暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
封印されているものは高確率で門、それにその向こうにいるフィルフサ。
というのも、古代クリント王国時代以前では人間がこの世界において最強であり、基本的に手に負えない存在はいなかったからです。
神代より時代が劣るとは言えこうも厳重な封印。
しかもそれが劣化していて、いつ壊れるか分からないとなれば……
装甲を改良したエアドロップ陸上型で、また危険ラインまで行く。雨が少しずつ弱まっていて、数日以内には晴れるのではないか。
そう感じさせる空模様だ。
つまり、あまりもたついていられない。
遺跡らしいものは見えている。
装甲を改良し、薄くした悪影響は出ていない。つまりこれで大丈夫だと言う事だ。要するに、装甲の厚さは関係無く。
装甲があるということが大事だと言う事か。
そうなると、これをまとえれば。
恐らくは、そのままこの危険ラインまで来られる。問題はその先である。
「それでクリフォードさん、います?」
「いるな。 少なくともこのエアドロップ陸上型に乗った状態だと、一方的に鏖殺されるのはこっちだぜ」
「分かっています」
そして、例のガーディアンがいるようだ。
生物なのかも分からない。
分かっているのは、向こうは此方に来る気がない、という事。
何かを守るために動いているとして。
少なくとも、テリトリ外の存在に、攻撃を仕掛けるつもりはないという事なのだろう。
それは文字通りのガーディアン。
こんなエサもないような場所でずっと封印を守り続けているとしたら。
それを殺すのは、ちょっと気が引ける。
ともかく、一度引き返す。
とりあえずの確認は出来た。
これで奥に進むための準備はできたことになる。
それに、タオもそれなりに外でデータをまとめてくれていた。
まずはアトリエに戻る。
そして、ミーティングで、今までの情報をしっかり整理する。
「やはり土だよ問題は」
タオが告げる。
まずは結論から。
そしてその結論には、あたしも異論はない。
実際、危険地域の奧から持ち帰った土は、それだけで非常に危険だった。あの森で危ないのは、キビスビスなどの後から配備された毒だけじゃない。
土なのだ。
「要するに、土に色々と五感を狂わせる要素があるんだな」
「そう。 それで、幾つか装甲を試してみた。 それで、恐らくはある程度奧には進める算段がついた。 エアドロップで散々試してみて、それでだけれども」
「いや、実験で成果が出たんだから、それで可とするべきだよ」
「ありがとうタオ。 そうだね」
咳払いすると、あたしは幾つかの危険要素についてまとめた。
まずはキビスビス。
本来龍脈近くに生える植物が自衛のために展開するもの。これはそもそも空気とか関係無く、魔力に作用するものであるらしく。
仕組みはよく分からないが。逆に言うと、魔力を出す事で中和できる。
しかも現在、雨で流れて土の中。その土も、対キビスビス用の物質を大量にばらまいておいたので。今は気にしなくていい。
次は磁力だ。
今回問題になっているのは、おそらくただの磁力ではないと思う。
アンペルさんが、磁力を雷で発動できる様子を見せてくれたけれども。
磁力を何かの悪さに使って。
五感がおかしくなるようにしているのだと思う。
それがどういう仕組みだかまでは分からないが。そもそも磁力を遮断してやればいい。
磁石をエーテルに溶かして、その分析は終えた。
磁力遮断は出来る。
まだある。
空気そのものにも、五感を狂わせる要素がある。
これは恐らくだけれども、毒物が生成されてまき散らされている。これは恐らく、遺跡の中心部で行われている。
だから、遺跡の外縁部では影響が小さい。
空気に漂って此方に来ているのだから。
「他にもあるけれど、この三つが主な障害になってる。 これらを無力化すれば、それでだいぶマシになると思う」
「なるほどな。 それでそれを無力化する装飾品をこれから作ると言う訳か」
「一応、今までのエアドロップの装甲を越える性能を出したいかな。 そのために、ちょっと丸一日空けたい」
「分かった。 じゃあ明日はそれぞれ自由行動ということになるんだね」
クラウディアに頷く。
とりあえず、一旦解散だ。
その後は、調合に入る。
エーテルに要素を溶かして、一つずつ防御のための壁を作る。
道具としては、腕輪がいいか。
ネックレスは幾つもぶら下げていると、動くのを阻害する。
腕輪だと、あっても別に邪魔にはならないだろう。
黙々とインゴットをエーテルに溶かし、調合する。ジェムがどかどかでる。エーテルを絞り出して、調合の度に釜に満たす。
冷や汗を拭う。
夕食を忘れてた。
調合が一段落した所で、一旦休憩。カフェまで行く元気はなかったので、出来合いを買ってきて、それで済ませる。
食べた後、少し横になって休む。
おなかにフィーが乗って来た。
「フィー」
「おなかすいた?」
「フィー……」
ちょっと元気がないなあ。
あたしがかまっていないから、だろうか。
魔石を出してきて、フィーに与える。フィーは周りを飛んで確認してから、魔力を吸い込んで。
魔石に篭もっていた魔力がカラになる。
やっぱり、かなりの量の魔力を一気に吸い込んでいる。だけれども、空気中の魔力がなくなる気配はない。
やはり、食べなかった分は排出しているのだろう。
そうなると、一部の大きな魚みたいな食性なのかも知れない。
一部の大きな魚は、水ごと大量のエサを食べて。そして大量の水を吐き出すのだ。
口の中には髭みたいになっている部分があって、それでエサを濾し取って食べているのである。
フィーは小さいけれど、それと似たような事をしている可能性はある。
でも、だとするとだ。
本当にフィーが食べているのは、なんだ。
あたしの魔力は喜んで食べているようだけれども。
ちょっとそれだけでは、説明がつかない。
魔力を絞り出して、フィーに食べさせる。フィーは大喜び。喜んでいるのを見ると嬉しいが。
かといって成長するわけでもなく、脱皮とか換毛とか、そういうのも起きている様子がない。
リラさんもセリさんも知らないとなると、仮にオーリムの生物だとしても相当なレアな存在の筈。
やはり、側に置いておくしか無さそうだ。
そして、もしも成長して人間に害を為すような存在になるなら、あたしが始末するしかない。
それは、今から覚悟しておくしかない。
どんな猛獣でも、幼い頃は可愛いのだから。
翌日は、一日掛けて淡々と腕輪を作る。勿論最初は自分でつけて見るが、案の定問題が幾つも発生した。
つけていると、周囲がぐにゃりと歪んで見えるのだ。
どうも体は思った以上に見えない力の影響を受けているらしい。エアドロップに乗っているときは、装甲が体に密着していなかった。
それもあって、今装甲を纏っているも同然の状態になっていると、それだけで色々と問題が起きるのだろう。
歩くくらいなら問題ないが。
精密な動き、判断を必要とする戦闘時は問題が出る。
そういう事もあって、調整をする。
足下は当然として。
特に頭は守らないといけない。
色々試行錯誤した上で、上半身を中心に球状に守るようにして。それも体に密着しないように守るようにすると。
それで、ある程度体に生じる違和感は緩和できた。
ただ、それでもまだおかしい部分はある。
それにシールドそのものは、エアドロップ以上に強固にしたい。
調整を続ける。
昼少し前に、クラウディアが来る。
機械についての話だ。
修理のスケジュールは明日の夕方から。まあ、大した機械ではないので、修理には手間取らないだろう。
王都には壊れてしまっている機械がたくさんあって。
その中には、用途が分からないものもある。
次はそういう用途が分からない機械についてだ。
ある貴族が所有していたものらしいが。機械は基本的に捨てないことが不文律になっていたらしく。
それで倉庫に放り込まれていたらしい。
機械を直せるあたしがでてきたことで戦略的な価値が生じ。
あたしに直して欲しいと泣きついて来たらしい。
クラウディアは呆れていたが。
あたしも呆れた。
元々落ち目の貴族らしく、それである程度のステイタスにしたいらしいが。
はっきりいってどうでもいい。
機械は今の人類の状態を象徴しているようなものだ。
動いているものもボロボロ。
止まってしまったり、錆びだらけで動くには動くだけのもの。
直せる見込みもなし。
まるで、魔物に押されっぱなしの人類そのものだ。
そして機械を直したところで、それをくだらない政争に使う始末。
あたしも、ほとほと王都の人間の愚かさには呆れ果てていた。
ともかく、調整はクラウディアがやってくれるらしいので、あたしはネックレスを仕上げていく。
もしも今、この井戸の中で騒ぎ合っているカエル達。王族や貴族達が、王都のすぐ側に世界滅亡案件がある可能性が高いと知ったら、どうなることか。
パティですら失神したほどだ。
想像もしたくないカオスの中で、多くの死者が出るだろうな。
そう思うと、あまり良い気分はしなかった。
調整を続けて、腕輪が仕上がったのが夕方の少し前。
次は量産だ。
ジェムは有り余っているので、コレを使って腕輪を作る。なお、フィー用にもベルトみたいにして同じものを作った。
置いていくわけにもいかないのだ。
フィーも、あの中で無事でいられるとはとても思えなかった。
全員分の腕輪を作った後、少し休む。
それから、夕食をカフェに食べに行きながら、薬や発破を納品。カフェにレントがいて、丁度依頼を受けたところだったらしい。
「ライザ、どうだ。 夕飯の前に運動」
「また街道に魔物か。 分かった。 あたし達だけで行く?」
「いや、俺も行く」
ボオスか。
ボオスの剣の腕がどれだけ上達したのかも見てみたい。
確かにそれもまた、ありだろう。
夕食の前に、街道に出る。
ボオスはカフェにたまたま来ていたらしいが、丁度レントとあったようだ。
昔はレントとボオスは相当に反発し合っていたが。今はそれもない。憎まれ口を相変わらずたたき合っていたが、昔のような本気での反発はしていないようだった。
「時にレント、お前はしばらく結婚する気はないのか」
「そういう気はないな。 どうも俺はその辺りは殆ど興味が湧かない。 こういうのも親父に似ているのかもな」
「どういうことだ」
「親父は回復魔術の使い手である母さんと結婚したんだが、それもかなり遅かったらしいんだ。 ミオさんとカールさんに前に聞いたことがあるんだが、親父はあんな荒々しいなりで殆ど女にも勿論男にも興味を見せなかったらしくてな」
豪傑は性欲が強いと言う風説は何処にでもある。
ところが、若い頃はアガーテ姉さんでも及ばなかったと思われるレントの父親。あの大巨人ザムエルさんは。
こういう所もレントに似ていたという訳か。本来は意外と堅実で奥手な性格だったのかも知れない。だとすれば、周囲に恵まれさえすれば、今は誰からも尊敬されて、クーケン島の守護神だった可能性もある。そんな可能性を、周囲は寄って集って潰したというわけだ。
レントも二十歳を過ぎてから、どんどん父に似てきていると言う訳だ。
それは、色々とナーバスにもなる。
あたしもちょっと同情した。
あたしの場合は、両親にあまり似ていない。
それもあって、その辺りは気楽極まりない。強いていうなら、のめり込むと周囲が見えなくなるところは父さん似か。
レントは、逆にボオスに聞き返すことはしない。
ボオスがキロさんに気があることは、誰も知っている。
ボオスもそれが大変な道である事は理解しているだろうし。
今此処で、茶化すような話ではなかった。
街道に出ると、流石に皆が無言になる。
街道に出てすぐの北に、ちょっと大きめの池があって。其処で何人か襲われているという事だ。
ロミィさんの所の見習いも襲われたらしく。
幸いまだ死者は出ていないものの、早めに退治して欲しいという依頼が来ている。
もう陽が落ちている。
薄暗い辺りの中で、それは黒々とした姿で、ふてぶてしく横たわっていた。
レントが大剣を抜く。
ボオスは腰に帯びていた剣を抜いた。
あたしは、相手が大型の鼬である事を確認。
あの大きさは、群れの長か。
或いははぐれた大型のオスか。
オスだとすると、かなりの高齢個体だろう。性質が荒くなっている可能性もあり、非常に危険だ。
「時にボオス、実戦経験はあれから積んだか?」
「いや、ほとんどだな」
「分かった。 俺が前衛になるから、とどめを頼む。 ライザ、いざという時に介入してくれるか」
「うん、任せておいて」
あたしは周囲も警戒して、他の魔物による奇襲も防ぐ。
鼬が此方に気付いた。
そして、殆ど間髪入れずに襲いかかってくる。なるほど、これは誰かが殺されていてもおかしくない。
街道の警備は手が足りていない。
依頼がカフェに来るはずだ。
躍りかかってくる。あたしの背丈の倍はある鼬。鼬としてはそこそこに大きい方である。勿論素の力だけで人間を殺傷できるサイズだ。それも空中で魔術を発動、回転しながら火花を散らしつつ飛んでくる。
それをレントが、真正面から受け止めていた。
火花が散るのは一瞬。
レントは、なんだかんだで戦闘経験は豊富に積んでいたのがよく分かる。いわゆるパリィの技量が、前とは段違いに上がっている。
「はっ!」
弾き返す。
吹っ飛んだ鼬は、回転しながら地面に着地。サイドステップを繰り返して、ボオスを狙いに行くが。
あたしが熱槍を顔面に叩き込み、それで弾かれてさがる。
レントが斬り付けて、左足をざっくりとやる。
悲鳴を上げた鼬が飛び退こうとするところで、レントが叫ぶ。
「ボオス!」
「おうっ!」
ボオスが舞うようにして、三回連続で斬り付ける。
流麗な動きだが。
これは残念ながらまだ座敷剣法の延長線だな。
それでも、鼬の右目を深々と抉って、鼬が悲鳴を上げて飛び退こうとするその上から、レントが襲いかかり。
組み伏せていた。
ボオスが気合いを入れて、鼬の首筋に剣をねじ込む。
ざくりと音がして。
鼬の首の血管を、剣が切り裂いていた。
呼吸を整えるボオス。
レントが無言で死んだ鼬を抱えて、城門の側に。灯りの近くで、捌き始める。あたしは周囲を警戒続行。
ボオスはしばし見ていたが、レントが手伝ってくれといい。そして、順番に捌き方のコツを教え始めていた。
「なるほど、こういう風にやるんだな」
「アガーテ姉さんは初歩しか教えてくれなかったが、それは多分自分で応用は身に付けるためだったんだと思う」
「そうか。 皮が綺麗に剥がれると爽快だな……」
「ああ。 だがなめさないとすぐにダメになるからな」
肉もその場で燻製にする。
見張りの戦士に声を掛けて、肉をお裾分けする。鼬の肉はそんなに美味しい方ではないのだけれども。
ちょっとこの大きさだと、三人で分けるには多すぎるのだ。無駄にするくらいなら、その場で振る舞った方が良い。
戦士達もそれほど高給を貰っているわけではない。
鼬の肉は臭みが強いので、燻製にした後は、煮込んでアクを取らないといけない。調理に二手間掛かるが。
肉と言うだけで、食べれば相応に力になる。
首はそのまま切り離して、カフェに持っていく。
討伐した証だ。
首だけでも一抱えもあるが、それはレントが軽々と運んでくれた。
血抜きをした後とは言え、血の臭いが中々に凄いが。
まあ、夕食前の運動には丁度良い。
カフェに鼬の生首を納品。カフェのマスターは、てきぱきと回収して、報酬金もくれた。
あたしはいらないので、レントに譲る。レントはボオスと二人で分けて。それで夕食にする。
線が細い人間だと、これですぐに夕食は厳しかったりするかも知れないが。
元々ボオスだって、あたし達と一緒に悪ガキしてたのだ。
それにアガーテ姉さんに戦闘の基礎は叩き込まれている。
今更である。
「久々にお前達と一緒に戦ってみて分かったが、まだまだだな俺は」
「戦闘経験が足りないだけだと思うぞ。 剣の古い方は悪くねえ。 後は必殺の気合かな」
「気合ねえ。 もうちょっと論理的に説明してくれないか」
「打撃を入れる瞬間に、力を集中的に込めるっていう方が、精神論的ではないな。 俺も当然そうだし、タオもパティもやってる技術だぜ」
レントもその気になれば論理的に説明が出来る。
あたしは夕食を適当にぱくつきながら、ボオスに聞いてみる。
「剣の修行はしてるの?」
「学業やらで忙しいが、合間にな」
「……レント、稽古につきあってあげなよ」
「そうだな。 遺跡探索の合間になら」
ボオスはちょっとだけ嫌そうな顔をしたが。
しかしながら、これは仕方が無いと思う。
元々基礎は教わっているから、後は経験と錬磨だ。
ボオスは経験も錬磨も足りていない。
それには経験が多い人間に師事するのが一番で。恐らくは、身近にいる人間だとレントが適任だ。
「分かった。 意地も張っていられないしな」
「なら、必要な時には声を掛けてくれ。 いつでもつきあうぜ」
「ああ……」
流石にちょっと心の整理がいるか。
だけれども、もうあたし達の間にわだかまりは無い。
夕食を終えると、その場で解散。
あたしは、もう腕輪の量産を終えている。
明日が本番だ。
いよいよ、エアドロップ陸上型無しでの。
遺跡への挑戦を開始する。
それは戦闘が出来る事を意味する。
奧にいるガーディアンは、大まじめに遺跡を守っている様子だった。排除するのは心苦しいが。
それでも、やるしかない。
もう封印がもたない可能性が高い。
せめて封印の場所を確認して先手を打たないと。
雨が降っていないときにフィルフサの群れが辺りにあふれ出しでもしたら、もはや手に負えないのだから。
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