暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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次の遺跡がある森は、文字通りの入ったら戻れない魔郷でした。

全ての五感を狂わせるそこに入るために。

ライザは入念な準備を整えます。


貪食の土
序、大げさな装置


一日がかりでそれを作る。

 

そして、翌朝には皆に披露できていた。

 

エアドロップ、地上版。

 

元々潜水用の装備として開発したエアドロップだ。それは、機密性を有して、内部の空気を常に新鮮にするもの。

 

あたしは森での実験で理解したが。

 

どうも森では、空気がおかしくて感覚が狂っているという結論が出た。それについては間違いない。

 

感覚はまずは視覚、聴覚がおかしくなり。

 

やがて嗅覚や味覚もおかしくなっていき、最終的には触覚すらなくなるようだった。

 

非常に危険な場所だ。

 

だから、まずはエアドロップで試験を行う。

 

最初に試験をするのは、勿論あたしだ。

 

エアドロップを陸上走行用に改装するのはそれほど難しくは無かった。元々水中移動の方が、色々とハードルは高いのだ。

 

新しいのを作る事。

 

更には陸上で行動するために、車輪などをつける必要があること。

 

水中とは幾つか条件が違う事もあって。

 

ちゃんと動く事までしっかり確認して、それで完成。

 

エアドロップと同じで、内部を常に新しい空気で満たし。そして、車輪がついて移動を内部からコントロール出来る。

 

そういう仕組みのものが仕上がっていた。

 

しかも折りたためる。

 

ただ、この陸上版のエアドロップは基本的に水中活動を想定していない。それどころか、戦闘も。敵の物理的な攻撃を防ぐことも。コンパクトにまとめると、捨てなければならないものは多いのである。

 

つまり大前提として敵の攻撃は受けないことを考えるしかない。

 

とにかく、これは探索装備であって。

 

戦闘装備では無い。

 

これが攻撃を受けて、破損したら全滅するしかない。

 

それを常に念頭に置いて、動くしかないのだった。

 

朝のミーティングで、お披露目はしておく。

 

ボオスは何とも言えない表情をしたが。クラウディアは好意的だ。ともかく、試運転からやるしかない。

 

「空気が何かしらの悪さをしているというのは、僕も同意だね。 問題はあの環境に適応している生物がいる場合だ。 魔物にしてもそうでないにしても、エアドロップを傷つけられたら終わりだ」

 

「外に出て戦う場合はどうするんだ」

 

「一応、常時外に新鮮な空気は提供してる。 だから、エアドロップのすぐそばだったら、感覚が狂うのは最小限に抑えられるはず。 後は広域攻撃でどうにかするしかないね」

 

「うわ……難易度高いですね」

 

パティも正直に言う。

 

秘密を共有した後、萎縮している感じはしない。

 

良い傾向だ。

 

咳払いをして、それで幾つか説明を追加。

 

まずはあたしが、エアドロップで森の危険範囲に入ってみて、様子を確認。

 

問題が無さそうだったら、奧へと進む。

 

問題があった場合は、エアドロップをロープでたぐり寄せて貰う。

 

どんなにおかしな見え方をしていても、外からロープで引っ張れば、回収出来ることは分かっている。

 

それと同じだ。

 

クラウディアが音魔術で、ある程度外から情報を解析も出来るし、音だって届けることも出来る。

 

ただしそれにも限度があるので、まずは森の辺縁で実験をして。

 

大丈夫そうなら奥に進む。

 

そういう流れでやるしかないだろう。

 

色々と難易度は高いが。

 

そもそもワイバーンが多数飛んでいる地域にある「北の里」を最後にするのは、妥当な判断だと思うので。

 

これでいい。

 

タオとクリフォードさんも、王都で色々と情報を集めてくれている。

 

タオが咳払いして、その一つを提示してくれた。

 

「北の里については、古い文献で情報を見つけたよ」

 

「詳しく」

 

「どうも古代クリント王国が侵攻したときには既に戦略的価値を喪失していたらしいんだ」

 

「……」

 

咳払いするタオ。

 

「勿論これはあくまで史書としての記述だ。 分かってきたのは、どうも古代クリント王国から見て、魅力があるものは見つけられなかったこと、維持する意味がなかったという事だよ」

 

要するに、人もものもいなくなっていた、ということか。

 

封印の一つであるのはほぼ確定なのだろうが。

 

魔物に対して人間が優位だった時代。

 

それも、極めて好戦的な古代クリント王国の時代ですらも、放置したという訳か。

 

なるほど、何か理由がありそうだな。

 

いずれにしても、調査は本腰を入れないといけないだろう。

 

異世界に侵略を仕掛けるようなテクノロジーを持っていた古代クリント王国が、何も発見できなかったとなると。

 

今調べている「深森」こと、迷いの森以上に面倒な仕掛けが施されている可能性が高いのだから。

 

「それでは解散。 今日は、遺跡を発見できればいいんだけれどね」

 

「まあ、無理をせずぼちぼちいこうや」

 

クリフォードさんが言う。

 

あたしも、それは同意だった。

 

そのまま、王都を出る。

 

そして、街道を進んで、道を外れて。

 

現地に到着していた。

 

てきぱきとエアドロップを膨らませる。地上移動式のエアドロップだ。色々と不思議なものに見えるのだろう。クリフォードさんは面白そうにしていたし。セリさんは警戒していた。

 

最初乗り込むのはあたしだけ。

 

作ったのはあたしだ。

 

勿論自分で責任を取る必要がある。

 

空気を内部で満たして、周囲の光景が表示されるようにする。幾つかの装置を動かして、前進。

 

かなり足は遅いな。

 

そうあたしは苦笑い。

 

だけれども、そもそも守りのための装備である。

 

これは、仕方が無い事だ。

 

まずは、五感が狂わない範囲で試運転をする。皆が見守る中、エアドロップを前後左右に動かすと。

 

おおと、喚声が上がる。

 

挙げたのは当然クリフォードさん。

 

目をきらっきら輝かせている。

 

「いいねえ、ロマンだ! こういうのが男の心をくすぐるんだぜ……!」

 

「……クリフォードさん、あんたってこんな人なんだな。 いつも驚かされる」

 

「レントくんも? 私もだよ……」

 

レントとクラウディアが呆れているが。

 

だが、本人がそれで周囲に害を為す訳でもないし。

 

別にあたしはどうでもいい。

 

そのまま動かすのを続ける。段差は大丈夫。後は障害物にぶつかった時のダメージ。

 

これは障害物にぶつかるのを前提として動かす。

 

当たり前の話だ。

 

これから先、どうなるか知れないんだから。

 

続いて段差などに落ちた場合の復帰能力も試す。

 

この森の中は川もある可能性があるし。更には崖などから落ちる可能性だってある。

 

クラウディアが察知できればいいのだけれども。

 

この先、どうなるか知れたものじゃない。

 

だから今のうちに試験をしておくのだ。

 

前進後進、接触試験。

 

色々やっている内に、すぐに時間は過ぎていく。

 

昼少し前まで、あらゆる試験を行って、近くの集落まで一度戻る。クリフォードさんが、うきうきしているのを横に、皆冷静になっていた。

 

「外からの空気を遮断するだけで大丈夫かな」

 

「感覚を完全に狂わせるなら、まずはこれから試験してみないと。 午後からは、内部でも五感が狂わないかの試験。 狂わないにしても、ロープか何かでつないで、少しずつ踏み込む形になるだろうね」

 

「なんだか怖いです。 いつの間にか感覚が狂っていて、それでみんな遭難するなんて事になったら……」

 

「そのために保存食は多めに持ってきてあるし、複数のセーフティも準備してあるよ」

 

ごくまっとうな発言をするパティ。

 

セリさんは、会話に参加してくれない。

 

集落で食事にする。

 

クラウディアが用意してくれたバスケットから、昼食を摘む。普通に美味しいので助かる。

 

あたしは野戦料理は出来るけれど、こういうのはあんまり得意ではないので、やって貰えると助かる。

 

錬金術でも一時料理出来ないか試してみて。

 

実際に出来る事は確認したのだけれども。

 

どうしても盛りつけとかが汚くなる。

 

固形のお菓子とかは出来るのだけれども。それはメインディッシュとしては色々と不向きだ。

 

しばし食事を堪能し、交代でトイレ休憩などを済ませてから、再びアタック。

 

危険なラインまで行き。

 

午後からは、陸上式エアドロップを使って。

 

踏み込んでいく。

 

あたしが操縦して、そのままラインを越える。

 

ラインを越えても、特に違和感はない。

 

クラウディアが、音魔術で通信を入れてくる。

 

「やっぱり此方からは変な風に動いているように見えるわ。 突然曲がったり、とても奇妙よ」

 

「そうだろうね。 こっちは一応、まっすぐは進めているけれど……」

 

「そう。 とりあえず、ロープの届く範囲で試験を続けて」

 

「おっけい」

 

そのまま操作盤を動かして、調整を続ける。

 

その間にも、タオが指示して、色々と試験をしているようだ。並行で複数の試験を行う事で、少しでも安全を確かめながら進むのである。

 

それくらい危険な場所なのだ。

 

元々こう言う森は、どの方向に進んでいるか全く分からなくなる危険なものであるらしいのだが。

 

クーケン島の側にあった小妖精の森とかの、此処までの規模がない森しかあたしは知らない事もある。

 

どうしても、こう言う場所は、未知の地点として、慎重に立ち回るしかないのである。

 

あたしも修羅場を潜ってきているのだ。

 

相応に、危険に対する嗅覚はあるし。

 

過信してどうなるかも、理解はしているつもりだ。

 

「ライザ! 突然エアドロップが沈み込んだように見えるけれど、大丈夫!?」

 

「こっちは大丈夫。 後退して其方に戻るね」

 

「ふう、問題はないのね。 一応音魔術も展開して、おかしな事になっていないことは確認しているのだけれども」

 

「余程変な風に見えてるんだね……」

 

ひやりとさせられる。

 

とりあえず後退して、安全圏までさがる。

 

途中、木の根を踏んづけたが、そのくらいは許容範囲。

 

足回りにつけている車輪と、その動力の魔力炉は、六人乗せても八人乗せても平気なくらいパワーがある。

 

パワーがありすぎて、人間との接触事故のが怖いくらいだ。

 

一旦安全圏まで戻って、エアドロップを降りる。

 

タオが、咳払いして、説明をしてくれた。

 

「こっちでもおかしな挙動を見つけたんだ」

 

「詳しく」

 

「土を採取して調べて見たんだけれど、明らかに魔力の流れがおかしい。 そもそも、一線を越えた先の五感がおかしくなると言うのが、おかしいと思わない?」

 

「確かにそれもそうだね。 それで土に問題があると?」

 

タオが頷くと、見せてくれる。

 

採取した土盛り。

 

その上に、クリフォードさんがブーメランを投げる。

 

クリフォードさんのブーメランが、明らかにおかしな揺れ方をした。ように見えた。

 

だけれども、クリフォードさんの手に、ブーメランは戻る。

 

確かにコレはまずいな。

 

あたしはそう判断した。

 

「まずいねこれ。 土そのものにも五感を狂わせる作用がない?」

 

「ある」

 

「そうなると、エアドロップの強化が必須か。 魔力を遮断するように、徹底的に色々とやらないと」

 

「それでも限界があると思う。 森の辺縁でこれだよ」

 

確かにそれもそうだ。

 

更に、である。

 

待っている最中に、レントがタオを打ち上げて上空から確認したらしいのだが。

 

やはり遠くに川が見えている。

 

それだけじゃあない。

 

森の中心部が、明らかに歪んでいるという。

 

森そのものが。

 

それが、植物すら五感を狂わされているのか。

 

安全圏からも、もはやどうしようも無いほど狂った光景が見せられるのか、それは分からないそうだが。

 

それにしても、異様な光景だそうである。

 

「此処はまずい。 慎重に立ち回らないと、入ったが最後出られなくなる」

 

「土のサンプルは回収してある? 私も持ち帰って調べる」

 

「分かった。 僕の方でも調べて見るよ」

 

「とんでもなく恐ろしい森ですね。 入ったら最後、出られないと言うのも納得です」

 

パティの言葉は的確だと思う。

 

とにかく、今の時点では辺縁をエアドロップに乗った状態ですら危ないし。

 

奥に入ったら、確定でこの陸上型エアドロップでも遭難する。

 

それは、あたしも分かる。

 

自分の道具だからこそ限界も分かるし。

 

タオの分析が的確であることは、もうはっきりしすぎている程なのだから。

 

今日はこれで切り上げる。

 

クラウディアが作ってくれている時間はあまり長くない。だが、焦って踏み込んだりしたら、これだけの手練れを集めた面子でもあっさり全滅しかねない。

 

これだけ五感が狂っているとなると。

 

中枢部分に入り込んだりしたら、上下の感覚すらおかしくなりかねないのだ。

 

毒であれば、中和すればいいのだが。

 

果たしてそんな簡単な物で済めば良いのだが。

 

アトリエで解散する。

 

ボオスが帰ってきたあたし達を見て、安心して嘆息する。

 

「相当にヤバイ場所みたいだな。 本当に戻って来てくれて助かるぜ」

 

「そっちでは何かあったの?」

 

「俺が窓口になってるだろ。 貴族の連中が、毎日変な手紙を送ってきていてな」

 

機械の件だな。

 

そうあたしは判断する。

 

手紙は、全てその場でクラウディアが精査してしまう。かなり眉をひそめて、厳しい表情だった。

 

パティも手紙を見て、それで無言になる。

 

貴族らしい、遠回しな言い回しで。色々と面倒な事が書かれているのだろう事は、一発で分かる。

 

「どうクラウディア」

 

「ミーティングが終わったら、バレンツで対策会議をするわ。 大丈夫、ライザには負担を掛けないから」

 

「私もすぐに家に戻って、お父様と対策を話します」

 

「おいおい、どんな事になってるんだよ」

 

レントがぼやく。

 

セリさんは、手紙を無言で見ていたが、呆れたようでそのまま戻す。

 

あたしも見てみるが、内容は回りくどくてよく分からなかった。

 

咳払いすると、クラウディアが説明してくれる。

 

「王都の貴族の派閥が割れているわ。 ライザを取り込もうとしている派閥が出て来て、それに反発する派閥がいるようね。 でも貴族達も、魔物の大軍を蹴散らしたライザの実力は知っているようで、迂闊に手を出せずにいるみたい。 更に後ろにアーベルハイムもいると判断して、下手に動けないようよ」

 

「まーたそんなことを……。 ただでさえ機械がおかしくなって生活が苦しくなっているんだよ。 まずは機械を直せば良いし、あたしは全部機械を直すつもりなんだけれどもな」

 

「ライザはそれでいいわ。 ただ、その順番で今後の地位が決まると考えている貴族が何人もいてね。 例の一族が介入しなければ、とっくに血を見ていたでしょうね」

 

「あのメイドの一族な。 腕利きだらけだが、一体何者なんだよ。 フロディアさんも、今になって思うととんでもなかったよな」

 

レントが禁句を口にする。

 

パティもよく分からないと、首を横に振る。

 

クリフォードさんは、幾つか面白い話を知っているそうだが。

 

都市伝説の域を超えないぞと、先に断っていた。

 

セリさんがぼそりと言う。

 

「私にはどうも顔の見分けがあまり出来ないのだけれども。 そもそも貴方たちが言う一族の者達、どうにも体に通っている魔力が異質じゃないかしら」

 

「魔力が異質?」

 

「そんな気がするだけよ」

 

「……」

 

それは、考えていなかった。

 

確かにフロディアさんからしてそうだったが、身体能力が高すぎる。あれは鍛錬の代物ではなく、何かしら違う理由があったのだとしたら。

 

そもそもとして、王都にこれほどの数が入り込んでいて。貴族もそれを受け入れてしまっているには。

 

それこそ、何百年もかけて、王都に入り込んだのではあるまいか。

 

だとすると、計画的に一族ぐるみで動いていると言う事になる。

 

一体何だ、あの一族は。

 

「ライザ、近いうちにまた機械の修理を頼むかも知れない。 その時は、お願いね」

 

「うん。 それにしてもいちいち面倒だな。 全部片っ端から直したいくらいなんだけれどね」

 

「でも、そうしていたら遺跡の探索がおざなりになるよね」

 

「違いない」

 

本命は遺跡の調査。

 

それによる、封印の正体の解明だ。

 

十中八九それがオーリムへの門を封印しているものだろうことは見当がつくが。それでも場所、封印の性質がまだよく分かっていない。

 

フィルフサは、ともかく初動を封じないと話にならない。

 

斥候が歩き回るようになったら、後手に回ったも同然。

 

雨が降っていない状況で、王種が此方にでも来たら、それこそ終わりだ。

 

解散して、あたしは持ち帰った土を調べる。

 

フィーが懐から出て来て、土をじっと見つめた。

 

ふんふんと臭いを嗅いでいたようだが。

 

やがて、嫌そうに距離を取る。

 

「フィー……」

 

「フィーも嫌なんだ、この土」

 

「フィ!」

 

「そうか。 あたしも、此処まで異質な代物はちょっと苦手かな。 とにかく対策をしないとね」

 

そもそも、この土が主体になって、あの奇怪な森の状況を作っているのか。

 

それとも、森の状況がおかしくて、土が影響を受けているのかすら分からないのだ。

 

世の中分からない事だらけと考えないと、いつでも足下をすくわれる。

 

あたしは淡々と調査を行う。

 

エーテルで土を分解して、要素を全て分析して確認していく。

 

まだまだ、あの森の奥にあるらしい遺跡は遠い。

 

少しずつ、対策を練らなければならなかった。

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