暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
慎重な突破。
其処にはやはりガーディアンがいて。
総力戦となります。
それは如何に相手の土俵とはいえ。今のライザ達をも苦戦させる、文句なしの強敵であったのです。
遺跡に急ぐ。
今頃ヴォルカーさんが王都で大暴れしているだろうが、まあそれはどうでもいい。最悪ロテスヴァッサ王国が潰れてもかまわない。王都にいる人々が無事ならば。
今調べている遺跡は、それだけ重要な場所だ。
王都一つよりも、人類全て。
ましてや、王都に巣くっている貴族だの王族だの、どうでもいい。
ともかく走る。
パティは、心を乱している様子もなく。
むしろ今までで、一番動きにキレがあるようだった。
それだけため込んでいたものが大きく。
吐き出したことが大きかったのだろう。
小雨が降るが、この程度の雨だったらもうどうでもいい。ただ地面はまだぬかるんでいて、下手をすると荷車がスタックする。
道を急ぐ。
街道では、魔物も随分見かけなくなった。
あたし達が、見かけ次第蹴散らしているからだろう。
目端が利く奴ほど、街道を一旦避けるようになったと言うことである。
ただ、以前に散々魔物を倒して来ているから知っている。
どうせすぐに次が来る。
安全なのは今だけだ。
どうせ、すぐに開いた縄張りに他の魔物が来る。
それまでの間隙を、今は縫うだけだ。
ひたすらに走り、危険ラインに到達。腕輪の性能確認。
問題なし。
このラインは、平気で超えられる。
全員に点呼を取り。
それで、全員五感が狂っていないことを確認する。
この遺跡を調べ終えたら、次が大変だ。
ワイバーンがわんさかいる荒野を抜けた更に先。荒野に出向くのも、一工夫必要になるだろう。
更に其処から道を確保する必要がある。
暗黙の了解だが、ワイバーンはドラゴンの幼生体だ。
それがわんさかいるということは、ドラゴンが繁殖している可能性を捨てきれない、ということである。
勿論それは非常に危険な事で。
あたしも、油断は出来ないと判断していた。
ドラゴンもエンシェント級になれば会話が出来るようだが。少なくとも、古城にいたような奴はただの獣だ。
ある程度の知能はあったようだが、それでも獣の域を超えない。
そんな存在とは、残念ながらわかり合う事は不可能だ。
森の中を行く。
相変わらず不自然に静かで、此処が死の森である事に代わりは無い。
皆、完全に無言。
この先に、かなりヤバイガーディアンがいる事は確定で。それと戦うために心身を研いでいるのだ。
工房のガーディアンもかなり危険な相手だったが。
それ以上に危ない相手の可能性が高い。
さて、どうなるか。
墳丘が見えてきた。
足を止める。
最初に、クリフォードさんが前に出る。五感が一番鋭いクリフォードさんが、この役割を買って出てくれている。
それは有り難い話ではあるのだが。
クリフォードさんでもダメなら、それはそれでどうしようもない事を意味もしている。
緊張の一瞬。
クリフォードさんが、ハンドサイン。
大丈夫、という合図だ。
頷くと、前に。これで、この遺跡は安心して奥に進む事が出来る。
「フィー!」
「分かってる。 いるね」
フィーが懐から顔を出して鳴く。
皆も分かっている。
すぐ近くに、ガーディアンがいる。それは恐らくだが、工房にいた奴より手強い相手だろう。
最大級の警戒をしながら、墳丘に。多分五感が正確に働いていなかったからなのだろう。近くに行けば行くほど、それが精緻な石造りの建物で。
見た目よりもずっと大きい事が分かった。
視界すらも狂わせる壁。
確かに、フィルフサですらも幻惑されて、先に進めなくなるだろうな。
それはあたしも感じて、そのテクノロジーに戦慄する。
これでも、神代の頃より衰えているはずだ。
まてよ。
神代より衰えていたとしたら。
フィルフサは、ひょっとして神代の人間の敵では無かったのか。
考えて見ればおかしい事はあった。
どうして古代クリント王国の錬金術師は、フィルフサを制御出来ると確信していたのか。
それだけじゃない。
ロテスヴァッサで百年前に行われていた、オーリムへの侵略計画だってそれは同じ事だろう。
連中が万能感の泥沼に足首を掴まれた阿呆だった、というのは理由の一つではあるのだろうが。
それ以上に何か理由があったとしたら。
「来やがったぞ……」
最初に反応したのはクリフォードさんだ。
全員が武器を構える中、其奴が姿を見せる。
半透明だったそれが、気付かれたと判断した瞬間、色づいていた。
以前、街道で見たバシリスクに似ているが。
それよりもずっとずっと大きい。
それどころか、巨大な体躯の横には、六対も足が生えていて。全身は毒々しい鱗に覆われている。
その鱗から立ち上る凄まじい魔力は、周囲を揺らめかせるほど。
これは、あたしよりも魔力量が多いな。
見かけはトカゲに似ているが、頭からは不可思議な羽毛が生えている。あの羽毛は、或いはディスプレイか。
一部の動物は、異性などにアピールするために、無意味に派手な体の部位を持っていたりする。
口からちろちろと出している舌。
目は二対あって、蜥蜴に似た顔の前面と側面にそれぞれついている。
この不自然な身体的特徴。
此奴は、恐らく自然の生物では無い。
何かしらの非人道的実験を用いて。作り出された存在とみて良いだろう。
「俺が壁になる。 ありったけの攻撃を叩き込んでくれ」
「私も。 もっている間にお願いします」
パティがレントに続いて前に出る。
頼もしいな。
相手は敵意を隠してもいない。姿を隠して歩み寄ってきたことからも、それは確実である。
ただし、この墳丘に近付かない限り、攻撃してこなかった。
それもまた事実だ。
可能性はあるかも知れない。あたしは、話しかけてみる。
「言葉は通じる? あたしは此処を調べたいだけ。 貴方が守っているものは、もう壊れる寸前かも知れない」
「……」
「状態を調べて、周囲の残留思念を調べたら去る」
「……」
ダメか。
言葉は通じないらしい。
ゆっくり左に移動していく巨大な毒竜。まあ、毒竜で良いだろう。口から出ている息には。あからさまに禍々しい猛毒が含まれているのが分かる。
食いつかれたら、即死確定だ。
静は動に、突然に変わった。
毒竜は、突如として、踊りかかってきた。
レントが動く。
飛びかかってきた巨体を、真正面から受け止める。全員が散開。凄まじい勢いで尻尾が振るわれる。
巨大な尻尾は、それそのものが筋肉の塊だ。
地面を砕くほどの破壊力。雨で濡れている地面が。木っ端みじんに粉砕されて、辺りに腐葉土と泥が飛び散る。
まずいな。
この土に問題があることがわかっている。しかも此奴は、それを理解した上でばらまいていると言う事だ。
「泥は出来るだけ避けて!」
「くっ、はええっ!」
レントを押しのけると、毒竜は残像を作って、クリフォードさんが投擲したブーメランを回避。
あの巨体で、残像を作る程の速度で動くのか。
そのまま上空でばっと足を拡げると、全身の鱗だろう。それを一斉に地面に打ち出して来る。
セリさんが植物の防壁を作り、更にタオが前に出て。双剣を乱舞させるようにして鱗を弾き散らすが。
なんと空中機動すると、毒竜はあたしの熱槍を回避。
地面に凄まじい勢いで着地して。クラウディアを狙う。飽和攻撃された矢を、全てかわし、或いは鱗で弾き返す。鱗で弾き返す度に火花が散っている。
それほど、強力な装甲というわけだ。
かっと口を開けた毒竜。
飛び込んだパティが、喉から抜き打ちで切り上げるが。鱗に激しい火花が散っただけである。
四つある眼の一つが、パティをぎろりと見て。
そして、手が叩き潰しに行く。
だが、クラウディアはその隙に逃げ。パティが逃げ遅れて、吹っ飛ばされるが。それでも致命傷は回避。
だが、吹っ飛んだパティに、毒竜は尻尾を叩き付けに行く。
その背中に跳んできたブーメランを。頭を振るって、弾き返す動きも隙がない。
レントが飛び込むと、尻尾に大剣を叩き付けて、弾き返してみせる。
パリィの妙技だ。
セリさんが地面に手を突き、大技に行く。それを一瞥だけすると、毒竜はすっと息を吸い込む。
此奴がドラゴンかどうかは分からない。
だが、遺跡の資料に記載されていた毒竜と呼ぶに相応しい存在であるのは、間違いないだろう。
「ブレスが来るぞ!」
「まずいね……」
長期戦は不利だ。
あの毒竜、この辺りの土を意図的に巻き上げながら戦っている。それは、この辺りの土がどういう性質を持っているか知っていての行動だ。
今、腕輪で中和しているが、それも泥をまともに食らったりしたら、その時点で動けなくなる。
それは覚悟しないと危ない。
雄叫びとともに、あたしは槍を。ただし氷の槍を叩き込む。
それをブレスで迎撃しようとして、毒竜は即座に判断を転換。上空に飛び、更に追撃の熱槍はブレスで相殺した。
舌打ち。
氷の槍は、熱の槍に比べると、どうしても出力が落ちる。
あいつ、短時間でそれも見きっているということか。
着地すると、また即座に接近してきたレントに対して、前足の一つを叩き付けながら。背中に変化を生じさせる毒竜。
たくさんのひれみたいなものが立ち上がると、じゃらじゃらと鳴り始める。
まずい。
「呪文詠唱だ!」
「ライザ、皆で一瞬動きを止める! 大技いけるか!」
「任されたっ!」
此方も詠唱開始。
セリさんが先に詠唱完了。
地面から出現した多数の蔦が、一斉に毒竜に襲いかかる。レントをいなしながら蔦を防ごうと周囲を素早く見回した毒竜の頭上から。パティが飛燕のように襲いかかる。
だが、其方を毒竜が見た瞬間。
さっきパティがつけた傷を、深々とタオが抉っていた。
悲鳴を上げる毒竜。
更にレントが、踏み込みながら切り上げて。毒竜の前足を弾き返す。体勢を崩した毒竜に、蔓が襲いかかって、全身に絡みつく。頭を振ってパティをどうにか弾き返すが、完全に動きが止まる毒竜。
毒竜は、地面に身を沈み込ませると、かっと鋭い咆哮を上げ。
それで蔓が吹き飛ばされる。
セリさんの全力詠唱の植物操作を、あんなに簡単に。
だけれども、詠唱は阻害され。
確実な隙が出来た。
あたしはその間に、詠唱を完了させる。
一点収束型のグランシャリオ。
叩き込めば、此奴が例えどんな化け物でも、絶対に倒せる自信がある。ただ。さっきから少しずつ視界が歪んで行っている。
本当にまずい。
地の利は敵にあり。
そもそも此処は人間は入り込める土地じゃない。恐らくは対フィルフサ、対錬金術師を想定して作られた死の結界。
冷や汗が流れる中、あたしは衝撃に吹っ飛ばされていた。
地面に叩き付けられ、バウンドする。
木に叩き付けられて、全身の骨が軋んだかと思った。
なんだ、今の。
他の皆も、吹っ飛ばされて倒れている。毒竜が詠唱を短縮して、周囲全体を攻撃したのだと分かった。
歯を噛みしめると、立ち上がる。
血の味が口の中にするが、詠唱は中途。高まる魔力はまだある。
フィー。
大丈夫。懐にいる。今の一撃も、装飾品と、あたしの魔力がどうにかフィーを守った。
跳び上がる毒竜。
今のは、恐らくこいつの切り札。
本来は地面に叩き込んで盛大に土をまき散らし、周囲の敵全ての五感を潰す術だったのだろうと判断。
なぜなら、それが一番合理的だからだ。
あたしは詠唱を続ける。こっちを見る毒竜。
力勝負は避けるべきと判断したのか、飛び退く。
なるほど、かなり頭がいい。
だが、その瞬間。その脇腹に、バリスタみたいな矢が直撃していた。
クラウディアによる不意打ちだ。今の衝撃波を、音魔術で緩和して、そして倒れたフリをして隙を狙っていたか。
装甲の上からも、今の一撃はかなり効いた様子で、毒竜が蹈鞴を踏む。
そこに、今度はすり足で、パティが接近。
さっき吹っ飛ばされた事で、むしろ距離を取ることが出来。
それで、ダメージが小さかったのだ。
裂帛の気合とともに、抜刀。
大太刀が、文字通り毒竜の体を抉る。
鮮血が噴き出す。
それも毒の可能性が高い。
レントがパティを抱えて飛び退く。一瞬の差だ。本当に危なかった。
悲鳴を上げながら、それでも体勢を立て直した毒竜が。さがろうとするが。その足に、蔓が絡みつく。
セリさんの魔術によるものだ。
そして、その一瞬だけで、充分だった。
「グラン……」
詠唱を終える。
今の段階で。
あたしは火力偏重でいい。
火力を極限まで高めて、それで相手を貫く。
まだ小技はいい。
なぜなら、あたしの魔力はまだまだ伸びしろがあるからだ。伸びしろがあるならば、得意分野を徹底的に伸ばす。
石造りのそこそこ大きな家を消し飛ばす熱槍。
それを二万、収束させ。
あたしは、詠唱を完了させていた。
体にダメージは受けているが、それでもそんなのは昔からだ。昔から、傷だらけになって彼方此方走り回っていた体を舐めるな。
踏み込む。
土が盛大に巻き上がる。
こりゃ、この一発しか撃てないし、チャンスもないな。
だが、外さない。仕留め損なっても、絶対に皆が仕留めてくれる。
そう判断して、あたしは詠唱を完成させていた。
「シャリオッ!」
あたしの魔力と、切り札の蹴り技の混合技。対個体用、抹殺魔術グランシャリオ収束型。
ぶっ放される熱の槍が。動きを止めた毒竜に襲いかかる。
毒竜が、それを見てシールドを展開。
やっぱり此奴も出来るのか。
しかも、以前工房で見たガーディアンよりも更に多い。
これは、仕留め損なうか。
だが、その瞬間。
タオが躍りかかるのが見えた。
視界が歪んでいるので、何をやったのかははっきりは分からなかったけれども。それでも相当な多段攻撃を毒竜の顔に加えて。特に目を狙っていたようだ。
集中が途切れる。
タオが飛び退く。
たのむ、タオ、間に合ってよ。
そうあたしが呟くと同時に。グランシャリオが、毒竜に炸裂していた。
莫大な熱量が収束し、更にそれが拡散しないように一瞬で凍結させる。
濛々たる煙が噴き上がるなか、あたしは爆弾を取りだす。まだ、生きている可能性がある。
相手は竜の名を冠する存在だ。
こんな立地じゃなければ、もっと自由に戦えただろうけれども。それでも、ここでやるしかない。
相手がエンシェントドラゴンでも今は倒せる自信があるが。
それでも、ここまで地形が悪いと。
気分が悪くなってきた。
それだけ、相当な土埃が舞っていると言う事だ。
今は小雨が降っているが、そんな程度では防げっこない。
何とか顔を上げる。
手持ちは爆弾が幾つか。
だが。これはまずい。土が相当舞っていて、何が起きているかはっきりよく見えない程である。
なんとか踏みとどまるが。
いつ腰が砕けてもおかしくない。
声が聞こえる。
「ライザ!」
その声も、どこからしているか分からない。
フィーが、鋭い悲鳴を上げていた。
「フィー!」
「!」
跳躍。
あたしがいた側の木を、それが、毒竜の尾がうちくだいていた。衝撃だけで、吹っ飛ばされかける。
着地して、見る。
ぼんやりとだが、なんとなく分かる。
た、耐え抜いたのか。
違う。
直撃して、あれを耐えられる訳がない。既に土の飛散による五感の妨害は進んでいて、それで直撃しなかったのだ。
ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
あたしは深呼吸すると、皆に呼びかける。
「奴のダメージは!」
「体の左半分は吹っ飛んでる! だがそれでも動いていやがる!」
「だとすると……」
やはり、直撃を避けたから生きているだけか。
しかも、この状態なら撤退も手だ。放って置いても死ぬ。だが、それでも。今此処で仕留めておかないとまずい。
何をするか分からないからだ。
体を回復するために、周囲の集落を襲いに行くかも知れない。仮に死の森という此奴のテリトリから出ても、此奴の戦力はその辺の戦士なんか束になってもかなう次元じゃない。
此処で仕留めるしかない。
「な、なんとか支援する! 攻撃を続けて、とどめを刺して!」
「殆ど見えない……畜生っ!」
「時間を稼いで」
セリさんの声。
咳き込む声も聞こえた。
相当に厳しい状態だとみて良い。
まあそれもそうだろうな。そう考えながら、あたしも何とか移動する。左半分が吹っ飛んでいるなら、あいつも機敏には動けないはずだ。仮に再生能力があっても、である。
正確な位置さえ分かれば。
いや、待て。
「フィー。 あいつの位置、分かる?」
そんなに遠くないはずだ。
あたしに尻尾の一撃を入れた。しかも半死半生の状況で。
あたしは多分とどめを刺せない。セリさんが、今大きいのを準備している。だったら、それに賭ける。
「フィー!」
「おっけい!」
フィーのさっきの反応。
あたしより早かった。
多分だけれども、フィーには見えている。というか、フィーはこの環境を問題にしていない。
余程の極限環境で育つ生物なのか。
それとも。
いや、それはまだ判断が早い。だけれども、分かっているのは、今はフィーの反応を信じる事。
フィーが翼で指す。
頷いたあたしは、そちらに爆弾を。ローゼフラムを、投擲していた。
起爆。
炸裂と同時に、周囲が激しく歪む。それはそうだ。あの火力だし、周囲の土を盛大に巻き込んで、吹っ飛ばすはず。
凄まじい悲鳴。
毒竜のものだ。今度こそ、直撃。
体の半分が消し飛んでいる状態で、これをくらって無事で済むわけがない。更に、セリさんが、詠唱を終えた。
「風よ大地よ精霊よ……力を貸して。 永遠の牢獄よ、顕現せよ!」
悲鳴を上げる毒竜。
更に風が吹き荒れることで、一気に視界がクリアに。五感がはっきりしてくる。
見えてきた。
毒竜の左半身が消し飛び、右も胴体部分は殆どなくなっている。それでどうして生きているのか分からないが。
それでも、竿立ちになった巨大な毒竜の足下から頭上から、光が伸びている。
その光に沿って、一気に蔓が伸びる。
帯びている魔力が強烈すぎて、輝いて見える程だ。
そして蔓が毒竜を完全拘束すると同時に、花が咲く。あれは、危険だと一目で分かり、フィーを懐に入れて、腕で庇う。
「エタニティ……ブルームっ!」
無数の花が、同時に爆散する。凄まじい悲鳴を上げる毒竜が、上下真っ二つにへし折れる。
それでもなお、かちかちと顎を鳴らしている。まだ再生するのか。体の再生も始まっているようだ。
なるほど、ちょっと舐めていたかも知れない。
魔物を押しに押していた時代の、恐らく切り札とも言える。この封印を守るために配置されただろう生物兵器だ。
それが、エンシェントドラゴンより弱いというのは、あたしの見込みが甘かったか。
「あわせろ、パティっ!」
「はいっ!」
レントとパティが跳ぶ。
そして、完璧に息を合わせて、渾身の一撃を叩き込む。
体重を乗せ。身体能力強化の魔術で、最大限まで火力を上げた上段からの一撃をレントが。
更に、直前まで鞘に収め。
それを一気に抜き打ちする、大太刀の絶技をパティが放つ。
二撃は十時に交差するように、×を描くようにして毒竜の首に突き刺さる。半分だけ残っていた毒竜の頭が、それでも抵抗するが。
一瞬の後に、敗れていた。
毒竜の首が飛ぶ。
クリフォードさんが叫ぶ。
「トリアージ! ライザ、薬の位置を!」
「くっ……こんなに苦戦するなんて。 その荷車に!」
「畜生、位置がよく分からん……!」
クリフォードさんが呻く。
土が舞っている。
毒竜の死体は崩れ始めていて、それで死んだのは理解出来た。だが、奴との戦闘自体が、非常にまずい結果を生んだ。
あたしの想定以上に、五感を狂わせる土が舞っている。それが、腕輪による中和効果を越えているのだ。
「フィー! フィーフィー!」
「よし、分かった。 頼むよフィー、誘導して」
「フィー!」
そういや、あたしもちょっと血をたくさん流しているっぽいな。
急がないと失血死するかも知れない。
苦笑いしながら、フィーの誘導でどうにか荷車に。タオも辿りついていた。すぐに薬で手当てを始める。
クラウディアは倒れていて動いていない。
多分最後の毒竜の尻尾をもろに喰らったのだ。あたしはあれをまともに喰らっていたら、多分おだぶつだった。クラウディアは音魔術で防いだだろうが、それでもかなり危険な状況の筈。
自分の体を確認。衝撃波でもろに吹っ飛ばされ、木に叩き付けられたときのダメージが想像より大きい。
少しずつ周囲が晴れてきて、それで惨状が余計に露わになってくる。
無言で自分の傷に薬をねじ込んで、応急手当。此処までコテンパンにやられたのは久しぶりだ。
見通しが甘かったことが要因。
全てはあたしの責任である。
だからこそ、誰もしなせない。
ミスをリカバーできるのが、責任のある人間だ。
フィーと連携して、傷が深いクラウディアを運んできて、手当て。音魔術での防壁で守らなければ、多分首を折られていた。
痣が出来ているので、対策をする。血はそれほど失っていないのが救いか。
増血剤を飲み干すと、皆の手当てをする。
タオがフィーと連携して皆を引っ張ってくる。それくらい、五感が怪しくなっているのである。
それだけじゃあない。
雨が少しずつ強くなりはじめた。
或いはだけれども、今の苛烈な戦闘が原因で、粒子が舞って。それが原因で、雨雲が強くなったのか。
フィルフサとの戦いの時に使った戦術を思い出して。
あたしは苦笑する。
血の味がまだまだする。口の中も切ったと思う。
そのまま、手当てを続ける。
短いが凄まじい激戦だった。もう少し戦地が良かったら、此処までの被害を出さなかったかも知れないが。
それも結果論だ。
相手が地の利を得ていた。そしてそんな戦いはいくらでもある。それでも勝たなければ、死ぬだけなのだから。
クラウディアが意識を取り戻す。
激しく咳き込んでいるが、多分命にも別状は無いし、脳がやられてもいない。ただ。咳き込むときに血を吐いていた。
あたしの作った薬を入れるから、内臓へのダメージも回復出来るとは思うが。
それでも、流石に親友の酷い姿に心が痛んだ。
皆の手当てが終わってから、毒竜の解体を開始する。
年を経たドラゴンは、肉を食べずに魔力を食べているという話があるが。
此奴も胃袋の中は空っぽ。
幾つかの内臓は、爆発寸前の、臨界状態の魔力が満ちていた。それらを回収して、何度もばらしながら、まずは保存処置をする。
肉はこれは流石に食べられない。これだけの強烈な環境にいた生物だ。確定で毒があるとみて良い。だからエーテルに溶かして成分を分析する。燻製にだけはしておいたが、食べないように皆に釘は刺した。
ワイバーン肉は絶品なのだが。
たとえドラゴンがワイバーンの成体でも、これは流石に、皆食べる気にはなれないようで。あたしがいうと、疲れた笑みを返してくるのだった。
ただ、皮は剥いでおく。
この皮は、しっかり加工すれば、生半可な金属素材なんて鼻で笑う程の凄まじい代物になる筈。
前に古城で倒したドラゴンは。全火力で吹っ飛ばしたから、殆ど素材らしい素材も採れなかった。
だが今回は違う。
ただ、これが純粋種のドラゴンなのかはちょっと分からない。
それに近い存在なのは、ほぼ確定と見て良さそうだが。
今頃、パティがあっと声を上げた。
「どうしたのパティ」
「ま、まさか私、ドラゴンスレイヤーになったんですか!?」
「今更?」
「じ、実感がなくて……」
指をつきあわせて真っ赤になるパティ。
笑っても良かったのだが、タオが大まじめにそれに応える。
「そうだよ。 この首を持って帰って、アーベルハイム家に活用して貰おう。 今後パティは、竜殺しの武人として、百年来の英雄として将来の名声が更に確約されるよ」
「だからってまだ調子に乗ったらいけねえぞ。 まだ甘いところが多いからな」
「わ、分かってます。 ライザさんや皆さんの力がなかったら、絶対に倒せませんでした」
「……今の貴族共は阿呆の集まりだが、これは次の世代は自浄作用が働くかもしれんな」
クリフォードさんがぼやいて。
そして、決めたようだった。
「よし、パティ。 俺は話を受けるぜ」
「ええと……アーベルハイムに雇われてくれるという事ですか?」
「ああ。 ただし、今回の一件が終わった後。 それと、トレジャーハントの副業としてだ」
今度は、みんな遠慮なく笑う。
それは、好意的な笑いだった。
クリフォードさんは、死闘の後でも変わらない。なお激戦で右手の人差し指が吹っ飛んで。今薬でつなげたばかりだったのだが。それでも、こんな事をいう余裕がある。それだけで、凄い人だった。
そんな人に対する、敬意の篭もった笑いだった。
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