暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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4、豪雨の中で

滝のような雨が降り注ぎ続ける。

 

あたしが熱魔術でシールドを作ってそれを防いで、街道を急ぐ。これは、ある事を調べられる好機かも知れない。

 

街道の泥濘が酷い。

 

転ぶと足を挫くかも知れない。

 

全員鍛えた戦士だ。

 

それがないとは思うが。それでも、時々声を掛けながら行く。

 

「洪水の恐れは無さそう?」

 

「洪水も何も、この辺りはそもそも治水も……」

 

「そうだったね」

 

王都が聞いて呆れるが。治水なんてまともにされていない。

 

元は古代クリント王国の一都市に過ぎない王都は、元々ロストテクノロジーで上水も下水も確保されている。

 

それもあって、その仕組みがよく分かっておらず。

 

あたしが今宿を借りているような地域では、井戸から水を確保している有様である。

 

かといって貴族が使っている上水が安全かというとそうでもなく。

 

湧かさないと腹を普通に下すそうだ。

 

この辺りはクーケン島と同じか。

 

クーケン島も、そもそも古代クリント王国のロストテクノロジーの残骸に浮かんでいるのである。

 

海水を淡水にするシステムだって、錬金術師が自分らで活用するためのものだっただろうし。

 

それがタオの数代前に伝承すら失われてロストテクノロジー化したのも、仕方が無い事だったのかも知れない。

 

人間はどんどん衰えている。

 

第二都市のサルドニカですら、街の周辺は魔物だらけだと聞いた。

 

それを考えると、今はもう。

 

安全な場所なんて、ないのかも知れなかった。

 

泥濘を蹴散らして走る。

 

クリフォードさんが、こっちだと叫んだ。

 

道を間違えそうになる。

 

この人は、前も王都近辺で活動したことがあるらしく、この辺りは庭のように詳しいようである。

 

流石に密林の内部は話が違うようだが。

 

やがて森の中に入ると、木々のせいで余計に雨粒が大きくなる。まあこれは、仕方が無いことか。

 

腐葉土を踏みながら、急いで獣道を行く。

 

獣糞を劣悪な靴で踏むとそれだけで病気になるという意味でかなり危険だったりするのだが。

 

今皆が履いている靴だと、頑強極まりなく作っている事もあり、その恐れもない。

 

やがて荷車を引いて、危険ラインに到達。遠くで雷が落ちて、クラウディアが首をすくめていた。

 

「んっ……!」

 

「この辺りも落雷の恐れがあるね。 とにかく、順番に片付けよう」

 

「フィー。 懐から出たら駄目だよ」

 

「フィー!」

 

エアドロップを組み立てる。そして、今回はあたしとクリフォードさんで乗り込んで、奧へ向かう。

 

雨が降っている。

 

ひょっとして、土の状態に変化が起きるかも知れない。

 

相変わらず足回りが重くなっている。更に雨で足回りが余計にだ。土が絡んでいるのが分かるくらいである。

 

「ライザ、操縦は俺が変わろうか」

 

「……分かった。 魔術操作があるから、操縦をよろしくね」

 

「そうだな。 それに俺の方が五感は鋭いと思う」

 

あたしの方は直感が鋭いが、確かにクリフォードさんは五感が鋭い印象がある。音などに対する反応速度は、身体能力の分あたしより上だと感じる。

 

なるほど、それも道理か。

 

あたしはそのまま、魔術制御に専念。

 

クラウディアの音魔術で、糸電話が入る。雨のせいか、ちょっと声が聞き取りづらい。

 

「ライザ、どんな状況。 もう昨日と同じ地点だよ」

 

「まだ感覚の異常は無いね。 恐らく、雨でキビスビスが流れているからだと思う」

 

「そう。 それでも無理はしないで」

 

「分かってる」

 

川から毒素が流れてくる。

 

そんな話を周辺の集落がしていた。

 

それは恐らく、こういう日に下流に流されたキビスビスが正体だったのだ。

 

逆に、今のクラウディアが心配だ。

 

「安全ラインが変わってる可能性がある。 とにかく気を付けて!」

 

「うん!」

 

「ちょっと待て、見えてきたぞ」

 

クリフォードさんが、エアドロップ陸上型を停止させる。あたしは、全周囲を確認できるから、自分の目で見た。

 

何とも貧相な集落。

 

石造りの建物の数々。

 

間違いない。

 

これが、恐らくは「深森」。

 

それほど広い集落では無い。タオの見たて通りだ。だけれども、奥の方はどうなっているのか分からない。

 

ぐにゃりと歪んでしまっている。

 

「もう少し奧に行けない、クリフォードさん」

 

「ダメだ。 これ以上はいけない。 既にギリギリだ」

 

「……分かった。 とりあえず、メモを取るよ」

 

「頼む」

 

今の位置などを記録。そして、記録を終えたら、即座に後退開始。

 

次はクラウディアを乗せて、同じ地点まで。やはり危険ラインが変わっているようで、慌ただしくレントが指示を出していた。

 

「雨が降るとこんなに感覚が狂うのか、畜生……」

 

「レント、そっちは頼むよ!」

 

「この辺りの魔物だったらなで切りにしてやる。 だけれども、大物が出たらもたねえぞ!」

 

「分かってる!」

 

戦場が悪すぎる。

 

強さの問題じゃない。

 

何処に踏み込んだらアウトか分からないのである。周囲を警戒していても、見えているもの聞こえているものが正しいかすら分からないのだ。

 

セリさんが植物で結界を作ってくれていたが、それでも役に立つか分からないだろう。

 

今、それだけ危ない地点にいるのである。

 

クリフォードさんに引き続き運転して貰い、奧に。

 

其処で確認して、クラウディアに音魔術を展開して貰う。元々魔術を防ぐ壁を経ているので、非常に制御が難しい。だが、クラウディアはそれでも確実に、少しずつ地形の探査を進めてくれる。

 

相当魔術の負担が大きいのだろう。

 

クラウディアは右耳を抑えながら、メモを急いで取る。地図が埋められていく。

 

「奧はダメだわ。 全く地形が分からない」

 

「分かる範囲でいいよ。 とにかく、対策をしないと」

 

「そうだね。 遺跡にたどり着けただけで、まずは可としないと……」

 

「なんてえ遺跡だ。 これだと宝どころじゃ無さそうだな……。 いや、此処から生きて帰る手段の確立が何よりの宝か」

 

クリフォードさんがぼやく。

 

雨が更に激しくなり、雷が近くに落ちる。

 

それでも、好機は逃せない。

 

地図を、とり続ける。

 

恐らく今日の探索は此処が限界だ。だが、限界でも、やれることは全てやる。

 

封印がいつまでもつか、わからないのだから。

 

 

 

(続)




ある意味今までで一番危険な遺跡についに到達。

これでは生還者が出なかったのも当然です。

ですが、これだけ厳重に守りを固めていたのには当然理由があります。

その鉄壁の……見た目には何も無いように見える強力な防壁に、ライザは念入りな準備と調査をしながら挑んでいきます。

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