暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
そう判断したライザは、仲間全員に情報の共有を行います。
これから戦闘する相手は、神代の……魔物に対して絶対優位を築いていた人間の文明を事実上崩壊させた相手。
その覚悟をしてもらう必要があったからです。
第五の遺跡の中心部はもう少し。
ガーディアンが、高確率でいます。
序、最後の一人に
クリフォードさんに時間を作ってもらう。
既にパティとセリさんには事情を話した。フィルフサとの交戦の可能性について。
故にクリフォードさんにも、同じ事を話しておかなければならないからだ。
既にクリフォードさんを信頼出来ると判断した。故に話す。もしこれで裏切るようなら殺す。
それだけの事である。
アトリエで、二人で話す。
フィーもいるが、まあこれは人数に数えなくて良いだろう。
「それで、話というのは」
「封印されているものの正体についてです」
「だいたい見当はついている雰囲気はあったな。 それで、一体何なんだ。 あんたがこれほど必死になる程のものだ。 多分ろくでもない代物なんだろう」
「はい」
あたしとしても。
これは見過ごすことが出来ないものだ。
ロテスヴァッサ王国については、いずれ時間を掛けて潰れてしまえと思う。今の王族の無能は、百年前からまるで変わっていない。
アンペルさんの片腕をつぶし。
錬金術師としての生命を半分終わらせ。
何より、不老の秘密を解こうとして、実験動物くらいにしか考えていなかった連中。
それは今でもまったく変わっていない。
だけれども、王都には普通の人もたくさん暮らしている。
そういう人は守らなければならないし。
何より魔物に押される一方の今である。
三十万に達する人間が、鏖殺されるのを黙認は出来ないのだ。
「門というものを聞いたことは」
「門……ちょっと分からないな」
「この世界には、隣接した世界があります。 その世界の名前はオーリム。 セリさんや、リラさんのいた場所です」
「!」
クリフォードさんも、セリさんについては違和感を感じていたのだろう。
まあそれはそうだ。
爪の生え方とか、手の造りが人間と違う。
羽毛みたいなのも生えている。
何より、能力が高すぎる。
オーレン族は、此方の世界の人間に比べて、あらゆるスペックが図抜けて高いのである。その代わり、数が少なく、繁殖力もとても弱い。
「そのオーリムは、今極めて危険な魔物によって蹂躙され、殆どの土地を占領されています。 その魔物の名前はフィルフサ」
「フィルフサだって……」
「聞いた事がありますか」
「前に調べた遺跡で、そんな名前を見たことがある。 古い時代の本に危険極まりない存在として書かれていてな。 ただ類例を見た事が俺もなかったから、神話の時代の何かの伝承上の存在だと思っていた。 実在していたのか……」
頷く。
そしてあたしは話す。
三年前に。そのフィルフサと戦った事。
フィルフサの特徴も。
とにかく、此方の世界にフィルフサを来させたら終わりだ。その時点でこの世界は終わる。
故に、門は閉じるか、或いは管理できる状態にしなければならない。
今、調べている封印は、門をそのまま封じ込んでいる可能性が高い。
そして封印が解ければ。
下手をすれば、開いた門から、フィルフサが天文学的な数、此方に攻めこんでくる事になるのだ。
「なるほど。 それを俺に話してくれたと言う事は、俺を信頼してくれたという事なんだな」
「はい。 今までの行動を見て、信頼するに値すると判断しました」
「……そうか。 ありがたいねえ」
「これからも協力してくれますか」
クリフォードさんは胸に手を当てる。
そして、頷いていた。
最敬礼だ。
「俺は結局の所、趣味に生きる無頼の徒だ。 それでもこんな戦いに加えてくれたことを、誇りに思う。 ロマン以前に、こんな大きなプロジェクトに関われるのは本当に嬉しい事だ。 是非協力させてくれ」
「門については、封印を守れている間に、どうにか閉じる予定です。 その過程で、フィルフサと戦う事になるかもしれません」
「上等。 任せてくれ」
「……ありがとう。 感謝します」
ぐっと、握手をかわす。
これで、皆の息が揃った事になる。
此処からは。
最大の問題である封印の場所の確認。
そして、封印の状態の確認。出来れば、封印そのものの強化。
更には、門を発見できたなら、迅速な処理。
その全てをしなければならない。
明日には、ピストン輸送している荷物が、全てアトリエに届くことになる。
本の解読に戻ったクリフォードさんを見送ると。
あたしは、まずは作るものは先に作っておく。
パティに頼まれたお薬。
これは、出来れば作りたくは無かったのだが。
それでも作っておくべきだろう。
最初偽薬効果を考えて、適当な薬を作る事も考えたが。パティは賢いので、多分飲んですぐに気付く筈だ。
それもあるから、しっかり作る必要がある。
それに、だ。
もしも門が開放されてしまい、初期消火に失敗した場合は、アーベルハイムを中心に、時間稼ぎをして貰う必要がある。
その時の為にも。
余計ないざこざは、出来るだけ減らさなければならないのだ。
忙しい。
持ち帰った日記の解読もある。
解読については、少しずつパターンが読めてきたので、後は辞書を片手にどうにか出来そうだ。
幸い、それほど文章量は多くは無いのである。
それにしても、「不死の魔女」とまで言われる人物で。
死体から魔石を作るような事を考えるような人間だ。
どんな錬金術師だったのか。
それにはちょっとだけ興味もある。
「霊墓」では、なんだかロマンチックな残留思念を見たような気もするが。
そんなもの、誰だって恋愛ごっこはすると言うだけの話だ。
あたしはどうにもそういうのは興味が持てないし。
淡々と解読して行くだけだ。
少しずつ暗号が理解出来始めた。日常的な話も、日記に少しずつ記されているのが分かる。
素材の確保に苦労しているという文章の後に、専門用語がずらっと並んでいるのには辟易した。
錬金術師としての苦労は同じなんだなとは思ったが。
此奴も古代クリント王国の錬金術師と同じ穴の狢だった可能性がある。
どうしても、警戒してしまう。
黙々と解読をしていると、どうしても詰まる。
そういうときに、パティの薬の調合をしておく。
効果時間は四半刻もあればいいだろう。
飲んでから四半刻で効果を発揮するようにする。
この手の精神に関係する薬は非常に危険なので、調合には注意がいる。
そもそも飲む人間の年齢、体重、体格なども考慮しなければならないし。
薬には基本的に後遺症が出るようなものもある。
それを考えながら、調合をしていくと。
暗号でたまったストレスも、少しずつ薄れる。
「フィー?」
「ありがとうね、フィー。 あとでごはんあげるからね」
「フィー!」
フィーが心配しているのが分かるので、声は掛ける。
調合を続ける。
まあ薬は作り慣れている。
やがて、調合は完了。
錠剤にした。
それほど大きくもないので、水と一緒に飲めば良い。一度しか使わないから、一錠で充分だろう。
薬をしまうと、暗号解読に戻る。
外で誰かが喧嘩しているのが聞こえるが。すぐに鎮圧されたようだ。
声からして、鎮圧したのはあの義賊の三人組らしい。
ちゃんと仕事をしているんだな。
そう思って苦笑。
王都の警備は優秀、か。
王都の内部ですらまともに警備できないのは、初日にスリに狙われて良く知っている。だから、アーベルハイム卿がああいう不思議な三人組の力まで必要としているのだが。
それも、自分の金さえ大丈夫ならどうでもいい貴族達には、すこぶるどうでもいい事なのだろう。
他人事になると人間は恐ろしく冷たくなる。
それをあたしは、良く知っていた。
暗号解読を進めていく。
どうやら不死の魔女という人物は、定期的に薬を飲むことで長寿を維持していたらしく。しかもその薬の副作用がかなり強い毒だったようで、体は弱かったようだ。
それでも百三十年ほどは生きたようだから。
人間としては限界を超えているし。
その間頭も鈍らなかったのだとしたら、それはそれで選択肢の一つだったのだろう。
不老不死については、ほぼ確定で神代の技術とみていい。
古代クリント王国の前の話なのだから。
あたしもアンチエイジングの知識はあるが、内容については見て覚えておく。なるほど、こういうアプローチもあるのか。
そう思わされる。
その一方で、やはりというか。非人道的な実験もかなりやっているようだった。
遺跡全域に展開されている危険な結界については、遺跡で見つけた多数の骨の元だった人達を使って、試験をしていたらしい。
骨の元だった人達は、各地で捕まえてきた奴隷だったようだ。
敵対国の人間というような事は書いているが。
実際にはどうだったのやら。
今のロテスヴァッサのように、不安定な都市国家が林立するような状態だったのだとしたら。
文字通り人間狩りをしたり。
奴隷商人が、各地で二束三文で売り飛ばされた人減らしのための子供なんかを扱っていた可能性も高い。
そういう人間は基本的に悲惨な人生を送るしかなかったが。
それでも、あんな五感が狂うシステムの実験台にされて、死ぬような事をしたのだろうか。
この世に神様なんていない。
それはあたしはなんとなく分かっている。
仮にいるとしても、それは恐らく人間に対して興味なんか持っていないだろう。
少なくとも、不幸な目に会っている末端の人間に手をさしのべる事はない。
それにしても、これは少しばかり酷いのではないのか。
不死の魔女の日記を解読しながら思う。
実験体の番号と、どうやって死んだのか。
どうやってシステムの改良をしたのか。
そんな事が淡々と書かれている。
キビスビスを作り出す植物の品種改良についても記録がある。
どうやら神代の頃からある植物を改良したというような記述があることから。
或いは神代の頃に、オーリムから回収してきた植物だったのかも知れない。
いずれにしても、迷惑な話だ。
気になる記述がある。
「これはどういうことなんだろう……」
「フィー?」
「うん。 ちょっと気になる所があってね」
つい口に出してしまう。フィーは側で小首を傾げて。それが随分と気分転換になってくれる。
調合中に独り言が多くなる錬金術師はそれなりにいるとアンペルさんは言っていたっけ。
あたしもいずれ、そうなるのかも知れなかった。
気になったのは、封印についてだ。
封印されたものと、激しく戦いながら、どうにか抑え込んでいた事については記録が残っている。
それは別にいい。
だが、その前だ。
その前に、とんでもない災厄があった、というような記載がある。
なんだろう。
少なくとも、フィルフサが封印されているもので。
それが大挙して攻めこんできたのなら、神代の頃のテクノロジーがある人間でも、簡単に押し返すことはできなかったはずだ。
初期消火には少なくとも成功している筈で。
まああくまで相手がフィルフサだった場合ではあるのだが。
いずれにしても、フィルフサが此方の世界に定着するような事態は避けている筈である。
だとすると、災厄とはなんだ。
これについてはちょっと分からない。
分からない所は、メモをしておく。
いずれ分かるかも知れないからだ。
黙々と解読を進めていると、フィーがあたしの頬に顔をすりつける。
そうか、時間か。
もうすっかり夜中だ。
解読を切り上げると、後は風呂に行って、寝る事にする。
風呂も大衆浴場を使うが、これについてもすっかり慣れた。
色々と分からない事は多い。
それでも、クリフォードさんと秘密も共有して。今作戦に参加している皆が、秘密を共有したことになる。
それが、一体感を強くしたと思う。
裏切る人間は多分いない。
それで充分だと思うし。
後は、封印の場所と状態を確認して。
場合によっては、門を閉じるだけだ。
それは大変な事だと分かっているが、それでも目的がしっかりしただけで、随分と気持ちは楽になる。
おかげで随分とすっきり眠る事が出来た。
翌朝。
朝一番に来たパティに、薬を渡しておく。パティも頷くと、周囲を見回してから、受け取っていた。
マニュアルも渡しておく。
ちょっとあたしの字は癖が強いらしいが、言い聞かせておく。
「しっかり読んでから服用してね。 何度もいうけれど、精神に作用する薬は、とても危険なの」
「はい、分かっています。 錬金術のものではありませんが、怪しい薬を飲んで体をおかしくした人の話はたくさん聞いています」
「貴族がそんな薬を飲むの?」
「不老不死とかそういう目的で……」
ああ、なるほどね。
それは納得だ。
金を先祖から受け継いで、やりたい放題をしていても、更に長い間生きたいと考えるわけだ。
だが不老不死に手を出して、寿命を縮めてしまうのでは無意味だ。
あたしもアンチエイジングはするつもりだが。
それは錬金術が、今後これ以上世界に迷惑を掛けるのを防ぐため。
ともかくこの世界には、錬金術師が残した負の遺産が多すぎるし。
それはオーリムも同じ事。
あたしの後を継ぐ錬金術師がきちんと育つ保証も無い。
多分だけれども、錬金術の力はあまりに大きすぎるのだ。
だから欲が強い人間が触れると、たちまち取り込まれてしまう。そして悪魔よりタチが悪い存在になる。
神代からずっとそうだったのだろう。
あたしはたまたまそうではなかった。アンペルさんがお墨付きをくれるくらいだ。それはあたしの誇りでもある。
だけれども、後の錬金術師は、多分このままだとなんどでも同じ過ちを繰り返す。
思想の違い云々の話ではない。
魔物に押され放題のこの世界の現実と。
フィルフサに滅ぼされかけているオーリムの現実。
その双方の問題である。
「いずれにしても、効果が強い薬だから、あたしも立ち会うよ。 ただ、直接側でではないけれど」
「助かります。 私も、ライザさんが近くで控えてくれていると、それで気がだいぶ楽になります」
「信頼してくれている?」
「はい。 ライザさんはちょっとがさつなところもあると思いますけれど、とても頼りになる戦士で、この時代最高の豪傑だと思います」
ちょっとそのパティの言い方は気になるが。
まあ、信頼してくれているのは事実だろう。
それならばいい。
皆が集まってから、ミーティングをする。
あたしは、解読した日記の要点を説明。
とりあえず、恐らくはあの森の危険な要素の解析は出来たと思う。後は現地で確認して、対策装備を作るだけだ。
タオも頷くと、クリフォードさんと一緒にまとめた資料を出してくる。
「分厚いな」
「多分だけれども、あの遺跡がやはり封印の本丸なんだよ。 資料を見る限り、「北の里」というのは、この地にあった国に属していない独立の集落だったのだと思う」
「それはまた、面白い話だな」
「当時からワイバーンが多かったのもあるんだけれども、そもそもエンシェントドラゴンが守護として北の里にいたらしいんだ」
なるほど、それで抑止力になっていたのか。
古代クリント王国は、ドラゴンを兵器化していた。
それについては、あたしも現物をみた。
だから、ドラゴン程度はなんでもなかったのだろう。
だが、エンシェントドラゴンとなるとどうか。
精霊王も行使していたようだが、それも複雑な手順を経ての話だ。結構な手間暇と犠牲を掛けたはず。
しかるべき人間が、エンシェントドラゴンとともに守りを固めれば。
それだけで、充分に今の何十倍も人間がいた時代の国家相手にも、渡り合えたのかもしれない。
頷くと、続きを促す。
今日は、遺跡では最終チェックをするだけだ。
今の状態では、遺跡の中心部分には入れない。危険すぎる。更にガーディアンが此方を狙っている事を考えると、更に危険度は増す。
これをクリアして、ガーディアンを仕留めてから、羅針盤を用いる。
そのためには。
徹底的に準備をしなければならなかった。
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