暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
拠点がないと錬金術師は満足な力を発揮できないからです。
それから、ライザは。
調査を開始します。
王都周辺の情報を調査して、フィルフサ関連の問題が無いか調べる。それが王都に来た主目的だからです。
モリッツさんに調査を依頼された卵など、それに比べれば些事です。
無駄に広い造りの家だな。そう思いながら、あたしはアーベルハイム邸に入る。
パティはあたしに対して敵意を向けてくるような事もない。ただ、誰にでも警戒はしているようだが。
タオに教わっているなら、あたしの話を聞いているはずだ。
それに、多分パティは背が伸びた後のタオしか知らない。
変な風に嫉妬するとしても。
それは、仕方が無い事なのかも知れなかった。
無言で案内されて、白磁の階段を上る。
メイドが何人かいたが、その内一人がフロディアさんそっくりだ。例の一族の人間なのだろう。
なんというか、来る途中にもカーティアさんという人がいたし。
思った以上に、例の一族は各地で数を増やしているのかも知れなかった。
ひょっとするとだけれども。
パティも直系では無いにしても。
血を引いていてもおかしくは無い。
そんな風に思いながら、執務室に。
威圧的な鎧とハルバード、それに大剣が飾られている。これは恐らくだが、わざとだろうな。
あたしはそう思った。
執務室に入る。
大柄で、スーツにはち切れんばかりの筋肉を包んだ、強面のひげ面の男性だ。厳しい視線は、最初にあった時のルベルトさんを思い出す。
軽く挨拶を交わす。
かなりの手練れだ。多分アガーテ姉さんに一枚及ばないか、くらいの技量はあるだろう。
これは年齢による衰えもあるのだろう。全盛期だったら、アガーテ姉さん以上の実力だったかも知れない。
「なるほど、タオくんから聞いている通り、素晴らしい力量の戦士のようだ。 魔術の腕も超一流だそうだな」
「はあ、そう言っていただけると光栄です」
「それに加えて、錬金術という驚天の技も使うとか」
「まあ、それなりにです」
ヴォルカーというパティの父上は、そういう風に言いながら、あたしを観察してくる。
あたしも当然、以前から開発している道具類は身に付けている。
この人くらいの力量になってくると、当然今のあたしの戦闘能力も一目で理解出来るのだろう。
「分かった。 タオくんの話に嘘はないようだ。 パティ、例の家屋の情報を」
「分かりました」
パティが即座に図面を持ってくる。
見せてもらうが、なかなかの広さだ。
あの住宅区にあった一角。
高層住宅の、七階にあるらしい。
広さは申し分ない。
問題は強度だが、それについてはこれから確認させて貰う事にする。
問題は家賃だが。
7000コールか。
払えるには払える。最初から、家賃の相場は聞いていたから、相応にお金は用意してきたのだ。
ただこつこつ貯めてきたお金だ。
今後、自分の足で調査して、調合素材を集めていくとなると、相当に厳しい事に鳴るだろう。
しかも一月で7000コールとなると、一季節。三ヶ月此処に逗留することを計算に入れると、ちょっと厳しいかも知れない。何しろ、家賃以外に生活費もあるのだから。
更に言うと、状況次第では家屋の破損なども見込まなければならない。
最悪の場合、金を稼ぐだけで身動きが取れなくなる。
このくらいの計算は、あたしも三年で覚えてきている。
考え込んだあたしに、パティが不思議そうに言う。
「ええと、この価格はかなり良心的な方ですが」
「うん、それは疑っていないよ」
「ライザくん」
「はい」
ヴォルカーさんが咳払いする。
多分、此方の状況を見抜いたのだと思う。
というのも、この人。
貴族で武闘派という事が不自然なのだ。
この人は、或いは騎士として周辺で多大な武勲を上げ。その異例な武勲から、爵位を貰ったタイプの貴族なのではあるまいか。
だとすると、元々はあたしと似たような庶民だったはず。要は成り上がりだ。
パティが非常に礼儀正しいのも。噂に聞く貴族の令嬢令息が無礼でアホ揃いなのと対照的だ。恐らく意識的に、徹底的に教育をしているのだろう。
全ては、立場に対して。
舐められないために。
「実は現在、王都の南部で幾つか困ったことが起きていてな」
「荒事でしたら対応しましょうか」
「心強い話だが、それよりもまずはインフラの整備をしたい。 君の錬金術についてはタオ君から聞いている。 邪魔な岩を消し飛ばすための発破を準備して貰えないだろうか」
「その程度で良いのなら、おやすい御用です」
咳払いするヴォルカーさん。要するに、ここからが本題と言う事だ。
足りないものは他に幾つもある。
工事用の発破だけではない。戦闘の後、負傷者に使うための薬。そもそも、魔物に対して用いるための爆弾。
そして何よりも、魔物と戦うための武器。
これらを定期的に納品すれば、家賃をタダにするという。
それはありがたい。
金は幾らあっても足りない。
パティは、タダという話を聞いて、大丈夫なのだろうかという顔をしたが。そんなパティにも、声を掛けるヴォルカーさん。
「パティ。 お前はライザさんと同行して、錬金術と言うものがどういうものなのか、見届けてきなさい」
「はい」
つまりは目付役だ。そして、父に目付役を任されたのがどういうことか、パティも分かっているのだろう。
まだ若くても、立場的に厳しい父の代理として、あたしの目付をするという事だ。責任重大である。
「発破を作れるのであれば、どれくらいで納入できるかね」
「作れ次第すぐに持って来ますが、そうですね……早ければ今日中に現地で実演までやります」
「何……」
「ただ、この近辺でまず素材を集めないといけません。 素材次第では作れない可能性もあるので、遅くとも三日以内には」
困惑するヴォルカーさん。
この様子だと、既に王都では錬金術は死に絶えたんだなと思う。
発破くらいだったら、錬金術師の端くれ程度でも用意し使えるはずだ。
アンペルさんが此処の王立錬金術研究所を離れる時に、全ての資料を破却して去ったそうだけれども。
だとしても、まだ錬金術師はいた筈だ。
そうなってくると、何があったのだろう。
王都の作業機械は、殆ど古代クリント王国のものをだましだまし使っていると聞いていたけれども。
それにしても、ここまで錬金術が廃れた理由はなんなのだろう。現地で見てみると、色々と疑問は浮かんでくる。
ともかく、すぐにパティとともにでる。パティの技量も見ておきたいが、まずはタオにも声は掛けたい。
「その。 ライザさん、あんな安請け合いをして大丈夫なんですか。 あなたの魔術師としての技量は、炸裂するような魔力を感じますので、疑ってはいないんですが……」
「パティ、まずはタオに声を掛けて来てくれる? 採取だって言えば分かるから」
「あ、はい」
「あたしは一旦地図にあった住居に、荷車と荷物を運び込むよ。 その住居のある建物前で再集合。 お願い出来るかな」
タオの居場所はパティにしかわからないので。
貴族の令嬢だが、別に今は目付役だ。こういう風に接しても問題ないはず。
何よりも、パティがそう接してきている。
だったら、手分けするために行動するだけだ。
すぐに手分けして動く。
パティも、それで不快感を感じている様子がない。
これは恐らくだけれども。
特権階級に胡座を掻いた無能な貴族に対して、パティも相当に思うところがあるのではないのだろうか。
そんな事を考えながら、住宅区へ。
荷物を運び込んで、釜を設置していると。
タオが、新しいアトリエ兼住居に入ってきた。
「そこそこの広さだね」
「防爆の結界は展開しておかないとね。 最悪の事態が起きても、此処だけで収められるようにしないと」
「ぼ、防爆!?」
「大丈夫、駆け出しの頃は何度か危なかったけど、もうやらないよ。 あくまで錬金術を行う際の念の為」
一緒にいたパティが心配そうにしているが。
まあ、それはそれだ。
すぐにタオと軽く話をする。素材については、やはりタオも散々一緒に冒険をしたからか、ある程度はわかるようだった。
「王都の街道近辺は、流石に鉱石の類は殆どないよ。 一番良いのは南の鉱山だろうけれども、僕がここに来たときには閉鎖されていて、今は多分ヴォルカーさんの許可が出ないと入れないだろうね」
「じゃあ其処は駄目だね。 鉱石のグレードを落とす場合、あたしが技術でカバーしないと駄目か。 グレードを落として良いとしても、鉱石があるとしたらどこだろ」
「街道から少し北に行くと、森に出るんだ。 其処の森だったら、或いはあるかも知れない。 植物関係の素材も期待できるよ」
なるほどね。
一応、手持ちに幾つか高品質の素材はあるけれど。
これらは切り札だ。
また、トラベルボトルも念の為に持って来ているが、これはそもそも調整に一手間必要になる。
いきなり使うのは悪手だ。
丁度ある程度戦えるパティもいるし、何よりも双剣を使いこなせるようになったタオの腕も見たい。
「ハンマーはもうしまっちゃったの?」
「今は体に合わなくなって。 ごめん、強力な魔物にも通じる武器に仕上げてくれたのに」
「いいよいいよ。 後で渡して。 こっちでどうにか使えないか改修するから」
「うん。 頼むよライザ」
じっとパティがやりとりを見ている。
ああ、これは恐らくだが。嫉妬しているな。
パティは随分と感情のコントロールを心がけているようだが。どうしても心を抑えきるのは難しいだろう。
ともかく、あたしはタオに異性としての興味は今後一切抱かないだろうし。
タオもあたしに対してそれは同じだろうから。
それはいずれ、しっかりさせておく必要があるか。
というか、タオにその気があるのなら、パティとくっつくのを応援したいくらいなのだが。
この研究の虫が、女に興味なんて持つのやら。
一通り話をした後、一度外に出る。そして、商店街を、カラになった荷車を引いて急ぐ。
パティに視線が時々向いている。
ヴォルカーさんの娘だと言う事もあるのだろうか。
「パティ、有名人?」
「いえ、私よりもお父様が。 街道の安全のために最前線で戦っているのは、お父様ですので」
「ああなるほどね」
「急ぎましょう」
あまり、周囲の視線を好んではいないようだ。
大通りを出ると、街道に。街道周辺でも、雑魚の魔物はちらほら見かけたが。やはりある程度はいるか。
「セキネツ鉱があればいいんだけれども、剥き出しでは流石にないだろうね」
「多分ないね。 少し北に足を伸ばすと、ワイバーンが住み着いているかなり荒れた土地に出るんだけれども、そこに行くとたくさんあるかも知れない」
「ふうん……まあとりあえずは鉱石を探そう」
基本はセキネツ鉱で大丈夫だろう。
ローゼフラム級の大火力フラムは、流石にまだ創る事を考えなくてもいい。
あたし、それとタオとパティで組んで、それでとりあえず近辺で採取を開始。もう薬草なんかは、タオも知っている。
石を割ってみるが、この辺りの鉱物は本当に駄目だな。
というか、取り尽くされている感がある。
恐らくだが、ロテスヴァッサの錬金術師達が、この辺りは漁り尽くしたと見て良いだろう。適当な所で声を掛ける。
「そっちはどう?」
「薬草はあるよ」
「じゃ、回収し次第移動しよう」
「分かった!」
タオがパティと一緒に、薬草を採ってくる。これが薬草になるのかと、パティは明らかに驚いていた。
戦い方だけは習っているが、これは食用の草とか、サバイバルの知識とかは教わっていないんだな。
大事にされている弊害か。
そう思って、苦笑いしてしまう。
「そ、その。 虫がたくさんいるんですけど、これを本当に食べたり塗ったりするんですか」
「パティは虫苦手?」
「は、羽音を聞くとぞっとするんです」
「僕も虫は苦手だよ。 僕達の戦いの師匠であるリラさんって人に虫の食べ方とか教わったときとか、ひっくり返りそうになったし」
そうだったなあ。
そんな事もあったか。
パティは虫を食べると聞いて、本当に全身真っ青になったので。まあその話題は避けるかと思った。
とりあえず、周辺を見て周りながら、近くの森に。
魔物の気配が一気に濃くなった。
パティが警告してくる。
「此処は時々近場の子供が迷い込んで、魔物の餌になってしまうことがある危険な場所です。 お父様と何度か来ましたが、毎回魔物との戦闘は避けられなくて……」
「声を落として」
「!」
もういる。
これは鼬と、それにエレメンタルか。
ハンドサインは、途中で決めておいたが。パティは覚えているだろうか。
まあ、これは正直、苦戦する程の相手ではないだろう。
ハンドサインを出す。正面に二、右側面に一。正面鼬、側面がエレメンタル。
頷くと、タオが突貫。正面に伏せていた鼬が、驚いて跳び上がった所に、双剣で流れるように斬り付けた。
パティが抜刀。
長羽の片刃剣だが、かなり独特なものだ。刀かあれは。
抜刀と、更には斬り付ける動作が一体になっている。鼬の頭蓋骨に滑って致命傷にはならなかったが。それでもしっかり当てていく。
側面から、踊り出してくるエレメンタル。
人型をした、正体がよく分からない存在だ。
此奴らの最上位存在である精霊王とは以前やりとりをした事があるが、下位の此奴らは喋る事ができない。
それに、人間は見境なく殺しに来る。
襲いかかってきたエレメンタルを引きつけて、蹴りで首をへし折って粉砕。何が起きたと顔に書きながら、エレメンタルが消滅していく。
そのまま、正面で交戦中の二人に加勢。
鼬が、突貫してくるあたしをみて、明らかに怯む。
魔術なんて必要ない。
タオが側面に横っ飛びしたところに、あたしがドロップキック。
文字通り、吹っ飛んだ鼬。
あたしより大きいが、元々あたしは魔術で身体能力を強化しているし。三年前の戦いを乗り切った装備で身体能力を更に更に上げている。
この程度の相手なんて、大した敵でもない。
唖然とするパティの前で、鼬に熱槍をノーモーションから叩き込む。
熱の槍が首を貫いて、鼬を瞬殺する。
さっきドロップキックした鼬も、既に息絶えていた。
「声は落として、死骸を回収して」
「はい」
動揺気味のパティはそのまま、ハンドサインを出して、すぐに魔物の遺体を回収。そして一度森の外に出ると、すぐに吊して解体。エレメンタルは殺すと消えてしまうのだけれども。
まあその代わり、色々と面白い素材を落とすのだ。それはしっかり回収しておいた。
「凄いでしょライザの蹴り技。 大型の魔物の装甲を、拉げさせるくらいのパワーがあってね……」
「し、信じられません」
「魔術で身体能力を上げて、それに錬金術で作った道具類で更に強化しているからね。 それ以前に、元々蹴り技はあたしの切り札だったんだけど」
「……」
呆然としているパティ。
ひょっとしてあたしを後衛型だと思っていたのか。
残念。
あたしは前衛でもバリバリ戦えるのだ。
魔物の解体を開始。パティも、ある程度は手伝ってくれたが。鼬の体内から寄生虫が出てくると、ひっと声を上げて明らかに手が止まった。あたしがうねうね動いている寄生虫を、熱魔術でじゅっと焼いてしまう。
内臓なんかも切り分ける。はらわたを開けてみるが、人間の残骸は入ってはいなかった。まあ一安心だ。
もしも人間の味を覚えた鼬だったら、徹底的に群れごと駆逐しなければならず、時間も取られた。
解体をてきぱきと終わらせる。
この鼬の爪や皮は、小遣いくらいにしかならないか。素材にするのが適当だろう。
肉は、いらないな。肉は生活に苦労しているだろうタオに譲る。タオは、有難うと言ってくれた。
そのまま、森に入り直す。そして、鉱石を漁る。
ある程度の鉱石はある。
森に入ってしまうと、もう人の手がほぼ入っていないとなると。
これは恐らくだけれども。
ロテスヴァッサの錬金術師どもは、多分貴族やらを主体に編成されていたのだろう。これはアンペルさんも言っていたような気がする。
パティのような例外を除けば、線が細い貴族が、こんな所で採取を出来るとは思えない。
王都を少し離れれば、相応に良い素材もあるかも知れない。
頷くと、鉱石を割る。
セキネツ鉱だ。
そこまで品質は良くないが、幾つか集めれば発破は作れるだろう。タオをハンドサインで呼んで、この辺りの鉱石を割って一緒に集める。
タオは細長くなった印象だが、ちゃんと腕力は増えているようで。鉱石をせっせと荷車に詰め込む。
この荷車も、何度か改良を重ねて頑強になっている。
鉱石を詰め込んでも平然としているのを見て、パティが唖然としていた。
他にも薬草などの素材を集めておいて。それで一旦は切り上げる事とする。
森を出ると、まだ夕方になっていない。これだったら、今日中、出来れば明日には納入できるだろう。
パティは目が回りそうな様子だったが。もう少し手伝って貰うとするか。
「よし、多分これで作れる。 アトリエに急ごう」
「今日王都に来たばかりですよね!? どれだけタフなんですか」
「ライザの体力は昔からとんでもなくてね……」
「錬金術と言うのは分からないですけれど、多分さっきの腕を見る限りライザさんは王宮魔術師になれると思いますよ。 それで歴戦の傭兵並みにタフなんですか」
今の発言はちょっと面白いな。
あたしは全力なんてこれっぽっちも出していないが、あの程度か王宮魔術師は。
それだったら、ロテスヴァッサの底も知れる。
元々アンペルさんが周囲の嫉妬を浴びて、追い出されたような場所だ。
ろくでもない場所だと言うのは分かっていたし。
何よりも、来てみて此処はタダの井戸の底だというのも理解出来た。
いずれにしても、この王都で成り上がることに興味は今の瞬間失せた。
この周辺の調査をして。
フィルフサ周りの問題がないかを確認し。
更にモリッツさんから貰ったあの宝石みたいなものを解析したら。
この王都には、もう用はない。
そう、あたしは考えていた。
アトリエに戻ると、早速調合を始める。
席を外した方が良いかと聞かれたので、見て行って欲しいとパティに声を掛けておく。
まずは、エーテルを釜に満たす。
エーテルを大量にひねり出しているのを見て、パティは度肝を抜かれているようだった。
この様子だと、王都の人間は相当に鈍っているらしい。
クーケン島には、あたし以外にもエーテルを物質化するくらいは出来る魔術師が何人もいたのだが。
「パティの固有魔術って何?」
「私はエンチャントです」
「お、それはあの繊細そうな長刃と相性ばっちりだね」
「はい。 最初は私の背があまり高くない事から、お父様が用意してくれた武器だったんですけれど。 固有魔術との相性がぴったりで、今はこれを極めようと思っています」
凄く真面目だな。
好感が持てる。
エンチャントというのは、魔力を外に付与する魔術の事だ。基本的に武器なんかに魔力を付与して、強度とか切れ味とかを上げるのが普通になる。
誰でも魔術が使えるのが当たり前の現在。
基本的に魔術は、殆どの人が身体強化。
そうでなくても、あたしみたいな熱操作とかが一般的。レアなところだと、クラウディアの音魔術とか。あたしの師匠であるアンペルさんの空間操作とかがある。
さて、錬金術の時間だ。
釜に鉱石を入れて、要素ごとに分解する。
散々やってきた作業だ。もう失敗しようがない。
錬金術は無から有を作り出す技術だ。
そうアンペルさんは言っていたっけ。
今では、それは昔に言われた事であって。実際にはエーテルの中で要素を分解して、それを再構築するものだと考えている。
いずれにしても、淡々とやっていくだけだ。
やはり品質がだいぶ落ちるな。
そう思いながら、セキネツ鉱を分解して、要素を抽出。
更に雑草を投入。
今回は発破を作るので、包みが必要だ。
更に爆発用の信管も準備して。
紐もくみ上げていく。
程なくして、仕上がっていた。
発破用の爆弾である。威力はそこそこに押さえておいた。その気になれば岩山を吹っ飛ばすくらいのものも作れるが。
今手元にある鉱石でそれを作るのは、手間暇が掛かるし。
何より、品質が良くないので。
爆発にムラが生じる可能性があり、綺麗に爆破できないかも知れない。
今求められている爆破用の発破なら、これで充分だろう。一応念の為に、十個ほど作っておく。
無駄なく作っていく。タオには、その間説明をして、マニュアルを書いて貰う。
完璧に作業を分担しているあたしとタオを見て、パティは困惑しているようだが。多分それには嫉妬も入っている筈だ。
あまり拗らせると関係を壊すかも知れない。
「パティ」
「はい」
「多分今日中に爆破試験は出来ると思うから、立ち会ってくれる?」
「分かりました。 それにしても、本当にこれはどういう技術なんですか。 手品の類とは違うんですか」
そんな事を、最初はクーケン島の頭が硬い老人にも言われたな。
あれももう、懐かしい話だ。
苦笑いして、違うよと話をしておく。
やがて、マニュアルも仕上がった。見せてもらうが、流石はタオだ。あたしがざっと述べた特徴を、丁寧にまとめて、誰でも使えるように仕上げてくれている。それに字がとても上手い。
丁度空き箱が一つあったので、それに発破を詰め込む。パティは躊躇していたが、大丈夫だと話をしておく。
「爆弾ですけど、本当に大丈夫なんですか?」
「爆弾だって事は疑っていないんだね」
「ライザさんの実力は見せてもらったので、わざわざ詐欺師みたいなことをするとは思えません。 そんな事をしなくても、あれだけ戦えるなら、傭兵としても騎士としても大金を稼げると思いますし、何より嘘をついている人特有の嫌な感じがしませんから」
「そっか……」
周りが貴族の子女となると、それは嘘つきの下衆だらけなんだろうな。
そう思って、それでもまっすぐ育っているパティを思って。本当に良い子なんだろうなと再確認する。
だけれども、そんな子に嫌われる可能性もあるから、気を付けなければならない。
タオはもう良いので、上がって貰う。
鼬の肉はまだ新鮮で、市場で売れるらしい。生活費になるらしいから、好きに使って貰う事とする。
アーベルハイム邸に向かいながら、軽く話をする。
クラウディアの事を、パティは知っていた。クラウディアと親友だという話をすると、パティは驚く。
「えっ。 バレンツ商会ともコネがあるんですか」
「たまたまだよ。 クーケン島にバレンツ商会が来た時に、色々あって。 それで今は、バレンツ商会にゼッテルとか布とか、後はインゴットとか卸してるんだ」
「数年前から、バレンツ商会の扱うそれらの品が急に品質が上がったという話は聞いていました。 まさかライザさんが……」
「王都にあたし、意外に影響を与えていたんだね」
さて、此処からだ。
夕方少し前。
おそらくヴォルカーさんは相当に忙しいだろうし、今日中に商談だの何だのは済ませておいた方が良い。
そうでないと、数日無駄に過ごす可能性が出てくる。
パティはあたしを疑っていない。
後は、失望させず。
タオと変な関係があると邪推させず。いい関係を築いていきたいなと、思うのだった。
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