのかも知れなかった。

 

要素を分析して、余計なものは取り払い。金属で調整していく。あたしの空間把握能力を最大限に生かして、機械の全体像を精密にイメージし、パーツごとに丁寧に修理をしていく。

 

良い感じだ。

 

エーテルから引き上げたときには、回転する刃は別物のように鋭くなっていた。パーツを全て丁寧に修復していく。

 

ネジとかには、明らかに欠損しているものもあったので。それらも全て作り直しておく。

 

動きが悪くなった時に、ばらしたりして。直せなくなったりしたのだろう。

 

それも仕方が無い。

 

これらは下手をすると神代。新しいものでも古代クリント王国時代のものだ。

 

25世代も経過していれば、マニュアルだってなくなる。

 

動かし方だって、分からなくなる。

 

部品だって、さび付いて動かなくなるだろう。

 

修理を終えたので、すぐに工場に持ち込む。

 

パティと二人だけで修理していくのを見て、度肝を抜かれるバレンツの戦士達。クラウディアは、周囲に目を光らせているが。

 

これは横やりが入らないようにしているのだろう。

 

工場の上には、クラウディアが音魔術で作りあげた人型の弓手が、多数展開している状態である。

 

本当に今、色々と政治的な意味で危ないのだろう。

 

あたしには修復作業に全力を注げるように、クラウディアが気を遣ってくれている。

 

だったら、それに全力で応える。

 

それだけだ。

 

「手伝おうか」

 

「ありがとうございます。 ただ、あたしではなく、クラウディアを」

 

「分かった。 この工場で危ないのは……」

 

エカテリーナさんが、工場の死角などをクラウディアに説明。頷くと、クラウディアは音魔術での弓手を増やしたようだった。

 

この辺り、前の工場主よりも、ずっとクラウディアもよく見ている相手なのだろう。

 

事実、とても実直な印象を受ける。

 

与太者も多い商売人をクーケン島で、あたしは散々見て来ている。

 

だから、この人が、信頼出来る商売人だと分かるのだった。

 

組み立てを続け、例の回転刃も取り付ける。

 

既にかなり夜遅い。

 

一段落した所で、パティに栄養剤を渡す。今日は、バレンツからアーベルハイムに連絡が行っていると、さっき聞かされた。

 

とはいっても、余り遅くなってはヴォルカーさんの頭にも角が生えるだろう。

 

可能な限り早く済ませる必要がある。

 

戦士達が、見張りをしながらも、此方にちらちら視線を送り。

 

その度に、クラウディアが叱責していた。

 

「見張りはまだ続けなさい。 これが王都だけではなく、人々の未来に関わる事だと、説明をしたはずです」

 

「はいっ!」

 

「すみません、副頭取!」

 

わあ、クラウディア、おっかな。

 

そう苦笑いしつつ、作業を続行。

 

最後のネジを締めてから、作業を行ってみる。大気中の魔力を吸収する動力源は、既に動く事を確認済み。

 

こういうのは散々修理したし。

 

なんなら仕組みはちょっと違うが、もっと大きいのを、クーケン島の中枢で作ったりもしたのだ。

 

簡単簡単。

 

機械が動き出す。

 

あわてて工場長が飛びつくと、素材を入れて、なにやら操作を開始する。

 

おおと、感激の声が上がる。

 

「私が生まれたときよりもずっとずっと機械の調子が良いよ! みな! もう服が出て来たよ!」

 

出て来たのは、庶民向けの安い服だ。

 

貴族が好みそうなスーツじゃない。

 

だからこそ、クラウディアが手を回せたのだろう。

 

そしてこう言う服を、安価に作れるようになったのだ。これは、また時代の後退を、少し遅れさせることが出来る。

 

何着か作る。

 

中には幼児向けのものや、子供向けのものもあって。問題なく作れると判断すると、涙をエカテリーナさんは拭い始めた。

 

「これで昔の値段で服を売れるよ! 馬鹿みたいな値段をつけなくてもいい! みんな、貧しくても服を買えるよ!」

 

「良かった。 もしも問題が起きたら、すぐにバレンツに連絡をお願いします」

 

「ああ、ああ! ありがとう。 王都のバカみたいな物価に、これで一石を投じられる! ライザ、あんたのことは救世主として、一族に語り継ぐ! ありがとう! 本当に……!」

 

あたしの手を握ると、エカテリーナさんはブンブン振り回した。

 

硬い、職人の手だった。

 

帰路につく。

 

クラウディアは、工場でまだ作業があるらしい。

 

あたしは、パティを屋敷に送っていく。クラウディア麾下の戦士が、途中までは送ってくれた。

 

まあ、遠くからこっちを伺っている下手くそは何人かいるが。

 

そんなんは、敵にはなり得ないが。

 

アーベルハイム邸につく。

 

ヴォルカーさんが険しい表情をして待っていたので、頭を下げる。

 

「すみません、遅くなりました」

 

「いや、予定通りの時間だ。 パティ、怪我などはなかったか」

 

「はい。お父様。 ライザさんの作業指示は的確で、危ない部品に対する接し方もとても分かりやすくて」

 

「そうか。 ライザくん。 君が直してくれた機械は、庶民の服を量産するものだ。 既に木綿などの質が低い服が出回り始めていて、服の値段そのものも高騰していた。 これで多くの民が助かる。 私からも、礼を言おう。 驚天の技、これからも世界のために使って欲しい」

 

流石に頭を下げることはなかったが。

 

胸に手を当ててヴォルカーさんが敬礼してくれたので。あたしもちょっと恐縮してしまった。

 

流石に夜遅いので、そのまま帰る。

 

途中から、あたしに対する見張りはいなくなった。

 

アトリエに戻ると、後は寝ることにする。

 

夕食はさっき、機械を調整しながら口にした。

 

何よりも、色々と疲れたので、これ以上は何か食べようという気にはなれなかった。

 

「フィー……」

 

「ごめんフィー。 疲れたかな」

 

「フィー!」

 

大丈夫、というのだろう。

 

あたしは苦笑いすると、もう寝るよと告げる。

 

風呂は、明日の朝でいいか。

 

流石にこれは、ちょっと先に休みたい。

 

多分クラウディアは、まだ工場付近で残務をこなしている筈だ。

 

それを思うと、眠れるだけで、此処は可とするべきなのだと、あたしは判断していた。

 

 

 

パティは自宅の風呂に浸かって、じっと手を見る。

 

恐ろしい機械の刃。

 

尖った部品。

 

それらにたいして、ライザさんの指示もあったが。何よりも防御魔術が掛かった装備。それが大きかった。

 

これはざっくりやったかな。

 

そう思った時もあったのだが、肌はどこも無事だ。

 

溜息が出る。

 

驚天の技。エカテリーナという工場長は、そう判断したのだろう。パティもそう思った。

 

ライザさんは凄い。

 

戦いが圧倒的に強いだけじゃない。

 

何百年も、直す事すらできなかった機械を。あんなに簡単に。

 

あれで鈍っているというのだ。

 

本当に、どこまで底が知れない人なのか。

 

劣等感がわき上がってくる。

 

戦闘でもいつも教えられることばかり。どんどん強くなっていると、いつも褒めてくれるけれど。

 

ライザさんの周囲にいる人は、皆凄すぎる。

 

最近加わったセリさんやレントさんも、超がつくほどの手練れで。レントさんにしても、最近までスランプだったとか言われても、嘘だとしかぼやけない。

 

あれで、タオさんがライザさんの事が好きだったら、パティは立ち直れなかったかも知れない。

 

だけれども、天才の歪みなのだろう。

 

ライザさんはあれで、殆ど異性に興味が無いらしい。

 

ましてや兄弟同然に育ったタオさんを、異性として見るつもりは全く無いようで。

 

それはなんとなく分かるので、それでどうにか踏みとどまれるのだった。

 

風呂から上がると、パティは着替えてお父様の前に出る。

 

敬礼して、今日あった事をまとめて話す。

 

遺跡での戦闘。

 

それに、機械の修理。

 

別の日にやっても良いだろうに、ライザさんはそれを一日でこなしてしまう。

 

それを聞いて、お父様は執務の手をとめて、考え込んでいた。

 

「凄まじいなライザくんは」

 

「いつも圧倒されっぱなしです」

 

「人間の数が減っているという事もあるのだが」

 

お父様は言う。

 

ロテスヴァッサ王都の人間は隠しているが、古代クリント王国の時代は、今の何十倍も人間がいたのだそうだ。

 

恐らく、ライザさんのような人間もだからこそいたのではないかと。お父様は言うのだった。

 

「パティ。 今後ライザ君とのコネは、この世界にとっての重要な生命線になる」

 

「はい、分かっています。 あれほどの英傑、何処を探しても今のこの世界では、見つからないと思います」

 

「うむ。 ライザ君はお前を気に入ってもいるようだ。 関係をそのまま維持し、いつでも話が出来るようにしておきなさい」

 

「分かりました」

 

少し悩んだようだが。

 

それでお父様は、話を切り上げていた。

 

パティは自室に戻る。

 

メイド長がベッドメイクしてくれていたので、お日様を吸ったベッドでゆっくり休む事が出来る。

 

勿論野営も経験があるが。

 

それでも、これは本当に有り難い。

 

無言でしばし、眠りを貪る。

 

そして、起きる。

 

これも訓練して、自制をしているから出来る事だ。幼い頃から、徹底的に訓練を受けた。

 

こらえ性がない子供は、これに耐えられないらしいが。パティは耐えられた。それだけの話。

 

ただ、パティの子供は耐えられるか分からない。

 

貴族制の限界だ。

 

古今東西の貴族が全員バカだとはパティも思わない。今の王都の王族も貴族も盆暗揃いだが、過去のもそうかは分からない。未来に凄い奴が出るかも知れない。

 

実際現在だって目端が利く人間はいて、それはお父様に賛同して王都を離れる動きを見せている。

 

だけれども、その目端が利く人間の子供も有能かどうかは、全く話が別だ。

 

たまたまパティはお父様の強さをある程度引き継げた。

 

その程度のことなのだ。

 

すぐにライザさんの所に行く。

 

いつものように起きだしているライザさんと一緒に鍛錬。タオさんがいつもよりずっと早く来たので、驚く。

 

「あたしはちょっとこれから畑を見て来るから、タオと宿題をしていて」

 

「はい。 分かりました」

 

「じゃね」

 

フットワークが軽いライザさんは、そのままひゅんと消える。フィーも懐に入れたまま。

 

身体制御が完璧だから、懐にフィーが入っていても、潰したりしないのである。

 

凄い話だ。

 

ともかく、タオさんから宿題について色々話を聞く。

 

ちゃんと出来ていると言うことで、胸をなで下ろす。

 

「数学がかなり向上しているね。 これならば、将来秘書官に好き勝手に資産を荒らされる事はないと思うよ」

 

「ありがとうございます。 ただ、此処が少し分からなくて……」

 

「そこはね……」

 

タオさんの説明は分かりやすくて、すっと頭に入ってくる。

 

勉強をしていると、ボオスさんとクリフォードさんが来る。

 

礼をして、ライザさんが来るまでは宿題をすると告げて。二人は頷くと、少し遅れてきたクラウディアさんと、何か話し始めていた。

 

「やはり貴族の密偵が……」

 

「だろうな。 ライザも気付いていたんじゃないのか」

 

「俺を呼んでくれれば、全部伸してきたんだが」

 

「ふふ、ありがとう。 その時は頼みます」

 

クラウディアさんは、クリフォードさんに露骨に警戒していたのに。今ではある程度話して笑顔も浮かべている。

 

セリさんが来て、アトリエの隅で座って黙々とリンゴを食べ始める。

 

丁度宿題も終わって。

 

ライザさんが戻って来ていた。

 

それと同時にレントさんも来る。

 

ちょっと遅れ気味だが、まあそれも間に合ったのだから良いのだろう。

 

「お待たせ、じゃあミーティングの時間だよ!」

 

「フィー!」

 

「頭に乗るな」

 

さっそくライザさんの懐を飛び出して、ボオスさんの頭に乗るフィー。

 

ボオスさんはフィーに対して嫌そうにはするが、追い払おうとしない。

 

暖かい関係だな。

 

そうパティは見ていていつも思う。

 

だけれども。此処からは、命がけの探索と。殺し合いも含めた今日の予定に対するミーティングだ。

 

頬を叩いて。

 

パティは気を入れ直していた。

 

パティはこの中では一番未熟。一番弱い。

 

それははっきり理解している。

 

だから、少しでも学ぶ。

 

少しでも背中を追う。

 

王都で、生きる事をお父様は決めた。貴族の腐敗は知った上で。この世界で、人間が追い詰められる一方である事を承知した上で。

 

その後を継ぐとパティは決めた。

 

色々と納得が行かないこともあるし。

 

タオさんへの恋心で、時々自分を上手に制御出来なくなることだってある。

 

そんな事は分かった上で、ここで学ぶと決めている。

 

だから、パティは。全力で、ライザさんについていくのだ。

 

「今日から、本番。 今までとは比較にならない程強力なゴーレムがいる可能性が高い」

 

「確かに遠目に見ても、デカイ奴がいたな。 ふっ、この面子なら負ける気はしないがな」

 

「そうだな……」

 

クリフォードさんよりも、レントさんの方が慎重に見える。

 

戦闘経験はクリフォードさんの方が上だろう。

 

だけれども、レントさんは。性格的な面で、慎重になっているのかも知れない。

 

「戦闘方法やフォーメーションはいつも通り。 いつもと違うのは、あたしは今回の戦闘では爆弾を惜しみなく投入する。 今までの戦闘で、工房らしい遺跡の天井や頑強さは理解出来た。 崩落を招かない程度に、空気が汚れない程度に、必要とあれば何もかも吹っ飛ばす」

 

「相変わらず豪快だね、ライザ」

 

「僕もちょっとこの辺りはついて行けないかな……」

 

楽しそうなクラウディアさん。

 

ちょっと引いているタオさん。

 

パティは。頷く。

 

「まだ未熟ですけど、引き続き前衛に立ちます!」

 

「おう。 隣は任せるぜ」

 

「はいっ!」

 

レントさんに応える。

 

セリさんはじっと黙ったままだが、この人は必要に応じて戦闘に参加してくれる。

 

だから何も言わないかと思ったが、ライザさんは一応確認していた。

 

「セリさんは、この遺跡で目的を果たせそうですか?」

 

「いえ。 今の時点ではいいものはなさそうよ」

 

「捜し物について、もう少しあたしを信頼したら教えてくれますか?」

 

「そうね。 その時が来たら」

 

そうか。セリさんも、そういう判断の仕方をしているんだな。

 

立ち上がると、出立とライザさんが声を張り上げる。

 

どんな特務の戦士達よりも、連携が取れている。

 

此処に混じって、経験を詰む事が出来る。それだけで、千金どころか、万金に値する経験だ。

 

だからパティは行く。

 

如何に、其処が危険な場所であってもだ。

 

ライザさんが、王都なんて簡単に吹き飛ぶというほどの相手がいるかも知れない封印だ。そんなものを、放置しておけないのも当然。

 

王都にいる者として。

 

責任を取らず、持て余した金で偉いと思い込んでいる貴族達とは袖を分かち。

 

本当に世界を守るための人間になる為。

 

パティは、戦うのだ。

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