暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2   作:dwwyakata@2024

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研究施設であった以上、残っている残留思念は人間の業そのものを現すものです。

今までの遺跡でも見て来た以上のドス黒い残留思念を、ライザは見る事になります。


1、残留思念の混沌

遺跡に到達。もう危険ラインは危険ではない。腕輪による防御が、それだけ強力と言う事だ。

 

まずは展開して、周囲を調べる。

 

魔物は、ないと。

 

それはまあそうだろう。

 

危険ラインを越えると、五感が狂ってまっすぐ進む事すら出来なくなるのだ。

 

そこから随分内側にあるこの辺りは、死の世界である。

 

虫も鳥もいない森は。

 

どうしてか、静かなのに。

 

とてもグロテスクな場所に思えるのだった。

 

「魔物の姿無し」

 

「よし、羅針盤使うよ。 危険な場所に足を踏み入れそうになったら、とめてね」

 

「ライザ、僕は先に彼処を調べても良いかな」

 

タオが挙手。

 

奥にある墳丘を指したので、頷く。

 

先に調べるくらいはいいだろう。

 

ただ、此処は危険な場所だ。それについては、タオも前が見えなくなるほうである。しばし考えてから。レントに頼む。

 

「レント、タオの護衛をお願い」

 

「大丈夫なのか」

 

「あたしにはセリさんとクリフォードさんがついているから平気だよ」

 

「分かった。 とにかく、そいつは使ってる間無防備になるみたいだし、気を付けろよな」

 

頷く。

 

そして、羅針盤を開いて、調査を開始する。

 

さて、此処からだ。

 

周囲には残留思念がある程度あるが。以前の工房ほどの密度では無い。こんな程度なのかと、ちょっと拍子抜けだ。

 

そもそも広さで言うと、それほど広い訳でもない。

 

或いは、此処は。

 

彼方此方見て回る。

 

泣いている子供。遠巻きにして見ている白衣の連中。

 

子供の格好は裸同然で、奴隷として連れてこられた子供だというのが一目で分かった。恐らく、実験として使い潰されているのだ。

 

「実験対象A103、錯乱。 視覚、聴覚、ともに喪失」

 

「いいぞ。 そのまま観察を続行」

 

腹の底から怒りが湧いてくる。

 

倒れた子供が、口から泡を吹き始めても、研究者達はむしろきゃっきゃっと喜んでいる有様だ。

 

「素晴らしい。 封印を完成させた後、この技術を使って、クリント王国のアーミーも錬金術師も、地獄の檻に叩き込んでやる」

 

「そうだな……」

 

「時間が多分足りないだろうよ。 残念だが……」

 

「俺はこの技術を持っていくぞ。 そして連中にいつか地獄を見せてやるんだ」

 

反吐が出る発言をしているな。

 

それが上手く行かなかったのは、後の時代の歴史が証明している。

 

ということは、この研究員は。

 

自分がやった事の罪悪感も感じず。

 

ただ何処かで、朽ち果てたのだろう。

 

他の残留思念を見る。

 

比較的年かさの男性だが、罪悪感に苦しんでいるようだった。

 

「今日も五人も発狂して死んで行くのを見た。 こんな非人道的な実験、許されることではない。 相手が如何に化け物で、そうしないと食い止められないといってもだ。 だが、今もあの場所で、多くの戦士達が必死の防戦をしている。 クリント王国の鬼畜どもにたいする戦力すら削って、戦士を回しているのは。 あそこにいる化け物が、それだけ危険だからだ。 それが分かっていても、この非道な事には報いがあると思う。 誰もが嗤うかも知れないが。 私は地獄に落ちるだろう」

 

そうだな。

 

あんたは地獄に落ちるよ。落ちただろうよ。

 

そうぼやく。

 

罪悪感があろうと、やったことはやったことだ。

 

ここで行われた実験は、古代クリント王国のものと同レベルの非道さ。

 

こんな事をやった人間は、錬金術師だろうが研究者だろうが、全員地獄に落ちて当然だろう。

 

だが、そんな研究が、もしも封じたのがフィルフサと門だったら。

 

世界を救ったことになる。

 

皮肉極まりない事だった。

 

見える。

 

あれは、大きななにかの甲殻。

 

随分と破損が酷いが。

 

見覚えがある。

 

破壊され尽くした残骸を前に、戦士と研究者が話をしている。

 

「化け物どもの指揮官級の個体を討ち取った。 此奴を倒すだけで、百人の戦士が命を落としたが、その代わり多数の化け物が混乱し、足止めが出来た」

 

「もっと完全な形で持ち込めなかったのか」

 

「そういうなら自分でやってみろ。 一兵卒ですら此奴らは、魔術は通じないし生物急所もないんだぞ」

 

「ちっ……」

 

戦士と研究者は仲が悪いようだ。

 

戦士の側には、フィーに似た影がいる。

 

「フィー!」

 

「こいつには随分と助けられた」

 

「……の精だったか。 神代の遺跡からたまに見つかるらしいな」

 

「ああ。 だがあまり長くは生きられないらしい。 こいつの同族も、どこにもいないしな」

 

ふんと鼻を鳴らす研究者。

 

顔はよく見えない。

 

戦士もそれは同じだ。

 

仲が悪いし、互いの事もどうでもよかった。

 

この残留思念からだけでも、それが見て取れる。

 

「とにかく、これで少しでも研究を進めてくれ。 俺はすぐに前線に戻って、敵と戦う」

 

「そうしろ。 貴様らにはそれくらいしか出来ないのだからな」

 

「俺たちがサンプルを持ってこなければ、貴様らは研究を微塵も進められないだろうが」

 

ばちりと火花が散るが。

 

時間がもったいないと思ったのだろう。

 

戦士の方が、先に部屋を出て行った。

 

ぶちぶちと研究者が聞き苦しい悪口を言っていたが。それについてははっきりいってどうでもいい。

 

より知的なはずの研究者よりも。

 

最前線で命を賭けて戦っている戦士の方が、余程理性的で自分を殺せて行動できているのは。皮肉極まりない話だった。

 

残留思念を他にも見て回る。

 

研究の場面が出て来た。

 

既に崩れてしまったのか、それとも意図的に崩したのか分からないが。もう少しマシな建物があって。

 

そこに研究所があったようだ。

 

そこで土を色々と弄くっている。

 

キビスビスだ。

 

一目で分かった。

 

あの傘みたいな植物から抽出したのだろう。それをこの近辺に撒くための研究をしているようだ。

 

それ以外にも、複数の鉱物を砕いて混ぜて、土に混ぜ込んでいる。

 

そして、危険性を検証しているようだった。

 

「よし。 この配合なら充分だ。 捕獲した化け物にも、充分に通じる事が既に分かっている。 後は水に混ぜて、泥と一緒にあの戦場に流し込んでやればいい」

 

「更にそれを封印で増幅するんですね」

 

「ああ。 単純な魔術だったら、あの化け物には通じない。 だがこうやって配合した「死の土」を更に増幅するのが魔術だったら話は別だ。 化け物共が現れる例のものを封じ込むのは多分厳しいだろうが、それでも奴らの斥候が此方に来ても、生きて帰る事は不可能だろう」

 

「これを戦場に持ち込めないか」

 

かなり高齢の戦士が、話をしているが。

 

研究者が首を横に振る。

 

「残念だが、貴重な素材を使っている。 不死の魔女殿の生産してくれた物資もだ。 魔女殿の体調が思わしくない今、化け物共を封じることで精一杯だろう」

 

「くっ……」

 

「とにかく、其方では出来るだけクリント王国の軍勢を食い止め、民を逃がしてくれ。 クリント王国の連中は降伏も認めず、民は奴隷にされ、資産も全て奪い取られることになるだろう。 そうならないように、戦争の狂乱がなくなるまで、とにかく逃げられる場所に可能な限りの民を避難させてくれ」

 

「分かった。 それしかないようだな。 しかし無念だ。 もう少し早く、魔女殿を見つけていれば……」

 

次の残留思念。

 

見えた。

 

墳丘の中だ。

 

八角錐の封印がある。

 

青白く輝いていて。側には、フィーに似た影があった。

 

「近付かせるなよ。 それをまとめて台無しにしかねん」

 

「この生物は一体何なのだろうな。 優れた魔力の感応力を持ち、魔術耐性を持ち、化け物との戦いにも臆さない。 愛らしいが勇敢で、それでいて凄まじい大飯ぐらいに魔力を喰らう。 例の異界の生物なのか?」

 

「なんともいえないが、神代の研究施設から見つかったと言う事は、そういうことなのかもしれないな」

 

「なんでまたこんな生物がいて、それを神代では持ち帰ったんだろうな。 それが分からない」

 

ぶつぶつと話をしている研究者達。

 

あたしは、不意に我に返っていた。

 

残留思念が薄くなったからだ。

 

羅針盤を一度閉じる。

 

同時に、随分と視界がクリアになっていた。

 

森の中だ。

 

大きな溜息をつく。

 

「ライザ、大丈夫か」

 

「ずっと意識が曖昧だったようよ」

 

「……大丈夫です。 タオとレントと合流します。 大事な話があります」

 

残留思念の仲に見えた、あの巨大な甲殻。

 

間違いない。

 

今まで、ほぼそうだろうと思っていたが、今回で確定した。

 

あれは将軍。

 

フィルフサの統率個体だ。

 

それぞれが八千から二万程度のフィルフサを統率し従える、強力な個体。

 

グリムドルの戦いでは、如何に将軍を潰して行くかが、戦闘の要になった。雨が降って弱体化していても、手強い相手だった。

 

戦士百人が犠牲になったと言うのも当然だろう。

 

オーレン族ですら大苦戦する相手なのだ。

 

むしろ、五百年以上前の、神代の技術がまだ残っていた時代には。あれすらも、どうにか出来ていたのだろう。数の暴力で。

 

タオとレントと合流。

 

今の時点で、墳丘の内部に入れる方法は見つかっていないそうだ。

 

皆を見回してから、先に咳払い。

 

「今の残留思念の調査ではっきりした。 封印されているのは門。 そして、この古代クリント王国に滅ぼされた国が戦っていた相手は、フィルフサだよ」

 

「!」

 

「恐らく、古代クリント王国が増やす前にもいたっていう野生個体だと思う。 まだ謎は多いけれど……門を此処に存在していた国が開けたという雰囲気ではなかったね」

 

「いずれにしても最悪の予想が当たったことになるわね。 あんな城壁なんて、フィルフサに掛かれば一瞬で粉々よ」

 

既に秘密の共有については、レントにもタオにも話してある。

 

後でこれはアトリエででも話すが。

 

いずれにしても、まだ此処でやる事はある。

 

封印の、現在の状態の確認だ。

 

「セリさん、はい」

 

「フィー?」

 

「私に?」

 

フィーをセリさんに預ける。

 

封印にフィーを近づけるとまずい。先に、まずは封印に接触しないといけない。

 

あの墳丘を粉砕して内部に入る手もあるが。

 

その場合、封印が傷つく可能性がある。

 

まだ無事な可能性がある以上、封印を傷つけるような手段は、最後まで選ぶべきではない。

 

「これから、あの墳丘に入る手段を探します」

 

「ああ、それで。 フィーが魔力を大食いするのは、私も知っているわ」

 

「任せます」

 

「そうね。 任されたわ」

 

セリさんがフィーを抱きしめる。フィーもそれほど嫌そうにはしていない。

 

そのまま、今度は墳丘近くの残留思念を調べる。

 

こっちでは、研究関連の残留思念はあまり見当たらないが。どうやって入っているかを、調べればいい。

 

墳丘の周りを調べて行く。

 

そうすると、一度セリさんに手を引かれた。

 

大穴がある。

 

どうやら、あの毒竜の住処だったらしい。此処に潜んで、近付く相手を警戒していたのだろう。

 

どういう気持ちで、此処にいたのだろうか。

 

残留思念を調べて見る。

 

まだちいさな毒竜と、研究者が見えた。

 

「体を弄くっちまってすまねえな。 それに、こんな所に縛り付けて」

 

「……」

 

毒竜は、口を開いて、研究者に応えるようだが。

 

音は聞こえない。

 

だが、なんとなく、気にするなと言っているように思えた。

 

毒竜の腹の中からは、何も出てこなかった。

 

竜族は大気中の魔力を食糧にしているという話がある。これについては、何とも言えないとしか言えない。

 

ワイバーンの腹の中からは、エサが出て来た事だってある。

 

或いはだが。

 

ワイバーンのうちは、肉を食べる必要があって。

 

成体になると、肉を食べなくて良くなるのかも知れない。

 

「此処は魔力が豊富にあるはずだ。 ずっと孤独になると思うが、エサだけはある。 たのむ、此処を守ってくれ」

 

「……」

 

「すまん。 俺はもう行く。 俺も戦場に出る。 役には立てないかも知れないが、一秒でもクリント王国の侵攻を遅らせないといけないからな……」

 

残留思念が消えた。

 

そうか。

 

あの毒竜は、研究者を悪くは思っていなかったようだ。研究者も、顔をくしゃくしゃにしていた。

 

体を弄くられて、怪物に変えられてしまっただろう毒竜だが。

 

理解者もいたし。

 

理性もあったのかも知れない。

 

無言になる。

 

あの毒竜は、悪意は無かったのかも知れず。そして互いに譲れない戦いだった可能性も高かった。

 

だとしたら、あの毒竜の皮や内臓などは、無駄にしないように使おう。

 

そうあたしは考え直す。

 

気持ちを引き戻して、調査に戻る。

 

墳丘の近くを調べていると、白衣の人間が不意に出てくる残留思念を見つけた。

 

恐らくは、此処だ。

 

どうやって出入りしている。

 

「パスワードは変えておけよ」

 

「これって最終的にはどうするんだ?」

 

「最後はもう、パスワードは設定しないそうだ。 どうせクリント王国の連中が、此処まで辿りついてしまったら終わりだってな。 何にしても、数百年は此処には入れねえよ」

 

「だといいんだがな……」

 

もう少し、残留思念から情報が欲しい。

 

目を凝らしていると、やがて見えた。

 

壁の一部をスライドして、操作している。

 

なるほど、ここか。

 

羅針盤を閉じる。

 

「ここだよ。 此処に入口の操作盤があるっぽい」

 

「よし!」

 

クリフォードさんが飛び出すと、何かしらの道具を取り出す。色々とナイフとかついているものだ。

 

トレジャーハンターの秘密道具だとか言っているが。

 

そうですかとしか返せない。

 

かちゃかちゃと壁を操作していたクリフォードさんだが。

 

やがて、かちゃんと音がして。

 

そして、スライドして、墳丘の一部が、嘘のように動いていた。更には、光学式の立体映像が出る。

 

この時代は一般的だった奴だ。

 

幾らでも見て来たが、此処でも同じシステムを使っていたんだな。

 

現在では、再現もろくに出来ないテクノロジー。

 

たった数百年で、信じられないくらい。人口も領土も歴史もテクノロジーも、人類は失ったのだ。

 

タオが。さっと光学式のパネルを触って調査する。

 

「パスワードはわからない?」

 

「設定しないって言っていたよ」

 

「どれ」

 

タオが素早く、手慣れた様子で操作するのを見て、レントが頷く。セリさんは、考え込んでいるようだった。

 

テクノロジーの差が、どうしてもある。

 

だから、古代クリント王国なんかに遅れを取った。

 

それをよく分かるのだろう。

 

「よし。 逆にパスワードを設定しないことで、僕みたいな人間の逆手を取った、って感じだね」

 

「数百年はここには入れないだろうとも言っていたよ。 余程防御と隠蔽に自信があったんだろうね」

 

「そうだね。 他の遺跡も、どれも価値がありそうな場所には見えなかった。 古代クリント王国がこの辺りを蹂躙した頃には、特に何も発見できなかったんだと思う」

 

「血塗られた歴史だな。 これをつくった奴らも、結局負けたと言うだけで、同じ穴の狢だったんだろうしな」

 

クリフォードさんが、あまり機嫌が良く無さそうに言ったので。

 

あたしも違いないと、それに同意していた。

 

ともかく。ログなどを確認して貰う。

 

「残念だけれども、時計の機能が狂ってしまっていて、実際に最後にいつ此処が閉じられたのかは分からない。 機能についても、最小限のものしかないみたいだ」

 

「とりあえず、中に入ろうぜ」

 

「そうだね。 ……これだ。 開けるよ」

 

タオが操作すると、すぐに壁の一部が開きはじめる。何かしらの、通路みたいな空間が生じていた。頷くと、レントが最初に足を踏み入れていた。

 

その後に続く。

 

クリフォードさんが無言になる。

 

此処がこの遺跡の本丸。

 

何があるか、知れたものでは無いからだ。

 

最悪の場合は、あたしが最大火力で墳丘を吹っ飛ばして脱出する。

 

まあ、今だったらレントの切り札でも吹っ飛ばせそうだが。

 

「内部は階段だね」

 

「ああ。 埃もほとんどねえな」

 

「壁はこれ、どうなっているのかしら」

 

「凄いテクノロジーですね……」

 

壁に継ぎ目が見えず。

 

しかも泥などで塗り固めたとも思えない。

 

これもロストテクノロジーだろう。

 

地下に到達。

 

そこには、あった。

 

フィーが目を輝かせているが、セリさんががっちりホールド。あたしは、すぐに前に出る。

 

「形状は八角錐。 今までで一番しっかりした形で残っているね」

 

「……ライザ、どう」

 

「魔力量も、ほとんど減っていない。 良かった、これが封印の中心だとしたら、まだ時間は稼げると思う」

 

「よし、周囲を調査してくれ。 俺はあの扉が閉じないように、入口で見張る」

 

レントが戻る。

 

あたしは羅針盤を再度開くと、残留思念を確認。

 

此処は非常に重要な場所だ。

 

貴重な残留思念を聞けるはずである。

 

早速声が聞こえてくる。

 

「よし。 此処を中心にして、複数の補助封印を接続した。 二つも無事に残ってくれていれば、封印は破られないはずだ」

 

「逆に言うと、二つを切ると危ないでしょうね」

 

「そうだな。 その場合は、この封印が時間を稼ぐ。 他よりも遙かに強力に作ってあるからな」

 

「それでも、百年も稼げれば良い方でしょう」

 

研究者達が、光り輝く八角錐の封印を見上げて、そんな事を言っている。

 

なるほど。

 

そうなると、コレが一つ。

 

一つ半壊しているのが残っている。

 

後一つ、北の里とやらにあるから。それを考えると、かなり危ない状態だとみて良いだろう。

 

いずれにしても、これはあと百年はもたなかったのだろうな。

 

この封印ですら、減り始めているのだ。

 

それを考えると、残りの北の里の封印の状態も、とても良いとは思えなかった。

 

「戦地の状況は」

 

「あまりよくはありません。 洞窟の発見が良かったからどうにかなりましたが、下手をすると洞窟を突き破って地上に姿を見せる可能性も……」

 

「封印が完成しても、内部に手を入れる余裕はあるまい。 水と封印で、抑え込む事しか出来そうにないな……」

 

「この国はもう滅ぶ。 それを考えると、伝承を残すわけにもいかん。 せめて童歌くらいは残しておくしかないが……」

 

切実な話だ。

 

無言で聞きながら覚えておく。

 

あたしは、やがて羅針盤を閉じた。

 

此処には、二度と来ない方が良いだろう。

 

「戻るよ、みんな」

 

「何か分かったのか」

 

「今すぐ封印が壊れて、フィルフサがあふれ出すことはないと思う。 だけれども、此処で聞いた話を総合する限り……封印が壊れるのは、時間の問題だろうね」

 

もっとも楽観的に考えた場合、後百年くらいはもつ。

 

だが、相手はフィルフサだ。

 

しかも古代クリント王国侵攻の影響を受けていない地域がオーリムにあるとはとても思えない。

 

そんな楽観的思考は捨てるべき。

 

更に問題なのは、封印が封じている門の場所が分からない、ということだ。

 

今回の羅針盤でも、場所のヒントは掴めなかった。

 

或いはだが、別の方向からのアプローチが必要なのかも知れない。

 

ともかく、ここから先。

 

順番にやっていくしかない。

 

次は。北の里という場所に行く。

 

その前に、資料を整理する必要が生じてくるだろう。

 

遺跡を出る。

 

そして、後は無言でアトリエに戻った。

 

さて、此処からだ。

 

現地でのフィールドワークは終わったが。

 

それだけでは。この調査は終わりでは無い。むしろここからが本番なのだと言えた。

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