暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

81 / 150
ついに鉄壁の守りを誇るかえらずの遺跡に到達したライザ。

しかし、辿りつくだけでこれです。

本番は此処からです。

原作でも幻惑の遺跡でしたが、本作ではそれを命に危険のある非常に危険なものとして、終始描写していきます。


厚い壁の向こうに
序、大雨が去り


まだ空はどんよりとしているが、とりあえず何とか雨は晴れた。ただこの様子だと、あくまで一時的な話で、しばらくは断続的に強めの雨が降ったり降らなかったりだろう。

 

あたしにとっては、雨は季節によっては全く降らないものだ。

 

クーケン島近くの気候では、乾期には雨は全く降らない。これもあって、もしも門が開いていたら、それこそ世界が滅びる所だった。フィルフサは水がなければ、圧倒的な繁殖をする。

 

次の雨が降った頃には、もうフィルフサが定着してしまっていただろう。そうなっていたら、もはや人間にフィルフサを押し返す力などなかった。

 

この辺りは、パティに聞いたが、クーケン島近くほど乾季雨季が激しくないらしく。雨は年中満遍なく降るらしい。

 

そういう意味では、フィルフサが仮に門から押し寄せてきても、その勢いはある程度阻害されるかも知れないが。

 

しかしながら、雨が降っていてもフィルフサは恐ろしいまでの組織的行動を見せる。

 

それを考えると、それでもなお厳しいだろう。

 

封印の正体が門を封じ込めているものの可能性が極めて高い現状。一秒だって無駄に出来ない。

 

遺跡を調査し始めて、既に一週間が経過している。遺跡の姿は見ることが出来たが、幾つもの防壁がどうにも突破出来る気がしない。

 

キビスビスとリラさんが呼んでいた、植物が産み出す龍脈で狂わないための物質はどうにか無力化出来る目処が立った。

 

だがそれ以外にも、対魔装甲を貫通している複数のよく分からない毒だかなんだかがまだ正体がよく分からず。

 

中和に至っていない。

 

少しずつ、幻惑効果の影響が薄い今、調査を進めているが。

 

それも雨が止んだら、一気に振り出しに戻りかねない。

 

夕方。

 

戻る事を決める。

 

この遺跡は、危険すぎる。

 

とにかく、夜になる前に戻る事が絶対条件だ。

 

改良を重ねた結果、重くなってしまっているエアドロップ陸上型を畳んで、荷車に詰め込んで、王都に戻る。

 

とにかく、遺跡に入るまでにこれほど苦労させられるなんて。

 

パティが少し辛そうにしている。

 

「パティ、平気?」

 

「少し頭が痛いです」

 

「キビスビスをはじめとした幾つもの毒素に当てられているのね」

 

「とにかく体力をつけるしかねえな。 俺はある程度平気だ」

 

クラウディアも平気そうだ。

 

そういえば、だが。

 

深入りをするつもりがなさそうなクリフォードさんだが、そろそろ話をしておくべきだろうか。

 

この人も、信頼出来る。

 

そうあたしは判断している。

 

パティは信頼出来ると判断したから、何を探っているかは既に話した。

 

クリフォードさんも。

 

そろそろその時期かも知れない。

 

クリフォードさんは、あくまでトレジャーハンターであり。そんな酔狂な生き方を全力ですると決めている人だ。

 

価値観は普通とは違うかも知れない。

 

だが、好漢だ。

 

だから、話をしてもいいだろう。

 

ここから先は、これ以上危険な命を賭ける場所になるのだから。

 

ともかく、今日は一度戻る。

 

アトリエでミーティングをして、解散とする。レントはここ数日、アーベルハイム邸に出向いて、パティの剣の稽古を見ているようだ。

 

レントの方が、まだ数段格上の使い手と言う事もある。

 

それもあって、ここしばらく実戦があまりないパティも、安心して探索に出向けているようである。

 

あたしは、採取してきたサンプルをエーテルに溶かして、要素を抽出。

 

毒になっていると思われるものを濃縮し。

 

更にはジェムを用いて増やして、研究を続ける。

 

冷や汗が出る。

 

高濃度の毒を扱っているのだ。

 

何度も頭がくらくらした。

 

「フィー……」

 

「分かってる。 これで今日は終わりにする」

 

フィーも心配そうだ。

 

それもあるが。

 

少しフィーの体調が悪くなっているようである。

 

もしも、アンペルさんが言うように。

 

フィーがオーリムの生物だとしたら。

 

だが、今オーリムの環境に、トラベルボトルを切り替える手段が無い。オーリムだからといって、それほど有用な素材が得られる状況ではないし。そもそもオーリムと言っても、フィルフサに汚染された地域では、それほど意味はないだろう。フィルフサが改造した環境に適応した生物がフィーだとは思えない。

 

だとすれば、オーリムに急いで戻しても無意味だ。或いはグリムドルだったら意味があるかも知れないが、復興途中のグリムドルでどれだけの意味が出てくるかもわからない。

 

そもそもとして。

 

リラさんやセリさんが此方で体調を崩していないように。

 

逆に、あたし達がオーリムで体調を崩さなかったように。

 

此方の世界とオーリムでは、別にそれほど変わるものはないはずだ。

 

あるとしたら、食糧の不足か。

 

フィーは高濃度の魔力を喜んで食べているようだが。その濃度が足りていないのかも知れない。

 

だとすると、龍脈が必要なのか。

 

ちょっと考え込んでしまう。

 

最悪の場合は、あたしの手でフィーを終わらせて、楽にしてやるしか無い。

 

畜産経験者だから。その覚悟は出来ている。

 

だけれども、やれることはやっておきたい。

 

それくらいの情は、既に湧いていた。

 

眠る。

 

感応夢は見ない。

 

それを見るほどに、遺跡の内部に入り込めていないということだ。

 

悲しい話だが。

 

まだまだ、遺跡を守る防壁は分厚く。

 

とてもではないが、内部に侵入するどころではない。

 

それはあたしも分かっていた。

 

分かっていたからこそ。

 

それでも、少しずつ進まなければならなかった。

 

 

 

翌朝は、雨が降っていた。豪雨では無いが、かなりの雨だ。一日中これは降るな。あたしはそう見立てる。

 

これでも農家の娘だ。

 

それくらいの予測は、難しくは無かった。

 

雨の中、街道を行く。

 

やはりかなりぬかるみが酷くなっている。

 

「連日の雨だな。 この辺りだと結構纏まって降るのか?」

 

「いえ、あまり雨が連日降るのは経験がないですね。 水害とかもほぼ起きた記憶もないんですが……」

 

「水害の記録だと、六十年前に起きているようだけれども、それも王都に被害は出ていないみたいだよ」

 

さらっと地元の人間よりタオが歴史に詳しい。

 

まあ、それは別に良いか。

 

タオだし。

 

それくらいは知っていても不思議では無い。

 

パティもちょっと流石に引き気味だ。

 

「もう何年かタオが歴史の勉強をしたら、多分地元民よりも何から何より詳しくなってるんじゃないか」

 

「あ、あり得ますね……」

 

「そんな事はないよ。 人生は最初から最後まで学ぶ事ばかり。 そんな風に思った時点で、成長が止まるんだ」

 

「そうだね、それはあたしも思う」

 

アンペルさんに聞いたっけ。

 

その分野に詳しいと思うようになった時くらいが一番危ないと。

 

基本的に人間は、半端な知識を持っているときに、一番物事に詳しいと錯覚しがちなのだという。

 

確かに一利ある話だ。

 

あたしも、気を付けなければならない。

 

雨の中、走る。

 

道がちょっと分からないくらいグチャグチャだ。王都を出れば、街道も石畳なんて引いていない。

 

この視界だと、魔物や賊に襲われる可能性があると判断したのかも知れない。

 

ほとんど、雨が降り始めてから隊商が行くのを見ていない。

 

クリフォードさんが叫ぶ。

 

「次を左だ!」

 

「分かった! 速度落とすよ!」

 

「よしきた」

 

荷車の速度を落とし。そして安全に曲がる。

 

無言で現地に走り。

 

そして、雨の中。

 

森の中で、止まった。

 

やはり、危険ラインがまた変動している。キビスビスが流れ出しているというのもあるのだろう。

 

慎重にラインを見定めて、そしてエアドロップを出す。

 

今回は、逆に好機。

 

今、キビスビスを生産する傘みたいな植物は休眠状態になっている。

 

キビスビスそのものは、中和する事も出来る。

 

だから、やる事は一つだ。

 

あたしが取りだしたのは、ロープつきの爆弾である。爆弾はフラムだが、破壊力を度外視して、とにかく広域にキビスビス中和のための液体を入れてある。

 

これを爆破で気化し。

 

広域にばらまくのが目的だ。

 

問題はこれを投擲するときに、森の中では木が邪魔な事なのだが。

 

それも考え済。

 

川の近くに、少し開けた場所を見つけてある。

 

此処から、迷いの森。

 

羅針盤で封印を作った人間達が言っていた「深森」の中央部、その上空にこれを叩き込む。

 

それで、一気に中和する。

 

すぐに移動。

 

案の定、普段はさらさら流れている程度の川が、かなり勢いが強くなっている。

 

泥水になっていて、深さも膝まであるかどうかだったのが、腰くらいまである。この勢いだと、子供とかがはいったら一瞬で流されるだろう。

 

「荒れている川は見た目より遙かに危険だ。 絶対に足を踏み入れるなよ」

 

「はい。 レントさんは経験があるんですか?」

 

「ああ。 色々な」

 

まあ、水についてはあたしのあの事件も含めて、アガーテ姉さんにしこたま色々と仕込まれた。

 

今では着衣泳を覚えたあたしでも、流石にこういう水に入る気はしない。

 

というか、この泥水。

 

サメが遡上してきている可能性もある。

 

あれらはどこにでも姿を見せる。

 

流石にそんなに大きいのはいないだろうが。それでも迂闊に落ちたら体の半分くらいばっくりあっと言う間に食われる可能性は低くなかった。

 

陸上にも上がってくるようになったサメは、どれも貪欲極まりなく。非常に危険な魔物なのである。

 

「足場がちょっと緩いかな。 みんな離れて!」

 

「おし」

 

「どうするのライザ」

 

「こうする」

 

そのまま、足下を熱操作で固める。冷気によって、だ。

 

あたし自身が凍らないように、あたし自身の足下に熱を集中。当然だが、そんなに時間はもたない。

 

クラウディアが、離れるように指示。

 

ちなみに最初はクラウディアの弓矢で放つ事も考えたのだが。クラウディアの弓は、ここまで重いものは飛ばせないそうだ。

 

レントも投擲にはそれほど長けておらず。

 

またクリフォードさんも、こんなに大きな爆弾を遠くに投げるのはちょっと苦手らしい。

 

「振り回しながら投げるから、離れて! ぶつかると危ないよ!」

 

「植物にダメージがないように、一発で成功させなさい」

 

「そうします」

 

セリさんが、地面を凍らせたのを見て、あまり機嫌が良く無さそうな様子で言う。

 

あたしも、それは分かっている。

 

元々、こんな氷。

 

あたしの全力投擲で足場にしたら、一発しかもたない。

 

ロープを適度に伸ばすと、あたしは爆弾を振り回し始める。セーフティは解除。雨がかなり降っている中、あたしは回転する。

 

遠心力だったか。

 

そういう力であるらしい。

 

錬金術でも、遠心分離器というものを回して、ものを重さごとに分離したりする事もあったらしいとアンペルさんに聞いている。

 

今主流の錬金術は、錬金釜のエーテルの中で殆ど出来てしまうため。エーテル内部での要素の分割が苦手な錬金術師がそれをやっていたらしいが。

 

あたしは、今の時点では、それは必要ない。

 

それだけの話だ。

 

ともかく回転して、回転の速度を上げる。

 

そして踏み込むと同時に、爆弾を投擲していた。

 

氷も地面も踏み砕かれる。

 

狙い通りに爆弾は飛んでいく。

 

タオが遠めがねを使って観測していて、右手を挙げた。起爆ワードを唱える。

 

爆弾が、炸裂。

 

霧状の煙が。

 

遺跡があるだろう場所に、降り注いでいた。

 

雨もあって、これで地面の下にも、一気に浸透するはずだ。

 

問題は遺跡を守っているのがキビスビスだけではないということ。

 

これで一枚だけ、遺跡を守る防壁を剥がすことが出来た。それだけである。

 

嘆息すると、次に。

 

エアドロップは、更に重くなっている。

 

エアドロップの其処の部分に、何種類か装甲を用意してきたのだ。その結果、更に重量が増した。

 

一つずつ、これを試す。

 

そして効果があったものを、なんとかして装甲として身に纏う。

 

それで内部を調査する。

 

いずれにしても、セリさんが眠らせてくれたあの植物だって、いずれまた目を覚ますことになる。

 

調査をもたついている時間はない。

 

今回はクラウディアをつれて行く。更にクリフォードさんに運転して貰う。

 

エアドロップが起動すると、ぐんと重い感触に。クリフォードさんが。口笛を吹いていた。

 

マスクをしているから口元は見えないが。

 

それでも多分楽しいのだろう。

 

「良い感じの重量感だ。 この重さ、いいねえ」

 

「それでライザ、タオくんたちは大丈夫かな」

 

「大丈夫だよ、レントもいるし。 向こうは向こうで、実験を続けて色々調べて貰わないと」

 

「うん、それは分かっているけど」

 

クラウディアは、肝は据わったのかも知れないけれど。

 

時々こんな風に、弱気な素顔が表に出てくる。

 

でも、それを支えるのがあたし達だ。

 

別にいつも、バレンツ商会のおっかない顔役でいる必要もない。

 

「あの、ライザ。 また機械の修理、頼んでいい?」

 

「いつでも。 今日? 明日?」

 

「明日の夕方」

 

「おっけ。 覚えておくよ」

 

エアドロップ陸上型が進んで、そのまま以前の危険ラインに。

 

不意に止まる。

 

クリフォードさんが、無言で奧をじっと見つめていた。

 

「この辺りが危険ライン?」

 

「そうなるな。 それよりも……」

 

「何かあった」

 

「ああ、なにか動いた。 多分ガーディアンはいるだろうと思うが、それかもしれん」

 

無言で、あたしは杖を掴む。

 

それはそうだ。

 

いるに決まっている。

 

何重も防壁を巡らせただけで、封印の本丸だろう代物を、放置しておくわけがない。

 

強力なゴーレムなり生物兵器なりを配置しているとみるのが妥当だ。

 

クラウディアが、音魔術を使って辺りを調べてから、一度戻る。

 

装甲を付け替えるが、結構手間暇が掛かる。そして、もう一度トライ。その間も、タオは淡々と実験を指揮し、レントが周囲を見張ってくれていた。

 

セリさんの植物操作を主軸に、タオが実験を進めているようだ。パティは完全に助手に徹して、タオの作業を手伝っている。

 

貴族の令嬢がこの様子を見たら、何か嫌みを言うかも知れないが。

 

ケーキみたいに外見を取り繕うことしかない肥大化したプライドの塊なんぞに、存在する意味はない。

 

こうやって、しっかり働いているパティの方が百万倍偉そうにしているだけの貴族の子弟よりも立派だ。

 

黙々と作業を進める。

 

幾つかの装甲を試してみるが、やはり遺跡の深部にはまだ肉薄できない。

 

何が足りないのか、それがちょっと分からない。

 

クリフォードさんが、ぴたりと止まる地点は、どんどん正確になっているようである。

 

クラウディアも、首を横に振る。

 

音魔術すら、地形を正確に把握できないほど、この辺りは五感を狂わされるということだ。

 

エアドロップを降りでもしたら、一瞬で狂い死ぬだろう。

 

それでも、幾つかのデータは採れた。

 

鉛は効果がない。

 

そうなってくると、ある種の鉱石が出す毒物とやらは噛んでいないと見て良い。

 

色々調べて見て、磁力を中和する装甲も作って見たが。

 

これもあまり効果は無さそうだ。

 

そうなると、過剰すぎる魔力が原因か。

 

対魔装甲すら貫通してくる魔力となると、それは流石にちょっと手に負えないかも知れない。

 

さて、どうしたものか。

 

一度戻る。

 

今日の成果はここまでだ。

 

とにかく危険な場所を探索しているという自覚を持って行動しなければならない。

 

そうしなければ。

 

下手をすると、一瞬で全滅する事になりかねないのだから。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

  • 暗黒!アトリエシリーズのまだ未掲載の作品
  • 真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
  • 流行り神二次創作
  • その他二次創作
  • オリジナルの長編
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。