暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
パミラは手をかざして、王都を出立していくライザ達を見送る。少し小高い場所から。
肉体を作ったとはいえ、元々はパミラは神格の一つ。
あくまで世界を見守る事を目的としているから、幽霊程度の影響力でかまわない、と判断していたが。
こう言う世界なら話は別。
壊れ行く世界であったのなら、パミラは力を持って介入する。
それが大事な事は。
一つ前にいた世界で理解した。
あの世界は、最強の錬金術師が、あらゆる試行錯誤を繰り返し。神とも連携しなければ、詰みを打開できなかった。
人間の可能性を信じるというのは、それは良い言葉だが。
この世界が、そんな言葉で無責任に放置したらどうなるかは目に見えている。
パミラも多くの世界を見て来た。
人類が未来に向けて走っている世界もあったけれど。
此処や、滅びに向かっている世界は、そうではなかった。
だからパミラは、体を得て介入を決めた。
この世界の錬金術師が、あまりにも邪悪で凡俗であったことも理由の一つではあるのだろう。
本来だったら、幽霊のまま見守るだけで良かったのだろうけれど。
こんなに良くない世界に転移するのも、まあ仕方が無い事ではあるのだろうと思う。
そして、世界を見守る事が神格であるが故にする事。
神格というのは。
意外に不便な存在なのである。
ミーティングを終えた同胞の者達に軽く話をして。
以前の世界にいた、一緒に戦った錬金術師から貰った道具を用いる。
それで世界を文字通り飛ぶ。
この世界では、桁外れの天才であるライザ。それに神代の錬金術師だが。
それはあくまでこの世界での基準。
時間停止を当たり前のようにやる錬金術師なんて、他の世界には幾らでもいた。
人がいる。パミラが渡って来た他の世界と近侍しているこの世界でも。
力の差というのはとても大きいのだ。
そして、世界を飛んで、到着する。
盟友のいる場所に。
白の世界。
そして、其処には。人影は無い。
なかった。
一つ生じる。
ぱたぱたと向こうから走ってくる人影。小柄で、発育が悪いのが一目で分かる。褐色肌の、まだ幼い娘。
健康的な笑顔を浮かべているが。
体の弱々しさが、どうしても違和感を生じさせる。
質素な衣服を身につけているが。その衣服の彼方此方には、生命維持装置がつけられている。
そうしないと、ぱたぱた走るのも出来ないのだ。
全力疾走なんてもってのほかである。
これでも、前に比べるとましになったのだが。
「パミラさま!」
「アイン。 外に出て大丈夫-?」
「うん。 お母様が大丈夫だって。 でも、やっぱりあまり長くは外に出られないの。 パミラ様に会いたいから、無理に出して貰ったんだ」
そうかそうか。
確かに細胞へのダメージが少しずつ蓄積しているようだ。案内して貰う。少しばかり、相談するべき事が出来た。
セーフティの事だ。
ライザの才能は、明らかに逸脱している。あくまでこの世界基準で、だが。
神代の錬金術師より明らかに上だ。
だから制限を掛けた。
それがセーフティ。
だが、ライザはずっと地道な努力を続けている。そして、セーフティを地力で砕こうとしている。
アインが言う所のお母様の所へ案内して貰う。
アインは本当に体が弱いので、同胞と言われる組織の面々はいつもそれを見て心を痛めている。
自分達は頑強すぎるほどだから、だろう。
それにアイン自身が彼女ら(男性は二世以降だけ)にとって希望だという事もあって。
この星は、消させるわけにはいかないのだ。
奥まった所に、その存在はいる。
正確には、あるというべきだろうか。
今の時点では、外へつながっているデバイスが余り多く無い。ヒトの形なんてしてもいない。
それでもアインは、お母様と慕っている。
悲しい話である。
棒状のものに、板状のものがついているだけのデバイス。
それから、声がする。
「久しぶりですね、パミラ」
「最近忙しかったものねー。 三年ぶりだったかなー」
「お母様、私戻っているね」
「はい、そうしてください」
アインは休眠用のベッドに戻る。
それで体の調整をする。
本人はいたいとも苦しいとも言わなかったが。細胞にダメージがもう出ていた。多分痛かった筈だ。
痛々しい話だ。
「本体の情報格納領域を少しずつ浸食してはいるのですが、それでもあれが精一杯です。 アインには苦しい思いをずっとさせてしまっています」
「ヒトの形を取る事が出来たときは、それでも随分喜んでいたわねー」
「それはそうです。 そもそもあの子は、まともに生きる事すら許されなかった。 神を気取る錬金術師達の傲慢極まりない思想のせいで」
「……」
これだけの強い怒りを。
人間ではない、生物ですらない存在から感じるのは。
ある意味、とても不思議だ。
神格ならまだ分かる。
パミラも、この世界の人間、特に大半の錬金術師には、今でも強い怒りしか感じない。
ロテスヴァッサに巣くっていた連中を、そのパトロンごと皆殺しにした時も、全く心が痛むことはなかった。
世界を二つ滅亡寸前に追い込んでおいて、反省のかけらも無い畜生以下。
生物として、最大級に有害な存在だ。
それでありながら、また同じ事を繰り返そうとした外道。
斬る以外に、路は無かった。
パミラは本来世界に介入はしないことを決めているが。
今回ばかりは、他に手が無かった。
「今日来たのは、錬金術師ライザリンの話ですね」
「ええ。 観察を続けたけれども、あの子は例外の中の例外ねー」
「あくまでこの世界では、でしょう」
「そう。 今まで見てきた世界でも、外道錬金術師は珍しくもなかった。 ただ、それでも、この世界ほど外道が多い場合は珍しかったのよねえ。 だからライザは例外の中の例外。 珍しい、少なくとも今は善なる錬金術師と言って良い存在ねー」
そのものは。
まだしばらく黙り込んでいる。
そして、思考を続けていたのか。
結論が出たのかは分からないが。
少し間をおいてから、話し始める。
「セーフティがどうも壊れ始めているようですね」
「そうねー。 ライザの才覚は文字通り破格。 百年前くらいに出た存在はセーフティが掛かるともう何もできなくなった。 だけれども、ライザは地力でセーフティを外そうとしているわねー」
「困りました。 ライザについては観察すると決めていましたが。 いつまでも善良である保証はありません。 戦歴も確実に積み重ね、出来る事も増えています。 今は一族の者が総出なら仕留められるでしょう。 しかし……」
「いずれ私が混じっても、勝てなくなるかも知れないわー」
ふふと、パミラはちょっと寂しく笑った。
錬金術師の中には、理を超越する者も多い。
時間や空間を自在にする錬金術師は珍しくもなかったし。
パミラが見て来た最強の錬金術師は、文字通り宇宙のルールを書き換えるレベルの力を持っていた。
生半可な神格だったら、一ひねりにするほどの実力で。
世界の詰みを打破するために手段を選ばず、残忍ではあってもエゴのために力を振るうことはなかった。
ライザも、悪党になるかもしれないが。
そういう存在になるのなら、許容は出来る。
問題はエゴのためにあらゆる暴虐を振るう存在に……この世界にいた神代や、古代クリント王国、ロテスヴァッサに集まっていた錬金術師のような連中になってしまった場合。
確かにセーフティが外れたら、手に負えなくなる。
世界が一つ滅ぶだけで済めば良いが。
「パミラ。 貴方の見解を聞かせていただけますか」
「私はね-。 最初この世界から、錬金術を全て消滅させるつもりだったの。 この世界の人間には、あまりにも危険な技術だったからねー」
「今は違うのですか」
「人間は追い詰められて、どんどん生活圏を縮小して。 それでもその性根はまったく変わっていない。 ロテスヴァッサの王都の貴族王族達の愚かしさは、貴方の作り出した「同胞」から常に聞いている。 この者達がパトロンになって錬金術を復興でもさせたら、なんどでも被害は再拡大するでしょうねー」
だが、とパミラは言葉を切る。
ライザは希望になるかも知れない。
そうとも思うのだ。
「ライザは近々セーフティを地力で解除すると思うわね-」
「そうですね。 それも懸念はしていましたが、想像以上に早い」
「もしも、セーフティが砕かれた時。 ライザがエゴで動くようならば。 差し違えてでも、私が斬るわー」
「……」
神格として消滅するとしても。
それは、同じ事だ。
元々神格とは現象が人格を持った存在。事象といってもいい。
少なくとも、パミラが渡って来た世界では、どれも共通してそうだった。
パミラは世界の観測という事象が、人格を持った存在で。
それが「パメラ」という不幸な若くしてなくなった女の子の幽霊と融合して、形を得たものである。
始まりは、そうだった。
世界というものは、観測する事で形を為す。
人間が観測することによっても形は変わる。
だが、それでは不安定すぎる。
だから世界そのものが観測者を作り出した。
観測者の力は、そこまで強大ではない方が良いというのも、どの世界でも共通した見解だった。
だからパミラは幽霊くらいで丁度良かったのだ。
この世界に来るまでは。
次の世界には、まだ渡れない。
この世界でいびつに発展した錬金術は、下手をすると他の世界を巻き込んだ挙げ句、滅びかねない危険なものだった。
今まで見てきた最大最強の錬金術師だって、エゴのために動く事は絶対にしなかった。
本人はどうしようも無いほどに狂っていたが。
それでもその一線はわきまえていた。
この世界の錬金術師は、それすらわきまえられていない。
人間だからエゴがあるというのは、最低最悪の言い訳だ。
そんな言い訳のために、二つも世界を滅ぼし掛けておいて、それでもなお反省すらしようとしない。
そういうものは、汚物としか言いようが無い。
だが、ライザがその考えを、変えようとしている。
ライザは、最後のこの世界にとってのチャンスだと、パミラは考えている。
その考えは間違っているかも知れない。
それ故にもしも間違っていたときには。
パミラは、己が倒れようと、ライザを倒す。事象としての観測者がこの世界から滅びようとも。
他の世界への被害を防ぐためにも。
そうする義務があるのだった。
身についてしまった、ゆっくりしたしゃべり方で、パミラがそう説明していくと。
そのものは。しばしして応えるのだった。
「分かりました。 其処までの覚悟を決めているのであれば。 私もそれに協力いたしましょう」
「あらー。 相変わらず普通の人間なんかより、ずっと物わかりがいいわねー」
「論理的にものを考えているだけです」
「ふふ。 さて……」
パミラは頷くと、奧へ。
其処には、恐ろしい武器の類がたくさんある。
今のライザは、セーフティのリミッターが掛かっていても生半可な魔物なんて束になってもかなわない程の戦力を有し。
有能な仲間にだって囲まれている。
勿論もし倒すべきだと判断した場合は、同胞を総動員して掛かる事になるが。
万が一だ。
それに備えて、装備を取りだしておく。
オーレン族は、光の剣と言っていたか。
錬金術師を倒すには、錬金術が一番良いだろう。
神代の者達が作り出した最強の剣を手にする。
これが放置されていたのは。
神代の者達は、末期には自分達の技術すら解析できなくなったから。これが何かすらも分からなくなったから。
それだけだ。
勿論、パミラは使い方も即座に分かる。
これでも、気が遠くなるほどの時間、世界を観測してきていないし。色々な錬金術を見て来てもいないのだ。
これを抜く日は来ないで欲しい。
パミラは。いかなるドラゴンの鱗だろうが、バターのように切り裂く刀身を見て。
そう思うのだった。
(続)
遺跡「工房」の調査も、レントが加わった事で更に進展。
大詰めに入ります。
アンペルさんとリラさんも別口で動いている事もあり、調査は二方向から実施。更には本作のライザは原作に比べてフィーに対して甘く接するだけではないので、原作でやらかしていた致命的なミスも犯しません。
ただしその分遺跡の奥に潜むものも謎も強大になっています。
ライザ達の苦闘は続きます。
※セーフティについて
ライザを危険視した〇〇〇が、ライザに施したリミッターです。遠隔でそれを出来るくらいの技術力があると言う事です。
この存在はかなり特殊な立ち位置で、今後もシナリオに密接に関わってきます。
ライザのスランプの原因は、このセーフティです。
もっともライザの成長は著しく、地力でそれをぶち破ろうとしていますが。
本作の次に連載する作品はどれが良いですか?
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