暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
そこには、凶悪なガーディアンが存在していました。
そのガーディアンが敵として想定していた相手は。
古代クリント王国の錬金術師。つまり……人間です。
序、工房の深奥
遺跡。
仮称、工房の中枢部。
今まで見た事も無いほどの巨大なゴーレムがあたしの目の前に立ちふさがっている。魔術による身体強化でも、素のままではどうにも出来そうにない圧倒的体積。
それでも、どうにか崩す。そのために、ちまちまと安全圏を拡げてきた。こういう大物と、全力でやり合えるようにだ。
何、こんな奴。
百万に達するフィルフサの群れに比べれば、なんのこともない。プレッシャーだって、比べものにならないほど小さい。
勝てる。
あたしが。号令を掛ける。
此奴を潰さないと、奧には行けないからだ。
幸い周囲は広い。正確には広くした。天井は遙か遠く。それだけこの遺跡の内部が大きく作られているのだ。
だからこそ、全力で暴れられる。
「攻撃開始!」
「おおっ!」
レントが前に出る。同時にゴーレムの肩の辺りが開いて。何かを射出。即座にあたしとクラウディアが連携して叩き落とす。中途で爆発していたし、ろくでもない兵器だったのだろう。
接近したレントに、巨大ゴーレムは足下から刃を伸ばして、しかもそれを回転させる。飛び退きつつ、刃を弾きながら斬るレント。
斬り飛ばされた刃が回転しながら飛んでいき、地面に突き刺さる。
ぎいんと、鋭い音が響いていた。
ゴーレムの腹が開いて、多分魔力砲と思われるものがせり出す。
これは、強いな。
他より強いゴーレムとは散々やりあって、安全圏を拡大してきたが。此処に余程人を入れたくなかったらしい。
これは恐らく、もう名前もわからない、古代クリント王国に滅ぼされた此処にあった国の最強兵器の一つ。
そして此処から出すつもりも無く。
ここの何かを守るために、配置されたのだろう。
倒すしか無い。
いずれにしても、これが悪用でもされたら。とんでもないことになる。
魔力砲に収束が開始される。
クラウディアがフルパワーでの矢を叩き込むが、弾き返される。発射される瞬間だけ、シールドが解除されるパターンか。
あんなものぶっ放されたら、終わりだ。
レントが跳躍。
なるほど、やりたいことは分かった。
「パティ、タオ、総力で攻めて!」
「分かりました!」
「分かった!」
二人が飛び出し、タオは乱舞技を叩き込む。パティは踏み込むと同時に、渾身の抜き打ちを入れる。
火花が散る。
そして、同時に。
レントが大上段から。渾身の一撃をゴーレムに叩き込んでいた。
シールドが赤熱する。やっぱりな。
セリさんが、大出力の魔術を展開。
ゴーレムの足下から、巨大な木が生えて。ひっくり返そうとする。ゴーレムが踏みとどまろうと体勢を整えようとした瞬間。
ゴーレムに攻撃中の全員が弾きかえされる。
シールドを解除して、攻撃を防いだのだ。
だが、それで分かる。
高出力の攻撃は、あのシールドでは防げない。
魔力砲を腹に収めると、立て直して、拳を振るって近付く人間を排除しに掛かるゴーレム。
流石に足は速くないが、それでも一歩が大きい。
背丈もあたしの十倍はある。
一歩ゆっくり踏み出すだけで、あたしの十歩分になるのだ。
あたしの熱槍が立て続けにゴーレムに炸裂。
視界を塞いで、その隙に皆が離れる。
投擲。
ローゼフラムが炸裂し、薔薇の花弁の形の炎がゴーレムを包む。流石に全身が赤熱し、凄まじい軋みをゴーレムが挙げた。
融解した金属が、垂れ落ちているのが見えた。
更に其処に、クライトレヘルンを叩き込む。
一気に全身が氷漬けになるゴーレムに、クラウディアが飽和攻撃を叩き込む。更に其処に、クリフォードさんがブーメランを投擲。
ひび割れた所に突き刺さったブーメランが、無理矢理引っこ抜かれたようにして、クリフォードさんへと戻る。
ゴーレムが、全身罅だらけになりながらも、まだ此方に来る。
雄叫び。
いや、違う。
恐らくは、近付く人間を怖れさせるための機構。
或いは、内部の構造が壊れていて。それで雄叫びのような音が出ているのかも知れない。
ゴーレムが拳を振るうと、その指が外れて。魔力砲がせり出す。
魔力砲から、小型の攻撃魔術が乱射され、辺りを掃射。爆発が連鎖する。
タフな上に小技が多いな。
多分アーミーが存在した時代。
多数の戦士を同時に相手にして、圧倒する構想で作られた兵器なのだろうと思う。そして錬金術師を敵にすることも想定していたのだろう。
だからこそ、眠らせなければならない。
こんなもの。
今の人間に渡すわけには行かないのだ。
レントが再び仕掛ける。
タオも陽動に走る。
タオが視界を塞ぐように跳躍し、其方に一瞬ゴーレムが視界を向けた瞬間。レントが、ゴーレムの足を深々と切り裂いた。
ゴルドテリオンの刃とは言え、流石だ。
体勢を崩すゴーレムの前に、パティが回り込むと。
大太刀を鞘に収め。突貫しつつ、高速で抜き打ちをした。あれは、刃を鞘の中で走らせて、速度を上げたのか。
ざくりと、ゴーレムの一部が大きく抉られる。
横転したゴーレムに、あたしは詠唱を完了。
4000の熱槍を収束させた一撃を、既に上空に出現させていた。一つ一つの熱槍が、大きめの石造家屋を粉砕できる火力を有する。それを4000。
それでも、絶対はない。
「セリさん、拘束を!」
「分かったわ」
地面から伸びた植物が、ゴーレムの全身に絡みつく。皆が逃げるのを確認してから、あたしはもう光の槍となっている熱槍を叩き込む。
これは熱いだけじゃない。
炸裂した後、超低温で冷やす魔術が同時に掛かっている。
要するに、まともに喰らったら。
生物だろうが非生物だろうが助からない。
それでももがきながら、シールドを展開するゴーレム。しつこいと言わんばかりに、クリフォードさんが渾身のブーメランを叩き込み、クラウディアもそれにあわせる。
シールドが砕け。
あたしは、だめ押しで、もう一発全力での一撃を叩き込んでいた。
コアが、砕ける手応え。
悲鳴を上げるような音を立てていた巨大ゴーレムが、やがて動かなくなる。
倒れたゴーレムの手足を、容赦なくレントが断ち割る。
それで動かなくなったことを確認してから。
解体に移った。
まずはコアを取りだす。
コアは機能停止しているが、これには貴重な素材が山ほど使われているのだ。
他にもあたしは魔力をクラウディアと一緒に探って、貴重な素材を掘り出す。死んだゴーレムは……正確には生き物ではないから違うが。ともかく動かなくなったゴーレムは、鉱物の塊。
掘り出していけば、貴重な鉱物素材が出てくる。
その間、レントとパティは見張りに立ってくれる。
まだ奧に、同等かそれ以上のゴーレムがいる。
恐らくだが、数百年前のアーミー同士がぶつかり合う戦争は、こういうゴーレムがわんさか動員される悪夢みたいな場所だったのだろう。
考えて見れば、万単位の人間が死んだ跡があったクーケン島近くの古戦場であった渓谷にも。
これと同等か、それ以上に巨大なゴーレムの残骸があった。
雨が降らず万全状態のフィルフサの群れ相手には、今の動く状態のゴーレムでも歯が立たないと言う訳で。
それはそれで、戦慄させられる話である。
「よし、回収終わり!」
「もう動く様子はないな!」
「大丈夫!」
時間もまだ平気の筈だ。
奧に数体、幽霊鎧の集団がいるので。クラウディアに矢を放って貰って、釣り出して貰う。
少しずつ削る。
敵の数が非常に多い上に、この遺跡の中枢部分は足場も良くない。足場が良い場所に引っ張り出して、各個撃破する。
これは別に戦略とか戦術とか呼べるようなものですらない。
あたしですら知っている基礎の基礎。
アガーテ姉さんには、どんな凄い奴でも地の利を得ていないと負ける事があると、護り手になったばかりの頃に口を酸っぱくして叩き込まれた。
今、それを生かしているだけだ。
釣られてこっちに来る幽霊鎧。小型のゴーレムも混じっている。
かなり強そうだが、レントもいる。きっちり足場が良い場所に釣り出してから、一気に取り囲んで攻め立てる。
パティは余裕があると判断したのだろう。
カウンター戦術を試しに行く。
大斧を持った幽霊鎧が、文字通りパティに両断する勢いで刃を振り下ろす。しかも大斧なのに。柄が伸びた。
ぐんと刃が伸びるような錯覚。
だが、パティは連日死線を潜っている。
本人は気付けていないようだが、充分すぎる位に腕は上がってきている。
髪の毛を数本散らされるのが見えたが。
それでも、パティは流れるように両断するような一撃をかわし。
更には、幽霊鎧の両腕を。文字通り星が飛ぶような一撃で断ち割っていた。
おおと、あたしは感心しつつ。熱槍を叩き込んで、タオと交戦していた四本腕の幽霊鎧の体の真ん中を撃ち抜く。
倒れた幽霊鎧は無視して、すぐにタオが他に行く。
元々数の利があった所を、こうして多対一に持ち込む。
魔物相手の戦闘は、三対一を基本にしろ。
これも、アガーテ姉さんに教わった事だったな。
あたし達悪ガキ軍団共通の師匠であるアガーテ姉さんは、今でもクーケン島で守り神同然の存在をしてくれている。
こういう人材を取りこぼしたから。
王都はゴミカスだらけなのだろう。
パティが対戦していた幽霊鎧の胸の中央を、大太刀で貫いたとき。レントがゴーレムを大剣で真正面から叩き潰し。戦闘が終わっていた。
豪快な戦い方で、見ているだけで気持ちが良い。
皆を集めて、負傷を確認。
セリさんが、飛び道具で負傷していた。幽霊鎧は人間じゃない。当たり前の話だが。人間型をしているから。
突如からだから攻撃を放ってきたりすると、対応が遅れたりする。
それを想定して、装備が組み込まれているのだろう。
あたしが即座に手当てをする。セリさんも、無言で手当てを任せる。あたしの作る傷薬を信頼してくれているのか。
少しずつあたしを信頼し初めてくれているのか。
どちらかは、分からない。
「ライザ、幽霊鎧およそ二十が纏まり始めてる」
「うーん、ちょっと多いかな」
「どうする。 ゴーレムとは距離があるから、釣れば一気に片付けられると思う」
「……そうだね。 でも、まともに相手にするのは避けるべきかな」
手当て終わり。
あたしは飛び出すと、仕掛けを行う。
コアクリスタルは皆に配ってある。殆どの皆には、一番良く出来た薬を保険として渡してあるのだが。
クリフォードさんだけには、爆弾を格納して貰っている。
使えるのは一日一度だけ。
そう設定し直したコアクリスタルだが。
逆に言えば、爆弾を一日一回は使い放題、ということだ。
それを悪用しないと判断したから、クリフォードさんにはコアクリスタルを配布している。
一緒に、爆弾を敷設する。
そして、皆の所に戻って、クラウディアに頼む。
頷くと、クラウディアは弓矢をほれぼれするほど完璧な立射の姿勢で引き絞り。音魔術の支援もつけて、放っていた。
華奢なクラウディアの体だけでは無理だが。
音魔術の支援で、ばつんともの凄い音と共に矢が放たれ。
まとまっていた幽霊鎧の一体が、完全に串刺しになった。
身動き取れなくなり、ばたばたもがいている幽霊鎧。一気に、此方に幽霊鎧が来る。だが、残念ながらどれも壊れてしまっている。
既に作戦は皆に伝達済。
狭い通路を、それでも一定の秩序を保って迫ってくる幽霊鎧は。
爆弾を埋め込んだ辺りを、通過した瞬間。
立て続けに炸裂した雷撃爆弾、シュトラプラジグ二つが、幽霊鎧の群れを足下から突き上げるように光の滝に叩き込み。
それが収まったときには、過半数が動かなくなっていた。
残りも傷ついている所に、クラウディアが飽和攻撃を。
あたしがそれにあわせて、熱槍を連射して叩き込む。
それすら抜けてくる幽霊鎧を、レントとタオ、パティが迎え撃ち。
まだ元気そうなのは、クリフォードさんのブーメランが叩き潰す。
そしてセリさんが詠唱を終えると。
地面から生えてきた、青々とした草が、どっと殺到して。幽霊鎧をまとめて拘束してしまう。
魔術の規模が凄いな。
そう思って、感心する。
普通の植物が、完全に殺戮兵器と化す。しかも、使い終わったら、即座に土に引っ込むのである。
だが、ここまでだ。
幽霊鎧の群れも、やられっぱなしではないし。
倒し終わった時には、相応に時間が経過していた。
クラウディアが音魔術を展開。
敵中枢部は、まだ戦力がある。
「どう、クラウディア」
「最低でもゴーレム3。 このゴーレムは、あの大きいのと同等か、それと比べてちょっと小さいくらい」
「まだあんなのが三体もいるんですか!?」
「最低でもだよパティ」
バラバラになって石材に擬態していたりするのがいる可能性がある。だからさっき、わざわざ罠まで仕掛けて、敵を削ったのである。
更に、幽霊鎧の部隊がまだ幾つもある。
これも元々はアーミーの用語だったらしい。戦士の数の規模によって、色々な呼び方があったのだとか。
いずれにしても、一度引くべきだろう。
そろそろ時間的にも、丁度良いはずだ。
あたしは撤退を指示。
タオが、一応念の為か、確認してくる。
「今回の遺跡では、敵性勢力を全部排除してから羅針盤を使うんだよね」
「そうなるね」
「羅針盤てのは、この間言っていた残留思念を見聞き出来る奴だよな」
「うん。 前にあたしが時々見ていた、魔力に反応した感応夢を意図的に、更に具体的に見られるような道具だね」
レントの質問にも答えながら。あたしは持ち場を頑なに守っている幽霊鎧とゴーレムを見やる。
魔食草もどきがまだ、その本性を見せていないという事もある。
この遺跡から人間を追い払ったのは、多分魔食草もどきだ。
ゴーレムや幽霊鎧を作り出せる技術を持った人間を、である。
だとすれば、戦力は今まで不意打ちを掛けてきた程度ではとてもすまないだろう。
油断なんて、出来るわけがない。
最低でも、魔食草もどきの本山……。或いは根の元を、叩かなければ、危なくて探索なんて出来ない。
タオもクリフォードさんも、安心して遺跡を調査なんて出来ないだろう。今だって、警戒しながら調査しているのだから。
鉱山を出ると、まだ夕方手前だが。
深追いは怪我の元。
憶病なくらいで丁度良いのである。
伸びをして、日光を浴びる。
「ちょっと早めの時間ですね」
「良かったねパティ。 宿題とか余裕持って出来るよ」
「あんまり嬉しくありません。 でも確かに、夜遅くならないのは助かります。 ライザさんは、今日も機械を直したりするんですか?」
「いや、今日はやらないかな」
クラウディアが、視線を向けると苦笑い。
あれから更に二つ機械を直したのだが。それでやはり貴族の間で火花が散っているようである。
王都にある壊れかけの機械。
或いは貴族が所有して手放そうとしない壊れた機械。
これらが、戦略的に大きな価値をいきなり持ち始めたからだ。
或いは百年前。
アンペルさんが所属した、王立の錬金術師集団が腐敗しなければ。あたしがこんなことをしなくても済んだのかも知れない。
だけれども、そうはならなかった。
だから今あたしが苦労している。
クラウディアも、だ。
「今、一つの公爵家と三つの伯爵家が表向きに出張ってきていて、利害の調整をしているところなの」
「ああ、どこかだいたいわかりました。 名前だけの爵位で、元々持っているだけの資産を盾に偉そうにしているだけの家です。 ただ例のメイドの一族がしっかり手綱をとっているとも聞きますけれど」
「それでも当主が騒いでいるそうで、時間が掛かっているの。 ライザ、目処が立ったらお願いね。 たとえ馬鹿馬鹿しくても、王都を出来るだけ混乱させたり、バレンツの敵を増やしたくないの」
「分かってる、クラウディア。 まあ馬鹿馬鹿しい事には変わりないけどね」
最悪の場合は、王都ごと吹っ飛ばして欲しい。
クラウディアが其処まで言う程だ。余程腹に据えかねているのだろう。
王都に戻り、アトリエでミーティングをする。実は南門を潜ってから、監視がついていたのだけれども。下手くそすぎて、あたしもレントも苦笑いしていた。
ミーティングを終えると、解散。その後は、あたしはフィーに魔力を上げながら、回収した物資を確認。
そして、明日の戦いの為の爆弾や薬を調合。あまりをカフェに納品しに行く。
三年前の夏が戻って来たかのように忙しい。
だけれども。みんながいる。
もう、疲労よりも。
充足感の方が、ずっと強かった。
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