暗黒錬金術師伝説10 暗黒!ライザのアトリエ2 作:dwwyakata@2024
探索四日目。
砂漠での過ごし方が、あたしにも少しずつ分かってきた。
強力な魔物を仕留め、そして必要な素材だけ回収して、すぐに離れる。魔物がわっと寄って来て、倒した魔物をがつがつと貪り喰う。
浅ましい姿だろうか。
いや、こんな恐ろしい場所だ。
あれくらい浅ましくないと、生きていけないのだ。
王都の貧民街なんて、此処に比べれば天国も同じ。
残念だけれども、どれだけたくましかろうと。ここでは人間は、そもそも生きていくのが不可能だ。
そんな場所だから、あくまで邪魔させて貰う。
通り過ぎる。
自衛だけする。
そう考えて、行動する。
此処に住むのは不可能。そう考えて動かなければ、一瞬で命が消し飛ぶ。レントくらいの手練れでも、一瞬でやられる。
それくらい、此処は危険な場所なのだ。
「やっぱり、あっちかなあ」
一度水たまりに避難して、そこで話をする。
こういう砂漠の水たまりをオアシスというらしいけれども。どうにも馴染みがない言葉だから、どうにも使う気になれない。
水たまりにいると、巨大な魔物が水を飲みに来る。
あたし達には此処では手を出さない。
それは、魔物の間ではルールになっているらしい。
あたし達も、それを見て、ルールには従う事にする。
こういうルールは、魔物ですら守る必要があるもの。守らないと、とんでもないことになるからだ。
まあどうして守る必要があるのかは、あたしにもだいたいわかる。
こんな場所で争って水場を台無しにしたりしたら、それこそ何もかもが終わりだ。
砂漠に住んでいる生物そのものが全て干上がる。
そうなれば困る。
魔物ですら、それくらいは分かっていると言うことなのだろう。
もしも此処に人間が進出してきたら、恐らくオアシスを巡っての争いになるのは確実である。
つまり人間の方が魔物より頭が悪い事になるが。
それもまた、王都の貴族を見ていると、さもありなんと思ってしまう。
軽く皆と話す。
あっち、とは。
今、其処に里があるのでは無いかと話している方向だ。
其方は不自然な程ワイバーンが多く、更には熱が溜まりやすいようで、蜃気楼が複雑に何重にも重なっている。
熱波をどうにか出来たとしても。
問題はワイバーンである。
かなり大きなワイバーンが、それぞれ縄張りを競っている。
此奴らは、連日戦闘している砂漠の強大な魔物よりも、更に一枚上手の実力者であるのだ。
「行くにしても、覚悟が必要だな。 それに、一回では無理だろうな」
「先に他の場所を探しませんか? 何かの裏道や、隠し道みたいなのがあるかも知れないです」
パティの言葉は弱気に見えるが。
弱気なのではない。
パティは今、必死に本来の統治学について学んでいるようである。
貴族がやっている権力闘争ごっこではない。
どうすれば国をよくする事が出来るのか。
どうすれば国を富ませる事が出来、民の暮らしを安寧に出来るのか。
それを本気で考えて、タオに専門で授業を組んでもらっているようである。
古い時代には、共和制というものがあったそうだ。
民が代表者を選出して、それが統治を行う仕組みだったそうだが。
この仕組みは、混乱期には脆いという欠点がある事。
民が選出する代表者は、結局金持ちになってしまうと言う問題があったことなどもあり。
必ずしも統治に才能がある人間が選出されることはなかったそうだ。
そういう理由もあって、古代クリント王国の頃には、既に過去の制度になり果ててしまった。
今の時代にも、共和制は難しいだろうとタオは言う。
今の時代は、人間が魔物に散々押されている、非常に厳しい時代だ。
だが、だからといって。
血縁での貴族制が、今の時代に即しているとはとても思えない。
何かしらの形で、血縁による世襲制度よりよいものを取り入れられないかとパティは模索しているようで。
その過程で、タオに現実に対してどう対処するかの政治学を学んでいるらしい。
これは、今後アーベルハイムが腐敗しきったロテスヴァッサを改革する事を前提にした勉強であり。
パティが本気で、ロテスヴァッサをどうにかするつもりなのだと言う事が、よく分かる事象だった。
「パティの発言は悪くないと思うけど、現状で五割くらいは調べたんだよね。 高所から見ても、里がありそうな地点は見つからない。 そうなってくると、やはり可能性が高い所を危険覚悟で行くしかないかな」
「ライザ、ちょっといいかしら」
「セリさん」
セリさんが挙手。
珍しいな。そう思って、話を聞く。
セリさんも、少しずつ心を許してくれている。オーレン族が此方の人間に対する恨みを晴らすのは簡単じゃあない。
リラさんだって、相当に時間を掛けて、アンペルさんとの信頼関係を構築していったようだし。
そういう意味では、セリさんはかなり思考が柔軟なのかも知れない。
戦闘時の容赦のなさを見ている限り。
セリさんの場合は、怒らせるとリラさんより怖いかも知れないが。
「それなら、交互に調べて行くのがいいのではないのかしらね。 どうせこの砂漠、全て調べておくのは有益だと思うけれど」
「……それもそうですね」
いずれ、人間が魔物に対して攻勢に転じたとき。
この砂漠の地図があれば、被害を相当に減らす事が出来るはずだ。
勿論それが出来るのは、十世代、十五世代と後の時代になるだろうが。
その時には、今の世襲制ではなくて。
もっとよい仕組みを、政治に導入できているかも知れない。
「よし、じゃあそれでいこう」
「相変わらず決断が早いね」
タオが疲れきった表情で言う。
ともかく、四日目のこの探索。本当に楽ではないのも事実だ。咳払いすると、地図をなぞる。
「今日は、この辺りまで調べるよ」
「了解。 とにかくワイバーンとの戦闘も想定される。 皆、気を付けてくれよ」
レントが念押し。
頷くと、水たまりを離れる。
すぐに荷車の冷気がなければ、あまり長く保たない熱波に包まれる。直射日光も凄まじい。
蜃気楼が、辺りで何度も狂ったように姿を変える。
本当に、何処を歩いているのか、全く分からない。
かなりの近距離ですら、見えているものが当てにならないのである。
クラウディアが常に音魔術を展開。
タオが磁石を見て、方角を常時チェック。
それで、やっと少しずつ、進めていける。
クリフォードさんが、岩山にペンキで何か印をつけていた。かなり特殊なペンキであるらしい。
岩山から剥がれそうにもない。いずれにしても、魔物がやるマーキングと同じである。
同じではあるが、だからこそこう言う場所では意味がある。
少しずつ、移動する。
ワイバーンの殺気を感じる。
殺気なんてものは、基本的に体が発している警告を総合したもの。
つまり、ワイバーンが此方に注意を向けていて危険だと、五感が警告してきていると言う事だ。
「ワイバーンが見ていやがる。 どうする」
「あの大きさだと、戦って無事に済む保証はないぞ」
「分かってる。 それでも、ギリギリまで戦闘は避けるようにして動こう」
「……」
皆、声を殺して移動する。
ほんの数歩進むだけでも、相当な気力を消耗する。それくらい、此処は危険だと言う事である。
無言で歩きながら、少しずつ地図を埋めていく。
目の前にあの水たまりが見えたと思ったが。
だが、少し進むだけで、消えてなくなる。
これは知識がない人間が踏み込んだ時には、絶望感は尋常では無いだろうな。そうあたしは思う。
ほどなく、タオが皆に声を掛けた。
「ここまでだ。 さがるよ」
「一旦は此処までだな。 皆、点呼してくれ!」
レントが点呼をかけ、全員がいる事が分かる。そのままゆっくり後退していき、蜃気楼まみれの危険地点を抜ける。
また水たまりによって、少し休憩。
今まで三箇所水たまりを見つけているが。
基本的に水たまりでしか、魔物は安全にならない。
それも分かっているから、此処では気を抜けるが。
ただ、流石にワニは安全では無いらしいから、気を付けなければいけない。
「タオ、地図はどんな感じ」
「うーん、まだ何とも言えないね。 明日はあっちの……多分何もない辺りを重点的に埋めるんだよね」
「それがいいと思う。 何もないように見えれば、逆に何かあった時に嬉しいしね」
「それもそうか」
タオが疲れきった様子で、タオルで汗を拭う。パティが水を渡して、礼を言ってごくごく飲み干す。
仲が良いことだ。
それに、息もぴったりあっている。
「じゃあ、そろそろ引き上げるよ」
今日はここまでだ。
砂漠に踏み込み初めてから。確実に、強力な魔物と戦う事が増えている。
ただ、こんな強力な魔物が、一朝一夕で育つとも思えない。今倒しておけば、それだけ此処は安全になるかも知れなかった。
翌日。
朝早くから砂漠に出て、かなり早い時間には砂漠にたどり着けた。
昨日のうちに更に改良を加え。
荷車周辺を冷やす装置は、更に広範囲を冷やせるようになった。仕組みはそれほど難しくは無い。
ただ動力が問題で。
それを研究しなければならなかった。
「そういえばさ、ライザ」
「うん?」
「古代クリント王国や神代の技術で、分かっていない事があるんだよ」
「そんなんたくさんあるでしょ」
一旦、水たまりまで移動して。
安全を確保しながら、軽く話をする。タオがそういう話を振って来たという事は、周りにも聞いてほしいと言うことだ。
あたしとしては、連中のテクノロジーはともかく。
それ以外は葬るべきだと思っているから、あまり興味は無い。
ただタオは、使えるテクノロジーは全部使うべきだと思っているようだから。それはそれで、色々とあたしだって思うところもある。
其処については、理解は出来るのだ。
「実はさ。 その冷気装置を見ていて思ったんだけれども。 古代クリント王国以前の文明って、どうも動力がよく分からないんだよね」
「確かに水車やらじゃとても足りないよな」
「そうなんだよ。 大気中の魔力でも足りない。 竜脈から力を得ている節もあったんだけれども、それでも足りない」
そうなると長いと判断したのか。
パティが咳払いした。
「それは、後でアトリエで話しましょう、タオさん。 此処は安全地帯ですが、今は時間が……」
「そうだったね。 ありがとう、パティ」
「いえ」
パティも少しずつタオの操縦が上手になってきたな。
そう思って、微笑ましい。
ただ、タオの言葉は少し気になる。
というか、古代クリント王国だけの話じゃあないのだ。
今修理を順番にしている機械類も、いずれも動力がよく分からないものが結構あったりする。
勿論分かっているものもあるのだが。
後付で動力をつけているものも結構多く。
要するに、神代から受け継がれた技術が、どんどん劣化していった時代があったことが、分かってしまうのだ。
あたしだって、神代のそういった動力には興味があるが。
どうにも嫌な予感しかしない。
錬金術は、基本的に才能の学問だ。
神代から見て、今の時代は人間の数が少ない。だから、必然的に才能のある錬金術師が減ったのは分かる。
だけれども、便利なものだったらどんどん研究するはず。
それでいながら、どうして数を減らしていったのか。
何か深い闇があるのではないのか。
そう思えてくる。
砂漠を歩いて調べる。
やがて、岩山が連なる地点が見えてきた。この辺りは、上から跳躍して見る分にはとくに変わったものはなかった。
だから後回しにしていたのだが。
無言で、調査を進めていく。
こういう所にも、何かあるかも知れないからだ。
「止まって!」
クラウディアが声を掛ける。
音魔術で、何か察知したのだろう。前に出ると、クラウディアが矢を放つ。矢が叩き込まれた地点が、どっと崩落して、砂が流れ込んでいく。
うわと、思わず声が出ていた。
「これは……」
「いわゆるクレバスだろうね。 この辺りは、この砂漠でも砂が多めだから、どうしても気付けなかったんだ」
「落ちたらどうなることやら。 ぞっとしねえな」
「ありがとうクラウディア。 ちょっとこの辺り、気を付けて調査しておこう」
皆を急かして、調査を進める。
タオが黙々と地図を埋めていく。その作業はとても手慣れていて、見ていて感心させられる。
無言で地図を埋めて、更にはクレバスについても調べておく。
何度かクラウディアが魔術矢を撃ち込むと、綺麗にクレバスが姿を見せたので、広さや幅なども調べて。
調べ終わった後は、岩を持って来て、砕いて放り込んで。
更に建築用接着剤で固めてしまった。
「徹底してるな……」
「後から来た人が、事故にあわないようにね。 行くよ」
「健脚だな……」
クリフォードさんだって健脚だろうに。
ともかく、どんどん地図を埋めていく。
途中、とんでもなく巨大な走鳥に出くわしたが、正面から撃ち倒す。なんとか倒せたが、やはり激戦だ。
なお肉は非常に硬くて、とてもではないが食べられなかった。
その一方で一部の骨は非常に頑強で、使えそうだ。
解体して、使えそうな内臓や骨などは回収しておく。気が早い小型の魔物が、もう捨てた肉をがっつき始めている。
あたし達にはかなわないと判断したのか、近付いては来ないが。
それでも隙を見せたら、即座に襲いかかってくるだろう。
「よし、もういいかな」
「回収完了。 時間的にもそろそろだね」
「今日は、収穫は無し、ですか」
「いや、そうでもない。 この辺りのクレバスが危険だと分かっただけでも、充分過ぎるよ」
責任を感じているらしいパティに、あたしはそう返しておく。
ともかく、収穫はある。
地図を埋められただけで充分。
此処にはないと言う事がわかっただけでも、それは充分な成果なのだ。
テクノロジーでいうところの、「これでは成立しない」という事が判明する。それは充分に成果だと言う話だ。
それと同じである。
アトリエに戻る。
アトリエでは、全員に靴を脱いで貰って、砂が入っていないか確認する。非常に危ないので、こうして処置はしておく。
靴がしっかり砂を防いでくれて安心するが、服まではそうもいかない。
みな、ちゃんと風呂には入るように話をしてから、解散とする。
いずれにしても、これは簡単に遺跡に辿りつかせてはくれないだろう。
だからこそ。
確実に、一歩ずつ進まなければならないのだ。
翌日。
蜃気楼に苦しまされながらも、確実に進む。
五感の内、視覚が狂うものの。あの「深森」の遺跡と違って、五感全てが狂うわけでもない。
ただ此処は、彼処と違って強力な魔物がわんさかいる。
クラウディアが、手を横に。
どうやら、またのようだ。
音は全くしないが、あたしが跳躍すると、それが見えていた。
巨大な百足か。
全身が茶色で、保護色になっている。
全く動かずに、此方を見ている。
完全な待ち伏せ型の捕食者だ。多分牙には、強い毒もあるとみて良いだろう。そして、あたしが跳んだことで、此方に気付いた。
「来るわ!」
「!」
レントが前に出て、壁になるが。全員が、激しく吹っ飛ばされるほどの衝撃がそれでも来る。
とんでもない巨体だ。
岩も砂も吹っ飛ばして、巨大な百足が襲いかかってくる。
この砂漠で暮らしているのだ。
エサなんて簡単には見つからない。だから、相手も必死だと言う事だ。
だからといって、食われてやる理由にはならない。
あたしが空中から、多数の熱槍を叩き込む。百足の長い体に直撃する。百足は確かとても生命力が強いが、その一方で熱には弱いはずだ。
この砂漠で暮らしているのだ。
通常種の百足よりも遙かに熱には強いはずだが。
それでも、熱を嫌がるのは確定とみて良い。
炸裂した熱槍が、辺りの熱を更に上げる。案の定。百足が凄まじい声を上げて、一気にさがる。
分が悪いと判断したのか。
いや、そんな判断力はなく。
単に本能で、危険だと思ったのかも知れない。
着地。
百足は。
クラウディアが叫ぶ。
「壁を展開して! まだ諦めてない!」
「仕方がない」
セリさんが地面に手を突くと、岩石砂漠の地面を吹き飛ばすようにして、巨大な覇王樹が飛び出してくる。
その覇王樹に、百足が吐き出したらしい猛毒が付着。
じゅうじゅうと音を立てた。
直撃したら、どうなるか知れたものじゃない。とにかくさがる。まともに此処で戦うのは危険すぎる。
パティの手を引く。視覚が狂うから、どうしても間違いそうになる人は出る。クリフォードさんが跳躍して、ブーメランを投擲。
がつんがつんと音がして、それが岩に当たったものだと判断。
ある程度の位置を理解したので、そのまま荷車を引いて逃げる。
蜃気楼が非常に濃い地点を抜ける。
あたしはそのまま、大量の熱槍を展開。文字通りの飽和攻撃で、百足がいる方向に叩き込む。
凄まじい熱風を、レントが剛剣一閃。
吹っ飛ばしていた。
流石だな。パワーだけなら、もう皆の中で確実にトップだ。
いずれにしても、百足が完全に熱の中で荒れ狂っている。毒をまき散らしているのも、あたし達に向けてじゃない。
苦しんで、手当たり次第という風情だ。
とにかく距離を取る。あたしはだめ押しに熱槍を更に叩き込んでおく。
これは殺しあいだ。
相手に掛ける情けはない。
ましてや相手は此方を殺しに来ているのだ。
余計に情けなど掛けてはいられない。
百足も、五感はおかしくなるらしい。それ以上に、想像以上の凄まじい熱波に焼かれて、体が機能不全を起こしているのだろう。
蜃気楼の向こうで、時々巨大な百足が、びたんびたんと苦しんで跳ねているのが見えたが。
もしも餌になったら、ああなったのはあたし達だ。
砂漠では、エサを求めて体を大型化させ。
捕まえた獲物は、絶対に逃がさないようにどんな生物も体を工夫している。
そんな場所での事だ。
残酷に見えるかも知れないが、あれは仕方が無い事だ。
しばしして。
百足が完全に動かなくなるのを確認。
そのまま、今度は冷気の熱槍を放って温度を冷やし、様子を見に行く。死んだフリをしている可能性もあるが。
百足の生命力は既に尽きていて。
死んでいるのが、触ってみて分かった。
表皮は、それほど硬くは無い。それよりも、頭を切り離して、毒腺を取りだす。皆に手伝って貰って、毒腺を取りだすが。巨大な毒袋の中に、凄まじい濃度の毒がたっぷり入っていた。
肉も皮も使えそうにない。
ただ、頭の中にあった魔力の塊は使えそうだ。
今の時代は、どんな魔物も魔術を使う。
この百足も、例外では無かったのだろう。これは、大事に使わせて貰う事にする。
牙は、思ったほど硬くないようだ。
これは使えない。
場合によっては切り取って何かの道具に出来るかと思ったのだが。柔らかいので、余り役には立てない。
嘆息するあたし。
無駄になる部分が多いと、殺生したことに心が痛む。
クリフォードさんが解説してくれる。
「サソリもそうだが、百足の装甲はそれほど硬くはねえんだ」
「そのようですね。 大型のサソリの魔物はいるんですか」
「いる。 だが、見かけよりもずっと弱いな。 動きは鈍いし、何よりも装甲が柔らかいからな」
勿論不意を突かれて毒針を刺されたら助からないそうだが。
それならば、同じ大きさでも動く時は雷霆のような速度の毒蛇の魔物や、毒はなくとも強力な咬合力で噛まれたら食い千切られる覚悟をしなければならないワニの方が余程危険だそうである。
頷いて、覚えておく。
死骸の内、回収出来る部分を取り外すと。
後は、小型から中型の魔物が、百足の死体を漁り、食い尽くしていく。それを、じっとあたしは見つめた。
生きるための戦いが、此処では加速している。
その結果、此処の生物は。
きっと、他と協力する事すら出来ない。
恐らくだけれども。良くリアリストを自称する人間が口にするような現実主義を突き詰めると、こういう砂漠みたいな光景になる。
あたしは、欲求とかが他の人間とはだいぶずれてしまっているけれど。
この砂漠を、世界中に拡げるつもりは無い。
ただ、恐らくだが。
古代クリント王国の連中は、自分達の凶行を正当化するために、何かしらの理屈を使っていたはず。
自分は正しいという思考の先も、こういう砂漠があるとみて良いだろう。
此処は、厳しい環境。
だから、そうでないと生きていけない。
ただひたすらに、死者を貪り尽くす魔物達の様子をもう一度だけ一瞥して。
後は。去ることにした。
これは、繰り返してはいけないことだ。
人が、「知的生命体」だというのなら。
これと同じになってはいけない。
あたしは、つくづくそう思う。
そしてあたしには責任がある。
こうは、絶対にさせてはならない。見ていて、何度もそう誓わされるのだった。
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