暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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3、ベールの奧に

アトリエでミーティングをしてから、皆に腕輪を配る。一応念の為に、アンペルさんとリラさんのぶんも作ってある。ボオスに引き渡すのは、最悪の事態が起きたときのためと。

 

遺跡の探索をした後、二人が再度調査をするときのためだ。

 

「少し重いから、利き腕ではない方につけて。 武器の操作を阻害するかも知れない」

 

「ええと……私は大丈夫です」

 

パティは腕につけて見て、それで軽く素振りして頷く。

 

元々渡している装飾品による身体の強化もある。

 

それにパティは鍛錬を欠かしていないから、どんどん強くなっている。思った以上に、成長が早いという事だ。

 

タオはそもそも双剣を使っている事もあって、両手ともに昔よりずっと腕力がついている。腕輪をつけたくらいで、動きは阻害されなかった。

 

レントは全く平気。

 

クーケン島にいたときよりも、腕が太くなっているから、付ける時にちょっと調整しなければならなかった。

 

クリフォードさんも思った以上に腕が太い。

 

トレジャーハンターの副業として賞金稼ぎをしているのだ。

 

荒くれに舐められないようにするためにも、ある程度マッシブである必要はあるのだろう。

 

馬鹿馬鹿しい話だが。

 

見かけで相手を判断する人間は、想像以上に多いのである。

 

セリさんは細い腕だったが、つけて見ると結構平気だ。

 

後はクラウディアか。

 

クラウディアは弓矢という恐らく一番繊細な武器を用いるので、ちょっと心配になったけれども。

 

元々自身で音魔術込みの矢を放つ時は、バリスタみたいなサイズのを撃っているのだ。心配は無用だった。

 

皆に行き渡ったのを確認してから、アトリエを出る。

 

雨は小雨になっている。

 

セリさんが眠らせたあの植物も、その内起きる。そうなると、またキビスビスがまき散らされる事になる。

 

そうなる前に、さっさと片付けるべきだ。

 

そう判断して、現地に急ぐ。

 

時々雨が止むが。

 

まだ雲は分厚い。

 

ただ。北の荒野の方には、雲は流れていかない様子だ。

 

これは何か、理由があるのかも知れなかった。

 

「ねえパティ」

 

「はい、なんですか」

 

「あの辺り、なんで雲が行かないんだろ」

 

「そういえば……。 北の荒野はワイバーンだらけで危険と言うこともあって、殆ど分かっていないんです」

 

申し訳なさそうにパティがいうので。

 

タオが咳払いして、補足していた。

 

「調査をしている途中に、あの辺りにエンシェントドラゴンの伝承を見つけたんだ」

 

「エンシェントドラゴンか」

 

「うん。 あの辺りの住民は、エンシェントドラゴンに知識を授かった、なんて話でね」

 

あり得ない話ではない。

 

ドラゴンは、あたし達が遭遇したようなのは知性もなにも獣並みだったが。

 

数千年を経たようなエンシェントドラゴンになると、人間の言葉を普通に使いこなしたりするらしいし。

 

色々と不思議な知識を持っていたり。

 

人間が想像できないような複雑な魔術を使う事があるらしい。

 

魔物の中では、精霊王と並ぶ強豪として知られるのも当然である。

 

そもそもこの世界の生物では無いという説もあって。

 

タオはそれについて、今調べていると言う事だった。

 

「エンシェントドラゴンは近年目撃されていないけれども、ひょっとすると何かしらの理由で、エンシェントドラゴンが大規模な魔術を掛けて行ったのかも知れないね」

 

「そこに挑むのか。 準備がいるな」

 

「うん。 とにかく、今は森の方を片付けよう」

 

「そうだな。 いよいよ自分の足でロマンに踏み込めるぜ!」

 

テンションが上がっているクリフォードさん。

 

そろそろパティも、この人については色々理解出来てきたらしい。

 

いちいち呆れる事もなくなってきていた。

 

それどころか、アーベルハイムで雇われないかという話をこの間していた。

 

勿論トレジャーハントはそのまま本業として続けて良いので、街道の魔物退治などを手伝ってくれないか、というのである。

 

給金も賞金稼ぎの時より出すと言う。

 

それを聞いて、クリフォードさんも考え込んでいた。

 

パティも間近で見ているクリフォードさんの知識と戦闘技術。

 

確かに、まっとうな戦士が少ない王都近辺だ。

 

こういう人材は、スカウトしたいのかも知れなかった。

 

現地に到着。

 

腰にロープを巻いて、あたしが先行する。

 

まずは、危険ラインを越える。

 

さて、緊張の瞬間だ。

 

もしもあたしの様子がおかしくなったら、即座に引きずり戻せ。そうレントには告げてある。

 

あたしは踏み込む。

 

泥だらけの腐葉土を踏みしめて、奧に。

 

そして、何の感慨もなく、危険ラインを越える。そのまま、ずんずんと前に進むことが出来ていた。

 

しばし進んでから、後ろを見る。

 

視界が歪んでいる事もない。

 

今の時点では、複数ある五感を狂わせる仕組みを、全てシャットアウト出来ているとみていい。

 

まずは、大丈夫か。

 

手を振って、皆に此方に来るように促す。

 

最悪の場合に備えて、今日は信号弾と、それに食糧を多めにもってきてある。

 

この辺りの地図は、文字通りの総当たりで作ってあるが。タオが地図を拡げて、正確かどうかを確認してくれていた。

 

「流石だなライザ」

 

「はい。 まさに驚天の技ですね……」

 

「錬金術だよ凄いのは」

 

「分かってるよ。 でも、これだけ錬金術を使いこなせるのは、今の時代ではライザだけなんだよ」

 

そう褒められると嬉しいが。

 

面と向かって褒めると人間はダメになる。

 

だが、今はそれよりも、気を張って警戒したい。

 

地図をタオが確認した後、奧に。

 

セリさんが植物操作を使って、辿った道を分かりやすい状態にしてくれている。

 

そのまま進んで、先に。

 

まだまだいける。

 

あれだけ重装甲にしたエアドロップ陸上型でも厳しかった地点まで、まずはこれでいけるかを確認。

 

魔物は、いない。

 

地面に、空から落ちてきたらしい猛禽が突き刺さって死んでいるのを見る。

 

蛆すら湧いておらず、そのまま腐っていく途中のようだった。

 

悲惨な死体だが、この森がどれだけ危険かをよく示していると言える。この猛禽も、森の危険範囲に入り込んでしまって、それで地面に突撃してしまったのだろう。

 

「今の所異常なし。 みんなは」

 

点呼。

 

皆平気だ。

 

クリフォードさんが、前に出ると言う。

 

一番五感が鋭いのがクリフォードさんだ。確かに、最前衛を任せるのもいい。それに、そろそろ頃合いか。

 

ロープをあたしがほどいて、クリフォードさんに渡す。

 

クリフォードさんは、それを荷車に結びつけていた。

 

危なくなったら、即座に荷車ごと引いてくれ、というのだろう。

 

「少し俺が先行する。 もしも異常を感じて、しかも動けなくなったら右手を挙げる。 その時はすぐに引いてくれ」

 

「分かりました。 気を付けて」

 

「おう」

 

クリフォードさんが、ひょいひょいと跳んで先に。

 

アグレッシブだな。

 

いつもはロマンロマン言ってるひょうきんな人だが。

 

戦士としては、剽悍極まりないプロフェッショナルだ。

 

レントも、クリフォードさんについての良くない噂は聞いていたという。クラウディアもそれは同じだったらしい。

 

賞金稼ぎとしてのクリフォードさんは、それだけ悪党から怖れられていた人物でもあり。逆恨みした阿呆から狙われてもいたのだろう。

 

それは、戦士として強くなるのも、当然と言えた。

 

この探索から戻ったら、封印について話すか。

 

そう思いながら、森の奧へ。

 

時々、タオが方向を修正する。

 

こういう木が林立していて目印がない場所だと、気がつくとぐるぐる回っている事がある。

 

それを的確にタオは防いでくれていた。

 

程なくして、クリフォードさんが足を止める。

 

周囲に、石造りの建物の残骸らしいものが見え始める。

 

どうやら、遺跡の本命の部分に入り込んだらしい。

 

恐らくだが。エアドロップに乗っていたときは、周囲がよく見えなかったから、気付けなかったのだろう。

 

クリフォードさんと合流してから、軽く話す。

 

「この先はまだ危ない感じですか」

 

「いや、まだいけそうだ。 だが、例のガーディアンが此方を警戒しているようなんでな」

 

「……一旦少し下がって、周囲の建物を調べるべきだね」

 

「分かった。 俺が警戒に当たる。 タオ、クリフォードさん、頼むぞ」

 

パティも警戒に当たってくれるそうだ。

 

レントも、それを拒否しなかった。

 

それだけパティの将来性を見込んでいると言う事だろう。

 

あたしも頷くと、調査に回る。

 

荷車に、周囲の遺物を積み込んでいく。

 

少なくとも、小規模であっても此処には集落があって、人が暮らしていたことは間違いないらしい。

 

家などは破損も目立つが。

 

戦いで壊された様子はなく、恐らくは経年劣化で潰れている。

 

植物に浸食されて、崩れてしまった家などもあるようだ。

 

タオが、手を振っている。

 

五感が狂わされないから、ある程度距離があっても分かるが。

 

それでも、細かく移動しながら、少しずつ調べて行くしかない。

 

「タオ、何かみつけた?」

 

「これ! 早速回収しよう」

 

「本棚ね」

 

「本も殆ど傷んでいない。 惜しいけど、此処では読めない。 とにかく、全部持ち帰るよ」

 

タオの目の色が変わっているが。

 

確かに、こんな貴重な遺跡だったら、それも仕方が無いだろう。

 

あたしも苦笑いしながら、タオを手伝って、本棚ごと本を回収する。四十冊くらいはあるだろうか。

 

他にも、そこそこに物珍しいものはある。

 

ある程度調べて、回収を続けていると。やがて、荷車が一杯になる。

 

一度、撤退だ。

 

レントとパティに声を掛けて、撤退。二人とも、ちゃんと聞こえていて、戻ってくる。

 

ガーディアンとやりあうのは最後だ。

 

戦いに巻き込まれて、貴重な遺物を失うかも知れない。それが封印の正体を直接示している可能性すらある。

 

一度安全圏まで出る。

 

雨が降っているから、本には油紙を被せているが。

 

一度、近くの集落に出向く。

 

クラウディアが確保してくれていた廃屋に、回収してきた遺物を一度移して。そしてまた遺跡に。

 

ガーディアンの警戒範囲外にある遺物を回収して。

 

順番にこの中間集積所に集めていった。

 

夕方までに、三往復をする。

 

タオは地図を作り、遺物を発見しで大忙し。

 

クリフォードさんも、的確に面白そうなものを見つけてくる。先に、まずは本のみを持ち帰る。

 

これは、タオとクリフォードさんが、手分けして解析する事になる。

 

あたしはこれから機械の修理だ。

 

その話をすると、やはりパティが手を上げた。

 

「私もご一緒させていただいても良いですか」

 

「頼むよ。 面倒なのがまた来るかも知れないし」

 

「はい。 その時は、私がいればある程度対応できると思います」

 

本音で言うと、パティはタオと一緒にいたいのだろうが。

 

タオは本に取りかかると、文字通り周りが見えなくなる。

 

タオも欲求の中で知識欲が最優先の人物だ。

 

パティがかまって欲しくても、本に没頭すると見向きもしなくなるだろう。そういうのが一番こたえることは、あたしも何となく知っている。

 

それを理解した上で、あたしの手伝いに回る。

 

その判断が出来るだけ、パティは大人だ。

 

少なくとも無駄に着飾って、プライドばかり肥大化させている王都の他の貴族よりも。

 

アトリエにつく。

 

ボオスも交えてミーティングをして、解散。

 

ちょっと予定より時間が遅くなっている。

 

クラウディアが先行して現場に。

 

その後、あたし達も指定の場所に急ぐ。

 

下手に動かすな。

 

そう言っておいたからだろう。

 

貴族の邸宅の、倉庫に足を運ぶ事になった。

 

今回は細くて、神経質そうな貴族だ。王都の貴族の中では、あまり勝ち組とは言えないほうらしいが。

 

そんなことはどうでもいい。

 

倉庫の中の、荒れ具合が気になった。

 

金目の物を乱暴に引っ張り出しては換金している。

 

そういう雰囲気である。

 

「ライザ、これだよ」

 

「どれどれ」

 

なるほど。

 

機械としては、かなり小ぶりだ。用途は、ざっと見た感じでは……なんだろうこれ。

 

何かを入れて。いや、これは恐らくだが、高圧縮した燃料だ。燃やして、それで何かをする機械だ。

 

それも、付属の車輪を高速で回転させる。

 

そのための機械か。

 

ちょっと用途が分からない。

 

荷車か何かにつけるのだろうか。色々と見てみるが、その可能性がありそうだ。だが、速度が出すぎて危ないような気もする。

 

「どう、直せそう?」

 

「直せるには直せる。 だけどこれの用途が分からない。 これを高速で回転させるための機械みたいだけれども、荷車を動かすには出る速度がありすぎる。 水車や臼なんかの代わりみたいな動力の可能性もあるけれど、それでも過剰火力だと思う」

 

「なんだ、驚天の技と使うとか聞いていたが、わから……」

 

「ニルフォード子爵」

 

パティが侮蔑の声を遮ると、バツが悪そうになんとか子爵は黙り込んだ。

 

どうでもいい。

 

というか、此奴もこの様子だと使い路は分からないだろう。

 

クラウディアにハンドサイン。

 

頷いたクラウディアは、音魔術で遮音の結界を張ってくれた。

 

「これ、多分古代クリント王国以前のテクノロジーそのものだと思う。 それも単独に帰結したテクノロジーじゃない。 これと連動するテクノロジーが失われているから、使い路がないよ多分。 燃料を此処に入れて、内部で爆発的に反応させて回転させるものだと思うけれども、そんな勢いで回すもの自体がないし」

 

「うーん、じゃあうちで買い取っておこうか」

 

「そうしてそうして。 あの人じゃ、どうせ使い路が分からないどころか、直っても売り飛ばすだけだろうし。 そうなったらどっかの貴族の個人的財産とかにされて、埃を被るだけだよ」

 

「それもそうだね。 分かった。 交渉は進めておくから、兎に角直してくれる?」

 

頷くと、あたしはパティと二人で、機械を荷車に詰め込む。

 

後はアトリエで直すだけだ。

 

パティはアトリエに戻ると、また手伝いたいと言う。

 

そうか、まあそれもありだろう。

 

分かった。

 

明日も遺跡に潜るのだ。

 

朝に修理を進める時間はないし、それがいいだろう。

 

「じゃあ、お風呂は先に行って来て」

 

「ライザさんもうちのを使ってください。 勉強させて貰うんだから、それくらいは当たり前です」

 

「そう? じゃあお風呂だけ貰うかな」

 

「お願いします」

 

まあ、いいか。

 

ともかく。アーベルハイム邸に。ついでに夕食もいただいてしまったが。案の定、前にパティが言っていた通り、別に美味しいものが出る訳でもなかった。

 

王都で味付けが濃くなるのは、新鮮な食材が手に入りにくいため。

 

肉は香辛料漬けだし。

 

他のものも、塩漬けだったり蜜漬けだったりする。

 

ちょっと胃もたれしながらアトリエに戻り、後は徹夜作業だ。パティもてきぱきと作業を手伝ってくれる。

 

ちいさな機械だが、相応に危ないので、装飾品は絶対につけて作業をして貰う。

 

これについては、あたしも同じだ。

 

徹夜覚悟で機械をばらして、一つずつ錬金釜に満たしたエーテルに突っ込んで、修理をしていく。

 

そうすると、クラウディアが来る。

 

どうやら、倉庫の中でマニュアルを見つけたらしい。

 

かなり古い言葉で、内容は分からないと言う事だったが。

 

「そうなると、明日の朝にでもタオに読んでもらうしかないね」

 

「言葉がわからないほど古いマニュアルなんて。 直しても、テクノロジーの使い路、あるんでしょうか」

 

「それは違うよパティ。 今は文明が後退する一方だけれども、テクノロジーは作り出すときにとんでもない苦労があるんだ。 基本的に悪用する人間が悪いのであって、テクノロジーに罪はないし、作り出されたものは活用しないといけないんだよ」

 

そう言うと。

 

パティは苦虫を噛み潰したように、タオさんみたいな事を言いますねとぼやいた。

 

ちょっと失敗だったかも知れない。

 

パティも、タオに甘えたいだろうに。

 

「私は戻るね。 機械の買い取りはすませたから、もう大丈夫だし。 すぐに直さなくても平気だよ」

 

「いや、今日中にやっておくよ。 前倒しにしておかないと、何が起きるか分からないしね」

 

後は、淡々と作業をする。

 

一部の部品は劣化が激しく、マニュアルを見てどういう形状なのか調べて、それで直さなければならなかったが。

 

それも空間把握力には自信があるので、特に困る事はなかった。

 

「パティ、大丈夫?」

 

「ちょっと眠いです……」

 

「あと少し。 頑張ろう」

 

「はい……」

 

大けがしかねないな。

 

とにかく、危険な部品から片付ける。パティはちょっと眠そうにしているし、限界が近いだろう。

 

部品の修復完了。

 

珍しい材料を使う部品もあったので、ちょっと試運転をしたい。燃料については、幾らでも再現出来る。

 

組み立てる。

 

へたり込んで辛そうにしているパティはそのまま休んで貰う。この時間まで手伝ってくれれただけで充分。

 

だけれども。

 

機械を動かすと、いきなり大きな音がしたので、パティは跳び上がっていた。

 

「な、なんですかそれ!」

 

「おっと、こんなに音が出るのか……」

 

操作パネルを動かして、すぐに音をとめる。

 

そろそろいい時間だ。

 

あまり大きな音を立てるのは、好ましくないだろう。

 

パネルを操作。色々と確認しておく。動かすのはもうやらない。

 

これもいつもよく見る光学式のものだ。操作方法は、もうあたしでも簡単に分かる。ログを確認するが。ちゃんと動いていて何より。

 

後は、クラウディアに引き渡して。バレンツで保管して貰うだけである。

 

「よし終わり。 パティ、前に言ったけれど、二人床で寝よう。 床で寝るのは大丈夫だよね」

 

「だ、大丈夫ですけれど、ちょっと今の音で心臓がばくばく言っています」

 

「はは、まだ線が細いね」

 

「ライザさんがタフすぎるんですよ……」

 

ぼそりとだが。

 

ライザさんがタオさんを好きで無くて良かったと呟くのが聞こえた。パティも無意識の内に言ったのだろう。

 

眠くて自分が何を口走ったのか、気付いていないようだった。

 

ともかく、後は休む事にする。

 

床に布団を敷いて、二人寝る。

 

灯りを消すと、限界だったらしいパティはすぐに寝息を立て始めた。なおパティはあまり寝相が良くない。

 

ベッドを譲っていたときは、知らなかったが。

 

これは本人も知っておいた方が、後々のために良いのかも知れない。

 

あたしは、そう思った。

 

 

 

翌朝、クラウディアに朝一で機械を引き渡す。

 

クラウディアは戦士を何人か連れて来ていて、それらの人員が機械を丁重に持ち帰っていた。

 

勿論燃料は入れてある。

 

あれは下手に動かすと、手指どころか腕ぐらい巻き込まれれば一瞬でなくなる。小さいが、危険な機械だ。

 

なお、マニュアルはタオが読んだ。

 

「あれは動力だね」

 

「何動かすの。 ちょっと過剰パワーじゃないの」

 

「マニュアルによると、「車」とあるね。 荷車とかじゃなくて、多分移動用の車じゃないかと思う。 あれを動力にして、車が走ってたんだよきっと」

 

「馬よりもあれだけでパワーがあるんだろ。 どんだけ昔の連中は急いでいたんだよ」

 

レントが呆れるが。

 

クリフォードさんは、興味深そうだった。

 

ロマンだからだろう。

 

まあ、パワーがある方がロマンがあるというのは何となく分からないでもない。あたしもどっちかというと、パワーを武器にするタイプなので。

 

クラウディアがバレンツにて機械を回収するのを見届けて、それで戻ってくる。

 

後は、遺跡の調査だ。

 

クラウディアが戻ってくる前に、軽くタオとクリフォードさんが、解析の結果を話してくれる。

 

「まずあの遺跡だけれども、「深森」で間違いないよ。 幾つかその単語が登場しているのを見つけた」

 

「おお、当たりか。 外れでガッカリなんて事はなかったんだな」

 

「ただ問題があってな」

 

クリフォードさんが咳払い。

 

クリフォードさんによると、あの遺跡はもともと遺跡などではなく、研究施設だけが作られていたらしい。

 

この土地にあった国家が、古代クリント王国の猛攻を受けて。それを防ぐために作られた研究施設の一つ。

 

当然多数の非人道的な実験が行われ。

 

その成果の一つが、森を守っていた「結界」であるらしかった。

 

「あの結界は、戦場に投入して古代クリント王国のアーミーを一網打尽に殺す目的で作られていたらしくてな。 殺傷能力が高いのも納得だぜ」

 

「なんてこと……」

 

「俺としても、正直興味が無い遺物だな。 ロマンを感じねえ」

 

クリフォードさんの話によると。

 

殺戮にしか使い路がないようなものは、ロマンを感じないそうである。よく分からないが、それは美学の領域なのだろう。

 

いずれにしても、その研究で。

 

封印を強化したのは事実。

 

結果的には、もしも門を封じていた場合。

 

何百年も、フィルフサを封じていたことになる。

 

だとすれば、人殺しにしか使えないと考えられていたものが。

 

人を守るために活用されたという事になる。

 

それはそれでロマンのような気がする。

 

世の中には、武具は殺戮にしか使えないみたいなことを言う人間もいるらしいが。

 

実際には、軍事技術が転用されて、普通の生活で使われるようになったものなんて幾らでもある。

 

それをあたしは知っているから。

 

クリフォードさんの言葉は、単なる美学として受け取った。それだけだ。

 

他にも幾つかの注意事項を聞いて。

 

それで。クラウディアが戻ってくるのを待って、アトリエを出る。

 

今日はもう少し、遺跡の深奥に行きたい。

 

ガーディアンを安全圏内に引っ張り出せればよし。

 

もしも引っ張り出せない場合は、更に奧に踏み込むことを考えなければならない。

 

更に、だ。

 

今の時点で、これだけ直接遺跡の奧に入り込めているのに、封印が見つけられていない。

 

地下にあるのか、あるいは。

 

中央部に、大きな墳丘のような形状の建物があるのが分かっている。

 

その中にあるのかも知れなかった。

 

街道を急ぐ。

 

雨は霧雨になっていて、だが地面はかなりぬかるんでいる。時々荷車を引くクリフォードさんに、注意を促す。

 

クラウディアも、音魔術で危険なものを探知してくれている。

 

それぞれで補いながら、街道を急ぐ。

 

途中、商隊がラプトルの群れに襲われているのを確認。即座に助けに入る。

 

街道に出てくるラプトルは幸い大した事も無いので、文字通りの一閃だ。たいして苦労もせずに蹴散らし。負傷者のために薬を提供して、その場を去る。礼は言われたが、こういうのは一期一会だ。

 

危険ラインに到達。

 

さて、今日もここからだ。

 

腕輪の守りはどこまで通じるか、此処からは体で試して行くしかない。

 

それに、まだまだ回収したい遺物もある。

 

ひょっとするとだが、遺跡の謎に更に肉薄できるものもあるかも知れない。どうやら当たりらしい場所であるのだ。

 

とにかく、出来るだけ早く。

 

封印の状態を、確認しておきたかった。

 

建物が見えてきた。

 

タオの指示で、一つずつ建物を確認していく。

 

ある建物で、大量の人骨を発見。

 

思わず眉をひそめる。

 

これは、多分まっとうな死人ではないだろうな。そう思う。タオが冷静に調べて、首を横に振った。

 

「数百年は経過してる。 最近死んだ人じゃないよ」

 

「やっぱり、此処で行われていた実験の犠牲者かな」

 

「恐らくはそうだろうね。 大人から子供まで色々な骨がある。 安全を確保したら、供養の一つもしてあげよう」

 

「……」

 

大人から子供まで、か。

 

古代クリント王国で奴隷制があったのは分かっている。

 

恐らくそれは、他の国家でもそうだったのだろう。

 

子供の死体まであるということは、人体実験で此処で何もかもを使い潰していたのは確実。

 

単に勝ち残ったのが古代クリント王国だっただけで。

 

他の国家も、大して差が無かったのだろう。

 

それは、今みたいになる下地がもう作られていたと考えるしか無い。

 

人が魔物に押されに押され始める要因は。

 

こんな時代から、もうあったのだ。

 

優秀な人間は何をやってもいい。

 

古代クリント王国の錬金術師達の思想だ。自分達を優秀な人間と定義して、それ以外の存在に何をしてもいいと彼等は本気で考えていた。だからどんな残虐な事でも平気でやったし。

 

最悪の災厄を招いたときには、責任を取らされた。そして全員がフィルフサとの戦いで死んだ。

 

もしも彼等がそんな傲慢な考えでなければ、フィルフサとの戦いで責任を取らされて全員が死ぬ事もなかっただろう。

 

そして、そんな傲慢さは。

 

恐らく古代クリント王国だけではなく。

 

他に存在していた国家の支配者層もそうだったのだ。

 

いや、それだけじゃない。

 

今のロテスヴァッサの貴族を見れば良く分かる。

 

プライドを肥大化させた人間は、みんなこんな感じで。常に自分を正しいと考えるから、これだけの殺戮をしても何も思わない。

 

溜息が出る。

 

「ライザ……」

 

「人のために戦いたいとは思うけれど、あたしはこれをやった連中のために戦いたくはないな」

 

「分かってる。 だけれども、これをやった人達と同じにならないために今は調査を続けよう」

 

「……うん」

 

そうだね。

 

その通りだ。

 

クラウディアだって、ちょっと間違えればこうなるはずだ。バレンツ商会は、今資産だけもって引きこもっている貴族と違って、現在進行形で大きな仕事を動かして、各地で商売をしている。

 

下手な貴族なんぞよりよっぽど力を持っている。

 

それでクラウディアが狂っていないのは、早い段階であたし達に出会えたから、なのかも知れない。

 

調査に戻る。

 

研究所らしいものを発見したので、それを丁寧に調査していく。

 

本棚を見つける。

 

本棚ごと回収。回収する物資が多い。地下にも入れる。廃棄された危険な道具らしいのもあったけれども。

 

もはや風化しきっていて、下手に触らなければ怪我をすることもなさそうだった。

 

「とりあえず本を回収して、それからだね」

 

「ライザさん!」

 

パティが呼んでいる。

 

魔物か。そう思って、すぐに行く。研究所らしい石造りの建物は二階建てで、地下もあって。

 

あたしは地下を調べていたのだが、パティは一階で見張りをしていた。

 

気配も此処ではよく分からないので、歩哨が絶対に必要なのだ。

 

パティの所に行くと、魔物はいない。

 

代わりに、パティが困惑して、壁を見ていた。

 

「此処がどうもおかしいように見えて……」

 

「……」

 

壁の一角が、どうもおかしいという。

 

タオもクリフォードさんも何もおかしいとは言っていない。だが、二人すら見落とす、玄人だからこそ分からないものもあるかもしれない。

 

あたしが壁に触ってみると、確かにこれはおかしい。

 

というか、非常に巧妙に偽装しているが、これは石じゃない。

 

熱魔術で溶かす。そうすると、壁の中から、本が出て来た。それも、丁寧に装丁されている。

 

タオが、声を上げていた。

 

「こ、これは……!」

 

「良く気付いたな」

 

「ぐ、偶然なんです。 どうもあまりにも其処だけ綺麗すぎるなと思って……」

 

「これは将来、いい助手になれるぜ。 貴族なんて止めちまえ。 王都に未来なんぞないんだしな」

 

クリフォードさんがいうと、パティは真っ赤になり、ついで真っ青になる。首をぶんぶんと横に振る。

 

パティはまっとうな貴族になって、ヴォルカーさんの後を継ぎたいと考えているのだろう。

 

だが、タオの助手になると言うのも。

 

捨てがたい未来なのかも知れない。

 

ともかく、丁寧に回収したこの本が。何かの鍵になるかも知れない。それは間違いの無い事実だった。

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