暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
これらが封印がそもそも不安定であり。そして危険なものが封印されているのはほぼ確定という事をあらゆる状況証拠から告げてきています。
ライザはすぐに次の封印を有する遺跡を調査します。
まずは、その遺跡が何処にあるのかを探し出す事からです。
序、地味で嫌な仕事
まずは信頼を得ることからだ。
タオが指定して来た、密林近くにある集落に到着。密林と言っても、森が深いだけであって、別に暑いわけでは無いのが救いか。
ロテスヴァッサが版図と自称していながら、ほぼ支配が及んでいない地帯でも、かなり暑くて人々が基本的に半裸で過ごしている地域はあるらしい。
そういった場所は森も此方とは比較にならないほど深く。
魔物の強さも段違いで。
何とか踏みとどまっている人達も、相応に強いそうだ。
まあ、そういう人達がなんとか踏みとどまっている地域は、まだ人がいる。それだけの話なのだろう。
この辺りは、王都から捨てられた人達が集まる場所だ。
負傷している人も多いし。
魔物に怯えきっているのも分かる。
だから、集落周辺の魔物を駆逐する。
しばらく無心に戦う。
クラウディアもタオもいない。二人とも、用事があるから外している。
だから、あたしがその分、出来る事は先にやっておく。
植物が豊富だからか、セリさんが生き生きしているように見える。
植物を使った魔術による攻撃も、キレを増している様子である。
「そっちにいったぞ! パティ!」
「はいっ!」
レントが叫び。
パティが腰を落として、大太刀を鞘に収める。
飛びかかったのは、大型の狼だ。
もっと大きな狼もいるらしいが、充分な脅威になるサイズである。事実此奴らに、この辺りの集落は脅かされ続けていたらしい。
パティは間合いに引きずり込むと、一刀両断で狼を仕留める。
普通の金属では出来ない。
ゴルドテリオンによる切れ味と軽さ。
更にパティがエンチャントを刃に掛けて強化している事。
短時間で、元々基礎をしっかりやっていたパティが実戦で腕を伸ばしていること。
これらが重なって、出来る事だ。
あたしは飛びかかってきた狼を、其方も見ずに熱槍で焼き払う。
この辺りの狼の群れは、明らかに人間を舐め腐っている。
今まで集落の人間を好き放題に脅かして、それで成功体験を積んでしまったのだろう。
辺境の集落のチンピラがそうであるように。
それで弱体化してしまったのだ。
流石に不利を悟って逃げ始めた狼を、クリフォードさんがブーメランでまとめて薙ぎ払い。
更にセリさんが、鋭い植物でまとめて串刺しにしていた。
これで終わりだ。
他にも大型の鳥や、ラプトルや。植物の魔物もいたが。
全部片付ける。
エレメンタルも少数。
ちょっと気が引けるけれども、下級のエレメンタルは人型をしているだけ。明確に人間を殺しに来る。
容赦も遠慮も必要ない。
精霊王も、此奴らを殺す事をどうにも思っていないようだし。
とにかく、始末するだけだ。
数刻戦闘を続けて、集落を脅かしていた魔物はあらかた片付ける。こんな調子で、やっていくしかない。
集落の人間に、殺した魔物の首や、魔物そのものを並べて見せる。エレメンタルは殺すと消えてしまうから、見せられないが。それは仕方が無い。
そして、目の前で魔物の屍を捌いて、肉などは景気よく分けた。
この集落は、戦える人が殆どいないな。
いるにはいるが、戦闘を見て青ざめているばかりだった。
この様子では、集落に閉じこもって、貧弱な守りの中で身を潜めているしかなかったのだろう。
これが、王都近縁の現実である。
長老らしい人物を、クリフォードさんが連れてくる。
明らかに怯えきっていて。
レントがこう言う人達のせいで曇ったことは、一目瞭然だった。あたしは、冷たい目を向けていたかも知れない。
「あんた達、騎士か何かかね。 魔物共を片付けてくれたのは礼を言うが、何もできないぞ」
「話だけ聞かせてください」
「話?」
「この近くの遺跡の話です」
あたしが咳払いして、びくりと長老は身を震わせた。
後はクリフォードさんを中心に、話を聞いて回る。
パティを物珍しそうに見ている子供が何人かいる。
年齢もそれほど変わらない様に見えるのだろうか。
それがあたし達に混じって、魔物をばったばったと倒していれば。異物として興味は引くだろう。
パティも手分けして、話を聞いて来てくれる。
そして、ある程度情報が集まった所で、皆で共有していた。なおセリさんは、ふらっと外に行ってしまって、情報収集には協力してくれなかった。まあ、魔物の残党に対策してくれるなら、それでいい。
「この辺りには、大した遺跡の話はないらしいな。 もう俺の同類が荒らしきったあとのようだ」
「外れか。 まあ、集落の人達が助かったんだし、よしとしよう」
「そうだな」
レントは不機嫌そうだ。
やっぱりこう言う対応をされると頭に来るのだろう。
あたしだって頭に来る。
あたしも、アガーテ姉さんと一緒に、クーケン島よりちいさな集落を助けに回ったりしたけれども。
恩知らずな対応は散々されているし。
レントの気持ちは、よーくわかる。
「それでどうします。 今日はもう昼を回ってしまっていますけれど」
「次の集落までの道は確保しておこう」
「はい」
パティに、それだけ応えると。
セリさんに声を掛けて、街道とは名ばかりの獣道を行く。
更に奧に、もっとちいさな集落があるが。
この様子では、何人生きているのやらという状況だ。
それでも行く。
もっと酷い集落は何度も見てきたし。
これくらいは、別にどうとも思わない。
案の定、街道など機能していない。
そもそも、王都に直通する太めの街道ですら守りきれず、魔物が出て隊商を襲うくらいなのである。
脇に逸れて、ちいさな集落に向かう街道で。
しかも整備なんてされていないのだ。
そんな場所がどうなっているか何て、足を運ぶまでもなく明らかだ。
途中、数度交戦する。出てくる魔物は、完全に此方を舐めきっていて。逆にそれが故に、対応が楽だった。
襲いかかってきた所を熱槍で焼き尽くす。
何かがおかしい。
そう思ってか、逃げようとしたラプトルの首を、レントが一息に刎ね飛ばす。
姿を見せた魔物は全部駆除する。
人間を侮り、成功体験を積んだ個体は、今後人間を際限なく襲って殺す。殺処分以外にはあり得ないのだ。
殺した死体は、もう流石に処理しきれないか。
吊しておく。
そうすることで、この辺りで危険な何かがいると示しておく。
余程頭が悪い魔物で無い限り、それで警戒する。
そうして、日が傾き始めた頃。
ちいさな集落に到着していた。
うっと呻いて、パティが口を押さえる。
この集落は、ちいさな井戸を生命線に、ろくに機能もしていない石壁で身を守っている状態だ。
風呂どころじゃない。
川に近付けばそれだけで死ぬ。
これは、まずいな。そう判断して、あたしはすぐに行動開始。
とにかく、動けそうな人間を探す。ダメだ。殆どが衰弱しきって、骨と皮だけになっている。
こういう人間を出さないようにするのが統治者の仕事だろうが。
あたしは、怒りがふつふつとこみ上げてくるのを感じた。
当然糞便も辺りに散らかっている状態。
とにかく、ここにこの人達はおいておけない。
パティが青ざめている。
辺りに散らばっているねずみや虫の死体。
この人達が何を食べて食いつないでいたかは、言う間でもなく明らかだ。
更に酷い状態になったら、人間同士で食い合い始めていただろう。
外には食べられるものがなんぼでもあるのに。
外の魔物に対抗する手段が無いから、こうしていた。
そして外の魔物達だって、人間の抵抗力がまったくなくなるのを待っていて。それから、襲撃するつもりだったのだろう。
これが現実だ。
此処は王都から歩いて行ける距離にある集落なのである。
「パティ、ここを名目上領地にしている貴族は誰」
「確か、ヒルデスラント伯爵だったはずです」
「その伯爵の顔面をグシャグシャにしてやりたいんだけれども」
「せ、戦争になります。 とにかく、落ち着いてください」
ため息をつく。
そして、すぐにこの集落から、人々を運び出す準備を開始する。
今日は徹夜になる可能性が高いが、やむを得ない。
タオがいてくれれば、快足を生かして王都にクラウディアを呼びに行って貰う所だったのだが。
残念ながら、今日は二人は外している。
まずは、粥を作り、人々に飲ませる。まずは粥からだ。みんな胃がカラになって久しい状態だ。
栄養失調の人に固形物を食わせると死ぬ。
これはあたしも、此処までではないにしても、酷い集落を見ているから知っている。対応も出来る。なお対応の仕方を教えてくれたのはアガーテ姉さんだ。こういう知識継承は有用である。
その間に、クリフォードさんに、王都にいって貰う。
クリフォードさんなら何とかできる筈だ。
問題は、ここがアーベルハイム領ではないということである。
しかも、パティの話では、ヒルデスラントだかいう伯爵は、ヴォルカーさんとはあまり仲も良くないらしい。
だとすると、クラウディアにでも動いてもらうしかない。
セリさんが植物を操作して、汚物を処理していく。汚物も完全に乾燥していて、此処の人達が如何に何も食べていないのか一目で分かる程だ。
レントは力仕事を担当。
パティは見張りをして貰った。
これはアーベルハイムの人間が主体的に手助けをすると、あとでどんな面倒な事になるか、しれた事では無いからだ。
栄養剤も飲ませる。
少しずつ痩せこけた人達が、口を利けるようになっていくが。
数日は動かしてはいけないだろう。
全力でクリフォードさんが王都に向かったはずで。夜には早ければクラウディアが傭兵を連れて来てくれる筈。
「魔物です!」
「……」
あたしが立ち上がるのを見て、魔物の襲来を告げたはずなのにパティはびくりとした。
それはそうだろう。
あたしは今、ぶっちゃけ頭に来ている。
殺す。
石壁を出ると、此処をエサ場にしようと目論んでいた魔物が、ギャアギャアと騒いでいるのが分かる。
狡猾なラプトルかと思ったら、見た事がない魔物だ。
カラフルな派手な羽根を頭につけていて、全身がすらっと長い。鳥のようでラプトルのようで、そのどれとも違っている。
大きさはそれほどでもないが、少なくとも群れを作る事。
これだけ派手と言う事は、毒でも持っているか。
或いは戦闘力があるか。
どちらかだろう。
「レント、見た事がある?」
「いや、ないな。 この辺りの固有種かもしれん」
「そう。 パティ。 気を付けて。 セリさん、石壁を植物で補強して。 あたし達三人だけで、此奴ら始末する」
「そう。 守りだけしかしないわよ」
それでいい。
威嚇して吠え猛っていた魔物共。
エサ場を荒らすな。
そう吠えているようで、頭に来るので。熱槍を出現して、容赦なく叩き込んでやる。数体が瞬く間に火だるまになるが、他は怖れず突っ込んでくる。
あたしは。裂帛の気合とともに、先頭の一匹を蹴り砕く。
頭が千切れ飛んで、吹っ飛ぶ魔物を見て。
他のは、始めて何を相手にしているか理解したようだが。既に遅い。
レントとパティが斬り込んで、縦横無尽に切り始める。大した相手ではないが、だがだとするとこの派手な姿はなんだ。
悲痛な声を上げはじめる蹂躙される魔物共。
そうすると、奧からワラワラと似たようなのが出てくる。
なるほど、とんでもなく数が多い種族なのか。
だが、一匹ずつはどうということもない。
あたしは、詠唱を開始。
前衛はレントとパティに任せる。
レントは安心して見ていられる。水車のように大剣を振り回して、次々魔物をなで切りにしていく。
パティは立ち回りを必死に工夫しているのが一目で分かる。
立ち位置を工夫しつつ、流れるように次々襲ってくる魔物にカウンターを入れている。ゴルドテリオンの刃は鋼鉄とは次元違いだ。この程度の相手に刃こぼれもしないし、切れ味だって段違い。
次々に敵がスライスされていく。
石壁に飛びついていく魔物もいるが。
セリさんが展開した植物の壁は容赦なくそれらを捕らえ、握りつぶしてしまう。
鮮血が彼方此方で飛び散り。それでも魔物の群れは次々に来る。
詠唱完了。
上空が、明るくなる。
この辺りの森は充分に湿気っている。
川が側にあると言う事もある。すぐに火事になるようなことはないし。
更に言えば、あたしの熱槍は。
熱くするだけでは無く、即座に冷やす。
冷やすの要素を入れる分、火力は落ちる事になるが、それでも上空に輝く熱槍はおよそ一万。
それを見て、足を止めた魔物達が、逃げようとし始めるが。
大軍がごった返しているのだ。奧から押し出そうとしてくる連中が、逃げ腰になった連中を押す。
それは、魔物の群れの密度を、却って厚くするばかりだった。
あたしは容赦なく、そこに奥義、グランシャリオの全火力を叩き込む。
文字通り、森が燃え上がったような有様になった。
奥の方に、二回り大きい魔物の死体が転がっていた。
群れのボスだったのだろう。
とにかく数を生かして獲物を追い詰める生態だったのだろうと思う。あたしは、死体を蹴り潰すと。
皆の所に戻った。
クラウディアが来ている。それだけではなく、それなりの数の戦士を連れていた。
「ライザ、流石だね。 この数をものともしていない」
「レントとパティが前衛になって、セリさんが守りを固めてくれたからね。 クリフォードさんは流石に早い」
「まあな。 途中で魔物に襲われたが、大した相手でなくて助かったぜ」
「王都南での戦闘については話に聞いていたが、これほどとは……」
連れてきた戦士の一人は騎士らしい。
今年の騎士試験に受かったばかりの新人らしかった。
一応、相応の腕はありそうだが。
集落の様子を見て、その場で吐いてしまう。
他の戦士も青ざめている。
これは、みんな王都出身者か。
辺境から来ている人間は、大なり小なりこういう光景は見ているはずだが。
「それでクラウディア、なんとか伯爵の方は大丈夫そう?」
「バレンツでこの集落を買い上げるといったら、即座に許可を出したわ。 パティがここに来ている話をしたら、絶対に許可は出さなかったでしょうけど」
「やっぱり蹴り殺したい」
「我慢してライザ。 撃ち殺してやりたいのは私も同じよ。 ヒルデスラント伯爵の所に直談判にいったけれども、ずっと何かを食べている脂ぎった太った人で、私のお胸だけずっと見ていたわ」
やっぱり殺すべきでは無いのか。
ただ、そいつに諌言して行動させたのは、例のメイドの一族らしく。しかも珍しい男性だったそうだ。
いずれにしても、そいつはともかく、伯爵家は許可を出したと言う事で、後は好きに動く事が出来る。
もう夜中だから、動くのは明日の朝。
久々の野宿だ。
セリさんと協力して清掃。
汚物を全部処理しておく。
死んでしまっている人もいる。しかも、死んでから相当日が経過しているだろうに、葬られている様子すらない。
そういう人は、荼毘に付して、そして埋めておく。
この集落は放棄だ。
以前、湖畔にあった集落が、かなり家も余っていたし。今バレンツで掌握している筈である。
だったら、其方に人を移すしかないだろう。幸い、それほど距離が離れている訳でもないのだ。
朝と同時に、やっと落ち着いたらしい戦士達を叱咤して、全員を護衛しながら集落を離れる。
此処は後でバレンツで見張り所か何かとして改装して使うらしい。
魔物が多数、此方を見ている。
掛かって来たら、全部ブチ殺す。
あたしは今、相当に頭に来ている。
その凄まじい殺気を感じてか。多数の死にかけている人を運んでいるにもかかわらず。魔物は仕掛けてはこなかった。
※王都周辺の集落について
本作世界ではだいたいどこもこんな感じです。アーベルハイム卿が頑張っていますが、彼だけではどうにもできません。王都から離れた人間の末路がどういうものかは、この話である程度分かるかと思います。
元々魔物が非常に人間に対して敵対的になっている事もあって、こういう状況は世界中で起きているのですが……魔物に滅茶苦茶にされていない場合は、賊とかに蹂躙されているケースもあります。
組織化された賊の場合、殺した人間の肉を食うような凶賊になるケースもあります。
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