暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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2、勇気

朝一番に、パティは貰った薬を飲み下す。食事は終わった。トイレも終わった。

 

メイド長には、ライザさんが来たら通すようにも話を通しておいた。

 

お父様もいる。

 

それも全て確認してから、作戦開始と自分に言い聞かせた。

 

薬を入れて、四半刻で効き始める。

 

そして四半刻で効果が切れる。

 

その間、勇気を出せる。

 

パティは分かっている。

 

お父様。アーベルハイム卿ヴォルカーが、どれほどこの王都のために骨を折っているか。今度伯爵に叙任されるそうだが、功績から考えれば侯爵でもいいくらい。いや、そもそもこんな腐った王都。

 

乗っ取って、全て造り替えてしまっても良い筈だ。

 

貴族がこの国のために何をした。

 

王族が何をしてきた。

 

フィルフサについて聞かされたとき、一緒に聞いた。

 

ほんの百年前に、この国では錬金術師を集めて、悪逆の限りを尽くす計画があった。よりにもよって、こんな状態で異界オーリムに侵攻して。更には資源を奪い尽くすつもりだったそうだ。

 

勿論そんなこと、出来るわけがない。

 

錬金術をやる人間は、幼稚な全能感に身を包まれる事が多いらしくて。

 

それで出来ると思い込んでしまったのだろう。

 

ずっとテクノロジーが優れていて、軍事力も比較にもならなかった古代クリント王国ですら失敗したのに。

 

どうして今になってそんな愚行が出来ると思ったのか。

 

これだけの破滅的な事態になって、今も現在進行形で人間は魔物に押されているというのに。

 

それでもそんな事を考えていたのは、文字通り悪い意味で頭に花畑が出来ていたのだろう。

 

パティからしても許せない。

 

そしてそんな連中を輩出しながら。

 

のうのうと王だの貴族だのと名乗っている連中も。

 

そもそもアーベルハイムは、お父様が騎士から成り上がって貴族になった存在だ。お父様は、この腐った王都で、それでも民を守るために貴族になる道を選んだ。

 

だから、苦労している。

 

それは分かる。

 

分かるけれど、少しはパティの事だって信じて欲しい。

 

そう思っていると、見る間に怒りのボルテージが上がって行くのが分かった。

 

こんなに頭に来たのは初めてかも知れない。

 

薬の効果は確かにある。

 

そして、今だからこそ言える。

 

パティは立ち上がると、パンと音を立てて頬を叩いていた。

 

目が一気に覚めた。

 

大股で歩いて、お父様の執務室に行く。

 

メイド長はそれを見て、他のメイドを皆遠ざけたようだった。何が起きるか、ある程度察したのかも知れない。

 

執務室は、朝からお父様がいる。

 

貴族は殆どがバカみたいなパーティだの園遊会だので資産を浪費しているが、そんな事をせず実務をし、各地の警備をして回っているのがお父様だ。

 

一応つきあいでそういう社交にも出るには出る。

 

パティも出た事がある。

 

だけれども、別に美味しいものが出る訳でもないし。

 

既に壊れかけている機械で作ることしか出来ないドレスだのを自慢したりする空虚な時間であり。

 

はっきりいって退屈極まりなかった。

 

全ての会話が悪い意味での政治闘争で。

 

誰と話すだの、誰と笑顔をかわしただの、それらが全て意味を持っているとかみなされている場所。

 

外の街道では今も誰かが魔物に襲われ。

 

ちいさな集落では魔物が今も人々を脅かし。

 

賊の類が跋扈し。

 

力が弱い人は死ぬしか無い事だって多い。

 

王都の近くですらそうなのだ。

 

辺境の辺境になってくると、それよりももっと酷い場所がいくらでもある。パティも王都の近くだけで、お父様やライザさんにつれられて幾つもそんな場所をみたし。酷い腐臭の中で、精鋭の筈の騎士がゲーゲー吐いているだけで役に立たない場面も何度だって見た。

 

優秀なはずの王都の戦士達がなんの役にも立たないどころか。魔物に追い散らされたり。食われ掛けたり。

 

勿論パティが見ていない所では、殺され食われてしまう事も何度も何度もあったのだろう。

 

ライザさんが。凄まじい火力で魔物の群れをまとめて焼き払う所を何度も見たパティは。今や王都には何の価値も見いだせないし。

 

王室への忠誠心なんて、抱きようもなかった。

 

ドアを開く。

 

お父様は、朝から書類の山と格闘していた。

 

パティが出向くと、神経質そうな目を向けてくる。

 

だが、パティの表情がいつもと違っているのに気付いたのだろう。すぐに手をとめて、顔を上げた。

 

「どうしたパティ。 こんな朝早くから。 今日はライザ君の手伝いにいかないのかね」

 

「お父様。 タオさんを家庭教師から外すという事についてですが」

 

「タオ君が優秀である事は理解している。 戦士としても優れているし、家庭教師としても申し分ない。 だが、今はライザ君が派手に暴れている事もあって、アーベルハイムは隙を作りたくないのだ」

 

「隙……?」

 

声が冷えている。

 

お父様は怪訝そうにパティを見た。

 

そして丁寧に説明してくれる。分かりきっている説明を、だ。

 

「貴族の中には、庶民と貴族が接することを醜聞としか考えていない者が珍しく無い。 しばらくはタオ君とは自宅で二人きりになるのは避ける方が良い。 そういう判断だ。 幸いパティはライザ君の支援を始めてからも、学業での成績は落ちていない。 まあ成績なんて買う物だから当然だがな」

 

「今や、実際の学業がゴミ以下の貴族の子弟が、庶民の講師を招くのは一般的な話です。 それが醜聞になるのもおかしいし、何よりも自分より優れている存在に敬意を払えない人間の方がおかしいのではないでしょうか」

 

厳しい言葉が出る。

 

お父様がちょっと驚いたようだった。

 

パティの怒りのボルテージが、どんどん上がっていく。

 

「私がそんなに分別がつかないとでも思っていますか、お父様っ!」

 

「パティ……?」

 

「タオさんは尊敬していますが、基本的に常に一線を引いて行動してきました! ピアノ教師と恋愛ごっこして遊んでいる様なバカな貴族の令嬢と一緒にしないでください!」

 

貴族の令嬢のたしなみは。

 

ツラだけいいピアノ教師との恋愛ごっこだと昔から相場が決まっている。

 

パティが知っているだけで同年代に数人、実際に肉体関係までもった輩がいる。

 

そういう連中は避妊薬(効きもしない)を使って関係を誤魔化し。それでいながら庶民を見下した言動を取っている。

 

別に貴族が美形なんて事もない。

 

トロフィーワイフが云々と言うような言葉もあるらしいが、貴族の間に美しい娘が生まれることそのものが珍しいし、庶民を馬鹿にして掛かっていれば基本的に婚姻は貴族間でするしかない。

 

結果として、どの貴族も顔が似ていく。

 

遺伝病だらけになっていく。

 

こんな王都に五百年閉じこもっていれば、その傾向は顕著だ。

 

最近は皮肉な事に、今アーベルハイムにもいるメイド長の一族が貴族に入り込んでいる事もある。

 

あのメイドの一族の顔の特徴が、貴族に出始めている。恐らくその内、王都の貴族はあのメイドの一族に血縁まで。いや王族すらも乗っ取られるのではないかと、パティは見ていた。

 

そんなものだ。貴族なんて。王族も。

 

パティはタオさんに指一本でも触らせたことだってない。

 

そういう年頃だから、一緒にいたいとか、自分の事を見てもらいたいとか思った事はなんぼでもある。

 

だけれども、それでも分別をわきまえて行動してきたのだ。

 

それを、今更。

 

こんな。

 

完全に噴火したパティは、そのまま怒声を張り上げていた。

 

「私を舐めないでいただきたいです! 学校で成績を金で買って遊んでいる他の貴族の子弟と違って、私は結果を出して成績をあげています! 分別だってしっかり守っています! それなのに、どうして醜聞がどうだので、私の成績をしっかり上げて数学のコツも叩き込んでくれたタオさんを私から引き離すって話が出てくるんですか!」

 

「……」

 

完全に黙り込むお父様。

 

更にパティは、今まで思っていても言えなかったことを、叩き付けていた。

 

 

 

あちゃあ。こりゃあ効きすぎたかな。あたしはそう思って、アーベルハイム邸の前で困り果てていた。

 

いや、違うな。薬が効きすぎたんじゃない。

 

相当にパティも、腹に据えかねていたのだろう。というか、パティは父上の事が大好きなのが端から見ていても良く分かる。

 

そんなパティが此処までブチ切れているのは。

 

此方が寄せている信頼に対する、裏切り行為を働かれたと判断しているからなのだろう。

 

怒声がアーベルハイム邸の外まで聞こえて来る中、呆然とあたしは立っていた。

 

具体的な貴族の名前と醜聞が、邸宅の外まで聞こえてきている。パティもいざという時のために、情報を集めていたと言う事なのだろう。

 

へえ。なんとか侯爵は獣姦が趣味なんだ。それもヤギが好きと。

 

なんとか男爵は男色家で。

 

なんとか伯爵に至っては、毎日マゾヒズムな行為にふけっていると。

 

良くそんな情報を知っているなあと、ちょっと感心してしまう。

 

外を歩いている通行人も、それを思いっきり聞いている。朝早くだが、まあこの怒鳴り声だ。

 

聞こえても不思議では無いだろう。

 

今、全身から冷や汗を流しながら青ざめてそそくさと走り去った人を見て、通行人がなんとか侯爵と言った。そうか、あれが獣姦が趣味の。

 

見た感じまだ若いのに、拗らせているなあ。そういう感想が出てくる。

 

勿論クーケン島にも変わった性癖の人はいた。

 

だけれども、それも色々あっての事だ。

 

そもそもあたしの父さんだって、超腕利きの農夫であるけれど。畑と会話するような奇人である。

 

誰でも心の奥に秘密の庭くらいある。

 

あたしは別に、変わった性癖の一つや二つくらいあってもいいだろうとは思うが。

 

ただし。

 

平民より何もかも優れていると自称している貴族達にとって、それはどうだろう。

 

此処で優れていると自称しているのは、人格なども含まれている筈。その人格の中には、「健全な性癖」だとかやらも入っているだろう。

 

それが大嘘だと言う事を。

 

これだけの人数の前で、パティが大暴露している。

 

ちょっとまずいんじゃないのかなこれ。

 

あたしはそう思って、増えるばかりの聴衆(それも場所が場所だから、貴族関係者ばかりだろう)を一瞥だけして。

 

そしてアーベルハイム邸に入った。

 

メイド長が出てくる。

 

一礼すると、相手も一礼を返してきた。

 

「外で聞かれたかも知れませんが、お嬢様が激高為されています。 ただ、貴方は通すようにとも言われていまして」

 

「ああ、なるほど。 分かりました。 どちらの部屋ですか」

 

「彼方です」

 

案内される。

 

メイド長は多少……ほんの僅かだけ、クーケン島にいたフロディアさんを少し加齢させたような見かけをしているが。

 

充分に女盛りの容姿だ。

 

実年齢は分からない。

 

というかこの人らが、本当に人なのかすらも怪しい。

 

一応人間と交配して子供は作れるようだけれども。

 

ともかく、執務室とやらに案内される。

 

執務室から、パティが出てくる。

 

吐き出しきったようで。一礼をかわすと、早足で外に出ていった。

 

外で一喝が聞こえる。

 

「見世物じゃありません!」

 

小柄なパティだが、その気迫は凄まじく、聴衆はわっと散ったようだ。多分散った中には、貴族もいただろう。

 

今、話題にされた貴族は。

 

恐らく貴族のサロンで当面笑いものにされるはずだ。

 

パティは恐らく計算していなかっただろうが。

 

多分コレは、あたしが機械を直していた以上に。このくだらん腐った井戸の中に、大きな影響を与えるはずである。

 

執務室に入ると、ヴォルカーさんが咳払い。

 

あたしを一瞥する。

 

別に青ざめているようなこともない。ただ、パティの凄まじい剣幕に、流石の歴戦の武人の黙り込んでしまったようだが。

 

何のことは無い。

 

虎の子は、自分が虎の子であることを。自身で証明して見せたのである。

 

メイド長に、ヴォルカーさんが指示を出す。

 

「聞いていたな。 こうなっては仕方が無い。 少し行動を前倒しする」

 

「分かりました。 既に準備してあります」

 

「私もすぐに出る」

 

メイド長がすぐに行く。

 

彼女がいなくなると、ヴォルカーさんはあたしを見た。

 

「計算が狂ってしまったが、パティが彼処まで怒っていたとは思わなかった。 とにかく良い子で真面目なあの子だが、それだけ腹に据えかねていたのだろうな」

 

「はあ、まあそうでしょうね。 最初、あたしの事もタオの関係で随分警戒していましたが、それでも非礼な態度は全く取りませんでした。 それくらい、パティはとても良い子だと思います」

 

「そうか。 良い子に育ってくれて嬉しい。 あれの母親は、むしろ穏やかすぎる程の女だったのだがな」

 

ヴォルカーさんは軽く話してくれる。

 

パティの母上の話を。

 

パティの母上は、ヴォルカーさんが一戦士だった時代から交際していた女性で。勿論同じ庶民だったそうである。幼なじみの穏やかな女性で、騎士になってから正式に結婚したそうだ。貴族になってからも、仲は変わらなかったらしい。

 

基本的に穏やかな女性だったそうだが、何か問題があった時には絶対に譲ることはなく、それでヴォルカーさんも困る事が何度もあったとか。

 

懐かしそうに遠くを見ながらヴォルカーさんは話す。

 

まあ、そうなんだろうな。

 

この人は後妻を迎える気は無さそうだ。

 

パティは時々、メイド長を慕うような視線を向けていた。あの人とヴォルカーさんが結婚してくれればと思っているのだろう事はすぐにあたしにも分かった。それにこの人は立場が立場だ。多分再婚の話は、貴族連中から幾らでもあった筈だ。

 

それが今までこうして独り身でいると言う事は。

 

それだけ奥さんの事を愛していたわけだ。

 

「前にも話したが、タオ君以外にパティの夫はいないと私も思っている。 だからこそに、下準備をしていた。 その下準備もあって、一時的に引き離そうと思っていたのだが……まあやむを得ない。 少し行動を前倒しにするしかあるまい」

 

「私に話して大丈夫なんですか?」

 

「かまわない。 君もパティに何か重要な秘密を話したのだろう? パティが君を見る目が、師を見るものになっている。 ならば、私も君を信頼する。 君は裏切りを働くような下衆ではあるまい」

 

まあ、あたしも。

 

下衆は散々知っているし。

 

そういう連中と一緒になるつもりは無い。だから、苦笑しながら頷いていた。

 

ヴォルカーさんは、さっきばらまかれた醜聞を決定的なものとするため、これから動くそうだ。

 

具体的に何をするかは分からない。

 

ただそれで、王都の貴族は大混乱に陥るだろうことは分かった。

 

幾つかの家は社交界で完全に笑いものになって、権力のメインストリームから失墜する事になる。

 

結果、貴族達はアーベルハイムにかまう暇なんかなくなり。

 

更に言うと、あたしが機械を直すのにも、ちょっかいを出す余裕はなくなるだろう。

 

タオとパティの婚姻の外堀を埋めるには、丁度良いというわけだ。

 

それに貴族達は金だけは持っているが、実質的な権力なんて持っていない。

 

王都の外に名目上の領土はあるにはあるが、そんなもの本当に名目だけだ。

 

クーケン島の側にある古城も、名目上は貴族の所有物らしいが。

 

実態は魔物だらけの有様。

 

他も同じだ。

 

ありもしない領土を自慢し合っている馬鹿な連中が、今の王都の貴族なのである。それに貴族が力を持っていたら、目端が利く奴が第二都市のサルドニカに赴任しているだろう。今では珍しい、人間が勢いを持っている都市なのだから。

 

「それではライザ君、娘を頼むぞ。 王都の未来を背負って立てる、強い人間に鍛え上げてくれ」

 

「分かりました」

 

礼をかわすと、あたしはアーベルハイム邸を出る。

 

此処から、ヴォルカーさんは仕事だろう。

 

あたしもだ。

 

封印をとにかく、早い段階で解明し。其処に封じられているものを確定させなければならない。

 

十中八九門だろうが、そうであること、門の状態を確認し。フィルフサが出てくる前にどうにかしないといけない。

 

状況次第では、門の向こう側のオーリムの土地にいるフィルフサも壊滅させて、グリムドルのような安全地帯を増やす必要もある。

 

今の戦力と、水があれば可能だが。

 

クーケン島にあったような、水を奪い取る装置はまだ見つかっていない今。

 

最悪の場合、門を閉じるだけという行動を採るしかないし。

 

その場合は、オーリムのフィルフサからの解放は、また先延ばしにするしかない。

 

力がついたのに、悔しい話だ。

 

アーベルハイム邸はすぐに後にする。

 

此処から此処は戦場になる。

 

外では、メイド長が戦士達を集めて、聴衆を散らしていた。顔を真っ赤にして怒っている貴族が何人か押しかけてきていたが、ヴォルカーさんが出てくると、青ざめて萎縮してしまう。

 

それはそうだ。

 

戦力が大型の走鳥と子兎以上に違う。

 

常に戦場に立っている武人を前にしたら、こんな金に任せて放蕩だけしている堕落貴族なんて、萎縮するだけである。

 

あたしはそそくさと横を抜けて、アトリエに戻る。

 

早朝から、王都は騒ぎになるだろうが。

 

どうせ王都内だけの話だ。

 

ただ、クラウディアには話しておくべきだろう。

 

そして、アトリエにつく頃には、パティはもう正気に戻っている筈である。

 

さて、どんな顔をしているかな。

 

アトリエまで、ちょっとわくわくしながら歩き。

 

皆が集まっているのを見て、安心した。

 

クラウディアだけいないが、これはちょっと仕方が無い。パティに事情を聞いて、あわててバレンツに戻ったのだろう。

 

手を打つ必要が幾つかあるはずだ。

 

あたしはまず、全員分に腕輪を配る。

 

徹夜で作ったものだから、現地で試す必要があるが。

 

それも、この面子だったら事故は起きないはずだ。

 

使い方について説明していると、ボオスが手を上げる。

 

苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

「それで、何かあったんだろ」

 

「うーん、後で分かると思うよ」

 

「いや、今話せ。 俺は窓口になっている事を忘れるな」

 

「……そうだね。 王都で貴族の勢力図ががらっと変わると思う」

 

ボオスはそれを聞いて。

 

フィーが頭に乗って来ても、文句を言う余裕も無く、大きなため息をついていた。

 

厄介ごとを増やしやがって。

 

そんな事をぼやいている。

 

パティはというと、むしろつやつやしているほどだった。

 

これは、相当に不満をため込むタイプだったんだな。

 

恐らくは、それは穏やかだったとヴォルカーさんが称した既に亡くなったパティのお母さんも同じだったのではあるまいか。

 

それで寿命を縮めたのではあるまいな。

 

そう思って、あたしはあまり考えない事にした。ストレスは、想像以上に人間の心身を蝕むのだ。

 

「クラウディア、すぐに戻ってこられるかな」

 

「大丈夫ですよ。 問題になる貴族は、基本的に対立派閥の人間ばかりですから」

 

「そ、そう……」

 

多分パティが爆心地だと理解したのだろう。

 

タオがちょっと引き気味だ。

 

こりゃ、尻に敷かれるだろうな。

 

そう思って、あたしは同情した。

 

まあそれも別に良いだろう。

 

タオはほっとけば、ずっと研究しかしていないだろう。それなら、パティくらい尻に敷いてくれる嫁の方が良いはずだ。

 

それにタオと家族同然に育ったあたしとしても。

 

身内にパティくらい真面目な子がいてくれれば、心強いし。

 

軽く、遺跡についての話をしておく。

 

今回で、中枢にある墳丘を調べる。

 

作った腕輪を用いる事で、恐らくは中枢を守っている壁を突破出来るはずだ。それでも無理は禁物。

 

五感が狂いそうだったら、即座に撤退を推奨。

 

その説明をすると、全員が頷く。

 

この面子だったら、問題ない。

 

そういえば、暗殺云々の事もあったか。

 

いや、問題ないだろう。

 

アンペルさんに以前聞いた。

 

アンペルさんが、王宮の錬金術師を集めた研究所から逃げてから、一世代くらいは暗殺者が送り込まれたらしいが。

 

ある時を境に、ぴたりと止まったらしい。

 

パティも暗殺者については知らないらしく。そんな組織は、現在存在していないとみて良いだろう。

 

まあ、こんな平和ボケした王都だ。

 

内部で暗殺組織なんか作っている余裕は無い。

 

そういうものだと判断して良い。

 

クラウディアが戻って来た。

 

大急ぎで指示を出してきたらしい。

 

勿論今日の探索には参加するそうだ。クラウディアも、この探索が、王都どころか人類全部滅ぶ可能性がある事は、良く理解してくれている。

 

貴族の権力争い、それも王都内にしか影響がない、なんぞよりも。

 

その探索の方が、遙かに重要なのである。

 

「よし。 じゃあ出るとして、後何か問題は」

 

「一つ成果があったぜ」

 

「ん、聞かせてクリフォードさん」

 

頷くと、クリフォードさんは昨日の研究成果について話してくれる。

 

それによると、話題に上がっていた「不死の魔女」の死の具体的な場所、日時は確認できたそうだ。

 

そうか。

 

やっぱり死んでいたのか。まあ百三十年ほど生きた云々の話もあったし、死んだの分かっていたが。それでも確定がとれたのは大きい。

 

なんでも「不死の魔女」は、体を痛めつけながら不死を維持する事が非常に辛くなっていたらしい。

 

封印のシステムを作り終えた後、体は限界が来ていたこともある。

 

恋仲にあった騎士が戦死したこともあり。

 

後は静かに死ぬ事を選んだそうだ。

 

そうか。

 

業が深い人だったのは確定だ。

 

彼女が作ったシステムは、文字通り屍の上に作られた牢。

 

それを作りあげる実験の段階で。どれだけの命が貪られ。犠牲になったのか分からない程だろう。

 

それでも、そのシステムが今世界を滅ぼさないでいてくれているのだったら。

 

尊敬はしないが。

 

死んだ人間の、死体蹴りをこれ以上するつもりもなかった。

 

よし、それならば、これで忙しいミーティングは終わり。

 

今日は、決戦になる可能性が高い。

 

荷車には、爆弾も薬も出来るだけ詰め込んでいく。

 

そして、細かい所まで打ち合わせして。後は、戦いを始めるだけだった。

本作の次に連載する作品はどれが良いですか?

  • 暗黒!アトリエシリーズのまだ未掲載の作品
  • 真女神転生Ⅲの二次創作(真Ⅴ要素なし)
  • 流行り神二次創作
  • その他二次創作
  • オリジナルの長編
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