暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
そこをついに突破する時が来ました。
遺跡に移動しながら、頭の中で反芻する。
タオが要点をまとめてくれた。
それは、あたしも把握しておかなければならない。
あの遺跡は、封印の本丸だったことはやはり確定。研究の中心が彼処で行われ、他に配置された封印。つまり八角錐のあの魔石の塊も、最初はあの遺跡で作られたらしい。例外的に霊墓でも一つ作られたようだが。それは最後にだめ押しとして作り出されたものだったようだ。
一つの封印のための魔石を作る為に、大量の人間の死体が必要になった。
それは主にアーミー同士が戦争をした場所の古戦場で集められたようだが。要するにそれだけ頻繁に殺し合いがあったという事である。
タオは仮説を述べていた。
当時は人間が逆に多すぎたのではないのだろうか、と。
今のこの世界には、人間が多くて数百万人だという話は、あたしも聞いた事がある。王都に三十万。サルドニカは確かまだ十万程度だと聞く。
それ以外の都市に分散している人間を合計しても、どんなに頑張っても六百万……多めに見繕っても七百万程度というのがタオの結論で。
その数十倍というと、億の大台に届いていたのだろう。
だが、この世界の資源の量。
生産出来る食糧。
それらから考えると、とてもそんな人間は養えない。
本来だったらもっと養えるそうだが。
そもそも当時も富の不公正というのが起きていて。それで人々の食糧も生活も、極めて不公正だった可能性が高い。
クーケン島の事を思い出す。
あたしが見た感応夢で、古代クリント王国の錬金術師どもは、奴隷化した人々を文字通り使い潰していた。
その骨が、たくさん島の地下に放り捨てられていた。
あの有様を見る限り、タオの言葉は真実だろう。
あたしは、何もそれについて反論する言葉がなかった。
遺跡に走る。
もう雨は殆ど降っていない。たまに小雨が降るくらい。
セリさんが眠らせてくれたあの植物だって、いずれ活動を再開する。そうなると、今とは比較にならない量のキビスビスが撒かれる。
そうなれば、探索どころではなくなる。
今のうちに調査を進めなければならないだろう。
大量の屍から作られた封印。
それがもってくれることを、祈るしかない今。
悔しくてならない。
さっさと場所を突き止めて、根本的な解決をしなければならないが。
今より遙かにテクノロジーが進んでいて。
人間もたくさんいた時代。
封印するしかできなかった代物だ。
厳しい戦いは、それはそれで覚悟しなければならないだろう。
わかっている。
だけれども、今のこの面子なら、大概の相手には勝てる。エンシェントドラゴン相手でも勝てる。
だから、油断さえしなければ大丈夫だ。
あたしはそう思って、ただ走る。
危険ラインに到達。
皆が腕輪をチェック。
地面はドロドロにぬかるんでいるが、この辺りは魔物も殆ど来ないらしく、汚物の類はほぼ無い。
ただ腐葉土が不衛生なのは事実なので、それは気を付けなければならない。
虫すらいない森の中。
皆で固まって移動する
五感が狂う森だ。非常に危険性が高い。何かないかぎり、荷車から手を離さないように。それも徹底してある。
歴戦の戦士だろうが学者以上の知恵者だろうが大魔術師だろうが。
五感が狂ったらどうにもならないのだ。
だから、慎重にいく。
口数も減る。
ついでに、雑念も殆ど無くなった。
やがて、目的の地点に到達。
あたしが取りだしたのは、あかい大きな宝石だ。コレを使って、ちょっと調べておきたい事がある。
この宝石は、大量の魔力を封じ込んだ特別製だ。
錬金術では、宝石を作るのは実の所難しく無い。
トーマス卿に時々納品しているのだが、そのたびに大金を貰っている。こんなんでもらっていいのか。こんなものにこんな金が動くのか。そう呆れる。
ただ。宝石そのものは魔術媒体として有用だ。
この赤いのはルビーというらしいが。
このルビーの中には、魔法陣が仕込んであって。今まで防御することを可能とした「防壁」の危険度を計測できる。
今は、透明だが。
クリフォードさんに、紐に結びつけてもらって、投擲して貰う。
遺跡の中心部にある墳丘の近くまで。
多分ガーディアンとやりあうとしたら、あの辺りだ。どれくらい危険かを、確認しておく必要がある。
宝石を引っ張って、回収。
あたしは、うえっと声が出ていた。
「ざっと七倍か……」
「ライザさん、それって……」
「危険ラインから、五感が狂うようになってたでしょ。 この辺りは危険ラインの三倍くらい危ない状態になってる。 そしてあの中心部分あたりは、この辺りに比べて更に七倍くらい、五感を狂わせてくる。 足を運んだら、一瞬で発狂して死ぬね」
「ひえ……」
パティがそんな声を漏らしていた。
レントが警戒してくれている。
そんな危険な場所で平気な顔をしているガーディアンが、こっちに来るかも知れない。ガーディアンは、しかも恐らくは生物だろう事が分かっている。
タオが解析した資料によると。
元々この森には、比較的大人しい魔物が住んでいたそうだ。大人しいと言っても魔物は魔物。
人間より余程強かったそうだが。
その魔物を追い出して、毒竜を連れてきた。
毒竜と言ってもぴんと来ないが、バシリスクではないかとクリフォードさんは付け加えていた。
可能性はあるだろう。
強烈な毒を扱う生物が、自身も毒に強いわけではない。
例えば毒蛇は、同種の毒蛇に噛まれるとひとたまりもなく死んでしまう。
だがバシリスクの場合はどうも違うらしく。
元々周囲にある毒をどんどん取り込んで体内に圧縮させていき。危険地域に住んでいる奴は、むしろ積極的に周囲の毒を取り込んで、自身の力にしていくという。
バシリスクは毒竜なんて言われるが、実際にはドラゴンとは違う種類の生物らしいのだけれども。
古代クリント王国より更に前の時代の人間の言葉だ。
そもそもバシリスクである保証はない。
本当にドラゴンかも知れない。
だとすると、文字通り魔物の王である。
毒に対する耐性がどれくらいあるかは分からないし。本当に総力戦になる。
この遺跡を守っている防壁も平気だとすると。
下手をすると、更にそれを自在にあやつる可能性すら、考慮しなければいけないだろう。それくらい危険な相手だ。
「よし。 それが分かれば充分だな。 一度撤退するぞ」
「うん。 戻ってすぐに対策装備を作る」
「でもライザ、大丈夫なの?」
「……恐らく封印が行われている場所にも、此処と同じ仕掛けが施されていると思うから、どの道作らないと駄目だし。 それにしても七倍か……」
ちょっと過剰な防壁だ。
フィルフサが相手だとすると、どれだけ過剰でも足りないくらいだが。
それでもちょっと度が過ぎている。
いずれにしても、ギリギリ耐えられる、くらいでは意味がない。
古代クリント王国の錬金術師が攻めてきても突破出来ないようにする目的で作られた防壁だったら。
相当な強度になっている筈だ。
最低でも十倍。
いや、十二倍くらいまで、耐性を上げないと厳しいだろう。
とにかくアトリエに戻る。
今の腕輪を更に更に強化しないといけないが、それについては考えがある。問題は行動を阻害しないようにすること。
今回は、まだいい。
もしも封印されているのがフィルフサだった場合、つまりあのフィルフサ相手に、雨がない状態でやりあう可能性が生じてくる。
あたしもあれから戦力を挙げているが、基本的に魔術は通じないと判断するべきだ。
勿論現地の地形をうまく生かして、水をたたき込めればいいのだが。そうもいかないだろう。
楽観を中心に、戦略を組むべきじゃあない。
何度も叩き込まれた事だ。
アトリエまで戻って、其処で一旦解散する。昼少し前だから、かなり早いが。そもそもこれは仕方が無い。
とにかく、明日まで集中して調合をする。
かなり厳しいので、栄養剤を準備しておいた。
調合の準備を進めていると、パティが咳払い。
パティだけ、残っていた。
「あの、ライザさん」
「どうしたの?」
「お父様のスケジュールを確認しました。 明日の朝はいるようです」
「朝一番に仕掛けるの?」
それはまた。
確かにヴォルカーさんも寝起きだろうけれども。それでも流石にちょっとこれは。
まあパティも純粋戦士だ。
こういう所でしっかり勝つための計算は出来ると言う事なのだろう。未来が頼もしい。もしもパティがアーベルハイムを掌握して、タオがブレインになったら。きっとこの国は、多少はマシになるだろう。
王族なんぞいらない。
「その、朝一番に、邸宅の外で待機していてくれませんか。 薬の効果がどれくらいあるか、ちょっと分からないので……不安でして」
「分かった。 それにしても大胆だね……」
「実はお父様、タオさんの家庭教師も一旦取りやめにすると言い出していて……」
ああなるほど。
それは確かに、パティには死活問題か。
苦笑い。
「分かった。 じゃあ、ミーティングの前に片付けようね」
「はい。 こればかりは、絶対に出来るだけ早く片付けないといけないですから」
「分かった。 じゃあ、武運を祈るよ」
「はいっ!」
胸に手を当てて、パティは最敬礼するので、同じようにして返す。
皆、少しずつ確実に進んでいるな。
あたしももたついてはいられない。
ともかく、調合だ。
体を。
特に五感の中枢となっている脳と脊髄を守るように、上半身を中心にして守りを固めていく。
恐らくだが、遺跡の中心は。キビスビスなどが水で流れないようになんらかの処置をした上に。
主に地下などに工夫をして。対魔装甲などでも防げないような仕組みの五感を狂わせるシステムを構築。
増幅に増幅を重ねて、侵入者を防ぐようにしているのだろう。
この辺りは。高度テクノロジーを使っていても、結局はパワーがものを言うということである。
この間直した機械が、過剰な力が出る動力だったように。
今の時代に失われている人間のテクノロジーは多分パワー主体なのである。
遺跡「深森」は、それを如実に示している場所なのだろう。
調合を続ける。
冷や汗が出る。
一度作ったものを再調整していくわけだが。惜しみなく貴重な素材を使っていく。
とにかく出力を今の二十倍にするのだ。
同時に複数の……それも十以上の魔術を展開して、それぞれに別のものを防いでいく訳だが。
それも簡単じゃあない。
順番に調整を行い。
魔術を発動するために、魔法陣に対して凄まじいパワーが出るような調整を加えていく。
刻み込む魔法陣も精緻で精密。
これが傷つくと終わりだから。
最終的には、外側を金属で覆って、簡単には露出しない二重構造にする必要がある。細工物の知識が必要だったかな。
そう思いながら、エーテルの中で調整を繰り返し。
ひたすらに、順番に調合をしていく。
一つ作れば、後はジェムで増やすだけだ。
それも元々あるものを改造するのだから、それほど手間は掛からない。
皆の命が掛かっている。
手を抜くわけには絶対に行かない。
とにかく徹底的に調整していく。妥協は許されない。出力二十倍以上というのは、そういうことだ。
休憩に水を飲む。
頭がちょっとくらくらしてきたので、横になって少し休憩。もう夕方近くになっている。フィーが、周囲に漂っている魔力を飛びながら食べているようだ。大量のエーテルを絞り出しているから、まあ当然か。
これでもこの調合に備えて、たくさん食べておいたのだが。
クラウディアが残してくれたクッキーをいただく。
黙々と食べていると、頭に栄養が行き渡るのが分かる。
なるほど、アンペルさんがドーナツを愛好するわけだ。
ただ。これだとあたしもアンペルさんと同様で、甘味を栄養として補給しているのと同じになる。
それは、作ってくれたクラウディアに、色々と申し訳ない。
むかしからあたしは運動量が多い分かなり食べる方だと言われて来たけれども。
こう言うときは、露骨に足りないと感じる。
体内で魔力を生成するとき、人間は相当にため込んでいる栄養を消費するらしい。魔術師に太った人が殆どいない理由で。老人になると殆どが痩せているのも、それが理由である。
あたしもこう言うときは、それを感じる。
クッキーを食べ終えると、調整を続ける。
一つずつ機能を確認していく。
複雑に刻んだ魔法陣が、相互で悪さをしていないか。一つずつ魔力を流して、順番に稼働を確認。
魔法陣を刻むのは、エーテル内でやってしまえば良いのだが。
これはそもそも、空間把握力が試される調合である。
才能がないと出来ないらしく。
この世界の過去の錬金術師が、才能に驕り自分を特権階級だと考えるのも、なんとなくあたしには分かるのだった。
ただ、そうはならない。あたしはそうはならない。
何度も自分に言い聞かせながら調合を続け。
夕食を取ろうと思って、調合を一旦無理にとめる。
今、進捗は九割という所か。
ソファに腰掛けて、それで。
頭がぼんやりしていて、そのまま落ちそうだった。
この感覚、三年ぶりだな。
そう思って、苦笑い。
三年前は、いつフィルフサが門から大挙して出てくるか分からなかったから、文字通り気が休まる時がなかった。
今になると良い冒険だったと思うのだけれども。
それでも、体力がなければついていけなかったと思うし。
タオもあのなりで、あたし達と一緒にずっと走り回っていたこともあるから。見た目よりずっと体力はあったのだ。
とにかく、夕食だ。
カフェに行こうかと思ったが、あたしの行動を読んでいたかのようにクラウディアが来る。
そして、差し入れしてくれた。
「やっぱり無理してる」
「はは。 ごめん、クラウディア」
「いいんだよ。 みんなのためだし、封印がいつこわれても不思議じゃないって事実もあるからでしょ」
「うん……」
クラウディアが、使用人らしい人達に、料理を並べさせる。
カフェで出てくるものよりも、恐らくはクーケン島のものにあわせた薄味の料理だろう。
これは助かる。
クーケン島は食糧自給率が高いこともあって、基本的に食べ物は王都と違って、香辛料づけでも塩漬けでも蜜漬けでもない。
しばらく、黙々と食べる。
本当に体が栄養を必要としていたのだと分かる。
調整のために、釜にエーテルを満たすのを何度も何度もやって、魔力を極限まで絞り出していた。
あたしが体力自慢でも、それには限界がある。
魔力は相当増えているけれども、それでもやはりキャパというのは存在しているのだと、こう言うときに思い知らされる。
がつがつと食べてしまって、申し訳ない。
綺麗に全て食べ終えると、何故かクラウディアは満足げだった。
「いやー、本当に助かるよ。 ありがと、クラウディア」
「どういたしまして。 いつもゼッテルやインゴット、それに布もとても助かっているんだから、これくらいは当然だよ」
「末端でどれくらいで売りさばいてるの?」
「秘密。 だけれど、貧しい人が困るような商売はしていないよ」
くつくつと笑うクラウディア。
この子も大概かな。
少しずつ図太くなっている。
だけれども、あたしに顔向け出来ないような事をしていないのも、また事実なのだろう。
食事を片付けると、手伝えることがないか聞いてくれる。
あたしは少しだけ考えてから、手を叩く。
「フィーにごはんあげてくれる?」
「そうだね。 フィー、おいで」
「フィー!」
フィーもクラウディアに魔力を貰っているから、良く懐いている。
そしてあたしは、今魔力を絞り出して、フィーにあげる余裕が無い。
調合を再開。
後は、徹底的に集中して、夜中まで。
クラウディアが、帰り際に風呂に行くように言ってきたので。
公衆浴場だけは使った。
夜半に完成。
徹底的に調整して、全ての魔法陣が相互干渉していないことを確認。ベルト式になっているから、腕が太いレントやクリフォードさんにも対応している。
更に魔法陣を守るカバーにも何度か自分で衝撃を与えてみて、壊れないことも確認。
流石に腕を斬り飛ばされたりしたらひとたまりもないが、それはもうどうしようもないと言える。
よし、後は増やすだけだ。
ジェムをつぎ込んで、皆の分。更にアンペルさんとリラさんの分も増やしておく。
かなり在庫の鉱石を使い込んでしまったが、こればかりは仕方が無い。また、増やす過程でジェムも相当に使った。
終わった後は、泥のように眠る。
明日は。まず朝一にパティの家に行って。
それで。
後は、もう何も考えられなかった。
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