暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
そしてある程度の覚悟もしていたのですが。
ライザが訪れた王都では、既に錬金術は滅び、その影も形もなくなっていたのです。
ヴォルカーさんと、パティと。
後は何人かの手練れとともに、街の外に出る。
西側から出て、迂回するように街の南に。案の定、ヴォルカーさんは忙しいらしく。今日中に性能試験が出来るという話を聞くと、即座に腰を上げてくれた。
というか、こんなに早く発破を用意するとは思っていなかったらしい。
半信半疑の様子だったが。パティが耳打ちしていて。
それで、頷いていた。
話の内容は流石に聞こえなかったし、聞くつもりもなかったが。
パティは今の時点では、あたしに悪印象を持っていない。
あたしも、パティと上手くやっていきたいと思っている。
貴族としてのアーベルハイムには微塵も興味がない。
今日一緒に過ごしてみて、良い子だと思ったからそう考えているだけである。
魔物が遠巻きにこっちを見ているが。あたしがにこりと笑顔を向けると、さっと散って行く。
この辺りの魔物は雑魚ばかりだ。
ヴォルカーさんは、てきぱきと鎧で武装して出て来たが。
多分、ヴォルカーさんがいるのもあるのだろう、と思う。
「この辺りは、形式的に私の領地と言う事になっていてね」
「領地ですか」
「そうだ。 それで、この辺りで生活している民のために色々と手を打っているのだが。 そもそも基礎的なインフラが見ての通り壊滅的なのだ。 そこで、発破を作ってもらった訳だ」
「なるほど、分かります。 あたしの暮らしていたクーケン島の周辺も、彼方此方道が寸断されていたりして。 随分と苦労しました」
道が途切れている場所に出る。
大きな岩が崩れていて、道がふさがれていた。
これは、確かに手動で崩すのは大変だろう。
勿論やれないこともないのだが。
恐らくは、こんなのが彼方此方にあるとみた。
さっそく、あたしは発破を取りだして、実演する。その間、マニュアルをヴォルカーさんとパティは見ていた。
「実に分かりやすいマニュアルだな」
「タオさんが説明を受けて書いていました。 ライザさんと故郷が同じと言う事で、同じような作業を故郷でもしていたようです」
「なるほど、息があっているのも納得出来るな」
「魔術の技量はあの凄まじい魔力に相応しいものだというのは間近でみました。 問題は……あの爆弾ですが」
父にも敬語で喋るんだな。
或いはだけれども、外で部下が一緒にいるから、かも知れない。
発破を仕掛けたので、あたしが手を振る。
「これから爆破します。 念の為に、離れてください」
「よし、皆離れろ!」
わっと、護衛らしい手練れ達が離れる。
紐を引いていく。
マニュアルにて説明したが。この発破は三段階を経て爆破する。
まずは解除のワードを唱える。解除は、発破に触れながら唱える。そうしないと、関係無い別の発破まで解除のワードが届いてしまうからだ。発破も、触れながら解除のワードを唱えないと、起爆できないようにしてある。
続いて。この紐に火をつける。
最後に起爆のワードを唱える。
そうすると、紐の火が発破に到達した瞬間、起爆する。
三段階目は、それそのものが二つの段階を経て爆発するようにしてあるのだが。これは、何度かこの手の発破を生産して。
それで、ただワードを唱えるだけだと作業になると言う指摘がアガーテ姉さんからあったからだ。
アガーテ姉さんと一緒に、護り手達と各地のインフラの整備を行ったのだが。
それらの作業時、何度かこういう風に発破を使った。
それらの時に、アガーテ姉さんに指摘を受けたのである。
外部の人間から指摘を受けるのはとても良いことだ。
そう思って、即座にあたしも改良したのである。
手順を踏んで、紐の火が発破に到達。あたしも、起爆のワードを、避難が終わっているのを確認してから、唱えていた。
起爆する。
爆発は、主に上と横に拡がるものだが。
この発破は、爆発した近くの岩を貫くように、ある程度指向性を持って熱と爆風を目標に叩き付ける。
一応魔術でシールドを張っていた護衛達だが、必要は無い。
ドンと炸裂音がして。
綺麗に、岩が消し飛んでいた。
おおと、ヴォルカーさんが呟く。
「発破は実の所、稚拙なものではあるが今でも存在している。 まさかこれほどの品質のものを見る事になるとは……」
「一つだと偶然かも知れませんし、他にも試験を見て行ってください」
「う、うむ」
パティは呆然としている。
あたしが声を掛けると、はっとしたようだった。
「ほ、本当に貴方は何者なんですか。 偉そうにしている王宮魔術師なんて、足下にも及ばない……」
「パティ」
「は、はい」
ヴォルカーさんに声を掛けられて、パティが背筋を伸ばす。
あまり怖がられないようにしないとな。
そう思いながら、次の場所に。
いっそ、今日中に主なところの岩は全部潰しておくか。
そう思って、次の岩も、手際よく爆破する。
夕方になってきた。
一番厄介だという大きな岩の前に来る。これは、一つでは駄目だな。岩を砕いてしまう方がいいか。
あたしの熱魔術で、と思ったが。
これは発破を使って、誰でも砕けないと意味がない。
というか、いずれバレンツ商会に卸して。それをアーベルハイムで買って貰うという手もある。
「これは、一つだと砕ききれませんね。 二つ爆破が交差するようにして、岩を粉砕します」
「分かった、やってみてくれ」
「はい」
即座に発破を仕掛ける。パティが手伝おうかと言ってきたので、頼む。恐らくヴォルカーさんに言われたんだろう。
あたしが魔術師として優れているのは、ヴォルカーさんも疑っていない。
何か変な事をしていないか、確認しろ。
そういう意図があるのかも知れない。
「パティもやってみて。 解除から、起爆まで一連の動作」
「分かりました」
「爆発は、この筒状の構造に沿って行われるようになっているんだ。 仕掛ける方向には気を付けてね」
「はい」
パティに指導しながら、一緒に仕掛ける。
充分に紐を引きながら距離を取る。
なお、仕掛ける際に、セットにしてある接着剤を用いるようにもマニュアルに書いてある。これは住居用の接着剤と同じで、制御が簡単だ。接着剤を用いる事によって、発破が倒れたり向きが変わったりして、爆風が飛んでくる事故を防げる。
パティは火打ち石を使って紐に着火。あたしは熱魔術を使う。
じっとヴォルカーさんが見ている。
パティでも出来るなら、誰でも出来ると言う事になる。或いは、自身でもやってみたいのかも知れない。
「よし、起爆!」
「き、起爆っ!」
なお、解除のワードを使った人の生体魔力を認証するようになっているので、基本的に仕掛けた人にしか起爆できない。
パティも起爆ワードを唱えて。
そして、爆発が交錯していた。
巨岩が真っ二つになって、煙を上げながら崩れ落ちる。それを見て、護衛の手練れ達がおおと喚声を挙げていた。
「ライザ君」
「はい」
「私にも試させてくれるか。 君を疑う訳では無いが、皆にも指導しなければいけないのでな」
「分かりました」
ヴォルカーさんが、自身でも試したいというので、早速やってみる。
街道を塞いでいる大岩はまだある。
この辺りは、前任者が見境なく開拓したせいで、こんな有様らしく。一度こういう岩を全部片付けて、街道を通さないといけないらしい。
多分だけれども。
成り上がりだろうアーベルハイム家に対するくだらない嫌がらせなんだろうな。
そう思って、あたしは無言で協力する。
起爆は、当然上手く行く。
更に、護衛の手練れにもやらせて。それも上手く行くのを確認してから、ヴォルカーさんは引き上げを宣言。
手練れの戦士達も、昂奮した様子で雑談していた。
「今まではあの岩一つ壊すのに、手練れを呼んで命がけで……」
「魔物がいるかも知れないから、今後も油断はできないが、それにしても凄いな。 あの魔術師、何者なんだ」
「アーベルハイム卿が呼んだ凄腕らしいぞ」
「とにかく、仕事が楽になるし、この辺りに住んでる連中もずっと安全にこれからは生活出来る」
帰路、ヴォルカーさんは無言で。
そして、邸宅に着くと、契約書を出してきた。
即座に印を押して、手渡してくれる。
「家賃はタダで良いんですか」
「うむ。 その代わり、錬金術というものによる産物を、ある程度納入してくれ。 私の所ではなく、カフェにだ」
「カフェですか?」
「冒険者や傭兵が集まるカフェがあってな。 基本的に困りごとがあったら、其処に行くように私が手を回している。 君のその力は、アーベルハイムだけで占有するのは良くないと判断した。 是非、王都に暮らす民のために使ってほしい」
カフェの場所なども教えて貰う。
というか、このカフェ。王都に来て、最初にタオやボオスと話をした場所ではないか。
妙な縁もあるものだな。
いずれにしても、民のためというのであれば、引き受ける。
勿論民の全てが善良だなどと思ってはいないが。
それでも、相対的多数のためになることならやる。
逆に、バカ貴族の嗜好品なんて、絶対に納入はしないが。
「今日一日だけで、あの付近に住んでいる住民の安全をどれだけ確保しやすくなったか分からない程だ。 追加であの発破を二十、出来次第でいいから納入して貰えるだろうか。 此方には料金を払わせて貰う」
「分かりました。 数日以内には」
「うむ……」
苦労を知っている顔で、ヴォルカーさんは目を細めた。
あたしは礼をすると、アーベルハイム邸を後にする。
さて、此処からだ。
一つずつ、処理をしていかなければならないな。
まずは、タオと連携して、あの宝石がなんだかを調べてしまわないといけないだろう。
その後は、周辺にある遺跡を調べる。
古代クリント王国時代のものだったら、ろくでもない代物である可能性が高い。
場合によっては、全て破壊し尽くす必要もあるだろう。
アトリエに戻る。
とにかく広いので、ゆっくり出来る。
家賃も幸いタダになった。
ただ、これから。
王都の人のために、色々やっていかなければならない。それもまた、事実ではあったのだが。
パトリツィアはライザが戻ると、大きな溜息を零していた。
一緒に発破を起爆したとき、これは人間の作ったものなのかと、心底から震えが来たのである。
ライザという人に、裏表がないのはよく分かった。
勿論ある程度の計算はして話はしているのだろうが。
それでも、パトリツィアを知ろうとしてくれていたし。
特別扱いもしなかった。
何か分からない事があれば答えてくれたし。
嫌がる事は、強制もしないように見えた。
それなのに。
どうしてももやもやする。
タオさんと。
始めて本気で尊敬できた人と、あれだけ仲良くしているのを見ると、どうしても胸が熱くなる。
怒りではない。
多分嫉妬か。
確かに、ライザという人に、今パトリツィアが勝てる要素は一つもない。
格闘戦でも無理だ。あの人のあの蹴り技、今まで見た手練れの誰よりもとんでもない破壊力だった。
それでいながら、ライザという人が手加減して、殆ど全力を出していないのも分かった。
何より錬金術。
あの驚天の技は、それこそアーベルハイムが今まで四苦八苦していたインフラの不備を、一日でほとんど木っ端みじんに吹き飛ばしてしまった。
何も、勝てる所がない。
容姿なんて、どうでもいいと思っている。
パトリツィア自身、別に自分の容姿を優れていると思っていないし。ライザという人もそうであるようだった。
能力や、人格、スキル。それらの問題。
それら全てで、パトリツィアはあの人に勝てない。
そう思うと、悔しいというよりも、歯がゆかった。
父に呼ばれる。
すぐに執務室に出向くと、軽く話をした。
「錬金術というのを見たのだね。 どうだったか話してくれるか」
「はい。 釜にエーテルを満たしているのは分かりました。 其処から極めて複雑な処置をして、様々なものを作り出していたようです。 あの発破も、複雑な行程を経て作っていたように見えました」
「実は、錬金術と言うのは、名前だけは知っている」
「そうなのですか」
伝説的なものだと、前置きした上で父は言う。
百年ほど前。王宮でそういうものを研究していたらしい形跡があるというのだ。
だがそれは、謎の事故で全てが散逸。更に何か起きたらしく、関係者が全員不審死を遂げている。
それ以来、錬金術の研究は行われず。
錬金術は歴史の闇に消えたという。
「あくまで伝説の一つだと思っていたのだが。 あの力は、国を文字通りひっくり返すものかもしれん。 それも、今のロテスヴァッサのような形だけの国家ではなく、古代クリント王国全盛期の領土全てをだ」
「恐ろしい力ですね……」
「パティ。 ライザ君にしばらく同行して、様子を見なさい。 錬金術と言うのは、非常に属人的な技術とみた。 もしも危険な考えを持っているようなら、対処が必要になるかも知れない」
「分かりました」
もしも、あの人が。
非常に危険な考えを持っているのならば、相応の対応をしなければならない。
その相応な対応には、血を見るものも含まれるだろう。
というか、その程度で勝てる相手なのか果たして。
あの人の実力。
騎士の資格だけ取って、後はのうのうとしているような人間なんて、それこそデコピン一発というレベルにパトリツィアには見えた。
それだけじゃあない。
元々辺境の、強力な魔物を相手に揉まれていたという事もあるのだろう。
考えもしっかりしているし、兎に角隙だってない。
最悪の場合は、この国がなくなるかも知れない。
この国がなくなる事なんてどうでもいい。
今のロテスヴァッサの王室は、貴族達同様阿呆の集まりだ。見ていて反吐が出てくる程無能である。
このロテスヴァッサという張りぼて国家がなくなることについては、パトリツィアもどうでもいいと考えている。
だが、王都アスラ・アム・バートで毎日の生活をしている人達を守らなければならない。
そのためには、なんでもしなければならないのだ。
それが本当の、上に立つ人間の責務というもの。
金勘定をしているだけ。それだけなのに、偉いと考える阿呆と同じになってはいけない。
パトリツィアは頬を叩いて気合いを入れ直すと。
ライザという人について、調べようと思った。
タオさんは、あれだけ褒めていた。
側にいて、危険な人だとも感じなかった。
だけれども、やはりまだ信用しきれない。ましてや、今は錬金術の正体が全く解らない事もある。
分からないものを馬鹿にして掛かったり。
或いは否定して掛かる輩はどうしてもいる。
そいつらは軽蔑していたつもりだったのに。
自分もいざ、あまりにも分からないものを目の前にして、恐怖しているのを自覚したとき。
パトリツィアは、強い自己嫌悪に陥ったのだった。
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