暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
遺跡の中枢部に出向いて、あたしは作ってきた疑似太陽を掲げる。それは炉の中枢の真ん中に飛んでいき。
そこで、固定された。
炉が輝く。
往事とは比べものにならないほどか細いが、それでも陽が点ったのだ。
彼方此方が動いている音がする。
レントがぼやく。
「クーケン島でもみたが、本当にとんでもねえなライザの錬金術……」
「あたしが凄いんじゃなくて、錬金術が凄いの」
「分かってるよ。 それよりも、急ごうぜ。 あんまり長くはもたないんだろ」
レントに急かされて、例の壁に行く。壁の辺りは、がつんがつんと頼りない音を立てながら、少しずつ開いていて。
それを、セリさんが、植物を出して固定。更にレントとクリフォードさんが、大剣とブーメランをそれぞれてこのようにして、急に閉じないように固定してくれた。
「調査、急いでくれ!」
「合点!」
「パティ、クラウディアが音魔術を全力で使うから、支援して!」
「わ、分かりました!」
タオが走りながら、パティに指示。
パティだけが手が開いているから、それを理解しての事だろう。
あたしも、それを見て頷く。
そうやって連携が出来ていれば、それでいい。
壁の奥に入ると、暗闇の中、何かが浮き上がってくる。
それは、枯れ果てた根。
魔食草もどきは、あたし達で殺した。あの本体部分を殺した時に、殆どの根も枯れ果てた。
そんな枯れ果てた根が、彼方此方に散らばっている。
そうだ。
あれほどの旺盛な繁殖力を持つ植物だ。
時間を掛けて、根はこの強靭な壁床を浸食し。そして、此処に辿りついたのだ。
目の前にあるのは。
魔力を魔食草もどきに吸い尽くされた、無惨な封印の姿だった。
タオが、首を横に振る。
「ダメだ。 この封印は死んでる」
「フィー……」
「ちょっと調べて見る。 レント、クリフォードさん、セリさん! 頑張って!」
「おう! 任せておけ!」
とはいうが。どうもあの壁、そもそも経年劣化でどうにもならなくなっていたらしい。レント達が支えてはいるが、あれはもう動かないだろう。
急いで調べる。
魔力は、中枢部分にわずかに残っている。
だが、それだけだ。
漏出を避ける為に、「星の都」でやったように、コーティング処置をする。その間。タオは全身で封印に。八角錐の魔石の塊に絡みついていた根を引きはがして、処置してくれていた。
「炉の陽は!?」
「大丈夫、全然平気!」
「よし……」
コーティングを済ませる。結構大きな結晶だが、それでもてきぱきとやればすぐである。
足下の魔法陣をチェック。今までのものとこれで比べる事が出来る筈。根によって傷んでいるが。
それでも、かなり完全な状態で残っていた。
「タオ、写し取れる?」
「大丈夫、任せて!」
「……」
あたしは羅針盤を使う。
残留思念は、残っていた。
だれかがいる。
技術者らしい。白衣を着込んでいるところから、それは間違いないのだろう。
「多数の屍から作ったこの封印だが、いずれは破られるだろう。 その時、人間に抵抗する力があれば良いのだがな……」
「フィー!」
「……そうだな。 いこう」
今のは。フィーに似た生物。
前もちらっと見たような気がするが、やはり此処にもいたのか。
しかし、フィーはあくまで無力だ。
魔力をどか食いするが、それ以外に力らしいものもない。魔術媒体として使えるものでもないだろう。
無言で、封印の間を出る。
レントとクリフォードさんが扉から離れるが。もう扉は動かない。セリさんも、魔術を停止。
それでも、扉はもう動かなかった。
あたしは動力炉に供給していた、圧縮魔石を回収。
それでも動かない所を見ると、遺跡の最後の力を振り絞ったものだったのだろう。最悪、一月かけてぶち破らないといけなかった。
そう考えると、助かったと言えた。
「少し早いけれど、撤収!」
「それで、次はどうするんだ」
レントが禁句を言う。
一応、まだ候補らしい場所は二つある。
「深森」と「北の里」だ。
だが、王都近郊には樹海が拡がっていて、そこの具体的にどこに森があるのかが、よく分からない。
一応タオが調べてくれてはいるが、何カ所かにまだ候補を絞っている途中であるらしい。
北の里は出来るだけ最後にしたい。
というのも、ワイバーンが見せつけるようにして飛んでいる危険地帯である。出来れば、最後の最後に行って状態を確かめたい。
パティがかなり腕を上げて来ているのだが。もう一ランク上げれば、足も引っ張らなくなるだろう。
それには実戦を経験するのが一番だ。
もう少し、パティには実戦を経験して欲しいのである。
坑道を戻りながら、レントに応えておく。
「とりあえず、次の封印調査は、一度戻って考える。 後、此処の事をアンペルさんとリラさんに連絡して、調査はして貰うつもり」
「森の遺跡なんて、そんなにあるものなのか」
「俺が知っているだけでも、この近郊にそれらしいものは四つあるな。 だけれども、どれも調べ尽くされている。 多分やっこさんはそれらとは別のもので、段違いに危険と見て良いだろう」
「ひえっ」
クリフォードさんの話を、パティが素直に怖がる。
恐怖は感じて良い。
今は、順番にやるべき事をやる。
ただ、それだけだ。
アトリエに戻ったのは、昼少し過ぎ。
議事録を作って、解散とする。
封印は三つ確認したが、その内二つが既に崩壊。一つは破綻寸前。五つで封印を完成させているとすると。
残りの状態次第では、いつ封印が敗れてもおかしくない。
しかも、今まで残留思念を見る限り、具体的に封印が何処にあるかは分からないのである。
それが最大の問題だ。
最悪の場合、封印の場所さえ分かれば。
あたしから出向いて、封印をブチ抜いて。潜んでいる何かを叩き潰せば良い。
フィルフサの可能性もあるから、それについては今から準備をする必要があるが。
それも、今では対策のやり方が分かっている。
あたしも三年前の、フィルフサの大軍勢との戦いの後から、何もしていなかった訳ではない。
今回も、切り札になるような道具は。幾つか持って来ているのだ。
お薬や爆弾を作り置きして、少し時間が出来たので、昼寝でもする事にする。
細かく疲れを取るのが。こう言うときのコツだ。
フィーが、側に降りたって、頭をすりつけてくる。
この子は頭が良い。
だから、あたしが場合によっては処分も考えていることを、気付いていてもおかしくはないだろう。
それなのに、こうやって精一杯の愛嬌を向けてくる。
なんだか色々と、気持ちが重くなる。
子供には、親を嫌えない年代というのがある。特に人間はそれが顕著で。毒親と言われるようなどうしようもない親は、そういう時期に子供を痛めつけるのが楽しくて仕方が無くなり。
結果として子供を死に追いやったりする。
フィーはとても賢い上に、人間に思考回路も似ているとあたしは思う。
それもあって、とにかく家畜と接するようにはいかなかった。
しばし昼寝して。
起きだしてから、フィーを起こす。
あたしの懐に入ると魔力を補給できるので、それでフィーが餓死することはないはずだが。
それでも基本的に一日の最後に、あたしが魔力を根こそぎあげると喜んでいるから。あるだけ魔力を食べる性質なのだろう。
夕方少し前。
カフェに出かけて、納品を済ませておく。
少し前に頼まれた原石の加工も終えて、カフェのマスターに渡しておく。高価なものだが。
この店で狼藉して、生きて帰った者はいないそうである。
まあアーベルハイムが目を光らせているし。
この人自身も、相当な使い手なのだろうし。
「これは、凄いわ。 本当に何でも出来るのね」
「できない事の方が多いです。 たまたま、これは出来る。 それだけですよ」
「そう……」
寂しそうに微笑むマスターさん。
あたしは咳払いすると、他の納品も済ませる。
魔物退治が幾つかあるが、レントが片手間に終わらせているのもあるらしい。まあ、単騎でも片付けられる程度の魔物だったら。レントが鍛錬する相手には丁度良いだろう。
次に畑に。
カサンドラさんは今日も仕事をしていた。
例の珍しい植物は、なかなか上手く行かないらしい。あたしが時々圧縮肥料を渡しているのだが。
それでもなかなか。
多分気候とかの問題なのだろう。
カサンドラさんの技量に問題があるようには見えない。仮に育成が上手く行っても、量産は厳しいだろうな。
そうあたしは思う。
近所の子供が、最近は手伝いをしてくれているという。
なんでも義賊の三人組が、畑があるから食事が出来ると言う話をして回っているらしく。
基本的に偏見がない幼い子供が、小遣い稼ぎに農業区に出て来ているという。
幼い子供でも、小遣い稼ぎ程度の労働をするのはどこでも同じ。
クーケン島でも、あたしは幼い頃から湯沸かしをやっていたし。ましてや物価がおかしい王都では、なおさらなのだろう。
「この作物はたまに上手く行くんだが、基本的には厳しいね。 卸せるようなものはいつになったら作れるか……」
「普通の作物を作りながら、土を整えましょう。 それしかありません」
「ああ、分かってる」
「この肥料、少し改良してみました。 使って見てください」
肥料を引き渡しておく。
肥料といっても色々で、栄養を増やしてみたり、酸味を強くしたりと色々なパターンがある。
植物によって好みが違うためだ。
植物というのは、野に咲いているような何処にでも生えるのは生えるが。
作物になってくると、かなり好みが五月蠅くなってくる。
中には接ぎ木でしか増やせないものもある。
これらは品種改良を続けた結果、まともに子孫を残せなくなってしまった植物であって。完全に人間に運命をねじ曲げられた存在と言えるかも知れない。
他に幾つか話をした後、セリさんの畑を見る。
丁寧に植えられているが、見た事も無い植物ばかりだ。
「セリさんは今も早朝ですか」
「ああ。 私より早く来て、すぐに帰っていくね」
「ふうん……」
それにしても、どういう基準で植物を育てているのだろう。
ともかく、悪ガキが荒らさないように、カサンドラさんには一応念を押しておく。
セリさんがものすっごく強い事は、カサンドラさんも何となく分かっているらしく、それは子供にはしっかり仕込んでいるらしい。
ならば、大丈夫か。
畑を後にして、後はバレンツ商会にちょっとだけ顔を出す。
布とインゴット、ゼッテルが少し出来たので、納品しておく。あたしが来たことを知って、愛想笑いを作る受付のおじさん。
まったく、クラウディアの友人だと知った途端に態度を変えやがって此奴は。
そう思いながら、さっさと納品して、お金を受け取っておく。
王都の物価を考えると、お金はなんぼでもいるし。
何より、今後何に使うか知れたものではないのだ。
幾らでも必要になる可能性もある。今のうちに、蓄えられるものは蓄えておくべきだろう。
アトリエに戻って、後は茶菓子で茶をしばくか。
そう考えていると、来客だ。
アンペルさんだった。
リラさんはいない。
そうなると、遺跡の話か。
「ライザ、調査は順調のようだな」
「はい。 調査そのものは」
「封印とされるものが壊滅状態である事が分かっただけで収穫だ。 それが完全に壊れていると判断できたら、ともかく封印されていたものの正体を確かめなければならん」
「まったくです」
魔法陣をアンペルさんにも見せる。
アンペルさんは、空間をずらすという強力な固有魔術の使い手だが。それも流石に人間の魔力では際限なく使える訳ではないらしく、「切れ味が凄い刃物」程度にしか使えていない。
全盛期はもう少し戦えたとアンペルさんは言うのだが。
元々からだが強い方ではなかったそうなので、暗殺者を退けながら戦闘技術は身に付けたのだろう。
「なるほど、古代クリント王国より更に古い様式だな。 残念ながら、破損部分が分からないと、封印の方向はなんともいえない」
「ああ、やっぱりそうですよね」
「ただし、霊墓の封印を調べていて、分かった事がある。 地図はあるか」
頷いて、地図を出すと。
アンペルさんは、何本か。指を地図上で走らせて、書いて見せた。
「魔法陣の復元を行ってみた限り、霊墓から見てこれらの方角に封印があった可能性が高いと見て良い」
「なるほど……」
「星の都はこれから調べる。 星の都の封印はまだかろうじて生きていたということだな」
「渡しておいたエアドロップを使ってください。 リラさんもいるから、不覚は取らないとは思いますが」
「ああ、任せておけ」
まだこの人は、あたしの師匠だ。
それだけの力量と知識がある。
安心して、取りこぼしがないか調査を依頼できる。ついでなので、炉の動力も渡しておく。
頷いて、アンペルさんは受け取ってくれた。
それから幾つか話をして、それが終わるとアンペルさんはアトリエを出ていく。
時間も遅い。
夕食にして、それで終わりにする。
立て続けに大きな戦いや調査があったから、疲れが溜まっている。
フィーもそれを感じ取っているのか。
あたしの方を、心配そうに見つめる。
「フィー……」
「大丈夫だよフィー。 ちょっと疲れたけど、三年前の夏はこんなもんじゃなかったし」
あの時は。
本当に一瞬が惜しい状態が続いて。疲れもロクに採れないまま、フィルフサの百万を超える軍勢と戦う事になった。
大雨を降らせることに成功して、一気に形勢が逆転したが。
あれに失敗していたら、それこそ一瞬で圧殺されてしまっただろう。それくらい、綱渡りの状況だったのだ。
今でもあの戦いが行われたグリムドルには数ヶ月に一回足を運んでいるが。
雨が降るようになって空が少しずつ澄み。
水も綺麗になり。
緑と青が土地に増えている。
グリムドルに逃れてきたオーレン族が、あたしを見て襲いかかろうとするのを、キロさんがとめるのがいつもの事。
今ではグリムドルには、三十人以上のオーレン族がいるが。
手足を失っている人もいて。
新しい命を誰かが授かることもないようだ。夫婦も何組かいるのだが。
オーレン族は繁殖力が人間に比べて著しく弱いと言う話を聞いてはいるから、仕方が無いのだろうが。
それでも、グリムドルを足がかりに、とにかく少しずつ世界の復興をしていくしかない事を考えると厳しい。
今は。その厳しい状態を、ある程度あたしは受け入れられている。
それだけでも、大きな進歩だと言えた。
「さ、フィー。 明日も朝は早いよ。 寝よ」
「フィー!」
すぐにあたしに寄り添って、眠り始めるフィー。
あたしは苦笑いすると。
この子を手にかけない未来が来るといいなあと思う。
少しずつ、確実に情が強くなってきている。だけれども、畜産の経験があるあたしは。いつだって非情になれる。
だから、そうなりたくはない。
そうと、考えるしか無かった。
翌朝。
朝に、皆で集まる。タオが、先に王都周辺の地図を開く。そして、北東部の密林地帯を指さしていた。
「現時点で、密林地帯に発見されている遺跡は四つ。 いずれも探索され尽くしていて、調査結果を見る限り、大した魔物もいなければ封印らしいものも見つかっていない。 もしも封印があるのなら、強力なガーディアンや、迎撃戦力が配備されているとみるべきだろうと僕は思う。 つまりこれらは違うと見て良い」
「そうだな。 俺も調べて見たが、それらの遺跡は集落跡だ。 それも大した規模の集落ではない、な」
「そうなってくると、現地の人達に聞き込みをして、タブーになっている場所を探すしかないんでしょうか」
「その通り」
パティが言うと、タオがそれを肯定。
前にも聞いたが。
危険な遺跡は、現地民から危険地帯扱いされている事が多いのだとか。
クーケン島でもそういう傾向があった。
だから、あたしもそれには同意できる。
「森の中、周辺にある集落はいつつ。 順番に周りながら、話を聞いていくことにしようと思う。 僕はごめん。 図書館に篭もって、調査をするよ」
「私もちょっと申し訳ないのだけれど、今日はバレンツ商会で仕事をするわ。 ライザに頼もうと思っている機械の修復が、大詰めになっていて」
「そうなると、タオとクラウディア無しでだな。 深追いはできねえな」
「そうなる。 あの音魔術無しで、遺跡に入るのはぞっとしねえ」
レントとクリフォードさんは息ぴったりである。
この二人、どっちもソロ活動が主体だったから、こう言うときの立ち回り方は理解しているわけだ。
頷くと、出る事にする。
久しぶりに、王都東の門から出る。
なお西にも森はあるそうだが。樹海とは程遠い規模しかなく。荒野が拡がっている地帯の方が多いそうだ。
一瞬、森が切り開かれている可能性も考慮したが。
その辺りは、タオが調べてくれている。
この辺りに、「元密林」は存在していないそうだ。
封印があるとしても、其処まで遠くではないだろうし。街の北東部にある密林地帯の、何処かに残留思念で見た「深森」があると判断して良いだろう。
ただ。問題は此処からだ。
出来ればクラウディアに来て欲しかった理由は、実の所音魔術ではない。
密林の内部なら兎も角、街道の魔物だったら、この面子であればオーバーキルも良い所だ。
余程の事がない限り、手傷も受けないだろう。
「ライザ、いいか」
「どうしたの」
「丁度良いと思って、先にカフェで魔物退治の依頼を受けておいた。 片付けておこうぜ」
「うん、確かに丁度良いね。 始末しておこう」
レントがそんな話をしてくるので、受ける。
そのまま、魔物……小型のワイバーンがいる場所に出向く。
ワイバーンは我が物顔に街道の上空を飛んでいて、得物を見定めているようである。あたしが熱槍を叩き込むと、即座に降りてくるが。
はっきりいってこのサイズのワイバーンでは、もう相手ではない。
クリフォードさんのブーメランが直撃して、それで体勢を崩す。其処に、跳躍したレントが翼を叩き斬る。
地面に落ちたワイバーンはそれでも抵抗しようとするが、後は情け容赦なく攻撃を集中しておしまい。
パティにとどめを任せる。
尻尾の猛毒に注意という話はしておいたが。
勿論パティも、対応できた。
むしろ、あんまりにあっさりワイバーンを仕留められたので、驚いていた。
「わ、ワイバーンですよね! お父様だって、出来るだけ手を出さないようにと口を酸っぱくして言っているのに!」
「これはとても小さい個体だね。 気が大きくなって出て来て、人を襲ったんだと思う」
「雑魚も雑魚だ。 俺たちが最初に倒したワイバーンよりずっと小さい」
「とにかく、早く解体しよ。 肉も美味しいし、素材も使い路がいろいろあるんだ」
毒棘のある尻尾を叩き落とすと。後は吊して解体する。
肉は一部、その場で食べる。
ワイバーンの肉は、どんな家畜のものよりも美味しい。パティも一口食べて見て、呆然としていたほどだ。
まあ王都の警備の戦力では、ワイバーンを倒すのは困難だろうし。肉も貴族の口に入らないだろう。
今は人間がそれだけ魔物に追われている時代なのだ。
依頼も、出来れば追い払ってほしいと言う、ダメ元のものだったようである。
もう少し人間の戦力があれば、ワイバーン肉を食べたいとか言う貴族のために、大きな犠牲を出しながら戦士が戦うのかも知れないが。
今は、そんな戦力もない。
残りの肉を燻製にする。
しばし視線を泳がせていたパティが、おずおずと片手を挙げる。
「あ、あの。 す、少しだけ分けていただいてもいいですか」
「別にかまわないよ。 どうするの?」
「その、お父様に。 お父様、いつもアーベルハイム家の皆の為に、身だしなみはともかく、食事は質素極まりなくて。 平気で粗食ばかりして、珍味美味はテーブルマナー用にと思っている節があって」
まあ、パティは貴族二世だ。
騎士から武勲を重ねて爵位を得たヴォルカーさんは、そうでもおかしくはないだろう。元は庶民だったのだ。
背負うものを考えると、部下のために自身の浪費は抑えていてもおかしくない。
立派な人だが。
パティが心配するのも分かる。
激務も続いているだろうし。
「ライザ、ワイバーン肉の一番うまい場所ってどこだったか」
「あたしもそんなに専門的に狩ったわけじゃないんだけどね。 今までに何体か狩って食べたけど、どこも同じように美味しいよ。 燻製にして持ち帰るなら、なおさらだろうね」
これが鶏だったら胸とかももとか、筋肉を使っている場所なのだろうけれど。
ワイバーンは巨体を魔術で浮かせている。つまり別に翼を使う辺りの筋肉が発達している訳でもない。
いずれにしても、レントが言ってくれた意図は分かったので。
比較的柔らかくて食べやすい胸肉の燻製をパティに分ける。
パティは。目を擦ってまでいた。
タオがいないと、この子は本当に年齢以上に幼くなることがあるな。そう思って、あたしは腐らないで欲しいと思った。
腐りきった王都にも、こう言う子がいる。この子が貴族になったら、更に爵位を挙げてロテスヴァッサを変えたら。
ちっとは、この世界はマシになる筈だ。
勿論パティの子までまともとは限らない。
だけれども、人類がやりたい放題に押されている今の時代を少しでも変えられるのだったら。
パティに、アーベルハイムに。
投資する意味は、大いにあるのだった。
パティはかなり父親であるヴォルカーさんと関係が良好ですが(色々不満は抱えているとはいえ)。
その関係が良好なのは、王都の無能な支配者層の中で苦労しているヴォルカーさんの様子を、ずっと見て来たからです。
同輩の筈の貴族の子弟に対して非常に当たりがきついのも、ヴォルカーさんの苦労を見て来たからですね。
本作の次に連載する作品はどれが良いですか?
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真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
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