暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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ついに迷いの森の深奥にて、毒竜をしとめたライザ達。

安全を確保したことにより調査が可能になり、羅針盤を用いた調査に移ります。

今の状況がどれほど危険か分かっていない状態は、いつ爆発してもおかしくない爆弾の上にいるのと同じです。

早急な調査が必要ですが……

その前に、毒竜の体内から。得られたそれは。この世界の錬金術にとって、あまりにも重要なものでした。

それが粗悪品であっても。


後一歩の真相
序、セプトリエン


やはり粗悪品か。

 

あたしは、抽出したセプトリエンを使ってトラベルボトルを書き換え。その中から、セプトリエンを回収してきた。

 

ともかく、これがどんな代物なのか、殆ど分かっていない。

 

アンペルさんも呼んできたが。

 

現物を見て、アンペルさんですら度肝を抜かれたようだった。

 

「強力な毒竜の体内から見つけたのか」

 

「はい。 圧縮された魔力が、年月を掛けて作るという話でしたが……」

 

「そうだな。 そういう意味では、これはまだ質が悪いのかも知れない」

 

「インゴットに加工してみます」

 

アンペルさんも見守る中。

 

エーテルに溶かして、インゴットに加工して見る。

 

虹色に輝いていたセプトリエンは、やがて美しい青色のインゴットに仕上がっていた。

 

これを、グランツオルゲンというらしい。

 

アンペルさんも、名前しか聞いたことがない幻の中の幻。

 

ゴルドテリオンですら、今は現物が殆ど存在していないのだ。

 

文字通り、究極のインゴットだと言えた。

 

「うーん、インゴットにして見ましたけど、どうですかこれ」

 

「金属としてと優秀というよりも、異次元の魔力媒体だな」

 

「あたしもそう思います」

 

とりあえず、アンペルさんにもサンプルは分ける。後から来たリラさんが、グランツオルゲンを見て、驚いていたが。

 

驚くだけだ。

 

もう、あたしが何をしても不思議では無いと思っているようだった。

 

いずれにしても、これは金属としては使い物にならない。

 

だが粗悪品だとしても、セプトリエンだ。

 

何か加工方法はないか。

 

そう思って、あたしは。

 

夜遅いギリギリの時間に、鍛冶屋であるデニスさんの所を訪れていた。

 

デニスさんは、こんな日もひたすら鍛冶をしていた。

 

王都が大荒れだろうに。

 

本当に、商売よりも鍛冶が大事なんだな。

 

そう思って、ちょっと苦笑してしまう。

 

あたしがグランツオルゲンを持ち込むと。

 

流石にデニスさんも、それを見て驚いたが。

 

「これは……」

 

「試作品の粗悪品です。 ちょっといい鉱物を手に入れたんですが、どうもうまく加工できなくて。 案はありませんか」

 

「見せてご覧」

 

引き渡す。

 

そういえば、デニスさんにこの間きいたが。

 

なんだかのコンテストに出るつもりらしい。

 

貴族が喜びそうな細工物のコンテストだが。

 

あくまで技術力でデニスさんは勝負したいらしい。それで腕を磨くことだけが目的だそうだ。

 

そういう人がもっと増えてくれれば。

 

王都の……いや人類のテクノロジー衰退にも、歯止めが掛かるだろうに。

 

とにかく、この人は人類の宝だ。

 

それに違いは無い。

 

「この鉱物は、恐らくだけれども……単体では力を発揮できないと思う」

 

「合金にするべき、ということですか」

 

「そうだね。 今まで持ち込んで貰ったゴルドテリオンを、何倍にも強化するような作り方をして見てはどうだろうか」

 

「分かりました。 試してみます」

 

合金、媒体。確かにそれも一利ある。

 

というか、それだったら。

 

今まで使い物にならなかった鉱石を、極限まで強化出来る可能性もあるかも知れなかった。

 

幾つかの案を考えながら、アトリエに戻る。

 

もう時間だ。

 

眠るべきだ。

 

公衆浴場で風呂に入って、それでさっさとアトリエに戻って。戸締まりをして、眠る事にする。

 

外がある程度騒がしいが。

 

毒竜と戦ったのだ。

 

そんなのは気にならず。

 

すぐに、すてんと落ちてしまっていた。

 

 

 

感応夢を見る。

 

あの遺跡だ。

 

それがすぐに分かった。若々しい女性。恐らくこれが、不死の魔女なのだろう。側についているのは、分かりやすいイケメンの騎士だ。これがくだんの恋人だろうか。見た感じ、それほど戦士として良い腕には見えない。

 

そうなると、なんというか趣味で選んだ男だったのかも知れない。

 

墳丘が作られている。

 

それを指揮している人間は、白衣を着込んでいた。

 

白衣は真っ白で、今のテクノロジーだと作れそうにない。そもそもこんな白い生地、作れないだろう。

 

これが当時ではスタンダードだった。それが、今ではロストテクノロジーになってしまった。

 

「封印の進捗は現在95パーセント。 どうにか完成までこぎ着けられそうです」

 

「そう、それは良かった。 どうやらクリント王国の攻勢に間に合いそうね」

 

「そうですね……」

 

「此処に配置する守護者を、前線に投入できないかと声が上がっています。 各地で押される一方で、悲鳴に近い懇願です」

 

戦士らしいのが言うが。

 

不死の魔女は、それを突っぱねていた。

 

「此処の守りに必要よ。 それに此処を離れたら、もとのスペックの三分の一も出せないように調整してあるのよ」

 

「それはそうですが……前線では戦士も兵器も足りておらず……」

 

「焼け石に水よ」

 

厳しいものいいだ。

 

そして、時間が不意に跳ぶ。

 

既に、周囲に人はいない。

 

どうやら此処は、封鎖されたようだった。

 

不死の魔女が、最後に確認のために訪れたらしい。完全に死の森となった様子を見て、満足。

 

そして、自身も咳をすると。

 

その場を去っていった。

 

恐らく、恋人は既に死んだのだろう。

 

死を受け入れているのが、見ていて何となく理解出来た。

 

この人は、業が深い人だ。

 

それはもう分かりきっている。

 

本人だって、それは理解しているだろう。

 

天国で恋人に、なんて事は考えていないはずだ。

 

この人も、古代クリント王国の錬金術師達ほどではないにしても、エゴを優先した。その結果、力を持つものの責任を放擲した。

 

多くの犠牲がそれで生じた。

 

その中には、多数の人の命だってあった。

 

だけれども、この人は。

 

最後に恐らく門……オーリムにつながるものだけは封じた。

 

最後の最後に、一つだけ世界のためになることをした。

 

ただ、それだけだったのだろう。

 

目が覚める。

 

大きな溜息が出た。

 

立場が変わると、人間は変わる。

 

それはあたしだって分かっている。

 

父さんと母さんだって、若い頃は今とは違って、新しいものをどんどん受け入れる性格だったはずだ。

 

それが今ではすっかり保守的になって。

 

あたしだって、いつ変わるか分からない。

 

というか、もう変わっているかも知れない。

 

クーケン島を走り回っていた頃の、幼い頃のあたしが今のあたしを見たら、単純に怖がる可能性だってある。

 

十年だか後に。

 

権力とかを握ったあたしは、今のあたしを鼻で笑うような邪悪な存在に変わり果てているかも知れない。

 

油断すると、すぐそうなるはずだ。

 

だからあたしは、先人の過ちを見て。そうならないように、自分で言い聞かせなければならない。

 

あたしが一介の農婦で。世界に与える影響が小さかったら、別に年とともに変わっても良かっただろう。

 

あたしは世界の命運を左右できるほどの力である錬金術を握っている。

 

そんなあたしが。

 

安易に立場で変わる事は、許されてはならないことだった。

 

伸びをして起きだすと、くみ置きをしてある水で顔を洗い。そして外で軽く体を動かして。

 

そして、朝の内にやれることをやっておく。

 

黙々と植物の世話をしているセリさんと、農業区であったので、軽く挨拶をしておく。

 

毒竜との戦闘で、セリさんも怪我はそれなりにしたが。

 

あたしの薬ですっかり回復しているようで。特にどこかを痛めている様子はないようだった。

 

それに、あたしを信頼してくれたのだろう。

 

少しだけ、表情も柔らかくなっているように思う。

 

「朝のミーティングには行くわ。 先に手入れだけしておく必要があるから」

 

「研究の成果、出ていますか?」

 

「やはり浄化の機能が弱すぎて話にならないわね。 もう少し色々と植物の種を集めてきたいわ」

 

「わかりました。 遺跡などで見つけたら、遠慮なく持って行ってください」

 

セリさんだって、オーリムのために必死だ。

 

その気持ちがわかるから。あたしも協力は惜しまない。

 

先祖が滅茶苦茶にした土地だ。

 

あたしも、無関係だと口にするつもりはないし。

 

先祖と自分は関係無いとか、抜かすほど恥知らずではない。

 

アトリエに戻ると、パティが最初に来る。

 

フィーもその頃には目が覚めていて。

 

パティを見て、嬉しそうに飛んでいく。

 

頭をすりつけるフィーに、パティも嬉しそうである。

 

「パティ、おはようございます」

 

「フィー!」

 

「すっかり仲良しだね」

 

「はい。 なんだか他人とは思えなくて」

 

仲が良くて思わず目を細めてしまう。

 

だけれども、フィーは状況次第では。

 

いや、それは今は考えない方向で行こう。

 

ともかく、これから数日で、やる事を今日決めてしまう必要がある。

 

勿論今日は、これから「深森」の遺跡に出向いて、羅針盤で残留思念を見て回るのだけれども。

 

それ以外にも、戦略を練っておきたいのだ。

 

今日はクラウディアに加えて、パティも参加しない。

 

ただ、ミーティングには出てくれる。

 

情報を共有して。

 

今後に備えるためだ。

 

皆が徐々に揃い始める。最後に来たのがクラウディアだった。ちょっと菓子を焼いていたらしい。

 

クラウディアはこれから数日来られない可能性があるということで、それもあって保ちが良い焼き菓子を多めに準備してくれた、ということだ。

 

あたしが結構食べるので。

 

それなりの量を作ってきてくれたというわけだろう。

 

フィーがボオスの頭に乗る。

 

いつもの光景だ。

 

ボオスも文句は言うが、フィーを追い払う事はない。

 

フィーはすっかり皆に愛されている。

 

だけれども、幼い頃に可愛いのは、猛獣も家畜も同じだ。フィーが今後どうなるか、分からない。

 

それもまた、皆理解している筈だった。

 

「それじゃ、朝のミーティングを始めるよ」

 

「それじゃあ、私からね」

 

クラウディアが挙手。

 

そして、これから三日ほど来られないと最初に告げた。

 

まあ、そうだろうな。

 

王都は閉じた経済圏とは言え、それでも相当なお金が動く。パティが呼び水になったとはいえ、幾つかの貴族の家が失墜するのは確定だ。

 

後から聞いたのだが。

 

その中の一つは、以前パティとあたし達に無礼な言葉を掛けてきた貴族の令嬢の家であるらしい。

 

まあ、ざまあみろとも思わないが。

 

一度酷い目にあっておくのは、それはそれでいいと思う。

 

それで反省できたのならよし。

 

反省できないのなら、そこまでの人間と言う事だ。

 

あたしはその後どうなろうとしらない。今までバカみたいな富で贅沢をしてきたのだ。それがどういう事だったのかを、理解すればいい。

 

「俺も連携して動いて良いか」

 

「ボオス君も。 助かるわ」

 

「ライザの影響力は想像以上に大きい。 クーケン島に戻った後も、それは同じだろうからな。 俺がクーケン島の窓口として、対応する必要がある。 今のうちに、もっと規模が大きい王都での立ち回りで、経験を積んでおきたい」

 

ボオスも真面目なことを口にしている。

 

もうボオスは、昔の猿山のボスではない。

 

それを理解しているから、誰も茶化す事はなかった。

 

次に挙手したのがパティである。

 

「私も今日は出られません。 今日一日で済むと思います」

 

「一応、何があるかは教えてくれる?」

 

「はい。 まずは王宮に出て、毒竜の首を王族に見せてきます」

 

既に防腐処置もしてあるので、百年以上ぶりのドラゴン退治の成果を見せる事になるだけだという。

 

王の前で色々と儀礼的なこともしなければならない。

 

それだけではない。

 

今回の件で、パティに……アーベルハイム家に敵対的な幾つかの貴族が、大ダメージを受けて。

 

政治闘争ばかりにかまけていた貴族も、大混乱に陥っているそうだ。

 

もとからアーベルハイムに友好的だった目端が利く貴族はそのままで良いとして。鞍替えを望む貴族に、対応しなければならないらしい。

 

ヴォルカーさんが、パティにその対応の一部を任せると言う。

 

「私もボオスさんと同じで、早めに経験を積むことになります。 今のうちに、こういうのには慣れておかないと」

 

「正装としてドレスとか着るの?」

 

「いえ、この胸当てと戦衣、それに腰に大太刀のままで出ます。 これが私の正装に今後なると思います」

 

なるほどね。

 

銭勘定しか出来ない貴族とは違う事を、姿格好で既に見せると言う事か。

 

まあそれはそれで、アーベルハイムのやり方なのだろう。

 

あたしが口を出すことでは無かった。

 

「僕は明日、ちょっと授業に出ておきたい」

 

「タオは明日か……」

 

「前倒しで単位はとってあるんだけれども、それでも幾つか前倒しで片付けておきたいことがあってね」

 

「俺は一日空けると、取り戻すだけで一杯一杯なのにな」

 

ボオスがぼやく。

 

この辺りは、田舎のガキ大将だったのと。

 

幼い頃から本当に学問が好きだった人間の違いだ。

 

特にタオの場合は、暗号解読を本気で幼い頃から取り組んでいた、と言う事ある。学問に対する考えが、根本的に違うのだろう。

 

あたしも新しい知識に対する敬意は、今では持つようにしている。

 

だから、昔からタオが知識に目を輝かせていたことについては、理解出来るようになっていた。

 

あたしは、感応夢を見たことを告げておく。

 

久しぶりだなと、レントが言う。

 

あたしもそうだと頷いていた。

 

「恐らく、遺跡の深奥に足を踏み入れたから、なんだろうね。 出来れば今日で、あの遺跡「深森」の調査は終えて、次の戦略を立てるよ。 明日は調査のまとめのために、一日空けるかも知れない」

 

「その間に俺は俺なりに情報を集めておく」

 

レントが言ってくれたので、頼もしい。

 

では、これでミーティングは終わりだ。

 

すぐにアトリエを出る。

 

クラウディアとパティは此処で一旦お別れだ。まあ、一日と三日、それぞれ探索に参加しないだけだが。

 

パティはすっきりした表情で、敬礼をしてくる。あたしも敬礼を返す。

 

パティはパティで、これから戦いに赴くのだ。

 

あれだけの覚悟をヴォルカーさんの前で見せたのである。

 

更には、ドラゴンスレイヤーとして王都で名前を一気に拡げた事もある。

 

好機だ。

 

これを逃すわけにはいかないだろう。

 

王都を出る。

 

クリフォードさんが、ぼそりとぼやいた。

 

「ろくでもない貴族や金持ちは幾らでも見て来たが、あの子は違うな。 将来は大物になるぜ」

 

「そうですね。 あたしも連携して、少しでもこの世界をよくするように動いていきたいところです」

 

「ライザも、もっと成長するとなると、世界全部に影響を与えるようになるんだろうな」

 

「そうかもね。 ただその場合は、護衛がいるかな」

 

皆には皆の人生がある。

 

あたしもそれは同じだ。

 

専属の護衛は、今一緒に、王都周辺の調査をしている面子からは見繕えないだろう。

 

そうなると、理論的には出来る人工生命の創造。そこから、考える必要があるかも知れない。

 

まずは、今日やるべき事からだ。

 

「深森」が、いまだに死の森であることは変わらない。更には、今日は朝から晴れている。

 

調査のための時間は、あまりないかも知れない。

 

とにかく、急がなければならなかった。

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